藤巻亮太が語る、レミオロメンの曲もソロで歌うことを決めた思い

<過去より未来よりこの今が / 一番大事だって知ったら / 何から始めようか>――1曲目からそんなフレーズを軽やかに歌い上げる藤巻亮太のニューアルバム『日日是好日』。フルアルバムとしては約3年半ぶりとなる本作から溢れ出す、このポジティブな陽性のエネルギーは、いったいどうしたことなのか。昨年5月、ミニアルバム『旅立ちの日』で文字通り「旅立った」藤巻は、その後、何を道しるべに自らの音楽を生み出していったのだろう。ライブやテレビ番組などで、レミオロメン時代の曲を披露する機会も多くなった藤巻。それも本作の抜けっぷりと何か関係しているのだろうか。そして、「日日是好日」という、ある意味ポップソングらしからぬタイトルに込められた本当の意味とは? 現在の心境と本作が生まれた経緯、さらにはレミオロメンの今後について、率直に尋ねてみた。

やっぱり、どこかレミオロメンに縛られている自分っていうのがいて……自分の悩みというのは、過去と未来のことだったんです。

―『日日是好日』は、昨年5月にリリースしたミニアルバム『旅立ちの日』以上にポップな方向に振り切った、とても自由で軽快なアルバムになりましたね。前作のリリース後、またいろいろと思うところがあったのですか?

藤巻:前作をリリースしたあと、夏はキャンプ系のフェスとかに3人編成で出演したり、秋には学祭ツアーをやったりと、全国各地でライブをしていたんですけど、そこでレミオロメンの曲をやり始めたんですね。それが自分のなかでは、すごく大きくて……。

―『SMAP×SMAP』をはじめ、テレビ番組などでも、レミオロメンの曲を歌っていましたよね。

藤巻:そうですね。自分のなかで「線を消していく」みたいなところが、今回ひとつテーマとしてあったんです。

―「線を消していく」?

藤巻:自分のなかにある「こうでなければいけない」とか「こうあるべきだ」みたいな線を、1本1本、自分で消していくというか。それをテーマにしたというよりも、結果それがテーマになっていったアルバムだと思います。去年の12月に出したシングル『大切な人 / 8分前の僕ら』のカップリングに入っている“wonder call”という曲を作っているあたりから、モードがすごく変わってきて、そのモードのなかでこのアルバムを仕上げていきました。

藤巻亮太
藤巻亮太

―そのモードというのは?

藤巻:いろんなことから解放されていくみたいな流れですよね。自分自身を縛っているもの……レミオロメンらしさだったり、ソロを確立させることだったり、あるいはそもそも自分は何で歌っているんだろうということであったり。そういうことを考えているうちに、「自分がやるべきこと」と思える範囲がどんどん狭くなって、すごく窮屈な状態になってしまっていたんです……そんななかで何かを作るというのは、やっぱりエネルギーが澱んだりとか濁ったりとかもするし、本人が一番苦しいんですよね。

―まあ、そうでしょうね。

藤巻:だから、「苦しいのは嫌だ」というのが、まず最初にあったのかもしれないです。とにかく楽になりたいっていう(笑)。あと、やっぱり音楽っていうのは、癒しであり、救いであって……自分で引いてしまった線を消す力も、やっぱり音楽からもらったんですよね。

―『旅立ちの日』も、前作『オオカミ青年』に比べたら遥かに抜けのいい作品でしたが、今回のアルバムはそれに輪をかけてポジティブな輝きを打ち放っていますよね。

藤巻:『日日是好日』という言葉が象徴していることは大きいと思います。それまではやっぱり、たとえて言うなら、どこかで昨日までのレミオロメンとの違いに縛られている自分っていうのがいて……あと、明日からのソロ活動をホントにひとりでやっていけるのかなっていう不安ですよね。つまり、自分の悩みというのは、過去と未来のことだったんです。過去に囚われている自分と、未来に対して前借りの不安を感じている自分。明日悩めばいいことを、今日前借りして悩んでいるみたいな。

―なるほど。

藤巻:そういう時期に、「日日是好日」という言葉と出会って。過去や未来というのは、どう頑張っても手の届かない時間だし、それを今日悩んでもしょうがないじゃんっていう。要は、「あなたは今という時間を生きているんだし、今日という日を生きているんでしょ」というふうに僕は受け取ったんです。やっぱり、自分ひとりにできることって、そんなに多くないんですよ。僕にできることというのは、今日、今の感覚で、僕がいいと思っていることをただ素直にやっていくことしかない。そう思い始めたときに、音楽がすごく楽しくなったんです。

音楽を始めた頃って、ホント何も考えてなかったんですよね。だけどある時期から、音楽を作ることが、「音楽活動」になっていってたんです。

―「日日是好日」という言葉は、どこでどんなふうに出会った言葉なのでしょう?

藤巻:特に仏教に詳しいわけではないんですけど、玄侑宗久さんというお坊さんであり作家でもある方が、コラムか何かでこの言葉を書いているのをたまたま読んだんです。僕、「いいな」って思う言葉とかを携帯にメモっていた時期があるんですけど、この言葉もそうやってメモったんですよね。ただ、そのときは、そのまま通り過ぎていったんです。で、この曲を作ったときに、たまたまその「日日是好日」っていう言葉を思い出して入れてみたら、もうバシッとはまって、「ああ!」とか思って(笑)。

―ある種の偶然というか。

藤巻:そう。やっぱり、こういうことが一番強いんですよね。ある言葉があって、それを受けてメロディーを考えるとかじゃなくて、なんかたまたま出てきちゃったもの。この言葉だって、それまで忘れていましたから。しかもこのサビの歌詞は、「日々日日是好日」って、「日々」がちょっと多いんだけど、まあいいかって(笑)。

―作為的に考えた言葉やメロディーよりも、直感から出てきたもののほうが、歌としての力が増すというか。

藤巻:そう。音楽を始めた頃って、ホント何も考えてなかったんですよね。なんでその言葉やメロディーが出てきたのか自分でもわかっていないし、説明責任もない。やっぱり大事なのは、無意識の世界と遊ぶことだと思うんですよ。そうやって遊んでいることが楽しくて、何かが始まっていくというか。だけどある時期から、音楽を作ることが、「音楽活動」になっていってたんですよね。

藤巻亮太

―アーティストとして「活動」していくための「音楽」みたいなものになっていったと。

藤巻:そうなっていくと、どこか自分のなかで約束事というか、線が増えていくわけです。もともと無意識で作っていたものが、どこか意識的になっていく。で、それはそれでいいこともあるんだけど、「音楽」という意味では、無意識の世界から出てきたものの豊かさには勝てないんですよ。

―その純度が違うというか。

藤巻:意識的な方向でやっていくと、全部説明できることになってしまって、それはやっぱりどこか違うんですよね。そういうとき、音楽はちょっと痩せてしまう。とはいえ、自分としては「音楽活動」もしたいわけじゃないですか。ファンの期待に応えたいし、もっといい曲を書きたいし、そもそも「音楽活動」ができなくなるのは、やっぱり怖いことだし。ただ、前のアルバムを出してからの3年半のなかで思ったのは、「音楽」と「音楽活動」っていうのは永遠のテーマかもしれないけど、きっと「音楽」のほうが大事だということなんです。

―「音楽活動」よりも「音楽」を追求することが大事だと。

藤巻:順番としてね。迷ったときは、「音楽」のほうを大事にしなきゃいけないんです。その音楽が本当に豊かなのかどうかがすごく大事。やっぱり音楽って、意味とか理由とかを超越していく力を持っているんですよね。そういうものに対するアンテナや反応が、どこか鈍くなっていた自分がいたような気がして。だから、もうとにかく意味とか理由とか説明とか、そういうことから遠くにいこうみたいなことを考えて生まれたのが、このアルバムです。

「総括できないな」ということのほうが、寿命が長い気がするんです。“粉雪”とかは、多分そういう感じの歌だったような気がするし。

―“粉雪”の<粉雪 ねえ>だって、10年経った今も世のなかで歌い継がれる1フレーズになっていますけど、これもまさに意味とか理由とかないところで生まれた言葉と響きが、歌としての強度を生んでいると言えそうですよね。

藤巻:そうかもしれないですよね。言葉の持つ意味に人は簡単に縛られてしまうけど、その言葉の響きが持つパワーみたいなものって本当にあると思うんですよ。そういうもののほうが、言葉が限定した意味よりも全然広いところまで届くんですよね。なんでこのメロディーと言葉、アレンジが出てきたのか自分にもわからないみたいなことのほうが、やっぱり面白くて。文章と一緒で、推敲していく部分はあるんだけど、その最初の勢いみたいなところがすごく大事なんです。

―このアルバムも、言葉を音楽が超えていく瞬間みたいなものがすごくあると思いました。

藤巻:今回のアルバムに入っている曲で、一番最近作ったのが“春祭”なんですけど、一番何も考えてないですから。もう、「音楽って祭りじゃん!」みたいな(笑)。そういうホントに他愛もないことのなかから滲み出てしまうことのほうが、音楽として面白かったりする。あと、最近思うのは、早く総括できちゃうものって、やっぱり早く終わっちゃうんですよ。何か「総括できないな」ということのほうが、寿命が長い気がするんです。

藤巻亮太

―というと?

藤巻:たとえば、あとになって「あの旅って何だったんだろうな?」と思うような旅ってあるじゃないですか。別に大したことが起きたわけじゃないし、笑い話がたくさんあるわけでもないんだけど、「あの旅で起きたことって、ひょっとしたら深いのかもしれない」とか、あとで思い出すたびに何か発見があったりするっていう。そういうものって、なかなか総括できない分、ずーっと楽しめたりするんですよね。自分が成長にするにつれて、また新しい発見があったりとかして。何か歌もそういうところがあるんじゃないかなって思うんです。“粉雪”とかは、多分そういう感じの歌だったような気がします。

―いい意味で心に引っ掛かり続けるというか、その曲に惹かれている理由が、いつまで経っても上手く説明できないという。

藤巻:そう。その理由がわからないからこそ、いいんですよね。多分その曲は、意識みたいな世界にフィットしているわけじゃないんですよ。もっと深いところまでいっちゃっているからこそ、なぜか心が揺さぶられてしまうというか。「今流行りのこれとこれを足して……」みたいな曲は、ひょっとするとヒットするかもしれないけど、すぐにスッと心からいなくなってしまうんですよね。

―そういう意味で、今回のアルバムは、昨今の音楽的な流行には、まったく目配りのない作品になっていますよね(笑)。

藤巻:ははは。そうですね。だって、“春祭”というタイトルなのに、リズムはアフリカだったりしますからね。よくわからないぞっていう(笑)。

すごくいいエネルギーで作れたからこそ、そこにこもっているものは、もうブレないと思うんですよね。

―『日日是好日』って、なんとなく春っぽいところがあるような気がして。それは歌詞の話だけではなく、音楽としても、何かが芽吹いているような感覚があるというか。

藤巻:そうなんですよね。「何か始まるかもね、これ」とか「ここから自分の人生変わってくんだろうな」みたいな感じがあるというか。そういうなかで、ワクワクしたりとか、ドキドキしたりとかしているアルバムだと思います。

―今回はアレンジもご自身でやられていますね。

藤巻:そう、今回自分でやろうと思ったのは……音楽って正解がないものじゃないですか。これまで素晴らしいミュージシャンとかプロデューサーと一緒にやってきて……最終的に、プロデューサーに「あとはお任せします」ってなったときに、自分のなかで1回思考停止していたんですよね。で、素晴らしいお仕事をしていただいて、よりいいものになって返ってくるんですけど、そうなったときに何か正解みたいなものができてしまって、その正解からの差で見てしまうんです。減点方式で自分の音楽を見てしまうというか。なので今回は、もっといいところを褒めていく、褒めるだけでアルバムを作れたらいいなと思って。

―作り方そのものが、ポジティブなエネルギーを溜める作業だったんですね。

藤巻:そう。すごい人たちと一緒にやれば、自分の音楽もすごくなるっていうのも、自分のなかにある幻想のひとつだし、線のひとつなんですよね。だから、自分が今気持ちいいと思っていることだけを考えてやろうと思って。「これとこれは音がぶつかってます」とか、「もっといいやり方があるのに」とか、そういうことは気にしないで、ただ自分がときめくことだけを、自分の心が反応することだけをやりたいって思ったんですよね。で、そういうことをやりながら、自分自身がのってくるのがわかったというか。だから、今回のアルバムは、自分がのるために、全部自分でやったような感じがあるんです(笑)。

藤巻亮太

―なるほど。確かに藤巻さんがノリノリで歌いながらギターを弾いているアルバムになっていますよね。

藤巻:ははは。でもね、そうやってすごくいいエネルギーで作れたからこそ、そこにこもっているものは、もうブレないと思うんですよね。まあ、アレンジみたいなことは、これからライブで変えていっていいような気はしていますけど(笑)。

―そのときはそのときで、藤巻さんがときめくほうに変えていくんですね(笑)。今回のアルバムは、先ほどから言っているように3年半ぶりのフルアルバムになりますが、3年半の集大成みたいなものとは、ちょっと違いますよね。

藤巻:そうですね。集大成として「何かを積み上げながらここまできました」という感じではなく、むしろ、いろんなものを消していった感じなんです。ただ、その分、視界はすごく開けたというか。そういう感じはあると思います。

―『オオカミ青年』の頃に比べると隔世の感があります。

藤巻:あれはレミオロメンがあったからこその衝動だったというか、レミオロメンのときにバンドでは表現できなかったドロっとしたパーソナルなものを吐き出したアルバムでしたからね。その衝動は、アルバムをリリースしてツアーをしたことで成就したというか。で、空っぽな状態でポンって放り出されて、「うわ、この先のソロ活動どうしよう」みたいなところから始まって、ようやくここに来たっていう。

―今はもう、バンド始めたときのような快楽原則のままに、音楽を鳴らしているというか。

藤巻:そうかもしれないですね。ホント、このジャケットのような感じというか、ぴょーんってジャンプしている感じなんですよね(笑)。

藤巻亮太『日日是好日』ジャケット
藤巻亮太『日日是好日』ジャケット

自分がどうにかできることとできないことがあって、できないことのほうは、もう悩まない。

―一応最後に、お約束で聞いておきますけど、レミオロメンは今後どうするつもりなのでしょう? 「いつかレミオロメンをやることは決めた」と、前回のインタビューでは言っていましたけど。

藤巻:それも、さっき言ったことと一緒ですよね。自分がどうにかできることとできないことがあって、できないことのほうは、もう悩まないっていう。だから、何にも考えてないです。本格的に無計画(笑)。

―(笑)。

藤巻:そういうことって、僕の預かり知らぬところからやって来ると思うんですよね。もちろん、僕ができることはやっていくつもりですけど。ただ、ここで何かを約束しちゃうと、また1本新しい線が引かれてしまうわけで。だから、僕は僕で、今日できること、今できることを精一杯やっていこうと思っています。

藤巻亮太

―藤巻さんの場合、音楽と同じで、あまり先の生き方を意識しないほうが、結果的にいい方向に流れていくのかもしれないですね。

藤巻:そうですね。多分、僕はそういうタイプの人間なんだと思います(笑)。もちろん、何かを積み上げていくことによって生れるものってあるし、それが必要なタイミングもあると思うけど、そうじゃないものを信じているときのほうが輝いている感じがするというか。まあ、わかんないですけど(笑)。

―(笑)。

藤巻:日々生きていくだけでインプットされていくこともあるだろうし、そこで何かと向き合ったときに、また視界が開けることもあるだろうし。何か強いものがあったら、そこに向かってまたグッと進んでいくんだろうと思います。とりあえず今は、日々喜んだり楽しんだり感謝したりするっていう、そういう循環のなかで生きていくほうが気持ちとしてはすごく楽だなと思っていて。

―まさに「日日是好日」な気分で。

藤巻:そうですね(笑)。この言葉は、ある意味、魔法の言葉だと思っていて。このアルバムは、これから先悩んだときに、「あ、あのとき作った、あの感じだよね」って、戻ってこられるようなアルバムになったと思います。だからすごく自分のなかに何かが据わった感じが、今はあるんですよね。

リリース情報
藤巻亮太
『日日是好日』(CD)

2016年3月23日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-65039

1. 花になれたら
2. Weekend Hero
3. 回復魔法
4. 日日是好日
5. 8分前の僕ら
6. 夏のナディア
7. My Revolution
8. 大切な人
9. かすみ草
10. 春祭
11. おくりもの
12. ing

イベント情報
『藤巻亮太 TOUR 2016 ~春祭編~』

2016年4月16日(土)
会場:石川県 北國新聞赤羽ホール

2016年4月22日(金)
会場:北海道 札幌 ペニーレーン24

2016年4月24日(日)
会場:宮城県 仙台 Rensa

2016年4月29日(金・祝)
会場:福岡県 イムズホール

2016年5月1日(日)
会場:広島県 BLUE LIVE 広島

2016年5月20日(金)
会場:大阪府 シアターBRAVA!

2016年5月21日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2016年5月27日(金)
会場:東京都 Zepp Tokyo

プロフィール
藤巻亮太
藤巻亮太 (ふじまき りょうた)

1980年生まれ。2000年12月、小学校からの同級生3人で「レミオロメン」を結成。2003年3月デビュー。数々のヒット曲により、3ピースバンドとしてのオリジナリティを確立する。中でも、2004年リリース『3月9日』、2005年リリース『粉雪』は、今でも多くの人に支持され続けている。2012年、レミオロメン活動休止を発表。ソロ活動を開始する。2015年12月、「NIVEA」ブランドCMソング / ネスレ「KIT MUSIC」第一弾ソングを収録した、両A面シングル『大切な人 / 8 分前の僕ら』をリリース。2016年2月17日から、『藤巻亮太 TOUR 2016 ~歌旅編~』をスタート。さらに、初の写真集『Sightlines』を発売。3月23日、約3年半振りとなる待望の2ndフルアルバム『日日是好日』のリリースが決定。4月からは、ツアー後半戦となる「春祭編」の開催も決定。



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