約3年ぶりとなる通算15枚目のアルバム『FLOW ON THE CLOUD』をリリースする真心ブラザーズ。芥川賞を受賞し300万部の大ベストセラーとなった処女作『火花』に続き、2年ぶりとなる新作『劇場』を発表した又吉直樹。互いに認め合い尊敬し合う両者の対談が実現した。
結成当初からピースの出囃子に真心ブラザーズの楽曲を使用するなど、かねてからファンであることを公言してきた又吉。2013年には『真心ブラピース』と題したジョイントライブが実現するなど交流も深めている。
お互いの作品について、創作に対するスタンスについて、様々な観点から語り合ってもらったこの対談。じつは、性格や価値観において対照的とも言える真心ブラザーズの二人と又吉直樹に共通する部分とは何か。「大衆性」と「やりたいこと」のバランスはどうとっているのか。そして表現という領域において「成功すること」や「続けること」をどう捉えているのか。話はそんな方向に深まっていった。
時代のムードと真逆のことを歌っていた。それを聴いて「うわ、格好いいな」と思ったんです。(又吉)
—又吉さんと真心ブラザーズのお二人が、最初にお会いしたきっかけは?
又吉:もともと僕がずっと真心さんのファンなんです。ピースを結成してからずっと“サティスファクション”という曲を出囃子に使わせてもらっていて。そういうのをいろんなところで言ってたら、ご一緒するようになったり、一緒にライブをさせてもらったりしたという。
—真心ブラザーズのどういうところに惹かれたんでしょう?
又吉:聴いていてたまらない気持ちになるフレーズがあるんですよ。そういう経験をしたことないのに、「わかるなあ」と思ったり。恋愛が始まりそうな時に聴くといいなあ、とか。
—好きになったきっかけの曲は?
又吉:“拝啓、ジョン・レノン”という曲ですね。高校生の頃だったんですけれど。
桜井:1996年だね。
YO-KING:21年前だ。
又吉:最初は曲名のインパクトが大きくて「なんか面白い歌やな」と思ったんですよ。でも後でちゃんと聴いてみたら、めちゃめちゃいい歌やんと思って。そこからいろいろ聴くようになったんですね。
—ピースの出囃子に“サティスファクション”を選んだのは何故だったんでしょうか。
又吉:あの曲が出たのは1999年なんですけれど、その時に僕らはNSC(よしもと興業の養成所)の1年目で。あの時代って、僕の印象ではなんとなくみんな暗かったと思うんです。ノストラダムスの大予言で1999年に世界が終わるという話もあって。
でも、あの曲は<オレは今のままで満足>とか、そういう時代のムードと真逆のことを歌っていた。それを聴いて「うわ、格好いいな」と思ったんです。僕にはそういう余裕があんまりないんで。あとは、綾部(祐二)とも合うかなって勝手に思っていて。
—又吉さん自身、真心ブラザーズを聴いてきて受け取ったもの、影響を受けたとこもありますか?
又吉:いろいろありますね。言葉もかなり影響を受けてると思います。取材で喋ったりアンケートを書いたりした時に「あ、これ、真心さんの言ってたことと似てるなあ」っていうことはよくありましたね。とくに若い頃は「これ、ほとんどそのまま言うてんな」とか(笑)。
こういう、人間の内側をとことん追求して切り込んだ小説ってあんまりないよね。(YO-KING)
—真心のお二人は又吉さんの小説の『火花』と『劇場』を読んで、どんな感想をお持ちになりましたか?
桜井:じつは僕、今回のお話をいただいて初めて読んだんです。手に取ればすぐに読めるのに読まなかったのは、つまんなかったらどうしようっていうのがあって(笑)。我々のことを好きだと言ってくれて、コミュニケーションもあるし。だから、もしつまんなかったら感想を言うのが怖かった。だけど、今回読んでみて、めちゃめちゃ惹き込まれました。素晴らしかったです。
—YO-KINGさんはどうでしょう?
YO-KING:そうだなあ、又吉くんが言ってることとは真逆になっちゃうけど、あんまり真心の影響を感じることはできない作品ですよ(笑)。
桜井:あははは。
YO-KING:又吉くんの持っている才能の根幹は、こういう作品を生む人なんだなっていうのがすごくわかった。そこがすごいなって。そういう才能というのは簡単に変えることってできないと思う。
又吉:ありがとうございます。僕はお二人とよくお会いするんですけど、「そんなこと気にしなくていいよ」とか「誰もそんな風に又吉くんのこと見てないよ」ってよくツッコまれるんですね。『劇場』も『火花』も、そういう陰の部分ばっかり書いてる小説なんで(笑)。
YO-KING:ははははは! そうそう。特に『劇場』はひどかったわ。もう、主人公の永田の感覚には、読んでて腹立ってきて。やっぱり、そこにすごいなって思ったの。小説を読んで腹立つことなんてあんまりないから。こういう、人間の内側をとことん追求して切り込んだ小説ってあんまりないよね。2017年にこういうのを書けるってすごいなと思ったんですよ。
又吉:もちろん、永田みたいな男の感覚を肯定したくて書いてるわけじゃないんですけどね。でも確かに、他人の才能を妬んで歪んだり、肯定してくれる人に甘えてズルいことしたり、こういう屈折した存在がいるということとか、なぜそうなるのかとかは書いてみたいなと思ったんです。
桜井:読んでると、『火花』がファーストアルバム、『劇場』がセカンドアルバムという感じがすごくしますよね。YO-KINGさんの言い方を借りると、よりひどくなってる感じがする(笑)。「そこをもっと掘り下げるか!」みたいなね。
YO-KING:確かに『火花』は又吉くんが好きな作家さんの匂いが濃いけれど、『劇場』で又吉直樹そのものが出てきたという感じはしますよね。その力は僕を不快にするものかもしれないけれど、やっぱり書く力というものが上がってる感じはします。
—『劇場』のほうが又吉さんの純度が高い、という?
YO-KING:そうだなあ、音楽に喩えると『火花』はストリングスやブラスも入っている濃いアレンジという感じなんですよね。それに比べると『劇場』はより弾き語りに近いシンプルであっさりしたアレンジというか。『火花』のほうがより読み手を意識していて、比べると『劇場』のほうが自由に書きたいものを書きたいように書いてる印象がありましたね。
破滅の予感がしながら物語が進んでいくわけじゃないですか。そこをずっと引っ張っていく。「こんなに引っ張るんだ」って思ったけど、そこに意志を感じたというか。
『劇場』で言うと、物語の入り方でも3、4通りあったんです。(又吉)
—お二方は小説の書き方に音楽の作り方と似通ったところは感じますか?
YO-KING:それは感じるかな。たとえば「どこをもって完成するか」ということを考えなきゃいけないこともそうだし、絵画のような世界と違って時間と共に進行していくのもそう。あとは言葉を扱っているという意味では、たとえば歌詞を書くときもどっちの言葉尻がいいかを考えたりするからね。
又吉:ただ、小説って、自分の感情が繋がっているときはいい感じで書けるんですけど、読み返して「ここだけイヤやな」となって書き直すのが穴埋め問題のようになった途端、すごく時間がかかるんです。『劇場』だと、普段は主人公の永田に入り込んで書いてるんですけど、その感覚から一度離れてしまうと、時間がかかりますね。
YO-KING:どれくらい推敲してるの?
又吉:『火花』は短かったですね。3か月くらいで書いて1か月くらいで直したんです。『劇場』はもっと時間をかけました。
YO-KING:推敲するってどんな感じなの? 辻褄が合わないところを書き直したり?
又吉:それもありますね。あと僕、その日によって主人公への入り方が変わることがあって。だから後で読み返した時に「あれ? ここだけこいつ(永田)変に明るくなってるやん」ってなったりするんです。そうしたら修正じゃなくてもう一度頭から読んでいって書き直しますね。
YO-KING:カットしたシーンもあるの?
又吉:あります、あります。『劇場』で言うと、物語の入り方でも3、4通りあったんです。結局最初の形に落ち着いたんですけれど、その数日前から始まるパターンとか、数日後から始まるパターンとか、いくつか試して。いろいろやったんですけど、これが一番いいのかなと。
YO-KING:そこは音楽にない作業だね。特に今回の真心ブラザーズの新作に関してはなかった。だから興味ありますね。
僕の場合、屈折とか苦しさって、想像する以外ないんですよ、ほんとに。(YO-KING)
—又吉さんの『火花』と『劇場』には、天才型の表現者と、それに嫉妬する屈折した思いを持った表現者の両方が出てきますよね。それで言うと、YO-KINGさんは天才型だという感じがします。
又吉:もちろん天才型ですよね。天才の苦悩みたいなものも、本当はあるのかもしれないけれど、全然見せないじゃないですか。何回かご飯に行った時に「曲ができたんだよ」って聴かせてもらって。「すごい格好いいですね」って言ったんですけれど、そのちょっと後に会ったら「あれ、半分くらいアルバムに入らないからね」って。もう、天才だなって思います。
—一方で『火花』や『劇場』の主人公は天才的な表現者に対して屈折した思いを抱えていますよね。何者にもなれない苦しさ、天才への嫉妬のようなものが又吉さんの創作のモチーフになるのはなぜでしょうか?
又吉:僕自身、『火花』の主人公の徳永とか『劇場』の永田までは嫉妬しないと思うんですけどね。もうちょっと「自分は自分」みたいに思っている部分が強いので。でも、永田が持ってるような「時代の真ん中にいけない」っていう感覚は僕もわかるんで。ご飯が食べられへん時期も長かったし。そのへんの感覚みたいなものは書いときたいなと思いましたね。
—そういった感覚って、真心の二人は感触としてお持ちだった記憶はありますか?
YO-KING:……聞いちゃいましたね(笑)。俺はないなあ。ほんとにぬるま湯人生だから。食えないっていうのがなかったからね。
桜井:大学生の頃からそうだったもんね。ファミレスに行ってハンバーグを頼んでも、横のクレソンは絶対食べない、みたいな。「これ結構高いですよ?」って言っても「やるよ」って。
又吉:ははははは!
YO-KING:あの頃は家庭教師やってて資金は潤沢にあったからね。で、大学4年にデビューしたんで。僕の場合、そういう屈折とか苦しさって、想像する以外ないんですよ、ほんとに。
でも、又吉くんの小説を読んで、そうやって人の心の中を文字で表現してるっていうところに、やっぱりすごく感動したんですよね。自分の内側をずっと掘り下げていくような文章じゃないですか。「ここまで自分のことを考えるんだ」っていう。そこが圧倒的でしたよね。俺はそういうのが本当にないからびっくりした(笑)。
又吉:そこは確かに違いますよね。音楽ってやっぱり外に向かって出すものなんですかね?
YO-KING:そうだなあ、「自分はこういうヤツなんだよ、わかってくれ」っていうのはあると思うんだ。だけど、ここまで深く自己分析した上で出してない感じがする。ミュージシャンは逆に外の現象について語っちゃうというか。
でも、又吉くんはさらに切り込んでいくよね。そこがやっぱりすごい。なかなかできないことだし、俺は怖くて自分の中にはそこまで行かないというか、そこを表現しようっていう思いつきさえない。だからすごく感動しましたね。
—又吉さんはYO-KINGさんのこうした作品評を受けてどう感じました?
又吉:もちろん嬉しいんですけど、今仰ったことって、普段一緒にお話してる時の感覚の延長線上という感じがするんですよ。
前にみんなでご飯食べた後、YO-KINGさんと二人で歩いた時にもそういう話になったんですよね。僕が「最近、こういうことがあって、僕はこんな風に思われてるんじゃないかと思うんですけど……」「いや、考えすぎだよ」みたいな。
YO-KING:はははは、あったね。
又吉:「誰もそんな風に思ってないよ」「いや、でも僕はそう思われてるんじゃないかと……」「誰も思ってないって」「いや……」「あ、又吉くん、そこのパン屋さん美味しいよ」って。
YO-KING・桜井:ははははは!
又吉:僕が自分の内側に入っていくことを絶対許さへん、みたいな(笑)
桜井:たしかに、そっち側に引き込まれまいとはするよね。そこには乗らないぞ、みたいな。
YO-KING:ああ、たしかにそうだね。
又吉:そこって僕にとって大事なんですよ。綾部もそういうスタンスで僕に接してくれるんです。自分がいろんなことを考えすぎる時に「いや、お前、それは違うぞ」と止めてくれる。だから僕は芸人の範疇にとどまれるというのもあるのかもしれないです。
もう我々もぼちぼちキャリアもあるので、そういう瞬間をレコーディングするのがよいレコードなんじゃないかと思った。(桜井)
—又吉さんは真心ブラザーズの新作『FLOW ON THE CLOUD』を聴かれて、どんな感想を抱きましたか?
又吉:あの、むちゃくちゃよかったです。聴きながら散歩したくなる感じがあって。あと、刺激的なんですけど、同時に懐かしさもすごく感じました。心当たりがあるような感覚も多かったし。ずっと真心さんを聴いてきているので「あ、この表現、いつかの……」と思うところもあったりしました。
—懐かしさもあるということですが、真心のお二人はサウンド面でのヴィンテージ感のようなものを意識されたりしましたか?
YO-KING:しましたね。僕、いつもレコードを聴いているので、そういう音に耳が慣れていて。だから大きく聴いても耳に優しい音にしたかったんです。
—レコーディングはどんな感じで進めていったんでしょうか。
桜井:今回はなるべく準備をせずに臨んだんですよ。普段は家でデモを作ってみんなに聴いてもらって、リハーサルスタジオに行って楽器をあわせながらアレンジを詰めていくんですね。それを端折って、いきなりレコーディングスタジオに入ろうと思ったんですね。
—そういうやり方をしたのは何故でしょうか?
桜井:リハーサルの段階で、すごくいいプレイが出たりするんですよ。でも、後日録り直しても、得てしてその時の感じにならないという残念なことが結構あって。もう我々もぼちぼちキャリアもあるので、そういう瞬間をレコーディングするのがよいレコードなんじゃないかと思ったんですね。
ここの1F(取材・撮影を行ったRed Bull Studios Tokyo)にいきなり入って。歌詞とコード進行を書いて、みんなに渡す。それで「せーの」で演奏してみる。そうしたら、初日に4曲くらい録れました。
—通常のレコーディング作業とは全く違う行程だった。
桜井:ドラムのダイちゃん(伊藤大地)とベースのハルくん(岡部晴彦)の二人だけを呼んで、四人でお題に対する大喜利のように演奏していくんです。
それを2~3日でやって、結局、CDの倍以上の曲数を録ったんですよ。泣く泣く1枚におさめたという。そういう遊びをやれてる興奮が、ファーストアルバムの時、それから1995年の『KING OF ROCK』というアルバムの時と感触が近かった。そのあたりで、又吉くんのように昔から聴いてくれている人も、懐かしい感触を捉えてくれていたら嬉しいなと思います。
—セッション的に曲を作っていったということですが、歌詞についてはどんな書き方だったんでしょう?
桜井:歌詞に関しては、YO-KINGさんにいろんなことを書いたネタノートを持ってきてもらって。僕らが演奏したら、それを聴きながら言葉を引っ張り出して書いていくんです。それで演奏の熱が逃げないうちに歌も録ってしまうという。
—どんな風に書いているんですか?
YO-KING:面白いことだけを書くというわけではないんです。1000のアイディアを出して1000の恥を書くくらいの気持ちで、なんでも書く。
「まあ、いっか!」って思っちゃった。そこがいいところかもしれない。追求しすぎないという。(YO-KING)
又吉:今回のアルバムって、言葉が自由律俳句みたいなんですよね。“レコードのブツブツ”という曲の中に<スマホを見ないで食事しなさいよ>という歌詞があったり。<雨の日は傘を持ちなさい>とか。めちゃくちゃ面白いですよ。
YO-KING:はははは、面白いでしょ。
又吉:よく考えたら普通のことを仰ってるんですけど、そこで音楽のテンションが高まってきてるので、違った風に聴こえるというか。
桜井:その後にギターソロがくるからね(笑)。
又吉:ああいう言葉を切り取って自分の作品として提出するのは勇気がいると思うんですよ。いろいろやりたくなるから。そういうところも好きですね。
YO-KING:さすが、鋭いなあ。そこはまさにスタジオで「とりあえずサビはこの歌詞をあてちゃえ」と思って書いた部分なんですよ。後で変えればいいやと思っていたけれど、テイクがよかったんで、そのまま曲にしちゃった(笑)。これを面白いと思う人がどれだけいるかなんだけど。自分が面白いと思ったから、いいんだよね。
—なんらかのメッセージを伝えよう、こういう思いを込めようという考えとは全く違うところから出てくるフレーズですね。
YO-KING:今回は文字量が多い曲を作りたかったんです。だから歌詞から作ることも多かったですね。「うえー、もういいよ」って思うような分量の歌詞にしたかったという。でも「まあ、いっか!」って思っちゃった。そこがいいところかもしれない。追求しすぎないという。
—YO-KINGさんは「1000のアイディアを出して1000の恥をかく」と仰いましたが、又吉さんも小説やコントや漫才のネタを書く時にそういう感覚はありますか?
又吉:そうですね。僕もメモしたり、気付いたことは日々書いてますね。1000とはいかなくても、100個は出します。却下されたらまた次のやつを書く。
YO-KING:でもさ、だんだん却下されるのもイヤになってこない? もう人の指図を受けたくない、もうやりたいようにやるわという。今回のアルバムはそういうところの始まりの作品だと思うな。
—真心ブラザーズには、デビュー当時から枠にはハマらず、やりたいことを優先してやってきたようなイメージもありますけれども。
YO-KING:相対的にはすごく自由にやらせてもらってるんだけど、それでもやっぱり、ビジネスとしてやってる部分はあるから。そこでいろいろ言われて従うこともあるし。だけど仕事というより遊びと思ってやっているからね。残りの人生の時間もわかってきてるし、もうやりたいようにやらせてよ、という。もともと褒められたら嬉しいけれど、人の評価を気にしないタイプなんですよね。何故なら、自分自身にとてつもなく自信があるから。
桜井:ふふふ。
YO-KING:だから俺がやりたいようにやるのが一番いい。そして、そういう風にやらせてもらえているのは幸せだなと思います。
今はもう、続けるほうが楽だから続けてる。やめるほうが楽だったらやめるかもしれない。(YO-KING)
—真心ブラザーズは今年でデビュー28周年ですね。お二人にとって「続けること」というのは、どんな意味を持ってらっしゃいますか?
YO-KING:そうだなあ、そこもたいして意識してないんだよね。今はもう、続けるほうが楽だから続けてる。やめるほうが楽だったらやめるかもしれない。
桜井:今あるものを、わざわざやめることもないからね。
—『火花』の最後のシーンに、売れて成功した人と上手くいかなかった人がいるけれど、淘汰された側の存在も決して無駄じゃないと、登場人物の神谷が力説する場面がありますよね。
YO-KINGさんはこれまでの自分のキャリアを振り返って、どうでしょう? 成功せずに音楽をやめていった人もたくさん見てきたと思うんですが、そういうことに関して思うことはありますか?
YO-KING:ちょっとドキッとする質問だけど、正直、そんなに人のこと考えてないかもしれない。自分の楽しさだけだね。70歳くらいから人に優しくしようかな(笑)。
桜井:65くらいになりませんかね(笑)。
YO-KING:「ノブレス・オブリージュ」という言葉があるじゃないですか。一生で使い切れないくらいの富を得たら、自分の欲じゃなくて「社会をよくしたい」という欲になる。でも、僕がそこに達するのはあと20年はかかるかな(笑)。
ことポップミュージックに関しては、大衆性はどんどん必要なくなってきていると思うんです。(桜井)
—ミュージシャンでも、大衆性とやりたいことのバランスで悩む人は多いと思うんです。けれど、お二人は感覚の中でそれが絶妙に同居しているから、今までのキャリアが続いてきたのではないかとも思います。
桜井:ことポップミュージックに関しては、大衆性はどんどん必要なくなってきていると思うんです。日本中みんなが好きなものを作ることも困難だし、作る意味もない。そういう幻想はとっくに無くなっていると思っているんですね。
だったら誰かが好きなものを表現しきって、人の襟首を掴んで「これが一番いいんだ」って言わせるものが一番刺激的で面白い。だって、地球の裏側の素人の音楽も、YouTubeで聴くことができるような時代なわけですからね。だったら、YO-KINGさんから出てくるものを突き詰めたほうが面白い。もしYO-KINGさんが飽きてきたら、次は桜井が面白いことをやります、という。
YO-KING:やっぱり自分が聴きたいものを作るのが一番いいですよ。表現は好きだけど面倒くさいことは嫌いなんで。面倒くさいことしないと表現できないんだったらやめちゃうと思う。マンガと本読んで、レコード聴いて、旅をして。気が向いたら時々ライブするくらいで。
又吉:たしかにそれは理想ですね。自分の好きなものを作って、それで周りを振り向かせる。そうできるようにしていきたいですね。
桜井:そういう意味では、『劇場』の永田くんに共感するところはありますね。この人はダメな人だけど、自分の好きなことを貫いて、それ以外の全部に真剣に立ち向かうわけじゃないですか。そこは尊敬しますね。表現する人はそういう姿勢を持っておかないと。変なところでふわふわしていたらダメなので。そういう共感はありますね。
YO-KING:欲って大事だからね。さっき言ったノブレス・オブリージュだって、社会貢献したいという自分の欲なわけだから。欲に忠実にいて、それを上手く利用するのが大事だと思うな。
- リリース情報
-
- 真心ブラザーズ
『FLOW ON THE CLOUD』初回限定版(CD+DVD) -
2017年9月13日(水)発売
価格:3,700円(税込)
TKCA-74531[CD]
1. レコードのブツブツ
2. 雲の形が変化をした
3. 光るひと
4. けんかをやめたい
5. 凍りついた空
6. その分だけ死に近づいた
7. あるようにあれ なるようになる
8. 鼓動
9. 戦の友
10. アイアンホース
11. フェアウェル
12. 黒い夜
[DVD]
1. レコードのブツブツ MUSIC VIDEO
2. すぐやれ今やれ LIVE『マゴーソニック2017』よりライブ映像
3. アーカイビズム LIVE『マゴーソニック2017』よりライブ映像
4. 愛 LIVE『マゴーソニック2017』よりライブ映像
- 真心ブラザーズ
-
- 真心ブラザーズ
『FLOW ON THE CLOUD』通常盤(CD) -
2017年9月13日(水)発売
価格:3,200円(税込)
TKCA-74532[CD]
1. レコードのブツブツ
2. 雲の形が変化をした
3. 光るひと
4. けんかをやめたい
5. 凍りついた空
6. その分だけ死に近づいた
7. あるようにあれ なるようになる
8. 鼓動
9. 戦の友
10. アイアンホース
11. フェアウェル
12. 黒い夜
- 真心ブラザーズ
- 書籍情報
-
- 『劇場』
-
著者:又吉直樹
価格:1,404円(税込)
-
- 『火花』
-
著者:又吉直樹
価格:1,296円(税込)
- プロフィール
-
- 真心ブラザーズ (まごころぶらざーず)
-
89年大学在学中、音楽サークルの先輩YO-KINGと後輩桜井秀俊で結成。バラエティ番組内“フォークソング合戦”にて見事10週連続を勝ち抜き、同年9月にメジャー・デビュー。「どか~ん」「サマー・ヌード」、「拝啓、ジョン・レノン」など数々の名曲を世に送り出す。2014年にデビュー25周年を迎え、自身のレーベルDo Thing Recordingsを設立、11月にはレーベル第1弾作品となるオリジナル・アルバム「Do Sing」をリリースした。2015年、昭和女性アイドルの楽曲をテーマにした、初のカバー・アルバム『PACK TO THE FUTURE』をリリース。今年5月には、自主企画対バンイベント『マゴーソニック2017』を、6月にはジャズ・クラブ・ツアー『cozy moment』を開催。9月13日に2年10ヶ月振りとなるオリジナルアルバム「FLOW ON THE CLOUD」をリリースし、10月8日からは、ライブ・ツアー『FLOW ON THE CLOUD』を全国18箇所で開催する。
- 又吉直樹 (またよしなおき)
-
1980年6月2日生まれ。大阪府出身。高校卒業後、芸人を目指して上京しNSC(吉本総合芸能学院)に入学。2003年、同期の綾部祐二と共にお笑いコンビ・ピースを結成。2010年、キングオブコントで準優勝、M-1グランプリで4位に輝く。芸人活動と平行し、エッセイや俳句など文筆活動も行う。2015年1月、文芸誌『文學界』において『火花』を発表し純文学デビュー、第153回芥川賞を受賞する。2017年3月、小説第二作となる『劇場』 を発表した。
- フィードバック 9
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-