一度は盆栽界を追放された巨匠・小林國雄が村田倫子に人生を説く

現地に住むキュレーターがその街のカルチャースポットを紹介するクリエイティブシティガイド『HereNow』と連動して、人気モデルの村田倫子さんが同ガイドのスポットを巡り、東京のカルチャーを学ぶ連載『村田倫子が学ぶ東京カルチャー』が始まります。

記念すべき第1回目は、江戸川区にある『春花園BONSAI美術館』を訪れました。国内外から年間1万人が訪れる本館には1000鉢以上の見事な盆栽が飾ってあり、その景観はまさに圧巻。今回は、『春花園BONSAI美術館』の館長で、内閣総理大臣賞を4度授賞している盆栽界の巨匠・小林國雄さんに、盆栽の魅力について教えていただきました。

経過した時間を慈しむのが、日本の盆栽の楽しみ方

約800坪の広大な敷地に所狭しと並ぶ盆栽。丁寧に整えられたその姿に感動していると、館長の小林さんがやってきました。

春花園BONSAI美術館
春花園BONSAI美術館(HereNowで見る

小林:こんにちは。わたしの盆栽たちはどうですか?

村田:盆栽にもいろんな種類があるんですね。そもそも「盆栽」ってどういうものを指すんですか?

小林:盆栽の定義は人によって様々だけど、私はひとつの盆の中で自然を表現していて、かつきちんと「古さ」が出ているものだと思っています。草花は枯れてしまうけど、盆栽は100年も200年も生きる命の尊厳があるからこそおもしろいし、奥深さがあるよね。

村田倫子
村田倫子

小林國雄
小林國雄

村田:なるほど。朽ちていく様子を楽しむのが盆栽ということですね。

小林:そうだね。盆栽って凄まじいんだよ。木の一部が枯れて白くてしまっても、わずかに生きている部分で水を吸い、そこから出る芽は青々としている。死んだ部分と生きた部分が同居しているの。これってすごいことだと思うよ。こうして、経過した時間を慈しむのが、日本の盆栽の楽しみ方なんですよ。

生きていた幹の肉は削げ、白い骨の部分がむき出しになっている
生きていた幹の肉は削げ、白い骨の部分がむき出しになっている

村田倫子

村田:花が咲いているものもあって、育てる植物も様々なんですね。盆栽って、国によっても美意識や楽しみ方が違うんですか?

小林:中国だと、地面から天井くらいまでの大きいものがあったり、イタリアだとオリーブやオレンジなんかもあるよ。

合歓の木-ネムノキ
合歓の木-ネムノキ

数奇屋造りの母屋。春花園BONSAI美術館には15の和室に床の間があり、四季折々の盆栽が飾られる
数奇屋造りの母屋。春花園BONSAI美術館には15の和室に床の間があり、四季折々の盆栽が飾られる

村田倫子

村田:この盆栽たちは、山から採ってくるんですか?

小林:山から採る場合と、種を植えて育てる場合があるけど、日本でいうと山から採ってきた古い木を手入れするのが主流かな。

盆栽は1400年前に中国で始まって、800年前に日本に伝わったんです。かつては日本でも盆栽になる木が取れたけど、明治時代にすべて掘り起こされてしまった。盆栽になりうる立派な木を1つ取ってくれば1軒の家が建つくらい値がつくからね。だから最近は、スペインに行って買っているよ。でもスペインもあと4年くらいしたらなくなってしまうんじゃないかな。

村田:松など日本特有の植物は日本で取っているのかと思っていました。盆栽の評価のポイントは、どういうところにあるんでしょうか?

小林:ひとつは、骨董と同じようにどんな人が持ち主であったのか。例えば、蒋介石や三代将軍徳川家光のように、歴史上の名だたる人物が持っていた盆栽というのは圧倒的に箔がつく。

もうひとつは、植物の年齢と形の良し悪しだね。一番大事なのは根っこの張り方、それから幹の立ち上がり、枝のつき方。自然界にある木がお手本になるから、平行に出ている枝など自然界にはないような形のものは、「忌枝」といって嫌われるし、評価も下がる。

バランスよく枝が付いた盆栽
バランスよく枝が付いた盆栽

村田倫子

館内に飾られている川端康成の書
館内に飾られている川端康成の書

「盆栽職人だからって盆栽のことだけをやっていてはダメ」(小林)

小林:盆栽というのは時間が経てば経つほど味が出てくる。それが大事なこと。そこに盆栽の持つわびさびが出てくるからね。これは、私の代表作の『雲龍』、1億円の盆栽。

雲龍
雲龍

村田倫子

村田:1億円! どうしてそんなに高値になったんですか?

小林:まずは樹齢600年という松自体の歴史の深さ、そして個性、調和、品格。あとは、私の欲かな(笑)。

村田:先生は、盆栽を誰かに教わったんですか?

小林:いや、独学だよ。だから、恥ずかしい話だけど今までに1億円以上盆栽を枯らしてしまっている。

村田:独学で学んで、内閣総理大臣賞まで受賞するのは本当にすごいですね。いろんな盆栽の職人さんがいると思うんですけど、先生の美意識って他の人とどう違うのでしょう?

左から:村田倫子、小林國雄

小林:普通の職人は盆栽の先生に教えを受けるけど、私の師匠は日本画の先生だったんです。日本画というのは、線と空間でどう魅せるかという世界なんですよ。私が中国なんかで評価されているのは、線の動きを大事にしているというところ。それは、最初に日本画を学んだことが大きいような気がするね。

やはり、盆栽職人だからって、盆栽のことだけをやっていてはダメだよね。絵や彫刻、写真など、いいものを見たり、自分でも挑戦すること。作品というものは人が作るものだから。その人が感性を磨かずして、どうして良い作品が生み出せますか。

盆栽をチェーンソーを使って造形するパフォーマンスを披露
盆栽をチェーンソーを使って造形するパフォーマンスを披露

村田:他の芸術に触れることで、それが盆栽へも影響するものなんですね。私も、いつか自分のファッションブランドを持ちたいと思っているので、すごく勉強になります。先生は、ひとつの道を極めるために大切なことってどういうことだと思いますか?

小林:まずは、当たり前だけど一生懸命やることだよね。私はこの道に入って40年間毎日15時間働いているよ。朝4時半に起きて、コーヒーを飲んで5時にはもう表に出る。一つひとつの盆栽を見ながら、この子の一番いいところはどこだろう、この枝をこっちに持っていったらもっと個性を引き出せるんじゃないかって対話するんだ。夢も盆栽の夢しか見ないよ。でも、15時間眺めていてもストレスひとつ溜まらない。盆栽は私の趣味であり仕事であり、生きがいなんだ。

左から:小林國雄、村田倫子

「人間も盆栽も温室育ちはダメだね、試練がないと」(小林)

村田:盆栽をやっている方って高齢なイメージがあるのですが、実際のところはどうなのでしょうか?

小林:そうだね。盆栽愛好家による団体・日本盆栽協会の平均年齢は80歳。これじゃー先が見えるでしょ。盆栽というのは1つ作るのに30年はかかる。だから、早いうちからやらないといい盆栽にならないじゃない? そういう意味でも、若い人たちにやってもらうというのは大切なことなんだよね。

村田:若い子は今、育てることや表現することが好きな人が増えてきているんです。だから、盆栽の魅力を知ったらハマるひとも多いんじゃないかと思います!

村田倫子

小林:倫子ちゃんは植物を育てるのは得意なの?

村田:私は、実は苦手で……。すぐに枯らしてしまうんですよね。愛情が足りないんでしょうか。

村田倫子

小林:いや、それはお金を出さないからだね~!(笑) 高額で買ったものは、もったいないから枯らさないじゃない。

村田:一理ある気がします(笑)。盆栽を始めるとしたら、何から始めるのがおすすめですか?

小林:皐月あたりがいいんじゃないかな。花が綺麗だし、丈夫で切っても切ってもまた新しい芽が出てくるから、失敗しても大丈夫。植物の育て方に悩んだら、その植物の自生地を調べてその場所に近い状態にしてあげることだね。その植物がもともともと育った環境に近い状態で、太陽の光、水、温度を調整するとよく育つ。ぜひ、一度やってみて。

皐月
皐月

左から:小林國雄、村田倫子

村田:はい、やってみます。先生は、この美術館を15年ほど前に作ったんですよね。どうして、職人として生きていくだけじゃなくて、盆栽ミュージアムを作ろうと思ったんですか?

小林:盆栽協会から除名処分を受けて、追放されちゃったんだよ。私が内閣総理大臣賞や、有名な賞を総ナメにするから妬みや嫉みで(笑)。

除名処分を受けた時は、電車に飛び込んで自殺をしようかとも考えた。でも、そのとき妻が言ったんだよね、「あなたをいじめた人たちに仕返しをしなさい。死ぬのはそれからでも遅くないんじゃない?」と。

村田:それで、この美術館を。

春花園BONSAI美術館

春花園BONSAI美術館

春花園BONSAI美術館
春花園BONSAI美術館

小林:そう。仕返しってなんだろうと一生懸命考えた。いじめたやつらには絶対にできないことをやってやろうと思って、10億円をかけてこの美術館を作った。そして、業界のトップにまで登り詰めたの。だから、妻には絶えず感謝していますね。今までに何冊も本を作ってきたけど、必ず巻末には妻の名前を入れている。

盆栽は、水がなかったり、雷が落ちたり、大きな試練にあってこそ幅が出る。人間も、盆栽も温室育ちはダメだね、試練がないと。

取材を終えて村田倫子が想うこと

最近、密かに気になって注目していた盆栽。

はじめて間近に向き合う姿は凛々しく、迫る波のような力強さと、繊細な美のバランスに、気づくと穴が空くほど見つめていました。

生と死が共存、枝が奏でる線の美しさ…。何より手をかけた人柄が滲みでる粋な姿に、取材を終えるころはすっかり盆栽の虜に。そして盆栽会の巨匠の小林さんがとてもチャーミングで、(肩書きが凄すぎて固く厳しい方かと思っていたので笑)素敵なギャップに、すっかりファンになってしまいました。

荘厳な盆栽を見に、人生の先輩である小林さんの熱い話を聞きに、また訪れたいです。

サイト情報
HereNow

アジアを中心としたクリエイティブシティガイド。現在東京、京都、福岡、沖縄、台北、バンコク、シンガポール、ソウルの8都市で展開しています。

リリース情報
HereNowアプリ

HereNowアプリリリースを記念してキャンペーンをスタート。2017年8月21日(月)までにHereNowのアプリをダウンロードし、キャンペーンページよりご応募いただいた方に抽選でプレゼントが当たります!
商品概要:
A. 東京・台北 発着往復航空券(計2組4名分)
B. 東京・京都・沖縄・台北ホテル宿泊券(計8組16名分)

美術館情報
春花園BONSAI美術館

住所:東京都江戸川区新堀1-29-16
営業時間:10:00~17:00
定休日:月曜(祝日は開館)
料金:一般800円(お茶付き) 学生600円
電話番号:03-3670-8622
最寄り駅:篠崎駅、瑞江駅

プロフィール
村田倫子 (むらた りんこ)

1992年10月23日生まれ、千葉県出身のモデル。ファッション雑誌をはじめ、テレビ・ラジオ・広告・大型ファッションイベントへの出演など幅広く活動している。自身初のスタイルブック「りんこーで」は発売から1週間で緊急増刷となり、各種SNSのフォロワーも急上昇中。趣味であるカレー屋巡りのWEB連載企画「カレーときどき村田倫子」では自らコラムの執筆も行ない、ファッションだけにとどまらず、カルチャー・ライフスタイル分野でも注目を集めている。

小林國雄 (こばやし くにお)

春花園BONSAI美術館館長。社団法人水石協会理事長。美しさとその内に秘められた自然の厳しさを表現する自然の素晴らしさを少しでも多くの人に味わってもらうため、盆栽美術館を開館。日本盆栽作風展・内閣総理大臣賞、国風盆栽展・国風賞をはじめ、皐樹展、日本盆栽大観展、盆栽逸品展等にて各賞受賞。海外講演数は70を超え、盆栽文化普及のため国内外の弟子育成に尽力。春花園の卒業生は20カ国70名以上である。主著に「盆栽芸術-天-」「盆栽芸術-地-」「BONSAI」等。



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