クマと女の子が合体したキャラクター、通称「レコちゃん」が描かれたパネルを顔に被せて現れたコレサワ。近頃、華奢な身体でアコギを抱えて歌う女子を総称として「ギタ女」と呼ぶが、「ギタ女」という言葉を彼女にぶつけると、「私は違う」と真っ向から突き返された。コレサワとは一体、何者なのか?
写真からも伝わる通り、取材と撮影に応じる彼女は、終始天真爛漫だった。どんなときも「最強ポジティブ思考」を発揮し、うしろを振り返ることや、ネガティブにリスクや恐怖を考えることは一切なく、1st EP『君のバンド』をリリースするまでの日々を突き進んできた。これまでの歩みを振り返って聞いてみると、ここにたどり着くまでに幾度か行き止まりにぶつかっては来たものの、その天真爛漫な性格が、彼女自身の人生に才能だけでは掴めない幸運を呼び寄せているように思えた。「運」というのは、考え方1つで変えられるものなのかもしれない。彼女の生き方と、そのパーソナリティーがストレートに滲み出ている楽曲たちは、羨むほどに清々しい。
私、構えて写真を撮られるのがめちゃくちゃ苦手なんです。「笑ってください」って言われても、「いや、私は笑いたくないよ!」みたいな(笑)。
―最初に単刀直入に訊いてしまうのですが、自分の顔をクマのキャラクターで隠す理由は?
コレサワ:Twitterにあげるような友達と撮った写真とかは顔を出してるんですけど、アーティスト写真とかインタビューとか、そういったオフィシャルなものでは出してなくて。私、構えて撮られるのがめちゃくちゃ苦手なんです。「笑ってください」って言われても、「いや、私は笑いたくないよ!」みたいな(笑)。
―代わりに、レコちゃん(クマのキャラクターの名前)に笑ってもらおうと(笑)。
コレサワ:そう。だって、「笑ってください」って言われて笑わないのは失礼だと思うし。それに、自分が普通に写るよりも、「顔だけキャラクター」っていうほうが面白いじゃないですか。何事も、面白いほうがやってて楽しいので。
―わかりました。コレサワさんのこれまでを振り返ってみると、「強運と才能の持ち主だな」という印象を持ちました。まず、生まれて初めて書いたオリジナル曲で、『ストリートファイターズ』(2002~2011年にテレビ朝日系で放送されていた音楽番組)のオーディション企画の全国決勝大会まで勝ち進んだ。
コレサワ:はい。
―当時は、どういう思いで曲を書いて応募したのでしょう?
コレサワ:高校のときに付き合っていた男の子がいたんですけど、その子の元カノと私は、二人とも歌を歌う女子としてなんとなく意識していました。その子は私よりも細くて、可愛くて、すごくビブラートもきれいで歌が上手だった。で、文化祭のときに、その子が突然オリジナル曲を作ってきて、それがすごく悔しくて。「私も曲を作ってやる!」と思っていたときに、家に『ストファイ』のオーディションのチラシがあったんです。
―それで、人生で初めて曲を作ってみて応募したら、全国大会まで行っちゃったと。
コレサワ:はい(笑)。
―そして2012年には、『SUMMER SONIC』に出演できるオーディション企画『出れんの!? サマソニ!?』に応募して、1000組以上の中からたった14組しか手に入れられない出場権を手に入れた。
コレサワ:これもホント偶然ですね。締め切りの直前に、「これで勝ち抜けたら、無料で『SUMMER SONIC』観に行けるやん」くらいのノリで応募したんです。最終選考は、いしわたり淳治さんとかダイノジの大谷さんとか審査員の前でライブをやるんですけど、その日は声の調子も悪くて、全くいい演奏ができなかったんです。今回のEPにも入ってる“わんちゃん”を演奏したんですけど、他の応募者はバンドばっかりでガーッと勢いよくやってるのに、私だけ弾き語りで。終わって「絶対無理や」と思ってたから、合格の電話がきてびっくりしました。
―つい先日、スガシカオさんもTwitterで「コレサワ、歌詞も声もすごくいい。昨日、飲んでるときの話題だった。」ってつぶやいてましたよね。以前から面識があるんですか?
コレサワ:いや、お会いしたこともないから、「なんでだろう?」って思ってます。全然売れていない私のことを褒めてくれるなんて、嬉しいですよね。
―こうやって、実力だけでは導けないようなことが起こっていることを聞くと、運も持ち合わせている方なんだなって。
コレサワ:昨日、携帯サイトの姓名判断をやったら、「運がいい」って書いてましたね(笑)。でも、強運ばかりじゃないです。二十歳を超えて最初の方は、あんまり上手くいってなかったですよ。
「結局は、そこまでは行かないんだろうな」って投げやりになってたときがありました。
―「あんまり上手くいってなかった」というのは、具体的にどういう状態だったんですか?
コレサワ:一時期デビューの可能性もあったけど、白紙になった。今いるスタッフともまだ出会えてない。「これから一人でどうしよう?」みたいな。女の子って、やっぱりみんなデビューが若いじゃないですか。だから、二十歳を超えて何もなければ終わりだと思っていて、実際に20代になって最初の1年間は焦っていたというか……1度止まったらもうアーティストとしての可能性が終わってしまう気がして、一人で活動を続けながらどうお客さんについてきてもらうか必死でした。
―そのときはどういう活動をされていたんですか?
コレサワ:自分でライブを企画したり、CDを作ってみたりしてましたね。その中で、ライブハウスの人とかに言われるんですよ、「『コレサワって、今どこに所属してるの?』って訊いてくる業界関係者がいるよ」って。「いや、そんな話、私には何もきてないから!」って。「結局は、そこまでは行かないんだろうな」って投げやりになってたときがありました。
―“笑えよ乙女”で歌っている<何かをがんばっていても進まないこともあるよね>って言葉は、その頃に書いたものですか?
コレサワ:この曲は、1か月くらいバイトも学校も行かないダメ人間生活を送っていたときに書いた曲なんです。
―その1か月は何を考えて過ごしていたんですか?
コレサワ:「退屈」というものがここまで人をダメにするのかって。「暇」ということの怖さを思い知りました。こんなにも縛られない自由な時間があると、逆に人は何にもする気が起きないんだなって。何もする気が起きないんですよ。ただ、寝て、起きて、ご飯を食べる、それだけ。
―ずっと家にひきこもり?
コレサワ:家にもあまりいたくなくて、友達の家に泊まらせてもらってたんですけど、学校に行くのも、家に帰るのも面倒だと感じてしまうくらい、何にもやる気が起きなかったんです。その1か月で、悩みごともない、やることもない、ただ生きているだけの日々って、こんなにも辛いんだってわかりました。それだったらちょっとくらい悩んでいるほうがいい。
―<そこですわっていても世界は変わらないよ>という歌詞は、ある意味そのときの自分に言い聞かせる言葉でもあったということでしょうか。
コレサワ:そうですね。これは自分がその生活から抜け出すために作った曲でした。
死ななかったら何でもできるから、死ななければいいや、みたいな。
―今って、いわゆる「ギタ女」と呼ばれる、ギターを弾く女子のシンガーソングライターが、音楽シーンの中でもものすごく多いですよね。その激戦区に飛び込んでいくことへの恐怖や不安を考えたことはありますか?
コレサワ:別に比べてないです。「ギタ女」の子たちは可愛くて、曲もよくて、愛嬌もあると思っていて。私にはないものだから、そこに並んで立てるとは思ってないです。自分としては「ギタ女」ではなくて、レコちゃんのキャラクターも使いながら一種のゆるキャラというか、違う次元のものとして存在していたいというか。そこと張り合ってるつもりはないので楽なのかもしれないですね。
―ソロではなく、バンドを組むことを考えたことはなかった?
コレサワ:まずは自分の名前と曲で勝負したいんですよね。それをやらずに妥協したら、いつか後悔すると思って。そのチャンスを真っ先に諦めてバンドを組んじゃったら、それは本当にやりたいことではない。死ぬときにそんな後悔をしたくないなって。
―バンドだと、何かあったときにメンバーに頼ったり協力し合えたりするけど、ソロだと全てを自分で背負わなければならない面もありますよね。例えばこの先、曲が全然生まれないスランプの時期がコレサワさんに訪れるかもしれない。そんなネガティブな可能性は考えなかった?
コレサワ:考えなかったですね。曲を作るのは好きだし、どんどんできるほうだと思います。
―普段からあまりネガティブに考えることはないタイプですか?
コレサワ:そうですね。ポジティブさは、学生の頃から最強ですね。二十歳を超えて上手くいっていない時期があったってさっき言いましたけど、自分が進もうとしていた道を通せんぼされたから、「クソッ! いつか見返してやる!」と思って遠回りしてきた感じです。通せんぼされたってことは、きっと神様が「この道には行くな」と言ってるってことだから、もう次の道に行こうって考えるようにしてます。
―ああ、それはすごくいい考え方ですね。
コレサワ:あまり暗く考えたこともないし、深く落ち込んだこともないし、何があっても音楽を辞めたいと思ったこともないですし。だから、「これから曲が作れなくなったらどうしよう?」なんて思うこともない。死ななかったら何でもできるから、死ななければいいや、みたいな。
―コレサワさんのライブを観てると、「ワガママになって、掴みたいものを真っ直ぐ掴みにいく」ということは、何もいやらしいことではない、とてもピュアでかっこいいことだって思わせてくれるんですよね。
コレサワ:うんうん、ワガママですね(笑)。一時期、周りの人が言うことの言いなりになってしまっていたこともあるんです。でも、他の人の意見に従って動いてみたら、全然上手くいかなかった。自分の意志を曲げていいのは納得したときだけで、納得しないで曲げるといい方向にことは進まないって気づいたんです。何事も自分のせいにしたほうが楽なんだなって。人のせいにすると一生後悔が残るんですよ。
素直に自分の意見を言って、やりたいことを話すのがいいですよね。自分のやりたいことをちゃんと人に話さないのが一番いけない。
―かつては、暗い曲や毒を吐くような曲も多かったけど、今回の『君のバンド』は、曲調もポップで「最強ポジティブ」な楽曲が揃ってますよね。そういう方向性にしようと思ったのはなぜでしょう?
コレサワ:こんなに根がポジティブでバカなんだから、ポップな音楽をポジティブにやろうと思って。確かに昔はバイトの店長への愚痴とかを書いた刺々しい曲も歌ってたんですけど、「なんで敵を作るような音楽をやってるんだろう?」って思ったんですよね。誰かがイラっとしたり、悲しくなるような曲は作りたくないなって。
―確かに、今作に入ってる4曲は誰も傷付けない。
コレサワ:1曲目の“君のバンド”って、最初はすごくメジャーを批判したような曲だったんです。<あたしの好きなバンドはなぜかちっともちっとも売れない 君の好きなバンドはなぜかすっごくすっごく売れてる>って歌詞だったんです。でも、「なぜか売れてる」だと、売れてる人を批判しちゃうじゃないですか。私は、メジャーのアーティストを批判したくはないし、敵にしたいわけでもないし、これを聴いたメジャーの人が傷つくのも嫌だから。「その人たちのよさはあるけど、売れてない人たちにもよさはあるよ」ってことを言いたかったから、「なぜか」じゃなくて「どれも」って言葉に書き換えたんです。
―さっき「自分はワガママだ」っておっしゃってましたけど、周りに気を遣わずに迷惑をかけるだけの自己中心的なワガママさとはまた違うようですよね。
コレサワ:そうなのかな? でも、ワガママを素直に言える相手がいればいるほどいいなとは思っていて。「この人に話しても通じないな」って思うと、その人との関係作りを諦めちゃうというか。素直に自分の意見を言って、やりたいことを話すのがいいですよね。自分のやりたいことをちゃんと人に話さないのが一番いけない。
―そう。「ワガママ」じゃなくて「素直」。言いたいことを言わずに窮屈さを感じるより、言いたいことは言った方がいいよってコレサワさんは教えてくれる。
コレサワ:それくらいバカのほうが、生きるのが楽かなって(笑)。
―曲の中の一人称が「あたし」であることも、意図的ですか?
コレサワ:そうですね。前までは、サンボマスターが好きで、サンボマスターが「僕」って歌うのがかっこいいなと思って、自分の曲にも「僕」って使ってたんですけど。でも、私は女の子なんだから、女の子らしさを出しちゃっていいんだなって思えたんですよね。「あたし」のほうが声も明るく聴こえるし、ワガママな女の子の感じが出るじゃないですか。だから、「あたし」って歌うのが、私らしいなと思ってます。
―しかも、「私」ではなくて、「あたし」っていうのが、コレサワさんのパーソナリティーにはまってますね。
コレサワ:そう。「私」だと、ちょっと大人な女性のイメージなので。子どもって「あたし」って言うじゃないですか。ずっと5歳くらいの精神を持っていたいんですよね(笑)。
「暗い気持ちになったら、私に会いに来て」って思います。こんなにポジティブなアーティストいないと思う。
―歌声からも、ワガママさやポジティブさが湧き出てるなと思うんですけど、そこは何か意識してますか?
コレサワ:声は、曲によって変えていいし、歌い方も好きにしていいと思ってますね。前に、大森靖子さんが「ギターの人はエフェクターをたくさん買って音作りに没頭するのに、ボーカルはどうして何もしないんだ」みたいなことを言っていて。確かに、ボーカルは自分の体が楽器だから、自分の声を変えるエフェクターを体内からいっぱい探さなきゃと思ったんですよね。そこからワガママに聴こえる声や歌い方を研究しようと思いました。
―大森靖子さんが好きなんですか?
コレサワ:好きです! あと、小南泰葉さんとか。
―お二人の共通点って何でしょう?
コレサワ:自分の好きなものを「どーん」と出している。大森さんと小南さんは、1曲聴いたりPVを見たりしただけで、何が好きなのかがすぐにわかるんです。大森さんはピンクとか、モーニング娘。の道重さんとかが大好きで、小南さんはグロいのが好きだし、藁人形を作って売っちゃうし。そうやって、好きなことを躊躇なくやっている人が好きですね。あとやっぱり、二人とも曲が好きです。二人のサポートとかをやってる人たちからも、その人と曲が大好きでやってることが滲み出てるんですよね。
―コレサワさんも、イラストレーターのウチボリシンペさんとがっつりタッグを組んで、レコちゃんの制作やアートワークをやられていますよね。ウチボリさんとは、どうやって出会ったんですか?
コレサワ:2年前くらいに出会ったんですけど、たまたま私と対バンした男の子の友達だったんです。ライブのあとに、物販で売ってたデモCDを買ってくれて、「僕、こういう絵を描いてます」って自己紹介してくれて。ちょうどグッズのイラストを描いてくれる人を探していたときだったので、一緒にやらせてもらうことになりました。
―曲で出会いを呼び寄せたんですね。
コレサワ:そうですね。よく「どうやって見つけたの? どうやって頼んだの?」って聞かれるんですけど、たまたま出会えただけだから、やっぱり運がいいのかもしれない(笑)。
―1st EPをリリースしたあとは、どんな運命が待ってるんでしょうね。
コレサワ:このままいろんな人を巻き込んで、遊び感覚を忘れずに面白いことをやっていきたいと思います。何がやりたいかわからないことが一番怖いと思うんですけど、やりたいことはいっぱいあるから。お客さんに対しては、「暗い気持ちになったら、私に会いに来て」って思います。こんなにポジティブなアーティストいないと思う。
―最後に、今一番叶えたいワガママは?
コレサワ:レコちゃんの着ぐるみを作りたい。
―(笑)。
コレサワ:着ぐるみって、いくらくらいかかるんですかね? 顔だけでいいんですよ。絶対にいつかやります。
- リリース情報
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2015年4月29日(水)発売
価格:1,080円(税込)
RECO-0021. 君のバンド
2. 笑えよ乙女
3. わんちゃん
4. 洗濯物
5. 君のバンド(カラオケ)
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- イベント情報
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- 『コレサワ 3ヶ月連続自主企画「あたしのCDが並ぶまで」Vol.3』
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2015年4月16日(木)
会場:東京都 渋谷 LUSH
- 『『君のバンド』発売記念インストアイベント』
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2015年5月9日(土)START 19:00
会場:東京都 タワーレコード渋谷店 1Fイベントスペース
- 『コレサワ「君のバンド」レコ発 ~君の好きなバンドになりたいツアー~』
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2015年6月10日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 TIGHT ROPE
出演:
コレサワ
and more
料金:前売2,000円 当日2,500円(共にドリンク別)2015年6月11日(木)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:大阪府 南堀江 knave
出演:
コレサワ
みるきーうぇい
and more
料金:前売2,000円 当日2,500円(共にドリンク別)2015年6月21日(日)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 STAR LOUNGE
出演:
コレサワ
U sus U
and more
料金:前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)
- プロフィール
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- コレサワ
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シンガーソングライター。5月19日、大阪府摂津市出身、AB型。2012年SUMMER SONIC『出れんの!? サマソニ !?』出演。2013 年5月16日初ワンマンライブ『お誕生日会』@shibuya gee-ge.、SOLD OUT。2014年Mini Album『憂鬱も愛して』をLIVE会場限定で発売。10月26日大柴広己主催『SSW14』に出演。11月1日コレサワワンマンショー『コレシアター』を渋谷STAR LOUNGE にて行う。その他、数多の対バンライブを重ね、知名度、動員数ともに確実に増えている。リード曲“君のバンド”は、これまでライブで演奏されるたび、そのあまりにもキャッチーなメロディーと、ライブハウスに来たことのある音楽ファンなら必ず共感してしまう歌詞に触れた観客から音源の発売を熱望されていた楽曲。いずれの曲もどこまでもポップ、キャッチー。
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