前野健太がデビュー9周年公演『歌手だ』を開催する。1日目はCHAGE and ASKAのChageをゲストに迎えたソロライブ、2日目はコーラスグループのAMAZONSと組んだバンド編成でのライブとなる。AMAZONSは1985年に結成され、これまで松任谷由実、藤井フミヤ、米米CLUB、久保田利伸、玉置浩二などのコーラスを務め、一方でオリジナルアルバムもリリースしてきた3人組。前野とAMAZONSの交歓は、本人たち曰く「色気たっぷりでゴージャスなものになりそう」とのことだ。
公演のタイトル『歌手だ』が象徴しているように、シンガーソングライターでありながら、歌手らしい佇まいを見せる昨今の前野。そんな前野と、数々の歌手と共演してきたAMAZONSのKUMI、YUKO、TOKOに、両者が考える「歌」の過去、現在、未来を聞いてみた。「色気のある歌手が育っていないのかもしれない」と嘆く彼らこそ、草月ホールで新しい大人の音楽を聴かせてくれるのではないだろうか。
「歌手」って感じの人が少ないから、「だったら俺が!」という気持ちがあります。(前野)
―前野さんとAMAZONSはChageさん主催のフェスで共演して知り合ったんですよね?
YUKO:『Chage Fes.2015』の時、ChageさんのハウスバンドのコーラスをAMAZONSがやっていたんです。そこにマエケンさんがゲストでいらして。
―前野さんの第一印象はいかがでしたか?
TOKO:衝撃ですよ。歌が上手なミュージシャンはたくさんいるけど、前野さんは天才。天才に会っちゃったなっていう感じ。“ファックミー”という曲がいちばん衝撃だった(笑)。
前野:『Chage Fes.』の時に“ファックミー”をやったんですけど、一方通行の想いを歌った曲だったのが、AMAZONSさんのコーラスが入ることでちゃんと愛の曲になって。「ファックミー」って、「こんちくしょう!」みたいな意味もあるんですけど、コーラスのおかげで、一気にゴージャスで色気のあるものになったんですよ。
それで、またどこかでお願いできないかなと思っていたんです。コーラスって、どうしてもメインボーカルの盛り上げ役になることが多いですけど、『歌手だ』では、コーラスと歌が絡まるような音楽をやりたいんです。セクシーでゴージャスな音楽を。
―AMAZONSと色気を引き出し合うと。
前野:だって、AMAZONSさんは今まで色々セクシーなシンガーとやられてきているわけじゃないですか。松任谷由実さんとか久保田利伸さんとか玉置浩二さんとか。玉置さんのコーラスやる時は、やっぱりこう、「じれったい」感じになるんですか?(笑)
KUMI:やっぱり玉ちゃんはすごいよね。
前野:玉ちゃんですか……(笑)。
YUKO:玉ちゃん、やっぱり歌の説得力は半端じゃないですね。
TOKO:いろんな男性と歌ったけど、玉ちゃんがいちばん色気があったかな。コーラスにも色気を求められたよね。
―前野さんとAMAZONSが共演する今回の公演名は『歌手だ』です。前野さんはシンガーソングライターというより、最近は「歌手」という肩書のほうがしっくりくるのでしょうか?
前野:最近「歌手」って感じの人が少ない気がするので、「だったら俺が!」という気持ちがちょっとあります。まあ、役者としてポルノに出るんですが……。
YUKO:ポルノに出るの?(笑)
前野:『変態だ』(2016年12月10日公開)っていうポルノ映画に主演するんです。全裸で前張りして。僕、ショーケン(萩原健一)さんとか荒木一郎さんとかすごく好きなんですけど、ああいう役者もやっている方たちの歌って、ちょっとラフだけどすごく色気があって。松坂慶子さんの歌もすごく好き。決してめちゃくちゃ上手いってわけじゃないのに、色気が半端なくて……聴いてて興奮しちゃうんですよね(笑)。
―前野さんは、五木ひろしさん司会の演歌番組『日本の名曲 人生、歌がある』にも出演されましたね。あれも歌手・前野健太を印象付ける出来事だったと思います。
前野:あの時は桂銀淑さんの“花のように鳥のように”を歌いました。自分の曲じゃないけど、『新・人間万葉歌~阿久悠作詞集』で最初にカバーさせていただいた曲で。その時は、いちばん感情を込められると思って膨大な阿久悠作品の中から選ばせてもらったんです。気持ちを込められる余地があれば、歌うのは自分の曲じゃなくてもいいと思っていて。カバーアルバムを作る計画もなくはないですし、そういう意味でも歌手に近づいているのかもしれないですね。
―次のアルバムも「歌手」のスタンスで構想を練っているのでしょうか?
前野:次は、僕はほとんど歌うだけがいいなと思っていて。バンドでやるというよりは、ニューミュージックや歌謡曲っぽい感じをイメージしています。アレンジャーの方を入れて、ちょっとゴージャスな感じでやりたいですね。作詞作曲はもちろんしますが。
―色々な方と共演されてきたAMAZONSのみなさんから見て、今の歌手はどういうふうに映りますか?
TOKO:上手に歌うんですけど、音楽に「行間」がなくなってきたから、みんな同じに聴こえますね。
―確かに、平板で奥行がない音楽が多いと思います。
KUMI:「行間」がある曲って、本当に歌が上手な人じゃないと歌えないと思います。そもそも、バンドとかグループのボーカリストは多いけど、ひとりでやっていて「歌手です」という人が少ないですよね。
前野:うん。歌手不足だと思います。
YUKO:特に男の人が少ないかもね。
TOKO:前野さん、今じゃない?(笑)
前野:そうか、今か(笑)。
歌って不完全な楽器だからこそ、まだ未知の色気を出せる気がするんです。(前野)
―前野さんから見て、今の歌手に足りないものは?
前野:適当さが足りないのかもしれないですね。たとえば、荒木一郎さんとか、曲はものすごく緻密にアレンジされていて歌詞も詩情が半端ないんですけど、根っこになんかテキトーな匂いがするというか……。それに、すごい人生じゃないですか? 音楽業界から姿を消したかと思うと、マジシャンになっていたり。そういう人の歌って、どこか世捨て人感というか、変な色気を感じます。
あと作曲家の浜口庫之助さんの曲、歌声も、洒脱感があって好きです。今ああいう洒脱感のある人ってなかなかいないですよね。今の人は、私生活で激しくても歌はキレイというか、業の深さが歌にまで滲み出てこないというか。
YUKO:みんな真面目なのかもね。
前野:あと、作詞家だと西條八十さん(明治から昭和にかけての詩人、作詞家、フランス文学者)。それこそ行間とか余白があって。しかも、“東京音頭”とか世代を超えて楽しめる。今、そういう世代を超える歌がないのかもしれないですね。
―そもそも松田聖子が出てくる1980年代くらいまでは、大衆音楽における世代間格差ってそんなに大きくなかったと思うんです。若者も年配の人も同様に口ずさむような曲も結構あったけど、今はそういう意味でも世代を超えた流行歌が少なくなっていますよね。『紅白歌合戦』とか『FNS歌謡祭』で、年配の演歌歌手と若いアイドルが共演していたりするのは、世代間の差を埋めようという試みだと思うんですが。
前野:なるほど、そうかもしれない。
―前野さんは、『紅白歌合戦』に出たいという気持ちはありますか?
前野:常にありますよ。小さい頃、田舎のばあちゃん家でみんなで『紅白』を見ていた時の感じをよく覚えているし、いい記憶なんですよ。あそこで自分の歌が流れたらなあ、という気持ちはずっとあります。“ファックミー”は無理だとしても(笑)。
KUMI:“ファックミー”はちょっと無理ね。タイトル変えないと(笑)。
前野:タイトル変えてもたぶん無理です(笑)。でも、『紅白』で流れるような、みんなが普通に口ずさめる歌を歌いたい。だから歌詞に下ネタが入ってる曲を今のうち抹消しとこうかな(笑)。AMAZONSさんは1985年結成ということですけど、その頃と比べて、そういう世代間の差みたいなものは感じますか?
TOKO:世代間格差、確かに今よりはなかったかもしれないです。あと、私たちって本当にバブル全盛期に音楽をやってきたので、ふんだんにお金があったのも大きかったかもしれない。
前野:うわあ、その話ゆっくり聞きたいですね。
TOKO:当時は、それぞれのディレクターが好きな音楽を作りたいように作っていたんですよ。私たちのデビュー曲も変わった曲で、「こんなの売れる訳ないじゃん」って周りから言われたんですけど、でもかっこよくて。そういうものを平気でデビュー曲に選んじゃったりする時代だった。 そこから、だんだん世の中が不景気になってきて、かつて面白いことをやっていた人たちも管理職になったりして、たとえば、ティーンエイジャーを狙い撃ちにするような「これ必ず売れるでしょう」というものを作る。ちょっと面白い人たちはみんなインディーズで一生懸命音楽を作っていく時代になっちゃったし、今の若いディレクターは夢のある仕事ができないと思うんですよね。
前野:あー、経済の話ですね、これ。
KUMI:今、レコード会社のディレクターやプロデューサーも少ないですもんね。
TOKO:昔が良かったという話ばかりする気はないけど、実際、私たちの世代は懐かしい曲を求めていて、歌謡曲のカバーアルバムが売れたりするじゃないですか?
KUMI:そうよね。同世代の人を見ていると、あの時代の方が良かったとか、もう一回当時の曲を聴きたいっていう空気を感じるかもしれない。
前野:それはやっぱり悔しい。新しい大人の世代の音楽を作りたいですよね。そのためにも、歌の力を取り戻したい。歌っていちばん恥ずかしい楽器だと思うんですよ。ピアノだったら鍵盤を叩けばある程度いい音が出るし、ギターもコードを鳴らせばかっこがつく。でも、歌って楽器としては不完全で、だからこそまだ未知の色気を出せる気がするんです。
もうね、歌が絡み合うっていうか、まぐわうっていうか、そういうライブにしたいです。(前野)
前野:最近ふとラジオで、ちあきなおみさんの“それぞれのテーブル”が流れてきたんです。そんなに有名な曲じゃないけど、流れてきた瞬間に手が止まって、そのあと30分くらい満たされた気持ちだったんですよね。それが今の時代の歌じゃないことがすごく悔しくて。色気のある歌こそが今後どんどん面白くなるし、面白くしたい。だから、もっともっと歌に取り組んでいきていきたいんです。
TOKO:確かに、そういうのないですよね。ラジオやテレビで音楽を聴いて、立ち止まっちゃう感じ。
KUMI:聴き入っちゃう曲とか、ないですよね。
前野:テレビもラジオもキャピキャピしすぎなんだよな、全体的に。もっとトーン低くしてって思っちゃう。
YUKO:確かに、アイドルも昔は落ち着いていたというか、山口百恵さんとか、すごく大人びてましたよね。
前野:ですよね、21歳で引退ですもんね。
TOKO:女優さんも最近はかわいさが大事になってきましたよね。昔は20歳前後でも色気がしっかりあって、かわいいというよりも美しい人が多かった。
―桃井かおりさんみたいな人が今いないですよね。
TOKO:いないですねえ。そもそも私は、音楽だけじゃなくて、人でもなんでも、色気がないものが嫌いなんですよ。前野さんはどういう人に色気を感じたり、憧れたりしますか?
―やっぱりボブ・ディランとか?
前野:サングラスをかけるようになったきっかけはディランですね。でも最初に憧れていたのは尾崎豊さん。15、6歳の時にアルバムを聴いたんですけど、その時の衝撃はすごかったです。ファーストアルバムの1曲目の“街の風景”を聴いて、うわって身体が覚醒して。
その時に、漠然と「こういう感じの職業につきたい」って思いましたね。そのあとThe Beatlesやディランが好きになって。最近だと荒木一郎さんとかショーケンさんとか、かっこいい男たちを見て、そういう風になりたいと思いながらやっています。
まあ、自分の持ってるものなんて限界があるから当然そういう風にはなれないんですけど。でもそれでいいんです。映画『変態だ』のキャッチコピーが、「愛がなんだ、青春がなんだ、才能がなんだ」っていうんですけど、これいいなと思って。ほんと、才能がなんだですよ。やるんですよ。そのうち、何かよくわからないけど、何かしら出てきたらいいかなって。
YUKO:私が色気を感じるのは、恥じらいを一回取っ払って、気持ちのままに進んでいける人なんですよ。玉ちゃんもそうだけど、自由に放たれている人には色気がある。歌の中に恥じらいがあると面白くなくなっちゃうし、歌いたいように歌うことにかっこよさや色気があるんですよ。
―『歌手だ』で見られる前野さんとAMAZONSの色気を楽しみにしています。
TOKO:AMAZONSもこれまで色気のあるいろんなアーティストと一緒にやってきたけれど、前野さんは今までにいないタイプなので、ちょっと怖いですけど飛び込みたいですね。新しいAMAZONSが花開くんじゃないかと思っています。
前野:1日目はChageさんがゲストなんですけど、「音楽、歌を勉強させてください」という気持ちでお願いしていて。AMAZONSを迎えての第2夜は、「男にさせてください」というサブタイトルです(笑)。
もうね、歌が絡み合うっていうか、まぐわうっていうか、そういうライブにしたいですね。お客さんにもAMAZONSさんのコーラスでドキドキしてもらいたいです。エロスがすごいので。声ってやっぱりセクシーですよ。
- イベント情報
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- 『前野健太 デビュー9周年記念公演「歌手だ」』
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第一夜
2016年11月12日(土)
会場:東京 赤坂 草月ホール
出演:前野健太
ゲスト:Chage第二夜
2016年11月13日(日)
会場:東京 赤坂 草月ホール
出演:前野健太デビュー9周年記念バンド with AMAZONS料金:1日券4,500円 プラチナチケット(2日通し券)10,000円
※プラチナチケットはCD付き
- リリース情報
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- AMAZONS
『Fantastic 30』(CD) -
2016年5月25日(水)発売
価格:2,000円(税込)
ELFA-16011. Fantastic 30
2. Heart And Soul
3. Precious Melody
4. Music
5. Sky High
- AMAZONS
- プロフィール
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- 前野健太 (まえの けんた)
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1979年埼玉県入間市出身。シンガーソングライター。2007年に自ら立ち上げたレーベル“romance records”より『ロマンスカー』をリリースし、デビュー。2009年にライブドキュメント映画『ライブテープ』、2011年に『トーキョードリフター』(松江哲明監督)に主演として出演。2011年末第14回みうらじゅん賞を受賞。2013年にはプロデューサーにジム・オルークを迎え、2枚のフルアルバム『オレらは肉の歩く朝』『ハッピーランチ』を発表。2016年12月に公開となる映画『変態だ』に主演。2016年には舞台、コドモ発射プロジェクト『なむはむだはむ』に岩井秀人、森山未來と共に出演。
- AMAZONS (あまぞんず)
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大滝裕子・斉藤久美・吉川智子の3名からなる女性コーラスグループ。1985年4月、マリーン「Be Pop Live」ツアーにて出会い「日本一踊って歌えるバックコーラス」を目指し結成。参加した松任谷由実、久保田利伸、玉置浩二らのステージにてそのパフォーマンスが好評を博し名を広める。1987年シングル『Glorious Glamourous』てデビュー。その後、12枚のシングル6枚のアルバムをリリース。「観て楽しい! 聴いて楽しい!」をモットーに精力的に活動を展開。並行して現在に至るまで、米米クラブ、安全地帯、藤井フミヤ、CHAGE、バブルガムブラザーズ、スガ シカオ、米倉利紀等をはじめとする多数アーティストのライブ&レコーディングに参加。2006年結成20周年記念アルバム『AMAZONS with SHIKAO & THE FAMILY SUGAR』、2007年初のベストアルバム『AMAZONS THE BEST』をリリース。そして今年2016年、結成30周年を記念するアルバム『Fantastic 30』を発売。
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