2015年にアルバム『リスト』をリリースし、「クラシック界の異端児」としてその名を轟かせた22歳の若きピアニスト、反田恭平。昨年は『情熱大陸』にも出演し、漫画『のだめカンタービレ』に触発されてサッカー少年からピアニストへと転向し、いわゆる「エリート教育」を受けずにピアノをマスターしたエピソードなどが紹介されると、お茶の間でもちょっとした騒ぎを巻き起こした。
そんな彼が、7月より全国13か所で行われる『反田恭平ピアノ・リサイタル2017 全国縦断ツアー』と完全連動した、いわゆる「先出しCD」をリリースする。『Clair de Lune~Recital Pieces Vol.1』と名付けられた本作には、ツアーで演奏予定の演目の中からピックアップした9つの曲目を収録。「難解」と言われているシューベルトの即興曲をはじめ、ラヴェルやドビュッシー、ショパンなどの代表曲にも挑んだ本作は、反田恭平の「現在進行形」を窺い知ることのできる内容と言えるだろう。
そんな反田の魅力にさらに迫るため、著述家 / プロデューサーの湯山玲子と反田との対談を行った。クラブミュージックを経てクラシックへと傾倒し、爆音でクラシックを聴くイベント『爆音クラシック(通称「爆クラ!」)』を定期的に主催している湯山は、反田の魅力をどう捉えているのだろうか。
反田くんは、クラシック界が久しぶりに生んだ「同時代性のあるスター」だと思います。(湯山)
―まずは湯山さんから見た、反田さんの凄さ、これまでのピアニストとどう違うのかを教えていただけますか?
湯山:反田くんは、クラシック界が久しぶりに生んだ「同時代性のあるスター」だと私は思います。若くして世に出てくるピアニストは、テクニシャンが当たり前。ただ彼らは、例えば『ショパン国際ピアノコンクール』を目指して小さい頃から英才教育を受けてきて、生活の全てがピアノしかない、という、いわゆる早期教育ピアノマシーン的な才能がほとんどなんですよ。特に、日本人のピアニストはその傾向が強い。彼らは「遊んでいる場合じゃない」と練習の鬼になるのですが、その「遊び」こそ、聴衆を感動させる感性を育む経験になるのに、そこをないことに、なしにしたがる、というか。演奏の善し悪しは、偏差値的なものではないんですよ。ピアニストだけでなく演奏家全般にも言えることなのですが、それは彼らが、受けた教育の仕組みにも原因があると思います。
―というのは?
湯山:明治維新から戦後まで、日本人は西洋に追いつけ追い越せでやってきて、発達した先進国である欧米文化の「権威」をもらうことは一流と認められるためのパスだと思ってきたわけです。コンクールやタイトル、試験に向かってとにかく一直線に稽古する。演奏家が本来向き合わなければいけないのは、クラシックファンをはじめとする聴衆であり、クラシックの歴史性であるはずなのに。反田くんは、そういう世界とは全く無縁のところからいきなり現れたんですよ。
―反田さんは、同期のピアニストたちと比べてご自身が異端だという自覚はありますか?
反田:そうですね。僕も音楽学校に通ってはいたのですが、とにかく周りは、真面目にストイックにピアノだけをやってきたような人ばかりでした。だから、昼食や休み時間になっても話が合わなかったですね(笑)。前の日のテレビ番組の話をしても通じないし、仲がよかった数名を除いては、友達づきあいは難しかった。
―これは偏見かもしれないですが、とにかくひたすら練習に打ち込んでいないと、一流のピアニストにはなれないものだと思っていました。
反田:いや、そんなことないんですよ。ロシアへ留学して思ったのは、ピアノが上手い人たちほど遊んでるということなんです。「遊んでいる」だと語弊があるかもしれないのですが、視野が広いんですよね。例えばトランプゲームが好きだったり、チェスを嗜んでいたり、料理が上手かったり。ピアノが上手い奴ほど他の分野にも長けているし、日々を謳歌しているんですよね。それは海外に行かなければ分からなかったかもれない。
今はピアニストであることにも全くこだわっていなくて、むしろ「ピアニスト」と呼ばれることに、ものすごく抵抗があるんです。自分は音楽家でありたいと思っているし、今後年齢を重ねていく中で経験が増えていったら、様々なプロジェクトに関わっていきたいですし、自分でプロデュースもしてみたいと思っていますね。
―反田さんが、そんなふうに日本の音楽教育の仕組みから自由でいられたのは何故でしょう。
反田:おそらく、初めて通ったミュージックスクールの先生のおかげですね。4歳の頃から通うだけ通ったんですけど、レッスンは2週間に一度、30分だけで、しかもそのうちの15分はただ話をするだけだったりして、とにかく楽しかったんです。課題曲もなく「好きな曲を持ってきて、好きなように弾いていいよ」と言ってくださって、上手に弾けると「花まる」をもらえる。小さい頃って、「花まる」をもらえるのがとにかく嬉しかったじゃないですか。そういうレッスンを12歳くらいまで続けていたのは大きかったかもしれない。
湯山:それはいい先生でしたね。12歳までソレをやっていたというのが重要。普通は7、8歳くらいでもう特訓が始まってしまうので。
―そういえば、昨年放送された『情熱大陸』で、湯山さんは反田さんのピアノを「エロい」と表現していたのが印象的でした。
湯山:それね、ちゃんと前後の文脈があった上での「エロ」なのに、テレビではそこだけ切り取られちゃうからさ(笑)。でも、確かにそう思うところがあって。音楽を聴いたときの心の動きって、いろいろな種類があると思うんですよ。例えば、古い記憶を喚起されるノスタルジアの場合もあれば、もっと根源的な感情……ムラムラするとかそういう性欲に近い感情や、恋をしたときの衝動が湧き上がることもある。そして、実はクラシック音楽のいい曲や演奏、というものは、絶対に感情、それも情動に近い熱と気配を連れてくる。反田君がイタリアのトリノで、若手指揮者のアンドレア・バッティストー二と録音した現場なんて、まさに、反田とバッティの「愛の交歓」ですよ。
―「愛の交歓」ですか。
湯山:あとこれは、私が主催するイベント『爆クラ!(爆音クラシック)』でも散々言っていることですが、日本人が音楽を聴くときって、実は音じゃなくて歌詞を聴いて感動している場合がほとんどなんですよ。日本語のポップスってほとんどが、そういう作りじゃないですか。歌詞をよりよく聴かせ、その行間をアレンジで表現する。
私はクラブミュージックからクラシックにハマっていったのですが、どちらもインストゥルメンタルですから、歌詞ではなく、音の運びや音色、演奏の微妙なニュアンスという、抽象的なものに心を動かされている。言葉の叙情性に頼らない、音の快感原則を追求するクラシック音楽は、構造美などのシステムの美しさがある一方で、触感とか、嗅覚などの皮膚の感性にも満ちている。そこが、「色っぽい」わけです。
―なるほど。
湯山:で、反田くんはそういう微細な音のニュアンスに向けて表現しようとしているところがある。鍵盤を「トーン」と叩くタイミングとか、その余韻の残し方が官能的。
あと「色気がある」ということで言えば、チャームというかポピュラリティーも彼にはあるでしょ? ピアスなんてして、髪を後ろでキュッと結んで、おまけにちょっと可愛い顔をしてる。そういう、外見のかっこよさも大切だと思うんですよ。異性も同性も惹きつけるというか。現代の若い演奏家は、一見こざっぱりしているけど、「その服、ママが選んだの? スタイリスト?」という人たちばかり。反田君の風体はそことは違う、自我と感覚の発露がありますよね。そりゃあ、モテるよ。
一同:(笑)
湯山:ちなみに、ダヴィッド・フレイというピアニストは、私好み。彼もかっこいいですよね。「グールドの再来」なんて言われてて、ONE DIRECTIONのメンバーにいそうな、今どきのイケメン。YouTubeの時代になり、映像の時代になって、やっぱり今後はクラシック界も、容姿が大切な要素になってくると思う。
セッションが上手いんだよね。相手とのエネルギーの交換が上手いというか。相性のいいセックスみたいな?(湯山)
―そもそも湯山さんは、どういうきっかけで反田さんを知ったのですか?
湯山:懇意にしているレコード会社の人から聞いたんですよ、「すごい才能がいる」と。あれは2015年の春だったかな。サントリーホール(小ホール)で、「新人発表会」という異例のコンベンションがあって、そこで初めて反田くんの演奏を聴いたのですが、かっこよさと力強さにとにかく圧倒されました。
あのコンベンションの後、彼がアンドレア・バッティストーニとトリノで行ったレコーディング(『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 パガニーニの主題による狂詩曲』)に、光栄にも立ち会うことができて。それがまた素晴らしかったんですよね。先日の『題名のない音楽会』のときの、池上英樹さん(パーカッション / マリンバ奏者)とのコラボを観たときにも思ったけど、セッションが上手いんだよね。いや、ソロが悪いっていうんじゃなくて(笑)。なんていうか、相手とのエネルギーの交換が上手いんでしょうね。相性のいいセックスみたいな?
反田:(笑)。でもそれはわかりますね。一人で弾くのはちょっと寂しいところもあって、僕はオーケストラと演奏するコンチェルトが一番好きなんですよ。11歳くらいまでサッカーをやっていたので、チームみんなで力を合わせてみんなで喜ぶ、みたいなのが大好きで。
だからコンチェルトで知り合いのメンバーがいればなおさら嬉しいですし、指揮者が知り合いというのも大事だし。トリノで録音したときは、バッティストーニ以外は初対面でしたが、すぐに打ち解け合うことが出来たのがよかったのだと思います。僕、イタリア人の気質も大好きですし(笑)。
―クラシックのコンチェルトの場合、インプロ(即興)をぶつけ合うジャズのセッションとはまた違う醍醐味なんでしょうね。
反田:違いますね。クラシックは決められた譜面があり、それを指揮者が解釈した通りに演奏するわけですから。ただ、例えばクレッシェンドを指定されていても、クレッシェンドの仕方には何種類かあって、この曲ではどのクレッシェンドが最適なのかは自分でも探っていくわけです。いきなりグイッと上がるのか、徐々に上がっていくのか、とか。リフレインが3回繰り返されたとして、3回とも同じクレッシェンドじゃつまらないから、ちょっとずつ変えてみたりして。
湯山:トリノでは反田君の解釈が指揮者とピッタリと合ってて、なおかつオーケストラには、指揮者に対するリスペクトがあって。全体の「ノリ」が一緒になったというんですかね。快感をみんなで一緒に持っていけたということだと思います。そういう意味では、反田君、相性のいい音楽セックス巧者(笑)。
―あと、反田さんの楽譜へのアプローチで面白いなと思ったのは、「ピアノ譜をオーケストラ譜に見立ててみる」というお話だったんです。
反田:弾く前に楽譜を読み解くという作業がとても大事なんです。例えばシューベルトの即興曲1番などは、男女の混声4部合唱から成り立つオーケストラにそっくりなんですよね。オーボエが旋律を奏で、コラールの合唱が4声で「ポン、ポポン」って始まって、っていうことを頭の中でイメージしていくと、止まらなくなっちゃうんですけど(笑)。それをすることで、ピアノの音色の幅を広げるヒントになるんじゃないかなと。演奏に行き詰まったときなど、ただがむしゃらに弾くよりは近道なのかなと思ってやっていますね。
―それだけピアノにはポテンシャルがあるということですよね?
反田:ええ。やっぱりピアノは88鍵の音があって、オーケストラの楽器のほとんどの音域を網羅しているわけですから。
湯山:そうそう。オーケストラなんだよね、ピアノって。
シューベルトってものすごく難解なんですよ。だからこそ今、あえて残しておきたいとも思った。(反田)
―今回の反田さんの新作『Clair de Lune~Recital Pieces Vol.1』を聴いて、湯山さんはどんな感想をお持ちになりましたか?
反田恭平『Clair de Lune~Recital Pieces Vol.1』ジャケット(Amazonで見る)
湯山:まず、この選曲はどうやって決めたの? リストを選んだのはわかるんだ、反田くん得意だから。でもシューベルトは驚いた。
反田:元はリサイタルのために2つプログラムを作って、そこから抜粋したものを収めたのが本作です。シューベルトってものすごく難解なんですよ。だからこそ今、あえて残しておきたいとも思った。歳を取ってから聴いて確認したいなっていう、ある種エゴイスティックな気持ちもありましたね。
―素人な質問で恐縮ですが、シューベルトってそんな難しいんですか?
反田:難しいですね。
湯山:あのね、正直言うと、曲はつまらないよ。
反田:あははは。僕はそんなこと絶対に言えません。
湯山:キャッチーじゃないしねぇ。私ずっとダメだったの。それが最近「シューベルト、ヤバイな」みたいな。独特の居心地のいい環境、というか。何の変哲もないホテルのロビーなんだけど、椅子が座り心地がよかったり、家具の配置が絶妙だったりする、というような。例えばショスタコーヴィチやチャイコフスキーなんて、個性がはっきりしていて、キャッチーで取っつきやすいでしょう。シューベルトはある意味、最終形かも。反田くんはどう思ってるの?
ほとんどのクラシックマニアは、音楽そのものよりもウンチクが好きだったりするんですよ。「こんなにクラシックを知っているオレ様すごい」という。(湯山)
反田:今回演奏したのは晩年の作品に近いんですけど、それ以降になると、ソナタでも50分近くの曲もあったりして――昔の人たちもやっぱり曲を書いて生活をしたのですが、この時期のシューベルトは「ヒットさせよう」と思って書いてなさそう(笑)。
自分の音楽を最後まで貫き通した作曲家だと思いますし、だからこそ普通に弾くと、ちょっとつまらなく聴こえてしまう楽譜なんですよね。それを自分の中でどう解釈し、どう味付けして色をつけて、工夫をしていくかが勝負の鍵なのだと思いますね。そこで編み出したのが、さっきお話したオーケストラ譜に見立てるという方法なんです。
―なるほど。演奏するときは、その曲が生み出された時代背景や、作曲者が置かれていた境遇なども、切り口として調べているのですか?
反田:それは絶対に必要です。例えば、ショパンの“革命のエチュード”という曲がある。ショパン自身がそういうタイトルをつけたわけじゃないんですが、なぜ「革命」かというと、「11月蜂起(ロシアの支配に対する武装反乱)」での、ロシアによるワルシャワ侵攻(1831年)とほぼ同じ時期に公表された曲だからなんですね。
そのときショパンはパリにいて、ロシアに侵攻された祖国に戻ることができなかった。そういう思いから書かれているんです。もちろん、有名な曲だし聴けば楽しい曲とは誰も思わないですけど、その「悲しみの度合い」を弾き分けるためには、その曲の背景を知る必要がありますね。
―聴く側もそういう予備知識を持っていた方が、より作品を理解する手立てになりそうですよね。
反田:なので僕は、できれば演奏する前に「この曲はこういうシチュエーションで書かれて……」みたいなことを説明したいんですよね。例えば美味しい料理を食べるときも、その食材がどこのもので、って説明された方が背景がわかって楽しめるじゃないですか。
湯山:でもね、そういうウンチクは両刃の刀で、クラシックをダメにしたとも言える(笑)。「こういうストーリーがあるんだから、こういう気持ちで聴きなさい」というのは、ある意味では固定観念を植え付けることになるでしょう? 私は作曲家の家に生まれたから痛感しているのだけど、ほとんどのクラシックマニアは、音楽そのものよりもウンチクが好きだったりするんですよ。でもって、「こんなにクラシックを知っているオレ様すごい」という。
でも、さっきも言ったように、音楽は感覚で聴き、感情で受け止めるべきものです。その上で、それらを廃してこそ、という表現もある。最初に聴いたときの、生理的な好き嫌いみたいな感覚をもっと大切にしてほしいんです。だって、ベートーヴェンなんてそうとう、キャッチーなメロディーメイカーとしての魅力がある。しかし、彼の伝記を読んで、交響曲ばかり聴いていると「苦悩の作曲家」みたいな固定観念が植え付けられてしまうじゃないですか。それはもったいないと私は思うんですよ。モーツァルトの楽曲も、映画『アマデウス』(1984年)的なイメージからは、逸脱する独特の闇があるし。
反田:確かに。一理ありますね。
―湯山さんが『爆クラ!』を開催しているのも、そういう固定観念から自由になってクラシックを楽しんでもらうため?
湯山:そうですね。『爆クラ!』では毎回ゲストをお呼びして、その人たちの超個人的な感想からクラシックを語ってもらうようにしています。例えば、先ほど話題になった池上英樹さんにゲストで出てもらったのですが、打楽器という楽器を通して見た場合のクラシック音楽、というのは、また、聴こえ方が違う。ゲスト各々の独特な視点を共有しながら、新しいクラシックの聴き方を楽しむのが『爆クラ!』。
他にも、例えばショパンの中にある「サウダージ感」を見出すとか。サウダージというのはブラジル音楽、カエターノ・ヴェローゾ(作曲家 / 歌手)やジョアン・ジルベルト(歌手 / ギタリスト)の中にある、なんとも言えない切なさなんですが、ショパンを聴いたときの気分はそこに非常に近いのではないか、と私は思うのですが、そういうことを発見していくのが『爆クラ!』の楽しさですね。
自分で学校を創設して、そこに世界中の音楽家の卵を呼び寄せたい。(反田)
―そういえば、8月半ばに『富士山河口湖音楽祭 2017』で、ぱんだウインドオーケストラと共演してガーシュウィンの“ラプソディインブルー”を演奏するそうですね。この曲はジャズとクラシックの中間みたいな曲で、それこそいろいろな切り口で語れるし、演奏の仕方も様々なバリエーションがありそうです。
反田:そうですね。湯山さんのおっしゃる「超個人的な思い入れ」ということで言えば、僕にとって“ラプソディインブルー”はそれこそ『のだめカンタービレ』のドラマで知った曲で。あと、ガーシュウィンはメチャクチャどヤンキーだったんです。札付きの不良で、そんな彼がピアノを弾くというので周りは驚いたし、書いた曲があんなだった。僕もアウトローって言われている組なので、少しは気持ちもわかります。
湯山:え、『のだめ』で知ったの!
反田:はい。このアルバムに入っている曲は、最初は漫画で知ったものがほとんど……(笑)。
―ジャズや即興についてはどう思いますか?
反田:僕にとってはすごくハードルが高いですね。でも、いずれは一から勉強してみたい。そのとっかかりとして、今回“ラプソディインブルー”を演奏するということは、僕にとってものすごく大きな一歩です。なかなかクラシックにはないリズムが出てくるんですよ。ひたすら連打するなんて、モーツァルトやベートーヴェンの曲にはない(笑)。
―ロック、ポップス畑の私からすると、ガーシュウィンってThe Beach Boysにすごい影響を与えたんだなあって思います。
反田:あ、The Beach Boysは僕も好きですね(笑)。
―そういうところから、クラシックに入っていくこともできそうですね。洋楽を聴いている人や、クラブミュージックが好きな人は、歌詞の意味より「音」そのものに重きを置いている人が多いですし、クラシックを聴くための「耳」は出来上がっているはず。
湯山:そうですね。言葉を理解するのとは違う感覚というか、もっと純粋に、音やメロディー、和声に耳を向け、自分の中からどんな種類の感情が引き出されているのか、そこに向き合っていく。そう、クラシック体験は、自分に向ける感情実験。それが出来るようになると、クラシックの楽しさにどんどん引き込まれていくと思いますよ。
―反田さんは今、何か成し遂げたい夢をお持ちですか?
反田:ピアノやバイオリンのような楽器がなさそうな地域に行って、子どもたちに弾かせてあげるというのが一つの目標でもあるんです。「ピアニストになりたい」と思った14歳の頃、「将来の夢は?」と聞かれて「夢を与えられるピアニストか音楽家になりたい」と答えたことがあるのですが、そのときから変わらずそう思っています。自分でコンセルヴァトワール(フランスの芸術系高等教育機関)を創設し、そこに世界中の音楽家の卵を呼び寄せたい。
例えば今、クラシックを演奏する黒人ってあまりいないじゃないですか。黒人のグルーヴをクラシックに持ち込んだらすごいことになると思うのに。そういう学校を、この日本に開校できたらいいなと思っています。
湯山:それこそ、最初に話したような「権威主義」とは無縁の学校にしてもらいたいよね。「学校」という形態じゃなくてもいいのかもしれない。今の教育システムは、もう将来キープできないだろうから。それにしても、そんな壮大な計画が反田くんにはあったんだね。
反田:もっと言えば、僕が今ピアノを弾いているのってそのためなんですよね。ピアニストって、後世に残せるものが少ないんじゃないかっていう思いがあって、そういう意味でもコンセルヴァトワールを作るための準備を今からでも始めなきゃと思っています。
- リリース情報
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- 反田恭平
『Clair de Lune~Recital Pieces Vol.1』(CD) -
2017年6月21日(水)発売
価格:3,240円(税込)
COCQ-853641. I. アレグロ・モルト・モデラート
2. II. アレグロ
3. III. アンダンテ
4. IV. アレグレット
5.亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル)
6.喜びの島(ドビュッシー)
7.月の光 ~《ベルガマスク組曲》より 第3曲(ドビュッシー)
8.献呈(シューマン/リスト編)
9.別れの曲 ~《12の練習曲 作品10》より 第3曲(ショパン)
※HQ-CD仕様
- 反田恭平
- ライブ情報
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- 反田恭平ピアノ・リサイタル2017 全国縦断ツアー
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2017年7月8日(土)
会場:神奈川県 ミューザ川崎 シンフォニーホール2017年7月13日(木)
会場:静岡県 静岡音楽館AOI2017年7月15日(土)
会場:愛知県 愛知県芸術劇場 コンサートホール2017年7月21日(金)
会場:新潟県 長岡リリックホール コンサートホール2017年7月28日(金)
会場:富山県 富山県教育文化会館2017年8月3日(木)
会場:北海道 札幌コンサートホールkitara 大ホール(プログラムI)2017年8月4日(金)
会場:北海道 函館市芸術ホール2017年8月6日(日)
会場:福岡県 アクロス福岡 シンフォニーホール2017年8月17日(木)
会場:岩手県 岩手県民会館 中ホール2017年8月20日(日)
会場:福島県 福島市音楽堂2017年8月26日(土)
会場:兵庫県 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール2017年8月31日(木)
会場:秋田県 秋田アトリオン 音楽ホール2017年9月1日(金)
会場:東京都 初台 オペラシティ コンサートホール(プログラムI)
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- 『河口湖音楽祭2017 反田恭平のKIDSコンサート ~ピアノってどんな楽器!?』
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2017年8月15日(火)
会場:山梨県 河口湖円形ホール
- 『河口湖音楽祭2017 ぱんだウインドオーケストラ2017』
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2017年8月16日(水)
会場:山梨県 河口湖ステラシアタ-
- プロフィール
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- 反田恭平 (そりた きょうへい)
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1994年生まれ。2012年高校在学中に、第81回日本音楽コンクール第1位入賞。併せて聴衆賞を受賞。2013年M.ヴォスクレセンスキー氏の推薦によりロシアへ留学。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学。2015年プロとしての第一歩を踏み出す。イタリアで行われている「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝。7月にはデビューアルバム「リスト」を日本コロムビアより発売。またCDのデビュー以前に東京フィルハーモニー交響楽団定期への異例の大抜擢を受け、ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 を熱演し、満員の会場で大きな反響を呼んだ。そして、年末には「ロシア国際音楽祭」にてコンチェルト及びリサイタルにてマリインスキー劇場デビューを果たす。2016年に開催したデビューリサイタルは、サントリーホール2000席が完売し、圧倒的な演奏で観客を惹きつけた。夏の3夜連続コンサートをすべて違うプログラムで行うも一般発売当日に完売し、3日間の追加公演を行い新人ながら3,000人を超える動員を実現する。コンサートのみならず「題名のない音楽会」「情熱大陸」等メディアでも多数取り上げられるなど今、もっとも勢いのあるピアニストとして注目されている。最新CDは11月に発売された、Aバッティストーニ指揮RAI国立交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番のセッション録音。現在、国内外にて演奏活動を意欲的に行っている。
- 湯山玲子 (ゆやま れいこ)
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1960年生まれ、東京都出身。著述家。文化全般を独特の筆致で横断するテキストにファンが多く、全世代の女性誌やネットマガジンにコラムを連載、寄稿している。著作は『四十路越え!』『ビッチの触り方』『快楽上等 3.11以降を生きる』(上野千鶴子との対談本)『文化系女子の生き方 ポスト恋愛時宣言』『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』等々。クラシック音楽を爆音で聴くイベント『爆クラ!』と美人寿司主宰。
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