未体験だともったいない。DE DE MOUSEが発見したハイレゾの魅力

この2、3年、ミュージシャンの間でもリスナーの間でも、「ハイレゾ熱」がますます高まりを見せている。昨年末、約3年ぶりのフルアルバム『farewell holiday!』で新機軸を打ち出し、リスナーはもちろん、クラムボンのミトやU-zhaanら、音にこだわるミュージシャンにも、そのハイクオリティーな内容とサウンドが絶賛されているDE DE MOUSEも、そんなハイレゾ熱を加速させているアーティストの一人だ。ハイレゾで音源をリリースすることは、彼の音楽と楽曲制作にどんな影響を与えているのか。そしてリスナーとして、ハイクオリティーな音になにを感じているのか。

まもなくソニーから発売となる、ハイレゾ対応のワイヤレスヘッドホン&イヤホンの最新機種『h.ear on Wireless NC』と『h.ear in Wireless』を試聴してもらいながら、「高音質で音楽を聴くこと、作ること」について話してもらった。ソニーのサイト「The Headphones Park」にて公開中のDE DE MOUSEと開発者たちによる対談記事と合わせて読んでもらうと、より知識が深まるのではないかと思う。

ここ数年来の音楽のトレンドとして、音圧を上げるということがずっと続いていました。そうなると、あまり繊細な音が作れなくなる。

―今日はDE DE MOUSEさんにいい音の楽しみ方について伺っていきたいのですが、ここ数年わりと積極的にハイレゾ音源の配信に取り組まれていますよね。

DE DE MOUSE:そうですね。昨年末にリリースした『farewell holiday!』がアルバムとしては5枚目なのですが、2012年の秋にリリースした4枚目『sky was dark』が、最初のハイレゾ配信でした。

―きっかけはなんだったんですか?

DE DE:よくお世話になっているハイレゾ配信サイト「OTOTOY」からの提案です。ここ数年来の音楽のトレンドとして、音圧を上げるということがずっと続いていたんですね。でも、音圧を上げるということは、「音が潰れる=音が割れる」なんですよ。その音割れを、いかにいろんな音を入れてごまかしていくかが、主流になっていました。そうなると、あまり繊細な音が作れなくなる。でもトレンドを無視すると聴いてもらえなくなるし、「音圧の低い音=音が小さい=しょぼい」と、ほとんどの人が感じてしまう。僕も、20歳くらいの頃はそう感じていて、どれだけ音を突っ込めるかで勝負する時期が続いていました。でも、ちょうど『sky was dark』を作っていた頃が、僕自身、そういうことから解放されたいなと思っていた時期だったんです。

―たしかに。J-POPが隆盛を極めていった1990年代以降は、音が大きくて音数も詰まっている派手な音楽のほうが、ラジオや有線放送などではリスナー受けがいいので、どんどん音圧を上げる方向に進んでいったと聞きます。そんな音圧戦争の呪縛から、開放されたいと。

DE DE:そこで、OTOTOYからお話をいただいた時、『sky was dark』を高音質用にマスタリングし直そうと。実際にCD音源とは違うマスタリングを施しました。あまりボリュームを上げず、音も突っ込まないようにして、自分がデスクトップで作っている曲のそのままの音をハイレゾで聴かせようと。

―CD用の音源とハイレゾ用の音源では、そもそもマスタリングから違うんですね。

DE DE:はい。僕は生音のレコーディングというのはほとんどやっていなくて、すべてMacBook Pro上で曲を作っています。そのマスター音源の素に近い、高音質でより聴きやすいマスタリングをして音を作り直したものを、ハイレゾ音源として配信するようになりました。

DE DE MOUSE
DE DE MOUSE

―ちょうど、DE DE MOUSEさんがハイレゾ配信に乗り出した2012年、2013年頃が、オーディオファン以外にも「ハイレゾ」という言葉が浸透し始めた時期でもありましたね。

DE DE:そうですね。でも僕自身は最初、リスナーとしてハイレゾなどの高音質音源を楽しむブームには、ちょっと懐疑的だったんですよ。音を仕事にしている人ならまだしも、みんなそんなに音の荒れとかを意識して音楽を聴くものなのかな? と。でも、ハイレゾが話題になるようになってから、ネットなんかを見ていると、一般リスナーの方から「CDとハイレゾは圧倒的に違う」という意見がたくさん出てきていると感じました。みんなが「いい音」に対して意識的になることで、「ちゃんと音楽を聴く環境」が増えていくし、選択肢が広がる。それは、とてもいいことだなと思ったんです。

―作り手としては、嬉しいことですよね。

DE DE:すごく嬉しいですね。じっくり音楽を聴く人が増えれば、流行に乗っていない音楽を作る機会が増えることにも繋がる。例えばDE DE MOUSEだったら、大多数のリスナーが僕の音楽に持つイメージは、ノリのいいダンスミュージック。だとすれば、やっぱりダンスミュージックのフォーマットに乗せなければならないから、音圧も上げなきゃいけない。でもそればかりで、他のことができなくなるのは嫌だったんです。『sky was dark』をハイレゾ化した時期は、みんなが求めるDE DE MOUSEの音楽から少しずつ逸脱して、自分のやりたい音楽に進み出した時期で。そんな自分の欲求が、高音質での音楽配信というキーワードとも直結したんですよね。

ある一定以上の音質は、僕は特に意識しないようにしています。音楽としてつまらなくなっちゃうかも知れないから。

―ハイレゾを楽しむためのリスニング機器も、以前よりかなり手に入りやすくなりましたね。ウォークマンなどのメディアプレイヤーやスマートフォンでも気軽に聴けるようになりましたし、対応するヘッドホンやイヤホンもたくさん出ています。それによって、ハイレゾ音源を買うハードルも下がったのではないかと。

DE DE:そうですよね。僕の作品も『sky was dark』以降、ハイレゾ配信を必ずやるようになっていますが、買ってくれる方も増えています。ちょっと驚くくらい(笑)。

―ハイレゾ配信がカジュアルになることで、作り手として意識される「音のあり方」は変わりましたか?

DE DE:そもそも、曲を作っている時の音源はCDに比べて高音質なので、それをそのまま劣化させずに提供できるメリットは非常に感じますね。ただ、ある一定以上の音質は、僕は特に意識しないようにしています。

DE DE MOUSE

―それはなぜですか?

DE DE:余計なことばかり考えちゃうから(笑)。例えば、「この音はノイズが乗ってるから、使うのやめよう」とか。そこで音を差し替えちゃうと、音楽としてつまらなくなっちゃうかも知れないし。

―音質ありきになってしまうと。

DE DE:そう。音質にこだわる以前に、「音楽」というものから離れてはいけない。一番いいのは、いい音楽がすごくいい音で聴けることなんですけど……じつは、僕に一番馴染みのあるダンスミュージックというのは、実はそこまで高音質に向いているものじゃなかったりもして。でもロックは違うんですよね。生音を扱っているから、高音質が向いている。

―なるほど、ジャンルや楽器の違いによるんですね。

DE DE:あと、勢いが欲しい時に必要以上に高音質な環境にすると、音の分離がキレイすぎて、音が塊になって聴こえてくる感じがなくなるとか。なので、音楽の内容や聴くシチュエーションによって、高音質であることに向き不向きは出てきますよね。例えば、最新の『farewell holiday!』は、先ほど言った音圧との戦いからの脱却をさらに推し進めて、ダンスミュージックの枠にとらわれず自分のやりたいことを徹底的にやってみたアルバムだったので、高音質には向いていると自分でも思います。

無理に音圧を上げずに音を届けられるハイレゾ、高音質への理解が広がることは、音楽のあるべき姿により近づくことでもあると思う。

―『farewell holiday!』は、クラムボンのミトさんをはじめ、音にこだわりのあるミュージシャンの方も大絶賛されていますね。

DE DE:僕も最初、それを人づてに伺って、すごく嬉しくて。先日も、バイオリニストの勝井祐二さんにイベントでお会いしたんですが、U-zhaanにもすごく薦められたとおっしゃってくれたんですよ。でもそれも、高音質を意識して作ったわけではなく、いいソフトウェアを使いながら、楽器の使い方やアレンジで音域の表現を工夫していった結果で。実際聴いてみると、特にハイレゾ音源は音の解像度や密度が高いので、アレンジで意図した音同士の微妙な距離感も表現されて聴こえるんです。今回はむしろ、テクノロジーに頼りすぎないことがテーマだったくらいなので……余計なことをしなかったのが良かったのかも知れない。

DE DE MOUSE

―音を潰し、音を劣化させながら必死に音圧を上げる努力とか?

DE DE:そうですね(笑)。『sky was dark』でよりその傾向は強まったとさっき言いましたけど、じつはアルバム3作目の『A journey to freedom』の時にきっかけがありまして。『A journey to freedom』はマスタリングをロンドンにあるMetropolis Studioというスタジオでやり、マスタリングをAphex Twinなどを手がけるノエル・サマーヴィルというエンジニアさんにお願いしたんです。その時、僕が「もう少しボリュームを上げた状態にしたい」と言ったら、彼に「音楽というのは、聴いた人が興味を持った時にボリュームを上げるもので、うるさいから下げるものじゃないんだよ」と言われたんですよ。その言葉を聞いて、「ああ、もう音圧にこだわるのはやめよう!」と思ったんです。あくまで、作り手目線の話ですけど。

―あぁ、たしかにそうですよね。音圧上げ戦争は、音楽のあるべき楽しみ方と逆方向に向かっていたと。

DE DE:そう、だから無理に音圧を上げずに素直にキレイな音を届けられるハイレゾ、高音質への理解が広がることは、音楽のあるべき姿により近づくことでもあると思うんです。このたとえを出すと、すごく納得してくださる方は多いですね。

これからハイレゾを聴き始めるライトユーザーに向いているなと思いました。

―ハイレゾ、高音質の音源が浸透したことで、ハイレゾ再生に適したヘッドホン、イヤホンが低価格で手に入るようになりました。それについては、改めてどう感じていますか?

DE DE:音源の選択肢が増え、再生機器の選択肢も増える。とてもいいことだと思います。

―そこで今回、DE DE MOUSEさんには、ソニーのハイレゾ対応ヘッドホンのカジュアルライン「h.ear」シリーズの新製品「h.ear on Wireless NC」と「h.ear in Wireless」の2つを試していただきました。この2機種はワイヤレスタイプですが、ワイヤレスでもハイレゾ相応の音質が再生可能で、しかもヘッドホンにはノイズキャンセリング機能が付いています。

DE DE:僕の場合、楽曲制作でもライブでもヘッドホンは必須なので、一番困るのが断線で。ワイヤレスだとライブや作業中にケーブルを気にしなくていいし、なおかつ断線を気にしなくていいので、便利だなと思いました。しかも音質も僕好みで、全体的にフラットでありながら、音の定位がちゃんとわかる。実は僕、できるだけリスナーの再生環境で自分の音楽をモニターしたいので、iPhoneに付属のものを一番使っているんですよ。だけど、改めて「h.ear in Wireless」と「h.ear on Wireless NC」で『farewell holiday!』を聴いてみたら……やっぱり全然違ってて。

DE DE MOUSE

―比較すると、違いがすぐわかると。

DE DE:やっぱり、お手軽なヘッドホンやイヤホンは、中域はよく聴こえても、低域と高域はどうしても物足りない。その点、この2機種は全体のバランスが良くて、高音から低音まで自然で適度な距離感で聴こえてくる。どんなジャンルの音楽に合う感じも、これからハイレゾを聴き始めるライトユーザーに向いているなと思いました。カラフルなカラーバリエーションも、若い人に人気が出そうだし。開発者の方にお話を聞いたら、値段のほうも僕の想像よりカジュアルでした(笑)。いい音が聴けるものが手軽に手に入るのはいいことですね。

何事も自分で体験して、比較してみないとわからないんですよね。いい音も、いい音楽も。

―『farewell holiday!』は、クラシックとジャズが融合したワクワク感あふれるオールディーズなオーケストラサウンドを、打ち込みで再現していますね。その音作りは、高音質で聴くのにうってつけだと思います。

DE DE:そう、特にこう聴こえてくれたらいいなとマスタリングした高音の伸びは、「h.ear on Wireless NC」と「h.ear in Wireless」で聴くと、とてもキレイに聴こえて嬉しかったですね。あと『farewell holiday!』の曲でいうと、1曲目の“friday comers”や6曲目の“bedtime flight”などは、1960年代、70年代のアメリカのカートゥーン、なかでも特にハンナ・バーベラ・プロダクションの作品(代表作に『スクービー・ドゥー』『原始家族フリントストーン』など)に出てくるような効果音をたくさん使ってるんですよ。そのちょっと荒れた音が左右に飛んでいるので、オーケストラとの対比がハイレゾで聴くとよりはっきり聴こえて面白いんじゃないかな。

―タイトルチューンの“farewell holiday!”も、とても賑やかで華やかな曲なので、一つひとつの楽器の音がハイレゾだとより美しく響きますね。

DE DE:そうですね。どんな音楽でもそうですけど、ハイレゾ音源だったり、いいヘッドホンやイヤホンで聴いてみたりしたら、聴き慣れた曲でも「こんなにいろんな音が入っていたんだ」という体験ができるものなんですよ。音楽は好きだけど、高音質をさほど求めてこなかった人は、なおさら感動する部分が大きいと思いますね。

ワンタッチ接続(NFC)搭載の再生機器とタッチすると、Bluetooth接続が完了する
ワンタッチ接続(NFC)搭載の再生機器とタッチすると、Bluetooth接続が完了する

―改めての感動があると。

DE DE:ただ、こういうヘッドホンやいい機材が世の中に出る上で僕が1つ危惧することがあるとすれば、やっぱり新しいものに最初に飛びつくのは、ガジェット好きの人。だけど、それ以外の人にもうまく届いていくといいなと思いますね。外部の情報がそのまま自分の言葉になってしまう人が多いけれど、他人が評価したから「いい」と言うんじゃなくて、自分自身がどう感じたのかということで、きちんと評価して欲しいなと思うんですよ。「2ちゃんねるのまとめで良くないと言われていたから、良くないんだ」と思い込んでしまい、体験もしないのは違うだろうと。

―それは、音楽に対する姿勢にも通じますね。他人の評価を自分の評価のように語り出す人は多いかと。

DE DE:やっぱり、何事も自分で体験して、比較してみないとわからないんですよね。いい音も、いい音楽も。さらに言えば、知識も深めてもらいたい。ハイレゾもヘッドホンも、仕組みや他との違いを知ると、より「聴く面白さ」も増すはずです。こうして記事を読んだことをきっかけにして、ただのファッションで終わらない、自分自身の体験に繋げていってもらえたらいいですね。

詳細情報
The Headphones Park

DE DE MOUSEとソニー開発者が「h.ear」のワイヤレスモデルを語り尽くす。

製品情報
『h.ear on Wireless NC』

ワイヤレスノイズキャンセリングステレオヘッドセット(MDR-100ABN)
2016年3月12日(土)発売予定
価格:オープン価格

リリース情報
『h.ear in Wireless』

ワイヤレスステレオヘッドセット(MDR-EX750BT)
2016年3月12日(土)発売予定
価格:オープン価格

リリース情報
DE DE MOUSE
『farewell holiday!』(CD)

2015年12月2日(金)発売
価格:2,376円(税込)
NOT-0011

1. friday comers
2. nice avalanche
3. farewell holiday!
4. thousand better things
5. thursday waltz
6. bedtime flight
7. a dozen raindrops
8. play tag
9. finally evening
10. wooden horse rendezvous
11. bloomy chorus
※「farewell holiday! member's card」封入

イベント情報
『farewell holiday! release party』

2016年2月28日(日)
会場:大阪府 ビルボードライブ大阪
[1]OPEN 17:00 / START 18:00
[2]OPEN 20:00 / START 21:00

プロフィール
DE DE MOUSE
DE DE MOUSE (ででまうす)

遠藤大介によるソロプロジェクト。作曲家、編曲家、プロデューサー、キーボーディスト、DJ。また、自身の曲のプログラミングやミックス、映像もこなす。ライブスタイルの振れ幅も広く、ツインドラムでリズムの高揚感を体現するDE DE MOUSE + Drumrollsや、縦横無尽に飛び回るDJスタイル、即興とセッションで繰り広げるDE DE MOUSE + his drummer名義に、映像を喚起させるDE DE MOUSE + Soundandvisions名義など、多種多様のステージングを展開。国内だけでなく、イギリスやフランス、ドイツなど海外遠征も盛んに行っている。2012年にnot recordsを始動。2015年12月2日に、5枚目のオリジナルフルアルバム「farewell holiday!」をリリース。



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