昨年、突如デビューした8人組の覆面パフォーマンスユニット「五五七二三二〇(ゴー・ゴー・ナナ・ニー・サン・ニー・レー)」が、新たなフェーズに突入した。10月26日に、8人を2人ずつのユニットに小分けした第3弾シングルを4曲同時配信。しかも、そこに「同時再生すると1曲になる」という仕掛けを忍ばせながら。さらに、イマジナリーな世界観の映像表現とともに楽しめるマッシュアッププレイヤーなるスマートフォンコンテンツもリリースされた。
音楽をただ聴くのではなく、新しい「遊び」の体験とともに提供する、五五七二三二〇プロジェクト。巷では「あのアイドルの覆面ユニットである」と正体がすでに明るみになっているわけだが、当の本人たちは依然口をつぐんだまま……ということで、まだまだ謎に包まれた本プロジェクトのクリエイティブディレクターである田中直基、音楽プロデューサー・冨永恵介、マッシュアップコンテンツの制作を担当した長井崇行、木村靖裕の四人に、その裏側を聞いた。
音楽史に影響を与えるかもしれない、画期的な「ミックス前提な4楽曲」
音を自在にミックスし、エディットする――。2曲以上のボーカルトラックとバックトラックを抽出し、テンポを合わせてミックスして同時進行させ、1曲として聴かせる「マッシュアップ」。既存楽曲の新たな魅力の一面を発掘し、音楽の可能性を広げてきたこの手法は、デジタルミュージックが盛んになりだした1980年代中盤から、テクノ、ハウス、クラブ&DJカルチャーから加速度的に発展し、いまや音楽シーンに欠かせない存在となっている。
そんなマッシュアップシーンに、アイドルシーンから新風を吹き込む画期的なコンテンツが誕生し、話題を呼んでいる。それが、五五七二三二〇のマッシュアッププレイヤーだ。
このコンテンツの特殊性を述べる前に、まずは8人組の覆面アイドルユニット「五五七二三二〇」の歩みについて簡単に説明しよう。
五五七二三二〇アーティスト写真(公式サイトを見る)
2015年、デビュー作となる第一弾シングルでは、KenKen(RIZE)をコンポーザーに起用したエモなロックシングル“半世紀優等生”でギター5人+ドラム3人という例のない編成でパフォーマンスを披露。
続く第2弾シングル“ポンパラ ペコルナ パピヨッタ”では、菅野よう子が作曲を担当し、実験的な合唱パフォーマンスによって音楽ファンに痛烈な一撃を与えた。
そんな、人々の度肝を抜く仕掛けを繰り出してきた「五五七二三二〇」が、約1年の沈黙を破り、またも大ナタを振るったのが、第3弾となる「解体」プロジェクトなのである。
複数の試みが徐々に一つの形を成していくこのプロジェクトは、まず五五七二三二〇の8人のメンバーを4ユニットに小分けして制作された4曲が、10月26日に配信限定で同時リリースされることから始まった。
五五七二三二〇『シケラナイ』ジャケット(楽曲を聴く)
五五七二三二〇『ガラパゴス・ビスケット』ジャケット(楽曲を聴く)
五五七二三二〇『小腹にデンデケ。』ジャケット(楽曲を聴く)
五五七二三二〇『The Colorful World ~一つあたりたった30円くらいのお菓子でこんなに仲良くなれるならもっと早くあげればよかった~』ジャケット(楽曲を聴く)
楽曲制作陣もかなり豪華で、レゲエアーティスト・RYO the SKYWALKERやインド民族楽器のタブラ奏者・U-zhaan、気鋭のトラックメイカー・banvoxのほか、海外活動も盛んなブレイクビーツユニット・HIFANAと伝説的ロックバンドThe Venturesがコラボレーションするなど、すべてテイストが異なるアーティストが集結。これらの楽曲をリリースした後、マッシュアップの手法によって4曲を1曲に仕上げてしまおうというのが、今回のプロジェクトの全容だ。
4曲が1曲にマッシュアップされることに気づき、検証してみるユーザーも5572320番煎じぐらいかとは思いますが、僕もLyric Videoを同時再生してみました。
— DDコング (@HaaaDokkoisyo) 2014年12月3日
なぜ4曲を1曲にマッシュアップ? 茨の道がスタート
冒頭にも述べた通り、マッシュアップの手法自体は新しいものではないが、注目すべきはその体験クオリティーだ。そもそもなぜ4曲をマッシュアップする企画になったのか? 本プロジェクトの出発点を、そのこだわりと共に、クリエイティブディレクター・田中直基に聞いてみた。
田中:このプロジェクトはそもそも、ココナッツサブレというお菓子の50周年キャンペーンからスタートしたんです。今回、五五七二三二〇が「解体」をテーマにしたのは、今まで50年間、パッケージから味まで何ひとつ変わることのなかったココナッツサブレが、1パッケージを4つに小分けするという一大ニュースがあったから。じゃあ五五七二三二〇も2人ずつ4つに「解体」して、4曲の新曲を展開しようと。ただそれだけじゃ、面白くないと思ったんですよね。そこで思い出したのが、YouTubeでよく聴いていたマッシュアップ。これを後でエディットするんじゃなくて、もうそれ前提の曲って作れないのかな、と。
田中は、ここで普段パートナー的に仕事をしている音楽プロデューサーの冨永に相談を持ちかけた。
冨永:2~3曲のマッシュアップはよくあるけど、4曲マッシュアップは可能? という話が発端でした。でも、はじめはてっきり音楽だけをマッシュアップするものだと思っていたんですよ。だから「できるできる」って言ったんですけど、よくよく話を聞いてみると、全曲歌詞ありで、しかも4曲同時再生でノーエディットでちゃんとマッシュアップとして成立させたいと言われて、これは大変だぞと(笑)。
田中:新しいココナッツサブレは、中は4つに小分けになるけど、結局は4つ1パックで売られるんです。そういう商品コンセプトがあるから、楽曲も最後は「4つで1つ」に帰着させたくて。
その道のプロたちが暗中模索で開発した、前代未聞の仕様
そこで、よりクローズアップされるのは、「マッシュアッププレイヤー」の存在だ。
五五七二三二〇のマッシュアッププレイヤーは、スペシャルサイトからQRコードを読み込んで、スマートフォンで再生することができる(プレイヤーで見る)
田中:まず、ぶっちゃけますと、4曲分のPVを同時に作るのは予算的にかなりしんどかったんです。そこで新しい映像作品の方法として、ウェブブラウザで3DCGをリアルタイムでバリバリ動かせる「WebGL」という機能を使ったマッシュアップコンテンツなら、曲と同じように映像もマッシュアップできて楽しいんじゃないかなと。流す曲によって画が変わる、PVとは違う映像作品を残せるのは、ユーザーにとっても新しい体験になるだろうし、魅力的だなと思ったんです。で、まずはPARTYという会社に中村大祐さんという人がいて、よく仕事を一緒にするんですが、彼に相談しました。
そんなこだわりのWebGL搭載マッシュアップアプリを開発したのは、デザインとプログラミングをチームで手がけた長井崇行(BIRDMAN)と木村靖裕(ホムンクルス)の二人。
長井は、五五七二三二〇スペシャルサイトのディレクションをずっと手がけてきており、木村は過去にFACTの“ACT way down”のスマホ専用PVなども手がけているデベロッパーだ。
スマートフォンを使ったDJ系のマッシュアップアプリは既に数多くリリースされているが、ほとんどは2曲を1曲にマッシュアップするものだ。だが今回のような、配信シングル4曲すべての音源を同時に鳴らしてマッシュアップするという試みは、もしかすると世界初では……?
木村:3曲以上の楽曲を使うこと自体、まず少ないとは思いますし、映像的に見ても、WebGLを使ったウェブコンテンツの事例は増えてきているとはいえ、4曲もマッシュアップできてスマホでここまでのクオリティーで楽しめるものはまだないのではないでしょうか。
前例がないから、技術的に大変かどうかも分からなかったのですが、4曲分のデータ容量を1曲分に押し込めなきゃいけないし、ユーザーが曲を瞬間的に切り換えたとき、にコンテンツが落ちないようにするのも大変。トライアンドエラーしながらじゃないと進まないので、最後までハラハラし通しでした。
楽曲をマッシュアップした際の、映像の面白さにも当然こだわっている。こればかりは、実際にプレイしてもらわないとすごさが伝わりにくいのだが……。五五七二三二〇の一人がココナッツサブレを食べながらアプリを起動すると、バーチャルなアプリの中に入り込んでしまうという実写プロローグとエピローグも挿入されたこの作品は、五五七二三二〇のCGキャラクターがCG世界を大冒険するサイケデリックな内容だ。
マッシュアップを体験しながら、五五七二三二〇のメンバーがCG世界を冒険するというストーリーを同時に楽しめる
長井:1曲分の演出でWebGLを使う例はありますが、今回やろうとしたのは、4曲分のPVの合体型みたいなもの。ユーザーが1~4曲をどう組み合わせるかによって、映像1シーンに対して絵柄を15パターン用意しています。
―そんなにたくさん!
長井:それと、曲が増えると映像内の絵が増えていく、みたいな分かりやすいものにはしたくなかったので、この曲を鳴らしたら重力が発生して地面ができてキャラクターが着地するとか、重力がなくなると画面が万華鏡のようになるとか、相当工夫しましたので、何度プレイしても飽きないはずです。
楽曲の組み合わせによって各シーンにつき15パターンのシーンが展開されるという手の込んだ作りになっている
田中:この形に着地するまでに、毎回5時間ぐらい打ち合わせをしました。長井さん、木村さんに「こんなことはできますか?」と、プログラミングに対する疑問や提案を一つひとつぶつけていくんですけど、木村さんたちも優しいからNOとは言わなくて(笑)。
木村:ずっと、暗い洞窟の中を歩いている感じで(笑)。唯一の光明があったとすれば、田中さんの中にあった「直感的に、これはヤバいと思えるものにするんだ」というキーワード。
音楽性がバラバラな4組を一つにした、「ファンク」と「ジャズ」の役割
別々の4曲を1曲として完成させなければならなかった楽曲制作のほうも、かなりの苦労があったと冨永は振り返る。冨永:まずマッシュアップって、例えばTHE BEATLESとLed Zeppelinを組み合わせてそこにJay-Zのラップ貼り付けるとか、2、3曲のパターンはわりとある。だから4曲でも上手くやればできるし、スリリングで珍しくていいね、くらいに軽く考えていたんです。
ところが、田中くんが考えていたのは、ユーザーが4曲を頭から同時再生して、好きなように混ぜ合わせることができて、なおかつお尻まで聴いたときに完成した1曲として聴こえるものだったんです。それが打ち合わせで発覚したときは、大変なことを引き受けてしまったな、と(笑)。
そこで冨永がどうしたかというと、作曲を担当するミュージシャンたちに、いくつかの「要素」を統一して制作してもらえるように、提案したという。
冨永:当たり前ですが、メロディーや歌、詞、アレンジはそれぞれのアーティストの色を活かして自由に作ってほしい。ただしコードと、テンポと、ある程度の構成、この「ある程度」っていうのが難しかったんですが、それらの約束事と、アーティストの色とそれらのバランスを突き詰めてから発注しました。リズムの側面からみると4アーティスト同士のファンクセッションみたいなもので、広義でいうと、言ってみればこれはジャズっていうことになる。
―それはなぜですか?
冨永:ファンクは、一つのフレーズやメロディー、リズムを全部ドラムのように扱うということ。とてもマッシュアップ的で今回の制作コンセプトにも合っています。さらに、それらも内包しつつコードやモードの解釈でフレージングをインプロビゼーションしていくのがジャズ、今回面白いのはアイドルの歌さえもジャムセッションの一要素になるというところ。
特に大変だったのは4曲を同時に再生したときに、ポップスとしてギリギリ成り立たせるミックス作業です。非常に耳が疲れましたが、予期しなかったグルーヴが生まれたりして、思っていたよりも心地よく楽しいマッシュアップ楽曲に仕上がりました。制作は現代音楽の作曲家・松司馬拓くんと、打ち込み、サンプリング系アーティストのハヤシベトモノリさんにも力を借りながら形にしていったのですが、カオティックで甚大な情報量をひたすら整理していく、かなりハードコアな作業でしたね(笑)。
The Venturesも生演奏で参加。一癖も二癖もあるプロジェクトにアーティストが集結
このような、一癖も二癖もあるプロジェクトにおいて、楽曲制作を快諾してくれたのが、RYO the SKYWALKER、U-zhaan、banvox、HIFANA & The Venturesの4組だ。
“シケラナイ。”(五五七二三二〇 with RYO the SKYWALKER)は、早口の弾けるリフが印象的なマッシブな楽曲。
“ガラパゴス・ビスケット”(五五七二三二〇 with U-zhaan)は神秘的なタブラの音色と謎のタブラボールがミステリアスな一曲。
“The Colorful World ~一つあたりたった30円くらいのお菓子でこんなに仲良くなれるならもっと早くあげればよかった~”(五五七二三二〇 with banvox)は、EDMテイストが炸裂する大人っぽいダンスナンバー。
“小腹にデンデケ。”(五五七二三二〇 with HIFANA & The Ventures)は、レトロなギターサウンドと跳躍するメロディーが脳を揺らす。
田中:人選に関しては、トミー(冨永)と相談しながら、まずはジャンル、次にアーティストの性格とかまでを想像しながら絞っていきました。この人はこの依頼をしたらキレるんじゃないかとか(笑)。The Venturesに参加してもらえたのは興奮しました。1960年代のエレキギターの「デンデケデケデケ」というサウンドが印象的な彼らにダメモトで声をかけたら、面白がっていただけて。来日ツアーにあわせて、生演奏をレコーディングしたんです。
クライアントと一緒に作り上げ、制約がある中でもひたすら尖ったことをやり続ける
これまで見てきたように、キャンペーン企画としては一見遠回りかもしれないが、それは今回のプロモーションにおいては、伝えたいことを最大限伝えるための方法だったと考えられる。これをやろうと決めたのには、作り手たちが広告に対して抱えている想いもあったようだ。
田中:そうなんです(笑)。でも、小分け化のニュースを伝えることだけがゴールじゃなくて、これをきっかけにサブレを好きになってくれる人が増えることがゴールで。もっと言うと、一瞬ニュースになるけどすぐに消費されていく話題作りではなく、ずっと残る広告というものがあってもいいんじゃないかと思って。ココナッツサブレというのは、発売50年の歴史があって、そもそも1968年頃からCMをやっていない商品なんです。その商品の時間軸で考えたら、単発で終わるようなプロジェクトをやってもしかたないから、ちゃんと時間をかけて残っていくものを作っていきたいと思ったんですよね。
ご存じの方も多いでしょうが、五五七二三二〇はあるアイドルグループの覆面ユニット。そのアイドルにとっても、商品にとってもチャレンジになるような、見た人が驚くようなことを一つずつ作っていけたら面白いんじゃないかと思ったんです。
クリエイター自らが本気で楽しみながら作っている作品には、ユーザーも引き込まれてしまうものだ。そして、人々の記憶にも、作品としても残るものをめざす過程で、成果物だけではなく、既存の「手法」そのものを疑う姿勢がこのプロジェクトの肝なのかもしれない。
田中:新しいことをやろうと思ったら、「作り方」から作らないと、どんどん行き詰まってしまうんじゃないかと考えています。だから僕らの制作は、まず「無理難題」を掲げることから始まるし、なかば実験のようなプロセスをたどることになる。今回であれば、それをクライアントの日清シスコさんさんと一緒に突破していくことを本気で面白がっているから、ユーザーも楽しんでくれているのかなと思っていて。五五七二三二〇は、これまでの歩みを通して、そういうプロジェクトに育っているんじゃないかと感じていますね。
- リリース情報
-
- 五五七二三二〇 with RYO the SKYWALKER & U-zhaan & banvox & HIFANA & The Ventures
『四味一体』 -
2016年11月7日(月)発売
価格:257円(税込)
- 五五七二三二〇 with RYO the SKYWALKER & U-zhaan & banvox & HIFANA & The Ventures
-
- 五五七二三二〇 with RYO the SKYWALKER
『シケラナイ。』 -
2016年10月26日(水)発売
価格:257円(税込)
- 五五七二三二〇 with RYO the SKYWALKER
-
- 五五七二三二〇 with U-zhaan
『ガラパゴス・ビスケット』 -
2016年10月26日(水)発売
価格:257円(税込)
- 五五七二三二〇 with U-zhaan
-
- 五五七二三二〇 with banvox
『The Colorful World~一つあたりたった30円くらいのお菓子でこんなに仲良くなれるならもっと早くあげればよかった~』 -
2016年10月26日(水)発売
価格:257円(税込)
- 五五七二三二〇 with banvox
-
- 五五七二三二〇 with HIFANA & The Ventures
『小腹にデンデケ。』 -
2016年10月26日(水)発売
価格:257円(税込)
- 五五七二三二〇 with HIFANA & The Ventures
- プロジェクト情報
-
- 五五七二三二〇「解体」
-
「ココナッツサブレが4つに小分けになる」。その衝撃的な「進化」を楽曲とパフォーマンスにした今作。「湿気らない」「小腹にちょうどいい」「友達と分け合う」「50年目の進化」4つの楽曲タイトルはココナッツサブレの進化をヒントに作られた。それぞれまったく違う味が味わえる個性的な4曲が、さらにマッシュアップコンテンツとしても楽しめる。
- 商品情報
-
- ココナッツサブレ
-
昨年、発売50周年を迎えた「ココナッツサブレ」は、今年5枚×年パックへと“解体”。「食べる量を調整したい」「いつでもサクサクした食感を楽しみたい」といったユーザーの要望に応えリニューアルを実施した。
- プロフィール
-
- 五五七二三二〇 (ゴー ゴー ナナ ニー サン ニー レー)
-
2015年3月にココナッツサブレの発売50周年を記念してデビューした女子中学生8人組のパフォーマンスユニット。メンバー個人に関する情報は非公開となっている。が、ここだけの話、その正体はアイドル「私立恵比寿中学」である。
- フィードバック 3
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-