Avec AvecとSeihoというふたつの才能がタッグを組み、独自のポップスを追求するユニット=Sugar's Campaign。やはり、彼らは相当に面白い。
そもそもAvec AvecにしろSeihoにしろ、それぞれがソロでも多方面で活躍していて、2016年の上半期を振り返ってみても、Avec Avecは楽曲提供、リミックス、CM音楽や劇伴を数多く手掛け、Seihoはソロアルバムのワールドワイドリリースや三浦大知とのコラボレーションなど、幅広い活動を行っている。それでも、彼らがSugar's Campaignを大切にしているのは、この二人だからこそ起こりうるケミストリーが確実に存在しているからだ。
メジャーデビュー作『FRIENDS』に続く2ndアルバムのタイトルは『ママゴト』。「家族」をテーマに作られた本作は、「幸せな4人家族」のストーリーを軸にして、まだ名前のついていない感情を描き出すと同時に、「役割」について深く考察する。そして、本作においてもうひとつ重要なのが、彼らの思う「本当のポップス」と改めて向き合ったということであり、1990年代J-POPをデフォルメしたようなタイトルトラックをはじめ、その成果は確実にアルバムに反映されている。それでは、Avec AvecとSeihoに存分に語ってもらおう。
バグのように生まれたものこそが長く聴かれるポップスになると思うんです。(Avec Avec)
―『ママゴト』の資料には、「真面目にポップミュージックと向き合い、長年寄り添い聴いてもらえる音楽を目指しました」(Avec Avec)、「今作は『本当のポップスとはなんぞや?』ということと向き合ったんです」(Seiho)とのコメントがありました。これらのコメントの背景にはどのような想いがあったのでしょうか?
Avec Avec:僕が最近思っていたのは、みんながすごく合理的なゴールに向かっているということで。それに違和感があったんです。ポップスって、案外「みんなが好きで、すごく合理的なもの」みたいに思われがちじゃないですか? でも僕は、むしろ合理的なもの、最適化されているものから外れて、バグのように生まれたものこそが長く聴かれるポップスになると思うんです。普遍性というのは、そうやって獲得されると思う。それが今回のアルバムを作るきっかけになっています。
Seiho:『FRIENDS』(2015年)のときは、「大人と子供」を題材にして、「小さいときに親の車で聴いてた音楽」とか「夏休みの朝にやってたアニメのエンディングがちょっと大人びている」みたいな、どこかノスタルジックな感覚を込めた作品だったと思うんですね。
Avec Avec:「この感覚みんな持ってるよね」っていう、切なくて、懐かしくて、何とも掴みどころのない感覚を音楽でどう表現するのか。『FRIENDS』はそこから考えて、「既視感」とか「共感」みたいなことがテーマになっていたんです。
Seiho:ポップスって、「何かこういう感覚ってあるけど、まだ形になってないよな」というものを生み出すことだと思うんですよ。でも、Takuma(Avec Avec)が言ったその感覚が、一言で言えるようになってきて、ジャンルにもなっちゃって、みんながそういうものを作ろうとしだした。そのときに、「それじゃあポップスは生まれへんな」って思ったんです。だから次は、もう一回、まだ漠然としている「わからないこと」に向き合おうと思って。
Avec Avec:その漠然としたものの中からどの感覚を掴んで作品にするかを考えたときに、「家族」がテーマになったんです。
Seiho:あと「猿」ですね。
Avec Avec:「人工知能」もね。話の段階があるんやけど、今一気に飛んじゃった(笑)。
「家族」をテーマにすることで、僕もTakumaも真剣に主観で向き合うことになるんです。(Seiho)
―“レストラン-熱帯猿-”という曲があるのは気になってましたけど、いきなり「猿」と言われても正直わからないです(笑)。順番にいくと、最初におっしゃった「合理化」とか「最適化」の方にいかないというのは、前回のtofubeatsさんとの対談(メジャーでやる意味って何だ? Sugar's Campaign×tofubeats)のときもキーワードになった「相対的」であることの重要性、つまりは主観と客観の両方の視点があることの重要性という話とも通じるように思います。
Avec Avec:なぜ僕らが客観をずっと意識してきたかというと、ものすごく強烈な主観があるからなんですよ。それは僕からしたらコンプレックスやけど、Seihoからしたら、それが誇りというか……。
Seiho:人生、そのものやな。
Avec Avec:そこの違いはあるにせよ、とにかく主観があるからこそ、客観を大事にしていたんです。でも、今はみんなが客観だけを大事にして、誰しもが俯瞰してるみたいな感じになってきたと思うんですよね。インターネットって、情報がすごく多いわけじゃないですか? その中でみんな「これもいいし、これもいいし、これもいいよね」って言ってしまうようになった。僕らはそうじゃなくて、「これがいい」というものが強烈に決まっているからこそ、その視点ではない自分を持とうとしたんです。
Seiho:だから、今回はまたその逆で、自分たちの主観をもう一回しっかり出そうと思ったということです。
―そこからなぜ「家族」がテーマになったのでしょう?
Seiho:「家族」って俯瞰できないんですよね。家族の話をするときって、自分の家族を前提に話をするしかないから。「お母さんって、すぐ怒るやん?」と言ったって、他の人たちも「あるある」とはならないですよね。それは自分のお母さんのことでしかないわけで。だから、「家族」をテーマにすることで、僕もTakumaも真剣に主観で向き合うことになるんです。
それを前提としたうえで、“ママゴト”に関しては「なるべくストレートにしたい」と思いながら二人で組み上げていった結果、1990年代J-POPっぽくなったっていうのが面白いと思っていて。別に90年代J-POPを意識して歌詞をそれっぽくしたわけではなくて、ただ主観的に「これがいい」と思ったものをアウトプットしただけなんです。たぶん、90年代の人たちがやっていたのもそういう作業で、その時代の中でちゃんと愛について真剣に歌った結果、あのサウンドになったんだと思うんですよ。
僕らにとっては合理的ではないアクションを起こすことが大事だったんです。(Avec Avec)
―テーマの設定が変わったことによって、曲作りの方法も変わったのでしょうか?
Seiho:今までやってきた「あるある」とか「オマージュ」は、過去の音楽から引用してくることで作れるけど、今回は漠然としたテーマとかストーリーの中で音楽を作ってみて、その音を自分たちで聴いてみてどこに分類されるのかを考える、という作業をやりました。つまり、テーマから分析した結果として音楽を作るのではなくて、正直に出した音楽を分析した結果が今回のアルバムっていうのかな。
Avec Avec:テーマは先に決めるんですけど、音の方向性を先行させないということが大事だったんです。今回「偶然」という言葉もよく使ってるんですけど、テーマを話し合って、「こういうストーリーでいこう」って決めたら、まず音を出しちゃう。それでできたものを聴いて、「こういうことなんかな」って改めて感じて、それをさらにデフォルメして、ということをやりました。
―先にゴールを設定せずに、まずは音を出してみることが重要だったと。
Avec Avec:最初に言った「バグ」という話もそうで、僕らにとっては合理的ではないアクションを起こすことが大事だったんです。去年の冬に、今回のアルバムのための合宿をしたんですけど、それもその一環で。今まで合宿なんてしたことなかったけど、それをすることで何か発生するんじゃないかと思ったんです。今回は、バランスを取るのではなく、意図的にバグを起こすことを頑張りました。
―ある種の偶然で生まれた“ママゴト”の1990年代感を、そこからよりデフォルメしていくにあたっては、どんなことがポイントになりましたか?
Seiho:ひとつはカラオケ居酒屋カルチャー。「和民」って90年代にできているんですけど、大学生が居酒屋に行って、かかってる曲のサビだけ知っていて、カラオケに行ってその曲をみんなで歌うみたいな、あのカルチャーの感じ。あと90年代にはトレンディードラマからの流れで、トレンディーなんだけど家族をテーマにしたドラマも多かったから、そういうのも意識してます。
Avec Avec:もっと言うと、90年代って、50年代~60年代リバイバルの時代でもあるから、そこら辺とのリンクも音に出てると思うんですよね。でもそれも意図的ではなくて、あとから「そういうことか」って自分たちでもわかったんです。
Seiho:これ聴くとみんな「ビーイング(1990年代に織田哲郎、大黒摩季、B'zなどのヒットを出したレコード会社 / マネージメント事務所)っぽい」って言うんですけど……。
Avec Avec:でも、ここには織田哲郎さんの中にある大瀧詠一さんの要素も出ていて、「あ、そういうことか」って。
「偶然が大事」っていうのと、猿の話がつながるんですよ。(Avec Avec)
―途中で「人工知能」と「猿」というワードが挙がっていましたが、このアルバムは「家族」がテーマで、“ポテサラ”や“ママゴト”ではストレートに家族のつながりを描きつつ、人口知能がテーマになった“1987”や“レストラン-熱帯猿-”といった後半の曲は、家族の不安定さも示しているようで、ここにも相対性を感じました。
Seiho:そこは結構意識してますね。もともとは幸せな4人家族の話を前提にしているんですけど、それはSugar's Campaignにとってというか、ポップスにとって「幸せ」って大事だと思うからなんです。その上で、家族にとって「血がつながっている」ということはホントに大事なのかどうかを、一回崩して考えてみたのが後半の曲というか。
Avec Avec:そもそも「家族とは何か?」を考えたときに、血縁なのか、一緒に住む時間が問題なのかって考えたんですけど、そのどちらでもなくて、運命を引き受けざるを得ない状態が家族なのではないかと思ったんです。血縁とか家柄というのは、その一番わかりやすい例だというだけで、たとえ血がつながってなくても、引き受けないといけない運命の関係が家族なんじゃないかって。
Seiho:その考えを色濃く出すために、家族のバランスを崩してみる必要があって、それが人工知能と猿(笑)。そこまで含めて「家族」というものを考えてみたんです。
―「猿」と「家族」がどうつながるわけですか?
Avec Avec:さっきの「どうしようもない運命を引き受ける」って、子供がそうなんです。精子って山ほどあるわけで、子供って偶然できるものじゃないですか? その「偶然が大事」っていうのと、猿の話がつながるんですよ。
―……もう少し説明をお願いします(笑)。
ネアンデルタール人がどうやって意思疎通をしていたかというと、歌ってたらしいんですよ。(Seiho)
Seiho:もともと僕らは猿から進化した存在なわけじゃないですか? で、その進化の途中でクロマニヨン人がネアンデルタール人を絶滅させて生き残ったんですけど、そのふたつの大きな違いって、クロマニヨン人は言語を持っていたということなんです。ネアンデルタール人がどうやって意思疎通をしていたかというと、歌ってたらしいんですよ。
Avec Avec:音楽でコミュニケーションを取ってたんです。「歌う」って、全体を伝えられるというか、感情がそのままダイレクトに伝わるんですよね。言葉だと「嬉しい」とか「悲しい」って言っても、僕の「嬉しい」とあなたの「嬉しい」は違うから、お互い想像するしかない。でも、悲しい歌を歌ったら、その悲しみが直接届く。音楽ってそういう全体性を持ってるんですよ。
Seiho:例えば、コミカルな会話をしていても、真剣な音楽が流れたら、会話自体が真剣に聞こえるじゃないですか? 言葉の意味を変えるくらい、音は全体性を持っているんですよ。で、ボノボ(ヒト科チンパンジー属に分類される霊長類)って言葉を理解すると言われていて、「林檎を持ってきて」って言うと、ちゃんと林檎を持ってくるんですけど、実は「林檎」って言葉を理解してるわけではなくて、人間の「林檎を持ってきてほしい」という感覚を共有してるらしいんです。
Avec Avec:「林檎」って言ったときの目線とか、その場の空気全体から判断して、ボノボは林檎を持ってくるらしい。それに対して、僕らはあまりに言語が発達しすぎたせいで、物事をデジタルに処理するかのように言語を処理してしまって、要らない部分を排除してしまう。それって合理的すぎるんですよね。僕らはもっと感情の部分を大事にした方がいいんじゃないかと思ったんです。
Seiho:アルバムの話につなげると、まずテーマとかストーリーがあって、それに対して思ったこととか感じたことを感情のままに一回音にしてみる。その音を後から客観的に見て、ブラッシュアップしてるわけです。
―ああ、ここで「偶然性」の話ともつながりましたね。
Avec Avec:技術とかルールを超えて、全体とか感情の方が大事だということを強く意識したんです。
Seiho:それが「猿」ということなんです。
Avec Avec:「人工知能」はその逆で、何でも最適化して、合理的に物事を判断しようとすることだから、人工知能と対峙したときに負けないようにということですね。
―なるほど……つまり、ポップスを作る上では「合理性」よりも「全体性」の方が重要であるということを、「猿」や「人工知能」というワードで表していると。
Seiho:ただ、全体性だけを大事にしてるわけではなくて。世の中には順番ってものがあるじゃないですか? 例えば、ホントに全体性を大事にする人だったら、あとから分析もしないと思うんですよ。でも、僕らにとっては客観も主観も必要だし、技術とその逆の天然も必要。だから、大事なのはその順番なんですよね。
最適化からスタートして作られた音楽と、ナチュラルな部分から作ったものを最適化していく作業は大きく違う。Sugar's Campaignはそこにすごくこだわっています。
僕はやっぱり「フィクションである」ってことが大事やと思うんですよ。(Avec Avec)
―途中で「ポップスにとって幸せであることは重要」という話がありましたが、ちょっと飛躍した話をすると、アルバムの後半、“1987”と“レストラン-熱帯猿-”を経て、最後に“SWEET HOME”へとたどり着く流れからは、「家族」をテーマにすることで、現代における「幸せ」のあり方を考えるという裏テーマもあるんじゃないかと思ったんです。
Seiho:例えば映画を見たときに、「悲しい映画やった」の一言では済ませられないように、家族についても、「家族のことが100%好き」なんて人はいないですよね。「うっとうしい」も入ってるし、「でも、好き」も入ってるし、「ありがとう」も入ってて、それを全部ひっくるめて「幸せ」というのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
だから、単に「幸せのあり方」を伝えるというより、もっと細かな情緒の話というか、「やっぱり、家族っていいな」って最後にふんわり思うくらいでいいんです。それを「幸せ」みたいに一言で言おうとするのは、Sugar's Campaign的にはあんまり品がよくないなって。
―なぜこういう質問をしたかというと、今年の1月に岡村靖幸さんが『幸福』というアルバムを出したじゃないですか? あの作品と『ママゴト』はどこか対になってるような印象があったからなんですよね。
Seiho:『幸福』についてはいろいろ思うところがあって、もちろん岡村さんは昔から大好きやし、今も大好きで、対になってるところは確かにあると思います。それは「2人でやってない」からですよね。岡村さんは1人だから、僕のソロと一緒というか、岡村さんの人柄と岡村さんの作品はくっついている。だから、あえて『幸福』を表現しているのは、ある種コンプレックスの表れかもしれない。岡村さんがアルバムに『幸福』と付けることの意味と、二人で作った「幸福」の違いというのは絶対的にあると思うんです。
―ドキュメンタリーとフィクションの違いに近いかもしれないですね。
Avec Avec:僕はやっぱり「フィクションである」ってことが大事だと思うんですよ。「あったかもしれない世界」って、「ない」のではなくて、実際にあるんです。今の僕ではない、「いたかもしれない」別の僕も、見えてないだけでここにいる。僕がSeihoを見て、なんでSeihoと認識できるかって、髪の毛が短いSeihoも、地味なSeihoも、女のSeihoも、全部同時に存在していて、それらとの違いを僕が頭で判別するからなんですよ。
Seiho:めっちゃ西海岸っぽい考え方やなあ。哲学者の人とか宗教学の人とは真逆やもん。ああいう人らは事実がフィクションを生み出すという考え方やから。
Avec Avec:でも、こういう哲学派もあると思う。だって、虚構と現実は一緒やもん。裏表なく存在していて、たまたまこの現実になってるというだけで、違う世界もある。そうじゃないと、暴力っぽくなっちゃうんです。
例えば、生まれながらに病気の人がいて、それはさっき言った引き受けざるを得ない運命だと思うんですけど、「おまえが生まれながらにして病気なのはおまえの自己責任だ」っていうのは、すごく暴力的じゃないですか? そうじゃなくて、その人の背後には健康なその人もいるんですよ。
Seiho:逆に言うと、健康なTakumaの後ろには、病気のTakumaもいるってことやな。
Avec Avec:そう。そこには無数にあったかもしれない世界の因果として、その人がいる。だからこそ、一人ひとりの存在は大切なんです。フィクションが大事だと思うのはそういう理由で、これからもSugar's Campaignはフィクションを作っていきたいと思います。
- リリース情報
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- Sugar's Campaign
『ママゴト』(CD) -
2016年8月10日(水)発売
価格:2,700円(税込)
VICL-646031. ポテサラ
2. ママゴト
3. 週末のクリスタル
4. いたみどめ
5. ただいま。
6. マリアージュ
7. いつかの夢から連れだして
8. HAPPY END
9. 1987
10. レストラン-熱帯猿-
11. SWEET HOME
- Sugar's Campaign
- イベント情報
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- Sugar's Campaign
『あしたの食卓』 -
2016年8月25日(木)
会場:大阪府 サンホール2016年8月26日(金)
会場:東京都 代官山 UNIT料金:各公演 前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)
- Sugar's Campaign
- プロフィール
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- Sugar's Campaign (しゅがーず きゃんぺーん)
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Avec AvecとSeihoにより2011年に結成されたスーパーポップユニット。「Avec Avec」ことTakuma Hosokawaと「Seiho」ことSeiho Hayakawaの二人による2011年結成に結成した新世代都市型ポップユニット。ゲストボーカルを招く形でポップソングを制作している。岡村靖幸、久保田利伸、トッドラングレンや、ポンキッキーズ、90年代アニメなどに強い影響を受け、上質なポップソングを制作している。待望の新作アルバム『ママゴト』を、8月10日にリリース。
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