最重要バンドになったOGRE YOU ASSHOLE、高みへどう登った?

他のバンドと群れることなく、自分たちの音楽だけに集中できる地元・長野に拠点をずっと置き、ここ数年は確実に新しいファンを獲得しながら今や音楽シーンにおける最重要バンドの一つとなっているOGRE YOU ASSHOLE。彼らこそは、音楽的な野心と探究心を持つすべての若手ミュージシャンにとって、最適なロールモデルと言えるかもしれない。

『homely』『100年後』『ペーパークラフト』の「3部作」を経て、セルフプロデュースによって生み出されたニューアルバム『ハンドルを放す前に』は、そんなOGRE YOU ASSHOLEの「音の質感」における最新の「実験結果」が凝縮しているのと同時に、これまでになくポップミュージックとしての強度が高くなっている。今回のメンバー全員インタビューから窺えたのは、バンド内における役割分担と意思統一がいかに明確にはかられているかだった。曖昧なところが一切ないからこそ、彼らはこのような音楽的「高み」にたどりつくことができたのだろう。

そろそろ、自分たちですべての責任を持つのもいいんじゃないかって。今回のアルバムでは、僕らにとってかなり新しいことをやったつもり。(出戸)

―今作『ハンドルを放す前に』は、久々のセルフプロデュースアルバムということになりますね。

出戸(Vo,Gt):「久しぶりのセルフプロデュース」と資料にもありますけど、その前ってファーストアルバム(2005年にリリースされた『OGRE YOU ASSHOLE』)で。その時は、レコード会社に「CD作らないか?」って言われて、連れて行かれたのが当時小室哲哉さんの所有していたスタジオだったんです。

完璧にポップスを作るような大きなスタジオで、レコーディングというもの自体がなんなのかわからないまま、ポップス専門のエンジニアさんと作業を進めていったという状態で(笑)。だから、その時はただプロデューサーがいなかったっていうだけで、自覚的に「セルフプロデュースで」という意味では今回が初めてってことになりますね。

左から:勝浦隆嗣、出戸学、馬渕啓、清水隆史
左から:勝浦隆嗣、出戸学、清水隆史、馬渕啓

―それは、プロデュースのノウハウを自分たちでつかんだからっていうのが大きかったんですか?

出戸:というより、『homely』(2011年)、『100年後』(2012年)、『ペーパークラフト』(2014年)って自分たちの中では3部作なんですけど、そこでやりきったという意識が大きいですね。次から新しいやり方でやっていきたいって。

そろそろ、自分たちですべての責任を持つのもいいんじゃないかって気持ちが、ジワジワとわきあがってきたというか。今回のアルバムでは、前作までと比べて、音の質感としてバンド感を後退させたかったんですよ。僕らとしてはかなり新しいことをやったつもりで。

―「バンド感の後退」というのは?

出戸:極力、部屋鳴りを抑えたという感じですね。これまではベースとかも広い場所でアンプで鳴らしたりしていたし、ドラムもそのまま叩いてたんですけど、なるべく空気感や生々しいサウンドを排除して、止まった感じの音にしたかったんですよね。

音数は少ないですけれど、決して音の情報量が少ないわけではなくて、もう一つ別の次元での情報量の多さというのはあるんじゃないかなって。(勝浦)

―「3部作」という言葉が出ましたけど、今振り返って、2011年の『homely』からの3作というのは、バンドにとってどういう意味を持った作品だったんでしょうか?

出戸:今回のアルバムのタイトルは『ハンドルを放す前に』ですが、それまでの3つのアルバムは、言ってみれば「ハンドルを放した後の作品」というか。

―えっ? 時間的には逆行してるんですね! どういうことですか?

出戸:あの時期の自分たちは、諦念というか虚無感みたいなものをテーマにしていて、それが作品全体を覆っていたと思うんです。その究極が前作の『ペーラークラフト』で。世界のすべてがペラペラの紙でできているように見えるみたいな、そういう境地にまでいってしまったので、その認識のさらに先で曲や詞を作るのって、かなり困難じゃないかと思ったんです。だから、ここで一回、前提に戻る必要があったということですね。

OGRE YOU ASSHOLEアルバム『ペーパークラフト』収録曲

―でも、『ハンドルを放す前に』ってことは、結局はまた放しちゃうんですよね?

出戸:いや、少なくとも今回のアルバムでは最後まで放さないです。すべての曲で焦点を当てているのは、何かが起こる、その前の感じというか。何かが起こってる最中だったり、起こった後の歌というのはここにはなくて、全部が起こる前のちょっとした「あいだ」を歌った曲ばかりで。

―先ほど出戸さんは「止まった感じの音」と言ってましたけど、特にドラムに関しては、いわゆる「デッド」な音ってことですよね?

勝浦(Dr):そうですね。

―曲によっては打ち込みを使ってるんじゃないかってほど無機質なサウンドになっていますけど、勝浦さんは全部の曲で叩いてるんですか?

勝浦隆嗣

勝浦:叩いてます。でも、できるだけ手数を減らして、余計な音を鳴らさないで。今回のアルバムはドラムだけでなく、全体的に無駄なものをとにかく省いていった感じですね。その結果、すごく強度のある、長く聴ける作品になっていると思います。音のおもしろさもあるんですけど、メロディーもアレンジも、全部必然的なものだけが鳴っているというか。

―今って、世界的にも、先鋭的なポップミュージックの主流のサウンドってものすごく音数が少なくなっていて。そういう面でも、今回のアルバムには共振するところがあると思うんですけど、それをあくまでもバンドでやっているっていうのがおもしろいなって。

勝浦:どんなに音を減らしても、人が演奏してると、ズレだったり、ヨレだったり、プレイヤーのクセみたいのが出るじゃないですか。最近は打ち込みの音楽でもそういうダメージ感みたいなものを出している作品もありますけど、やっぱりそういうのはわざとらしく感じて。

僕らはバンドでやってるからこそ、自然な汚れ感というのは大事にしたいですね。音数は少ないですけれど、決して音の情報量が少ないわけではなくて、もう一つ別の次元での情報量の多さというのはあるんじゃないかなって思ってます。

自分たちが目指している音にたどりつくまですごく時間がかかったけど、完成前に自分がイメージしていたものに、これまでで最も近いものができた。(馬渕)

―なるほど。単にバンドでやることが音楽的に何かの制限になっているんじゃなくて、ちゃんと意味があるってことですね。

清水(Ba):オウガの作品って、着地点が見えにくいところが特徴だと思うんですよ。例えば曲をアレンジしていてわかりやすくレゲエっぽくなってきたら、バンドの中で反作用が働いて、そこには着地しない。ジャンルに限らず、歌詞の内容とか、音が持ってる時代の感覚とか、色々な要素をわかりやすく着地させないで、浮いたままにしておくみたいな。今回のアルバムでは、その傾向がより強まっているんじゃないかなって。

清水隆史

清水:今の時代って、音楽に限らず、例えば思想信条にしろ政治的な立ち位置にしろ、バキッとどれかに決めなきゃいけないムードがあると思うんです。グレーな部分捨てて、白黒ハッキリしないといけない雰囲気がある。そんな中だからこそ、どこにも与しないで中間的なものであり続けたいって意識を強く持っているのかもしれません。

曲を作っているのは出戸くんと馬渕くんですけど、この10曲に絞られるまでにボツになった曲も多くて。最近のライブでもやってたのに、結局このアルバムには入らなかった曲がいくつかあるんですよ。いろんな意味で、これまでで一番、時間と手間がかかってるアルバムだと思います。

馬渕(Gt):機材を入念に選ぶところから、自分たちが目指している音にたどりつくまですごく時間がかかったんですよね。そのおかげで、完成前に自分がイメージしていたものに、これまでで最も近いものができたかなって。

馬渕啓

―ソングライティングの役割としては、作詞はすべて出戸さんで、作曲は出戸さんと馬渕さんの二人の共作ということですよね。曲の元になるアイデアというのは、それぞれが持ち寄ってると思うんですけど、お二人それぞれの傾向にはわりとはっきり違いがあるんですか?

馬渕:あるよね(笑)。

出戸:(笑)。

勝浦:あると思います。これは出戸くんっぽいとか、これは馬渕くんっぽいとか。

―具体的に言うと?

清水:最近の傾向で言うと、馬渕くんの曲はわりとドラマチックな曲が多くて、出戸くんの曲はループっぽい曲が多いように思います。出戸くんの持ってくる曲の方が、コード展開とかも少なくて。

―なるほど。今回いつになく、歌詞の面でアルバムにストーリー性を感じたんですよね。

出戸:曲順を決めるまで、かなり悩みましたね。最後の最後まで決まんなくて、アルバムの流れを考えて、結局入れられなかった曲もあったし。

これまでは、アルバムをレコーディングしている最中に「あ、これは最後の曲だよね」とか「これは最初の曲だな」とか、メンバーみんなで大体意識を共有しながら作ってきたんですけど、今回はみんな考えていることがバラバラで。結局アルバムのタイトルトラックにもなった“ハンドルを放す前に”を1曲目に置いたことで、ようやく流れが決まっていった感じで。

出戸学

―個人的にグッときたのは、最後の曲の“もしあったなら”に一番の盛り上がりがあって。最後の曲が一番興奮するアルバムって、大体名盤(笑)。

出戸:自分としても、アルバム単位で音楽を聴くというのが完全に習慣づいているので。

―しかも、それがアナログレコードだったりするんですよね?

出戸:そうですね(笑)。だから今回のアルバムの曲順を決める時も、A面の最後の曲はこれで、B面の最初の曲はこれでって、どうしても考えてしまうんですよね(笑)。

これは、もしかしたら僕だけかもしれないですけど、アナログ盤に入ってる曲だったら、すごく長尺でなかなか展開がこない曲でも全然聴けるんですよ。でも、YouTubeで曲をクリックして、そこで15分間ろくに何も起こらないと、さすがに怒りたくなるじゃないですか。

―わかります(笑)。

出戸:でも、レコードで15分何も起こらなくても、逆にそれが気持ち良くなってくるんですよね(笑)。

―ただ、今回の『ハンドルを放す前に』は淡々とした中にも、実はすごくポップス的なフックもある作品になっていて。これまでの「3部作」と比べても、あらゆる面において焦点がパキッと合った作品になっていると思いました。

出戸:歌詞に関しても、かなり変わってきたと思います。 昔は、わりと抽象的で行間にクエスチョンマークが浮かぶような歌詞が多かったんですが、今回のアルバムでは“移住計画”は移住計画についての歌だし、“頭の体操”は頭の体操についての歌なんですよね(笑)。

―これを読んでいる人は当たり前のことを言っているように思うかもしれないけれど、それってオウガにとって大きな変化ですよね(笑)。

出戸:で、そのこと自体を歌うことで、そこにもっと大きなクエスチョンマークを浮かび上がらせることができればいいなと思っていて。そういう意味では、歌詞の作り方そのものが変わってきたと思います。

出戸くんと馬渕くんは、音楽を嗅ぎ分ける力がすごくある。腹が立つほど、表面的な流行りものには引っ張られないんですよ。(勝浦)

―メジャーデビューのタイミングでは学生時代から住んでいた名古屋にいましたけど、それ以降、皆さんずっと故郷の長野に住んでいるわけじゃないですか。ずっとそうした環境でバンドを続けていることからくる影響について、東京にいる自分のような人間はどうしても想像してしまうんですけど。

出戸:土地の影響については、自分たちにとっては当たり前のことだから、あまり自覚としてはわからないんですよね。東京で暮らしたこともないから比較をすることもできないし、長野で周りに自分たちみたいなバンドもいないし。

―まぁ、比較する対象がないと言われれば、それまでなんですけど(笑)。ただ、音楽の中で流れている時間が違う感じというのは、明らかに感じるんですよね。ずっとバンドを続けている中で、さすがに最近は時代の変化に敏感にならざるをえないというところもあるんじゃないですか?

出戸:自分たちにとってターニングポイントがあったとしたら、やっぱり『homely』を出した2011年頃ですね。あの時に、音楽の作り方やそこに向かっていく意識がガラッと変わって。

OGRE YOU ASSHOLEアルバム『homely』収録曲

―そこからは、あまり変わってない? ある意味、現在のオウガのポジションって、この国の音楽シーンにおける「最先端バンド」の一つなわけですけど。

出戸:うーん。そうなのかどうかの自覚もない(笑)。

馬渕:自覚としては、それについてもやっぱり『homely』以前、以降って感覚が強いですね。自分たちが普段聴く音楽も、あのタイミングから変わっていったし。

勝浦:あの頃から、身体だけじゃなく、ちゃんと頭でも考えて音楽を作るようになった。

―その時期の変化に、だんだんリスナーが気付いてきて、そこから着実に支持が広がっていって、それで今のオウガがあるって感じなんですかね?

出戸:そうだったらいいんですけどね。

OGRE YOU ASSHOLEアーティスト写真
OGRE YOU ASSHOLEアーティスト写真

―やっぱりそうやって我が道を貫いてこれたっていうのは、音楽シーンのいろんなノイズから離れた場所で活動しているというのが大きいと思うんですけどね。

出戸:いや、いろいろ気にしてますよ。自分が疲れない程度には嫉妬や野心などはあると思うけど(笑)。

清水:そんな話、聞いたことない(笑)。

勝浦:出戸くんと馬渕くんは、音楽を嗅ぎ分ける力がすごくあると思うんですよ。「これは本質的なものじゃない」「これは一時の流行だ」みたいな判断がすごく的確なうえに早い。同じバンドの中で見ていて、腹が立つほど、表面的な流行りものには引っ張られないんですよ。

出戸:勝浦さんは、全部をちゃんと聴いて、それを分析したがるタイプですよね(笑)。

馬渕:新しいものを聴いておもしろいと思ったとしても、そこに自分のやりたいことはないんですよね。音楽的な影響みたいなものは、そういうものよりも全然違うところからもってきた方がおもしろいし。

影響を受けたとしても、どこかからフレーズをそのままもってくるとかは考えたことはなくて、その音楽の持っている雰囲気とか、そこから見えた景色、そこで感じた気持ちみたいなものを、自分たちの音楽で表現したいんですよ。そうなると、表面的にはほとんど影響されているようには聴こえないのかもしれないですね。

―でも、図らずも今回の『ハンドルを放す前に』は、その音数の少なさ、音の空白の多さにおいて、さっきも言ったように現代のポップミュージックの最前線と共振しているように自分は感じていて。

出戸:それも、単純に自分たちが好きな感じを追い求めてきた結果でしかないんですよね。音数が少ないっていうのも、自分が把握しきれないものを作品の中に一切入れたくないからで。一つ音を加えただけで、全体の質感って大きく変わってくるから。

OGRE YOU ASSHOLE『ハンドルを放す前に』ジャケット
OGRE YOU ASSHOLE『ハンドルを放す前に』ジャケット(Amazonで見る

出戸:自分にとっては、音を削ぎ落としているというより、これでもかなり積み上げている感覚なんですよね。ただ、積み上げていく一つひとつの音に関しては、とにかく選び抜いている。で、その組み合わせに関しても、しっくりとくるまでとことん考えていくという。

―でも、今作はそこでこれまでの抽象性からより具体性へと向かっていることによって、これまでにない凄みが生まれていると思います。

出戸:歌のミックスの方法をちょっと変えたんですよ。これまでは楽器の一つのように聴こえるように、ボーカルトラックをあまり前に出してなかったんですけど、今回はより生々しい感じで前に出してみて。そうすると、全体の質感的にすごく変な感じになって「あ、これいいな」って。

―とことん即物的な理由なんですね(笑)。

出戸:そうなんですよね。正解か不正解かっていうのは自分たちの中にしかなくて、それを言葉にするのは難しいんですけど、そこでの反射神経に関してはここにきてすごく磨かれてきたって自覚はあります。でも、音楽シーンにおける自分たちの立場とかに関しては、相変わらずまったく自覚がないので、こういうインタビューの場で教えてもらうしかないんですよ(笑)。

リリース情報
OGRE YOU ASSHOLE
『ハンドルを放す前に』(CD)

2016年11月9日(水)発売
価格:2,808円(税込)
PCD-26067

1. ハンドルを放す前に
2. かんたんな自由
3. なくした
4. あの気分でもう一度
5. 頭の体操
6. 寝つけない
7. はじまりの感じ
8. ムードに
9. 移住計画
10. もしあったなら

イベント情報
『OGRE YOU ASSHOLE ニューアルバム リリースツアー 2016-2017』

2016年12月9日(金)
会場:長野県 ネオンホール

2016年12月10日(土)
会場:石川県 金沢 vanvanV4

2016年12月11日(日)
会場:山梨県 甲府 桜座

2016年12月16日(金)
会場:岡山県 YEBISU YA PRO

2016年12月17日(土)
会場:広島県 4.14

2017年1月14日(土)
会場:福岡県 BEAT STATION

2017年1月15日(日)
会場:鹿児島県 SRホール

2017年1月21日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2017年1年22日(日)
会場:大阪府 梅田 AKASO

2017年1月28日(土) 会場:長野県 松本 ALECX

2017年2月4日(土)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM

プロフィール
OGRE YOU ASSHOLE
OGRE YOU ASSHOLE (おうが ゆー あすほーる)

メンバーは出戸学(Vo,Gt)、馬渕啓(Gt)、勝浦隆嗣(Drs)、清水隆史(Ba)の4人。2005年にセルフタイトルの1stアルバムをリリース。2009年3月にバップへ移籍し、シングル『ピンホール』でメジャーデビュー。2016年11月に待望となる最新アルバム『ハンドルを放す前に』を、9月に先行12インチシングル『寝つけない』を、ともにP-VINEよりリリース。



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