ここは、東京・吉祥寺。ceroにとって、高校時代からの遊び場であり、バンド結成の地でもある。この夏、大型フェスやイベント出演で全国を飛び回ってきたceroの三人が、「一番馴染みのある場所」だというこの街に戻ってきたタイミングで、11曲の楽曲について語ってもらった。
テーマは、「今こそみんなにオススメしたい邦楽11曲」。自分たちのオリジナル楽曲以外で、今紹介したい11曲を自由に選んでもらった結果、1990年代J-POPど真ん中のものから、今年リリースされたフレッシュな音源まで、実にバラエティー豊かな楽曲たちが挙がってきた。
バンドを結成する前から、この街の喫茶店で、CDウォークマンを使って互いの好きな音楽を聴かせ合っていたというcero。今回は、ソニーの最新ウォークマン「A30シリーズ」を使って、それぞれがピックアップした楽曲を聴いてもらったが、高城いわく「当時のことを思い出す時間だった」とのこと。そんなノスタルジーもこぼれる至福の音楽の旅へ、ようこそ。
1曲目(高城セレクト):ブレッド&バター“The Last Letter”(1979年)
高城(Vo,Gt,Fl):夏も終わって秋めいてきたので、そんな季節にピッタリな曲を選びました。今回、「邦楽」という縛りでの選曲だったのですが、邦楽にはいわゆるヒットチャートに上がってくるものと、それとはまた違った道を辿るものがあって。古くからあるそうしたラインのなかで、ブレッド&バターが発表する曲の多くはヒットチャートを順調に上がっていったものだったとは思いますが、そうではないものも紹介したいなと思ったんです。“The Last Letter”は、ヒットチャートに上がったものでも、すごく特異な曲。違和感のあるアレンジが印象的です。
左から:橋本翼、荒内佑、高城晶平。「ウォークマン®A30シリーズ」を使って、全員で同時に同じ曲を聴いている
2曲目(高城セレクト):My Little Lover“YES ~free flower~”(1996年)
橋本(Gt,Cho):最高だね。鳥肌が立った(笑)。
高城:マイラバ(My Little Lover)はよくceroのあいだで話に挙がるんです。全体的に好きなんですが、特にこの曲は突出している。これもブレバタ(ブレッド&バター)の“The Last Letter”と同じように、「邦楽オルタナティブ」というか。いわゆる歌謡曲の流れから生まれていない、ひとつの完成形といえるかもしれないなと思います。
ちょっとCrue-L(瀧見憲司が主宰、渋谷系を代表するインディーレーベル)っぽいんですよね。それがマイラバという、お茶の間で流れるJ-POPとして浸透しているのがすごい。いろんなエッセンスを感じるじゃないですか。ちょっとスウェディッシュポップみたいでもあるし、マッドチェスターっぽくもある。これまでになかった風が、日本語に乗ってやってきたというイメージが当時からありました。
3曲目(橋本セレクト):砂原良徳“Life & space”(1998年)
橋本:たとえば海外旅行に行って、帰りに羽田から京急に乗って帰ってくるときの、なんとも言えない独特の景色ってあるじゃないですか。僕らが住んでいる西東京の景色とは違い、海があって港があって、高層ビルが立ち並んでいて。それが「いいな」といつも思っているんです。その景色に、まりんさん(砂原良徳)の曲が合うんですよ。旅の帰りの電車では、必ずこれを聴きながら帰ってきます。
高城:砂原さんは、ご自身でレコーディングからマスタリングまで、エンジニアとして作業されていますよね。なので、特にこうやってハイレゾで聴くと、やっぱり一味違うなって思います。
4曲目(高城セレクト):スピッツ“HOLIDAY”(2000年)
高城:改めて聴いて思いますが、他の国からは生まれ得ない、日本だからこそ生まれた音楽ですよね。しかも3分21秒にうまく収まっているなあ、と。まあ、すごい曲です。アルバム『ハヤブサ』のなかで、とりたてて目立つ曲ではないのですが、すごく好き。
肝はやっぱり、日本語のリズム感と響きかな。たとえばこの曲に英語の歌詞を当てはめたら、きっと全然違う雰囲気になる。この曲のよさが、少なからず失われるとも思うんです。日本語の言葉のために、音の一つひとつが作られているというか。だからこそ、ちょっとトリッキーな、「え?」っていう歌詞も乗せられるんだと思います。<いつかこんな気持ち悪い人 やめようと思う僕でも>とか、そんな言い回しでも気持ちよく聴けてしまう。スピッツってそういうバンドだと思うんですよね。
荒内(Key,Cho):たしかに、この音に海外のミュージシャンの歌が乗っていたら、日本人は引っかからないかもね。(草野)マサムネさんの歌詞と声が、やっぱりものすごいフックというか、トゲになっているんだよね。
橋本:しかも、それをみんながカラオケで歌っているのが面白い。
5曲目(橋本セレクト):ゲントウキ“南半球”(2001年)
橋本:この曲のBメロが、僕の好きなThe High Llamas(イギリスのバンド)の『Beet, Maize & Corn』(2003年)というアルバムに入っていた楽曲のコード感に、すごく通じるものがあって。ゲントウキは先にこういうことをやっていたんだなと。複雑なコード展開を、ポップスのなかでやるチャレンジ精神に惹かれました。
高城:はしもっちゃん(橋本)っぽい選曲だと思った(笑)。はしもっちゃんは、三人のなかでももっともリスナーとして一貫している。ゲントウキとか、たしか高校の頃から聴いていて、当時からよく名前を出してたよね。この曲は、入りはすごくシンプルでJ-POPらしいのに、そこからヒネくれた展開になって「あれ?」ってなる。からの、ドラムが入ってサビという。気持ちいいアレンジだよね。
荒内:ギターのフレットをこする、キュッキュッっていう音とか、とても鮮やかに聴こえてきました。
高城:シンプルで少ない音数なぶん、「A30シリーズ」で聴くと、そういう部分がより際立って聴こえるね。
6曲目(荒内セレクト):COMBOPIANO“Everyday is perfect”(2003年)
荒内:僕にとって、ルーツになっているアーティストの一人です。聴くたびに発見が、比喩でなく、本当にあるんですよ。たとえばこの曲、クラーベというキューバ音楽の基礎であるリズムパターンを、ピアノの単音でずっとやっているんですね。それに昔は気がつかなかったんです。聴き始めた19歳の頃は、まだクラーベの存在も知らなかったから。それが、最近この曲を聴き直して、ふと気づいたんです。
クラーベって、元をたどればアフリカ由来と言われていて、それがキューバからニューヨークにたどり着いて、そして渡邊琢磨さんという日本人がアメリカ人と演奏しているんですね。ロマンティックな言い方をすれば、アフリカの記憶が、この曲に漂っているわけですよね。そう思うとすごく感動する。表面上は非常にヨーロピアンな美しい曲なんですけど、なかにはいろんな要素が入っているんです。
高城:この曲って、ceroのみんながずっと聴いているもののひとつで、いわばceroにとってのクラシックなんです。でも、まだまだこの名作を知らない人が日本にたくさんいるわけで。こういう機会に紹介させてもらいたいなと思いました。メイドインジャパンの、こんなすごい音楽があるんですよ。
高城:いわゆる、がっつりとコンプをかけたJ-POPのサウンドプロダクションとは違って、他の曲と比べてダイナミクスレンジが大きいんですけど、それが「A30シリーズ」で聴くとよりクリアに出ていると思います。
7曲目(荒内セレクト):Phonolite“Call from valley water”(2003年)
荒内:菊地成孔さんとティポグラフィカなどのバンドをやっていたベーシストの水谷浩章さんが、そのドラムの外山明さんなどと結成したバンド。なぜこれを選んだかというと、ここからすぐ近くの、吉祥寺にあるGok Soundというスタジオでレコーディングしたアルバムなんですけど、そこで録音したドラムの音が僕は一番好きなんです。僕にとっての「いい音」って、2000年代にこの界隈の人たちがGok Soundで録った音で、それが自分の音の基準にもなっているんですよね。
しかも外山さんって、日本のドラマーのなかで一番好きで。もちろんプレイも素晴らしいんですけど、音がとにかくいいんですよ。ドラムを叩いたときの情報の多さというか。単にアタック音が鳴っているだけでなく、打面の鳴りや胴の鳴りのニュアンス、余韻などがとても豊かなんです。
高城:これもメイドインジャパンだけど、ワールドスタンダードという感じだよね。考えてみれば、Phonoliteのような音楽って、洋楽にも見当たらないかも。
8曲目(高城セレクト):クレイジーケンバンド“BRAND NEW HONDA”(2003年)
高城:もう、なにも考えずに腰が動きますよね。ここまでグルーヴは黒光りしているのに、(横山)剣さんが歌うことで歌謡曲の遺伝子が組み込まれている。作り自体は日本人離れしたファンクミュージックなのに、「邦楽」としかいいようのない音楽になっているんですよね。CKB(クレイジーケンバンド)って本当に面白いバンドだなって改めて思いますね。 8月に、僕たちの自主企画『Traffic』に出ていただいたのですが、本当にリスペクトしている大先輩の一人です。あと、剣さんは車が大好きだから、冒頭で呪文のようにHONDAの車種を羅列していくのだけど、なんか止まらない感じとかがすっごく面白いし可愛らしい(笑)。
荒内:アメリカの黒人が今、山下達郎さんのレコードをディグしてることが話題になっているけど、CKBも人気が出そうですね。音とか絶対好みだろうし、日本語の歌詞とか喜びそうだよね。
橋本:あと、いい意味で、音楽のこととかを一切考えたくないときに聴ける音楽なんですよね。そういう曲って、意外と少ない。
高城:実はとても知的なことをやっているバンドなのに、それを一切感じさせない、エンターテインメントに徹しきっているところがすごいですよね。職人のようです。
9曲目(高城セレクト):YOSSY LITTLE NOISE WEAVER“VOLCANO”(2010年)
高城:最高ですね。さっき、あらぴー(荒内)が、自分の「いい音」の基準がGok Soundの音だって言ってたけど、僕の最高基準はこれ。「こういう音で録りたい」っていうお手本の音です。
橋本:俺もそうだな。
高城:YOSSY LITTLE NOISE WEAVERには『Traffic』の大阪公演にも出てもらいました。YOSSYさんは、もともとDETERMINATIONSという大阪出身のスカバンドのメンバーで、YOSSY LITTLE NOISE WEAVERは曲によってはすごくダビーなものもあるんだけど、これはそれに比べるとドライな印象。なのに、やっぱりレゲエ / ダブ / スカの人たちって、音の解像度が高いというか、思慮深いというか。さほどレゲエじゃないのに、そこはかとなく「イズム」がちゃんとあふれている。
橋本:レゲエの人たちの、あの音のこだわりってどこからきてるんだろうね。サウンドシステムとか。
高城:やっぱり、音楽自体は繰り返しのなかで、抜いたり足したりをするだけでどこまで時間を引き延ばしていくか、というDJの文化に近いんだろうね。延々と気持ちよく躍らせるためには、テクスチャーってすごく大事じゃないですか。
10曲目(荒内セレクト):XTAL“Heavenly Overtone”(2016年)
荒内:さっき、橋本くんがCKBのときに言っていたように、俺にとってはハウスがなにも考えずに聴ける音楽。作業の休憩時間とかに、よく聴いています。ハウスは音色、キックひとつ、スネアひとつにめちゃくちゃこだわるんですよね。それを何時間も、場合によっては何日もかけて作り込んで並べていく。それが音楽のよし悪しに繋がっていくっていうジャンルでもあるから、「A30シリーズ」を使ってハイレゾで聴いてみたくて選びました。
しかもXTALさんの楽曲って、めちゃくちゃ気持ちいいハウスミュージックの上に、めちゃくちゃいいメロディーが乗っているんですよね。あと、音色とかトラックの抜き差しとか盛り上げ方とか、TK(小室哲哉)イズムも感じますね。
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11曲目(荒内セレクト):Simon“Eyes feat. IO & RYKEY”(2016年)
荒内:僕が通っていた高校は三鷹にあって、結構この界隈で遊んでいたんです。もし自分が今高校生だったら、この曲をウォークマンに入れて、遊んだあとは必ずこれを聴きながら帰っていただろうなって思います。
高城:それ最高だね。そんな高校生になりたい、今(笑)。
荒内:そのくらいエモい曲なんですよ。
高城:ちなみにこの曲って、トッド・ラングレンの“Believe In Me”をサンプリングしていますよね。トッド・ラングレンって、昔から黒人ミュージシャンに愛されている存在だと思うんです。ある意味、デヴィッド・ボウイと近いというか。
荒内:トラックを作っているjjjは「そういうネタ使うんだ!」っていう意外なものを持ってくるよね。結構、ありそうでなかった曲作りをしていると思います。
昔よく喫茶店に集まって、買ったCDをソニーのウォークマンで聴かせ合っていたことを思い出しました。(高城)
―「今こそオススメしたい邦楽11曲」を、ソニー「ウォークマン®A30シリーズ」で聴いてみていかがでしたか?
高城:まず、圧縮音源をハイレゾ相当の音質にしてくれる「アップスケーリング機能(DSEE HX)」がユニークですよね。たとえて言うなら、画素数の低いカメラで撮った写真を、フルサイズのデジタル一眼レフで撮った画質に補正してくれるようなものだと思うんですけど、それが非常にナチュラルで驚きました。
ソニー特設サイトでは、ceroが自身でミックスを手がけた楽曲のこだわりと、ハイレゾ音源を「ウォークマン®A30シリーズ」で聴いた感想を掲載中(記事を読む)
―「アップスケーリング機能(DSEE HX)」も特徴ですし、音楽再生専用機ならではのフルデジタルアンプ「S-Master HX」が搭載されているため、音がすごくいいんですよ。
荒内:Simonの“Eyes feat.IO & RYKEY”は、ハイレゾで聴かせてもらいましたが、特に「A30シリーズ」に合っていたように思いました。音がパキッとしていて、パンチが効いていて。外に持ち出して、パッと取り出して聴きたくなる曲ですね。
橋本:My Little Loverのような、コンプをガッツリかけていた1990年代特有のサウンドは、曲の雰囲気に応じてオススメのEQセッティングを選んでくれる「ClearAudio+」で聴いてみたら、よりきらびやかになって面白かったです。
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―特に気に入った機能はありましたか?
橋本:個人的に嬉しかったのが、音量調節を細かく設定してくれていること。スマホの再生プレーヤーだと、目盛りをひとつ変えただけでかなり大きく変化してしまうんだけど、120段階のボリューム調整は重宝しそうです。ちなみに、スピッツの“HOLIDAY”を聴きながらボリュームを上げてみたら、大抵の場合は音割れしてしまうくらい上げても、「A30シリーズ」だとまったく音割れがなかった。これは大きいと思いますね。
荒内:「ノイズキャンセリング機能」も非常に優秀で。割と騒々しい環境でご飯を食べながら音楽を聴いてたんですけど(笑)、まったく気にならず音楽に没頭できました。
―若い頃からの遊び場であり、ceroにとっては結成の地でもある吉祥寺という街で、これら11曲聴いてみて思うことはなにかありましたか?
高城:吉祥寺の「珈琲家族」という喫茶店があって、今はもうなくなっちゃったんですけど、昔はよくそこに集まって買ったCDとかを聴かせ合っていたんです、ソニーのCDウォークマンで(笑)。イヤホンを順番に渡して再生して、自分が選んだ曲を「どう思うのだろう?」と悶々としながら、相手が聴き終わるのを待っていた。そんな時間をたくさん過ごしたことを思い出しましたね。なんか、とても懐かしくなりました。
ceroとして本格的に始動した頃に、ほぼ毎月出ていたライブハウス・bar dropの跡地にて / ソニー「ウォークマン®A30シリーズ」(商品詳細を見る)
―最後に、ceroの今後の予定を教えてください。
高城:11月から、ワンマンツアー『MODERN STEPS TOUR』が始まります。これまでceroは、サポートメンバーは流動的と言いつつずっと馴染みの深いメンバーでやってきたんですけど、『MODERN STEPS』と銘打ったこのタイミングで、ちょっと違ったコンボでやってみることにしました。最近リハを始めたばかりで僕らもまだどうなるかわからないんですけど、きっと新たなceroを見せられると思うので楽しみに待っていてください。
ソニー特設サイトにて、ceroインタビュー記事掲載中(記事を読む)
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- ソニー ウォークマン®特設ページ
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cero、オリジナル楽曲のハイレゾ音源を「ウォークマン®A30シリーズ」で聴いた感動と、自身で手がけるミックスのこだわりを語る。インタビュー記事掲載中
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- ソニー「ウォークマン®A30シリーズ」
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2016年10月29日(土)発売予定
価格:オープン価格
- イベント情報
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- cero
『MODERN STEPS TOUR』 -
2016年11月3日(木・祝)
会場:宮城県 仙台 Darwin2016年11月4日(金)
会場:岩手県 盛岡 change WAVE2016年11月6日(日)
会場:北海道 札幌 PENNY LANE242016年11月17日(木)
会場:京都府 京都 磔磔2016年11月23日(祝・水)
会場:石川県 金沢 AZ2016年11月25日(金)
会場:福岡県 BEAT STATION2016年11月27日(日)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO2016年12月2日(金)
会場:東京都 新木場 STUDIO COAST2016年12月9日(金)
会場:愛知県 名古屋 ダイアモンドホール2016年12月11日(日)
会場:大阪府 なんば HATCH
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- プロフィール
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- cero (せろ)
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Contemporary Exotica Rock Orchestra 略してcero。2004年結成。メンバーは高城晶平、荒内佑、橋本翼の3人。様々な感情、情景を広く『エキゾチカ』と捉え、ポップミュージックへと昇華させる。2015年5月27日に、3rd Album『Obscure Ride』をリリース。各所初回盤が即座に売り切れ、オリコンウィークリーで8位を記録し、各音楽誌の2015年ベストアルバムにも多数選出されている。今後のリリース、ライブが常に注目される、音楽的快楽とストーリーテリングの巧みさを併せ持った、東京のバンドである。2016年11月3日より、全国ワンマンツアー『MODERN STEPS TOUR』を開催。
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