kilk recordsの主宰者でもある森大地率いる6人組バンド、Aureoleが2年9か月ぶりのニューアルバム『Spinal Reflex』を発表する。2007年の結成以来、「精神に溶け込む音楽」を志向し、内向的な世界観を持ち味としてきたが、新作ではビートを主体とした肉体的な音楽性へと変化し、外向きの表現となっていることにまず驚かされる。果たして、ここには森のどんな想いが込められているのだろうか? レーベル経営者としての批評的な観察眼と、いちミュージシャンとしての常に一歩先を行かんとする開拓者精神。その両方を併せ持った森の言葉からは、バンドに対する確かな熱量が感じ取れるはずだ。
「精神に溶け込む音楽」の背景にある、音楽が聴けなくなった経験
「見せかけだけのバンドが多過ぎるように思うんです。僕らはそういうバンドにはなりたくない」。Aureoleの中心人物、森大地はそう語気を強めて語った。kilk recordsを主宰し、国内外の先鋭的なアーティストを輩出している他、埼玉でライブハウス「ヒソミネ」を運営するなど、近年は経営者としての側面も目立つ森だが、彼はあくまでいちミュージシャンであることを自身の活動の核とし、Aureoleというバンドのことを何よりも大切に考えている。
Aureoleの結成は2007年。中学生の頃にギターを手にし、高校生のときに初めてオリジナルの楽曲でライブを行うと、そこからメンバーや音楽性を何度か変え、やがてたどり着いたのがAureoleであった。森はかなり貪欲で雑食的な音楽リスナーでもあり、国内外のオルタナティブロック、シューゲイザー、プログレ、ポストロック、フォーク、エレクトロニカ、現代音楽などを聴き漁り、Aureoleを始める直前はインストのエレクトロニカをやっていたが、長く聴いてきた歌モノへの愛情から、歌を中心としたスタイルを選択。「実験精神を崩さないまま、歌モノとして成立する音楽をやりたいと思った」という考えに基づき、2009年にデビューアルバム『Nostaldum』を発表している。当時掲げていたのは「内向的な、精神に溶け込む音楽」というテーマであった。
森:学生の頃から、時間が空くと家でヘッドフォンをして、部屋を薄暗くして音楽を聴くような根暗な一面があって(笑)。そうやって聴く音楽の感動って尋常じゃないんですよね。そんな経験からだんだんと精神的な音楽が好きになっていったのかなと思います。あとはAureoleを始める何年か前に、一緒にバンドをやっていた親友が亡くなったり、悲しいことが立て続けに起きた時期があって……そのとき、世の中の音楽の7~8割が聴けなくなっちゃったんですよ。ものによっては音楽から恐怖や悲しみしか感じなかったり、逆に楽観的過ぎて聴くに堪えなかったり。でも、SPARKLEHORSE(アメリカのオルタナティブロックバンド)とかTHE ALBUM LEAF(アメリカ出身、ポストロック / エレクトロニカ系マルチインストゥルメンタリストであるジミー・ラヴェルによるソロプロジェクト)の1stアルバムとか、聴ける音楽がいくつかだけあって、そういう音楽から生きる気力をもらったんです。
―そのときの経験から、初期のAureoleの方向性が定まったと。
森:そうですね、なにかしら影響はあると思います。その親友が亡くなったとき、ご遺族に「お葬式が始まる前のBGMを選んでほしい」って言われて選曲させてもらったんです。そいつの遺影とお花を前に、僕が選んだ曲がかかっていて、すごく悲しかったんですけど、めちゃくちゃ美しい光景にも見えたんですよね。ロックって「軽音楽」とも言うし、軽いものの方が売れてるのかもしれない。でも、僕はあの光景のように心に訴えかけてくる内向的な音楽をやりたいと当時は思ったんです。そういう音楽を日本でやってる人ももちろんいたけど、自分たちはそれとはまた違う、新しいものを作りたいと思いました。
1stアルバム発表後にメンバーチェンジがあり、ボーカル&ギター、ギター、ベース、ドラム、ビブラフォン、フルート&キーボードという現在のラインナップが揃うと、2010年にkilk recordsから2ndアルバム『Imaginary Truth』を発表。さらに2012年には3rdアルバム『Reincarnation』を発表し、「TORTOISE(アメリカ・シカゴ出身のポストロックバンド)とかとは違って、もっと攻撃的に使えるんじゃないかと思った」というビブラフォンをフィーチャーした作風を確立。ポップな曲調も相まってさらにバンドの知名度を高めたが、「内向的」であること自体はこのときも変わっていなかった。
森:1stと2ndに関しては、いわゆるポストロックとも違うし、歌モノのロックとも違ったので、結局どのジャンルにも当てはまることができず、一部のニッチなものが好きな人にしか聴いてもらえなかった気がして。それがちょっとコンプレックスになってたんです。でも、前作『Reincarnation』では開き直って、ポストロックとかエレクトロニカとかのこだわりは意識せず、自分が聴いてきたポップソングを素直にやってみたんですよね。ただ、この頃ベースの岡崎くんが死にかけたこともあったし(レコーディング直後、くも膜下出血で倒れた)、やっぱり精神的な、内向的な音楽であることには変わりなかった。そこが新作とは大きく違うところですね。
需要と供給のバランスを崩さないといけない
岡崎が無事に復帰し、Aureoleとしてコンスタントにライブ活動は続けられたものの、kilk recordsとしての活発なリリースや、2013年5月の「ヒソミネ」のオープンなど、森のバンド以外の活動が増えたこともあって、Aureoleとして再び制作に入るまでには短くない期間を必要とした。そんな中、森の中では音楽業界に対する疑念が沸々とわき上がってきたのだという。
森:ミュージシャンなら、「今この音楽がイケてる」と思って聴いてるリスナーに、「次はまさにこういうのが聴きたかったんだよ」って思わせられるようなものを提示しないといけないと思うんです。でも、実際には流行ってる音楽性ばかりに群がると言うか、同じようなことをやるだけの人が多いなと思うんですよね。つまり、業界の中で需要と供給があって、「需要があるからこれをやってる」というだけ。例えば「ボカロ系」「アイドル系」「EDM系」などは支持層が厚いシーンだと思うんですけど、決まったフォーマットの中で音楽を作っていると、ビジネスとしては成り立つとしても、あんまり健全じゃないというか。もちろん純粋にそういう音楽が好きだからやっている人も多いと思うんですけど、「音楽文化の発展」という観点では問題があるんじゃないかなと。人々に音楽で新しい感動を届けていくという気概がなく、「こういう曲が今世間ではキテるからやろう」って言って、結局ただなぞっているだけという人たちばかりだと思うんですよね。
―需要に応えるだけだと、どんどん薄まって行く危険性がありますよね。
森:そう。一方で、ネットレーベルとかはお金のリスクは負わずに好きなことをやって、届く範囲にだけ届けるというようなやり方をしていて、それはそれで良さはあるんですけど、僕は音楽に感動して世界を変えられた人間なので、おこがましくもそれと同じような経験を他の人にも与えたいと思ってるんです。そういう音楽のほとんどは、まだまだ埋もれてますよね。その状況を変えるには、今の需要と供給のバランスを崩さないとダメなんですよ。これって例えば天下りの話とかと同じ既得権益の問題で、現在満足にお金が入ってくる状態の人は今のバランスを崩したくない。フェスとかもそうじゃないですか? 「またこの面子か」って思う。
―確かに、そう感じることは多いです。
森:ブランド力のあるフェスなんて、その需要と供給のバランスを根本から崩せる力を十分持っていると思うんですよね。もちろん、真剣にビジネスとしてやっているのは理解できますし、その人たちなりに強い信念や正義感もあるとは思うんですけど、「今アイツらを呼んでおけば間違いなく引きがある」とか「あれとあれを呼べばお客さんは入る」とか、どこか必勝パターンみたいな決めつけが無意識に植え付けられてるような気がするんです。商売だから仕方ないですけど、負のスパイラルですよね。結局これまでに需要があったものを同じように供給するだけという。
―つまり、Aureoleの新作の狙いは、その需要と供給のバランスを崩すことだと。
森:作品がもたらす影響の理想的な形は、それですね。こういった現状を逆手にとれないかと考えたんです。つまり、まず今の世の中で需要が集中している層はどこなのかを意識した上で攻めるいうこと。世の中を動かすほどのファンの数を持つ「~系」はいっぱい存在していますけど、今のAureoleはその中で案外「ロキノン系」のファンの人たちに気に入ってもらえる可能性が残っているんじゃないかと思ったんです。これまでは諦めていましたが、そこの支持層って実は純粋な音楽好きが多くて、新しい音楽の感動もウェルカムな姿勢の人が意外と多いんだと最近知りました。もちろん、そういう音楽を聴いている人たちに媚を売ってAureole自体をわかりやすくするというつもりは一切なくて、まずはその中にいる特に柔軟なリスナーにだけでも「体験したことなかったけど、こういうロックがあったのか」って思わせたかったんですよね。どの学校にもクラスの音楽リーダーみたいな人がいると思うんですけど、その人たちに「今こんな新しい音楽があるんだぜ、お前ら知ってる?」って言わせるのが目標っていうか(笑)。
―では、クラスの音楽リーダーにその台詞を言わせるために意識したポイントは?
森:今回初めて「時代性」を意識しました。これまでは普遍的な音楽に価値を感じていて、インスタントな音楽は大嫌いだったんです。今もそこは基本的に変わってないんですけど、より多くの人を感動させるためには、普遍的でありながら、今の時代の空気もちゃんと意識することがとても重要だと思ったんですよね。パンクにしろ、セカンドサマーオブラブにしろ、ブリットポップにしろ、時代と相まってムーブメントになった。あの感じを大事にしたいと思いました。それを捉えた上で、一歩先の新しいかっこ良さを提示したい。
「つながれる音楽」としてのAureole流ダンスロック
こうした思索のときを経て、今年の3月にはタワレコ渋谷をジャックする斬新なプロモーション方法も話題になったリテイクによるライブベストアルバム『Awake』を発表し、そして遂に2年9か月ぶりとなるニューアルバム『Spinal Reflex』を完成させた。初めて時代性を意識し、「踊れるAureole」を追求した結果、これまでの内向的な作風から、外側へと開かれた作風になったことが最大の変化である。
森:某レコードショップの人が言ってたんですけど、「アイドル」「EDM」「初音ミク」とかが受け入れられているのって、今は辛気臭いのは受けないということなんですよね。かっこいいミュージックビデオよりも、面白いミュージックビデオの方がバズる。それって、世の中が明るいムードのものを欲しがってるってことだと思うんです。そこで共通するのは「つながれる音楽」だなと。
アイドルやEDMの現場であの一体感を味わったことがある人なら、森の言葉に十分納得できるだろう。初音ミク、つまりはニコニコ動画も、まさに「つながれる音楽」が求められている場所だ。これを途中で話に出た「ロキノン系」に置き換えれば、いわゆる「ダンスロック」と言われる音楽、4つ打ちを主体としたバンドのライブにおける一体感がこれにあたる。つまり、Aureoleの今回の命題は「ダンスロックの一歩先」を提示することだったと言っていいのではないだろうか。そして、その上で今回最大のインスピレーション源となったのが、バルカンビートをはじめとした現在進行形のグローカルなクラブミュージックだった。
森:コッテルやFerri(どちらもkilk records所属アーティスト)のリリースでサウンド面のサポートをしたときに、打ち込みで新たに学んだことがたくさんあって、それをバンドのフォーマットに置き換えてみようと思ったんです。それで最初にできたのが“Ghostly Me”で、いざ完成してみると思ったよりロックっぽい仕上がりになったんですが、自分の中では妙にしっくりきて。これなら業界に一石を投じられるって思ったんです。それで「アルバムもこの方向性だ」と心に決めました。それから1か月半ぐらいで一気に全曲を作りましたね。ビートだけ聴くとベースミュージックっぽい部分もありますけど、ちゃんとギターも鳴ってるし、うねるベースラインもロックっぽい。最初に描いた通りに「ロック」の範疇の中で、面白いものが作れたと思います。それで「こんなにロックな仕上がりになったのなら、どんどんロックファンに向けたい」と思って、さっき言った「ロキノン系」を聴いている人たちに、その次の新しいものとして聴いてもらいたいと思ったんです。
持ち味である高速のビブラフォンやフルートと共にビートが乱れ打たれるインパクト抜群のオープニングナンバー“I”、ミニマルかつグル―ヴィーな“Core”、さらにはDFA(アメリカのインディーレーベル。かつてはLCD Soundsystemなどが所属)のバンドを連想させる“Hercules”や、R&B調の“Brighten”など、本作がビートを主体とした肉体的なアルバムであることは間違いない。打ち込みを排除し、人力のみで仕上げられていることもポイントで、「脊髄反射」を表す『Spinal Reflex』というアルバムタイトルは、本作のそんな性格をよく表している。おそらくはRADIOHEADからAtoms For Peaceへの進化を連想する人がいるであろうし、BATTLESやdownyと比較する人もいるだろう。ただ、森の言うように本作の印象はあくまで「ロック」であり、まさに、それこそがAureoleらしさなのである。
「内から外へ」という変化は、意味と響きを両方兼ね備えることを意識し、「実は曲作りの中で一番時間がかかる」という歌詞の面にも影響を及ぼしている。
森:これまでは架空の世界の出来事を歌っていたけど、今回は「愛」について歌った曲(“I”)から始まっているように、現実の中での人とのつながりがテーマになっています。いろんな人とつながって、それが血管のようにドクドクと脈打って、増殖していくような、そんなイメージかな。
最初に書いたように、森はあくまで自分がいちミュージシャンであることを重要視し、「精神に溶け込む音楽」を希求しながら、Aureoleとしての活動を続けてきた。しかし、kilk recordsの主宰として、多くの他者と関わり、その中で刺激と摩擦を数多く経験することで、その意識が少しずつ変化していき、より肉体的な音楽との出会いを経て、今再びAureoleを再起動させたのだと言えよう。そしてそれは「癒す」から「鼓舞する」というベクトルの違いこそあれ、「精神に作用する音楽」という意味では、これまでのAureoleとも決して変わりはないはずだ。7月2日にはアルバムを引っ提げて、バンドにとって過去最大規模となる代官山UNITでのワンマンが控えている。
森:一晩明けて、「またあのバンドに会いたい」って思わせるぐらいのライブがやりたいですね。レーベルをやってると、ライブを観に行くのが仕事になっちゃってしんどいときもあるんです。でも、「もっと聴きたい」「もっとライブを観たい」という思いが音楽にはまった原点だし、それは大事にしたいなと改めて思います。今って、CDが売れなくなって「ライブの時代だ」ってよく言われてますけど、音楽が二の次になってる、見せかけだけのバンドが多いと思うんですよ。手法とかジャンル自体がアウトプットになってしまっているバンドが多いけど、手法は手法として面白いことをやりつつも、明確な大義のようなものを感じられるかどうかが大事かもしれない。
―では、Aureoleとしての大義とは?
森:音楽を心から愛する真のミュージシャンでありたいということですかね。Aureoleを好きになってくれた人が、「Aureoleを好きでよかった」って胸を張って言える音楽を発信し続けるバンドでありたいです。そのためには、音楽的な深み、独創性、クオリティーを維持し続けないといけなくて、「現在の音楽シーンの常識を疑え」ということもすごく大事。「こういうふうにすればうけがいいから、それをやる」っていうのは絶対にダメで、常に前を行って、「こういうのが聴きたかったんだよ、Aureoleありがとう」って言ってもらえるバンドになりたいですね。
- リリース情報
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- Aureole
『Spinal Reflex』(CD) -
2015年6月10日(水)発売
価格:2,376円(税込)
KLK-20451. I
2. Core
3. Closetsong
4. The House Of Wafers
5. Pearl
6. Hercules
7. Edit
8. Inner Plane
9. Brighten
10. In Light
11. Ghostly Me
12. Last Step
- Aureole
- イベント情報
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- Aureole
『"Spinal Reflex" Release Party』 -
2015年7月2日(木)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京都 代官山 UNIT
出演:Aureole
料金:前売2,800円 当日3,300円(共にドリンク別)
- Aureole
- プロフィール
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- Aureole (おーりおーる)
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2007年結成。森大地(Vo,Gt,Prog)、岡崎竜太(B)、中村敬治(Gt)、中澤卓巳(Dr)、saiko(Syn,Flute)、佐藤香(Vibs,Glocken)の6人組バンド。ポストロック、エレクトロ、クラシカル、ミニマル、プログレ、サイケ、民族音楽、ダブステップなどを通過した奥深いサウンドと「歌モノ」としての側面、この二つの要素が違和感なく融合したサウンドが特徴。2009年にNature Blissよりデビューアルバム『Nostaldom』をリリース。青木裕(downy,unkie)をゲストに迎えたこの作品は、各方面から多くの支持を得た。2010年にはVoの森大地が主宰するレーベル、kilk recordsより2ndアルバム『Imaginary Truth』を発表。2012年には3rdアルバム『Reincanation』をリリース。2014年11月には2 年ぶりとなるフリーの配信限定シングル『Ghostly Me/TheHouseOfWafers』をリリース。一晩で1000以上のダウンロード数を獲得する。2015年3月、ライブアレンジでリテイクしたベストアルバム『Awake』をタワーレコード渋谷店限定でリリース。タワーレコード渋谷店をジャックした、前代未聞のハッシュタグを活用したO2O施策「Hashtag Awake」が大きな反響を呼び、発売からわずか1週間で200枚の売り上げを記録。タワーレコード渋谷店のウィークリーインディーズチャートの2位にランクインした。同年6月には4thアルバム『Spinal Reflex』をリリース。7月には代官山UNITでのワンマンライブも決定している。
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