スペースシャワーTVが開催する、音楽とカルチャーの祭典『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2017』。その幕開けとして3月3日に開催されるのが、音楽と映像とアートが一体となったライブイベント『SOUND & VISION』である。「MUSIC×CREATIVE」をテーマに「きのこ帝国×MITCH NAKANO」「DAOKO×Kezzardrix+backspacetokyo」「HIFANA×GRVJ」という3つのコラボレーションが実現する。
そこで今回は3つのコラボレーションの中から「きのこ帝国×MITCH NAKANO」をピックアップし、両者の対談をお届けする。メジャーデビューから2年弱が経過し、その音と言葉が着実に多くのリスナーの心を侵食しつつあるきのこ帝国と、昨年からYkiki Beat、雨のパレード、Gotchらのアーティスト写真やミュージックビデオを手掛けている気鋭の写真家・映像作家のMITCH NAKANO。
この日が初対面だったものの、同世代の2組は表現の根幹にある死生観を共有していることが判明。イベント当日への期待が高まる対談となった。
American Apparelの社長が、いきなり日本に来てカメラをくれて「お前は今日からフォトグラファーだ」って。(NAKANO)
―きのこ帝国とNAKANOさんは今日が初対面だそうですね。NAKANOさんはもともとファッション誌や広告を手掛けていたそうですが、音楽シーンでも去年から頻繁にお名前を目にするようになりました。
NAKANO:僕は学生時代にAmerican Apparelでバイトをしていたんです。簡単に本国の社長とコンタクトが取れる会社だったんですけど、あるとき本国の会社のサイトに「フォトグラファーになるチャンスがある」と書いてあって。ちょうど何か新しいことをやってみたいと思っていたから、コンタクトを取ってみたら、いきなり社長が日本に来てカメラをくれて、「お前は今日からフォトグラファーだ」って言われたのが始まりです。
左から:谷口滋昭、佐藤千亜妃、MITCH NAKANO、西村“コン”、あーちゃん
―すごい話ですね(笑)。
NAKANO:それが3~4年前なので、まだまだ勉強中という感じではあるんですけど。
―音楽関係の仕事が増えたのは、何がきっかけだったのでしょうか?
NAKANO:たまたまYkiki Beatの“Forever”を聴いたときに、「このバンドが撮りたい」と思ったんです。それを周りの友達に話していたら、その話がAkiyamaくん(Ykiki BeatのVo,Gt)に伝わって、デビューのタイミングでアー写を撮ることになりました。
それから仲良くなって、昔撮った自分のバンドの映像を見せたら、「ミュージックビデオもやらない?」って話になって。それで撮ったのが“The Running”だったんです。
―じゃあ、あれが初監督作品だったんですね。
NAKANO:そうです。そこから、Turntable Filmsや後藤(正文 / ASIAN KUNG-FU GENERATION)さんのPVを作ることになり、徐々に広がっていった感じです。
新しい作品を作るごとに自分たちができる「技」が増えるので、最近はそれが楽しい。(あーちゃん)
―きのこ帝国はメジャーデビューから2年弱が経過しましたが、ここまでの手応えをどう感じていますか?
佐藤(Vo,Gt):すごく充実感があった2年間でした。去年は野音でのワンマンが成功して、今回のツアーでは中野サンプラザを2デイズできたり。ちゃんといい作品を出して、お客さんがそれを聴いて、そのフィードバックとしてライブに足を運んでくれるという、理想的な形がちゃんと作れてきていると思います。
―一昨年の『猫とアレルギー』がきのこ帝国流のポップを突き詰めた作品だったのに対して、昨年の『愛のゆくえ』はまた少し深いところに潜り込んでいくような状態に戻ったような印象がありました。
佐藤:“愛のゆくえ”という曲は映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の主題歌で、「こういう音像にしてほしい」という監督の意向が強くあったので、そこに寄せて作ったんです。そしたら、思いがけず轟音の曲になって、気持ち的にも揺り返しがあったというか。
―「揺り返し」というと?
佐藤:ちょっとディープな作品が作りたくなって、それで“愛のゆくえ”を中心としたコンセプトアルバムになったんです。でも、潜り込んでいたぶん、逆に今はまた青春感のある、キラキラした、前向きな作品が作りたいなってモードになってきています。
あーちゃん(Gt):きのこ帝国って、メンバーの好みはもともとバラバラで、それを混ぜ合わせてきのこ帝国の作品になる。だから、毎回アルバムごとに色が違うんですけど、新しい作品を作るごとに自分たちができる「技」みたいなものが増えるので、最近はそれが楽しいんですよね。
女性の方が自分のことをわかっている人が多いと思うんです。(NAKANO)
―NAKANOさんはきのこ帝国の曲を聴いて、どんな印象を持たれましたか?
NAKANO:きのこ帝国の曲って、情景が浮かぶんですよね。「物語を書くのが上手な人なんだな」って、歌詞を見て思いました。
佐藤:嬉しいです。そこは大事にしていて、情景が浮かぶような音像であり歌詞にしたいと思っています。
NAKANO:“桜が咲く前に”とか、情景がすごく浮かぶし、“LAST DANCE”の<あなたの方から去ってゆくのに 「変わらないで」なんて勝手すぎる>とかも、なんかわかるなっていうか……。
佐藤:「変わらないで」って、言う側なんですか?(笑)
NAKANO:実際に言うわけじゃないですけど(笑)、でも、気持ちはわかるなって。この曲だけじゃなく、きのこ帝国の曲を聴くと、「この人はどんな人なんだろう?」って思ったり、物語を見てるような感覚になって、そこがすごくいいなって思ったんです。
―きのこ帝国のビジュアル面の話をすると、メジャーデビュー後に佐藤さんが本名の「佐藤千亜妃」名義になって、ヘアスタイルやファッションもTシャツやパーカーのカジュアルなイメージからはだいぶ変わって、女性的な部分を解放したような印象があるのですが、そこに関しては意識的なのでしょうか?
佐藤:いや、そこはあんまり深く考えてなくて、好きな服を着ているだけですね(笑)。ボーイッシュな格好をしたい時期と、もうちょっと女の子っぽい格好をしたくなる時期と、5~6年周期くらいで変わるんです。髪型にしても、思ったままに「こうしたいからやってる」というだけで。それこそ、メンバーと出会った時期は髪が長かったので、「また伸ばす時期が来たんだね」としか思ってないと思う(笑)。
谷口(Ba):うん、変わってないですね。歌詞を見ながら、「最近はこういう感じなんだ」って思うくらい(笑)。
―さきほど話に出た“The Running”だったり、雨のパレードの“You”だったり、NAKANOさんのビデオには女性を被写体とした印象的な作品が多いように思うのですが、そこに関しては意識的なのでしょうか?
NAKANO:もちろん男性も撮るんですけど、インスピレーションの源になるのは圧倒的に女性の方が多いんですよね。
佐藤:自分が女性なのにNAKANOさんと同じ感覚っておかしいかもしれないですけど、私も、女性が写っている写真の方が好きだし、声とか歌を聴くのも、女性の方が好きなんです。女性はいろんな顔を持っていて、エネルギーを感じるので、その面白味にはすごく共感します。
NAKANO:女性の方が自分のことをわかっている人が多いと思うんです。プロのモデルではない人にカメラを向けると、男性は大体手持無沙汰になるんですけど、女性は「私はこれ」っていうのを持ってる。(男性メンバーに)例えば、カメラを向けられるときって、楽器を弾いているときの方が楽じゃないですか?
西村(Dr):たしかにそうですね。
NAKANO:楽器を持っていれば、それが自分のアイデンティティーになるからだと思うんです。佐藤さんはさっき「情景が浮かぶ曲を作りたい」って言っていて、最初から、自分は歌い手で、人に何かを伝えたいんだとわかっている人なんだなって。女性が魅力的に見えるのって、そういう「自分をわかっている」ということなんじゃないかと思うんですよね。
今回のイベントに限ったことではなく、「無機物と有機物の対比」みたいな表現をしたい。(NAKANO)
―今度2組が一緒にライブを行う『SOUND & VISION』についてもお伺いしたいのですが、具体的にどういったかたちでコラボレーションを行うのでしょうか?
佐藤:私たちの演奏に映像をつけていただけるというお話で。もうセットリストはNAKANOさんにお渡ししてあるんですけど、映像が似合いそうな曲を選んでみました。
NAKANO:僕、“足首”が一番好きなんですよ。
あーちゃん:嬉しい! 私たちも大好きなんです。
佐藤:ライブがすごくいいんですよ……って、自分で言うのもあれだけど(笑)。
NAKANO:“FLOWER GIRL”もいいですよね。すぐに「これで作りたい」って思いました。
―NAKANOさんは、VJの経験はあるのでしょうか?
NAKANO:雨のパレードで2~3回やったことがあります。ただ、モーショングラフィックで作った映像を提供だけして、当日はいないというパターンだったんですよね。今回は実写でやらせてもらうし、当日会場で映像と演奏が合わさる場面を自分でも見ます。これから撮影するんですけど、自分の好きな感じでできそうな曲たちなので、これから作るのが楽しみです。
―今回のイベントサイトに掲載されているNAKANOさんのプロフィールには「クリーンな世界観の中に、コンテンポラリーアートの要素を組み合わせて唯一無二の作品を提示する」とありますが、どんな作品を作ろうと思っていますか?
NAKANO:僕は学生時代に文学部にいて、大学院時代は庄司薫さん(1937年生まれ、小説家)の『赤頭巾ちゃん気をつけて』の研究をしていたんです。あの本はコンテンポラリーアートにも触れていて、僕自身も上野の国立西洋美術館で研修をしたり、アートと触れる機会が多くて。
フランソワ・モルレっていう蛍光管を使うアーティストとか、「無機物と有機物の対比」みたいな表現が好きで、今回のイベントに限ったことではなく、そういう表現を写真や映像でやりたいんです。
―具体的に、すでにイメージの浮かんでいる曲はありますか?
NAKANO:自分が写真を撮るときは、白い空間を使うのが好きなんですけど、“FLOWER GIRL”に関しては、edenworks bedroomっていうお花屋さんの花を見ながら、「白い空間と花」をやりたいなと思っていました。
生きていることと死んでいることって、ほぼ同じなんじゃないかと思うんです。(NAKANO)
佐藤:“FLOWER GIRL”は映画のワンシーンがモチーフになっているんです。全身に花のタトゥーをした女の子が、ガラス張りの一室の中で服を脱いで踊るところを、おじさんたちがお金を払って見る風俗店みたいなところがあって。自分の娘がそこにいて、ひとりのおじさんが悲しむシーンから来ているんですよね。
NAKANO:そうなんですね。映像もヌーディーなイメージをしていました。ピナ・バウシュ(1940年生まれ、ドイツのコンテンポラリーダンスの振付師)の身体表現的な感じが似合うんじゃないかなって。
佐藤:近いものをイメージしてくれていて、よかったです。「“FLOWER GIRL”って、結婚式で花を撒く女の子のこと?」って言われたことがあって、「そんなきれいなものではないです」っていう(笑)。
NAKANO:僕はいろいろな物事を考えるときに、必ず「死」がついてくると思っているんです。例えば、人が花を見るときって、きれいなものとして捉える人もいるけれど、死んでしまう儚いものとして捉える人もいる。それって人間も一緒で、生活していても常に死の影がついてくるんですよね。
僕は父親が医者なので、命について考えるのが身近だったし、子供の頃から『ブラック・ジャック』(手塚治虫)をよく読んでいたこともあって、そういう概念を持っているのかなと思うんですけど。『ブラック・ジャック』で人が死ぬ場面になると、「これが自分の家族だったら嫌だな」とか「自分の大切な記憶は、死んだらどこに行ってしまうんだろう?」とか考えてしまって、すごく怖くなるんですよね。
でも、「死」っていつ起きてもおかしくないことで……上手く言葉にできないけど、生きていることと死んでいることって、ほぼ同じなんじゃないかと思うんです。
―「花」に対して、死生観を感じるというのは、きのこ帝国の表現の核心に触れる話だと思います。
NAKANO:“愛のゆくえ”を聴いたときも、死の影が見えるというか、きのこ帝国はそういうバンドなんじゃないかって思いました。
佐藤:そうですね。今まさに、自分が思ってきた命の儚さや、表現してきたことを、そのままNAKANOさんが言葉にしてくださった感じです。もう何も付け足すことがないくらい(笑)。
NAKANO:さっきの「女性」の話に繋げると、その感覚って、女性の方が強く持っていると思うんです。歳を重ねて、子供を産める産めないっていうことも意識すると思いますし。
だから、女性の方が無意識のうちに生と死を強く感じて生きている人が多いんじゃないかな。きのこ帝国の曲からも「儚いもの=花=女性」というイメージを想起したし、自分が表現するときも、いつもそこにフォーカスしているつもりです。
シンプルに、お互いが表現を突き詰めているんだなってことが伝わるステージになればいいですよね。(佐藤)
―今回の『SOUND & VISION』というイベントは、「『MUSIC × CREATIVE』をテーマにお届けする、音楽と映像とアートが一体となったライブイベント」というのがコンセプトになっています。最後に、「音楽と映像とアートの関係性」について、それぞれが思うところを話していただけますか?
あーちゃん:「音楽とアート」って、表現手段は違っても根本は一緒だと思います。例えば、ライブペインティングの人とかを見ていると、私は絵を描く人がどんな気持ちで描いているのかわからないけど、ひとつの物事に対して思い浮かべている情景は一緒なのかなって思うんです。音楽家、画家、写真家、小説家とか、つまるところみんな一緒なんじゃないかなって。
NAKANO:よくわかります。僕は写真をライフワークとしてやっていて、最近は映像も頑張ってますけど、もともとは作家志望で、その前はミュージシャンになりたかった。
つまり、表現手段は変わったけど、自分の気持ちを何かしら形にしたいという想いは同じなんです。だから、今おっしゃったように、「音楽とアート」って分けるものでもないのかなって。僕は昔音楽でやろうとしていたことを、今写真でやっているつもりです。
佐藤:アートって高尚なお金持ちの遊びってイメージで、もともとあんまりいい印象を持っていなかったんです。逆に音楽は労働者、生活者のためにあったものだと思っていて。だから、アートと音楽って乖離したものだと考えていたんです。
でも、それはアートへの劣等感だったりもするし、今日NAKANOさんとお話しして、「作りたい」という衝動とか、表現したい死生観の話を聞くと、差別するものではないと思いました。今回のイベントで、自分のアートに対する偏見がなくなればいいなって思います。
―イベント当日は新バンド結成くらいの意気込みで、「アート」という言葉に対する現代的な解釈を提示するようなステージを期待しています。
佐藤:シンプルに、お互いが表現を突き詰めているんだなってことが伝わるステージになればいいですよね。
- イベント情報
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- 『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2017』
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2017年3月2日(木)~3月8日(水)
『SOUND & VISION』2017年3月3日(金)
会場:東京都 渋谷 WWW X
ライブ:
きのこ帝国×MITCH NAKANO
DAOKO×Kezzardrix+backspacetokyo
HIFANA×GRVJ
上映:
『behind the scene-宇多田ヒカル30代はほどほど。』
『「illion × SPACE SHOWER TV 「Told U So」ステーションID」3DVR ver.』
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- 『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2017』
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『TOKYO MUSIC ODYSSEY』とは、「都市と音楽の未来」をテーマに、東京から発信する音楽とカルチャーの祭典です。素晴らしい音楽と文化の発信、新しい才能の発掘、人々の交流を通して、私たちの心を揺らし、人生を豊かにしてくれるアーティスト、クリエイターが輝く未来を目指します。2017年は3月2日(木)~8日(水)の一週間にわたり、様々な企画を展開。
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- きのこ帝国
『ワンマンツアー2017「花の名前を知るとき」』 -
2017年3月24日(金)
会場:福岡県 BEAT STATION
料金:スタンディング3,900円(ドリンク別)2017年3月31日(金)
会場:宮城県 仙台 darwin
料金:スタンディング3,900円(ドリンク別)2017年4月2日(日)
会場:北海道 札幌 cube garden
料金:スタンディング3,900円(ドリンク別)2017年4月15日(土)
会場:大阪府 NHK大阪ホール
料金:全席指定4,500円(ドリンク別)2017年4月16日(日)
会場:愛知県 名古屋 日本特殊陶業市民会館
料金:全席指定4,500円(ドリンク別)2017年4月19日(水)
会場:東京都 中野サンプラザ
料金:全席指定4,500円(ドリンク別)2017年4月20日(木)
会場:東京都 中野サンプラザ
料金:全席指定4,500円(ドリンク別)
- きのこ帝国
- プロフィール
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- きのこ帝国 (きのこていこく)
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佐藤千亜妃(Vo/Gt)、あーちゃん(Gt)、谷口滋昭(Ba)、西村"コン"(Dr)の4人組バンド。2016年8月に行った日比谷野音でのワンマンライブ『夏の影』は立見席含めて完売。11月2日にはEMI Recordsより映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の主題歌として書き下ろした表題曲を含むアルバム『愛のゆくえ』を発売。2017年3月よりワンマンツアー『花の名前を知るとき』がスタート。
- MITCH NAKANO (みっち なかの)
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写真家、映像作家。東京を拠点に活動し、ファッション誌や広告を手掛ける他、2016年からYkiki Beat、雨のパレード、ASIAN KANG-FU GENERATION 後藤正文などのアートワークやミュージックビデオ、イメージングを手がけている。クリーンな世界観の中に、コンテンポラリーアートの要素を組み合わせて唯一無二の作品を提示する。
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