1stアルバム『Little Playmate』から20年。スカパンク界のリビングレジェンドとして旺盛な活動を続けるKEMURIから、胸躍るような発表があった。
2014年から海外のバンドを招聘して開催してきた自主イベント『SKA BRAVO』を、今年はフリーライブとして東名阪で開催するというのだ。そして、そのプロジェクトを実現するために、現在CAMPFIREにてクラウドファンディングを実施している。
この企画には、きっと彼らの並々ならぬ音楽への熱意が込められているはずだ。ボーカルにしてリーダーを務め、この8月には51歳になる伊藤ふみおに、今回のプロジェクトへの思いを聞いた。インタビューから見えてきたのは、常に前進を続ける伊藤とKEMURIの尽きぬエネルギー、そしてデジタルな新潮流にも積極的に足を踏み出していく、「まだ見ぬ景色」への飽くなき渇望だ。
そもそもこのバンドは「非常識」なところから始まっているんです。
―KEMURIは常に世代の差を乗り越えて、新しい時代の空気を積極的に取り込んでいく、刺激的な姿勢を見せてきたバンドだと思います。今回のプロジェクトはまさにそうしたKEMURIの歴史の延長線上にあるはずですが、伊藤さんはどう感じていらっしゃいますか?
伊藤:基本的に、人がやっていることを上手にアレンジして、もうちょっとポピュラリティーを得られるようなものに作り変えて出す、ということには興味がないんです。もちろん人気はあるほうがいいし、動員も多いほうがいい。でも、世の中の主流とはちょっと違うことをやりたいんですよ。
―その精神はずっと変わっていない?
伊藤:基本的に天邪鬼というか、いくつになっても「サブカル魂」みたいなものがあるんですよね。時々「やだなあ」って自分でも思うんだけど(笑)。
―いやなんですか?(笑)
伊藤:50歳になって半ズボン履いてていいのかなあって、思うこともなくはないですよ(笑)。でもね、やっぱり新しい景色を見たい、という思いがずーっと強くあるんです。それが今回の『SKA BRAVO』無料開催にもつながっているんですよね。
―1stアルバム『Little Playmate』から20年という節目になりますが、原点回帰的な思いもあるのでしょうか?
伊藤:原点回帰というより、やりたいことが20年前とあんまり変わっていないのかもしれないです。音楽としても一貫してスカパンクだし、P.M.A(Positive Mental Attitude)というメッセージも発信し続けていますし。
―一貫したメッセージを発し続けられるというのは、並大抵のことじゃないと思います。
伊藤:そもそもこのバンドは「非常識」なところから始まっているんです。常識のなかで動いていたら、とてもじゃないけど我々みたいなバンドはここまで活動を続けられていないと思いますよ。
―「非常識」ですか?
伊藤:「常識 / 非常識」というと大げさかもしれないけど、たとえば、ミュージシャンになりたいとなったら、まずマネジメント事務所に所属しなきゃいけないとか、いい音で録りたかったらそれなりのレコード会社に所属しないと難しいとか……。20年前って、今に比べてあらゆることがアナログだったし、ある枠のなかで動かないと難しいことがたくさんあったんです。
でも、僕たちは事務所にも入っていなかったし、ツテも何にもないなかで、バンドのメンバー五人とカメラマン一人でアメリカに渡って『Little Playmate』を作りました。思い返してみると、改めて「よくできたなあ」って感じます。
―そういった「常識」がある時代に、自分たちだけで動いた動機は何だったんですか?
伊藤:ともかく、いい音で録りたくて。それでアメリカで録音したんですよ。そういう動きも含め、すべて自分たちで決めていったわけです。とにかく、KEMURIは、当時のミュージシャンのあり方から考えると、非常識にやってきたバンドです。20年以上続けていても、そうした前向きな非常識さは、なくしたくないんですよ。
―音楽をめぐる環境にかんして、20年前と今とで違いを感じることはありますか?
伊藤:「場」がものすごくたくさんあって、若いバンドが羨ましいくらいです。野外フェスティバルなんて、僕たちが1stアルバムをリリースした年に、ようやく『FUJI ROCK FESTIVAL』が初開催されて。
―それまでそういった「場」はなかった?
伊藤:僕らが学生の頃は、座って静かに聴くジャズフェスティバルとかしかなかったんですよ。立っていると叱られるし、セキュリティーの人、めちゃくちゃ怖かったんだから!(笑)
―そうなんですね(笑)。
伊藤:特にパンクなんて、かつては薄暗く怪しげな、いかがわしい場所でコソッとみんなで暴れて帰っていく、みたいな感じだったから(笑)。そう考えると、何千人という観客がロックやパンクのステージを観る、という今の世の中は、夢みたいですよね。太陽の下でパンクなんて、本当に素晴らしいと思います。
当たり前になってしまっていることを当たり前じゃなくしたい。
―今回、これまでKEMURIが毎年海外からバンドを呼んで行っている『SKA BRAVO』を東名阪で無料開催されますが、そもそも発想の経緯は?
伊藤:『Little Playmate』から20年。記念すべき年だし、何か面白いことを、面白い方法でやりたいなあと思っていたんです。今まで作品を作るにあたってお世話になった方たち、そして応援してくださっているファンの方たちに、感謝の気持ちを伝える場にもしたかったし、自分たちも特別な気持ちで演奏できるような試みにしたかった。そこで出てきたのが、『SKA BRAVO』を無料で開催する、というアイデアでした。
―無料ということに懸ける思いもあるのでしょうか。
伊藤:そうですね、当たり前になってしまっていることを当たり前じゃなくしたい、というか。チケットを買ってライブに行くという、当たり前の枠を取り外してみて、チケットを買わなくても行けるようにしたらとても面白いんじゃないかな、と。
―フリーイベント自体はいろいろなところで行なわれていますが、伊藤さんが感じられた「面白さ」ってどういうものだったんでしょう?
伊藤:僕の頭のなかに、みんなが、「ちょっと今日、行ってみる?」って会話しているようなイメージがパパパッと浮かんできたんです。もちろん前々から予定を立てて、遠方からいらっしゃる方もいると思うんですが、一方で、もう少し生活に密着したライブのイメージがあって。音楽好きの学生のグループが、「今日、まだ入れるかもしれないから行ってみる?」って誘い合って行く感じというか。
―お茶しているときに「そういえば今日、KEMURIのフリーライブだね」と。
伊藤:そうそう、「じゃあ今日は飲みに行かないでKEMURI観てみるか」とか、「そういえば今日バイト空いてるんだよね」みたいなテンションで、観に来てくれる感じ。そういうイメージを共有し、バンドのメンバーとも話をして決定しました。
とはいっても、ちょっと考え込みましたけどね。「KEMURIがフリーライブやります!」といったら、会場の人が「OK!フリーライブならタダで会場貸します!」といってくれるわけはないでしょう?海外からも2バンドに来ていただくんですけど、それもパスだけ用意するから勝手に来て、というわけにもいかない。じゃあどうすりゃいいのかなあ、と。
―そこで出てきたのが、クラウドファンディングというアイデアだったんですね。
伊藤:そうです。お客さんとのコミュニケーションとしても、支援いただいた方にリターンをお返しするという過程で、人それぞれの目に見えない好意もいただくことが面白いと思って。
「KEMURI 『SKA BRAVO 無料ツアー』 開催プロジェクト」(サイトを見る)
―「見えない好意」というと?
伊藤:普段、KEMURIのライブだとだいたいチケットが4000円なんです。でも今回の場合、リハ&舞台袖でのライブ観覧がリターンになっている「ローディーコース」がいいという人は、それを選んでいただけばいいし、もちろんタダで観たいという人は、そのままフリーライブの会場に足を運んでくださればいい。
一人ひとりが自分の楽しみ方を選べ、こちらはその好意をいただくというあり方に、強く興味を持って。お客さんそれぞれに、自分なりの『SKA BRAVO』を作っていただけるんじゃないか、そんな期待感を抱いたんです。
画面を通して知るのと体験するのは全く違う。衝撃的な音楽を、バンドを、目の当たりにしてほしいんですよ。
―改めてそういったイベントを無料でやろうと踏み切った、思いの強さがすごいと思います。クラウドファンディング含め、先日はライブをLINE LIVEで生配信したり、やっぱりKEMURIは新たな時代の潮流に鋭敏に反応するバンドだな、という印象を受けました。
伊藤:いまだに、いい音楽、面白いなと思う音楽が好きだし、新たなものを探しているんです。そうした気持ちで去年も海外ツアーに行ったんですが、年下のバンドでも「こいつら、スゲーな……!」「どうやってこんな曲を作っているんだろう」って、思い出しても鳥肌が立つくらいのバンドが、やっぱりいるんですよね。
僕らは好奇心旺盛で、いろんなところに行って、いろんなものを見て、あれもいいよ、これもいいよ、と紹介したい。『SKA BRAVO』自体が、まさにそういう思いを込めたイベントなんです。
―こんないい音楽、面白い音楽があるんだと、伝えたいわけですね。
伊藤:いろんな世代の人たちに、そういうバンドを観てもらいたいんです。今は海を渡らなくても、インターネットがあるからいろんなものを知ることはできるけど、やっぱり画面を通して知るのと体験するのは全く違う。とにかく、衝撃的な音楽を、バンドを、目の当たりにしてほしいんですよ。
そしてそのための「場」は、僕たちが自ら積極的に作っていきたい。大げさに聞こえるかもしれないけど、それは20年やってきたバンドのミッションなんじゃないかと思っています。
今まで見たこともない景色を体験するから、心が動くし、昨日とは違う自分の新たな感性が顔を出す。
―『SKA BRAVO』は、KEMURIというバンドの姿勢が強く反映されたイベントなんですね。
伊藤:ジャンルとしては、スカ、パンク、レゲエ、そういうバンドばかりを呼ぶから、すごく狭いイベントではあるんです。ただ、そのぶんそういう音楽の深さを味わってもらうことができると思います。
そして『SKA BRAVO』を楽しんでもらえれば、そういう音楽が好きなKEMURIについても、「ああ、だからKEMURIはこういうバンドなんだ」とわかってもらえるはずなんですよね。
―その『SKA BRAVO』をフリーライブとして間口を広げる、ということにはどんな意味があるのでしょうか?
伊藤:これは「これから新しいものを作っていくための、ひとつの方法」になりえるんです。今まで見たこともない景色を体験するから、心が動くし、昨日とは違う自分の新たな感性が顔を出す。その繰り返しで新しいものが生まれていくんだと思うんです。ですから、お客さんにとってもフリーでお得かもしれませんが、我々KEMURIにとっても、けっこうお得なイベントなんですよ(笑)。
―新たな刺激を受けられる、と(笑)。
伊藤:いや、もちろんリスクはゼロではありませんし、今でもドキドキしていますが(笑)。
―それでもやる価値があるわけですね。
歳を重ねて、少しずつ、世界が広がっている感触があります。
伊藤:自分たちが好きなことしかやらないイベントですから。好きなことをやって、好きなバンドを自分たちも観て。自分たちがかっこいいと思って呼んだバンドを、ワーッと喜んでくださっている人たちがいるという光景って、本当に嬉しいものなんですよ。「だろー?」みたいな気持ちになりますよね(笑)。「かっこいいでしょ、ヤバイでしょ?」という。基本は、それだけなんですよ。
―そうした基本がありつつ、先日、新木場STUDIO COASTで行われた『KEMURI Tour 2017「FREEDOMOSH」』ファイナルのMCで、歌うときのテンションや、作る曲のメッセージ性が、少し変わってきたというお話をされていました。前は「もっとやればできるんだ」と鼓舞するようなものが多かったのが、最近は「とても幸せ」な状況を歌う、というような。
伊藤:そうですね。たとえば、まさに<I'm so very happy!>という歌詞がある“Ve-Ri-Ha”という曲は、年々歌うときの気持ちが変わってきています。
―その気持ちの変化とは、どういうものなのでしょうか?
伊藤:人生も、生活も、20年前と大きく変わったことが大きいですね。結婚して、子どももできて……。そもそも、20年前に1stアルバムを作ったときは、「夢は今かなえなくちゃ」というような、すごく強い切迫感を抱いていたんです。それがいろいろな経験をするなかで——それこそ妻のお腹が大きくなり、生まれてくる娘を見て、という日々のなかで、何かが変わっていきました。
―それが歌うことにも反映されているんですね。
伊藤:今では遺言に近いような感覚で、言いたいこと、感じたことをすべて叩きつけていくのが僕の役目なんじゃないかなと思って。子どもを見ているときの目で歌詞を書くこともありますよ。
たとえば、街で見かけた女の子が、うちの娘くらいのときには、どんなことをしていたのかなあ、と思いながら歌詞を書いたり。それは今年3月に出した『FREEDOMOSH』というアルバムに入れた、“DIAMOND”という曲になりました。歳を重ねて、少しずつ、世界が広がっている感触があります。
―人生のフェーズごとの真摯なメッセージもあるわけですよね。
伊藤:そうですね。歌詞は言葉ひとつも後世まで残りますから、とことん悩み、考えながら書いています。もちろんKEMURIはパンクバンドですから、世の中に悲しみや怒りを抱くこともあれば、権力者や為政者に物申す、という気持ちがないことはない。かといって、批判や揶揄をするのは、僕たちの役割ではない気がするんです。
だから、とにかくKEMURIが楽しんでいる姿を見て、ファンの皆さんにも楽しんでもらいたい。KEMURIのメンバーにも、もっとお客さんのほうを見よう、楽しんで演奏しようと話をします。もちろん他のバンドにはそのバンドの考え方があり、自由だと思います。そのうえで、KEMURIのやるべき役割はこれだろう、と。
―そんな姿勢をより多くの人に伝え、楽しさをもっと伝播させていきたいわけですね。
伊藤:下から上まで、世代をまたいで伝わったらいいなって期待しています。今でもライブ会場には、往年のファンの方も多くいらっしゃれば、中学生の子が来てくれたりもするんですよ。「あれ、お父さんがファンなの!?」ってこっちがビックリしちゃうんだけど(笑)。
そうした子たちも、フリーライブだったらもっと気軽に来てもらえるでしょう?インターネットやクラウドファンディングというキーワードの元に、世代の壁も男女の壁も、もっと乗り越えていけたらいいなと思っています。
- プロジェクト情報
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- CAMPFIRE
KEMURI『SKA BRAVO 無料ツアー』開催プロジェクト
- CAMPFIRE
- イベント情報
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- 『'FREE SHOW!'~SKA BRAVO SPECIAL TOUR 2017~』
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2017年11月14日(火)
会場:東京都 某所2017年11月15日(水)
会場:愛知県 名古屋 某所2017年11月16日(木)
会場:大阪府 某所出演:
KEMURI
他海外バンド2組
料金:各公演 無料(ドリンク別)
- プロフィール
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- KEMURI (けむり)
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伊藤ふみお(Vo)、津田紀昭(Ba)、平谷庄至(Dr)、コバヤシケン(Sax)、田中‘T’幸彦(Gt)、河村光博(Trumpet)、須賀裕之(Trombone)の7人からなるスカパンクバンド。1995年より、「P.M.A(Positive Mental Attitude)」を標榜し活動開始。1997年ロードランナー・ジャパンより1stアルバム『Little Playmate』リリースし、国内外で精力的に活動する。2007年12月をもって解散するも、2012年にHi-STANDARDからの呼びかけに応じ、『AIR JAM 2012』にて約5年ぶりに復活。2015年には17年振りのUSツアーを敢行。2017年11月には、主催イベント『SKA BRAVO』を、『'FREE SHOW!'~SKA BRAVO SPECIAL TOUR 2017~』として初めて無料開催する。
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