歳を重ねるのは素敵なこと ALI PROJECT、七変化する25年の裏側

24年前のメジャーデビューから、クラシックやゴシック、プログレを昇華し、唯一無二の世界観を作り上げてきたALI PROJECT。作詞・ボーカルを担当する宝野アリカは、その歌だけでなく、常に我々の予想を遥かに超えるビジュアルの世界観でも多くの人を魅了し続けている。8月24日にリリースされる16枚目のオリジナルアルバム『A級戒厳令』のビジュアルも、彼女の一声から作り上げられたものだ。

そこで今回は宝野に加え、ヘアメイクを担当する橘房図、衣装デザインを担当するタダカイエというALI PROJECTを支えるチームスタッフに集結してもらった。一貫したクリエイティブをストイックに続ける彼女たちが語る、女性としての「豊かな歳の重ね方」は意外にも誰もがすぐに真似できる。一つのものを共に作り上げるための「いいチーム」の在り方や、第一線で活躍し続ける秘訣など、三人それぞれの目線で大いに語ってもらった。

鏡のドレス、骨のかんざし……ALI PROJECTの「無理難題」なオーダーとは?

―ALI PROJECTチームとしてアリカさんの創作を支えているのが、ヘアメイクの橘房図さんと衣装デザイナーのタダカイエさんですが、お二人はアリカさんとはどれくらいのお付き合いになるんですか?

:『亡國覚醒カタルシス』(2006年発表のシングル)のジャケットからなので、ちょうど10年ですね。当時、私が独立したてだったのと、その撮影場所がSMホテルだったこともあって、緊張と衝撃の現場でした(笑)。

左から:タダカイエ、宝野アリカ、橘房図
左から:タダカイエ、宝野アリカ、橘房図

宝野:そうそう、SMホテル(笑)。あれを最初にやったら、もうその後は怖いものなしよね。

:そうですね(笑)。

ALI PROJECT『亡國覚醒カタルシス』ジャケット
ALI PROJECT『亡國覚醒カタルシス』ジャケット

宝野:カイエさんとは、最初はALI PROJECTとしてではなく、『Gothic&Lolita Bible』という雑誌でカイエさんのお洋服を着させてもらったのがきっかけだったと思うんだけど。

タダ:それがいつ頃でしたっけ……全然思い出せない。『刀と鞘』とか『亂世エロイカ』(いずれも2010年発表のシングル)とか……その前にも1、2着やった気がするんですけど。私も衝撃が多すぎて忘れちゃいました(笑)。

宝野:その頃からだと、6、7年のお付き合いになりますね。カイエさんには、花魁っぽいものや、半分がロリータで半分が騎士みたいなものとか、本当に素敵な衣装を作ってもらっているんです。

ALI PROJECT『刀と鞘』(通常盤)ジャケット
ALI PROJECT『刀と鞘』(通常盤)ジャケット

ALI PROJECT『亂世エロイカ』ジャケット
ALI PROJECT『亂世エロイカ』ジャケット

―アイデアが本当に豊富だと思うのですが、そういったビジュアルの世界観はどうやって作り上げていくんですか?

宝野:やっぱり、そこは曲ありきです。曲の世界観はもちろんですが、アニメのタイアップをやることも多いので、それを意識しながらどういうビジュアルにするかを、まずは自分で考えます。それをカイエさんに渡して……。

宝野アリカ

タダ:それをそのまま作ります。

宝野:そう、そのまま作ってくれるんです。でも、けっこう無理難題をお願いしてるよね? 一度、海外の砂漠で撮影するから、それが反射するような鏡のドレスを作ってほしいとお願いしたことがあって。

タダ:ありましたね(笑)。鏡の衣装をお願いします、でも海外に持っていくから解体できるやつじゃないとダメなんですって言われて。「ん? 組み立てる方式……!?」と思って(笑)。そういう「無理難題コンテスト」が多いです(笑)。

鏡のドレス
鏡のドレス

鏡のドレス
鏡のドレス

―無理難題コンテスト(笑)。橘さんにもそういった「無理難題」が降りてくることもあるんですか?

宝野:花魁は大変だったでしょう? 花魁と言っても妖怪の花魁だから、普通とはちょっと違って。

:そうでしたね。その時は骨をかんざしにしたいっていうオーダーだったんですけど、大きい骨ってどうやって手に入れればいいんだろう? って(笑)。以前、小動物の骨を使ったことがあったので、そのときに骨を買ったところに問い合わせたり、いろいろ調べたんですけど見つからなくて。ケンタッキーの骨とかいいかなと思って実際食べてみたりもしたんですけど、意外と細かい骨しかないんですよね(笑)。

ALI PROJECT『刀と鞘』初回限定盤ジャケット
ALI PROJECT『刀と鞘』初回限定盤ジャケット

宝野:そうだったのね! 最終的にあの骨はどうやって用意してくれたんだっけ?

:実家の母に相談したんですよ。そしたら、母がお肉屋さんに行ったときに犬のエサ用の骨付き薫製肉があったって言って、それを送ってくれたんです。それがまた、いい感じの骨で。

宝野:アンティークっぽくてね。燻されてるからちょっと茶色くて(笑)。

:香ばしい匂いがしましたね(笑)。

橘房図

―そんな無茶ぶりとも思えるアリカさんからのオーダーを、お二人はどう感じてるんですか?

タダ:アリカさんの場合、こうしたいっていう世界観がはっきりしているので逆にやりやすいです。やりやすいっていうことと、それを作れるかってことは別なんですけど、でも、基本的に作っていて楽しいものばかりです。

:私も、無理難題であればあるほど燃えるというか。あと、アリカさんに「わぁ~!」って言ってもらえるのも楽しみなんです。

感性を枯渇させないために、宝野アリカが実践していること。

―撮影用のヘアメイクはいつもどんな風にされているんですか?

:今回のアルバム『A級戒厳令』の場合だと、衣装フィッティングの時にアリカさんから「アーティスト写真は、ブロンドでこんなイメージの髪型」っていうのを聞いて、ブロンドはブロンドでも、この衣装だったら黄色がかっているほうが素敵かなとか考えて。「ジャケット写真はモノトーンの髪にしたい」と言われたんですけど、全体のバランスを見ながら作っていきたい部分もあるので、最近は、事前にウィッグを作らずに、現場に素材を持って行ってその場で作ることも多いです。

ALI PROJECTアーティスト写真
ALI PROJECTアーティスト写真

ALI PROJECT『A級厳戒令』初回限定盤ジャケット
ALI PROJECT『A級厳戒令』初回限定盤ジャケット

宝野:ジャケ写撮影のときも、白い毛の束をいっぱい抱えて来て(笑)。

:メイクもほとんど当日にアリカさんからイメージを聞いて、その場でやりながら決めていきます。

宝野:そうそう。今回のビジュアルを決定するのに、最初はちょっと迷ったんです。戒厳令っていうと軍服をイメージするけど、軍服は前に一度やったことがあって。やっぱり、一回やったことはやりたくないし、見た人が「お!」って思ってくれるものをやりたい。どうしようって思っていたら、たまたまカイエさんが冠をたくさん持っていることが判明して。

タダ:実は冠コレクターなんです。

宝野:ちょうど、女王様の戒厳令と言ったら冠かなぁ、なんて思っていたので、そこからトントントンと決まっていったんです。

―そういったビジュアル面のアイデアはもちろん、アリカさんが書く歌詞も遊び心豊かな言葉が多い印象なのですが、普段からいろいろと勉強されているんですか?

宝野:特別何かしているわけではないんですよ。でも、例えば風景を見たり、絵を見たり、本を読んだり……仕事じゃないときも何気なくやっていることが、いざ作品を作ろうとしたときにちゃんと頭の中から出てくる感じはします。なので、普段からぼーっと暮らさないようにしたいなと思っていますね。

タダ:アリカさんのすごいところは、興味があることとなれば、デパートでも美術館でも、ありとあらゆるところにひたすら行くところじゃないですか。

宝野:あ~、それはそうね。でも、ものを作る人……二人みたいなヘアメイクさんや衣装さんも、みんなそうだと思うんですけど、自分の中に蓄積されたものから自然と表現が出てくるというか。何もできないときとか、すごく苦しいときもあるけど、自分の中に溜まっているものを引き出していく作業が、創作するってことなんじゃないかと思います。

タダ:「自分の好きなものを仕事にできていいね」ってよく言われますけど、自分の好きなものを仕事にするということは、それが行き詰まったときに全否定された気になってしまうこともあると思うんです。

アーティストの場合はどこかで感性が枯渇するケースも多いので、そうならないようにいろんなものを見たりして、自分の間口を広げ続けることは大切だと思います。たとえば、私の友人は1か月に10本映画を見るって決めたりしています。自分がすることを決めちゃえばいんですよ。

タダカイエ

―ALI PROJECTは来年メジャーデビュー25周年を迎えますが、ずっとこういったクリエイティブのスタイルを貫いている姿がとてもかっこいいと思います。投げ出したくなったり、くじけそうになったことはないんですか?

宝野:私は、メジャーデビュー前を入れると、もう30年近く活動していることになるんですけど、やっぱり30年前だと音楽の形態が特殊すぎて受け入れてもらえないことが非常に多かったんです。でも、それで辞めようと思ったことはありません。自分がやりたいことをやって、それを好きになってくれる人がいたら、その人たちがずっと聴いてくれたらいいなっていう気持ちでやってきたから。

―その気持ちの根底には「何かを表現したい」という想いがあったのでしょうか?

宝野:みんなよくそういう風に「何を表現したいんですか?」とか「表現する仕事に就きたいんですか?」って言うけど、私には自分を表現するっていうのがよくわからないんです。

宝野アリカ

―というのは?

宝野:自分の表現したいことをするんじゃなくて、何かをするから表現できるっていうのかな。何かを表現したい、何かを人にアピールしたいというより、まずは「こういうのを作ろう」というのが基本にあったうえで、それを誰かが見てくれるという感じのほうが強いんです。

―なるほど。ただ、キャリアや年齢を重ねるにつれ、「自分がこれをやってみたい」というものを見出すのが難しくなってきたりしませんか? とくにALI PROJECTの場合は毎回違う世界観を見せているので、過去を超える作品を作り続けるのは大変だろうと想像するのですが。

宝野:大変ではあるけれど、それでないとやっている意味がないと思います。いつも同じことばかりじゃつまらないから。そういう意味でも歳を重ねていくことは素敵なことですよね。

日本ってわりと若者文化じゃないですか。もちろん若いときに、いろいろいいこともあるかもしれないけど……歳を取ってからのほうが楽しいし、豊かな感じがする。歳を取ると感受性が衰えていくってよく聞くけど、私は全然違うと思う。

―それは実感として感じますか?

宝野:そう、実感として。若いときよりも今のほうが美しいものをもっと美しく感じるし、醜いものをもっと醜く感じる。辛くなるほど、感覚が深まっていく感じがします。

だからこそ、女性は歳を取ったら終わりみたいな考えは違うと思うけど、そうやって自分で思い込んでいる女性もいっぱいいると思うんです。「私はもうおばさんだからこんな服は着られない」とか。海外に行くとマダムたちが生き生きとしてるから、日本もそうなればいいのにって思うんですよね。

「いいチーム」とは、一つのものに向かっていくとき、先を見つめる眼差しが同じであること。

―そうやって自分自身を制限せずに広げていくことが、第一線で活躍し続けるみなさんの「続けるコツ」なのでしょうか。他にも心掛けていることはありますか?

タダ:会社員の人たちと同じですよ。わかりやすい書類を作るのと同じで、見た瞬間にわかるものを作るとか。ただ、常に作ったものが問われ続けるという意味では、責任がダイレクトにかかってくるっていうのがありますね。

自分だけが負う責任ならいいですけど、私やフーさん(橘)はALI PROJECTという長い歴史の中の一所で作品を作らせていただいているから、自分のやったことが自分だけの責任にならないところもあります。だから、どういうものが求められていて、どういうものを伝えられるかということに対してプロでいたいと思ってます。

宝野:たしかに、一人ひとりプロでありたいと思いますよね。一人だと苦しいことも、こういうチームがいると救われることがたくさんあります。

左から:タダカイエ、宝野アリカ、橘房図

―アリカさんが思う、いいチームとはどういったものでしょう?

宝野:好きなものや嫌いなもの、趣味とかが違っても、一つのものに向かっていくとき、先を見つめる眼差しが同じであること、かな。

フーちゃんもカイエさんも、私自身も他にいろんな仕事をしているけど、「コレを作る」となったら、完成を目指していくときに気持ちが触れ合うんです。そういうのが目標に向かっていく力になるんだと思います。それこそ、きっと会社のチームだって同じだと思いますよ。

―会社のチームとか部署の場合、働くことの目的自体が個人でそれぞれ違ったりする場合もありますし、意識を同じ方向に向けることが難しいかもしれません……。

タダ:もし会社に目的意識を持てないんだとしたら、会社はお給料をいただくところと割り切って、プロフェッショナルとしてやるべきことをやって、趣味でいろんなものを見て、見聞を広げることが大切な気がします。やっぱり、家と会社の往復だけだと心は枯渇すると思うんですよ。何もない365日より、何か1個ずつやれば365個残るから。そうやって積み重ねていくと、40歳や50歳になったときに全然違うよって思うんですよね。

―おっしゃる通りですね。では最後になりますが、ALI PROJECTの今後の展望を教えてください。

宝野:ALI PROJECTはまだまだ続けていきたいですね。これまでも毎年アルバムを作っていて。作っている最中は苦しいときもあるし、ふと我に返って、なんでこんなに必死になって毎年作っているんだろう? と思ったりもするんですけど、作り終えた途端、来年はこういうのがやりたいなって思うんです。今年も『A級戒厳令』が完成したばかりだけど、もう来年やりたいことがあるんですよ。もしかしたらビジュアル的にはちょっと地味かも……。

タダ:大丈夫ですよ。地味かもって話はこれまでも何度か聞きましたけど、その通りになったことありませんから(笑)。

左から:タダカイエ、宝野アリカ、橘房図

宝野:そうね(笑)。実際に作り始めるまでに他にやりたいことができるかもしれないし。フーちゃんとも話してたんだけど、次は「蝶々」がいいなって。以前『Les Papillpns』(2011年発表)というアルバムでもやったことがあるんですけど、そのときはジャケットに蝶々が飛んでいるくらいだったんです。

:そう、だから今回は、アリカさんが蝶々になりたいって。

タダ:身体が蝶々の胴体になるとかですか!?(笑)

宝野:例えば、蝶々の羽でドレスができているとか、サナギから出てくるとか……。

タダ:サナギ……!

宝野:美しくはしたいんだけど、ダメな人はダメっていうくらいのものがいいと思って。エゲツないほど美しい蝶々。あ、耳の部分を蝶々にするのもいいかも。

タダ:いつもこんな風にアイデアがポンポン出てくるんです。で、私とフーさんはそれを持ち帰って、どうしよう……みたいな(笑)。

宝野:今までいろいろやってきましたけど、まだあれをやってない、これをやってないっていうのがあるんです。たぶん、この先もまだまだ尽きないと思います。

リリース情報
ALI PROJECT
『A級戒厳令』初回限定盤(CD+DVD)

2016年8月24日(水)発売
価格:4,500円(税込)
TKCU-78106

[CD]
1. 永久戒厳令
2. 異種革命
3. 薔薇美と百合寧の不思議なホテル
4. 絶叫哲学
5. 最後の美術館
6. 昭和B級下手喰い道
7. 女化生舞楽図
8. まだら恋椿外道
9. 悪しき進化
10. 泣き虫派ダリ
[DVD]
・『TOUR 2015 渋谷公会堂 倶楽部エピキュリアン快楽交歓会のススメ』より9曲抜粋

ALI PROJECT
『A級戒厳令』通常盤(CD)

2016年8月24日(水)発売
価格:3,100円(税込)
TKCU-78107

1. 永久戒厳令
2. 異種革命
3. 薔薇美と百合寧の不思議なホテル
4. 絶叫哲学
5. 最後の美術館
6. 昭和B級下手喰い道
7. 女化生舞楽図
8. まだら恋椿外道
9. 悪しき進化
10. 泣き虫派ダリ
11. 妄想水族館(ボーナストラック)

プロフィール
ALI PROJECT
ALI PROJECT (ありぷろじぇくと)

作詞ボーカル・宝野アリカと、作曲編曲・片倉三起也によるユニット。独創的なメロディとアレンジ、文学的な歌詞、先鋭的なビジュアルで、幅広いファン層を魅了する。多数のアニメ主題歌を手掛け、2013年2月には、音楽、映像、美術、デザイン、ポスターから衣裳、舞台アートにいたるまでの独特で多様な視聴覚芸術をつめ込んだ、活動を総覧する『20年に一度の総合芸術展』と称される豪華なシングルコレクションをリリースした。2016年8月24日にアルバム『A級厳戒令』をリリースする。

タダカイエ

衣装制作。女子美術大学卒。オートクチュールブランドのデザイナーに進んだ後、独立。舞台衣装や、声優、アーティストを中心に衣装提供するアメリカの衣装コンテストに入賞や第一位を獲得等、製作作品に評価が高いゴスロリ系ブランドTriple*fortuneを起業し、デザイナーを務めている。「Gothic&Lolita Bible」や「KERA」などファッション雑誌に多数掲載しその生産の希少価値もあって、大人気ブランド。海外のショウも頻繁に行なうなど、世界中にファンがいる。

橘房図 (たちばな ふさえ)

ヘアメイクアップアーティスト。1980年静岡県生まれ。2001年文化服装学院ファッション流通専攻科卒業後、資生堂美容技術専門学校に入学。2003年に同校を卒業。冨沢ノボル氏に師事。雑誌、広告、カタログ、musicianなど幅広い分野で活動中。



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