10代限定の音楽コンテスト『未確認フェスティバル2016』や、フレデリック、THE ORAL CIGARETTSらを輩出した『MASH FIGHT!』、関西のライブハウスが主催する『十代白書2016』にて、各グランプリを総ナメにし、さらには『出れんの!?サマソニI?2016』も通過して『SUMMER SONIC』への出演も果たすなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのバンド、YAJICO GIRL。
9月6日にリリースされた初の全国流通盤『沈百景』は、哀愁漂うメロディーと叙情的な歌詞、疾走感溢れるロックンロールサウンドという、これまでの彼らの持ち味を残しつつ、リズムや構成、音色などで、いわゆる「ギターロック」のフォーマットを逸脱しようとする意欲作になっている。
去る8月27日、新木場STUDIO COASTで開催された『未確認フェスティバル2017』にて、凱旋ライブを行ったYAJICO GIRL。現在大学3年生である彼らが、各オーディションを勝ち抜く理由はどこにあるのか。ライブ出演直後に、ボーカル四方颯人に話を訊いた。
今の自分たちを評価してもらえたおかげで、「この感じでいいんやな」と思えた。
―たった今、『未確認フェスティバル2017』(以下、『未確認フェス』)のライブが終わったところですが、率直な感想は?
四方:STUDIO COASTは会場が広いし、お客さんもたくさんいたので、単純に楽しかったですね。それは去年も同じで。ただやっぱり、今年は去年とはまた違うプレッシャーがありました。「昨年のグランプリ受賞バンド」という紹介を受けて出たわけだから、それなりのいいライブをしなければ「YAJICO GIRLこんなもんか」って言われてしまうし。
―納得のいくパフォーマンスはできました?
四方:演奏そのものはよかったと思います。ただ、終わったあとのインタビューというか、コメントが……ああいうところでしゃべるの、得意じゃなくて(笑)。
―確かに、ちょっと緊張しているようでしたね(笑)。ただ、ステージは本当に堂々としていて。肩で風を切るように歩く姿や不敵な面構えなど、リアム・ギャラガーやイアン・ブラウン(THE STONE ROSES)を彷彿とさせるものもありました。
四方:あ、嬉しいです。高校のときは、そのあたりのUKロックをよく聴いてましたし、ずっとピンボーカル(楽器を持たないボーカルのこと)でやってきたので、リアムやイアン、それからRED HOT CHILI PEPPERS(以下、レッチリ)のアンソニー・キーディスとかには、めちゃくちゃ影響を受けています。
─昨年『未確認フェス』でグランプリを取ったことは、YAJICO GIRLにどのような変化をもたらしましたか?
四方:まず、自分たちの活動への自信につながったのがデカイと思います。それまでは、楽曲も、活動の仕方も、「こんな感じでやってていいのかな?」という不安を抱えていたところがあって。でも、今の自分たちを評価してもらえて、『未確認フェス』でグランプリを頂いたおかげで、「そうか、この感じでいいんやな」と思えました。
―『未確認フェス』は、オーディエンスが投票できるというのも自信につながったところがあるのでは?
四方:そうですね。お客さんに評価してもらえたことは、単純に嬉しかったです。『未確認フェス』が終わってからも、積極的にオーディションに応募していて、『MASH FIGHT!』もそのひとつです。「次にやるオーディションでも、いいパフォーマンスをして、いい結果を残せるように」という感じで、目の前のことを必死にやってきた1年でした。
―実際のところ、YAJICO GIRLは音楽系のオーディションで、片っ端から賞を奪い取っていきましたよね。それはやっぱり、多くの人が四方さんの作る音楽、YAJICO GIRLの演奏に確かなものを感じたからだと思うんです。もともと四方さんは、どんなきっかけで音楽をやるようになったのですか?
四方:うちの母がアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)などを聴いていて、物心が付いたときには僕も好きになっていました。初めてどハマりしたバンドは、BUMP OF CHICKENで。そこから広がっていって、RADWIMPS、ELLEGARDENとか、主に日本のロックバンドを聴いていました。
海外のバンドで最初に好きになったのはレッチリで。中3のとき、『SUMMER SONIC』(以下、『サマソニ』)で彼らがヘッドライナーをやっていて、それを観たのが大きかったです。それ以降も『サマソニ』へ行くようになって、事前にラインナップを予習するなかで、「この辺が今きてるんやな」って確認したりして、聴く音楽がどんどん増えていった感じです。
プロとしてやるのではなく、そのまま友達を続けたほうがいいんじゃないかなって、最初は思っていたんです。
―どのような経緯でバンドを組むようになったのですか?
四方:高校で軽音楽部に入って、最初に組んだのがYAJICO GIRLだったんです。最初はずっとコピーをやってました。本当に色々やりましたよ。さっき名前が出たバンドは一通りコピーしましたし、The SALOVERSや10-FEET、NUMBER GIRL。あと、RAGE AGAINST THE MACHINE、LINKIN PARKとか、ゴリゴリのロックもやってました。
―当時のメンバーのまま、ずっと続いているのもすごいですよね。高校時代の友達とプロとしてバンド活動を続けていくうえで、メリットやデメリットはありますか?
四方:ありますね。いい部分は、たとえば曲を作ったりアレンジをしたりしているときに、「この曲はいい感じ」とか「こういうアレンジは自分には合わへん」っていうのを、お互い遠慮なく言えるし、感性も近いところです。
デメリットというか……これから先のことはよく考えます。高1からずっと友人としてやっているので、最近事務所が決まって「仕事にしていくぞ!」というなかで、お互いの関係性も変わっていくのかなって。もしかしたら他人同士のほうが、仕事として割り切って話せることもあるのかもしれないですよね。これからは「友達だからこそ言いづらい」っていう部分も出てくるかもしれないなと。
―実際、事務所と契約して「プロでやっていく」となったとき、メンバー間の温度差もありました?
四方:少しはありましたね。俺も最初は、メンバーとはまず友達でいたかったし、プロとしてやるのではなく、そのまま続けたほうがいいんじゃないかなと思っていたんです。
でも、こんなふうに評価してもらえることなんて誰もがあるわけじゃないし、与えられているチャンスを無駄にしてはいけないなと。そう思ってからは、「よっしゃ、やるぞ!」とシフトチェンジしました。
音楽にしても文化にしても、ずっと引き継がれて続いていくじゃないですか。
―楽曲の話をすると、2016年3月にリリースした1st EP『いえろう - EP』の表題曲が、YAJICO GIRLの知名度をぐっと上げる1曲となり、さらにはコンテストのグランプリにもつながっていたのではないかと思うのですが、いかがですか?
四方:そうですね。“いえろう”は、「新しい曲を作ろう」という話になってスタジオに入り、ゼロからセッションで作っていったんです。大体のアレンジがまとまったところで、前から書きためていた歌詞をメロディーに乗せて歌ってみたら、いい具合にはまって。そこから細かい部分を修正したら、割とすぐに完成しました。
すごくポップやし、キャッチーやし、「ちゃんと好かれる曲」になったなと。YAJICO GIRLの名刺代わりになるような代表曲ができたという実感は、当時からありました。
―同年9月にリリースした1stアルバム『ひとり街』(ライブ会場とタワーレコードの一部店舗にて販売)は、YAJICO GIRLにとってどんな1枚だと言えますか?
四方:あのアルバムは、関西のライブハウスがプロデュースしている「十代白書」というオーディションでグランプリを取った特典で作ったんです。結構急な話だったので、「早く曲を作らなアカン」ってなって(笑)。
曲を作るにも、その頃はコードとかちゃんと理解していなかったから、適当にギターを弾いて、歌詞とメロディーをつけて、セッションでアレンジを固めていくっていう。とにかく切羽詰まった状態でのアルバム制作でした。
『未確認フェス』でグランプリを取る前だったので、今聴き直してみると、まだ自分たちに自信がなくて、揺れている感じがありますね。その分、初期衝動的な勢いは感じますけど。
―では、最新作であり初の全国流通盤となる『沈百景』についてお聞きします。まずタイトルが面白いですよね。これは、どんな気持ちで付けたものですか?
四方:事務所が決まり、「これからは音楽を突き詰めてやっていくんだ」ってなったときに、まずは自分の内面に深く潜り込んでいこうと思ったんです。そうすることで、いろんな体験もできるだろうし、いろんな景色が見られるんじゃないかなって。
YAJICO GIRL『沈百景』ジャケット(Amazonで見る)
―「自己の内面へと沈んでいくことで見える風景」を「沈百景」と名付けたわけですね。
四方:そうです。制作中は、昔のことを振り返ることが多かった。事務所が決まっていなかったら、そのまま就職する可能性もあったけど、それを逸脱して、こっちの道に行くことになったわけじゃないですか。そういうことを考えながら、逸脱する前の青春時代、特に高校生活のこととかを思い出して書いた曲が多いです。
あと、そのまま就職というルートを進んで行く友達との「別れ」とか、そこから別の道へと進む僕らの「決意」とか。それらがアルバム全体のテーマになっているように思います。リード曲の“サラバ”は、まさにそういうアルバムのテーマを象徴するような歌詞で、大切な1曲となりました。
―個人的に印象に残ったのは“PARK LIGHT”の歌詞で、<僕の死が慈しまれるような>と、自分がいなくなったあとの世界について書いているところでした。
四方:音楽にしても文化にしても、ずっと引き継がれて続いていくじゃないですか。続いていくなかで、自分の作ったものが誰かの糧になるとか、そういうことがあればいいなって思うんです。
ギターロックの要素と、ブラックミュージックの要素が、まだ誰もやったことのないようなバランスで融合している音楽を作りたい。
―四方さんが作るサウンドは、楽曲のリズムや構成、音色など、いわゆる「ギターロック」のフォーマットから逸脱しようとする意志を感じます。今言ったような「文化を引き継いでいく」という意識のうえでの挑戦とも言えますか?
四方:そうですね。たとえばアジカンやチャットモンチー、フジファブリックあたりが僕らはめちゃくちゃ好きで、そこから得たエッセンスみたいなものを取り入れながら、アレンジの工夫でアップデートしていきたいという気持ちがあって。
そのためにも、『沈百景』を作るうえで、今まであまり聴いてこなかったジャンルも聴くようにしたし、曲作りの方法も変えてみました。たとえば、今までのようにセッションから作っていくのではなく、まずは僕がGarageBandで大まかなデモを作ってから、メンバーと合わせていくみたいな。1曲目“光る予感”のシンセは、僕がデモ段階でGarageBandで作った音色をそのまま使っているんです。
―前にTwitterで、「いろいろ思うところがあって最近はできるだけブラックミュージック以外聴かへんようにしてる」って書いてましたよね。
いろいろ思うところがあって最近はできるだけブラックミュージック以外聴かへんようにしてるけど、藤原さくらちゃんの新しいアルバムはめっちゃ聴いちゃう。
— 四方 (@neon_mso) 2017年6月18日
四方:ケンドリック・ラマー、D'Angeloとか、ブラックミュージックのエッセンスを自分のなかに取り込みたくて、1週間くらいそれしか聴かないようにしていたんです。「それで曲を作ってみたらどうなるんやろう?」みたいなことを試しながら、アルバムを作っていて。ただ、あまりにもそっちに寄り過ぎてしまうと、どこかで聴いたような感じの曲になってしまったんですよね。
—今日もフランク・オーシャンのTシャツを着ているし、Chance The RapperやFutureについてつぶやいてることもありましたが、そのあたりの音楽を「ギターロック」に取り入れて、アップデートしようとしている?
四方:そうですね。もともと僕らが好きなギターロックの要素と、今言ったようなブラックミュージックの要素が、まだ誰もやったことのないようなバランスで融合している音楽をYAJICO GIRLでは作っていきたいです。その辺のバランスはすごく大事で、まだまだ試行錯誤の段階なんですけど。
―基軸はあくまでも、「5人編成でのギターロック」であると。
四方:はい。“いえろう”がまさにそういう曲で。そこからいきなりフランク・オーシャンやD'Angeloになってしまうのは違うと思うし(笑)、今まで僕らを「好き」って言ってくれた人たちだって戸惑うだろうし。
自分たちの核となる部分はちゃんと保ちながら、うまいことアップデートしていけたら理想ですよね。それが、「音楽や文化を引き継いでいく」ということなのかなって思っています。
―今回のような作り方を、理想的な形でやっているアーティストといったら誰を思い浮かべますか?
四方:サカナクションの山口一郎さんですね。山口さんは、今言ったような作業をめちゃくちゃ突き詰めてはるんやろうなって思います。あとはくるりの岸田(繁)さんや、アジカンの後藤(正文)さん。
―今回のアルバムで、そういった手法が一番納得いく形でできた曲は?
四方:“黒い海”です。実は、ブラックミュージックを自分のなかに取り込んでいったとき、「このまま5人組のギターバンドでやっていく意味があるのだろうか」みたいな、迷いや葛藤が生じてしまった瞬間もあったんです。
だけど、ちょうどそのタイミングでアジカンが『ソルファ』(2004年発売、2ndアルバム)の再録アルバムをリリースして。あんなド直球のロックを、彼らが再び作ったことにものすごく感銘を受けたんですよね。それで、僕のなかにある「ロックミュージックのかっこよさ」というものを、ちゃんと追求したいなと思ってできたのがこの曲なんです。
―四方さんの思う、「ロックミュージックのかっこよさ」とは?
四方:ギターをジャーンって鳴らしたときの圧力というか、衝動みたいなものだと思います。それを封じ込めるために、メンバーそれぞれが「ロックの名曲」を挙げつつ、そこからオマージュされたフレーズを重ねていきました。
―一旦ブラックミュージックを体の奥まで取り入れて、そこからあえてギターロックにアプローチした曲なんですね。ちなみに、メンバーが挙げた「ロックの名曲」とは?
四方:たとえば、RADIOHEAD“Creep”、くるり“東京”。あと、WEEZER“Only In Dreams”とか。
—アジカンの後藤さんが主宰しているレーベル名も「Only in Dreams」ですからね。まさに、文化の引き継ぎが繰り返されているというか。
四方:やっぱり、聴いたときにその人のルーツを感じさせるような音楽が僕は好きだし、いい音楽の条件だと思っているので。自分もそういう音楽を、これからもずっと作っていきたいと思います。
- リリース情報
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- YAJICO GIRL
『沈百景』(CD) -
2017年9月6日(水)発売
価格:1,620円(税込)
EGGS-0231. 光る予感
2. PARK LIGHT
3. ロマンとロマンス
4. サラバ
5. 黒い海
- YAJICO GIRL
- イベント情報
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- 『CINRA×Eggs presents「exPoP!!!!! volume101」』
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2017年9月28日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
すばらしか
RIDDIMATES
YAJICO GIRL
and more
料金:入場無料(2ドリンク別)
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- 『YAJICO GIRL自主企画:ヤジヤジしようぜVOL.2 supported by NANIWAdelic』
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2017年9月17日(土)
会場:大阪府 ESAKA MUSE
出演:
YAJICO GIRL
SAPPY
パノラマパナマタウン
Rollo and Leaps
学天即
金属バット
馬と魚
ヤジコ食堂
- 『YAJICO GIRL「沈百景発売記念」インストアミニライブ&特典会』
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2017年9月30日(土)
会場:大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店2017年10月22日(日)
会場:東京都 タワーレコード新宿店7階
- プロフィール
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- YAJICO GIRL (やじこ がーる)
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武志綜真(Ba)、吉見和起(Gt)、四方颯人(Vo)、古谷駿(Dr)、榎本陸(Gt)。『未確認フェスティバル2016』『MASH FIGHT Vol.5』など、2016年各種コンテストを総なめとしたその事実を裏切らない才覚を宿す、希少生命体のような5人組ロックバンド。現在大学3年生。2012年、高校の軽音楽部で結成。くるりやASIAN KUNG-FU GENERATIONを敬愛する四方(Vo)が作詞作曲を務め、独自のフィルターを通してアウトプットされる楽曲は王道とマニアックの間を行き、幅広く支持を集める。これまでMVの制作からデザインまで古谷(Dr)の主導により完全自主制作で行い、その作品の評価も高い。独特の個性とリズムで日々を歩くマイペースなスタイルとは裏腹に、楽曲に込めるメッセージは時代の憂いを的確に捉えて、アンチテーゼをさりげなく放つ。どこか哀愁漂う圧倒的メロディセンスと抒情的な歌詞が秀逸な、2017年バンドシーン最重要な「転がる石」ロックンロールモンスター。
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