<進めば必ず着く Reach to Mars!!>――そう高らかに唄った『Reach to Mars』からおよそ1年半を経て、FoZZtoneがニューアルバム『Return to Earth』を完成させた。全編でアグレッシブなロックが展開される『Reach to Mars』は、火星に向かう宇宙飛行士たちを主人公とした壮大なコンセプトアルバムだったが、そのSFストーリーはそこからさらに拡大し、なんと3部作へと発展。ミニアルバム『Stomp the Earth』を経て、今回の『Return to Earth』がいよいよその最終章となる。そしてこのアルバムタイトルにも表れているように、どうやら物語の舞台は地球へと戻ってきたようだ。火星から帰ってきたアストロノーツたちは一体どうなったのか。そしてそこで鳴り響くサウンドとは? その真相は、ぜひ作品を手に取って確かめていただきたいと思う。
さて、この作品を「手に取って」ほしいというのは、まさにそのままの意味である。つまり、『Return to Earth』はその楽曲だけでなく、ぜひパッケージ全体で楽しんでほしい作品なのだ。アートワークがアルバムの内容と密接に絡んでいる本作は、いわばトータルアート的な作品でもあり、そこからはCDというフィジカル形態で音楽をリリースすることへの強いこだわりも感じられるだろう。さあ、ここからはFoZZtoneのフロントマンであり、作品のアートワークを手がける渡會将士に登場していただこう。『Reach to Mars』から始まった3部作構想のことや、彼らのアルバムにおける視覚的要素の重要性について、渡會にじっくりと語っていただいた。
実現可能かもわからない火星移住計画を表明したNASAの会見を見ながら、ふと思ったんです。ピンチのときこそ、何か理想を掲げれば、応援してくれる人たちに勇気を与えることができるんじゃないかって。
―『Reach to Mars』から『Return to Earth』に至るまでの3部作構想って、渡會さんの中にはいつからあったものなんですか?
渡會:実を言うと、これは結果として3部作になったようなところもあって。つまり、せっかく『Reach to Mars』で火星に行くお話を作ったんだから、そこから地球に帰って来ないのは、なんとなく寂しいじゃないかと(笑)。
―3部作のアイデアは、『Reach to Mars』を作った後に生まれたものだったということ?
渡會:そうなんです。たとえば、村上春樹さんや伊坂幸太郎さんの小説って、異なる作品にまったく同じ人物が登場したりしますよね? 今、読んだばかりの本に登場したキャラクターが、どうやら他の小説にも出てくるらしい。そう聞くだけで、「じゃあ、そっちのほうも読んでみようかな」という気になったりする。そういうギミックで僕らの音楽も楽しんでもらいたいなと思ったんです。それこそ、「前のアルバムで使われていたフレーズが今回も出てくる」とか、そういう作品相互の連続性とストーリーを大事にしたかった。
―なるほど。では、そもそも渡會さんたちはなぜ火星を舞台にしたストーリーを描こうと考えたんですか?
渡會:『Reach to Mars』を出した頃って、ちょうどFoZZtoneの結成10周年にあたるタイミングだったんですけど、その頃にたまたまテレビでNASAの記者会見を見たんです。これがなかなかドラマチックな内容の会見で、「アメリカの財政がひっ迫している」みたいな情報をいくつも開示したうえで、どうやらNASAによると「もうスペースシャトルは打ち上げられなくなってしまった」と。当然そこで記者団からいろんな突っ込みが入るんですけど、NASAの広報担当はそこで「今後、我々は火星に行こうと思います」と発表したんですよね。僕、なんだかその発想にすごく勇気づけられてしまって。
―それはどんなところに勇気づけられたんですか?
渡會:バンドもそうあるべきだなと思ったんです。FoZZtoneも結成から10年が経って、お陰様でライブの動員は徐々に増えているんだけど、同時にその頃はまた新しい何かをやることの難しさも感じていて、なんか妙な焦りもあったんですよね。でも、その実現可能かもわからない火星移住計画を表明したNASAの会見を見ながら、ふと思ったんです。こういうピンチのときこそ、こちらから何か理想を掲げれば、応援してくれる人たちに勇気を与えることができるんじゃないかって。言ってしまえば、僕らがバンドをやめるのってすごく簡単なんです。かといって、ただ長く続けばいいってわけでもない。ここから先もどんどん進んでいくと提示していくことが重要なんじゃないかって。
『Reach to Mars』がドカーンと売れてたら、今回のアルバムは『アルマゲドン』みたいな凱旋ソングになっていたかもしれないんですけどね。まあ、そこは慎ましくやろうと(笑)。
―なるほど。そこでFoZZtoneも火星を目指そうと。
渡會:そうそう(笑)。今回のアイデアにしても、『Reach to Mars』のツアー中、みんなでお酒を呑んでいるときになんとなく出てきたんです。『Reach to Mars』で火星に行ったやつらが、THE BEATLESの“All You Need Is Love”みたいにハッピーな音楽が流れる中で凱旋してくる。そんな感じになったら、ストーリーとしてもすごくいいんじゃないかなと。
―なるほど。でも、これは変な話ですけど、たとえば音楽業界の状況ひとつをとっても芳しいとは言えない中で、「今、地球に戻って来るってどうなんだろう?」とは思いませんでしたか。
渡會:確かにそれはちょっと思いましたね(笑)。でも、僕らはちょっとバカなところがあって、作品を出すときは毎回、ものすごく大きな反応を期待しちゃうんですよ。それこそ『Reach to Mars』をレコーディングしているときなんて、メンバーみんな「すげえ! これは間違いなく売れる!」みたいな感じで、めちゃくちゃはしゃいでたんです。でも、それがいざ世に出ると、まあ、これが順当な初動で(笑)。そこから地道に宣伝していく中で、ゆっくりと作品のことは知ってもらえたんですけど、そういう経緯もあって、今回の『Return to Earth』はちょっとダークな作品になったんです。
―(笑)。実はバンド内の心情も反映されていると。
渡會:もし『Reach to Mars』がドカーンと売れてたら、今回のアルバムは『アルマゲドン』みたいな凱旋ソングになっていたかもしれないし、実際にそういう妄想も膨らませていたんですけどね。まあ、そこは慎ましくやろうと(笑)。「火星から帰ってきた彼らはすっかり疲れ切っていて、すぐにまた地球上で普通の生活が始まった。彼らはそれがおかしいなと思いながらも、なんとか報われようともう一度もがいている」という感じで。
―現実はなかなか思い描いていたようにはいかないと(笑)。でも、そこでなんとか報われようとするところが、僕はすごくいいなと思って。
渡會:それもまた、勇気を与えますよね。あと、本当のことを言うと、これは4部作なんですよ。
―え、この3作以外にもう1作あるということですか。
渡會:はい(笑)。というのも、実は『Reach to Mars』のあと、通販とライブ会場限定でソロ名義のアルバムをリリースしているんです。ちなみにそのアルバムは、『I'm in Mars』というタイトルなんですけど。
―なるほど(笑)。「私は火星にいます」ですか。
渡會:で、その表題曲がわりと寂しげな感じなんですよ。「火星に辿り着いたのはいいんだけど、そこは思い描いていたような場所とはちょっと違っていた。水もないから、ひたすらビールばっかり飲んでいる」みたいな曲で。
―それはおもしろい。でも、なぜその『I'm in Mars』はソロ名義で作ったんですか?
渡會:ソロを作った理由は単純で、バンドとは違う枠組みでやってみたいことが自分の中にたまっていたから、それを一度出してみたかったんです。ただ、こうしてソロ作品を出すことによって、お客さんに「これからはソロでやっていくのかな?」みたいな不安は与えたくなかったので、ここはあえてバンドの作品と連続した内容にしようと。
こちらから全部説明して、「これで完成です」みたいなアートワークは、もう卒業したいんです。それよりも「発見」してもらえるような作りにしたほうが今は誠実だと思っていて。
―なるほど。そこにはファンへの心遣いもあったんですね。FoZZtoneの作品って、アートワークにもそうした配慮が表れていますよね。渡會さんの絵が作品のコンセプトをよりわかりやすく伝えているというか。
渡會:うん。それこそ、ミュージシャンだから知っているようなワードって、たくさんあるじゃないですか。たとえば、『Return to Earth』のレコーディング中に「ケルトっぽいサウンドを入れよう」みたいな話が出て。それって僕らにとってはなんでもない会話なんですけど、作品を手に取ってくれる人からすれば、当然「ケルトって何?」となりますよね。でも、そこで「ケルト音楽っていうのは、つまり……」みたいに文章で説明するのはすごくナンセンスだなと思って。だから、僕はこういうジャケットを通して、そのサウンドのニュアンスを感じてほしいんです。
渡會が描いた『Return to Earth』のジャケット画像(原画)
渡會が描いた『Return to Earth』のアートワーク(原画)
―言葉ではなく、視覚的要素を通してサウンドのイメージを伝えようと。
渡會:そう。たとえば、北欧の音楽から感じる寒さや、常に曇っているようなイメージが視覚的にも伝わってきたら、その音楽を裏付ける何かになるだろうと。僕、こちらから全部説明して、「これで完成です」みたいなアートは、もう卒業したいと思ってるんです。それよりはプラモデルみたいな感じで、「素材はすべて用意されています。あとは好きなように組み立ててください」みたいなやり方が、今は一番誠実な気がしていて。今回のアートワークにしても、ジャケットをパラパラめくっていると「あれ? もしかするとこれって……」みたいな仕掛けがたくさんあるんですよ。しかも、その発見は作品の聴き方をちょっと変えるかもしれない。実際、僕もそういう発見から音楽にのめり込んでいったので、できれば自分もそういう作品を提供したいんですよね。
アルバムって、どうしてもステップアップの途中経過としてリリースせざるを得ないところもあるから、そこはいつも悔しくなるんですよね。
―リスナーに作品を委ねようとするアイデアって、以前にみなさんがリリースしたオーダーメイドアルバム(候補曲の中から収録曲と曲順を購入者が自ら指定できる企画盤)にも通じるものですよね。実際にあの企画はどんな成果を生みましたか?
渡會:あれがまた恐ろしいことに、選曲が誰1人として被らなかったんです。自分たちが「絶対にこれは1曲目だろう」と思っていたものをラストに置く人がいたり、こちらが想像していたものとはまったく違う答えがたくさん返ってきて。でも、それってよくよく考えると、僕らがライブのセットリストを組むのと同じことなんですよね。そう思うと、選曲と曲順が誰も被らないのって、むしろすごく自然なことのように思えたし、あのオーダーメイドアルバムを3回やってみたことで、お客さんもFoZZtoneをもっと能動的に楽しんでくれるようになった感じがします。今、僕らは過去のアルバムを再現する「追加公演」というイベントを月イチでやっているんですけど、それを大阪でもやってほしいという企画書がお客さんから届いたこともあって。
―すごい。ファンが自ら動いて、FoZZtoneの活動にどんどん関わろうとしているんですね。
渡會:曲のアレンジを考える上でも、お客さんとの関係値はすごく影響してます。それこそ「この人たち、こんなに難しいリズムの手拍子もできちゃうんだ!」と思えたことが、「だったら次はこんなことをやってやろう」みたいな発想につながったり、そうやってお客さんと僕らでハードルの上げ合いをやっているのが、今はすごく楽しくて。
―今はファンとバンドがお互いに高め合っていける状況なんですね。
渡會:デビューした頃は、制作側の人から「もっとわかりやすい曲を書いてよ」とか言われるときもあったんですけどね(笑)。でも、それが亀田誠治さんと初めてお会いしたときに、「昔、ラジオでアメリカのヒット曲をチェックしていると、とんでもなく変な曲がいきなり10週連続1位になったりすることがよくあってさ。俺、FoZZtoneってそれだと思うんだよ」と言われて(笑)。「俺たちはイロモノってことか!」とも思いつつ、あれはすごく嬉しかった。そういうカウンターカルチャー的なものって、やっぱり求めちゃいますからね。それこそTHE BEATLESの音楽がどんどん難解になっていったのも、僕はリスナーとしてすごく嬉しいことだったと思うから。
―なるほど。では、渡會さんはそういうカウンター的なものを音楽以外の表現にも求めたことはありませんか? それまでの価値観が一気にひっくり返ったような体験というか。
渡會:そうだな……。僕、手塚治虫さんの漫画が大好きなんですけど、最近になって気づいたのが、手塚さんが書いた巻末のあとがきって、だいたい後悔が滲んでいるんですよね。あそこまで周囲から天才と呼ばれていながら、いつもあの人の言葉は「本当はもっと描けたのに」みたいなニュアンスのものだらけで。でも、僕はそういう姿勢ってすごく正しいなと思ったんです。というのも、アーティストには「最高のものが録れました」と言わなければいけない瞬間があるじゃないですか。
―アーティストによっては、こういうインタビューの場がそうだったりもしますね。
渡會:ですよね。でも、僕はけっこう後悔するほうなので(笑)。「あのアルバム、もし今録り直せるならもっとうまくやれるのに」みたいに思うことがけっこうある。アルバムって、どうしてもステップアップの途中経過としてリリースせざるを得ないところもあるから、そこはいつも悔しくなるんですよね。でも、そうやって後悔を抱えていることは、アーティストとしてまったく間違っていない。僕は手塚さんの作品を読みながら、そう思ったんです。ただ、そうなると僕はこれからもずっと後悔し続けていかなきゃならなくなるんですけど(笑)。
―後悔し続けることを覚悟しながら、まったく悔いが残らないような作品を常に目指さなければいけないと。なかなかもどかしいですね(笑)。
渡會:でも、同時に僕はそこで「音楽を選んで本当に良かったな」とも思っていて。というのは、それこそ漫画家さんって孤独な作業の連続だし、どういうタイミングで作品へのレスポンスが返ってくるのかもわからないじゃないですか。でも、僕らの場合は当時まだ作り切れなかったような楽曲を、後からライブで直すこともできるし、それに対するお客さんからの反応を、僕らはその場で受け取れるんですよね。最近それに気づいて、その喜びを噛みしめています。ライブという環境の中では、本当に今の僕らは報われている。「ああ、やってきて良かったな」って。
―そういう実感があると、ライブの取り組み方もおのずと変化していきそうですね。
渡會:そうですね。今は音源とライブを切り離しているというか、「音源でやれなかったことをライブでやろう」みたいな考え方になりつつある。それこそ、今回の作品には1つの一貫した「お話」があるんですけど、それをステージ上でそのまま再現するわけにはなかなかいかないし、やっぱりライブはその瞬間のやりとりに対応していきたいんですよね。だから、きっと『Return to Earth』はライブで聴くとかなり印象が変わるんじゃないかと思います。
良くも悪くも、未来はなかなか想像通りにいかないってことですね。
―それはライブが楽しみですね。ところで、渡會さんはこの取材直前にTwitterでこんなことを呟いていましたね。「インタビューなう。人型巨大ロボットよりも昆虫型のほうが絶対理にかなってるし、機動力が高い。同じ理屈で地上戦ならガンダムよりゾイドのほうが強い。そんな話がしたい」と。
渡會:まさかあれを読まれていたとは(笑)。
―あのツイート、なんとなく今日の「ストーリー」に関する話題とつながるような気もしたんですけど。架空のフィクションに可能性を感じている、という意味で。
渡會:これはデマかもしれないんですけど、「アメリカ軍が光学迷彩シールドを発明した」というニュースが、一時ちょっと流れたんですよ。そこである有名なSF作家が「人が想像できることはだいたい実現可能だし、実際にそうなってきた」と言ってて。もしそれが本当だとしたら、いつかガンダムとかも実現しちゃうのかなと思ったんです。僕、どう考えても人型巨大兵器なんて無意味だと思うんですけど、実際にガンダムが作れるようになったとしたら、「ガンダムに乗りたい」という動機で兵隊に志願する人が出てくるかもしれないですよね。でも、その志願動機には破壊や殺人といった目的は含まれていないわけで。フィクションもフィクションで恐ろしいなと思ったんです。
―なるほど。必ずしもポジティブなものではないと。そういえば、「四肢で動く軍用ロボットがもうすぐ運用開始される」というニュースも、ちょっと前にありましたね。
渡會:え! それ、本当ですか?
―でも、これが人型ロボットなのかと思いきや、ウシみたいな4本足のロボット(Boston Dynamics社が開発した4脚ロボット「BigDog」)らしくて。正直まったくかっこ良くないんです。
渡會:あははは。真っ先に人型ロボットを連想して、僕も一瞬ときめいてしまいましたよ(笑)。良くも悪くも、未来はなかなか想像通りにいかないってことですね。
- リリース情報
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- FoZZtone
『Return to Earth』 -
2014年11月12日(水)発売
価格:3,000円(税込)
PECF-31061. Return to Earth
2. 溺れる鯨
3. 開きっぱなしの扉か俺は
4. Message from the front
5. Gloria
6. ベルティナの夜
7. 青い炎
8. Anomaly
9. Cry for the moon
10. 風によろしく
11. Fortune kiss
- FoZZtone
- プロフィール
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- FoZZtone (ふぉずとーん)
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渡會将士(Vo&Gt)、竹尾典明(Gt)、菅野信昭(Ba)からなるロックバンド。ジャケットは主にVo.渡會がイラスト・デザインを手がけている。テレビ東京系列アニメ『遊☆戯☆王ZEXALⅡ』エンディング曲のシングル『GO WAY GO WAY』では、原作と渡會のイラストのコラボも実現した。自身のブログ、モバイルサイトで小説も執筆中。音楽をもっと楽しんで欲しいという想いから、「購入者が選曲し曲順を選べる」という業界初の試み「オーダーメイドアルバム企画」を実施し、タワーレコード13店舗との「オーダーメイドアルバム企画」も実現。2013年、「セカイイチとFoZZtone」を結成。『バンドマンは愛を叫ぶ』をリリース。2014年、事務所を移籍し、ミニアルバム『Stomp the Earth』をリリース。11月、三部作の完結編となる『Return to Earth』をリリース。
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