2014年、元・禁断の多数決の「ゆめ」、BabypinkTabletなどでの鍵盤さばきで知られる「キーコ」の二人が作ったバンドに、ぐしゃ人間のギタリストである「亀」が加入。これまでに40本あまりのライブを経験し、そのたびに異形のガールポップを提示してきたリアル3区。
ついに発表されたミニアルバム『住民税が私を殺す』には、北朝鮮拉致問題のチャールズ・ジェンキンスさんと曽我ひとみさんの再会シーンからインスパイアされたという“ジェンキンスさん”や第二次世界大戦を歌ったような“ぽんぽん”といった一風変わった反戦歌、一方でアイドルやJ-POPへの偏愛なども垣間見られ……と、穴だらけのオブラートに包まれた熱量が投下されている。発展途上につき、取り付く島なし。飄々の間合いにて、正体不明。そんな三人の現在に迫った。
北朝鮮のことをマジメに話していたら、他の友達からは「重いなー」みたいな顔をされて。でもゆめだけはずっと爆笑しながら食いついてきてくれたんです。(キーコ)
―リアル3区といえばお酒好きのイメージなのですが、そもそもの出会いもお酒がきっかけなんですよね?
ゆめ:はい、お酒がなかったらこのバンドはなかったですね。ライブハウスに飲みに行ったらたまたまキーコがいて、そのまま飲み友達になった。私は当時全然友達がいなかったんだけど、キーコはすごくアクティブだから、その繋がりを私もシェアさせてもらうようになったんです。お互い家も近かったから、遊びに行くとそのまま丸2日ぐらい飲んじゃったり。
キーコ:当時の部屋は「地獄シェアハウス」って呼ばれるぐらいカオスで、友達が勝手に人を呼びまくって、気づいたら知らない人が酔い潰れてたりするようなところで(笑)。ゆめが音楽やってることを知ったのもずいぶん後のことだもんね。飲みながら「普段なにやってるの?」と聞いても、「チャラチャラしてるー」とか適当なことしか返ってこなかったし。亀ちゃんとの出会いもライブハウスだったよね。私は「ギターを持った可愛い子がいるなー」と狙っていたんですけど、それから何年か経った去年、亀ちゃんのやってる「ぐしゃ人間」とリアル3区が対バンすることになって、再会したんですよ。で、バンドに誘ったら「やりたい!」と即答してくれて。
ゆめ:そこからスタジオじゃなく居酒屋へ(笑)。でも、飲んでいて「いい奴だな」と思えることが重要なんですよ。リアル3区は2014年の1月に結成したんですけど、そのときもキーコの家で友達と飲んでいて、ベロベロになりながら私はギターを弾いていて、キーコは北朝鮮の話に夢中だったんです。その北朝鮮の話題に私が適当なメロディーをつけて歌うようになって、そこにキーコがフリースタイルでラップを入れてきて、それでできたのが“ジェンキンスさん”。
―おお。アルバムの1曲目ですね。
キーコ:あの夜の北朝鮮話は結構マジメに「みんな聞いてよ!」みたいな感じで話していたんですけど、軽めの話題でも、他の友達は「重いなー」みたいな顔をしていて。でもゆめだけはずっと爆笑しながら食いついてきてくれて、「もっとネタないの?」って。
ゆめ:「蓮池(透)さんは背が高くてすごく目立つから、向こうでもモテたみたいだよ」って言ってたよね。
―そもそもどうして北朝鮮に興味を持ったんですか?
キーコ:世界の構造が知りたいという欲求があるんですよね。うちは家がすごく厳しくて、テレビのチャンネルも制限されちゃっていたので、ニュースばかりを見ていたんですけど、ある日突然「拉致」という言葉が飛び込んできて、なにこれ? って。お母さんとお父さんはあまり教えてくれなかったから、だったら自分で勉強しようと。それが小、中学生の頃で、高校からはさらに知りたい欲が膨らんでいって。
―“ぽんぽん”や“カミカゼアタック”のセルフライナーノーツにも書いてありましたが、ゆめちゃんは第二次世界大戦を深堀りしているんですよね?
ゆめ:大学のときにそういう授業ばかりとっていました。私はガンダムが好きなんですけど、その根底には「子どもが戦争に駆り出されることへの憤慨」があるんです。エヴァンゲリオンなんかもそうですね。
亀:実は私も、世界大戦中の国内の情勢や文化について専攻していましたね。
恋愛の歌が一切ない。私は二人のそういうところに惚れたんです。ギャルバンっていうと、みんな当たり障りのないラブソングを歌っているじゃないですか?(亀)
―メンバー構成こそギャルバンですけど、このアルバムからは性の匂いがまったくしないですよね。
亀:恋愛の歌は一切ないですよね。最初の対バンで二人の曲を聴いたとき、まずは歌詞に衝撃を受けました。でも、私は二人のそういうところに惚れたんです。ギャルバンっていうと、みんな当たり障りのないラブソングを歌っているじゃないですか? とにかく二人はロックな人たちで、活動が始まってからもその印象は変わらないですね。一時期私は8つぐらいのバンドをかけもちしていたこともあるんですけど、みんなもっと遊びっぽいというか、その場が楽しければいいという感じだった。でも二人は音楽に対してすごく真剣だし、バンドを良くするためだったら、喜んで喧嘩しますよっていう。
キーコ:喧嘩の買い値が安いだけな気もするけど(笑)。
亀:(無視して)きちんと上昇志向があって、真剣に音楽をやれる。これがリアル3区のいいところだと思うし……。
キーコ:え? え!? 亀ちゃん泣いてるの!? ちょっと待って!(爆笑)
亀:や、なんかいろいろ思い出しちゃって。やっぱりスポーツ感覚じゃいい音楽はできないと思うんですよ。いわゆる「ロックな生活」のイメージを体現したような、普段から音楽とお酒が生活の中心にある女子にリアル3区で初めて出会えた気がするんです……。
―熱い涙が溢れていますね……。
ゆめ:前に亀ちゃんがうちらのことを「二人とも男性の意見にまったく左右されないのがいい。だいたいの女の子って、彼氏がどうこうとか言って、すぐバンド辞めちゃったりさぁ……」なんて言うから、聞き流していたんですけど、最終的に「二人にはまったくそういう心配がない! だからメンバーになったの!」と断言されたんですよね。それは心外でしたよ(笑)。
キーコ:「いやいやいや! うちらめっちゃ男に振り回されるよ?」って(笑)。
ゆめ:ラブソングは本当は書きたいんだけど、そこまで幸せじゃないから書けないってだけなので。もし彼氏ができたら速攻バンド辞めますよ!(笑)
キーコ:彼氏ができたら、リハ中もずっとLINEするよね……。
亀:私は自分が音楽を一番優先してるってことを理解してくれる人じゃないとダメだな……。っていうか、なんでリハ中にLINEする必要があるの!?
キーコ:ゆめと私の元旦の挨拶が、毎年「今年こそはモテようね」だからな……。ということで、性の匂いがしない理由はそこです。
―つまり、二人は<住民税が私を殺す>と歌いながらも、「結婚」という逆転劇に期待しているわけですね(笑)。結婚したら「養育費が私を癒す」という曲も作れそうですね。離婚前提で申し訳ないけど。でもさっき「彼氏ができたらバンドを辞める」って冗談半分で言っていたけど、そのシステムってアイドルと同じですよね。
キーコ:私は昔からアイドルになりたくて、小学生の頃、あだなが「ぶりっこ」だったんですよ。トイレに行くだけで「お前ぶりっこのくせにトイレ行くんじゃねーよ!」って男子にいじられていました。でも一方で教壇の前で変なモノマネをずーっとやっているタイプでもあって、音楽を始めてからも「キーコさ、笑いを取るためには命かけるのになんで音楽をマジメにやんないの?」って怒られたりして。ぶりっこかつ目立ちたがりなんですよ。
―今はアイドルも自己申告制に変わってきているところがあるから、そこは自分から言っていけばいいんじゃないですか?
キーコ:でも、リアル3区という単位としてはアイドルユニットになりたいわけではないので、そこはノーなんですよね。もちろんアイドルのイベントにも喜んで出ますけど。
亀:私たちは自発的に集って自発的な音楽をやっているので、人に与えられたものを表現していくという意味では、アイドルとは違いますね。もちろん音楽的なジャンルにしても、全然違うと思うし。
私は国会前のデモに参加するというよりは、たとえ人に笑われたとしても、今の自分の状況をそのままに報告するほうが向いているんだと思います。(キーコ)
―リアル3区は自分たちをどんなジャンルの音楽にカテゴライズしてるんですか?
キーコ:「ハードコアガールポップバンド」です。
―“大家さん”はキーコちゃんの飼い猫がいなくなったときの歌なんですよね?
キーコ:猫が脱走したときに、「私が(ペット飼育の上乗せ分の)敷金を払わなかったから大家さんがわざと隠したのかな?」って考えに取り憑かれて、そのときの気持ちをラップしています。
ゆめ:あの猫探しは本当に大変だった。結局は屋上の物置きにいたんですけど、二人して5時間ぐらい近所を探して。キーコは草むらを探していたんですけど、私はもう道路で雑巾になっているだろうと思ったので、環七沿いを中心に。
―(笑)。でも“大家さん”にしても“住民税が私を殺す”にしても、悪いのはきちんとしない自分ですよね。
キーコ:このテーブルに一人、大人がいる……!
―ただ、その是非に及ばずそのまま歌ってしまう姿勢というのが、この音楽のハードコア的な要素になっている気はしていて。たとえばタイトル曲の“住民税が私を殺す”の場合だけど、今はこういう時代だし、すぐ周りに本当に税金を払うのが苦しい若い子たちがいるわけですよね。そういう意味では「聴いてくれる人の顔が見えている音楽」だとも言えるわけで、あの曲がそういう子たちに刺さってくれることを想像したりもしますか?
ゆめ:どうだろう……。「共感してもらいたい」ぐらいの気持ちですかね。
―誰かに対して何かを伝えたり訴えたりするというよりは、もっと日記的な歌だということ?
亀:だから響くんですよ。私は小綺麗にまとまったお利口ソングみたいなものが本当に嫌いで。完璧な人生を送る完璧な人間が書いた歌詞が、誰に響くのかって話なんですよ! 人間には欠陥とか悪いところが必ずあると思うんですけど、そこをちゃんと表現できているのがいいなと思って。
―でも、音楽的な「ハードコア」ではまったくないですよね。
ゆめ:音楽性としてはポップスなんだけど、人間性がハードコアだからそう言われるように(笑)。
亀:こんな人間性のアイドルなんていませんよ(笑)。歌詞だってまったく嘘がない。実話ばかりです。
キーコ:たぶん自分が訴えたいことって、「今この地点にいます」みたいなことであって、「この状況をどうにかしろよこの野郎!」ではないんです。“住民税が私を殺す”にしても、友達に「お前、住民税払わないのがロックだと思ってんの?」とディスられたこともあるんですけど、歌詞に「払わない」なんて言葉は1度も出てこないですよ。
ゆめ:みんな払ってますよ。黄色い督促状も、もっとヤバい緑のも見たことあるけど。
キーコ:ライブでもめっちゃ怖い顔で「住民税は必ず期限内に支払いましょう!」ってMCしてるんですよ。たぶん私は国会前のデモに参加するというよりは、たとえ人に笑われたとしても、今の自分の状況をそのままに報告するほうが向いているんだと思います。そういえば、今回のミニアルバムがカタチになったことで、1つ自分の中で整理できたことがあるんです。たとえばゆめはすごく戦争の歌を書きたがるんですけど、はじめは「戦争ナメてんのか? 人の命をなんだと思ってんだ?」みたいに周りから思われたらどうしよう、と思っていた時期があったんですね。だけど、そういう自分も北朝鮮のことを歌にしているし、なぜ自分はジェンキンスさんの歌を「楽しいじゃん、やろうよ!」と思えたのかという疑問に向き合ったときに、それは確固たる勉強量と本気度があるからだと気づけたんです。
亀:闇雲に「戦争反対~」みたいなことを歌うよりも、ちゃんと調べたうえで「ニイタカヤマノボレ、トラトラトラ」と歌ったほうが圧倒的に強いですよね。
キーコ:うん、ゆめは戦争のことが大嫌いで勉強していて、嫌いだからこそ表現できる。反対だからこそ歌える。そんな気持ちが固まった瞬間から、私、めっちゃ強くなれた気がするんですよ。
ゆめ:ふっきれたキーコは本当に最強だから。私はそれをずっと見ていたい(笑)。
リアル3区は特攻隊長を二人抱えてるんです(笑)。私はチェス盤でいえば最後尾。(ゆめ)
―ゆめちゃんはバンド全体を見渡せているというか、意外とプロデューサー気質ですよね。
ゆめ:そうですね。私はいざバンドとなると、自分自身のことすら客観的にしか見えなくて、一人称が「ゆめちゃん」になったりするんですよ。どこか他人事みたいな感じで。
―そんな鬼教官に対して、二人はどういう役割なんですか?
亀:コマ!
キーコ:鉄砲玉!
ゆめ:リアル3区は特攻隊長を二人抱えてるんです(笑)。私はチェス盤でいえば最後尾。そこから「いけいけ! いけるいける!」って(笑)。私は二人を使ってJ-POPをやりたいんですよ。
キーコ:ゆめの「いけるいける」は信用しないようにしてるんですけど、3回ぐらい言われ続けると、「もしかして本当にいけるのかな?」って思えてくるんですよ(笑)。
―それはライブだけじゃなく、音楽的な面でも?
ゆめ:わりとそうですね。最近だと、私が詞メロまでつくったデモを二人に渡して、ラップやギターを入れてもらうことが多いです。デモに「ここでキーコ、ラップ!」という声も入っています(笑)。
キーコ:最近はその声だけで自分がなにを求められているのかだんだんわかるようになってきて。曲を盛り上げるためのラップなのか、曲をぶち壊すためのラップなのか。
ゆめ:逆にキーコに私たちが振り回されることもあるけどね。たとえばキーコがiPhoneのボイスメモで録った“住民税が私を殺す”のデモがすごくて、一人で全パートやっていたんですよ。
キーコ:「♪セイッ! 住民税が私を殺す! ダーラーダララダーラーラッダララダーッ! おいっ! おいっ!」って(笑)。もう浮かんじゃって浮かんじゃって。
亀:あれはすごかったですね。それにつられて、結局私のギターも全部アドリブになりました。
―初めての作品が世に出たことで変わったことや、この三人が集まれたことで、見つかったことってありますか?
キーコ:不特定多数の人にやっと届けられたことが嬉しいですね。Twitterでエゴサーチしていると、これまでは届ける方法がなかった高校生の人たちが反応してくれていることがわかったり、そういう知らない人が手に取ってくれることで、曲が一人歩きし始めてくれた感覚というのがあります。今はその感覚を噛み締めながら毎日生きています。
ゆめ:私は“ジェンキンスさん”と“カミカゼアタック”があのタイトルのままリリースできたことが嬉しい。どちらも悲劇的な事件をモチーフにしているんだけど、そのことをまったく知らない世代もいるから、「風化防止系ユニット」の私たちとしては(笑)、曲のフレーズやタイトルだけでも広まって覚えてもらえたらいいなって。歴史を変えることはできないけれど、忘れないことはできると思うんで。
亀:……二人のこと、すごく尊敬してる。
キーコ:出たよ。今日もまたでっかい太鼓持っちゃって(笑)。
亀:ドーン!(太鼓を鳴らすフリ)
―三人はホントいいバランスですね……。
キーコ:最近はこの三人でしかできないこともようやく見えてきたんです。三人ともこれまでやってきたことがバラバラだし、好きなものも違うから、そこで摩擦が生まれることもあるんだけど、それを強引に作品に転化するときのパワーというのが、うちらの売りなのかなって。これまでいろんなバンドをやってきて、ようやく大好きな友達でもあり、本気の喧嘩もできるメンバーに出会えた気がします。二人とも、私が感情的になってもきちんと話を聞いてくれるし、そこで逆に「頑張ってやってこうよ」と結束できる。これまでのバンドも大好きな人たちばかりだったけど、そんな人たちと出会えたのは初めてかもしれない。
亀:この話はまずい……。
ゆめ:わー! 亀ちゃんまた泣いてる!
―今日はありがとうございました。おもしろかったです。
ゆめ:じゃあ、次はどこ飲みにいきましょうか?(笑)
- リリース情報
-
- リアル3区
『住民税が私を殺す』(CD) -
2015年11月4日(水)発売
価格:1,620円(税込)
HFCD-0211. ジェンキンスさん
2. ぽんぽん
3. 大家さん
4. GIVE ME CHOCOLATE
5. カミカゼアタック
6. 住民税が私を殺す
- リアル3区
- プロフィール
-
- リアル3区 (りあるさんく)
-
ゆめ(Vo, Sampler)、キーコ(Rap, Key)、亀(G, Vo)による3人組ハードコアガールポップバンド。ゆめとキーコを中心に2014年1月に結成し、3月に渋谷CLUB QUATTROにて初ライブを実施。同年12月に亀(ぐしゃ人間 / 猛毒)が加入し現在の編成となる。2015年11月4日に1stミニアルバム「住民税が私を殺す」をリリース。都内ライブハウスを中心に活動しており、対バンはアイドルからパンクバンドまで幅広い。
- フィードバック 1
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-