今年25周年を迎えた日本のアンダーグラウンドシーンを代表するレーベル「Less Than TV」をご存知だろうか? 現在公開中の映画『MOTHER FUCKER』は、同レーベルの主宰者である谷ぐち順と、その妻であり、同じくバンドで活動するYUKARI、そして小学生になる息子の三人家族が主役となり、音楽や家族、仕事など日々の葛藤に向き合う夫婦のリアルを描いたドキュメンタリー映画だ。
この映画の公開を記念して、YUKARIとは関西時代から旧知の仲である、ミュージシャン劔樹人と、その妻で、エッセイスト / タレントの犬山紙子を迎え、夫婦対談を実施。犬山は今年の1月に第一子を出産し、妊娠・出産・育児についてのインタビューをまとめた書籍『私、子ども欲しいかもしれない。』を先日発表したばかり。また、同日に劔も兼業主夫としての日常を綴ったエッセイ漫画『今日も妻のくつ下は、片方ない。』を発表。この2組の対談は、夫婦や家族のあり方がどんどん変わっていく現代における「幸せのあり方」について、たくさんのヒントを含む内容になったように思う。
共鳴くんに対して、対等な人間として接するお二人の姿がすごくかっこよくて、すごく感銘を受けました。(犬山)
—映画をご覧になって、犬山さんはどんな感想を持たれましたか?
犬山:YUKARIさんがお子さんの共鳴(ともなり)くんと接するシーンは、「私がこれからたどる道なんだろうな」って、先輩の姿を見るような感じでした。しかもYUKARIさん、「子どもだから」っていう接し方じゃなくて、本当に「一人の人間」として接していて、まさに私が目指している子育てを実践してるんです。すごく感銘を受けました。
—親の厳しさと優しさ、両方ともが描かれていますよね。
犬山:本当にそう。初ライブに挑む共鳴くんに対しても、「子どものお遊戯会じゃないんだよ」って、甘やかさないじゃないですか。共鳴くんに対して、対等な人間として接するお二人の姿がすごくかっこよくて。
YUKARI:ついつい子どもを所有物みたいに思っちゃうこともあるんですけどね。自分で服を選び始めた頃なんて、ボーダーにストライプとか、すごいコーディネートしたりするんですよ。「いやいやいや」ってなるんですけど、そこが個人を尊重するかどうかの狭間(笑)。
犬山紙子、劔樹人、谷口共鳴、YUKARI、谷ぐち順(撮影協力:Mikkeller Tokyo / 店舗情報を見る)
谷ぐち:子ども相手でも対等に接するってことで言うと、ひとつ決めてることがあって、友達の子どもとか赤ちゃんにも「Less Than TVの谷ぐちです」って、ちゃんと挨拶するようにしているんです。
YUKARI:そういうことは、自分で言うとあんまりだよ。「谷ぐちさん、赤ちゃんにもちゃんと挨拶するんだ」って周りが気づくのはいいけど、自分で言っちゃうとかっこ悪いよね。
一同:(爆笑)
—谷ぐちさんは共鳴くんとの接し方について、何か意識されていますか?
谷ぐち:まあバンドと同じで、子どものことに親が介入するのって、それこそパンク的じゃないですよね。もっと自由に、「何でもいい」みたいなほうがいいなって思っています。
劔:映画のなかで、初ライブが近づいてきて、共鳴くんなりに葛藤して、でも最後の練習が上手くいって、YUKARIさんとすごく嬉しそうにしてるシーンがあるじゃないですか? あそこは本当に感動的でした。
谷ぐち:でも実を言うと、「バンドやっちゃったか……」って感じだったんだよね。親のエゴを押しつけてるように思われちゃうなって。Less Than TVのようなハードコア界隈でも子ども好きな人っていて、そういう人と共鳴がライブハウスで仲良くなってたんです。それで、「じゃあ、今度泊りに行ったらいいじゃん」って行かせたりしてたら、その延長で「バンドやろう」ってなったみたいで。
映画『MOTHER FUCKER』より / ©2017 MFP All Rights Reserved.
犬山:それもちょっと憧れで、子どもに大人の友達とたくさん接してほしいんですよね。
劔:その話はよく言ってるよね。子どもができると外出しづらくはなるけど、それだったら友達に家に来てもらって、子どもにいろんな人と会ってほしいって。
犬山:そうそう。親の価値観だけじゃなくて、いろんな価値観に触れてほしいと思っているんです。今の話はまさしくそういうことですよね。
「(出産で)仕事休んでる間に自分の居場所がなくなるんじゃないか」っていう焦りが私にもあったんです。(YUKARI)
—劔さんはYUKARIさんと付き合いが古いと思いますが、YUKARIさん・谷ぐちさんご夫婦のことをどのように見ていらっしゃいましたか?
劔:僕がすごいと思ったのは、YUKARIさんって共鳴くんが生まれてすぐにライブやってましたよね?
YUKARI:本当は臨月だけ休むつもりで、生まれてから1~2か月してライブできたらいいなって思ってたんですけど、臨月がなくて、1か月早く生まれてきちゃったんです。
谷ぐち:そのとき名古屋でライブが入ってて、でもまだ予定の1か月前だったから、医療機関とかは調べた上でライブをやったんだけど……。
YUKARI:その3日後に出産。
犬山:ライブした3日後だったんですか!
YUKARI:そうなんです。で、共鳴が生まれてから1か月後にはライブをやりました。そのときは全然できるなって思ったし、やっぱりやらないと焦りが出るというか。犬山さんも本で書かれてましたけど、「仕事休んでる間に自分の居場所がなくなるんじゃないか」っていう焦りが私にもあったんです。
あと子どもができたら、急にプリミティブな歌を歌い始めたりする人とかもいるじゃないですか? それを否定するわけじゃないけど、私はそうはなりたくなくて。そういう思いがいろいろあって、今までよりも余計に、何割増しかで「やってやる!」って思っちゃった。
犬山:わかるー! 「あいつ出産して急に丸くなったな」とか言われるのがすごく嫌だから、「やってやんよ!」ってなるんですよね。でも、私たちみたいな性格の人は、きっと気をつけたほうがいいんでしょうね。ついついやり過ぎちゃうから。
YUKARI:意識しすぎて、「尖った発言しないといけないんじゃないか」とかね。
犬山:人って変わっていくものだと思うんですけど、世間って「彼氏ができた」「結婚した」「出産した」っていうのを切り取って、「だから、あの人は変わった」って、そういう枠に入れよう入れようとしてくるじゃないですか? 私はそこからは逃げたかったというか。
自分から自然とそういう枠に入っているのかもしれないけど、それはあなたが入れようとしたから入ったわけではないですよっていう……面倒くさい人間だなって自分でも思いますけど(笑)。世の中の人から見る「自分の見られ方」はすごく意識していますね。
自分の人生を疎かにしてない人だったら、子どもを産んでも、産まなくても、幸せになることはできる。(犬山)
—YUKARIさんは妊娠をする以前、「バンドをやりたい」という気持ちと、「子どもが欲しい」という気持ちはどのようなバランスだったのでしょうか?
YUKARI:私、もともとずっと体調がよくなくて、子どもなんかできないと思ってたんです。なので、子どもがいない自分の未来像を想像してたんですけど、ある日突然妊娠がわかって。全然準備とかしてなかったんですけど、もうそうなったら子どもと向き合っていくしかないじゃないですか?
だから、犬山さんの本(『私、子ども欲しいかもしれない。』)を読んですごいなって思ったんですよ。「子どもが欲しい」と思って、実際に子どもを持つ勇気って、本当にすごいなって。この本でいろんな人に取材をして、メリットとデメリットを知って、でもそれを天秤にかけて、メリットのほうが大きかったから出産したってことではないと思うんですね。子どもを産んで育てることって、「やっぱりやめた」とは絶対できないわけで……迷いってどうだったんですか?
犬山:ずっと迷ってて、この本を書き始めたときも、最初は自分が子どもが欲しいかどうかもわからなかったし、いろんな人に取材をするなかで、人生に答えなんてないってこともだんだんわかってきて。そんななかでひとつ思ったのは、自分の人生を疎かにしてない人だったら、子どもを産んでも、産まなくても、幸せになることはできるってことで、だったら、思い切って舵を切ってもいいのかなって思ったんです。
ただ、私もなぜか自分は子どもができない体質だと思っていたので、「できなかったらできなかったで、それも幸せ」くらいの感じで、最初はゆるく妊活を始めたんですよ。でも、ある日生理が来たときに、すごくショックだったんです。そこで、「私、子どもが欲しいんだ」って、自分の気持ちに初めて気づきました。
犬山紙子『私、子ども欲しいかもしれない。』表紙(Amazonで見る)
YUKARI:つるちゃん(劔)はウェルカムだったの?
劔:そうですね。どっちかっていうと、「なるようになる」っていうタイプなんで。でも、(犬山は)「こんな丈夫な橋、そんなに叩く?」ってくらい慎重で、心配性なんですよ。YUKARIさんはあんまりそういうイメージはないですけど、どうでしたか?
YUKARI:「お金なんかなくてもなんとかなる」とは思いつつ、でも「子どもが成人するまで、ある程度の稼ぎを自分たちが持てるのか」って、やっぱり考えるじゃないですか? 別に私たちがどうなろうとかまわないけど、「子どもにとってそれでいいのか?」って考えだすと……怖いですよね。
俺、大阪の商店街を歩いてたときに、二人の間に子どもがいるイメージが急に湧いてきたんです。(谷ぐち)
—子どもを持つということは、もちろん親だけの問題ではないし、生まれてくる子どものこともきちんと考えるからこそ、迷いが生まれるというか。
犬山:やっぱり、みんなそこで悩むんですよね。
谷ぐち:俺、大阪の商店街を歩いてたときに、二人の間に子どもがいるイメージが急に湧いてきたんですよ。別にスピってるわけじゃないけど、なんとなく、二人に子どもがいてもいいなって思って。
ただ、さっきも言ってたように、(YUKARIは)体調がよくなかったから、「子どもがいても面白いかもね」くらいの話しかしてなかったんですね。それで、実際子どもができたとわかったときは本当に嬉しかったし、不安とか全くなかったですね。
YUKARI:えーでもさ、最初体調悪くなって、「もしかしたら、妊娠してるのかも」って言ったら、全然いたわる感じとかじゃなくって、「早く病院行けよ!」って言われたよ。
谷ぐち:そんな言い方はしてないよ!
犬山:映画でこういうシーン見た気がする(笑)。
YUKARI:でも、病院から帰ってきて、「そうだった」って言ったら、もちろん、喜んでくれましたけどね。
犬山:つるちゃんはどういう反応しようかって考えたんだよね?
劔:その頃は妊活の本とかを読んでて、「言っちゃいけない地雷がある」って書いてあったから、「リアクションを間違えたらいかん」ってシミュレーションしてました。
YUKARI:それで考えすぎて、「検査キット取っておこう」って言っちゃったんだね(笑)。
劔:自分としては、優しさのつもりだったんだけど、すごくあっさりと「そんな汚いの捨てるでしょ」って言われて……。
YUKARI:だって普通はそんなこと言わないよ(笑)。
自分のやりたいようにやりたい。それはこの映画に出てくる人たちみんなの生き方から感じた。(劔)
—劔さんとしても、お子さんが生まれて、本をまとめて、バンドのことや子育てのことなど、改めていろいろ考えるきっかけになったかと思うのですが、いかがでしょうか?
劔:今はすごくすっきりした感じがあります。僕はもともと、アンダーグラウンドな血筋なんですけど、でも若い頃は「のし上がってやるぞ!」っていう気持ちがすごく強かったんです。結局、自分の活動では上手くいかなくて、マネージャーとかプロデューサーとしてメジャーを経験して(劔は2013年まで神聖かまってちゃんのマネージャーを務めていた)、「今まで自分がいたところと決別しなきゃいけない」って気持ちがあったんですよね。上に行くためには、捨てないといけないこともあるって覚悟を決めたというか。
でも、5~6年かけて一通り経験するなかで、結局自分はそういう感じでもないなって思ったんです。そういうときに彼女から「本当に好きなことだけをしていけ」って言われて、本当にこの映画のコピーじゃないけど、「楽しい、ことだけ!!」っていう。
『MOTHER FUCKER』メインビジュアル(作品情報を見る)
劔:あと、あのチーターズマニア(共鳴がボーカルを務めるバンド)の歌詞ですよね。
犬山:あれ、すごいよかったよね。<たのしいことだけつくるよ>って、なんてかっこいい歌詞なんだって。
劔:本当にあのシーンは、自分の気持ちがストンと落ちるような感じがありました。今は子育てで忙しくなって時間が取れないけど、また新しくバンドをやりたいと思っていて。そのときは、自分のやりたいようにやりたい(劔は現在、あらかじめ決められた恋人たちへのライブメンバーとして活動中)。それは共鳴くんからだけじゃなくて、この映画に出てくる人たちみんなの生き方から感じたことで。これまで何年間かの音楽の仕事や活動の経験があった上で、改めて、「やっぱり、そうだよな」っていう、その感覚がすごくありました。
犬山:つるちゃんのバンドに関しては私も思うところがあって。きっと子どもが生まれて、自分のバンド活動を狭めないといけないんじゃないかって葛藤があると思うんですけど、私はそれだけはやってほしくないんです。
この漫画(『今日も妻のくつ下は、片方ない。』)でも描かれているんですけど、「僕、フジロック出たことある」とかって、たまにボソッと言うんですよ。他にいろんな優先しなきゃいけないことがあると思うけど、つるちゃんにとってのバンドって、相当大切なものだと思うから、そこだけは絶対譲らないでやってほしいなって思うんです。
劔樹人『今日も妻のくつ下は、片方ない。』表紙(Amazonで見る)
YUKARI:それは私もすごく思う。仕事をしてる時間が短い分、共鳴を見る時間は私のほうが長いから、「不満とかない?」って言われることがあるんです。実際、不満がないわけではないから、それで喧嘩することもあるし、「なんで私ばっかり」って思うこともあるけど、それでもしバンドをやめたら、「この人のどこがいいの?」っていう。
一同:(爆笑)
YUKARI:やりたいことをやってる姿がかっこよくて好きなのに、それをやらないで、共鳴の面倒をずっと見ててくれても、魅力なんてないから一緒にいたくない。
犬山:私もつるちゃんがバンドやめてずっと家にいるのは見たくない。だったら、外に出てもらって、そういうときは保育園なり、ベビーシッターさんに頼ったり、そのほうが絶対いいと思うんです。ハロプロ(ハロー!プロジェクト)のライブにしても、本人は「遊びだから」って思っていると思うけど、行きたいんだったらどんどん行ってくれないと、私としても困るんですよ。
自分がやりたいことをやらないで、「この子のせいだ」って、子どもに対して思いたくないんです。(YUKARI)
劔:映画で共鳴くんがインフルエンザになったときに、YUKARIさんがバンドのことを「仕事なのか、趣味なのか」って話していたのは印象的でした。僕からすると、お二人は息をするように音楽をやってる人たちだと思っていたから。
YUKARI:めっちゃ迷いますよ。子どもが体調崩してるときに、他の人に預けて、自分はライブに行くって、親としてどうなのかなって思うし。
谷ぐち:ライブ終わりに電車で帰るときとか、楽器を持って、子どもを抱っこしてると、車内の空気がものすごいんですよ。「子どもを連れまわしやがって」みたいな。席を譲ってもらえたことなんてほとんどないし……まあ、普通は譲らないだろうなって思うけど。
映画『MOTHER FUCKER』より / ©2017 MFP All Rights Reserved.
YUKARI:でもね、自分がやりたいことをやらないで、「この子のせいだ」って、子どもに対して思いたくないんです。やりたいことを我慢してる人が多いから、家族の歪みが生まれるのかなって思ったりもして。
犬山:本当にそうですね。自分の欲求を全部後回しにして、「私が我慢すれば物事は回る」ってずっとやってしまったら、それは辛いことになるだろうなと思います。まだまだ母親がやりたいことをすることへ厳しい目があるけれど、やりたいことをしながら育児は絶対両立できるし、「やってやる!」って気持ちです。
子どもと離れる時間が増えることに関する罪悪感は、母親が精神を保つために必要なものだと思う。(犬山)
—それこそ、自分の人生を疎かにしてない人は、子どもを産んでも、産まなくても、幸せになれるってことですよね。
犬山:やっぱり、自分がやりたいことってすごく大事なんですよ。だって、子育てって18年くらいで終わるから、その後の人生の方が断然長いわけだし。まあその分、子どもと離れる時間が増えることに関しては、罪悪感が絶対に生まれるから、そこで葛藤するんですけど。
YUKARI:あの罪悪感って何なんでしょうね? 「3歳までは子どもとベッタリいたほうがいいよ」みたいな一般論があるから罪悪感を感じるのか、それとも、もっと本能的なものなのか。
犬山:それに関して仮説を立てたんですけど、「罪悪感がないと、逆に自分のことをもっと責めてしまうんじゃないか?」と思うんです。「私は母親として子どものことを思っている」って思うために、罪悪感を感じているのかなって。「私、子どものことを愛してないのかもしれない」って自分を責めないための防衛本能というか。この罪悪感はきっと社会が変わってもあると思うんですけど、母親が精神を保つために必要なものだと思うから、甘んじて受け入れようかなって思うんです。
YUKARI:そう考えると、少し楽になりますね。普通に子どもを預けるだけでも、罪悪感って誰もが感じるものだと思うから。
共鳴にひとつだけ教えたいと思ってることがある。(谷ぐち)
—谷ぐちさんは映画のなかで介助のお仕事をされながら、「共生社会を作りたい」というお話をされていました。「要はみんなで楽しくやりたい」というふうにもおっしゃっていて、それはレーベルの理念にも通じると思うし、子育てをする上での社会環境という話にも広げられる考えかなと。
谷ぐち:そもそも自分はいろんな場所からはみ出して、居場所を探した結果、「ここなら」って思うことができたのが、パンクやハードコアだったんです。それで「自分もパンクスになろう」って決めたんで、パンクに対してお返しをしたいと思ってるんですよ。
俺は上を目指そうとしたことはないんですけど、アンダーグラウンドにはこれ以上「下」がないから、「横」にどんどん広がっていけばいいって考えで。より突飛な表現とか、「こいつ、明らかにダメでしょ」っていうやつをどんどん受け入れて、いろんな人が入ってきたらいいなって思ってるんです。
—それは介助のお仕事にもつながる話なのでしょうか?
谷ぐち:介助の仕事をするようになったのは、たまたまなんですけど、いろんなバリアのなかでタフに生きてる、面白い人といっぱい出会って、いろんな価値観を知れたので、それはものすごい刺激になりました。俺、共鳴にひとつだけ教えたいと思ってるのが、「この世の中にはいろんな価値観の人がいて、それぞれ最高なんだぞ」ってことなんですよ。
映画『MOTHER FUCKER』より / ©2017 MFP All Rights Reserved.
谷ぐち:共鳴が3歳くらいのときに、脳性麻痺の方と一緒に海に行ったんです。独特なしゃべり方をするから、「もしかしたら引いちゃうかも」って思ったんですけど、「この人はこうやって会話をするんだ」って、すごく自然に受け止めてて、「引くかも」って思った自分こそ偏見を持ってたなって思ったんですよ。そうやっていろんな人と接する機会があれば、偏見の壁なんて簡単に崩れる。それは共鳴から習ったことですね。
「子どもが可愛いのは何歳くらいまでだよ」とか言われると思うんですけど、あれ嘘ですからね。(谷ぐち)
—子育てのなかで、子どもから教えられることもあると。
谷ぐち:子どもって親の反応を本当によく見てるから、子どもに質問されることで、曖昧に考えてたことを思い知らされたりするんですよ。それも子育ての面白いところです。
YUKARI:「子どもってどうやって生まれてくるの?」とかもそうだし、「なんで戦争するの?」とか、それに答えることで、「あ、自分はこう思ってたんだ」ってわかったり。
谷ぐち:「子どもが可愛いのは何歳くらいまでだよ」とか言われると思うんですけど、あれ嘘ですからね。ずっと更新されるから、今が最高に可愛いいですよ。
犬山:それも子どもを所有物と思ってなくて、一人の人間として接しているからこそですよね。「こいつ面白いな」とか「こんなこと言うんだ」っていうふうに子どもを見ることができると、更新されていきますもんね。
谷ぐち:可愛さのタイプが変わっていくんですよね。成長すると人としてもすげえ変わってくるし、一緒にできることもどんどん増えていきますから。
犬山:めちゃくちゃ楽しそうですね。俄然子育てが楽しみになってきた。「楽しい、ことだけ!!」って、子育ても「楽しいこと」のひとつで、もちろんしんどいこともあると思うけど、そこにちゃんと「楽しい」がくっついてれば、子育てをしてる時間も「自分の時間」になると思うんですよね。この映画を見て、お母さんになっても、自分がやりたいことをやっていいんだって背中を押してもらえました。
YUKARI:ちょっとでもそう思ってもらえたらすごく嬉しい。自分でも未だに迷うことって多いから、そう言ってもらえると、「このやり方でいいんだ」って、また自分も思えるし。
犬山:共鳴くんがすごく自由で、素敵な子に育ってて、チーターズマニアの歌詞がめちゃくちゃいいってことが、すべてのお母さんを楽にしてくれると思います。
劔:ドキュメンタリー映画として、すごくいい着地点ですよね。
谷ぐち:最初はまったくメッセージ性なんて考えてなくて、だせえ家族と激しいライブの2本立てで、変な映画ができるとしか思ってなかったんだけど、でも大石規湖監督と家族のように一緒に過ごすなかで、彼女が感じたことを表現してくれたのかなって。
犬山:男と女の生き様ですよね。男と女が本当に平等に、「ドン! ドン!」ってここに入っていることに感銘を受けるし、すごく強いなって思う。でも本当に、YUKARIさんの共鳴くんに対する接し方はめちゃくちゃ参考になりました。
YUKARI:生き方にも子育てにも正解なんてないし、そんなのわからないから、すごく怖いですけどね。でも、「今が100点」って思ってやっていくしかないと思うんです。
- 作品情報
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- 『MOTHER FUCKER』
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2017年8月26日(土)~9月8日(金)渋谷HUMAXシネマ、9月9日(土)~9月15日(金)シネマート心斎橋、9月16日(土)~9月22日(金)シネマート新宿、9月23日(土・祝)~9月29日(金)名古屋シネマテーク、9月30日(土)~10月6日(金)広島・横川シネマ、10月14日(土)~10月20日(金)横浜シネマ・ジャック&ベティ、10月21日(土)~10月27日(金)仙台・桜井薬局セントラルホール、10月28日(土)~11月3日(金・祝)京都みなみ会館、以降、神戸・元町映画館ほか全国順次公開
監督・撮影・編集:大石規湖
出演:
谷ぐち順
YUKARI
谷口共鳴
ほか
上映時間:98分
配給:日本出版販売
- 書籍情報
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- 『私、子ども欲しいかもしれない。 』
-
2017年6月発売
著者:犬山紙子
価格:1,404円(税込)
発行:平凡社
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- 『今日も妻のくつ下は、片方ない。』
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2017年6月発売
著者:劔樹人
価格:1,080円(税込)
発行:双葉社
- プロフィール
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- 谷ぐち順 (たにぐち じゅん)
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アンダーグラウンドレーベル「Less Than TV」主宰。U.G MAN、GOD'S GUTS、we are the world、younGSounds、idea of a jokeなどのバンドを経て、Limited Express (has gone?)のベーシスト、FOLK SHOCK FUCKERSへの参加と並行して弾き語りソロユニットとして活動を展開。また、レーベル主宰者として多くのバンド作品や『METEO NIGHT』など主催イベントに関わる。2016年4月、初めて単独で演奏・歌唱を行なった作品『FUCKER』をリリースした。
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Limited Express (has gone?)のボーカル。2003年、「TZADIK」から1sアルバムをリリースし、世界15か国以上を飛び回る。2016年、5thアルバム『ALL AGES』をリリースした。ニーハオ!!!!、FOLK SHOCK FUCKERS、DEATHROなどでも活動を行う。
- 劔樹人 (つるぎ みきと)
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男の墓場プロ / パーフェクトミュージック所属。あらかじめ決められた恋人たちへのベース。「小説推理」「MONOQLO」「MEETIA」「みんなのごはん」などで漫画を連載。これまでに『あの頃。~男子かしまし物語~』(イースト・プレス)、『高校生のブルース』(太田出版)を発表。2017年6月、兼業主夫の日常を描いたコミックエッセイ『今日も妻のくつ下は、片方ない。』を発売した。
- 犬山紙子 (いぬやま かみこ)
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1981年、大阪府生まれ。イラストエッセイスト、コラムニスト。大学卒業後、仙台の出版社でファッション誌の編集を担当。2011年、美人なのに恋愛で負けている女子たちの生態に迫った『負け美女 ルックスが仇になる』で、デビュー。ユーモア溢れる独自の視点が高く評価され、雑誌、テレビ、ラジオなどで幅広く活躍中。主著に、『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』(瀧波ユカリとの共著)、『SNS盛』『地雷手帖 嫌われ女子50の秘密』などがある。
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