アーティスト集団・Chim↑Pomによる新たなプロジェクト『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』が、10月15日より開催される。テーマは「Scrap and Build」。新宿歌舞伎町の中心にある解体予定のビルを舞台に、国内では約3年ぶりとなる彼らの大規模個展と、豪華なゲストによる音楽ライブやパフォーマンスが2週間にわたって展開。会期終了後には展示作品もろともビルを解体し、そこから新たな作品を作る「全壊する展覧会」として構想されている。
昨年、グループ結成から10周年を迎え、近年では海外のアートシーンからも熱い視線を注がれているChim↑Pom。そんな彼らが、2020年のオリンピックに向けて怒濤の再開発が進む東京の現状を前に、提示したいビジョンとはどのようなものなのか? また、既存のアートシーンから一歩引いた場所で、存在感を示しながらもユニークな活動を続けてきた彼らの目には、近年話題の「芸術祭の乱立」や「規制」という問題がどう映っているのか? 卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀。意外に珍しい六人揃ってのインタビューで、現在進行形のChim↑Pomの姿をお届けする。
歌舞伎町って文化的なポテンシャルは高いのに、芸能や風俗産業はあってもアートの現場が少ない。(卯城)
―日本での大規模個展は3年ぶりですが、この間、Chim↑Pomの活動はますますインディペンデントなものになっていますよね。自分たちのスペース「GARTER」を高円寺に立ち上げるなど、既存の美術館やギャラリーに頼らない活動が目立ちます。
卯城:もともとDIYな現場作りは志向していたんだけど、企画をイチから動かすのは、やっぱりすごく労力がかかるんですよね。でも、色んな機関と仕事してきて実感したんだけど、ガチで妥協しないでやりたいことがあるなら、自分たちでやるやり方をもっと増やしたほうがいい。
というのも、ここ数年「自粛」や「検閲」の動きが俄然強まってきていて、できないことがめっちゃ増えた。だったら、従来の制度に頼るだけでなく、自分たちでも制度を作るべきじゃん、と。
左から:岡田将孝、エリイ、卯城竜太、林靖高、水野俊紀、稲岡求
―2015年3月11日に始まった、福島の帰還困難区域を舞台とする国際展『Don't Follow the Wind』の発案は、その代表的な動きでした。今回のプロジェクトもその傾向の延長にあるものだと思いますが、会場の「歌舞伎町商店街振興組合ビル」をよく見つけましたね。現時点ではただの廃墟にしか見えませんが(笑)。
卯城:きっかけはエリイちゃんの紹介です。このビルの1階に「TOCACOCAN」という歌舞伎町の面白いライブストリーミングのスタジオがあって、それをエリイちゃんの旦那で歌舞伎町やゴールデン街でホストクラブやバーを経営している手塚マキさんがオーガナイズしているんです。
エリイ:そのスタジオの放送に全盲の友達ハジ君と出演していて、来るたびに「この変なビルは何だろう」と思っていて。そしたら今度、取り壊されると。「それだったら最後に展覧会をしたいな」と思って、みんなに紹介したんだよね。
『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』の会場となる歌舞伎町商店街振興組合ビル
卯城:それでいろいろ調べてみたら、意外とビルの歴史が面白いんです。歌舞伎町はそもそも、戦後の焼け野原だった場所に当時の地主たちが「劇場型都市」のビジョンを描いて作り上げた街。
この建物のオーナーの歌舞伎町商店街振興組合はその流れを汲んでいて、新宿における戦後復興の中心的な役割を担ってきたと言っても過言ではない。その後1964年にビルが出来たんですが、当時は1階に交番や公衆便所があったらしいんですよ。
林:立地も奇跡的なんだよね。歌舞伎町のど真ん中で、町の裏の顔も垣間見られるんだけど、いまは斜め前に交番があるから、警察の観察範囲にもあるんです。だから歌舞伎町だと、ここくらいしか面白い展示が許されない(笑)。
卯城:歌舞伎町って文化的なポテンシャルは高いですよね。なのに、芸能や風俗産業はあってもアートの現場は少ないんです。昨今、六本木とか渋谷とか、ていうか日本全国、とにかくアートづいてきているのに、歌舞伎町はその空気に乗り切れてない感じで珍しいですよ。逆にそこにも興味を持った(笑)。
―今回は「Scrap and Build」がテーマとのことですが、歌舞伎町も石原慎太郎元都知事時代から、「歌舞伎町浄化作戦」として整備されてきましたよね。
林:歌舞伎町は会田誠さんが「芸術公民館」というバーをやっていたので、俺たちもよく来ていたんです。でもこの数年で、街がどんどん綺麗に洗練されていく変化をリアルに感じていて。キャッチのおじさんが、外国人観光客と流暢な英語で話したりして「もう俺の知っている新宿じゃねえな」と(笑)。それは渋谷も同じですね。
卯城:話題の豊洲新市場もそうだけど、あらゆる再開発が「2020年の『東京オリンピック』までに」というスローガンのもとに行なわれている。なんでなんですかね。
稲岡:1964年の『東京オリンピック』の栄光があるんだろうね。
卯城:当時も開催に間にあわせるため、首都高速を急いで作ったわけでしょう? それと同じように、東京の各地でオリンピックを大義名分にいろんな開発が進むのを見ると、すごく20世紀的なビジョンの描き方で未来を作ろうとしているな、と感じます。
福島の原発事故で有名になった「原子力 明るい未来の エネルギー」って看板あったじゃないですか。あれを初めて生で見たときの感覚を思い出すんだけど、つまり20世紀はこういう未来を描いたんだな、とそのとき実感したんです。で、じゃあ21世紀ならではのビジョンの描き方、ひいては21世紀のアイデンティティーってなんだろう、という素朴な疑問が浮かんできた。
ホワイトボードには各々の作業スケジュールなどがびっしりと書かれていた
岡田:1964年当時は良かったのかな。戦後の復興の最中で、人々に希望を与えていたと思う。でも、日本がすでに発展しきったいま「さあ、光へ」みたいなスローガンを出されても、もう価値観は変わっているのではと感じちゃう。
卯城:実はこの建物も、前回の『東京オリンピック』の5か月前に建ったんです。祝祭を機に建ったそのビルが、いま最終回を迎える。そして、2020年に向かって再び同じビジョンがループする。
「Scrap and Build」の「Build」にも通じるけど、『笑っていいとも!』の最終回でタモリが最後に言った「また明日も見てくれるかな?」という言葉をタイトルにしたのは、逆にそんなルーティーンにもポジティブな側面を感じたからです。
ずっと見てきた日常が終わる瞬間に、だけど明日はまた変わらずに来るよっていう当たり前のことを、お決まりのコール&レスポンスで締めくくる。そのバラエティースピリッツが今回はハマりそうだと思いました。建物の最後に、展示やライブやトークで記憶を作る。物質は無くなるけど、記憶は無くなりようがないから未来に影響しやすい。そんな終わりと始まりの狭間にみんなで入り込むことにスリルを感じますね。
規制の問題は、オレオレ詐欺と一緒。みんなでリスクを分散して、悪いことをしている意識が無くなっていく。(エリイ)
―取材日の現在はまだ準備段階ですが、どんな作品が展示されるんでしょうか?
岡田:地上4階から地下1階までをフロアごとに区切って、各階にそれぞれ別視点の作品を出します。たとえば、振興組合や歌舞伎町を扱ったもの、ビジョンの描き方や、オリンピックをテーマにしたもの、建物すべてを使った作品もあります。
―加えて、音楽から演劇まで、さまざまな出演者のライブやパフォーマンスも行なわれるんですよね。ラッパーの漢さんと菊地成孔さんの共演や、Nature Danger Gangのような過激なパフォーマンス、自称・虚業家の伝説のプロデューサーの康芳夫さんや、漫画家の新井英樹さんまで。かなり多種多様ですが、どんな基準で選んだんですか?
林:歌舞伎町や新宿にゆかりのある人、テーマの「Scrap and Build」に合致する人に声をかけました。みんないつもとはだいぶ違うパフォーマンスをしてくれる予定です。イベントの様子は、tocacocan.comで配信もあります。
エリイ:出演者には私の友達もいるけど、普段よりワクワクしてる感じがある。単なる仕事じゃなくて、このプロジェクトへの参加意識を持ってくれている。
卯城:マジでみんなそれぞれ新しいことを実験しようとしていて楽しみですね。この2週間は予想もできないようなことがいろいろ起きると思う。「全壊」に向かって新しいことが生まれるって、この矛盾ヤバくないですか?(笑)
さっき記憶の話をしたけど、この「全壊する展覧会」というフレームを作った時点で、作品だけじゃなく、出演者のライブやパフォーマンス、歌舞伎町のあちこちから出店してくれる飲み屋やホストクラブのサービス、そして観客の盛り上がりや議論など、形に残らない記憶の数々もビルと共に取り壊しにつながるべく生まれてくる。てことは作品だけじゃなく、このフレームのもとにここで起こることは、全部アートなんだって気づいて腑に落ちました。
―建物を壊したあとは?
エリイ:ビルを取り壊すときにそのまま作品ごと壊してもらい、それを拾い集めて、また来年にGARTERで続編の展覧会をやるのが目標。Chim↑Pomが前に展覧会をやった渋谷のパルコも取り壊されるけど、そのとき作品にした「PARCO」のネオンサインの「C」と「P」もあわせて展示しようと考えてる。
パルコミュージアムでの展示風景 / Chim↑Pom PAVILION(2012)撮影:森田兼次 ©Chim↑Pom
―帰還困難区域での『Don't Follow the Wind』も、想像するしかない「見に行くことができない展覧会」だったけど、今回も建物もろとも壊してしまうと。美術館で大切に保存されるような普通の作品とは異なる、アートの考え方がそこにはありますよね。
卯城:多くのアート作品は、物質として作り出されたときのまま残るために生み出されるけど、いまはその考え方があまりリアルに感じられないんです。「美術館に入れるために作る」とか「作ったら美術館に入るだろう」というセオリーは嫌いではないけど、結局、想定外に起こる地震や津波を前にしたら、美術館での物質担保は完璧ではないし、そもそもアートにとってそれは全てではない。ほとんどの歴史的な作品は、「何をやったか」って無形の美学があってこそ物質に意味が生まれてる。
だったら『Don't Follow the Wind』のように、何年か後に帰還困難区域に行ったら経年劣化したボロボロの作品があって、でもそこに時間を経たからこその何かが宿っているということの方が面白い。今回も建物もろともスクラップされるわけだけど、そういう要因によって作品に新たに宿る生命力にこそ逆にモノとしての可能性を感じちゃう。
福島県の帰還困難区域でのキュレーターたち。 / 03. Curatorial team on a site visit in the Fukushima exclusion zone Courtesy of Don't Follow the Wind
『Don't Follow the Wind』のフラッグ / Flag designed by Naohiro Ukawa Courtesy of Don't Follow the Wind
―その話ともつながりますが、最近は日本の美術館からの新作の依頼がないとか。冒頭には「自粛」や「検閲」の問題にも触れられていましたよね。
エリイ:ビビっているんじゃないですか。Chim↑Pomのような、何をやらかすか分からないアーティストに依頼して問題になったら、頼んだ人の責任になってしまうから。
岡田:もともと美術館の依頼は少ないほうだし、他の人にどれくらい依頼があるのかはわからないけど、いまは決定的になくなってきてしまっているよね。
卯城:俺たちが一番それを感じたのは、『気合い100連発』という作品の中に出てくる、「放射能」や「福島」という言葉が公的機関で「NGワード」として問題になって、彼らがオーガナイズする展覧会への出品自粛を促されたり、曖昧にぼかすように言われたときです。NGワードは他にも「北朝鮮」「慰安婦」などがあると言ってました。これまではそんな野暮なことは言わなかった人たちなんですが、現政権になってからこうなったとはっきり言われました。
―文脈に関係なく、ただその言葉が使われているだけでNGというのも異様な話ですね。そういうお話は、海外でも聞きますか?
岡田:規制の問題はもちろん海外にもいっぱいあると思うけど、向こうだとアーティストは「NO」と言いますね。たとえば、検閲をかけて問題になったキュレーターが、辞めてほかの機関に移ると、その就任に対してアーティストが抗議をしたり。
林:日本の場合、すごく「空気」がアートを支配しているのは感じる。
エリイ:オレオレ詐欺の仕組みと一緒だよね。みんなでリスクを分散して、良心の呵責を希薄にしていき、悪いことをしている意識が無くなっていくという。
水野:エリイちゃん、オレオレ詐欺の仕組みにやたら詳しいなあ(笑)。
卯城:だから、今回も結局はノースポンサー。ぜんぶ自腹になっちゃった(笑)。
エリイ:……自腹って言っても、ほとんど私の出資だよねえ?
男性メンバー:……はい、すみません(笑)。
エリイ:私がテレビやクソみたいなラジオに出て貯めた「Chim↑Pom貯金」というのがあって。その7年分くらいを、今回のプロジェクトにつぎ込みました。
―それは熱い話ですね(笑)。
エリイ:この人たち、男の子だからのん気なんですよ。
芸術祭の良い面と、アートが持つリスキーかつハードコアな面の両面を兼ね備えたら、もっと面白くなるのに。(卯城)
―コレクターが作品を買ってアーティストを支えるという経路もありますが、それもないですか?
林:作品単体を買ってくれる人はいるかもしれないけど、「全壊する展覧会」というプロジェクトを、ひとつのパッケージとして買ってくれる人に今は出会えていないんですよ。本当はそれが一番面白いはずなのにね。
岡田:でもそのわりに、芸術祭っていうパッケージは増えていますよね。
―それこそ2020年に向けて各地に芸術祭が生まれ、若いアーティストが盛んに招集されていますね。そのギャップはどう感じていますか?
卯城:個人的には、芸術祭は悪くはないと思う。まあ、ありすぎるくらいあるけどね。ただ、多くの芸術祭が自治体主催だから、出品したアーティストからできないことが多いと聞きます。
エリイ:芸術祭をきっかけにして、いろんな地域の人たちがアートに興味を持つのはいいことだよね。ないよりはあったほうが、ぜんぜんマシだと思う。
稲岡:出品するアーティストは発表の場を求めていて、自治体もアーティストを求めているから、その場所での需要と供給はあっているわけですよね。実力のあるアーティストは、その仕組みをうまく使ってステップアップすると思います。
卯城:まあ、そもそも最初からリスクが少ないアートが成功例として町の議題にあがるわけだから、とにかくしばらくは「使いやすいアーティスト」が使われるんじゃない? だけど、特殊な場所を舞台にしている点で芸術祭の面白さはあるよね。
その良い面と、アートが持つリスキーかつハードコアな面の両面を兼ね備えたら、もっと面白くなるのにって思う。『Don't Follow the Wind』や今回の歌舞伎町のプロジェクトは、結果そんな感じになってるけど。
岡田:ビルを持っている歌舞伎町商店街振興組合の人と最初に話したとき、エリイちゃんが、Chim↑Pomのこれまで批判を浴びてきた行為も含めて、すべて赤裸々に話したんです。「大丈夫?」と思ったけど、「そこは歌舞伎町だから問題なし」と、意外に寛大な反応が返ってきた(笑)。
エリイ:そのおじさんたちも、もちろん「現代アート」という存在を知りません。展覧会っていうとトイレにかけてある絵みたいなのが壁にかかってるものと思っているんです。イチから写真を見せながら説明してもわからないし、毎日ビルに通って対話している今もたぶんわからないとは思うのですが、何か楽しそうなことになりそう、という感じで、一緒に今回の展覧会のイベント保険の加入のことを決めたり、温かく見守ってくれている状態です。
『ビルバーガー』(2016) / 『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』 ©Chim↑Pom Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production, Tokyo
岡田:ほんとに良い人たちなんですよ(笑)。いま、組合では世代交代が起こっていて、とくに若い人は理解がある。美術館は組織が相手だから、誰と交渉しているかわからないけど、今回は消防法とかクリアすべき問題が明確だから、ある意味でやりやすいです。
―でも、そもそもChim↑Pomのこれまで活動自体が、そうしたアート関係者ではない人たちとの交渉を重ねてきた歴史でしたよね。
卯城:うん。もちろん、現代アートの文脈をぜんぶわかっている世界で、いろんな紐解きをしていくのも面白いですよ。でも、どう切り開いていけばいいかわからない世界で活動することは、実はアーティストにとって一番の醍醐味なんです。
いまだに一発屋って思われている節がある。一発が10年って、長すぎるだろ!(林)
―ちなみに今回の記事は、最初はChim↑Pomの10周年を記念してのものだったのですが、林さんがインフルエンザに倒れたため、約半年延期されたんですよね。あらためて、Chim↑Pomがアートを続けてきたモチベーションを聞きたいんですが。
岡田:最初はずいぶん「一発屋」と言われたよね。3発目でも「一発屋が」って(笑)。
林:いまだにそう思われている節もあるよ。一発が10年って、長すぎるだろ!
卯城:一発屋にならなかったのは、「Chim↑Pomを作る」という意識がいつもあったからだと思う。最初は当然、「Chim↑Pom」なんてないわけだから、個々のアイデアをかたちにしていくしかなかったけど、絶対Chim↑Pomがこの世の中には必要なわけで(笑)。とか思って「Chim↑Pomを作って」きた結果、いつのまにか10年になりましたね。
岡田:それと、俺が言うのもおかしいけど、とくに卯城くんに後続世代を育てるという考え方があるから、Chim↑Pomは一発屋を回避できたと思いますね。作品だけなら一発屋になっていた可能性もあるけど、作品だけじゃなくて、その周りも作ってきたから。
―GARTERで紹介している若手もそうですよね。Chim↑Pomのあとに道ができて、そこを次世代が歩いているような状態。ひとつの文脈になっている。
エリイ:「文脈なくしてアートなし」だよ。
卯城:「アーティスト=作品を作る人」ってカテゴライズはもう古いじゃないですか。ヨーゼフ・ボイスが「社会彫刻」(「全ての人間は芸術家である」とする概念で、誰でも自らの創造性によって未来に向けて社会を彫刻できる、またしなければならないという呼びかけ)と言ってから、もう何十年も経つのに、単に作品を作る人って思い込みがいまだに根深い。
若手を育てるのもそうですが、時代やアートシーンから社会の見方まで、いろんな「こと」を作れると思うんです。そんな意識で、作品と同じく書籍やギャラリーも作ってきた。アーティストってリノべーターとは違って「ゼロ」から何かを作るわけだから、そのアウトプットにメディアやジャンル、シーンの違いなんてそもそも存在しないんじゃない?
東京や日本にガッツリ向き合えば、そこにある普遍性や歴史性がグローバルにリンクしていることがわかるはず。(卯城)
―Chim↑Pomは、この数年で海外での評価も高めていますよね。昨年はアジアの若手作家賞『Prudential Eye Awards』で大賞に、今年はイギリスのアート誌『APOLLO』で「アジア太平洋地域で最も影響力ある40歳以下の40人」に選ばれた。日本では異端児的に語られてきた活動が、評価されたのはとても興味深いことだと感じます。
卯城:そうであったら良いなと思っていたし、そうでなきゃいけないと思っていました。それを評価してもらえて、あら? とも思ったし、ホラやっぱり、とも思った(笑)。
『青写真を描く version2』(2016) / 『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』 ©Chim↑Pom Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production, Tokyo
エリイ:私はアートの王道をやってきたから、異端児と思われていたなんて、ショック……。だが、そいつらが間違えてる。
―いや(笑)、「ストリートから生まれた」という語られ方だったと思いますよ。
卯城:日本のこれまでのアーティストが、変に海外の現代アートに合わせすぎていたから、Chim↑Pomがそういう語られ方をしたんじゃない? 別に合わせる必要はないし、自分の場所を現場にして、外にアプローチしていくことが本来基本じゃないですか。
―今回の歌舞伎町を舞台にしたプロジェクトも、まさにそのひとつですね。
林:俺は海外に拠点を移したいと思ったことはないしね。
エリイ:表現をするということでいうと、東京のことはよく知っているという点でかなり強みだと思います。それが極東でもいいんです。ひとつのことを深く知っていることが大事なんです。
岡田:「アートの本場」という言い方があるけど、本場っていうのは本当はあらゆる場所に無数にあるものだと思うんです。福島でも広島でも、東京の歌舞伎町でもありえる。
卯城:西欧にはコレクターも多いから、マーケットの本場には違いないけど、そこに合わせることにアートの本質があるわけではない。留学や移住でショートカットしようとする人もいるけど、東京や日本にガッツリ向き合えば、そこにある普遍性や歴史性がグローバルにリンクしていることがわかるはず。
―しかも、渋谷のネズミを使ったデビュー作『スーパーラット』もそうですが、Chim↑Pomの題材の扱い方はいつも「良い悪い」を言うためのものではないですよね。
林:うん、今回も再開発に抗議するためのプロジェクトではない。
『SUPER RAT』(2006, 2011) Photo:Yoshimitsu Umekawa ©Chim↑Pom Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production, Tokyo
卯城:『スーパーラット』も、実はマジでネズミは怖いしビビるけど、それと共生している現実があるなら、もっと観察してみても面白いというところから始まったんです。それと同じように今回のテーマである「Scrap and Build」も超日本的な現実で、別に変わること自体を悪いとはウチらは思ってない。日本らしいし。
ていうか、建物を100年くらい使っちゃうのが当然なアメリカやヨーロッパにとっては、「Scrap and Build」っていう日本人のリアリティーは、実はその時点ですでにめちゃくちゃユニークなこととして面白がられるんです。つまり良さや悪さが混濁していてこそ、アートにとってテーマになるんだと思う。
―受け手の見方を限定しないところが、いわゆる「社会派」のアーティストとChim↑Pomの大きな違いですね。イベント、楽しみにしています!
卯城:ありがとう! ……あと超蛇足だけど、水野が広島に婿入りします(笑)。
―そうなんですか(笑)。10年目にしてすごい変化が……。
エリイ:広島の個展で作品を運んでくれた運送屋の娘さんと結婚したの!!!
水野:だから僕は広島で運送屋になります(笑)。
エリイ:広島の飲み屋でさっそく調子に乗って「俺はChim↑Pom」って調子に乗ってアート談義しているって噂を聞いた。この間Chim↑Pom参加って書いてある知らないチラシを発見して、元を辿ったら水野が勝手に承諾してた。別にいいけど。広島のみなさん、「Chim↑Pom詐欺」には気をつけてください!
水野:そんな~~(泣)。
- イベント情報
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- Chim↑Pom
『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』 -
2016年10月15日(土)~10月31日(月)
会場:東京都 新宿 歌舞伎町振興組合ビル
時間:13:00~22:00
料金:1,000円2016年10月15日(土)22:00~翌6:00
会場:東京都 歌舞伎町振興組合ビル
出演:
会田誠
Nature Danger Gang
Have a Nice Day!
新井英樹×北大路翼
悪魔のしるし
テンテンコ
VMO
FUKAIPRODUCE羽衣
ミラクルひかる
ナマコプリ
Chim↑Pom
and more
フード:
Smappa! Group BRIAN BAR
Smappa! Group Miso Soup
料金:3,000円(ドリンク別)2016年10月28日(金)22:00~翌6:00
会場:東京都 歌舞伎町振興組合ビル
出演:
漢 a.k.a GAMI&菊地成孔&DJ BAKU
ENDON
康芳夫&有太マン
会田誠
鉄割アルバトロスケット
どついたるねん
Chim↑Pom
and more
フード:
Smappa! Group BRIAN BAR
Smappa! Group Miso Soup
料金:3,000円(ドリンク別)イベントの様子は、tocacocan.comでも配信
- Chim↑Pom
- プロフィール
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- Chim↑Pom (ちんぽむ)
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2005年、卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀により結成。時代と社会のリアルに全力で介入した強い社会的メッセージを持つ作品を次々と発表。東京をベースに、世界中でプロジェクトを展開する。2015年アーティストランスペース「Garter」をオープン、キュレーション活動も行う。福島第一原発事故による帰還困難区域内で、封鎖が解除されるまで「観に行くことができない」国際展『Don't Follow the Wind』をたちあげ作家としても参加、2015年3月11日にスタートした。近年の主な著作に『芸術実行犯』(朝日出版社)、『SUPER RAT』(パルコ)、『エリイはいつも気持ち悪い』(朝日出版社)、『Don't Follow the Wind』(河出書房新社)がある。
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