20代の迷える編集者がELEKIBASSサカモトに生きるヒントを乞う

一般的に、20代後半は「迷いの時期」であると言われている。社会に出てある程度の月日が経過し、仕事や人間関係が一旦落ち着き、周りを見ると結婚する友人の数も増えてくる。そこで一度、冷静になって自分の人生を振り返り、やりたいことをやれていない焦りや「本当にこのままでいいのか?」という問いを無視できなくなっていることに気がつく。なんてことはよくある話だと思う。

とはいえ人生に迷い、「もっと自分らしく」「ありのままに」と思ったところで、社会人として生きているからには、社会と折り合いをつけなければならない……。そういった具合に、「自分」と「社会」の間で板挟みになっていたとき、何かヒントとなる話を訊くことができないか? という僕たちのオファーに応えてくれたのが、本稿の主人公・ELEKIBASSのサカモトヨウイチだった。

バンドマンとして、レーベルオーナーとして、あるときはレコード会社の社員として、またあるときはメジャーバンドのマネージャーとして音楽に関わってきたサカモト。「音楽」というものに対して多角的ながらも一途に生きる彼は、どのような考え方や価値観を持ってここまで歩んできたのだろうか? 彼が駆け抜けた約20年の足跡を訊いた。

思い切りのよさと行動力で人生を切り拓いた男、サカモトヨウイチ

サカモトヨウイチは、バンド・ELEKIBASSの中心人物にしてインディーズレーベル「WAIKIKI RECORD」の主宰者。1998年のバンド結成とほぼ同時に、自分たちの作品をリリースするためにレーベルを立ち上げる。

サカモトヨウイチ
サカモトヨウイチ

サカモトの物語を紐解くにあたって最初に記しておきたいトピックがある。2000年、ELEKIBASSはOF MONTREALの来日公演の前座に抜擢される。OF MONTREALといえば、THE FLAMING LIPSらと並び、1990年代から現在に至るまでアメリカのサイケポップシーンの一翼を担ってきたロックバンドである。ここまで結成からわずか2年。バンドにとってまたとないチャンスを形にした背景には、サカモトの人柄がよく滲むエピソードがあった。

サカモト:大学生の頃、OF MONTREALが初めて来日するっていうのをたまたま知って、思い切って招聘元のレーベルにメールしてみたんですよ。「OF MONTREAL大好きなんで空港に迎えに行ってもいいですか?」って。

それで成田まで迎えに行ったら、「成田から大阪までOF MONTREALをアテンドしてもらえない?」って言われて。「全然やりますよ。だったらついでに大阪で前座やってもいいですか?」ってお願いしたんです。それから彼らとはもう20年近い付き合いで、一緒にアメリカツアーをやらせてもらったりしてます。思い切って行動してみるもんだなって思いますよね。

OF MONTREALとのアメリカツアーの様子
OF MONTREALとのアメリカツアーの様子

サカモトの思い切りのよさは、言語や人種、文化を越えて人を動かしたのだろう。OF MONTREAL初来日の翌年、2001年に両者はアメリカでもツアーを行っており、今ではアメリカと日本のそれぞれでライブツアーを共にするなど盟友と呼ぶに相応しい関係を築いている。

そしてもう一つ特筆すべきは、バンド結成から間もなくインディーズレーベルを一人で立ち上げてしまう行動力だ。その当時、CDをリリースするということは今より遥かに大変なことだったが、一方で、「カクバリズム」(2002年発足)や「残響レコード」(2004年発足)、「ROSE RECORDS」(2004年発足)といったインディーズレーベルが次々と生まれた時期でもあった。とはいったものの、現在まで続くCD不況が示すとおり、今でも存続しているレーベルは決して多くはない。

「売れているものが嫌いだったから」という無鉄砲なまでのインディー精神で始まったWAIKIKI RECORDではあるが、徳永憲やワンダフルボーイズ、ゆーきゃんを始めとする国内外のアーティストの作品を数多くリリースし、設立から17年を数える。それだけではなく、WAIKIKI RECORDからリリースしていたOverTheDogsについては、サカモトがマネージャーを務め、メジャーデビューまで導いたという実績もある。サカモトの人生を切り拓いてきた思い切りのよさと行動力について、彼はこう語る。

サカモト:ただ好きだからっていうだけなんですけどね。今でもそうなんですけど、何かをするときに損得勘定を持ち込みたくないんです。得があるかもってことを考えるより、「本当に好きならやってみよう」って。

サカモトヨウイチ

これは逃げ道をなくしちゃう言い方ですけど、好きだったらもう行動していると思うんです。たとえば、「私、ヨガに興味があるの」って言っている人がいるとして、ヨガをその時点でやってないってことは、そこまで興味がないってことだと思う。興味があれば、その時点で既にやっていると思うんですよね。

あえて周囲を気にせず、後先を考えないことの大切さ

しかし、誰もがサカモトの言うように行動できるわけではない。「やらないことも勇気で、それも正解」とも彼は語ってくれたが、要は後悔のない生き方を選んでいるかが大切なのだ。彼は自身の行動力について以下のように続ける。

サカモト:たとえば、入りたい会社があったとしたら、面接で落ちても本当にダメなのか訊くだけ訊けばいいと思うんですよ。ダメって言ってるのに押し通すのはルール違反ですけど、本当にダメかどうかってちゃんと確認しなきゃわからないじゃないですか? そこで迷っても意味はないと思うんですよ。結果は合格か不合格かだけなんだから、本当にダメだったのか訊いたことによって、「空気が読めない」「常識がない」って言われたとしても、失うものはないしね。

面倒くさいことを考えるよりも、シンプルなほうがいいんじゃないかな。でも、それって先を見ないってことでもあるんです。だから自分は40歳を目前に貯金はほぼないんですよね(笑)。

サカモトヨウイチ

個人的な話になるが、このサカモトの言葉を聞いて、僕がCINRAの採用募集に応募したとき、なかなか連絡がもらえず思い切って電話してみたことを思い出した。諦め半分の気持ちでかけたあの一本の電話がなければ、こうして記事を作っていることはなかったかもしれない。

当時を振り返ると、なりふりかまわない一心不乱さと根拠のない自信が間違いなくあった。そう思うと、改めて、多少角が立っても、あえて周囲のことや先のことを考えず思い切って行動することの大切さを実感する。

話を戻したいが、サカモトの思い切りのよさの裏には、彼が語ってくれたシンプルな考え方があると思う。そしてその思い切りのよさと引き換えに、先を見ないと彼は語るが、15年以上にわたりバンド活動とレーベル運営を続けられている。それはなぜだろうか? 人間性か信念か、それとも運か? その秘密を探っていきたい。

先を見ず、損得勘定で考えないサカモトは、いかにして音楽業界を生き残ってきたのか?

サカモトは何か物事を決める際、損得勘定を持ち込みたくないと語った。しかし、彼はレーベルのオーナーである以上、数字を管理しなければならない立場にあるはずだし、利益を上げなければレーベルは存続すら難しい。損得勘定を判断基準にしないサカモトは、どのように音楽業界を生き残り続けてきたのだろうか?

サカモト:CINRAが立ち上がったときに、最初はウェブメディアではなくてCD形式のフリーペーパー(CINRA MAGAZINE)だったよね。で、あるとき、「お金を払って広告を出しませんか?」っていう、一般的な雑誌とかがやっているような営業を受けたんですよ。そのとき僕はお金を出してWAIKIKI RECORDの広告を出したけど、「5年後、CINRAはでかくなるから恩を売っといたほうがいい」とかはあまり考えないんですよ。そのとき協力した理由は、「知ってる人が面白いことをはじめたから」っていうだけ。

レコード会社で働いていた人間の感覚からすると、「お金を払う」ってことは、普通は「将来性がある」と判断したってことなんですよね。でも、僕が大事にしているのはそこじゃない。そういう意味で、周りの人を大事にしたいんですよね。「先を見ない」っていうのはそういうことなのかもしれない。

サカモトヨウイチ

―損得勘定に基づく「先見性」みたいなものにはとらわれないと。

サカモト:レーベルについてもそうで、CDを出したい人がいれば、出せるなら全部出します。僕の場合、できることはやるし、できないことはやらない、ってかやれない。それだけなんです。「分け与えられるなら、分け与えたらいいじゃん」っていう考えなんですよね。ただちょっと難しいのは、他人に分け与えることが正義や善というわけではないとうこと。できる人がやればいいんです。だから、僕が金持ちになったら、知り合いのミュージシャンの作品、めちゃくちゃリリースすると思う(笑)。

こうやってサカモトは、音楽業界をサバイブしてきた。綺麗事のように聞こえるかもしれないが、このやさしくはない業界で15年以上も続けてきたという事実が彼の正しさを証明している。

また同時にサカモトは、メンバーの脱退やツアーの赤字による決して少なくない額の借金も経験している。しかし、嘘をつかず誠実に、自分のやっていることに胸を張ってやってきたからこそ、常に人のやさしさに救われたと彼は話してくれた。人柄だけではなく、自身のアティテュードによっても人を惹きつけてきたサカモト。音楽を生業としてきたなかで、彼はどのような気持ちでは音楽と向き合ってきたのだろうか。

サカモト:やっぱり10年単位で振り返ると一時の流行りで終わったものがたくさんあるから、とにかく自分の好きなものをちゃんと胸を張って「好き」と言えることが大事ですよ。それが自分の軸になるので。

サカモトヨウイチ

バンドをやるのもある意味、恥ずかしさがあるんです。「自分で作って歌ってるの?」みたいに言われたりしますからね。「じゃあプロになりたいんだ。へー」なんて言われて、「はい、なりたいです!」ってちゃんと言えるかどうかが大事。たとえば、同級生に「お前、〇〇ちゃんのこと好きなんだろ?」って言われたときに照れずに「好きですけど何か?」って言える人が強い気がする(笑)。

この話は、おそらく仕事についても同じことが言えると思う。自分の仕事に対する誇りや自信は、成果物にも表れるし、結果にもつながる。自分の好きなことを仕事にしている人が輝いて見えるのは、そういう理由からだと思う。もちろん無茶はよくないが、サカモトのように自分の信じたものにまっすぐな人は、やはり魅力的だ。

好きなものや自分の意思に正直であることの強さと難しさ

しかし、好きなものに胸を張って好きと言うのは、口で言うほど簡単なことではない。他人からどう見られるか気にしてしまうこともあるだろうし、目には見えないが同調圧力というものも確かに存在する。日常的なやりとりやコミュニケーションのなかで、角を立てまいと、空気を読んだり、長いものにまかれることがある。しかし、私たちが社会や集団の中で折り合いをつけようと思えば思うほど、自分の意見や考えは二の次になってしまい主体性はどんどん失われていってしまう。

そうやって主体的な価値判断が困難な状況に陥ると、人はメディアや他人による評価を過剰に気にしてしまうようになる。「自分はなんてくだらない人間なんだ」と思いながらも、価値判断の基準を自分以外のところに委ねてしまった経験は個人的に何度もある。しかし、他人の目を気にせず自分の想いにまっすぐに、「好きだ」と胸を張って言う人の言葉には力があるし、そういうものにこそ私たちの心は動かされるのだと思う。

サカモト:昔のサブカルチャーが面白かったのは、今よりも闇雲に本気だったからだと思う。アンダーグランドでコアな雑誌にも、カルチャーに対する愛と「本を作りたい」っていう情熱があったはずなんです。今はそういう変な熱を持ったものが少なくなった気がしますね。

―最近はウェブメディアの数も増えたと感じます。儲かるからやっているのか、信念があってやっているのか。メディア側の人間からすると、そういうことが問われているようにも思います。

サカモトヨウイチ

サカモト:たとえばCINRAとOTOTOYとナタリーが続いている理由は、ただやりたくてはじめて、それぞれアイデンティティーがあるからだと思うんです。三者三様のビジネスモデルがあるじゃないですか。レコード屋さんにしろ、ライブハウスにしろ、熱量と個性があるものが残ると思うし、そういうのがないと面白くない。今はちょっと一周しかかって、本気の時代になりつつあるのかもしれないですね。

「『最高』って誰かにとって最低な場合もあるから、やっぱり音楽は万能じゃない」

音楽を愛し、その想いに従うままに突き動かされ、人生を切り拓いてきたサカモト。しかしその一方で彼は、盲目的な音楽至上主義者でも楽観的なパーティー野郎でもなく、むしろ、「音楽は万能じゃない」と口にする。愉快で楽しげなサウンドを聴かせるELEKIBASSだが、そのハッピーな音楽性とは裏腹な音楽に対する少し醒めた視線について訊く。

サカモト:基本的にはずっと楽しければいいんですけど、夢の国を生きたくはないんですよ。美味しいお酒や音楽も好きだし、楽しいことは好きだから、好きなことや楽しいことをいつまでも続けるにはどうしたらいいかってことを、真面目に地に足つけて考えたくて。僕はもとから音楽に対して変な夢は見てないつもりなんです。だって音楽は万能じゃないから。

―「変な夢」を見ないというのは、「音楽で世界は平和になる」とは思わないということですよね。でも、「音楽は万能じゃない」というのはどういうことでしょうか?

サカモトヨウイチ

サカモト:たとえば、カレーがすごく好きだとするじゃないですか。でもだからといって、「カレーは万能だ!」「スパイスは最高だ!」だけだとは思わないでしょ? 毎日カレーじゃ嫌だし、カレーもお寿司も楽しみたいじゃないですか。どういう分野にもあることだとは思いますけど、頑なに信じすぎている人が苦手で。音楽なんて特にそうだと思うんです。

たとえば、「ジェイムス・ブレイクが最高なのに、なんで理解できないんですか?」って言う人がいるとしますよね。そんなの好きか嫌いか人はそれぞれだわ! って思うんですよ。「最高」って誰かにとって最低な場合もあるから、やっぱり音楽は万能じゃない。

この考え方は、サカモトのこれまでやってきたことのすべてに共通するものだという。レーベル運営においても、レコード会社で働いていたときも、バンドのマネージャーをしていたときも。そしてそれはやはり、ELEKIBASSの音楽性の核となるものだ。

私たちが生きる社会には、多様な価値観が存在し、その一つひとつが異なっていたり相反したりしていながら共存している。まさに「誰かの最高が誰かにとって最低になりうる」という世の中で、サカモトが作る音楽にはどのような想いが込められているのだろうか?

「自分たちの作品は、『今日のおにぎり』みたいな感じで捉えてほしい」

「パーティーバンド」を標榜するELEKIBASSだが、彼らが描く「パーティー」は、仲のいい者が集まって単にワイワイと楽しくしている、というものではない。知っている人も知らない人も一緒になって、誰一人居心地の悪さを感じる人がいないよう、心配りとやさしさを持ち寄った結果生まれる親密な空間、そういった類のものなのではないだろうか。サカモトには、そういう多様性を受け入れて肯定するという視座があるように思う。

ELEKIBASSのライブの模様
ELEKIBASSのライブの模様

しかし難しいのは、場合によって音楽を聴くという行為には、「文脈」がつきまとい、リテラシーが求められるということ。サカモトが食べ物で喩えるように、本来であれば聴く側にとって良し悪しはそれぞれにある。にもかかわらず、誰かにとっての「最高」が、多くの人にとっての共通認識であるように語られることもある。サカモトの音楽活動の根幹には、そういった状況に対する違和感もあるという。

サカモト:食べ物だとケースごとに「最高」が使い分けられているんですよね。お花見ならみんなで食べるお弁当が最高とか、実家に帰れば母親に作ってもらったカレーも最高だし、ホテルのレストランのめちゃくちゃ高い料理みたいにマナーを理解することで楽しめる美味しさもある。でも、音楽ってそこを全部一緒にしちゃうから、「この作品のよさがわからないとダメ」っていうプレッシャーがたくさんある気がするんです。

―そういう経験は僕も何度も味わってきましたけど、やっぱり音楽って個人の感受性が第一だって思いたいです。

サカモト:それだけじゃなくて、音楽には「新しいもの至上主義」みたいな考えもありますよね。でも、それを食べ物に置き換えると、「スパゲッティーってもう古くない?」って言っているのと同じだと思うんです。でも、スパゲッティー食べたいときだってあるじゃないですか? もちろん「新しいもの至上主義」を批判したいわけではないんだけど、自分たちの作品はそういうものとはちょっと違う、「今日のおにぎり」みたいな感じで捉えてもらえないかなって思います。

ELEKIBASS は4年ぶり4枚目となるフルアルバム『Theme of Melancholic Matilda』をリリースした。「自分の作っている音楽は万人がいいと感じるものではない」とサカモトは話すが、ここにはトレンドや時代性を意識しない、普遍性の高いグッドミュージックが溢れている。

それ裏づけるように、このアルバムがレコーディングされたのは4年も前のことで、ミュージシャンとしてのサカモトは「いつ出してもいいじゃん」と考えていたそうだ。その一方、レーベルオーナーの立場としては戦略を立てタイミングも考えたという。その葛藤も彼ならではで面白い。

ELEKIBASS『Theme of Melancholic Matilda』ジャケット
ELEKIBASS『Theme of Melancholic Matilda』ジャケット(Amazonで見る

8度に及ぶアメリカツアーでサカモトが見てきた景色と持ち帰ってきたもの

今作について、「作る曲や言葉がどんどんシンプルになってきた」とサカモトは語ってくれたのだが、その言葉どおり、「Yeah」や「Baby」といった単語が目立つ。もちろん、音楽に導かれているという側面もあると思うが、しかしここは8度に及ぶアメリカツアーを敢行してきたELEKIBASS。サカモトはアメリカでどんな景色を見て、何を感じてきたのだろうか。

サカモト:まずアメリカって、いろんな人種の人がいるんですよ。そういう国で、体型や身長、目の色もそれぞれで、英語もあればスペイン語、中国語もあるから、価値観が日本の何十倍もあるんですよね。いちいち細かいことを気にできないくらい、いろんな価値観がある。逆に日本人は、お互いわかった気になってるところがあると思う。

―確かに日本は言語も人種も一つの国ですし、それに「察する」とか「空気を読む」という文化がありますよね。

サカモト:それに日本人は、たとえば「太ってる / 痩せてる」とか、「毛が濃い / 薄い」とか、他人の目線をすごく気にするじゃない? 音楽の場合、そういう考え方や価値観の延長に観客も演者もいるから、聴き方や楽しみ方は変わってくるんですよ。向こうでは太っていようが髪が薄かろうが、楽しかったらダイレクトにその人の楽しさが反応でわかる。それがいい渦を作るんですよね。

アメリカツアーでのライブの模様
アメリカツアーでのライブの模様

外国の人たちのオーバーリアクションって、いいところだと思います。好きなら好きってちゃんと言うこともそう。向こうでは、少なくとも目の前で起こっていることに関しては、気分を害するようなことがなくて。文句があっても必ず目の前で言うんですよ。以前、オーディエンスに「お前たちはアマチュアだ!」って言われたことがあるんですけど、「すげえ、わざわざ言いに来る!」って思いました(笑)。僕はそういうところがむしろ好きですけどね。

ELEKIBASSの音楽性は、複雑多様な価値観が存在するアメリカで、「パーティーバンド」として観客を楽しませるなかで磨かれてきた。そして多様性を重んじ、シンプルさを志向するサカモトの考え方も、アメリカでの経験が関係しているのかもしれない。

サカモトヨウイチ

多角的に、様々な視点から一途に音楽に携わり、結果を残してきたサカモト。ここまでその行動力や考え方、価値観について訊いてきたが、彼は最後にこう語ってくれた。

サカモト:一つだけ心がけていることは、「やめない」ってこと。だって音楽って、勝ち負けではないところがいいじゃないですか。あの人より耳がよくないと思っても、聴くことや作ることをやめなければいいんですよ。料理で言うと食べることをやめなければいい。

今回のアルバムもめちゃくちゃ最高の料理ができたとは思ってないですけど、美味しいから食べてみてほしいです。食べてもらえると、何か感じるものがあるんじゃないかなって。最高のレパートリーばっかり食べてたら疲れますから。別のよさを楽しんでくれるといいですけどね。

僕たちは何をするにしても他人と自分を比べがちだし、それは何か表現をしている人ならなおさらだと思う。しかし、大切なのは他人からの評価でも、外からどう見えるかでもない。いい作品を作り上げたアーティストはいつだってその目を輝かせ、胸を張って話をしてくれる。そしてその作品は、得てして自分自身の心の奥底にある「好きだ」という気持ちにまっすぐ向き合うことで生まれている。ELEKIBASSの新作もおそらくそういった作品だ。それはサカモトの眼差しとここにある言葉が証明している。

少し大げさな言い方になってしまうが、好きなものに対して正直に、そして今の自分に胸を張っていることが、生きていくうえでは大切なのではないだろうか? 今回の取材でサカモトはそう教えてくれたような気がする。

サカモトヨウイチ

リリース情報
ELEKIBASS
『Theme of Melancholic Matilda』(CD)

2016年11月9日(水)発売
価格:2,160円(税込)
WAKRD-060

1. se
2. Yeah Yeah Yeah
3. Don't Stop Believe in Music
4. 星降る夜にきらめいて(STAR LIGHT)
5. Garden Party
6. Mayinside
7. Roller Coster
8. Good Morning Blues
9. Cecilia
10. 自警団(Preservation Society)
11. se2
12. Behind Her Parasol
13. Weekday
14. Theme of Melancholic
15. Where are you in your tomorrows party
16. Who do you love
17. Waikiki Rhythm

ELEKIBASS
『ELEKIBASS RECORDER』

2016年11月9日(水)からApp Storeで発売
価格:960円(税込)

『Theme of Melancholic Matilda』
1. se
2. Yeah Yeah Yeah
3. Don't Stop Believe in Music
4. 星降る夜にきらめいて(STAR LIGHT)
5. Garden Party
6. Mayinside
7. Roller Coster
8. Good Morning Blues
9. Cecilia
10. 自警団(Preservation Society)
11. se2
12. Behind Her Parasol
13. Weekday
14. Theme of Melancholic
15. Where are you in your tomorrows party
16. Who do you love
17. Waikiki Rhythm
『singles and earlytracks』
1. Mellow Yellow
2. I Know Some Kind Of Rain Will Fall
3. Intro
4. You Can Do Anyplace Go
5. Outro
6. Sun To Shine
7. Surprise Donky
8. La Coste
9. Waniwani
10. Fall Gilbart
11. Montreal
『california』
1. Eleki Of California
2. You Share The Same Heart In Theory
3. Beginning 1
4. Let's Brian
5. I'm Leaving
6. La Coste
7. Trouble Bom-Bom
8. Beginning 2
9. Daniel
10. Electric Waltz
11. Johnstone
12. Beginning For Apartment
13. Everything' So Bright
14. Mellow Yellow
15. A Little Touched
16. Spring Time Is The Season

イベント情報
『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume91』

2016年11月24日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
ELEKIBASS
Papooz
THE BREAKAWAYS
WONK
AUSTINES
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール
ELEKIBASS
ELEKIBASS (えれきべーす)

1998年に結成し、強い海外志向を持ち、後にアメリカで人気バンドとなるOf montrealと早くから交流を重ね、現在までに8度のアメリカツアーを実施。一方、国内でも渋谷系の流れを組むバンドとしての評価も獲得。また、自ら主宰するレーベルWAIKIKI REOCRDからは国内外のアーティストの作品を数多くリリースしているサカモトヨウイチ率いる60年代後半のブリティッシュロック、ブルース調のリズム、ミュージックホールメロディー、そして風変わりなサイケデリックさの要素をあわせ持つバンド、ELEKIBASS。2016年8月にアメリカのジョージア州アセンズで開催されている、インディポップミュージックのフェスティバル「Athens Popfest」へDeerhoofやElf Power、DANIEL JOHNSTONらとともに出演。アメリカでの7inchレコードシングルのリリースも決定している。2016年11月、4年ぶり4枚目のフルアルバム『Theme of Melancholic Matilda』をリリース。



記事一覧をみる
フィードバック 2

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 20代の迷える編集者がELEKIBASSサカモトに生きるヒントを乞う

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて