今年でデビュー27年目に入った真心ブラザーズが、意外にもキャリア初となるカバーアルバム『PACK TO THE FUTURE』を完成させた。過去にも高田渡、ムーンライダーズ、はっぴいえんど、RCサクセションなどの曲をカバーしたことはあったが、今回彼らがカバーの対象として選んだのは、なんと1970~80年代の女性アイドルソング。松本隆、筒美京平、大滝詠一、細野晴臣……作詞作曲のクレジットに目を落とせば、そうそうたる作家陣が並ぶ当時のアイドルソングを、彼らはどのような解釈で料理したのだろうか。そして、いま再び作家の時代と言われる現代のアイドルソングとの違いとは? 「いい曲を作れば売れるわけじゃない」という四半世紀を超える活動を通しての経験論や、「まだまだお金持ちになって、もっと遊んで暮らしたい」と語る今後のビジョンについてまで、頼もしい二人からたっぷりと教えてもらった。
(当時の曲を)カバーするために紐解くと、作詞家の先生も、作曲家の先生も、「俺はこれなんだ!」みたいなものを貫いてるなと感じましたね。(桜井)
―なぜ今回は1970~80年代の女性アイドルをカバーすることになったのでしょう?
桜井(Gt):今年のはじめに『The Covers』というNHKの音楽番組でカバー曲を3曲歌わせてもらったら、自分たちも楽しかったし、まわりの評判も非常によくて、「じゃあカバーアルバムを作っちゃおう」と盛り上がったんです。ただ、カバーと言っても、何かテーマを絞らないといけないと思ったときに、YO-KINGさんから「女性アイドルの曲はどうだ」と提案があって。自分が歌うのに、大胆なこと言うなと思いましたけど(笑)。
YO-KING(Vo,Gt):男の人の曲を歌うよりは、女の人の曲を歌ったほうが、企画として面白いかなと思って。もともと“赤い風船”はいつかやりたいなと思っていたから、だったら全部女の人に特化したほうがいいかなと。
―原曲を歌った歌手は有名な方ばかりですけど、そのなかでも比較的マニアックな曲を選んでますよね。こんなにいい曲があったんだ! という驚きがありました。
桜井:埋もれた曲というわけじゃないけど、昔の名曲を自分たちなりに愛情込めて再構築して紹介するということにものすごく意味があるんだと、作ってみて初めてわかりましたね。ポップミュージック史のなかで、DJとして、なおかつプレイヤーとして、みんなに聴いてもらうという大きな役割があるんだなと。
―そういう意味では、逆に真心ブラザーズの曲をカバーした人もこれまでたくさんいるじゃないですか。カバーされる側に立っていたときは、どう感じていたんですか?
桜井:全然うれしい。どんどんいじっちゃってくださいって。
クラムボン・ミトがアレンジを手掛け、アイドルグループ・夢みるアドレセンスが歌った、“サマー・ヌード”がモチーフの楽曲
―でも、これまで自分たちでは積極的にカバーをやろうとは考えていなかった?
桜井:実を言うと、いままでカバーアルバムに対しては、クリエイティブ度が低いイメージがあったんです。自分で曲を作ってないわけですから。でも、それは思い込みでしたね。
―1曲目の“風立ちぬ”なんて、クリエイティビティーの塊ですからね。イントロで“君は天然色”(大滝詠一のソロ曲)をオマージュして、大滝詠一作曲の2曲を合体させるという。
桜井:『A LONG VACATION』(1981年に発売され、オリコン史上初のミリオンセールスを記録した大滝詠一のアルバム)と同じ始まり方をするっていうね。
YO-KING:俺は子どもの頃からライナーノーツを読みながら音楽を聴くタイプだったから、オタク埋蔵金がたくさんあるんですよ。だから現場でいろんなアイデアが浮かんでくる。これもスタジオでセッションしていたら思いついたんですよね。今作のレコーディングにも参加してくれた伊藤大地くん(Dr)と岡部晴彦くん(Ba)とセッションしていると、そういう思いつきに応えてくれるのが素晴らしい。年上で大御所の人だったら、言えないじゃないですか(笑)。
―「やっぱりさっきのナシで」みたいなことが言いづらいですもんね(笑)。他にも面白い閃きが生まれたと感じている曲はありますか?
YO-KING:俺は“木綿のハンカチーフ”のアレンジがすごい好き。D'Angelo+フィッシュマンズみたいな感じなのかな(笑)。制作していたときは、Sade(1984年にイギリスでデビュー、アーバンなサウンドと実力派のボーカルが特徴のバンド)+The Meters(1968年デビュー、ニューオーリンズのファンクバンド)と思っていた気がする。
―10代の頃に聴いていた曲を今になって聴き返して、改めて気付いたよさもあるのでしょうか?
桜井:歌謡曲のアンチとしてロックが出てきたとするならば、歌謡曲の作家たちに対しては「小器用な人たち」という思い込みがあったんです。でもちゃんとカバーするために紐解くと、作詞家の先生も、作曲家の先生も、「俺はこれなんだ!」みたいなものを貫いてるなと感じましたね。“風の谷のナウシカ”なんて、(作曲した)細野晴臣さんもやりたい放題やっていたんだなあと(笑)。発売当時、安田成美さんは歌番組で苦労されただろうなと。
YO-KING:やっぱり1970~80年代っていうのは、ロックの影響を受けた時代だったんですよ。
まさに日本人が得意なことをした20年で、ある意味幸せな時代だったと思う。(YO-KING)
―アメリカやイギリスからポピュラー音楽としてロックが発信されたのは1960年代ですね。
YO-KING:だから1970年代以降は、歌謡曲にロックの成分が入ってくるんですよ。それが面白いと思う。ただ、どちらかと言うとロックは職業作家を潰した制度だから。THE BEATLESがTin Pan Alley(職業作家たちが集まっていたニューヨークの一角の総称)の作家たちを潰したと言われているでしょ。だから1970~80年代の欧米は、歌い手と、作詞・作曲をする人が別という制度が少なくなってくるけど、日本は加工貿易の国だから、職業作家がロックさえも飲み込んで、より名曲を作っていったんですよ。
―ロックと歌謡曲のいいとこ取りをして。
YO-KING:そうそう。まさに日本人が得意なことをした20年で、ある意味幸せな時代だったと思う。
―そう言われてみると、“ゆ・れ・て湘南”の原曲も、けっこうロックですよね。
桜井:そうなんですよ。タイトな8ビートで。
―アン・ルイスさんも、今回お二人がカバーされた“グッド・バイ・マイ・ラブ”は歌謡曲ですけど、その後ロック路線になっているし、作家の人たちがロックを取り入れようと思ったのかもしれないですね。
桜井:これには入らなかったけど、僕は早見優さんの“夏色のナンシー”という曲がすごい好きで、めちゃくちゃテクノなんですよ。アレンジャーを調べたら茂木由多加さんという人で、四人囃子(1974年にデビューしたロックバンド)にいたことがあって、10代の頃に佐久間正英さんや坂本龍一さんと一緒にやっていたような人だったんです。そうやって探していくと、当時は天才がわんさかいるんですよね。
―今回のアルバムで言えば、11曲中、松本隆さん作詞が4曲、筒美京平さん作曲が3曲もありますね。
桜井:多くはなるだろうなとは思ったけど、案の定という感じです。特に松本隆さんの歌詞は、女の子の歌だけど、ちょっと少年目線なものがあったり、歌おうとしていることが深い。10代のヒリヒリしたものをめちゃくちゃ鋭く表現していますよね。
昔の曲は、「広告」の時代だなと思った。いまは「狭告」。そんな言葉はないけど、「狭く告げる」曲なんだと思う。(YO-KING)
―いまのアイドルソングと、この時代のアイドルソングでは、どこが違うと感じていますか?
YO-KING:昔の曲は、「広告」の時代だなと思った。広告は老若男女に「広く告げる」けど、いまは「狭告」。そんな言葉はないけど、「狭く告げる」曲なんだと思う。最近はインターネットとか見ていると、「あなたへのオススメ」って出るけど、あれが狭告のいい例ですよね。AKB48はもちろん売れているけど、AKB48を聴きそうな人たちにだけ膨大な情報が行って、そうじゃない人にはあんまり情報が行かない。全国民が知る曲がほとんどないような時代でしょ。そうなると、曲の中身も当然変わってくると思う。
桜井:それが関係しているかわからないですけど、昔のアイドルの曲のほうが、歌詞が大人っぽい。恋愛の機微とかが上級者ですからね。いまのアイドルは、「夢に向かってがんばろう」的なものがあるじゃないですか。
YO-KING:終戦当時30才だった人が、1975年はまだ60才ですから。戦時中はバリバリ兵隊をやっていた人が生きていた時代でしょ。それはデカいと思うんですよね。1970~80年代はテレビ局も地上波しかなくて、歌番組の数も少ないから、みんなが同じ歌を聴いていた。だからたとえ意識していなくても、戦争に行った70~80才のおじいちゃんの耳にも入ることを前提に曲を作っていたはずだし、その国の情勢が制作物には絶対に入るから、音楽だけでは語れない部分があると思う。
―個人的には、女性の描かれ方が全然違うなと感じたんです。いまは女性の社会進出が叫ばれて、強気な女性像が描かれることも多いですけど、この時代の歌詞は女性の奥ゆかしさや侘び寂びがある。それがいまの社会で強がって戦っている女性に対してやさしく響くというか、毛布で包み込むように聴こえるなと思ったんです。
桜井:うまい! それ見出しで(笑)。
―それと、歌詞が想像力をかきたたせますよね。
桜井:いまの曲よりも、言葉の量が圧倒的に少ないからでしょうね。昔の先生たちは、行間や文字間を大事にされていたんだと思います。いまはマシンガンのようにドドドッと言葉を埋めていく歌が多いですから。とにかくジェットコースターみたいに退屈させないというか。
YO-KING:あとはミュージックビデオがない時代だから、音だけなんですよね。テレテレテッ♪(AKB48“恋するフォーチュンクッキー”のフレーズを歌い出す)って、音と一緒にあのビデオが浮かんでくるでしょ。でも、当時の曲は聴いていてビデオが浮かんだりしないから、自由な想像ができるんですよ。
基本は遊びだっていうことを忘れちゃいけないと思う。(YO-KING)
―今回、カバーアルバムを作ったことで、オリジナルを作るときにもいい影響があると思うんです。近いうちに大ヒットするような曲が生まれるんじゃないかと勝手に期待したり。
YO-KING:それね、俺も思ってるんですよ(笑)。名曲はできると思う。ヒットするかは別として。いい曲を作れば売れるわけじゃないから。それはここまでやってきて、はっきりとわかる。売れるためには、いい曲を作り続けるしかなくて、その運が来るか来ないか。
―作り続けることが最低条件?
YO-KING:そういう意味では職人だから、職人はモノを作り続けるしかないですよね。ただ、新人でもないので、もう終わりも見えてきているでしょ。このままなんとかやっていけるんじゃないかって思うと、いい曲は作りたいけど、自分が聴きたい曲、自分が好きな音にこだわりたい気持ちが強くなってくる。いい悪いじゃなくて、好き嫌いというかね。いい悪いに正解はないけど、好き嫌いははっきりわかるから、それはこれからのミュージシャンにとって大事なところだと思う。自分の好きか嫌いがわからない人には、厳しい時代になっていくんじゃないかな。
―そういうことをお二人で話されることもあるんですか?
桜井:いや、全然。二人で何か企画を立てたりしても、それを最後まで守らなければいけないとは思ってなくて、いい加減なものです(笑)。
YO-KING:まぁ、自由だよね。基本は遊びだっていうことを忘れちゃいけないと思う。
―好きでやってるわけですもんね。
YO-KING:そうそう。それがたまたま何かの巡り合わせで、世間的にも売れちゃうっていうのが、いちばん幸せなパターンだよね。いちばんキツいのは、好きでもないものを狙って作ったのに売れないこと。
―それはダメージが大きいですね(笑)。
YO-KING:それがあんまりなかったから26年目になってるんだと思う。あんまりなかったっていう表現が微妙ですけどね(笑)。さすがにゼロとは言わないよ。
―でも、作り続けないと、それにも巡り会えない。
YO-KING:そうですね。俺は極端に言っちゃえば、ずっとライブでもいいと最近は思ってるんです。音源はライブレコーディングで出して、新曲も作らない。曲が湧き出ちゃったり、オファーがあったり、必要があれば作るけど。ただ、今回の作業中もそうだったけど、やっぱり湧き出そうなムードってあるんですよ。いまならいけそうだなっていう感じが。
桜井:便秘みたいだな(笑)。
YO-KING:いまギターを持ったら、こういうAメロができそうな予感がするとか。でも、やらないんだけどね(笑)。あとは「ああいう曲を作りたい」っていう気持ちが大事。音楽はバトンタッチだから。たとえば“サマー・ヌード”だって、何かの曲の影響で作られていて、“サマー・ヌード”を聴いた人たちが、またそこから影響を受けて曲を作っていく。そういうふうにつながっていくのは素晴らしいよね。
欲望があるうちは大丈夫だと思うんだよね。(YO-KING)
―この先は、どういう曲を作りたいと思いますか? 今回のカバーは、ある意味10代の頃を振り返っているような要素があると思うんですけど、これまでの人生を振り返るような歌も聴いてみたいなと思ったんです。
YO-KING:なるほどね。でも俺は、常にちょっと先の自分を見た曲を作ってきた気がする。「ちょっとがんばれば、こういう自分になれる」というか。だから振り返る感じの曲は、職人的にはできるかもしれないけど、自分から作ることは当分ないかな。まだまだお金持ちになって、もっと自由になって、もっと遊んで暮らしたいんですよ。そのためには、「自分はこうなるべきだ」という詞になるんじゃないかな。
―“I'M SO GREAT!”(昨年リリースしたシングル)なんて、まさにそういう曲ですしね。<くだばるには早いだろ>とか<大スキでいいんだ 自分のことを>という歌詞は、今のYO-KINGさんの言葉と重なる部分があります。
YO-KING:そうそう。まだまだ貪欲だから。
―桜井さんの目標はいかがですか?
桜井:いい曲を作りたい、それくらいかなぁ。いい曲を作るということは、いい曲を作れる人にならなきゃいけないということだから。いろんなことをして遊ばないといけないと思ってますね。
―頼もしいですね。最近の若者は将来に悲観的で、欲がないと言われますけど、お二人のようにギラギラした大人になりたいです。
YO-KING:そこは俺が道を作っておくから。欲望があるうちは大丈夫だと思うんだよね。
- リリース情報
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- 真心ブラザーズ
『PACK TO THE FUTURE』(CD) -
2015年10月7日(水)発売
価格:3,000円(税込)
TKCA-742771. 風立ちぬ(松田聖子 / 1981年)
2. 風になりたい(川村ゆうこ / 1976年)
3. 横浜いれぶん(木之内みどり / 1976年)
4. メイン・テーマ(薬師丸ひろ子 / 1984年)
5. 赤い風船(浅田美代子 / 1973年)
6. 早春の港(南沙織 / 1973年)
7. 風の谷のナウシカ(安田成美 / 1984年)
8. 木綿のハンカチーフ(太田裕美 / 1975年)
9. ゆ・れ・て湘南(石川秀美 / 1982年)
10. スローモーション(中森明菜 / 1982年)
11. グッド・バイ・マイ・ラブ(アン・ルイス / 1974年)
- 真心ブラザーズ
- イベント情報
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- 真心ブラザーズ
『PACK TO THE FUTURE』 -
2015年10月9日(金)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO2015年10月18日(日)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:岡山県 IMAGE2015年10月31日(土)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:静岡県 Umber2015年11月4日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 darwin2015年11月7日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:北海道 札幌 PENNY LANE242015年11月15日(日)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:福岡県 DRUM Be-12015年11月21日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO料金:各公演 前売5,500円 当日6,000円(共にドリンク別)
- 真心ブラザーズ
- プロフィール
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- 真心ブラザーズ (まごころぶらざーず)
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1989年 大学在学中、音楽サークルに所属する先輩YO-KINGと後輩桜井秀俊で結成。バラエティ番組『パラダイスGOGO』内の「勝ち抜きフォークソング合戦」に出演、見事10週連続で勝ち抜き、同年9月に『うみ』でメジャーデビューを果たす。“どか~ん”“サマー・ヌード”“拝啓、ジョン・レノン”など数々の名曲を世に送り出す。2014年にデビュー25周年を迎え、自身のレーベルDo Thing Recordingsを設立。2015年10月7日、初のカバーアルバム『PACK TO THE FUTURE』をリリース、そのアルバムを携えての全国ツアーを開催する。
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