映画化不可能と言われていた人気漫画『無限の住人』の実写映画が、いよいよ公開される。自分の意志とは裏腹に不死身の肉体を手に入れてしまった浪人・万次が、復讐を誓う少女・凛と出会うことによって、再び「生きる意味」を見出し、戦いのなかへと身を投じていくという物語だ。
その主人公である不死身の男=万次を演じるのは、木村拓哉。そして、監督を務めるのは、近年は海外での評判も高いエンターテイメント映画の第一人者、三池崇史。さらに、その主題歌を担当したのは、独自のギター奏法と激しいパッションで、国内外から高い人気を集めるMIYAVIである。
今回、本作を監督とした三池崇史と、本作のために主題歌を書き下ろしたMIYAVIの対談が実現した。彼らがタッグを組むに至った経緯から、俳優・木村拓哉の凄み、さらには海外から見た日本映画の諸問題まで、さまざまなトピックについて語ってもらった。
いわゆる「時代劇」なのかもしれないけど、そのなかに引きずり込むようなものにしたかった。(三池)
―今回の映画『無限の住人』の主題歌の話を受けて、MIYAVIさんはいかがでしたか?
MIYAVI:元々SMAPさんには楽曲を2度提供させてもらっていたり、木村さんとはある種交流があって。そのなかで、今回の映画は、木村さんの新たな門出となるような作品だと僕は思っていました。それに参加させていただけるのはものすごく光栄なことだし、そもそも三池さんのことは以前から監督としてすごく尊敬していたんですよね。『極道恐怖大劇場 牛頭』(2003年。『第56回カンヌ国際映画祭』の監督週間に正式出品された)のときから知っていますから。
三池:すごい作品の名前が出てきたね(笑)。
MIYAVI:(笑)。牛の頭と書いて「ゴズ」ですよ。この日本で誰がそんな作品を作りますか? 三池さんしかいないですよね(笑)。今の日本映画って血やセックスの匂いのするような、人間臭い作品が、減ってしまっていると思うんです。
だから今回、そういうなかで孤軍奮闘している三池さんとご一緒できる、またとない機会だと思いました。刀の代わりにギターをもって、一緒に戦わせてもらった感じですね。
―原作の漫画『無限の住人』は、大著でとても人気のある漫画です。三池監督は、そこから何を抽出して映画で描こうと思ったのでしょう?
三池:原作は、万次という不死身の主人公が、ずっと出会いと別れを繰り返しながら、今もこの世界に生きているんじゃないか、ということも考えられる最後だったと思うんですよね。そういう意味で、万次という主人公を、まったく超人的で、ありえない人物として描きたくなかったんです。いわゆる「時代劇」なのかもしれないけど、それを他人事として客観的に眺めるのではなく、そのなかに引きずり込むようなものにしたかった。
―つまり絵空事の「時代劇」としてではなくて、現代にも通じるリアリティーをもった映画にしようとしたんですね。
三池:そうですね。ただ、実際の現場では、そういうことを冷静に考える余裕なんていっさいなかったですけどね(笑)。こうすればこういう映画になる、みたいな方程式も、僕は元々もっていないので。
でも改めて「時代劇」っていうのは、面白いなって思いましたね。生きるか死ぬかのなかで、あるひとつの物事を通していく手強さというか。そこにはやっぱり、独特な美しさがあると思うんです。
『無限の住人』イメージビジュアル ©沙村広明 / 講談社 ©2017映画「無限の住人」製作委員会
音楽ができることはビジュアルや想いを、どう音の波動にして聴く人の身体にぶっ込むか、それだけなんですよ。(MIYAVI)
―映画の主題歌ということで、MIYAVIさんには具体的にどんなオーダーがあったのでしょう?
MIYAVI:もう自由に弾きまくってくださいって、ホントそれだけだったんです。コンポーザーとしてもすごく尊重されたというか、かなり自由にやらせてもらいました。
三池:作ってくれたものを実際の映像にあてはめてみたら、ものすごいしっくりきたんです。善も悪も肯定しながら、なおかつ「あなたはどうする?」という問いかけがあるようなものになっていて、基本的にハードなものではありながら、その根っこにやさしさが感じられた。
―MIYAVIさんは、これまでも主題歌を書き下ろす経験があったと思いますが、何かこの作品ならではのアプローチを取ったりしたのですか?
MIYAVI:そこは自分が役者として表現するときと同じで、自分をその役の世界観に没入させて、あとはもう出てくるものを出すだけです。基になっているのは、その作品なんですよね。
映画というものは総合芸術だと思うんです。そこで音楽ができることっていうのは、そこにあるビジュアルだったり想いを、どう音の波動にして聴く人の身体にぶっ込むかっていう、それだけなんですよ。だから、その作品に没頭できればできるほど、その濃度は上がってくるんです。
この映画は、「お前、本気で生きてるのか?」ってことを、改めて突きつけるような作品だと思うんです。(MIYAVI)
―仮編集の映像から楽曲のイメージ膨らませていくのは、結構大変だったのではないですか?
MIYAVI:ぶっちゃけ、仮編集のもので充分です。結局は、その映像で何を言いたいのか、何を伝えたいのかっていうことさえ咀嚼できれば、あとは何だっていい。お誕生日会と一緒で、その人の誕生日を祝うという主旨がちゃんと伝われば、飾りつけは何だっていいんです。
この映画の主旨というのは、やっぱり万次というひとりの人間が、生きるということに対して、どう向き合うのかっていうことなんですよね。限りある命だからこそ尊いのに、無限に生きられることで、人生の美徳を失った。でも、その失ったものを凛という女の子に投影して、生きることを見出すという。
―生きる意味と同時に、死ぬ意味を見出すというか。
MIYAVI:この映画は、「お前、本気で生きてるのか?」ってことを、改めて突きつけるような作品だと思うんです。すべての登場人物がそれぞれの哲学と信念をもって生きている。もちろん、それぞれ生き方も違えば死に方も違うんだけど、そのパッションに関しては、みんな一緒なんですよね。そういう意味で、この曲“Live to Die Another Day -存在証明-”のサブタイトルに「存在証明」ってつけたんです。僕の場合はそれが音楽であり、三池さんの場合はそれが映画である。
―存在という意味では、外見ではない内面から湧き出る「男のカッコ良さ」のようなものが、本作の木村さんにはあったように思います。
三池:やっぱり、カッコ良さというのは、見た目ではなく、その生き様自体がカッコ良くなってもらわないと出せないんですよね。この映画のなかの木村くんって、髪はボサボサだし、顔はズタズタの傷だらけですよね。
MIYAVI:黒澤明監督の『七人の侍』(1954年)のなかで、三船敏郎さんが演じる菊千代が、刀を振り回しながら泥だらけになって戦いますよね。その姿に、見る人はみんな目を奪われた。それに近いものを今回、木村さんの万次から感じました。
三池:衣装に至ってはほとんど丹下左膳(昭和初期に書かれた時代小説の登場人物)で、背中に万の字を背負っているという。それ自体は全然カッコ良くなくて、本当のカッコ良さって、そういうことじゃないんですよね。
―万次は隻眼(片方の目が機能を失っている状態)という設定ですが、それを演じる木村さんも、あえて右目が見えない状態で演じ切ったと聞いています。
三池:そうなんです。もちろん、目がつぶれているように見えるメイクをして、実際は見える状態にすることは技術的にできるんですよ。だけど、実際見えていたら、見えない芝居をしなきゃいけないじゃないですか。そういう点で、木村拓哉という役者は、生真面目さがあるんですよね。見えない芝居をするんだったら、最初から見えないほうがいいっていう。で、実際に見えない状態になると、実際の動きや立ち回りも、より自然なものになってくるんですよ。
―なるほど。
三池:もうひとつ、そういう思いから、木村くんは実際に草履をはいて演じていたのですが、僕は絶対やり通せないと思っていたんです。でも、驚くことに、足元の悪いなかで彼は草履だけで大立ち回りをやって、全部のカットを撮ったんですよ。
映画的には、ありえない話です。アップを撮っているときも、足元は草履なんですから。木村拓哉が万次と同化にするために、足の痛みと目の不自由さというハードルを作って、できるだけ芝居しなくてもいい状況に自らを追い込んでいくんですね。
それはポーズではないんですよ。そうでなければいけないっていう、彼の強い決意なんです。そうでなければ、単にスーパーアイドルとしての木村拓哉が演じる万次になってしまう。本当のカッコ良さっていうのは、きっとそういうところからにじみ出ているものだと思うんですよ。
日本は素晴らしい作品はたくさんあるけど、「橋渡し」になる部分が欠落しているんです。(MIYAVI)
―映画『無限の住人』は、海外展開も見据えた作品になっていると思うのですが、海外からでは、改めて日本はどのように見えてくるのでしょう?
三池:なかなか大きい質問ですね(笑)。
MIYAVI:首相がスーパーマリオになる時代ですからね。今の日本には、国を象徴する人間がいないんですよね。『リオ五輪』の閉会式で、安倍首相以外そこに立てる人間がいなかった。
人を楽しませる側の人間としては、ちょっと責任を感じますよね。日本はテクノロジーの国ではありますけど、エンターテイメントの分野で、世界に対峙する力を、もっとつけていかなきゃいけないと思う。
その意味で、日本はまだまだ対話力に欠けているというか……。根幹のアイデアだったりプロダクトのクオリティーはある。だけど言葉も含め、それを伝えるための対話力が全然ないんですよね。
―それは音楽についても言える話ですよね。
MIYAVI:そうです。素晴らしい作品はたくさんあるけど、そこでの対話力というか、作り手から聞き手への「橋渡し」になる部分が欠落しているんです。
あと、日本は最近、作り手が消費者を意識しすぎているんじゃないかな。どれだけ自分たちが誇りをもって作っているのか。エンターテイメントの分野では、そこが今いちばん大事な気がしているんですよね。
マイナーなフィールドではなく、メジャーのフィールドでやる意義ってあると思うんです。僕はそれを音楽活動でやっているつもりだし、三池さんは映画でやっている。今回の映画も、すごく意義のあることだと思うんですよね。
これまでは海外のことは考えなくて良かったのかもしれないけど、今はそういう時代ではなくなってきた。(三池)
―三池監督は、海外における日本映画について、どのようにお考えですか?
三池:この作品も、ヨーロッパに行ったら、製作として参加しているジェレミー・トーマスのプロデュース作品として認知されるんですね。ジェレミー・トーマスと言えば、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』(1983年)だったり、デヴィッド・クローネンバーグ(カナダを代表する映画監督・脚本家)の一連の作品で、西欧諸国では超有名なプロデューサーなわけです。彼のような日本映画を海外へ紹介できる日本人のプロデューサーがいてもいいんじゃないかと思います。それがいない以上、外国人のプロデューサーたちが求めている日本映画しか発信できないわけです。
―それは、日本のクリエイターたちが見せたいものと、必ずしもイコールではないということですね。
三池:そう。それで言ったら、日本で大ヒットした日本映画って、ほとんど海外で公開されないじゃないですか。国際映画祭にも出品しない。ただ、そういう作品だって、みんなが真剣になって作り上げているわけで、それが日本の観客に受けているんだったら、それをもっと違う形で発信すれば海外の人たちも楽しめるんじゃないかなって思うんです。
もちろん、それが面白いかどうかを判断するのは見た人でいいんだけど、そういうものがとにかく発信されない状況なんですよ。今、『カンヌ国際映画祭』に出品する日本映画って、血なまぐさいものか、非エンタメ的なものばかりです。
いわゆる芸術的なものばかりで、その他の99%のエンタメ的な映画は、まあ無視ですよね。海外の人には興味を抱くことさえしてもらえない。これまでは日本でヒットすれば、別に海外のことは考えなくて良かったのかもしれないけど、今はもう、そういう時代ではなくなってきていますよね。
―そこでもやはり、「橋渡し」が決定的に足りないわけですね。
MIYAVI:全然足りてないですね。でも、それは僕たちの責任でもあるんです。結局、作り手の熱がそこまで波及しなかった。作り手の熱量が作品となって、その熱量を感じた人がこれを広めようぜってマネージャーになって、もっと聴きたい人がいるなら、それをCDにしましょうよって、それがビジネスになっていく。その流れの根本にある熱量が、足りないんですよね。
さっき言ったように、イニシアチブをとっているのが作り手ではなく消費者になっていることも関係しているのかもしれないけど、やりたいと思ってやったことの熱量と、言われてやったことの熱量は、やっぱり違うと思うんですよね。
そういう意味で、この『無限の住人』という映画は、間違いなく作り手の熱がこもった作品になっていると思うし、最初から最後まで一緒に戦い続けた三池崇史と木村拓哉の熱、この映画に関わった人たちの熱というものが届けば、日本も、もうちょっといい国になるんじゃないかって思います。
- リリース情報
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- MIYAVI
『ALL TIME BEST “DAY 2”』初回限定盤(2CD+DVD) -
2017年4月5日(水)発売
価格:8,424円(税込)
TYCT-69114
[CD1]
1. What's My Name ? – Day 2 mix
2. Universe – Day 2 mix
3. Ahead Of The Light – Day 2 mix
4. 素晴らしきかな、この世界 –What A Wonderful World – Day 2 mix
5. Guard You- Day 2 mix
6. Live to Die Another Day -存在証明-
7. What's My Name ?
8. Survive
9. Torture
10. Strong
11. Day 1
12. Ahead Of The Light
13. Horizon
14. Secret
15. Real?
16. Let Go
17. The Others
18. Afraid To Be Cool
19. Fire Bird
20. Long Nights
[CD2]
1. ロックの逆襲 -スーパースターの条件-
2. Freedom Fighters -アイスクリーム持った裸足の女神と、機関銃持った裸の王様-
3. 結婚式の唄-with BAND ver.-
4. セニョール セニョーラ セニョリータ
5. 愛しい人(ベタですまん。)-2006 ver.-
6. Dear my friend -手紙を書くよ-
7. 君に願いを
8. We Love You~世界は君を愛してる~
9. Selfish love -愛してくれ、愛してるから-
10. 咲き誇る華の様に -Neo Visualizm-
11. 素晴らしきかな、この世界 –What A Wonderful World-
12. 陽の光さえ届かないこの場所で feat. SUGIZO
13. Girls, be ambitious.
[DVD]
・『MIYAVI Japan Tour 2016“NEW BEAT, NEW FUTURE”Tour Final』幕張メッセライブ映像
- MIYAVI
『ALL TIME BEST “DAY 2”』通常盤(CD) -
2017年4月5日(水)発売
価格:2,700円(税込)
TYCT-60097
1. What's My Name ? – Day 2 mix
2. Universe – Day 2 mix
3. Ahead Of The Light – Day 2 mix
4. 素晴らしきかな、この世界 –What A Wonderful World – Day 2 mix
5. Guard You- Day 2 mix
6. Live to Die Another Day -存在証明-
7. What's My Name ?
8. Survive
9. Torture
10. Strong
11. Day 1
12. Ahead Of The Light
13. Horizon
14. Secret
15. Real?
16. Let Go
17. The Others
18. Afraid To Be Cool
19. Fire Bird
20. Long Nights
- MIYAVI
- 作品情報
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- 『無限の住人』
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2017年4月29日(土・祝)から全国公開
監督:三池崇史
脚本:大石哲也
原作:沙村広明『無限の住人』(講談社)
主題歌:MIYAVI“Live to Die Another Day - 存在証明 -”
音楽:遠藤浩二
出演:
木村拓哉
杉咲花
福士蒼汰
市原隼人
戸田恵梨香
北村一輝
栗山千明
満島真之介
金子賢
山本陽子
市川海老蔵
田中泯
山崎努
配給:ワーナー・ブラザース映画
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