昨年10月に1stアルバム『Groove it』でメジャーデビューを果たした女性シンガーソングライター、iri。このアルバムで彼女は、現行の日本の音楽シーンで、海外と時差のない洗練されたサウンドプロダクションを生み出すトラックメイカーたちを迎え、自身のタフな精神性と現代社会へ向けた真摯なメッセージが込められた歌を力強く提示した。
ニューシングル“Watashi”は、NIKEが世界中の女性のポテンシャルを引き出すために始動したプロジェクト『わたしに驚け』のキャペーンソングとして書き下ろされた。水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミが手がけたフューチャーハウステイストのトラックにiriはすべての女性にエールを送り、個々人が持つ根本的な人間力の解放を促すような歌を躍動させている。
“Watashi”に込めた思いを皮切りに、自身が憧憬を抱く女性や現代社会に覚える違和感、そしてシンガーソングライターとしての譲れない指針をiriに語ってもらった。
子供のときって、かわいらしい子がもてはやされるじゃないですか。私もそこにとらわれて自分の声がコンプレックスだった。
―まず、“Watashi”はサウンドもリリックも、iriさんのボーカルもクールでありながらとてもパワフルで、ご自身もかなり手応えを覚えているのではないかと思います。
iri:そうですね。かなりパワフルな曲ができたと思います。今回、NIKEさんのキャンペーンソングのお話をいただく前からニューシングルに向けた制作をしていたんです。
今まではわりと「負けないぞ」と静かに燃えている自分のことを歌詞にしている曲が多かったんですけど、新曲はリスナーの背中を押せるような、それこそ「女性に向けたメッセージ性の強い内容にしたいね」ってスタッフとも話していました。
―じゃあ、NIKEからいいタイミングでキャンペーンソングのオファーが来たんですね。
iri:そうですね。ジャストなタイミングでお話をいただきました。
―“Watashi”のリリックは、シンプルなんだけど、かなり言葉の筆圧が強いですよね。
iri:曲を聴いてストレートに入ってくる歌詞にしたいなと思ったんです。昨年リリースしたアルバム『Groove it』では、ちょっと難しい表現もしていたんですけど、“Watashi”は誰が聴いてもシンプルに強さを感じられるような言葉選びを意識しました。
私自身、歌を歌いたい、音楽を作りたいと思ったそもそものきっかけは、音楽には曲を聴いた人を救ったり、一歩踏み出せる勇気を与えられる力があると思ったからなんです。実際に私も音楽に救われた経験もありますし。
―どういう音楽に救われたんですか?
iri:最初に大きな影響を受けた音楽は、アリシア・キーズの“If I Ain’t Got You”でした。女性がパワフルに歌い上げる姿が本当にかっこよくて。もともとかわいらしい女性というよりは、自分の芯をしっかり持っている強い女性に憧れていたので、私も歌手としてアリシア・キーズのような存在感をまとえるようになりたいです。
―iriさんのボーカルはハスキーかつスモーキーで、低音の魅力が際立っている。この声だからこそ表現できることや提示できる歌の強さがあると思います。
iri:小さいころは自分の声にコンプレックスを感じていたんです。でも、それこそアリシアの曲を聴いたり、自分で歌うようになったときにだんだん自信を持ち始められて。
―コンプレックスに感じていたのは声が低いから?
iri:そうですね。特に小中高生のときって、かわいらしい子のほうがもてはやされるじゃないですか。それって一般常識というか、ある一定の範囲のなかでの価値観だと思うんですけど、私もそこにとらわれて自分の声がコンプレックスだったんですよね。
でも、今はこの声で音楽を表現することで評価してもらえていて。コンプレックスに思っていた声を自信に変えることができました。この声だからこそ、“Watashi”のようにストレートな歌詞をパワフルに届けられるのかなと思っています。
―今もそういった社会通念的な常識に違和感を覚えることはありますか?
iri:ありますね。私は去年の春に大学を卒業したんですけど、通っていたのが女子大だったんです。女子大生ってみんな同じような格好をしているように感じることが多くて。この服を着て、こういうヘアスタイルで、こういうヘアカラーをしていればOKみたいな。高級ブランドのバッグを持ってないと下に見られるとか(笑)。
―大学生になっても外見でスクールカーストのようなものが形成されてしまう傾向が強いと。
iri:そうそう。そういうのって本当にくだらないですよね。でも、それで自信をなくしたり、自分を出せない子も多いと思うんです。だからこそ、私は学生時代から広い世界に出て、音楽で自分を表現してかっこよく生きていこうって意識していました。
母親は、私の歌手になりたいという夢に対して協力的でいてくれたんです。
―これまでiriさんが憧れた女性を挙げていただきたいんですけど、一番はやはり先ほども話に出たアリシア・キーズですか?
iri:そうですね。やっぱり最初にかっこいいと思った女性はアリシア・キーズです。それまでは音楽を自分で意識的に聴くことがなくて、家で母親がかける曲をなんとなく聴いたり、友だちが貸してくれたCDを聴くくらいだったんですよ。アリシアを知ったのは中学生のときで、大きなステージで“If I Ain’t Got You”をピアノで弾き語りしているライブ映像を見たのが最初ですね。
―どんなところに感動しましたか?
iri:なんだろう……ライブ映像を見ながら自然と涙が出てきて。歌声から発せられているパワーがすごかったんですよね。歌から人間味が全面に出ていて衝撃的でした。
―そのときは歌詞の内容までは理解していなかっただろうけど。
iri:そう。のちに歌詞を読んで、結婚式で歌われるようなラブソングだということがわかって、自分が想像していた内容ではなかったんですけど(笑)。でも、「あなたがいなければ意味がない」というニュアンスの歌詞や、それを歌い上げられるところにアリシアの女性としての強さが出ているなと思いましたね。
―アリシアの他に誰か憧れている女性はいますか?
iri:母親のことはすごく尊敬してます。
―尊敬できる母というのは、ある意味では究極の女性になりますよね。
iri:うん、究極ですね。私の母親は、私が音楽の道に進むと言ったときもまったく反対しなかったし、私のことをすごく信用してくれていて。周りの友だちは母親から「ちゃんと就職しなさい」と言われている子が多かったけど、私の母親は前から「こういうオーディションがあるから受けてみたら?」って教えてくれたり、私の歌手になりたいという夢に対して協力的でいてくれたんです。
―それはお母さんがiriさんの歌声であり音楽表現に特別な力があると思っているからでしょう。
iri:そうだったらうれしいですね。母親ももともと音楽が好きで、若いころに歌手になりたいと思っていた時期があったみたいなんです。母は目立ちたがり屋なところがあって、私もそういう部分を受け継いでいるのかもしれないですね。
―お母さんはiriさんの曲に具体的な感想をくれたりするんですか?
iri:いつも「いいね」って言ってくれるんですけど、たまに「この曲はiriっぽくないね」って言われることもあります(笑)。ライブもたまに見に来てくれて、「あの曲で歌詞間違えたでしょ?」って指摘されるんですよ。やっぱり母はよく見てますね。
自分が小さいころに大人から理不尽な扱いを受けたこともあって、弱者の立場にいる人を音楽で応援したい。
―iriさんは今後も現代社会が抱えている問題にもリンクするようなメッセージ性の強い曲を歌っていこうという意志を持っていると思いますが、それは使命感と言えるものなのでしょうか?
iri:弾き語りなどでそういう歌を表現している人はいるのかなと思うんですけど、日本の女性シンガーでメッセージ性をしっかり提示している人でメジャーな存在になっているアーティストは少ないと思うんですよね。
―欧米に比べたら絶対的に少ないですよね。
iri:メッセージ性を押し出した男性ラッパーは日本でもいっぱいいると思うんですけど、女性シンガーはいまだに女性らしさというものにとらわれがちで、日ごろ感じていることを世の中に提示できないムードがあるのかなって。
―そのムードに風穴を開けたいと思っている?
iri:そうですね。普段は人と話すのは得意ではないんですけど、歌詞を書くと自分の思いをストレートに吐き出し、訴えることができるので、歌の力でそのムードを突破できたらと思います。
―今後、どういうトピックを歌詞にしていきたいですか?
iri:私は弱者の立場にいる人を音楽で応援したい。大きな力に抑圧されて傷ついている人の背中を押したり、「あなたは間違ってないよ」と伝えられる曲を書いていきたいです。私は、自分が小さいころに大人から理不尽な扱いを受けたこともあって、不平等な扱いを受けている人たちに対して敏感なところがあるんです。その経験から生まれた気持ちが、今は音楽のモチベーションになっているところが大きいんですよね。
『Groove it』で書いた曲のなかには、その悔しさを「今に見てろよ」という思いで昇華したような内容の歌詞がけっこうあって。子どもだからなめられるとか、女性だからなめられるとか、そういうことに抵抗したいという思いが強くあります。“Watashi”もテーマとしては女性に向けた曲でもありますけど、誰が聴いてもしっかり共感できる曲にしたいなと思って作りました。
iri『Watashi』ジャケット(Amazonで見る)
―そういった負の感情を正であり生のメッセージに昇華した歌を同時代性に富んだビートに乗せているところが、iriさんの音楽表現の大きなポイントだと思います。
iri:そうですね。強いメッセージ性がありつつも、ダンサンブルでみんなが踊りだしたくなるようなトラックで歌っていることが私の歌にとってベストなマッチングだなと思っているので。踊りながら曲のメッセージを受け止めてもらえたら最高ですね。
- リリース情報
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- iri
『Watashi』初回限定盤(CD) -
2017年3月22日(水)発売
価格:1,296円(税込)
VICL-37258
- iri
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- iri
『Watashi』通常盤(CD) -
2017年3月22日(水)発売
価格:1,296円(税込)
VICL-37259
- iri
- イベント情報
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- 『NIKEWOMEN TOKYO』
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2017年2月25日(土)
会場:東京都 両国国技館
※参加応募エントリー終了
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- 『iri × 向井太一』
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2017年2月26日(日)
会場:神奈川県 鎌倉LOOP
料金:前売3,200円 当日3,700円(共にドリンク別)
- プロフィール
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- iri (いり)
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シンガーソングライター。神奈川県逗子市在住。自宅にあった母のアコースティックギターを独学で学び、アルバイト先の老舗JAZZ BARで弾き語りのライブ活動を始め、2014年に雑誌『NYLON JAPAN』とSony Musicが開催したオーディション『JAM』でグランプリを獲得。HIP HOP的なリリックとソウルフルでリヴァービーな歌声で、ジャンルレスな音楽を展開。2016年には、サーフミュージック界の雄ドノヴァン・フランケンレーターのライブオープニングアクトを務め、『OCEAN PEOPLES』『サマーソニック』などのフェスにも出演。同年10月に1stアルバム『Groove it』でデビュー。2017年3月22日にはNIKEのキャンペーン『わたしに驚け』に書き下ろした“Watashi”をシングルとしてリリースすることが決定している。
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