内村光良が男泣きした、桑田佳祐の計らいとは? サザン愛を語る

桑田佳祐の還暦を祝うべく、各界の著名人に「桑田佳祐」に対する熱い思いを披露してもらう特別企画。その第7弾となる今回ご登場いただくのは、自他共に認めるサザンオールスターズ好きとして知られている内村光良。

“勝手にシンドバッド”以来、「人生の節目には、必ずサザンの曲が流れていた」と語る彼が、意を決して桑田佳祐に依頼したという楽曲。それが、内村自ら監督を務める映画『金メダル男』の主題歌として書き下ろされた、桑田佳祐の新曲“君への手紙”である。内村の心をずっと掴んで離さない桑田佳祐の表現者としての魅力とは。そして、知られざる二人の関係とは。その「桑田佳祐、サザンオールスターズ愛」を、大いに語ってもらった。

私の思い出の中には、いつもサザンが流れていますから。

―内村さんは1964年生まれですが、桑田佳祐、サザンオールスターズ(以下、サザン)の音楽に初めて出会ったのは、いつ頃になるのでしょう?

内村:中学2年生の頃でしたね。当時大好きで見ていたザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』という番組に、サザンが出て、“勝手にシンドバッド”を歌っていたんです。それを見て、「なんてふざけた人たちなんだろう」と思って(笑)。当時、自分が知っていた歌手たちとは全然違った衝撃があって、かなり引き込まれましたね。当時14歳だった私にとっては、絶大なるインパクトがありました。

内村光良
内村光良

―当時内村さんは、どういう音楽を聴いていたのですか?

内村:その頃は、ニューミュージック全盛の時代でしたから、ユーミンとか中島みゆき、あとは松山千春、さだまさし……そんなときに、“勝手にシンドバッド”。まずタイトルからして、ふざけていますよね(笑)。当時流行っていた沢田研二の“勝手にしやがれ”とピンクレディーの“渚のシンドバッド”をかけているわけですから。

その頃、世良公則&ツイストも人気に火がつき始めていて、サザンとツイストという2大ブームが一気にきたんです。まあ、女子は世良公則派が多かったかもしれないですが、男子はみんなサザンが好きでしたね。やっぱり、ああいうちょっとふざけた感じがよかったのでしょう。でも、その印象が、中3のときの“いとしのエリー”で一転するんです。

―まったくテイストが異なる曲を聴いて、どういった印象を持ったのでしょうか?

内村:本当にビックリしたことを覚えています。「“勝手にシンドバッド”だけじゃないんだ」という驚きもあったし、「なんだこの“いとしのエリー”という曲のすごさは」って。そこからですよね、サザンの歌が「時代の歌」になっていくのは。少なくとも、私の思い出の中には、それ以来いつもサザンが流れていますから。

―内村さんのこれまでを振り返ると、どんな思い出に、どの曲が合わさって記憶されていますか?

内村:高校のときのことは、“Ya Ya(あの時代を忘れない)”を聴くと思い出します。ちょうど僕が高校を卒業する頃、ちょっとおセンチな気分になっているときに、あの歌が流れていて。上京して出川(哲朗)くんや南原(清隆)くんと出会って、みんなで一緒に横浜にサザンのコンサートを観に行ったときのことは、“ミス・ブランニュー・デイ”を聴くと思い出します。“メロディ(Melody)”を聴けば、当時好きだった女の子のことを思い出すし(笑)。

芸人としてデビューしてからも、『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』(1990年~1993年に放送していたテレビ番組)の打ち上げは、絶対“みんなのうた”で締めていました。あの曲をカラオケで歌いながら、みんなでタテノリで踊ったりしていましたね(笑)。節目節目に、必ずサザンの曲があるんですよ。それは今もちゃんと更新されていて……きっとこれからも、そうなっていくんだろうなって思います。

内村光良

―内村さんは、何度も桑田さんとお仕事をされていますが、初めて桑田さんとお仕事をしたときのことを覚えていますか?

内村:『夢で逢えたら』(1988年~1991年に放送)という、ダウンタウンとかと一緒にやっていたコント番組の主題歌をサザンにやっていただいたのが最初です。“女神達への情歌(報道されないY型の彼方へ)”と“フリフリ'65”の2曲を主題歌にさせていただいたんですけど、“フリフリ'65”のときは、オープニング映像をサザンのみなさんと一緒に撮らせていただいて。その撮影現場で、初めて桑田さんとお会いしました。私は、ど緊張して、ほとんど話せませんでしたけど(笑)。

―実際お会いして、どんな印象を持ちましたか?

内村:緊張しまくっていたので、ほとんど覚えてないですね。みなさん、ニコニコしていらっしゃったというぐらいの記憶しかない(笑)。

初めて一緒に飲んだときに、すごく謝られたんですね。なんて繊細な方なんだろうと思って。

―『夢で逢えたら』でご一緒されてから、今回内村さんが監督した映画『金メダル男』の主題歌を桑田さんにお願いするに至るまで、他に印象的だったお仕事はありますか?

内村:『ウンナンの気分は上々。』(1996年~2003年に放送していたテレビ番組)で、「レンタル内村」という、いろんなところに私を貸し出す企画があったんですけど、そこに桑田さんから依頼をいただいたんです。サザンが横浜アリーナでやる年越しライブの最後に、私がサプライズゲストとして登場することになって。アンコールで、ダンサーの方々が「忍者ハットリくん」のお面を被って登場するんですけど、その中に私もいて、お面を取ったらわかるっていう。あれも相当緊張しましたね。

―それは相当盛り上がりそうですね。

内村:そのとき桑田さんが興奮して、私を蹴っ飛ばして、舞台から突き落としたんです(笑)。それはそれで盛り上がったんですけど、その数年後に偶然お店で桑田さんとお会いして、初めて一緒に飲んだときに、すごく謝られたんですね。「ずっと謝ろうと思ってた」って。そんなことをずっと気にしていられたなんて、なんて繊細な方なんだろうと思って。緊張せずに普通に話せるようになったのは、そこからです。それからは、たまに飲みに行かせてもらうようにもなって……。

―普段の桑田さんは、ちょっと雰囲気が違ったりするのですか?

内村:いや、全然変わらないですね。テレビやライブで見る、あの印象のままです。あんなにスターなのに、全然スターに見えないというか、なにも飾らないし、本当に気さくな方ですね。

(主題歌は)映画の主人公と重なるところもあるし、きっと私のことも考えて書いてくださったのかなって。

―桑田さんの新曲“君の手紙”についても教えてください。この曲は、『金メダル男』の主題歌として書き下ろされた1曲ですよね。

内村:本当にありがたいことです。映画のプロデューサーから、「主題歌が必要だ」という話をされて、いろいろミュージシャンの名前を挙げてもらったんですけど、この映画はやっぱり桑田さんだよなと思って。1回ダメもとで聞いてみたいと思って、桑田さん宛に手紙を書かせていただいたんです。その手紙に、映画のもととなった舞台のDVD、あと編集前の映画の素材をつけて送らせていただいて。

内村光良

『金メダル男』 ©「金メダル男」製作委員会
『金メダル男』 ©「金メダル男」製作委員会(予告編はこちらから

―面識もあって、会おうと思えば会えるのに、そこは手紙だったんですね。

内村:そうですね。メールのやり取りもさせていただいているんですけど、やっぱりここは手書きで送りたいなと。丸っこい変な字なんですけど、ちゃんと自分の字で伝えたいと思ったんですよね。

―その手紙の内容は?

内村:この映画の主人公である「秋田泉一」の人生の最後を飾っていただくのは、桑田さんの歌しかないと思いました、ということを書いて。あとは、私のサザン愛を書きまして、最後に「もしよろしかったらご検討のほどお願いします。今回ダメでも次回は……」みたいな感じで、かなりしつこく書いたかな(笑)。

そうしたら、手紙の返事云々じゃなくて、ポンと1枚のCDが送られてきたんです。そこに“君への手紙”ってタイトルが書いてあって……もう、男泣きしましたよね。

―実際にその曲を聴いて、どんな感想を持ちましたか?

内村:もう、震えましたね。「なんてすばらしい曲なんだ!」って。映画のラストシーンにふさわしい曲になっていたんです。私の映画の稚拙な部分を、桑田さんの曲が全部すくい取ってくれて、ちゃんと締めてくれる。いただいてから、もう何百回聴いたかわからないです。

―映画を観てからこの曲を聴くと、映画の物語を踏まえた上でこれを書いていることが、非常によくわかりますよね。

内村:そうですね。主題歌を作ってもらえるとしたら、“東京VICTORY”みたいな、ちょっと楽しくて明るい感じの曲になるのかなって想像していたのですが、胸にグッとくるような弾き語りのシンプルな曲になっていて。

歌詞を見ながら、「ああ、私の映画を見てこの曲を書いてくださったんだな」と思ったら、余計感慨深かったですよね。「人生はさよならと出逢いの繰り返しだ」ということを書いてくださっている。映画の主人公も、出逢いと別れを繰り返しながら人生を歩んでいくので、きっとそれを感じて書いてくださったんだと思います。

―<こんな男のために 小粋なバカが集まったな>というフレーズも印象的でした。

内村:そのあたりは、主人公と重なるところもあるし、きっと私のことも考えて書いてくださったのかなって。わからないですけどね。映画のスタッフや桑田さんが、こんな僕のために集まってくれた、というふうにも読み取れる。そういう意味でも、本当に一生の歌になりましたね。

幸せな空間にいさせてくれるのが、サザンというバンド。そういうことを、自分もやりたいなと思いますね。

―同じ表現者である内村さんから見て、桑田さんの音楽の凄みというか、桑田さん、そしてサザンは、他のミュージシャンと一体なにが違ったのでしょう?

内村:なにが違ったんでしょうね……桑田さんの天才性はもちろんなんですけど、天才だけでバンドが成り立つのって、なかなか難しいと思うんですよ。もちろん、天才が率いているからこそ、成り立っているんでしょうけど……もっと家族愛みたいなものに近いのかな? そう、なんかサザンって「一座」みたいな感じがありますよね。「桑田佳祐一座」の家族愛みたいな。

内村光良

―それが、リスナーにまで伝染していくと。

内村:そう、あのファミリー感で、みんな笑顔になっちゃうんですよね。最近私が何回も見ているのは、日産スタジアムのライブ映像で(2013年発売、『SUPER SUMMER LIVE 2013 「灼熱のマンピー!! G★スポット解禁!!」 胸熱完全版』)。あのライブで、“マチルダBABY”から“ミス・ブランニュー・デイ”にいって、“みんなのうた”のときに、ホースで客席に水をかけるという演出があるんですけど、ホースを持っているスタッフを、桑田さんが後ろから羽交い締めにして、チョークスリーパーとかをかけるんですね。それを見ているお客さんが、すっごい幸せそうな顔をしているんです(笑)。おばちゃんとかも手を叩いて笑っているし、「これはなんて幸せな空間なんだろう」と思って。

そういう幸せな空間にいさせてくれるのが、サザンというバンドなんだと思うんです。だから、またサザンを聴いちゃうし、買っちゃうし、あの幸せな空間に自分もまた行きたいと思う。そういうことを、自分もやりたいなと思いますね。

常に第一線でやり続けるエネルギーは、本当にすごいと思います。ハンパないですよね。

―先ほど「一座」という言葉が出ましたが、内村さん自身も「座長」な立ち位置にいることがありますよね。

内村:ああ、『世界の果てまでイッテQ!』とか『LIFE!』とか、レギュラー番組だと、メンバーが固定だからそういう印象が強いのかもしれないですね。でも、桑田さんはずっとじゃないですか。私は番組の話ですけど、桑田さんはずっとサザンオールスターズという一座を続けている。そういうことを、常に第一線でやり続けるエネルギーは、本当にすごいと思います。そのエネルギーの量は、やっぱりハンパないですよね。それを持続していくのは、本当に大変なことだと思うので。

―ちなみに、内村さんは、今の桑田さんをどんなふうに見てらっしゃいますか?

内村:なんか最近改めて、桑田さんは、歌うことが本当にお好きなんだなって思いました。歌うことに人生をかけていらっしゃるなって。歌への欲求、そして歌を創作することへの欲求が、本当にすごいなと思います。しかも、この忙しさの中で。普通、ちょっと休みますよね(笑)。

―とはいえ、内村さんもずっと休まず、テレビに出続けていますよね。続けることの意味は、どう感じていますか?

内村:歳をとって余計に、「動けるうちにやっておかないと」とは思いますね。今のうちに一生懸命仕事をしておこうって。桑田さんのように、還暦になってもこんなに頑張っている人がいるんだから、私なんかは、まだまだ休んでいる場合じゃないですよね。

内村光良

―では最後、今年還暦を迎えられた桑田さんに、なにかひと言メッセージを。

内村:とても還暦とは思えないですよね。創作量もすごいですし。もうパワーが違うなと思います。休んでくださいとは言いませんけど、とりあえず健康第一で頑張っていただきたいですよね。そして、これからも自分の人生の節目で桑田さんの歌を聴いて、「ああ、俺が55歳のときは、この歌が流行ってたなあ」とか「還暦のときは、この歌だったなあ」って、ずっと思っていたいですね。

作品情報
『金メダル男』

2016年10月22日(土)から全国公開
監督・脚本・原作:内村光良
主題歌:桑田佳祐“君への手紙”
出演:
内村光良
知念侑李(Hey! Say! JUMP)
木村多江
ムロツヨシ
土屋太鳳
平泉成
宮崎美子
笑福亭鶴瓶
配給:ショウゲート

プロフィール
内村光良 (うちむら てるよし)

1964年7月22日生まれ、熊本県出身。監督・脚本作品に『ピーナッツ』(2006年)、『ボクたちの交換日記』(2013年)。主な出演映画としては、映画『七人のおたく』(1992年、山田大樹監督)、『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』(2003年、金子文紀監督)、『ゼブラーマン』(2004年、三池崇史監督)、『恋人はスナイパー 劇場版』(2004年、六車俊治監督)、『サヨナラCOLOR』(2005年、竹中直人監督)、『西遊記』(2007年、澤田鎌作監督)、『内村さまぁ~ず THE MOVIE エンジェル』(2015年、工藤浩之監督)など。



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