人気クリエイターたちが愛す18歳女子ラッパーDAOKOの謎を探る

先日高校を卒業したばかりの18歳女子ラッパーDAOKOが、メジャーデビューアルバム『DAOKO』を発表した。中3の時にニコニコ動画へラップの投稿を始め、高1でインディーレーベルから作品を発表すると、その儚くも美しい楽曲の世界観が話題となり、m-floやRHYMESTERのMummy-Dといった大物アーティストとのコラボレーションを経験。さらには中島哲也監督の映画作品に楽曲が起用されたり、庵野秀明率いるスタジオカラーによる短編映像シリーズ『日本アニメ(ーター)見本市』の楽曲に抜擢されたりと、現在破格の注目を集めている女性アーティストの1人である。これまではアーティスト写真で顔を出すこともなく、その素顔がベールに包まれていた彼女だが、メジャーデビューというタイミングに伴い、その半生を振り返るインタビューを実施。リアルな言葉の数々から、DAOKOの「今」を感じてほしい。

小さい頃から抱えていた承認欲求

3月25日、自らの名前を冠した1stアルバムでメジャーデビューを飾った東京出身の女子ラッパーDAOKOは、この取材の前日に高校を卒業したばかりの18歳。中学3年のときにニコニコ動画にラップを投稿し始め、高校の3年間でネット発のインディーレーベル「LOW HIGH WHO?」から3枚のオリジナルアルバムを発表してきた。才気ほとばしるリリックが連なり、10代特有の儚さと美しさが色濃く香る彼女の楽曲は、徐々に多くの人々の心を侵食しつつある。

―卒業式はどうでしたか?

DAOKO:卒業を待ち望んでいた自分もいたので、悲しいという気持ちはなく、どこか清々しいような感覚で卒業しました。

―早く大人になりたかった?

DAOKO:「大人」という括りはかなり曖昧なものだと思っていて、精神的な「大人」もあると思うので……。精神的にも、生活としても、自立したいという気持ちは小学校の高学年くらいから芽生えていました。なので、まずは社会的な「成人」をクリアしたいんですよね。年の離れた姉がいて、幼少期から大人に囲まれてどこか遠さを感じていたので、「大人」に対する憧れがずっとあるのかもしれません。

―中学生のときにラップを始めたきっかけも、「大人」への憧れの気持ちがあったからでしょうか?

DAOKO:わりと好奇心は旺盛で、面白そうと思ったらとりあえずやってみようと思うタイプなので、ラップもそのひとつだったというか。褒められたい欲求があったんだと思います。小さい頃からずっと絵を描くのが好きだったんですけど、それも誰かに褒めてもらえるのが嬉しかったからなんですよね。そういう承認欲求みたいなのはずっとあって、なおかつその当時は女性ラッパーとかそんなにいなかったから、そこに付け込んだというか……中学生的な思考回路で言うと、そういう言葉になりますね。

2015年4月6日『DAOKO THE LIVE!』@渋谷WWW
2015年4月6日『DAOKO THE LIVE!』@渋谷WWW

学校は忍耐力を試される場所だった

高1の7月には「LOW HIGH WHO?」よりEP『初期症状』、12月にはアルバム『HYPER GIRL -向こう側の女の子-』を発表する。僕が彼女のラップを最初に聴いたときの印象は、とにかく「エモい」ということ。ラップが女子にとって手を出しやすい表現ツールとなり、「ゆるふわ」と呼ばれる可愛いラップが主流の今、DAOKOの存在は一際目立って見える。これはもともと椎名林檎が大好きで、現在は大森靖子も好きだという彼女のやや内向的な人間性の表れであり、つまりは現実との軋轢の中で、切実に音楽を必要としていたことの表れだと言ってもいいだろう。


DAOKO:表現をするっていうことは、何かしら満たされないところがあるということで、陰の部分から生まれるものがほとんどだと思うんです。私は根がそんなに明るいわけではないし、その陰の部分を音楽として消化することで、スッキリするようなところがあると思います。

―これまではどんなことにフラストレーションを感じていましたか?

DAOKO:中学生のときは、学校生活がとても充実していたとは言えないようなものだったので、毎日学校や同級生に対するフラストレーションとストレスが大きかったです。高校では友達も増えて、学校生活自体はノンストレスで楽しいものだったと今は思えるのですが、どこか漠然とした違和感みたいなものはずっと存在していて。高校から音楽活動を始めたのもあって、学校生活と音楽生活のギャップも、違和感の原因のひとつだったかもしれません。でも、その違和感から生まれる歌詞もありました。

―小さい頃から大人に憧れてたし、さらにはインターネットを知り、レーベルに入り、実際に大人との接点も増えていく中で、学校に対する客観的な視線ができてたのかもしれないですね。

DAOKO:そうですね。インターネットを通じて出会った人はやっぱり大人ばかりで、そっちに憧れがあったというか、自由に見えたんですよね。学校は、規則があって自由じゃないからこそ、自由じゃないことを学ぶところだと思ってたし、忍耐力を試される場所だった気がします。

大物アーティストや映画監督に愛された、映像的なリリック

2013年9月には『UTUTU EP』、12月にはセカンドアルバム『GRAVITY』と順調にリリースを続ける中で、彼女の存在は著名なクリエイターたちから注目を集めるようになる。「m-flo + daoko」として映画の主題歌“IRONY”を提供したり、『HYPER GIRL -向こう側の女の子-』収録の“Fog”が中島哲也監督『渇き。』の挿入歌として起用されたり、庵野秀明率いるスタジオカラーによる短編映像シリーズ『日本アニメ(ーター)見本市』の楽曲“ME!ME!ME!”をTeddyLoidと制作したりと、彼女の名は一躍業界内に知れ渡るようになった。映像作品との関わりが多かったのは、彼女の言葉と音が描き出す風景が鮮烈だったからこそだろう。中でも、<心のあたりがぐじゅぐじゅするの 膿んでは落ちる気持ち 水たまり 人間なんて肉の塊>という出だしで始まる“Fog”が映画に起用されたことは、大きな経験だったという。

DAOKO:“Fog”を作ったときは、いろいろ人間関係で悩んでたりして、気持ち的にドン底だったんですよね。歌詞もかなりそういう心境が反映されたエグみのあるものになっているので、映画で使われると聞いて、「この曲で大丈夫かな?」と思いました。でも、やっぱりどこかしら人間みな闇を抱えて生きていると思うので、そういった闇の部分が共感を得たんだろうし、映画ともマッチしたのだと思ってます。

―自分の陰の部分から生まれたものが、人に響くものになるという経験をしたことは、大きかったんじゃないかと思います。

DAOKO:そうですね。現実でもネットでも、どこに行っても人間関係ってついてくるもので、その中で生きていかなきゃいけないから、みんな何かしら悩みを抱えてるんだと思うんですよね。ネットも私にとっては社会だったし、学校がダメだったときはネットがすべてだったけど、顔が見えない相手とコミュニケーションをとるのって本質的じゃないって気付いてからは、友達と会って話す方が全然いいなって思います。

DAOKOにとってメジャーで音楽をやる意味とは?

名前を小文字の「daoko」から大文字の「DAOKO」に変更して発表されたメジャーデビューアルバム『DAOKO』には、彼女をバックアップする多彩なクリエイターたちが集結。サウンドプロデュースはGREAT3の片寄明人が担当し、トラックを提供したのはORESAMAの小島英也、きくお、國本怜、PARKGOLF、Miliと、気鋭の若手たちが名を連ねている。新たなコラボレーターとの作業に意欲的に取り組んだ結果、インディーズ時代の儚さや毒っ気を受け継ぎながらも、これまで以上にポップな作品になったと言っていいだろう。

DAOKO:メジャーに行くっていうことは、大衆に届けるという目標があるから、そのためにはキャッチーであるべきだと思うんです。なので、ポップを「目指した」というよりは、自然と意識できるようになったのかなって。これまでは「好き勝手にやっていいよ」ってなると、ただただ暗くなっちゃってたから(笑)、結構大変ではあったんですけど、自分なりのポップというものを意識しました。インディーズの頃から変わらない自分の歌いたいことを、ポップさとミックスさせるという点に関しては、うまくできたかなと思います。

2015年4月6日『DAOKO THE LIVE!』@渋谷WWW

―トラックが完成して、タイトルが与えられて、そこからリリックを書いていったそうですね。そういった共同作業はかなりの挑戦でもあったと思うんですけど、その手応えに関してはいかがですか?

DAOKO:自分だけの感性を信じ切っちゃいけないってことは学びましたね。自分がいいと思ったものだけがいいわけじゃなくて、「これ、ちょっとなあ」と思っても、第三者から見たらすごくいいこともあり得るから、とりあえず好き嫌いはせずに何でもやってみようって。

アルバムの1曲目を飾るのはtofubeatsのアンセム“水星”のカバー。ミュージックビデオに出てくる部屋は、実際にDAOKOが曲を作っている環境を再現したものだという。そして、その部屋で生まれた彼女の言葉が、街へと広がっていく。

―tofubeatsさんがよく言ってるのは、音楽に求めるのはエスケーピズム(現実逃避)だということで、DAOKOさんの“水星”のリリックも、クラブに逃避を求めるOLが主人公になってますよね。DAOKOさん自身も、音楽に現実からの逃避を求めるような部分は強いですか?

DAOKO:そういうところはありますね。でも、結局曲も日常から生まれるものだから、絶対現実の生活とリンクしてるものだと思うんです。だから私としては、音楽と生活の結びつきはすごく強くて、心のバランスを保つために必要というか、音楽がなかったら厳しいというか。

―その感覚は“ミュージック”に表れてますよね? <ミュージック どこまでも連れてって ミュージック どこまでも寄り添って>っていう。

DAOKO:これはParanelさん(LOW HIGH WHO?主宰者)が言ってた言葉なんですけど、音楽って血液とか細胞みたいなものだと思うんですよね。聴いて耳から入って、その人の中で流れて、循環して、その人のものになっていく。それによって助けられるっていうのは、すごくいいことだなって。

長生きはしたくない。命を燃やして、花火のようにパッと煌めいて終わりたい

<魔法にかけてあげる 恋する準備はいい?>と初恋のドキドキを歌う“かけてあげる”や、<重たい瞼をあけて 明け方の街走る女子高生 冷えきったサドルが 発育途中の身体震わせるの>と女子高生のリアルを歌う“JK”などは、まさに10代の女の子らしい視点の曲と言える。しかし、一方で彼女は「日常的に感情の波が激しくて、生と死とかもすごく考えるんです」とも語り、本作には彼女の死生観が強く反映されてもいる。

―“水星”もそうだけど、“一番星”とか“流星都市”とか、「星」がひとつのキーワードになっていて、そこにDAOKOさんの死生観が表れているように思いました。

DAOKO:このアルバムは私の自己紹介のアルバムにしようっていうのがまずあったんですけど、私はメルヘンなものも好きというか、私自身結構フワフワしてるので(笑)、現実世界と空想世界の両方を表現したかったんですよね。「星」はその空想世界の方が表れてると思います。

2015年4月6日『DAOKO THE LIVE!』@渋谷WWW

―「流星」とかって、「人間は誰しも傷つきながら生きている」っていうことの比喩というか、そこに美しさを見出してるのかなって。

DAOKO:そうやっていろいろ解釈していただけるのは面白いなって思います。でも、ホントその通りだと思いますね。私、花火みたいに生きたいと思ってて、パッと咲いてきれいだって思ってもらえればそれでいいというか。長生きしたいとかもまったく思わないし、「煌めけたらいいよね」っていう感じ。だから、星にも惹かれるのかなと思うんです。“一番星”の歌詞でも言ってるように、命は消耗品だと思ってる部分があって、まさに「命を燃やす」ことによっていろんな人に見てもらえると思うから、それをちゃんと表現することで生きてる実感が得られるのかなって。「何となく生きてたくない」っていうのがすごくあるから、何かしら「キラッ」として死にたいんですよね。

もうひとつ、メジャーデビューアルバムに見られる大きな変化は、リリックにポジティブなワードが増えているということだ。<流行りの歌はぼくがつくるよ ダサいぼくだって歌歌うよ>と歌う“ぼく”や、<きみが思ってるより だれかはきみを想ってるから>と歌う“きみ”は、自分の音楽を聴いてくれる「ぼく」や「きみ」に向けて、メッセージを投げかけようとしているように見える。

―今回の作品からは、聴き手に対する意識の芽生えを強く感じました。

DAOKO:そこが今後の課題ですね。今までは、音楽で自分がいかに気持ちよくなれるかという、自分中心の音楽作りだったのですが、メジャーデビューさせていただいて、これからは人にどう届くかを考えなきゃいけないなと思ってて。基本的には、聴いた人が好きに解釈してくれたらいいのです。聴く人それぞれの人生観があるわけだから、自分の都合いいように解釈してくれるのが一番いいと思います。

―僕が今作で一番メッセージ性を感じたのは、ラストの“高い壁には幾千のドア”で、この曲は「好きに生きていいんだ」っていう、可能性を訴える曲だと思ったんですね。決められたレールの上で生きていかなくちゃいけないのは辛いことだけど、ホントは誰の目の前にも幾千のドアがあって、どれを選ぶのかはその人次第なんだよっていう。

DAOKO:その通りでございます(笑)。最初はプロデューサーからざっくりと、「ドアがいくつもあって、それをどんどん開いていくイメージ」って伝えられたんですね。今までだったら、「高い壁があって辛い」で終わってたと思うんですけど(笑)、でもそこにはいろんなドアがあって、どれを選んでもいいんだっていう、希望のある終わり方にできたんじゃないかと思います。まあ、人の曲を聴いて、歌詞のすべてが自分に当てはまることってないし、少なくとも「この部分は当てはまる」っていう部分を絶対に見つけられるような曲を作れればなって思います。

2015年4月6日『DAOKO THE LIVE!』@渋谷WWW

少々語弊があるかもしれないが、DAOKOと直接話をしてみて感じたのは、彼女がごく普通の今どきな18歳の女の子であるということだ。家族や学校といったリアルと、ニコ動をはじめとしたネットという、ふたつの社会の中で人間関係にもがきながら、音楽や絵を支えに生きてきて、将来に漠然とした不安を感じるからこそ、非常にリアリストでもある。こういう10代は、今きっと日本中にいることだろう。ただ、DAOKOの場合は常に年上に囲まれていた環境から、背伸びをする行為が感性を研ぎ澄ますこととなり、それが「生」への刹那的な執着へとつながったように思える。こうした両面を兼ね備えているからこそ、彼女の楽曲は聴き手の心に強く訴えるものがあるのだろう。さて、彼女はこれからどのドアを選び、どんな音楽を作っていくのか?

―アーティストとしての今後の展望はどう考えていますか?

DAOKO:長生きしたくないと言っておきながらも、女子的観点から結婚や出産も経験したいので、矛盾してますね……。とりあえずは、今をどう生きるかにフォーカスして、できることは全部やらなきゃなって思います。今年はまずライブに向けて頑張りたいです。常に不安や矛盾を抱えてる人間なので、その気持ちが消えることはないと思いますが……でも、音楽は楽しいので、きっと大丈夫だろうと思って生きています。

リリース情報
DAOKO
『DAOKO』初回限定盤(2CD)

2015年3月25日(水)発売
価格:2,500円(税込)
TFCC-86507

[DISC1]
1. 水星
2. かけてあげる
3. 一番星
4. ゆめうつつ
5. 流星都市
6. ぼく
7. きみ
8. 嫌
9. ミュージック
10. JK
11. ないものねだり
12. 高い壁には幾千のドア
[DISC2]
1. ME!ME!ME! feat. daoko_pt.1 / TeddyLoid
2. BOY
3. キラキラ
4. Fog(new mix)
5. 試験一週間前
6. 脳内 DISCO
7. Mind Surf feat. daoko / ★ STAR GUiTAR
8. 戯言スピーカーRap.ver
9. 放課後校庭にて feat. daoko / COASARU
10. 夕暮れパラレリズムfeat. daoko / ESNO
11. IRONY / m-flo + daoko
12. そつぎょう

DAOKO
『DAOKO』通常盤(CD)

2015年3月25日(水)発売
価格:2,000円(税込)
TFCC-86508

1. 水星
2. かけてあげる
3. 一番星
4. ゆめうつつ
5. 流星都市
6. ぼく
7. きみ
8. 嫌
9. ミュージック
10. JK
11. ないものねだり
12. 高い壁には幾千のドア

プロフィール
DAOKO (だをこ)

1997年生まれ、東京都出身。15歳の時にニコニコ動画へ投稿した楽曲で注目を集め、2012年に1stアルバム『HYPER GIRL- 向こう側の女の子 -』発売。ポエトリーリーディング、美しいコーラスワーク、ラップを絶妙なバランスで織り交ぜ、他にはない独特の歌詞をみずから紡ぎだす。インターネットというベールに包まれ活動するミステリアスな彼女の存在はたちまち高感度のクリエイターを中心に広がり、わずか16歳にして、m-floに見出され2013年にm-flo + daokoによる楽曲『IRONY』が映画『鷹の爪~美しきエリエール消臭プラス~』の主題歌に起用。さらに、中島哲也監督の目に止まり、2014年公開映画「渇き。」では“Fog”が挿入歌に抜擢される。2015年3月、TOY’S FACTORYから『DAOKO』にてメジャーデビュー。 彼女らしい独特の世界観はそのままに、新進気鋭トラックメーカー、そして GREAT3の片寄明人が参加した7組と楽曲を制作。



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