弱冠18歳、現役高校3年生のシンガーソングライター・みきなつみ。小さな体で大きなアコースティックギターを抱えながら歌う彼女の姿を初めて観たとき、驚いた。ひとりの少女が、世界になにかを語り掛けること。それが、こんなにも重く切迫感すら伴って響くのかと驚いたのだ。なにか社会的なメッセージを掲げているわけでも、巨大なファンタジーを語るわけでもない。ただ、彼女は目の前にある日常を――たとえば、気になる男の子のことや、友達との毎日を、歌っていた。そのごく平凡な日常は、あらかじめ失われることが決まっていて、だからこそ、彼女は「今、この瞬間」を歌にしなければ気が済まない。そんな切実さが、そこにはあったのだ。
去年、10代限定のフェス『未確認フェスティバル』のファイナリストとなり、同世代から注目を集め始めている彼女。話してみれば本当に素朴な18歳の女の子で、だからこそ、彼女が歌で伝えようとする想いは、絶対に失われてはならない宝物のようにも思えてくる。青春はいつか終わる。そのことを知りながら、みきなつみは自分の胸から湧き上がる声を歌に変えて、その行く先を、そっと見つめている。
私は、ずっと「意志がないよね」って周りに言われてきたんです。
―5月の『exPoP!!!!!』のライブでは、翌日が体育祭だって言っていましたよね。最近は学校でなにかありましたか?
みき:昨日、文化祭の出し物を決めるのに、委員のクラス代表の子が熱を出して休んじゃって。それで、私が代役でプレゼンに出たんです。みんなで話し合って、もう、ノート2枚分ぎっしりまとめて、「絶対に勝てる!」っていう準備をしていって。そしたら……負けたんですよ!
―ははは(笑)。
みき:もう、悔しくて! 人生で最後の文化祭ですよ?
―みきさんのクラスはなにがやりたかったんですか?
みき:お化け屋敷です。私の学校は1学年9クラスあるんですけど、全27クラスあるうち、20クラスが「お化け屋敷をやりたい」って言ったんですよ。その中でお化け屋敷をやれるのは、たった4クラスだけなんです。本当に悔しい! 私たちは真面目にプレゼンしたのに、結局、ノリでプレゼンした男子に負けて!
―ははははは!
みき:このクラスでお化け屋敷できるの、人生で最後だったのに……。結局、私たちがやるのは「プーさんのハニーハント」に決定したんですけど、それは絶対に頑張ります。
―はい(笑)。学校で周りを見渡してみて、みきさんのようにギターを持ってライブ活動をする人っていますか?
みき:ギターを弾いている子、結構いるんですよ。なので、いい環境だなって思っています。ライバル意識も、仲間意識も芽生えるから。毎週ライブをやっている子もいますね。
―みきさんもライブ活動は活発ですよね。今って、ネットを通して音楽を伝えていける時代だと思うんですけど、みきさんがライブにこだわる理由はなんですか?
みき:人と関わっていきたいんですよね。私も、TwitterやInstagramで30秒動画を上げたり、たまにツイキャスをやったりもしているんですけど、「人との繋がりで今の自分がいる」と思っているから、現実に人と繋がっていないと不安になるんです。
だけど最近、「そんなにライブをやっている暇があったら、他にやることがあるんじゃないの?」って言われて、ズーンって落ち込んで。出たいライブも断ったんですけど、結局は部屋にいてもウズウズしてきちゃって……。ひとりで部屋にいる時間があるんだったら、ライブをやって、みんなに会って、「頑張ろう!」って気持ちを上げたいと思っちゃうんですよね。
―そもそも、ギターを持ったきっかけは?
みき:元々、両親が音楽大好きだったんです。それで、よく一緒に聴いていたんですけど、あるときYUIさんを勧められたんですよ。「こんなに頑張っている子がいるよ」って。それで聴いてみたら、「ギター、かっこいいな」と思ったんですよね。そこからYUIさんばっかり聴くようになって。
あと、初めてギターの弾き語りを観たのは、阿部真央さんのライブだったんですけど、そこでも「これできたらかっこいいじゃん!」と思って。その二人の影響で、自分もギターを弾いて歌いたいと思ったんです。
―みきさんにとって、YUIさんや阿部真央さんの魅力って、どんな部分にあったんですか?
みき:やっぱり、「意志」が音楽や歌っている姿に見えるじゃないですか。私は、ずっと「意志がないよね」って周りに言われてきたんです。すぐにペラペラと適当に喋れちゃう人間なんですよ。言い訳も得意だし。その瞬間は感情が100にまでいくんだけど、次の日になると、もう感情がゼロに近いくらいまで減ってしまう……そういうことがたくさんあって、嫌なんです。だから、音楽だけでは、誤魔化せないなにかがほしかった。
―なにかを貫くような「意志」がほしくて、歌っている。
みき:そう……でも今も、まだ意志が足りないんですよ。「なりたぁ~い」って思っているだけ。
―なにに「なりたぁ~い」んですか?
みき:プロのミュージシャンです。私、妄想大好きなので、自分が武道館に立っている姿を想像したりするんですけど、そこまで行くには、もっと強い意志が絶対に必要なんですよ。でも今、私はそれを無理やり作ろうとしてしまっている気がして……だから、煮え切らなくて、すごくモヤモヤしているんです。「自分が強い意志を持てない原因はどこにあるんだろう?」って考えるんですけど……毎日、「自分、弱いな。逃げてるな」って思ってます。
音楽業界の人たちに、「なつみちゃんの曲は、いいんだけど、アマチュアっぽいんだよね」ってよく言われるんですよ。それが悔しくて。
―みきさんはまだ18歳ですよね。もうちょっと、ゆっくり考えてもいいような気もしちゃうんですけど。
みき:う~ん……やっぱり、『未確認フェスティバル』に応募したことが大きかったんですよ。『未確認フェス』のあと、「こんなに話が上手くいくのか?」って思うくらい話がトントン拍子に進んで……。
今、他人じゃなくて、自分がなにかしなきゃ変われないタイミングに来たんですよ。もう、誤魔化しがきかないんですよね。だからなんでもペラペラと喋れてしまうこの性格が、今はもう邪魔なんです。
―『未確認フェス』に出て以降、音楽業界の人と関わることも増えてきて、みきさんの年齢やキャラクターで許されてきた部分もあるけど、それだけでは越えられない壁が出てきた?
みき:そうなんです。音楽業界の人たちに、「なつみちゃんの曲は、いいんだけど、アマチュアっぽいんだよね」ってよく言われるんですよ。「まだ自分のためにしか音楽を作れていないんじゃない?」って。それが悔しくて……でも、自分の作る曲を客観的に聴いたら「たしかにそうかも」って思うし。
―「自分のための音楽」と「誰かのための音楽」の狭間で揺れているんですね。
みき:そう。たくさんの人に聴いてもらいたいっていう気持ちは大きいけど、誰かのために歌うより、自分のことを歌う方が気持ちは入るし、今は自分のためにしか歌えないような気がして。……私、最近、My Hair is Bad(以下、マイヘア)が大好きなんです。
―マイヘア、僕も大好きです。
みき:かっこいいですよね。言葉の力がすごいなって思う。マイヘアって、今まで憧れていたYUIさんとか阿部真央さんのようなシンガーソングライターとは全然違うんです。新しいんですよ、自分の中で。マイヘアの“卒業”を聴いて、<渋谷駅前は今日もうるさいな>なんて……「そんな個人的なこと歌っていいのか!」と思ったんです。「固有名詞とか、ありなんだ?」って。
―マイヘアのコンポーザーである椎木知仁は、もう徹底して「自分のこと」を歌いますよね。メジャーデビューして状況が変わっても、最新曲“戦争を知らない大人たち”で歌われているのは、やっぱり「自分」。
みき:そうなんですよね。
やっぱり、自分を制御したくない。今まで、本当は思っていたけど歌えなかったことを歌いたいです。
―マイヘアは、みきさんの周りが言う「アマチュアっぽさ」の極致かもしれないですよね。彼の歌う言葉はあまりにも「彼自身」過ぎるから。でも、ライブを観ると涙する人すらいるのは、ただただ「自分が生きている」ということを表現するがゆえの強度が、そこにはあるからだと思うんですね。
みき:なるほど……。最近、歌詞の書き方も椎木さんの影響で変わってきたんですよ。この間の『exPoP!!!!!』で、“赤裸々白書”っていう曲を最後にやったんですけど……。
―あの曲、すごくよかったです。<歌えてると思ってた歌は これじゃレコーディングもできないな だってさ>とか、周りの音楽業界の人たちに言われたことに対する悔しさや、音楽で食べていくことの難しさを直接的に歌っていましたよね。
みき:あの日、初めて歌ったんですよ。音楽関係の人たちにボロクソに言われて、帰りの電車の中で、もう脱水症状になるんじゃないかって思うくらい涙が止まらなかったときに書いた曲なんです。
―<今日は母の日だった なんのプレゼントも用意していなかった 新宿駅 南口の花屋 赤とピンク>と、固有名詞を入れながら歌っていますが、これはまさにその日自分が見た景色をそのまま込めたもの?
みき:そうなんです。「これ、歌ったらやばいかな?」っていう思いもあったんですけど、いざ歌ってみたら、本当にスッキリしたんですよ。言えなかったことも言えたし。……あれ? 今日、ここ最近モヤモヤと悩んでいたことが解決するかもしれない(笑)。
―今日、できる限り言葉にしてみましょうよ。
みき:そうですね……やっぱり、真に迫った言葉を歌いたいんです。勝手な妄想だけど、女版「椎木知仁」になりたいくらいです。今まで、綺麗な言葉で、たくさんの人に受け入れられたいという思いで書いてきたし、“あんぱんまんのうた”みたいな、万人に届く言葉を探してきたけど、本当に響くのは……。
私が響くと思うのは、自分が見た景色を、身近にある言葉を使って歌うことなんです。綺麗な言葉を探す方が楽だけど、やっぱり自分を制御したくない。今まで、本当は思っていたけど歌えなかったことを歌いたいです。
―みきさんは、今、自分が見た景色を歌い続けていくべきなんだろうと個人的には思います。自分が変わるにつれて、段々と歌の在り方も変わっていくだろうから。
みき:みんなが言葉にしないだけで、本当は思っていることってあると思うんですよ。私は、それを音楽にしたい、歌にしたいと思う。
中1の頃、親友が事故で亡くなっちゃったんです。「おばあちゃんだってまだ生きているのに、なんで?」って。
―みきさんの歌を聴いていると、「今」をすごく大事にしているんだなと思うんです。もちろんマイヘアはじめ、聴いてきた音楽からの影響もあるとは思うんですけど、本質的な素養として、目の前にある景色や、瞬間最大風速的な想いを歌にしている人なんだろうと思うんですよね。
みき:今しか書けない歌詞ってあると思うんですよ。たとえば「窓の外を見て、学生服の男の子をかっこいいなと思った」みたいなことって、今しか歌えないじゃないですか。やっぱり、今書いて、今歌うからこそ意味があるし、それを聴いてくれる同じような想いを持った同世代の人たちと、一緒に大人になりたいなって思うんです。
―それは裏を返すと、「今、この瞬間はすぐに消えてなくなってしまうんだ」という切なさが、みきさんの根底にあるということだと思うんですよ。
みき:そうですね。それは最近、すごく実感していて。たとえば最初に話した文化祭のこととか……高校3年生になって、すべての行事が最後になるんですよ。そういうことに直面すると、「でも、生きているんだな」とか「いつかは死ぬんだな」と思ったり。
―“Flower”という曲で、明確に<私は歌を歌って伝えるよ 今しか歌えない歌があるから>と歌っていますよね。この曲はどのようにして生まれた曲なんですか?
みき:すごく仲がよかった親友がいて……「ハナ」っていうんですけど、中1の頃、その子が事故で亡くなっちゃったんです。4人組で仲よくて、小学校の頃、ずっと一緒にいた子だったんですけど。その子にいっぱい音楽を教えてもらったんです。
ハナは羨ましいくらいに可愛い声をしていて、いつも廊下で一緒に歌っていたんです。でも……中1で、「死ぬ」とか、考えることができなくて。「おばあちゃんだってまだ生きているのに、なんで?」って。そのとき、「この気持ちはこのままにしておいていいのかな?」と思って、歌詞を書いたんです。ずっと引きずっていたんですけど、高校に入って音楽活動を始めて、歌詞をメロディーにのせることができるようになって。
―気持ちを音楽にできたんですね。
みき:はい。ただ、最初は歌えなかったんですよ。思い出しちゃうから。でも、これは今しか歌えないことだし、この曲を歌うことで、聴いた人になにかを感じてもらいたいなって思ったときに、やっと歌えるようになったんです。今年に入って、やっとハナのお母さんにも聴いてもらえたんですよ。「作ってくれてありがとう」って言われて、すごく嬉しかった。
―「今」を歌うことって、「今」を残していくことでもありますよね。“Flower”は<神様はいるのでしょうか>というラインで始まりますけど、みきさんの歌は、神様とか運命とか、そういう大きなものに対して、「簡単に過去にされてたまるか」って抗おうとしているように聴こえてくるんですよね。
みき:あぁ……そういう気持ちも入っているかもしれないです。今、目の前にあるものが「簡単に終わってほしくない」って、たしかに思います。ハナのお母さんに「ありがとう」って言われたとき、「音楽、絶対に頑張ろう」と思ったんです。きっと私はまだ本当の挫折を知らないし、この先、今よりもっと辛いこともあるし、上手くいかないこともあると思うんですけど、絶対に音楽をやめたくないって思いますね。
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- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume87』
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2016年7月27日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
SATORI
TWEEDEES
杏窪彌
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料金:無料(2ドリンク別)
※会場入口で音楽アプリ「Eggs」の起動画面を提示すると入場時の1ドリンク分無料
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