どうして『ハウス・オブ・カード』は面白い?家入一真と語り合う

『ハウス・オブ・カード 野望の階段』は、アメリカの政界を舞台とするNetflixオリジナルドラマである。人並みはずれた権力欲と、それを獲得するための能力を兼ね備えた政治家フランシス・アンダーウッド(愛称フランク)は、ライバルを蹴落とし、協力者を支配し、仲間を冷酷に裏切る。しかしその現実離れしたキャラクターに多くの視聴者は魅了されている。Netflixで配信が開始されるや、社会現象とも呼べる大きな反響を世界中に巻き起こし、現在Netflixで全4シーズンが一挙配信されている。

今回、『ハウス・オブ・カード』の熱狂的ファンを自称する起業家の家入一真を招き、同作に惹き付けられる理由を聞いた。数多くの会社、サービスを立ち上げ、時にその挑発的な言動からネット炎上することもしばしばな時代の寵児は、『ハウス・オブ・カード』に、そして稀代の怪人物フランクにどんな魅力を感じているのだろうか?

フランクの、強烈な個性の裏にあるコンプレックスや劣等感……そういった人間っぽいところに共感したり、シビれたりしています。

―取材依頼をすると、たいていの場合マネージャーの方から取材OKのメールをいただくことが多いのですが、今回はいきなり家入さん本人から「『ハウス・オブ・カード』好きです!」という返事が編集部に届いたとか。

家入:そうなんです。前のめりで、すみません(笑)。

―家入さんが本作にハマった理由はなんでしょう?

家入:最初は知り合いの若い起業家に薦められたんですよ。そのときはまだDVDでしか見られなかったのでスルーしてたんですけど、Netflixでの日本配信がついに始まって。それで一気にハマりました。さっきのメールもその勢いで返しちゃったんですね(笑)。

家入一真
家入一真

―起業家がハマるのも納得の内容ですよね。政治劇であり権力闘争のサバイバルストーリーでもあって。

家入:でも、僕が面白かったのはそこだけじゃないんです。もちろんビル・クリントン元大統領の不倫スキャンダルとか、その奥さんのヒラリーが民主党から大統領選に出馬しようとしているとか、対抗勢力の共和党で、トランプというとんでもなくキャラクターの濃い候補者が注目されているとか、今の政治に直接関わるような要素もたくさんありますけど。むしろ僕は、主人公のフランク(フランシス・アンダーウッド)の、強烈な個性の裏にあるコンプレックスや劣等感……そういった人間っぽいところに共感したり、シビれたりしています。

―『ハウス・オブ・カード』の演出で面白いのは、普通の対話劇の合間に、突然フランクがカメラ目線で視聴者に語りかけてくるところです。「この政治家は仲間みたいな顔してるけど、裏切っているに違いない」みたいな。

家入:そうそう。そこが痛快なんだけど、あるシーンではフランクがグウの音も出ない状況に追い込まれて、僕らの方をパッと見て、でもうまく喋れずに「ぐぬぬ……」みたいな顔をしていたり(笑)。ああいうところで「フランクかわいいな!」って思うんです。

家入一真

―名優ケヴィン・スペイシーが演じる、強面で、ちょっと頭髪の薄いおじさんですけどね(笑)。

家入:趣味がテレビゲームだったり、奥さんから「痩せた方がいいわよ」って贈られたトレーニングマシーンに最初はイヤな顔するんだけど、結局ハマっちゃったりだとか。あとは、仕事で失敗したときとか、家の窓際でタバコ吸うじゃないですか、ちょっと拗ねた感じで。ああいうシーンが好きですね。衝撃的なシーンは見せ場だけど、僕はそういうフランクのかわいいところばっかり見ているかもしれない。

フランシス・アンダーウッド © Netflix. All Rights Reserved.
フランシス・アンダーウッド © Netflix. All Rights Reserved.

―フランクは国務長官のポストを約束されていたのに、別の議員に横取りされてしまう。それをきっかけに復讐劇が始まるわけですが、フランクは、あまりのショックに水辺に佇んで呆然としてしまったりする。まるでリストラされたサラリーマンのお父さんみたいです(笑)。

家入:そのギャップがかわいいんですよね!(笑)

これまでいろんな経営者の方々と付き合ってきましたけど、基本的にみんな、どこか病んでいるんですよ。

―意外なフランクのキャラは、家入さんにとって共感できるものですか?

家入:そうかもしれない。ドラマの冒頭からヒール(悪役)として登場して、次々と復讐を成し遂げていく感じに胸はスッとしますけど、それでもやっぱり根っからの悪人じゃないんだってところに惹かれますね。

―大学時代の恋愛エピソードとか。

家入:そうそう。あれはビックリしますよね。プラトニックで、ちょっと苦くて。あとフランクがお忍びで通うスペアリブ店のおじさんもいいですよね。

―フレディですね! 一番好きなキャラです!

家入:立場を超えて付き合える、ある種の親友ですよね。フレディの店でだけは、フランクも心からリラックスできる。

―家入さんにはフランクのテレビゲームやフレディの店のような息抜きはありますか?

家入:いやあ、僕すっごい無趣味で、せいぜい映画鑑賞とかゲームをするくらい。それも一回ハマると仕事にならないので、なるべく触れないようにしています。そう考えるとフランクに似てなくもないですが、基本的に「息抜き」の意味がわからないし、必要としてないんです。土日も関係なく仕事をしている……なんて言うとワーカーホリックに思われるかもしれないですが、誰かと会って「こういうことやろうよ!」みたいな話で毎日盛り上がったりしていると、もう仕事とプライベートを切り分けできないんですよね。

家入一真

―オンとオフがない。

家入:そういう生活が僕には合ってるって思うんですよ。なぜかっていうと「さあ、これから仕事だ」って考えると、すごい鬱になって死にたくなる(笑)。以前、自殺頻度の統計を調べたことがあって、月曜日が一番多いんですよ。その気持ちが、めっちゃわかるんですよね。

―たしかにわかります。

家入:僕自身、中学校に途中で行かなくなってますし、いくつかの会社にも就職しましたけど、朝に出社できないとか、時間を守れないって理由でクビになりましたから(笑)。経営者になったのだって、消去法で「じゃあ、自分で会社をやるしかないわ」っていうすごく後ろ向きな理由。まあ結果オーライですね。いや、結果オーライだったかもよくわかんないですけど。

―『ハウス・オブ・カード』を勧めてくれたのも知人の起業家だったということですが、経営者が同作に惹かれる理由ってわかりますか?

家入:上昇欲求や野心、ではないと思いますね。これまでいろんな経営者の方々と付き合ってきましたけど、基本的にみんな、どこか病んでいるんですよ(笑)。強烈なコンプレックスや承認欲求がモチベーションになって猛烈に仕事をするけれど、プライベートはうまくいってない人がとても多い。彼らは、そういう部分でフランクに共感するのかもしれないですね。もちろん、なかには「いい人だな~」って人もいますけど、そういう経営者は何故か「それなり」なんですよ。従業員が1000人以上の上場企業の社長になると、やっぱりどこか歪なんです。すごい紳士だし、お酒を呑んでも乱れないし、にこやか。でも絶対に目は笑っていない、みたいな(笑)。

© Netflix. All Rights Reserved.
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―まさにフランク的ですね。

家入:日本の政治家を見てもそんなことは思わないですけど、『ハウス・オブ・カード』の政治家たちはみんな起業家っぽい。それは自主独立をよしとするアメリカの風土によるものかもしれない。

基本的に僕、人を信用していないので。何かに期待するから人は絶望するんですよ。

―これまでに家入さんが会った経営者で、記憶に残っている人はいますか?

家入:心理学的なテクニックを駆使する人はいますね。例えば、初対面の握手で、激痛が走るくらいギュッと手を握る人がいるんですよ。その他にも、1対1の会議で10分間一言も喋らず、こちらを焦らせる人とか。そうやって最初から自分が優位に立つようにする。あとは、交渉しているうちに自然とこちらの選択肢を狭めてくる人とか。

―それはどんな風に?

家入:最初はイエスorノーみたいな交渉だったんですよ。僕は乗り気じゃなかったから当然「やりません」って答えたんですけど、気づいたらノーっていう選択肢は消えていて、イエスを前提に「A案とB案の2つがあるけどどっちがいい?」って話になってました。それで思わず「じゃあ、Bで!」って答えてしまって(笑)、帰り道に「なんでこんなことに?」って気づくんですよ。そういう交渉術は『ハウス・オブ・カード』でも随所に登場してましたね。

―そういう経験から得たスキルってありますか?

家入:多少はあると思うんですけど、どうなんだろう……。基本的に僕、人を信用していないので。何かに期待するから人は絶望するんですよ。「信用してない」と言うとキツく聞こえるけれど、じゃあ「信用するってなんだろう?」って深く考えると、相手が期待した以上のことをやろうが、期待以下のことをやろうが、すべての結果を引き受けることが信用だと思うんです。例えば、僕が今ここに1億円を置いて「トイレ行ってきます」って言って、帰ってきたときにそれがあるかないか、わかんないじゃないですか……って例えが悪いですね(笑)。

家入一真

―僕は確実に盗みますね。

家入:たまたま1億円の借金があって明日もう殺されるっていう状況だったら、僕でも盗むと思うんです。人間ってやっぱり感情の生き物だと思う。その結果も含めて背負うのが信用するってことですし、信用したなら、もし1億円がなくなっても僕は絶対怒っちゃいけない。そういう意味で、信用や期待を他人には求めないようにはしている、って感じですかね。それは恋愛や友情も同じで、「わたしはこれだけあなたのことを愛しているの」っていう言葉の裏には「だからあなたもわたしをこれだけ愛してね」という見返りを求める感情があるでしょう。

―見返りを求めてしまうことが不幸の始まりということですね。

家入:だから僕は「この人好きだな」って思ったら、率直に「好きです」って言うようにしています。相手が僕のことを好きかどうかなんていうのはどうでもいい話であって、とりあえず率直にボールを投げてみる。それでいいと思うし、その先に拘泥もしない。それがいろんな経験から学んだスキルですね。

―本作はフランクの常勝無敗っぷりに目がいきますけど、実際には無数のルーザー(敗者)が描かれますよね。フランクの側近であるスタンパーだって、言えない過去があって、そのことに十数年も囚われている。

家入:たしかに。フランクとスタンパーの間には秘密を共有できる絶対の信頼があるけれど、決して心を許してはいない。でも同時に「あなたを信じています」と言うときの気持ちは本当でもあって、その心の防御壁のありようって一体何なんだろう、とはすごく思います。

結局、心の欠落を埋めるものを外に求める限り、一生悩みは尽きないし、ツラい想いをし続けるってことですかね。

―政治ドラマということで言うと、家入さんもインターネッ党で都知事選に出馬したことがありましたよね。

家入:ああ、その話しちゃいますか(苦笑)。いろんな政治家と会って最終的に感じたのは、政治って万能ではないなってことです。マイノリティーのためになる施策をやろうとすると、別の意見を持つ大多数の税金を使わざるをえないでしょう。そうするとマジョリティーは面白くない。「なんで俺たちの税金がこの人たちに使われるんだ」となるわけですよ。だから、政治でみんながハッピーになることは絶対にない。そういう場所で自分たちの居場所を作ろうとしても土台無理な話で、それでまた民間に戻ってビジネスをやっているんです。

―フランクも自分の居場所を作ろうとしていますよね。本来自分がいるべき居場所を奪われたことが、彼の原動力になっている。

家入:うん、僕はそういう視点で『ハウス・オブ・カード』を見てましたね。だから彼もかわいそうなんですよ。フランクも仲間を蹴落としたり、騙したりしますけど、必死になって自分の居場所を確保しようとするっていうのは、すごく人間っぽいです。

© Netflix. All Rights Reserved.
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―家入さんは、強いだけの人間としてフランクを見てないっていうことですね。

家入:そうですね。でも実際にフランクと会ったらなかなか仲良くはできないと思いますけど(笑)。

© Netflix. All Rights Reserved.
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フランシス・アンダーウッドと家入一真の比較画像
フランシス・アンダーウッドと家入一真の比較画像

―フランクの目標は、絶対的な権力を持つことですけど、その権力の実体がじつはよく掴めない。シリーズが進むごとにフランクはのし上がっていくけれど、決して満たされることはない。じゃあ、彼が求める「権力」って一体何なんだ、という疑問が湧いてくる。彼にとっての生きる目的って何なんでしょう?

家入:結局、心の欠落を埋めるものを外に求める限り、一生悩みは尽きないし、ツラい想いをし続けるってことですかね。

―それはツラい……!

家入:犯罪者の手記が好きでよく読むんですけど、読めば読むほど、大差ないんです。何かきっかけがあって、生きることに少しつまずいて、家のなかに引きこもりがちになっちゃってたりとか。自分が犯罪者になってもおかしくないなって常に思うんですよ。みんな犯罪者を批判したり、その家族を中傷したりしますけど、それって、自分は絶対そっち側にいくはずはないっていう考えを前提にしているでしょう。でも、何がきっかけで人殺ししちゃうかなんてわからないですよ。

家入一真

―事件が起こった後に、家庭環境や本人の行状を知って「こんな人間だったら犯罪者になってもおかしくない」って解釈しがちですけど、そんな判断は簡単にはできないですよね。

家入:逆にスティーブ・ジョブズとかは世界中の憧れの人物ですけど、エキセントリックな人間性でも有名でしょう。たまたま経営者やクリエイターとして成功したけれど、ひとつ道が違っていたら、もしかしたら……っていうのはよく考えることで。フランクは力のある政治家だけれど、一人の人間であるって視点で見ると、共感できるところがたくさんあるんですよね。

番組情報
『ハウス・オブ・カード 野望への階段』シーズン1~4

Netflixで全シーズン独占配信中

サービス情報
Netflix

世界最大級のオンラインストリーミングサービス。190以上の国で8100万人のメンバーが利用している。オリジナルコンテンツ、ドキュメンタリー、長編映画など、1日1億2500万時間を超える映画やドラマを配信。メンバーはあらゆるインターネット接続デバイスで、好きな時に、好きな場所から、好きなだけオンライン視聴可能。コマーシャルや契約期間の拘束は一切なく、思いのままに再生、一時停止、再開することができる。

プロフィール
家入一真 (いえいり かずま)

起業家。1978年福岡県出身。株式会社キメラ代表取締役CEO。JASDAQ上場企業「paperboy&co.(現GMOペパボ)」創業社長。クラウドファンディング「CAMPFIRE」代表取締役。スマートEC「BASE」共同創業取締役。カフェプロデュース・運営「partycompany Inc.」代表取締役。スタートアップベンチャー投資「partyfactory Inc.」代表取締役。モノづくり集団「Liverty」代表。現代の駆け込み寺(シェアハウス)「リバ邸」を全国に作るなど、リアルやネットを問わず、カフェやウェブサービスなど人の集まる場を創っている。50社程のスタートアップ・ベンチャー投資も行う。著書に『もっと自由に働きたい』『新装版 こんな僕でも社長になれた』『お金が教えてくれること』『15歳から、社長になれる』『バカ、アホ、ドジ、マヌケの成功者』『ぜんぜん気にしない技術』『ぼくらの未来のつくりかた』『我が逃走』など。



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