80KIDZ×KenKen対談 シーンに蔓延する平易なリズムに物申す

気鋭の若手バンドHAPPYとの共作曲を収録した『Baby EP』に続く、80KIDZの新作『Gone EP』には、ベーシストKenKenが参加。RIZEやDragon Ashでの活動はもちろん、今年はファンクバンドLIFE IS GROOVE(ムッシュかまやつ、山岸竜之介との3人組)でもアルバムを発表しツアーを行うなど、コラボレーションのなんたるかを知り尽くしたKenKenとの共作は、80KIDZにとって大きな刺激となったことは言うまでもない。

中でも、この二組の共通点と言えば、やはり「グルーヴ」であり、近年ロックバンドの4つ打ちやEDMの平易なリズムに対する賛否が渦巻く中、両者が何を提示するのかは非常に興味深い。また、「ストリート感」というのも共通点で、周りに迎合することなく、自らの道を歩み続けてきたその姿勢も、全体主義的なムードがちらつく今のシーンに対し、重要なことを訴えているように思う。今後の展開も期待させる充実のコラボレーションについて、80KIDZとKenKenに語り合ってもらった。

4つ打ちでちゃんとグルーヴを出すのって実はすごく難しくて、平坦なリズムになってしまうものが多いんだけど、80KIDZの曲は出てる空気からして日本人離れしてる印象で。(KenKen)

―両者の交流はいつ頃からあったのでしょうか?

ALI&:実は今回の企画がほぼ初めましてなんですけど、一緒に写真を撮ったことならあります(笑)。去年六本木ヒルズのイベントでKenKenさんと一緒になって、FPMの田中(知之)さんも含めた三人で一緒に写真を撮って。そのときに撮ってくれたのが『WARP』の編集者で、雑誌が出る前に画像をもらってInstagramにあげたら、過去最高にイイネが付きました(笑)。

JUN:それよりも前に、僕らとDragon Ashさんとストレイテナーさんの3マンイベントもあったよね。そのときは直接的な絡みがなかったんですけど、今年のアタマにKenKenさんがTwitterで「ひさびさに80KIDZ聴いたらヤバい」って、僕らの“Spoiled Boy”を紹介してくれてたんです。そういうこともあって、KenKenさんの名前が挙がりました。

―じゃあ、KenKenさんも以前から80KIDZの音楽は聴かれてたわけですね。

KenKen:ずっとファンで聴いてましたし、“Spoiled Boy”は特に好きです。80KIDZの音楽にはちゃんとグルーヴがある。4つ打ちでちゃんとグルーヴを出すのって実はすごく難しくて、平坦なリズムになってしまうものが多いんだけど、80KIDZの曲は出てる空気からして日本人離れしてる印象で。

―80KIDZのお二人からすると、KenKenさんとコラボすることの音楽的な狙いはどこにあったのでしょう?

ALI&:ダンスミュージックに限らず、インストゥルメンタルにおいてベースってすごく重要じゃないですか? 僕らもベースで引っ張る曲はすごく多いので、KenKenさんと一緒にやらせてもらえたら勉強になりそうだなって。実際、「ここのベースは裏方でいい」っていう部分とか、やっぱりめちゃめちゃわかってるなと思いました。

KenKen:今回みたいなフィーチャリングの場合、ベースにとって一番大事なのは「弾かないこと」だったりするんですよ。だから、もっと手数を増やすこともできたんだけど、あえてシンプル目にループっぽく演奏したりして、ちゃんとトラックとして使えるようなものになったらいいなって。

今の子は「踊りやすい」って概念だけで4つ打ちをやるわけ。それだとのれる要素が一つしかなくて、逆に一つののり方を押し付けてしまってる。(KenKen)

―途中でKenKenさんから「4つ打ちでちゃんとグルーヴを出すのは難しい」という話がありました。ここ数年はロックバンドのやる4つ打ちが増えて、一方でクラブミュージックのシーンを見ても、EDMはリズムがシンプルなものも多いですよね。それぞれ今のシーンをどんな風に見ていらっしゃいますか?

KenKen:俺は今の子たちがやってる4つ打ちってあんまりドキドキしなくて、要は「踊りやすい」「のりやすい」という概念だけで4つ打ちをやるわけ。でも、それだとのれる要素が一つしかなくて、逆に一つののり方を押し付けてるということだと思うのね。そこには自由なんてなくて、だから気持ち悪いんだと思う。かっこいい4つ打ちは、どこでものれるんです。4じゃなくて、16でものれるし、グルーヴさえしてれば、4つ打ちだけでずっと聴いていられる。でも実際そういう4つ打ちはなかなかなくて。10年前くらいにクラブがどんどん4つ打ちのつまんない方向に行ったのと同じようなことが、今、バンド界でも起きてる感じがするから、それを何とかして阻止せねばと思ってるんだけど。

KenKen
KenKen

ALI&:盆踊りとかもそうですけど、もともと日本人っていろんな踊り方とかのり方ができると思うんですよ。それなのに、ファッションとかフェス的な要素でみんなが4つ打ちをやり、それが普通になって、「こうやってのるもの」ってなっちゃってる気がする。

JUN:たしかに、日本のバンドがやってる4つ打ちって、ノリがストレートな感じっていうか、ストレートでタイトな頭ノリと、裏のハットだけみたいな感じかも。

KenKen:それだとやっぱり一つのノリしかないんだよね。本当はみんながいろんなところでのるから、それがうねりになって、波になって、グルーヴになって行くんだけどね。

ALI&:あと思うのが、うわもののシンセの音色がダサい。「何でそれ使うの? そこまでやってるなら、もうちょっと凝ろうよ」ってよく思う。

ALI&
ALI&

KenKen:“Gone”のサビのシンセは、「やっぱり80KIDZはかっこいい音作るな」って思った。

ALI&:まあ、みんなが使う音でよかれの場合もあるんですけど……。

KenKen:でも、「これやっときゃ大丈夫」みたいな感じは危ないというか、そろそろ罰当たるよね。簡単に音楽を作れるようになってきたからこそ、みんなすごく似てきちゃって、個性がなくなってる。その中で80KIDZは、ちゃんと「80KIDZらしさ」がある。これからの音楽には「味」というか、「節」が大事で、「音を聴くだけでそれが誰だかわかる」ということが一番大事かなって。

ALI&:プリセットを使うにしても、わざとフィルターをかけておくとか、ちょっとカットオフいじったり、それぐらいで全然いいんですよ。それなのに、ずっと同じ音色で弾いちゃうんですよね。

KenKen:ひと手間かけないと、ホントにドキドキするものは作れない。

DJって元ベーシストがすごく多いんです。FPMの田中さんも、大沢伸一さんもそう。それはやっぱりグルーヴをよくわかってるってことだと思うんですよ。(JUN)

―EDMを中心とした今のクラブミュージックのリズムについてはどう見ていますか?

ALI&:リズムはベーって貼って終わりですよ(笑)。

JUN:フォーマットの音楽になりつつあるから、ビートも画一化してきてますよね。でも、その中でSkrillexとDiplo(どちらも2010年代ダンスシーンの重要人物)が一緒にやった“Jack Ü”とかは新しいノリを作ったりしてて、BPMにも縛られてないなって。

ALI&:SkrillexとかDiploが上手いなって思うのは、昔のサンプラー的なエディットの仕方を曲の中に入れてることで。もうちょっと上の世代はそれが定番だったと思うんですけど、それを彼らみたいな若い世代がやって説得力を出せるというのはセンスだし、かっこいいなって思いますね。

JUN:DJって元ベーシストがすごく多いんです。FPMの田中さんも、大沢伸一さんもそう。それはやっぱりグルーヴをよくわかってるってことだと思うんですよ。スウィングしたり、裏のハットはあっても、基本キックはカッチリした4つ打ちだったりするから、その中でグルーヴを作るのはやっぱりベースで、そこが一番重要なんですよね。

(“Gone”は)「今までの80KIDZのアルバムで1曲こういう曲が必ず入ってる」っていうのをやっぱり作りたくなったんですよね。(ALI&)

―では、『Gone EP』について訊かせてください。実際の制作はどういう流れで進んだのでしょうか?

ALI&:僕らとしては珍しく、ほぼゼロに近い状態からのスタートでした。

JUN:最初に打ち合わせがてらリハスタに入って、4つ打ちのトラックをかけながらフリースタイルでベースを弾いてもらい、そのフレーズから曲のイメージを膨らませていきました。その後何回かやり取りをして、最後はまた僕のスタジオで一緒に作業をして詰めていった感じですね。

―最初に作ったのが表題曲の“Gone”ですか?

ALI&:いや、実はこれが最後にできた曲で、それまでいわゆる80KIDZっぽい曲がなかったんです。それでやっぱり、「今までの80KIDZのアルバムで1曲こういう曲が必ず入ってる」っていうのを作りたくなったんですよね。キャッチーでわかりやすいインストと、KenKenさんのベースを混ぜたいなって。とはいえ、置きに行ったわけじゃないですよ(笑)。

―あくまで、最後に作った曲だと(笑)。

JUN:結局表題曲になったけどね(笑)。

―まさにこの曲が「80KIDZとKenKenがコラボする」って聞いたときに多くの人が連想するタイプの曲だと思うので、逆に言えば、そりゃあかっこいいものになるよなっていう。

ALI&:うん、この曲が一番時間かけてない気がする。

JUN:一番得意なやつだからね。でも、すごくいい泣きのベースが出てきて、後半盛り上がったりするのは、KenKenさんのおかげですね。

KenKen:やっぱり「出すぎないように」というのはすごく考えて、「これ以上やったらベースの人のアルバムっぽくなっちゃうな」とか思いながら、「あえてサビはルートにしよう」とか、それでちょうどいいバランスになったかなって。今回は初めてのコラボレーションだし、これからもっといろいろやりたいことも出てきたけど、最初にらしい曲があるっていうのは、名刺代わりとしてすごくいいと思う。

―2曲目の“STRG”はJUNさんメインの曲だそうですね。

JUN:前作の『Baby EP』に入ってた“Vias”みたいな感じというか、個人的にはエレクトロの4つ打ちを意識して作りたい時期だったりして、DAFT PUNKのサードアルバム(2005年発表の『Human After All』)くらいのイメージかな。クラブでも使えるし、ライブでやってもいいものを作りたいと思って。80KIDZはライブの中盤に4つ打ちコーナーがあるんですけど、そこに入れられるような、ライブ感があって盛り上がるイメージです。

JUN
JUN

ALI&:もうすでに2~3回クラブでかけてますけど、他のクラブミュージックと混ぜても何の違和感もないですね。

KenKen:それが一番やりたいことだったから、よかった。俺はこっちの曲の方がもともとイメージしてた曲調に近いかもしれない。リフっぽい感じで、パーカッションに近い、16の気持ちいい感じ。

―そして、“Raw”はALI&さん主導だと。

ALI&:めっちゃオシャレでかっこよくて新しい感じにしたいと思って、上手く行ったらPitchfork(世界的に有名な音楽情報サイト)に載るんじゃないかというようなイメージ(笑)。向こうのクラブミュージックのメインフロアではないものを作りたいと思って、派手にはなりすぎず……最終的には結構派手になったんですけど、それこそ、これはかなりベースに助けてもらった曲です。

KenKen:一番いろいろできる曲だったから、どの方向にフォーカスを絞るかで悩んだかな。ベースラインでジャンルが決まるというか、サンバっぽくもなるし、ヒップホップっぽくもなる。なので、やれることは全部やって、あとはALI&くんたちに判断してもらいました。

KenKen

JUN:そこで出てきたフレーズがすごくよかったし、あとビンテージの古いベースを使ってくれて、それが変に倍音の出ない、芯が太い感じの音ですごいよくて。

ALI&:だからビートとベースだけでいいくらいだったよね。余計なものはいらないなって。僕の今の個人的なモードはこういう感じで、クラブミュージックマターのループも取り入れつつ、単純な4つ打ちじゃないものにトライしたくて。

―“Raw”のような新鮮な曲ができたからこそ、ある種王道の“Gone”みたいな曲もできたし、ここからさらにコラボレーションを展開させることもできそうですよね。

KenKen:うん、今回はやり方自体手探りな中で始めたから、次はもっとスピーディーにできると思うし、ぜひまたやりたい。

JUN:最後の方で「歌入れたい」って言ってたもんね(笑)。

ALI&:今回ちょっとシリアスなんで、もうちょっとアホなクラブミュージックもやってみたいですね(笑)。

DJの人は1を100にするのは上手くても、ゼロから1を作るのは無理な人もいるじゃないですか? その点80KIDZはゼロから1を生みだしてるわけで、やっぱり音楽家だなって。(KenKen)

―一番最初に『WARP』の話が出ましたけど、80KIDZとKenKenさんの共通点って、「グルーヴ」とあともう一つは「ストリート感」だと思うんですよね。

KenKen:俺はよく渋谷でライブをしてたから、火事になる前のclubasia(2005年末に火事で全焼し、翌年リニューアルオープンした)の、ストリート感ある空気を知ってる仲間みたいな感覚はあるかも。最初に80KIDZの名前をよく見るようになったのも渋谷だったし、10年とか15年前くらいの宇田川町、clubasia周りはすごく面白かった。

ALI&:俺、19歳のときにあの辺でカツアゲされそうになりました(笑)。

KenKen:ガラ悪かったよね。でも、キャラの立った人たちが多くて楽しかった。

ALI&:まあ、僕らもストリート感以外出せないですからね。性格的にも、セレブ感なんて出せないし、お風呂に薔薇を入れるタイプでもない、バブでいいしっていう(笑)。

JUN:結局やんちゃな感じが好きなんじゃない?

ALI&:うん、そういう人と一緒にやることが多い。

KenKen:やんちゃっていうか、気合入ってる人が集まって来てたしね。今は文化祭の延長みたいな空気っていうか、それはそれでいいし、別に荒れろとは言わないけど、文化としてはきれいごとだけだと回っていかないと思うし、振り切った方が進化していくと思う。最近ロックンローラーみたいな人いないから、俺すごい浮いちゃう(笑)。

KenKen

―80KIDZも当時、海外からエレクトロが入ってくる中、いち早くその延長線上のオリジナルを作り始めることで、シーンを推し進めたわけですもんね。

KenKen:その姿勢は素晴らしいよね。よくバンドの人もDJやってたりするけど、人の曲かけて「やってやった」みたいな人がすごく苦手で。自分がDJで呼ばれたときは、DJしながらベース弾くんだけど、やっぱりひと手間かけないと、お金をもらってるのに申し訳ないと思う。あとは、やっぱりゼロから1を生める人って大事で、DJの人は1を100にするのは上手くても、ゼロから1を作るのは無理な人もいるじゃないですか? その点80KIDZはゼロから1を生み出してるわけで、やっぱり音楽家だなって。

ALI&:最初はDJだったんですけどね……音楽家にさせられちゃいました(笑)。まあ、似たようなことをしてる人が他にあんまりいないんで、そういうことをこれからもやり続けたいと思うんですけど、もう30半ばなんで、そんな前のめりじゃないですよ。

JUN

JUN:前の方が「やったるで」的な感じではあったよね(笑)。でもやっぱり、まったく同じようなことをやってる人が他にいないから、僕らがやってることは間違ってないと思う。そこには自信を持ってやってます。

KenKen:前のめりにやらなくても、ちゃんと前のめり感が出せるっていうか、そこにはこれまで積み重ねてきた時間とかバックグラウンドがあって、それによって自信や場数感が出てるんだと思う。それってすごくいいなって。

ALI&:あとは飽きっぽいっていうのもありますね。ホント、すぐ飽きちゃうんで(笑)。

―だからこそ、今はコラボレーションによって新しいことをやっていると。

ALI&:楽しい! 前作を一緒に作ったHAPPYと一緒にライブもやったんですけど、人とやるのはホントに楽しいですね。

KenKen:自分が持ってない、他の人の発想って素晴らしい。だから、俺もいろんなバンドでやるのが好きなんだと思う。

ALI&:自分一人だと、それこそ置きに行ったとしても、ある程度平均点は取れちゃう。でも、コラボやフィーチャリングだと平均点じゃダメだって思うから、こっちもその分頑張るし、そういう意味でもコラボレーションはすごくいいなって思います。

リリース情報
80KIDZ
『Gone EP』(CD)

2015年12月16日(水)発売
価格:1,620円(税込)
DDCB-12081

1. Gone feat. KenKen
2. STRG feat. KenKen
3. Raw feat. KenKen
4. Baby feat. HAPPY (80KIDZ Remodel)
5. Baby feat. HAPPY (Bazz Remix)

LIFE IS GROOVE
『Generations』(CD)

2015年11月11日(水)発売
価格:3,024円(税込)
LIGCD-001

1. PARTY ON
2. Generations
3. Brain Food Mama
4. 心の闇を照らせ
5. Glad to meet you -feat. 韻シスト-
6. Today's Song
7. ゴロワーズを吸ったことがあるかい
8. 宴の唄
9. つぼみ

プロフィール
80KIDZ
80KIDZ (えいてぃーきっず)

ALI&とJUNによるユニット。2007年1月結成。オリジナル楽曲やリミックスがSNSを通じて瞬く間に世界中で話題となり、初のオリジナルCD作品『Life Begins at Eighty』(2008/08)はEPとしては異例のビッグ・セールスを記録。1stアルバム『This Is My Shit』(2009/04)、2ndアルバム『WEEKEND WARRIOR』(2010/10)、3rdアルバム『TURBO TOWN』(2012/04)を発表。2013年にはダンストラックEPシリーズ『80(ハチ・マル)シリーズ』が始動。2014年9月24日に現在の最新作である4thアルバム『FACE』をリリースした。これまでにFUJI ROCK FESTIVAL、ROCK IN JAPAN、COUNTDOWN JAPAN、SUMMER SONIC、ULTRA KOREAをはじめとするビッグ・フェスへの出演など、近年はライブアクトとしての大きな注目を集めている。

KenKen (けんけん)

ロックバンド・RIZE、Dragon Ash、the day等のベーシストとして活躍。様々な活動でスターリンからアイドルまで網羅し、そのカリスマ的な存在感と抜群のベースプレイは、音楽シーンの中で一目置かれている。CM音楽としては、NTT docomo、AQUARIUS、資生堂uno、日清ココナッツサブレなどを手がける。アニメ・スペースダンディでは独創的な音楽を展開、昨年末には報道番組NEWS ZERO内にて異例の長尺で取り上げられるなど、バンド以外での音楽活動も多岐にわたる。2013年にはKenKen、ムッシュかまやつ、山岸竜之介によるスーパーファンクバンド・LIFE IS GROOVEを結成。



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