CICADAがニューEP『Loud Colors』をリリースする。ミニマルな美学を追求するバンドサウンドをさらに練り上げ、メロディーに付随するポピュラリティーも高めた全5曲が収録されている。そのなかでも突出しているのが、及川創介が作詞作曲を務めた1曲目の“No Border”と、若林ともが作詞作曲を務めたラストの“YES”である。
紅一点のボーカリスト・城戸あき子のラップをフィーチャーし、メロウなサウンドが1990年代から00年代初頭にあったフロアのムードを想起させる前者。際立ったグッドメロディーに乗せて夢を捨てない人の孤独と強さを描く後者。バンドのメインソングライターである及川と若林の楽曲が織り成すコントラストこそが、CICADA独自の興趣であることをあらためて思い知る双璧の二曲だ。そして、及川と若林は今回もやはりインタビュー中に言い争うのであった。
ただ自分の好きな音楽だけ作って、自分がいいと思うものがすべてだと思ってましたけど……それは通用しないなって。(若林)
―昨夜、CINRA presents『exPoP!!!!!』でライブを拝見して。音源と比較して、かなり熱量の高いライブだなと思いました。
城戸(Vo):そうですね。最近はどんどん熱量が高くなってると思います。
及川(Key):音源とライブは分けてる感じですね。前はわりと音源に忠実にライブをしていたんですけど、それだとフロアが静かになってしまう感じがあって。それで、ライブはフロアを熱くしようという傾向が強くなっていったんです。
―ライブ中に若林さんだけ表情が変わらなくて、そこが実に若林さんらしいなと思ったんですけど(笑)、フロアの熱量が上がっていくのをどう見てるんですか?
若林(Gt,Key):いや、楽しんでくれてるんだなと思ってるし、うれしいですよ。表情に出てないだけで、テンションも高くなってるし(笑)。前まではライブでもクールな感じを出せたらと思っていたんですけど、それは違うなと。お客さんには踊ってもらったほうがいいんだなとわかったんです。なので、最近はライブも楽しいですね。
―その変化は大きいでしょう。
若林:そうですね……ちょっと人のことを考えられるようになって。今までは自分のことしか考えてなかったので。ただ自分の好きな音楽だけ作って、自分がいいと思うものがすべてだと思ってましたけど……それは通用しないなって。ここ1年くらいでそう思うようになりましたね。
木村(Ba):ライブの姿勢は確かに変わったよね。
櫃田(Dr):前までは、(若林が)超緊張して手が震えてたけど、それも解消されたしね(笑)。
若林:前はお客さんに対して「おい、ちゃんと聴けよ!」って思いながら手がブルブル震えてたんですけど(笑)。
一同:(笑)。
―偉そうなのにビビってるという。
若林:そう(笑)。今は「どうぞ楽しんでください」という気持ちですね。そうやって謙虚になったら手が震えなくなりました。
櫃田:マジでチキンだよね(笑)。
及川:でも、若林は今でもライブでカスみたいなミスをするんですよね。ミキサーが壊れてるのに気づかずに焦ってサンプラーを叩き続けたりとか(笑)。こいつがミスすると心のなかで「やったー!」って思うんですけど、そこはちゃんとしてほしいですね。
若林:まあまあ、わかってるけど。
―前回のインタビュー同様、二人のバチバチが始まりました。
若林:確かに音源制作に関しては絶対的な自信があるんですけど、ライブに関してはダメすぎですね(苦笑)。
城戸:素直だね(笑)。
若林:壊れかけのミキサーをそのまま使っていたのを反省して、そのライブの直後に買い直しました……。
―ライブを見ると、あらためてリズム隊にかかる負担がとても大きなバンドだなと思います。
櫃田:やってて楽しいですけど、ホントに大変です(笑)。曲ができるまでの流れは、若林さんと(及川)創ちゃんが曲を作って、アレンジを創ちゃんがやって、それをメンバー各自が消化してスタジオで合わせるんですけど、創ちゃんから送られてくるデモトラックがめっちゃカッコいいんですよ。そのデモを体現するにはまだまだ力量が足りてないと思います。
及川:こいつはアツいやつなんですよ。
櫃田:こないだのCINRAのインタビューでも、俺のことめっちゃディスってたじゃないですか!(笑)
音楽に対してはみんなホントにストイックですね。ライブの練習では若林さんはボコボコにされてるし(笑)。(櫃田)
―ディスというか、最初はドラムが全然よくなかったとは及川さんが言ってましたね。
櫃田:ホントに最初は音楽のことを全然知らなくて。もともとポップスバンドのドラマーだったので、4つ打ちしかやってこなかったような感じなんです。
―16ビートとか人力のブレイクビーツなどは全然叩いたことがなかったんですね。
櫃田:そうなんです。リスナーとしてもそういう音楽を全然聴いたことがなくて。創ちゃんがメンバーになってから、そういう要素がどんどんCICADAの曲に盛り込まれていって、そこからいろんな音楽を聴き始めたんです。ドラマーとしての考えが全部ぶっ壊されて、イチからやり直した感じですね。イスの高さから、スティックの持ち方から、フォームまで全部変えて。
―素直な人間じゃないとそこまでできないですよね。
及川:いいやつです。
木村:まじめだよね。
櫃田:いやいやいや(照れ笑い)。それからロバート・グラスパーが大好きになって。
―ヒップホップやR&Bも包括する現代ジャズ的なプレイにどんどん興味が湧いてきたと。
櫃田:そうです。打ち込みのヒップホップをいかに人力でカッコよく体現できるか、とことん追求していきたいと思ってます。
木村:僕はもともとソウルやファンクをメインにポップスもやってきたんですけど、CICADAはミニマルなグルーヴをキープする難しさがあって。ただ、そこもこのバンドの楽しさだと思ってます。
―この五人って、同じ学校にいても友だちにならないような集団だと思うんですよ。
木村:そう思います(笑)。
及川:なってないでしょうね(笑)。
―情けで繋がろうとしてないし、あくまで音楽至上主義を貫いているバンドだなと。
櫃田:音楽に対してはみんなホントにストイックですね。だから、そのハードルをクリアしなきゃいけないスタジオが怖くて。ライブの練習では若林さんはボコボコにされてるし(笑)。
―曲作り以外はボコボコにされてると。
若林:最初は曲作りだけしてたかったんですけど、やっぱり人前に出たいじゃないですか(笑)。「この曲、俺が作ったんだぜ」ってアピールしたいし。
櫃田:若林さんがまだライブに消極的だったときは創ちゃんに「そんなに人前に出たくないなら、もうライブに出なきゃいいじゃん」って言われてましたね。
及川:でも、いまだにライブに対する努力をしないからなあ。「若林もサンプラー持ってるのに、なんで俺が毎回サンプルのネタをおまえに送らなきゃいけないの?」というところから始まり(笑)。
若林:……(無言で笑みを浮かべる)。
木村:そこでこの笑顔ですよ(笑)。
一同:(笑)。
(若林が作った)“YES”に関しては俺もちょっと胸アツになりましたけどね。あの曲は人生を削りながらがんばってる人は共感できる内容だと思う。(及川)
―新譜の1曲目の“No Border”では城戸さんのラップがフィーチャーされてますよね。城戸さんはラップとどう向き合ってますか?
城戸:ラップは難しいですね。私はヒップホップを全然聴いてこなかったので、“No Border”の原型をライブでやったのが私にとって初めてのラップだったんです。もともとこの曲は1バース分くらいの長さで、ライブのオープニング曲として使っていたんです。
―そうだったんですね。
城戸:この曲で初めてラップをやって、創ちゃんにいろんなヒップホップの曲を教えてもらったり、二人でラップの練習をしたりして。
及川:そうそう。
―及川さんはCICADAにとってラップは武器になると思ってるんですよね?
及川:僕の好みではそうですね。でも、若林はラップ否定派なので。
若林:基本的にそうですね。
―じゃあ、また言い合ってもらおうかな(笑)。若林さんはなんでラップ否定派なんですか?
若林:リスナーとして聴く分には好きなんですけど、僕はメロディーの力でどれだけ楽しんでもらえるかを一番に考えてるので、あくまでラップは飛び道具だと思ってるんです。だから、自分では絶対にラップが入った曲は作らないですね。
―なるほど。ここで新譜の本題に入りたいんですけど。僕は今回、今のCICADAにとってのアンセムが2曲できたなと思っていて。一つが1曲目の及川さん作詞作曲の“No Border”で、もう一つがラストの若林さん作詞作曲の“YES”です。ラップ肯定派の及川さんの“No Border”と、あくまでメロディー重視の若林さんの“YES”が最初と最後に収録されているのは象徴的だなと思ったんですね。
及川:そうですね。俺としては若林が「CICADAでラップしてもいいじゃん」って思うレベルまで持っていきたくて、“No Border”はそのためのプレゼンでもあって。だから、この曲は若林のこだわりをぶち壊すくらいの気持ちでアレンジもしたし。あとは、ヒップホップ特有のある種のコミカルさを生バンドで表現している人はそこまでいないし、それをやることがCICADAの新しさとオリジナリティーにも繋がるのかなと思ってるんですよね。
―イントロの電話のスキットしかり。
及川:そう。あれは僕が櫃田にいきなり電話をかけて、それを録音して使ったんですけど(笑)。
櫃田:あとから音源を聴いて「あのときのあれか!」ってなりました(笑)。
―リリックは、バースではバンドのステートメントを表明するような内容で、フックは男女のストーリーが描かれている。その2つの視点が交錯しているのがおもしろいなと。
及川:これ、もともと別々の曲を1つにしたんですよ。若林はけっこう叙情的な歌詞を書くので、べつに俺はそんなにキュンキュンした歌詞は書かなくてもいいかなって。
若林:っていうか、そういう歌詞を書けないんだろ。
及川:というか、俺は若林とは逆に肉体的な歌詞を書きたいなと思ってるんだよね。若林の曲に近づきたくないので。ただ、“YES”に関しては俺もちょっと胸アツになりましたけどね。あの曲は人生を削りながらがんばってる人は共感できる内容だと思うし、全員一致で「きたな!」ってなりました。若林が共感的な歌詞を書いたのはこれが初めてだと思うし。
―若林さん、どうですか?
若林:今まではこういう歌詞を書こうとしてなかったですね。
―素直になった?
若林:去年、KOHHの曲を聴いて、あの人と僕は全然違う環境で育ったのにすげえグッとくるなと思って。
ライブより音源のほうが重要ですよ。ライブじゃブラジルには簡単に行けないけど、音源だったら簡単にブラジルに届くじゃないですか。(若林)
―前回の取材後の雑談でKOHHの話題が出ましたよね。
若林:そうでしたね。KOHHの曲に自分がなんであんなに感動するんだろうって考えたときに、ホントに自分が思ってることをストレートに歌詞にしたら、育った環境とか関係なく心に響くんだなと思ったんですよ。それでストレートに歌詞を書いてみようと思って。で、“YES”を書いたら、メンバーの反応がよかったので、やっぱりこれが正解なんだなと思ったんです。ただ、今度またこういう歌詞を書くかと言ったら、わからないです。
―この曲の歌詞を要約したら、「夢をあきらめなくていい」という肯定のメッセージじゃないですか。それをリリカルに書いてるんだけど、確かにこの内容は意外ではあった。これまでのシニカルなムードがほとんどないから。
若林:Bメロで<イカロスのように海に落ちてもかまわないさ>っていうフレーズがあって、僕は今33歳なんですけど、あれは25歳くらいのときに書いたものなんです。あのフレーズを久しぶりに見返して、俺は何も変わってないなと思って、その続きを書こうと思って“YES”の歌詞を書き上げました。
―何も変わってないというのは?
若林:まだまだ夢を見てるということですね。だから、歌詞は自分のことを書いてるんですけど、“YES”というタイトルだけはいろんな人に向けてます。ジョン・レノンとオノ・ヨーコの出会いのエピソードで、ジョンがヨーコの個展に行ったら、天井に何か書いてあって、脚立に上って虫眼鏡で見たらそこは“YES”と書いてあったという話が好きで。それもあって“YES”にしたんですけど。
―なるほど。若林さんは前回のインタビューで、無機質かつ余白のあるクリエイティブに惹かれるし、自分もそういう曲を作っていきたいと言ってましたけど、“YES”はすごく人間味がありますよね。
若林:そうですね。でも、自分のこだわりを妥協してこういう曲になったのではなくて、俺的には今まで影響を受けてきた松任谷由実とKOHHのマッシュアップみたいな感覚なんですよ(笑)。
―その組み合わせはすごいな(笑)。“YES”にもコール&レスポンスを促すようなヒップホップ然としたコーラスがありますけど、そのあたりはどうなんですか?
若林:ヒップホップの要素が曲に入るのはいいんです。でも、曲にラップを乗っけるのは違うなと思ってるというだけで。
―では、若林さんの“No Border”評はどうですか?
若林:いいと思いますよ。価値観をぶっ壊される感じはまったくないですけど。
及川:予想通りの反応ですね。
若林:“No Border”があるとライブ感が増すなと思ったし。このEPはライブ感がちょっと弱いなと思ったので、そういう面ではいいと思うし、認めてますよ。ただ、曲としては圧倒的に“YES”のほうがいいですね。
―いや、“No Border”と“YES”は双璧でしょ。
若林:それは僕と価値観が違いますね。
一同:(笑)。
―でも、“No Border”のライブの機能性は認めてるわけですよね?
若林:そうですけど、ライブより音源のほうが重要ですよ。ライブじゃブラジルには簡単に行けないけど、音源だったら簡単にブラジルに届くじゃないですか。
―なるほどね。
若林:そこで重要なのは音源の完成度であり、メロディーのよさだと思うから。
―でも、ブラジルに行けるようになるくらいライブの魅力や完成度を高めるバンドの喜びもあるでしょう。
若林:そうですね。でも、音源をいいと思ったブラジル人が呼んでくれて、現地でライブができると思うので。
―いざライブに呼んでみたらライブが全然よくないってなったらどうするんですか?
若林:そこに関しては、このバンドは絶対に大丈夫です。
及川:ざっくりした返答だな(笑)。
―とにかく若林さんと及川さんがそれぞれ作る曲のコントラストをこれからどんどん増していけさらにおもしろくなるだろうなと思います。
及川:俺と若林の曲の距離が近づくことはないでしょうね。
若林:どちらかが「もう我慢できねえ!」ってなるかもしれないけどね。
及川:解散するときは殴り合いでしょうね(笑)。
―でも、音楽性の違いで解散するみたいな理由はこのバンドはあり得ないでしょう。だって、最初から音楽性が違うメンバーの集まりなわけで。
及川:確かに(笑)。
若林:だからいい曲を作り続けるしかないと思ってます。それしか考えてないですね。
及川:もっとレベルの高いメロディーに到達できたらいいけどね。
若林:俺の曲が? メロディーに関しては俺のほうが確信を持ってるから。
及川:俺がデモを聴かせてもだいたい「ちげーな」という言葉が返ってくるしね。
若林:違うと思ったら違うって言ったほうがいいでしょ。
及川:すげえ微妙なポイントばっかり突いてくるけどね。
若林:でも、1音変わるだけで曲全体の印象が変わるからね。
及川:最終的にそこは好みの問題にもなってくるじゃん。
若林:でもさ—。
―じゃあ、今日はここで終わりまーす。
一同:(笑)。
及川:時間はかかってもいい曲を作っていきますよ。そのためにがんばっていきます。
若林:そうだね。それしかないね。
- リリース情報
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- CICADA
『Loud Colors』(CD) -
2016年4月13日(水)発売
価格:1,620円(税込)
PDCR-0071. No border
2. FLAVOR
3. 閃光
4. up to you
5. YES
- CICADA
- イベント情報
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- 『CICADA One man show“Absolute”』
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2016年5月26日(木)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
料金:前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)
- プロフィール
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- CICADA (しけいだ)
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HIPHOP/R&B 等のブラックミュージックから trip hop/エレクトロニカ等のミニマルミュージックをルーツとした死角無しのアンサンブル、Vo.城戸あき子の艶やかで時にキュートな歌声は正にニューポップスのドアを叩く極上の完成度。自主制作盤音源を3枚発表した後、2015年2月に初全国流通盤 1st.Full Album"BED ROOM"をリリース。瞬く間に各媒体、早耳リスナーにその名を轟かせCD ショップでも売り切れが続出。同年 11月には自身初となる7inch アナログ盤"stan alone"をリリース、リリースパ ーティには tofubeatsを招いたツーマンを渋谷WWWで行い大盛況に終える。そして今年5 月には自身初のワンマンライブが渋谷CLUB QUATTRO にて開催決定。4月にはワンマンへ向けて新作EP"Loud Colors"のリリースも決定。
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