若手クリエイターの登竜門として開催されるプロジェクションマッピングのコンテスト『東京国際プロジェクションマッピングアワード vol.1』が、いよいよ12月17日に本番を迎える。当日は東京ビッグサイトの壁面を巨大なスクリーンにして、国内外の学生が制作した17作品が上映される予定だ。
近年はプロジェクションマッピングをはじめ、ARやVR、360度映像など、フォーマットも多様になり、映像は必ずしも四角に切り取られた世界ではなくなっている。そのようななか、同アワードの審査員に名を連ねる映像監督・関和亮は、PVをはじめ、CM、ドラマ、映画、さらには写真やグラフィックまでジャンルを越えて話題作を生み続ける、今の時代を体現しているような作り手だ。そんな彼に、今注目している映像や、『東京国際プロジェクションマッピングアワード』について、そして映像制作を志す若者に対するアドバイスを話してもらった。
最近は、「映像+α」の作品が増えている。
―まずは関さんが最近注目している映像について、お聞かせいただきたいと思います。普段から、話題になっている映像をチェックしていますか?
関:積極的にチェックするわけではないんですけど、やっぱりFacebookで知り合いの業界人が話題にしている映像は、目にする機会が多いですね。あと、Netflixはよく見ています。
―海外ドラマを見るんですか?
関:とりあえず話題作は、最初の1、2話は見るようにしています。最近だと『ゲットダウン』や『火花』は確かに面白いなぁと思いました。やっぱり、今までとは作り方が全然違ってきていますよね。世界中から定額でお金がドーンと入って、そこから制作費が出る。夢があるなぁと思います(笑)。
―映像業界全体として、感じている傾向はあるのでしょうか?
関:コンテンツ自体が面白くなきゃいけないというのが基本にありつつ、ウェブを絡ませたり、現実世界とリンクさせたり、「映像+α」みたいな作品が増えている印象です。みんなよく考えるなぁっていうくらい(笑)。あと、「踊ってみた」や「歌ってみた」のように、見ている人が参加して広がっていくものは人気がありますよね。
―もはや映像は16:9の四角で切り取った世界だけじゃない時代になっていますよね。
関:今はみんな、スマホを縦で持って映像を見ていますしね。実際に僕も寝転がって見るときは、自然と縦で見ちゃうし、Vimeoでも「vertical」と検索すると縦に対応した映像が出てくる。生活に合わせて映像も変化していくんだろうなと思います。
―時代にあわせた新しい表現が次々と生まれてきている中で、今回は関さんが注目している動画をピックアップしていただきました。早速ですが、ひとつずつ見ていきたいと思います。まずは、Moonesの“Better Energy - Drunk In Session”。イギリスのバンドですね。
関:これ、最高なんですよ(笑)。同じ曲を演奏している映像を「シラフのバージョン」「ビールを20本飲んだバージョン」などから選んで見られるんです。最初に見たときは、意味がわからなかったんですけど、「80本飲んだバージョン」がすごいことになっていて。やっぱりドキュメンタリーっていうのがいいですよね。アイデアは作り込んでいるけど、演者は本当に酔っ払っていて、そのナチュラルな感じが素晴らしい。やりたくても簡単にはできません。
―たしかに、これは演出ではなかなかコントロールできない境地かもしれませんね。次は、安室奈美恵さんの“Golden Touch”。
関:これは秀逸ですよね。「ここをタッチしながらご覧ください」という指示に従って画面中央に指を置くと、本当に自分が映像に触っているかのような感覚になる。この映像のように、見る人にアクションを起こさせるのって、すごいことだと思うんです。1990年代のPVは、いわゆるビジュアルの派手さで見せていましたけど、当時から圧倒的に考え方が変わっていることを実感しますし、ちょうど僕はその過渡期にいたので、感慨深いものがあります。しかし、これ、どんだけネタ考えたんだろう?(笑)
―次の映像は……これは水族館のショーですか?
関:はい。水幕に映像を投影する「ウォータースクリーン」なので、エッジがぼやっとしているんですけど、それが蜃気楼みたいで、逆にリアルに見えますよね。ドラゴンが水に入る瞬間に、水しぶきを飛ばす演出も入れたくなります。そこまでいくと、映像というよりは、遊園地のアトラクション的な話になっちゃいますけど(笑)。
―たしかに(笑)。次は、プロジェクションマッピングを使った作品ですね。
関:これはすごすぎて、どこまでがプログラムかわからないですね(笑)。動いているものにプロジェクションするのは、(真鍋)大度くんがPerfumeの演出などを通して開発していましたけど、この機能をプロジェクターに搭載させちゃうパナソニックさんの技術力には脱帽ですね。まだどういう用途に活かせるのかわからないですけど、これからの広がりを感じさせるプロジェクトだと思います。
―今年注目された360度の映像も選ばれていますね。SETAさんの『金魚鉢 with 佐橋Ver.』を挙げられています。
関:360度の映像って、作る側はすごく大変なんですよ。いつも平面の1画面で作っているものを、360度全部作らないといけないから。だから、ダンスみたいにカメラをまわしっぱなしにできる一幕ものの映像を撮影するのが効率的なんですけど、この作品は編集しまくっていてエグいですね。めちゃくちゃよくできていると思います。360度映像の手法自体は面白いのですが、VRの登場や作る側の労力を考えると、今後、いい使い道を探せるかどうかの瀬戸際にきていると思いますね。
若い人がアワードで勝つためには、ただ作るだけではちょっと足りない。ひとつでも飛躍したアイデアがあると、その先までつながる。
―今回お選びいただいた作品のように、一口に「映像」と言っても多様な形式の表現が生まれている今の状況を踏まえると、プロジェクションマッピングという手法も、そのひとつと言えるのではないかと思います。
ここからは関さんも審査員に名を連ねている『東京国際プロジェクションマッピングアワード』についてお伺いしたいのですが、まず今春にプレ開催として行なわれたvol.0の受賞作品を見ていきたいと思います。
関:いちばん驚いたのは、これを作った学生さんたちが、いつもは家具のデザインをしていることですね。普段からCINEMA 4D(3次元コンピュータグラフィックスソフトウェア)を使っているらしいので、それを動かすのは障壁がないと思うんですけど、実際にやってしまう感覚が素晴らしいと思いました。インテリアデザインをしているだけあって、映像もすっきりしていて気持ちいいですね。アニメーションはところどころ甘いけど、結局映像なんて初期衝動の塊だったりするから、そこは評価したいところです。
関:テクノ家の作品は、問題作と言われていたやつですね(笑)。そもそもプロジェクションマッピングとはなんぞや? みたいなところがあって、見て面白ければいいとは思いつつ、建物の形状をもっと演出に組み込んでいたら最優秀賞だったんじゃないかな。大きいスクリーンを活かした壮大なストーリーになっているし、シュールな世界観も惹き付けるものがあるし、アニメーション作品としては面白いと思います。
関:こういうクラブ系の音楽と、2画面構成のマッピングというのは、すごく相性がいいですよね。これを作ったVISIONICAチームは、クラブのVJもやっているそうですけど、2画面を利用した演出は、実際のコンサートなんかでもありますし、これも2つの三角形の間に本当にDJがいるんじゃないか? と思える。後半はネタが尽きちゃった感じが惜しいですけど、DJの存在を感じさせただけでも、作り手側の勝利だと思います。
―もし関さんがこのアワードに応募するなら、どういうところをポイントに考えるでしょうか?
関:やっぱり、この三角形の2画面がいちばんのキーだと思うので、その構成で面白い演出をひたすら考えると思いますね。対になってデザイン的にきれいなものだったり、その対になったものが演出に絡んできたり、例えば鏡でもいいですよね。古典的な鏡のコントみたいなものを取り入れるとか。
―2画面に違う映像を流したほうが効果的だと。
関:そこは全体的なバランスですよね。どうしても人間は、シンメトリーなものが気持ちいい感覚があると思うので。シンメトリーではじまって、それをどう崩していくかとか。そこはセンスが問われるところじゃないかな。
―他に例えばどんなことが考えられますかね?
関:逆三角形を丼に見立てちゃうとか、2つあるからメガネにしちゃうとか。当日は寒いだろうから、最後は豚汁を映して、会場で豚汁を売るのもいいんじゃないですか?(笑)
―間違いなく買ってしまいますね(笑)。その場の寒さとか、上映時間が夜になることとか、そういう環境も鍵になりますね。
関:場の雰囲気に左右されるところはありますよね。実際、僕は現場を見てないですけど、そこをどう想像して考えるかは、ポイントになる部分だと思います。お客さんと映像の距離によって、奥行きの作り方も変わってくるだろうし、現場では意外と細かいものまで見えるかもしれない。そこまで考えたほうが、いいものはできるでしょうね。
―予行演習できないのが大変ですね。
関:そうですね。もちろん、大きな壁でシミュレーションしていると思うんですけど、プロの現場でも設営の都合でリハーサルのときしか試せないことが多いので、わりと似たような感じだと思います。まぁ、若いうちは劣悪な環境でやったほうがいいですよ(笑)。学生ということを考えると、今はそれなりのアニメーションやCGが作れて当たり前になっているので、もう一歩進んだプロジェクションマッピングを期待する部分はありますね。僕らが思いつかないような見せ方もまだあると思う。
―そこは学生ならではの若い感覚に期待したいですね。
関:これに応募する人は、自分の作った映像が、あそこに映るって想像したら楽しいと思うんですよ。でも、アワードに勝つためには、ただ作るだけではちょっと足りなくて、ひとつでも飛躍したアイデアがあると、その先までつながるんじゃないかな。賞のことを考えるなら、ビッグサイトの形状をうまいこと面白くした人が勝つ気がします。やっぱり20歳前後の人たちなので、技術を競うというよりは、アイデアなのか、モチーフなのか、何かをやりきった作品のほうが、本音を言うと賞は与えやすいですね(笑)。
お父さんやお母さんが「あんた、勉強しなさい」と言っているのと変わらないですけど(笑)、本当に勉強するべきだなと。
―関さんは今回の審査員以外にも、映像学校でゲスト講師をされたり、後進の育成に積極的なイメージがあります。
関:あんまり率先してやっているつもりはないんですけど、僕は映像監督として順当な道を歩んできていないので、僕みたいな人間にフォーカスが当たって、話をしてほしいと言ってくれるなら、ひとつの例として伝えることもいいのかなと思っています。「絶対こうしないと監督になれない」と思っている人が意外と多いので。
―監督になるにはいろいろな方法がありえるわけですね。
関:映像学校に行って誰か監督の下について、というのもひとつの方法ですし、もしちょっとでも映像の仕事を目指そうと思っているなら、失敗も経験しないでやめてしまうのは、ちょっともったいないなと思うんです。僕に対して「ちょっと学生相手に話してほしいんです」と言ってくれる人たちも、きっとそういう気持ちがあると思うんですよね。だから、僕なんかでよければ、全然アドバイスしますよ、というケースは多いですね。
―仕事として映像に携わる前に、自主制作はしていたんですか?
関:実はしてないんですよ。もともと映像の仕事をしたいとは思っていたけど、大学を3か月でやめて、知り合いの紹介で業界に入ったんです。だから自主映画を作るとか、アート作品を作るとか、そういうのを一切してこなかった。でも、1個でも自分の作品があると、それが名刺になるから、「こういうの僕できるんです」って言えますよね。何もなしに「やりたいです」とか、「目指してます」と言っても説得力に欠けるから、ダメでもやっといたほうがよかったなって、すごく後悔していますね。時間があるうちに勉強と作品作りはやったほうがいい。
―初めて監督をされたのは、何歳のときですか?
関:24歳くらいだったかな。女性シンガーのPVをやらせてもらったんですけど、当時は監督なのに現場でいちばん若くて。助手さんですら僕より上の人だったので、もう挫折しかないですよね。「全然うまくできねー!」みたいな(笑)。
―逆に言うと恵まれた環境だったんですね。
関:恵まれていましたね。会社代表の永石(勝)がスタッフを全部僕につけてくれて。やっぱり、そういう背中を押してくれる人がいて、実際がんばってみようと思えたというか。それまでは映像に携わることを目指してはいたけど、編集マンとか、カメラマンとか、照明さんとか、いろんな仕事があるから、そこまで監督をやらなきゃダメっていう気持ちはなかったんです。でも、一度監督の経験をしてから、もっと勉強して監督をやろうって決めたんですよね。やったからこそわかることがすごくあった。
―映像を志すにも勉強が大事ということでしょうか。
関:お父さんやお母さんが「あんた、勉強しなさい」と言っているのと変わらないですけど、本当にそうだなと思うんです。でも、お父さんお母さんに言われるのと、僕に言われるのでは、また違うと思うから、ちょっとでも響いてくれるといいなと思いますね。
「やったことないから嫌です」みたいなことは言わないようにしているので、基本、なんでもやる。
―第一線に居続けるため、心がけていることはありますか?
関:興味があるものとか、映像に活かせそうにないものでも、とりあえず1回飛びついてみますね。違うと思ったらやめればいいだけなので、映像に限った話ではないですけど、最初から毛嫌いはしないようにしています。あと、僕はアーティストじゃないので「また次もお願いします」って言われるのが、仕事として一番いいことだと思っているんです。本当にその連続でしかないので、次もまた一緒にやりたいと思ってもらえる作品作りや、仕事の進め方を心がけていますね。あんまり特別なことはしてないです。
―でも、仕事の幅はどんどん広がっている印象があります。
関:それは飽きっぽいというか、「やったことないことをやってみたい」っていう純粋な好奇心があるからかな。CMもドラマもたまたま機会をもらえて、やってみると同じ映像でも全然違うんですよ。そのたびに「やべー、また知らないことばっかだ」と感じて、勉強しなきゃと思う(笑)。そういうフレッシュな気持ちで、いろんなことをやらせてもらえるのは楽しいですし、それをまたPV制作に活かせると思うんです。
―そういう初めての仕事は、オファーを受けた時点で、やれるイメージはできているのでしょうか?
関:できてないですね。初めての民放ドラマだった『かもしれない女優たち』は、3本立てのオムニバスで。「1本15分ですから」と言われたので、他の2本が成功してくれれば、僕のはコケても大丈夫かな、ぐらいの気持ちだったんです。でも、いつまで経っても他の監督がいなくて「いつになったら他の監督は合流するんですか?」って訊いたら、「いや、関さんだけですよ」って。オムニバスではあるんですけど、結局3本のストーリーが途中で交差する90分のドラマで、あれは騙されましたね(笑)。
―でも、その人は関さんならできると思ったのでしょうね。
関:そうだったんですかね。そうやって騙されてやっていくんですよ。だから、やれる気になるっていうことは、1つ大きいことかもしれないです。
―関さんが今後やりたいと思っていることはありますか?
関:映像表現としてやったことがないことをやっていきたいなと思います。今は発表するところはいろいろあるし、経験してないことには、すごく興味があります。いろいろお話しをいただくこともありますけど、「やったことないから嫌です」みたいなことは言わないようにしているので、基本、なんでもやりますよ(笑)。
- イベント情報
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- 『東京国際プロジェクションマッピングアワード vol.1』
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2016年12月17日(土)16:30開場、17:00~18:10上映会(予定)
会場:東京都 有明 東京ビッグサイト 会議棟前広場
料金:無料
- プロフィール
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- 関和亮 (せき かずあき)
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1976年長野県生まれ。1998年ooo(トリプル・オー)所属。2000年より映像ディレクターとして活動を始め、2004年よりアート・ディレクター、フォトグラファーとしても活動。現在に至る。PerfumeのMVやアートワークも手掛ける。手がけたおもなMVに、星野源「恋」、BOOM BOOM SATELLITES「LAY YOUR HANDS ON ME」、OKGo「I Won't Let You Down」、柴咲コウ『無形スピリット』など。サカナクション「アルクアラウンド」MVにて第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞。
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