2016年に結成10周年を迎え、集大成的なアルバム『story』を発表したjizueが、2017年に入ってメジャーデビューを発表。10月25日に、ビクターエンタテインメントから、ミニアルバム『grassroots』を発表した。
彼らのメジャーデビューというのは、現在の国内外におけるインストやジャズの盛り上がりと無関係ではないだろう。ただ、以下の対話にも表れているように、彼らは決してシーンに寄りかかっているわけではなく、あくまで挑戦を続け、自らを更新していくことこそを楽しんでいる。これまでのクールな印象ではなく、柔らかな笑顔を見せる新しいアーティスト写真は、そんな「jizueらしさ」をよく表しているように思う。
今のままのやり方だと、「これ以上は広がらへんな」って感じていたんですよね。(片木)
―結成10周年を経てのメジャーデビューというのは、若くしてのメジャーデビューとは意味合いが変わってくると思うのですが、実際どのような経緯で決まったのでしょうか?
片木(Pf):いくつかのレーベルから声をかけてもらっていたんですけど、もう年齢も若くないし、せっかくメジャーに行くなら、バンドのことを好きでいてくれて、長く一緒に頑張れる人たちとチームを組んでやりたいという気持ちが強くて。ビクターの人からはその熱量がすごく伝わってきたので、それに後押しされて、今に至るという感じですね。
山田(Ba):実は昔、メジャーデビューが決まりかけたことが一回あったんです。でも、震災で話が流れてしまって。そのときにちょうど番さん(番下慎一郎。現在所属しているインディーレーベル「bud music」の社長)と出会って、すごく近い距離でやれる仲間として、bud musicにお世話になることを決めたんですね。今回もビクターなら、チームとして長く一緒にやっていけると思ったので決めました。
粉川(Dr):僕らも大人になって、大人の見分け方がわかるようになりました(笑)。
片木:そうそう、若いときに勢いでメジャーに行かなくてよかったなって、すごく思います。インストバンドだから「若いうちが旬」というわけでもないし、長くずっと大事にやりたかったので、今のタイミングでよかったなって。
jizueの最新アーティスト写真。左から:山田剛、井上典政、片木希依、粉川心
―井上さんはいかがですか?
井上(Gt):僕はもともと、「どこからCDを出すか」ということへのこだわりがそんなになくて。これまでずっとbud musicと一緒にやってきて、ライブをやるのも音源を出すのも自由にやらせてもらえていたので、そのスタンスが変わらなければ、どこから出してもいいと思ってました。ビクターに行っても、その辺はまったく問題なく、これまでと変わらない形でメジャーから出せるというのは、すごくいいなって。
―他のみなさんは「メジャーでやりたい」という気持ちが前からあったのでしょうか? それとも、その気持ちが近年強まった?
片木:たぶん四人ともちょっとずつ思ってることが違うと思うんですけど、私はせっかくこれだけ気持ちを込めて作ってるから、できるだけたくさんの人に届けたいという気持ちがすごく強くて。そのためには新たな力が必要だなというのは、10年間やってきてめちゃくちゃ感じたので、なにかきっかけがあればいいなっていつも思ってました。
今のままのやり方だと、「これ以上は広がらへんな」って感じていたんですよね。bud musicでやり始めて、一回ワッと広がった感じはあったけど、京都にいながらだと、これ以上は難しいなって。jizueでやってることがじわじわと大きくなってるのは感じていたけど、それをさらに広げる一歩が、メジャーだったということですね。今回のミニアルバムのタイトルは「草の根」という意味なんですけど、今までやってきたことをより広げたい、伝えたいって気持ちでつけたんです。
片木希依
―このタイミングでjizueがメジャーデビューするというのは、インストやジャズのシーンの盛り上がりともリンクしているように感じました。ビクターはSchroeder-HeadzやADAM atもリリースしてるし、過去にjizueとスプリットを出したfox capture planも盛り上がってる。『GREENROOM FESTIVAL』のようなフェスも盛況で、片木さんのソロアルバムに参加していたOvallの再始動も決まり……さあ、jizueもメジャーデビューっていう。
粉川:……あんまり実感はしてないんですよね、インストシーンが上がってるっていうのは。
山田:同じインストシーンにいる人って、逆にそんなに聴かなかったりもするし、シーンどうこうを意識することってあんまりなくて。
粉川:実際僕らが一番インストを聴いていたのって、2010年前後とかで。toeとかが盛り上がっていて、あの頃に比べたら、逆に下がってるくらいのイメージがあるというか。
最近アジアでは日本のバンドがトレンドみたいになっていて、それはいい流れだなって思います。(粉川)
―シーンが「一周した感」はあると思うんですよね。toeでいうと、今年jizueも出演した『After Hours』(MONO、envy、downyが中心となっている、アーティスト発信の音楽フェスティバル)でトリを務めてましたけど、10年前に一回ポストロックが盛り上がって、そのあとは個々がそれぞれでサバイブして、残った人たちが今また集まるタイミングに来ているというか。
片木:……そうかも。
山田:なんせ疎いんですよね(笑)。
山田剛
―海外での盛り上がりに関してはいかがでしょう? 近年はjizueも海外公演が増えてると思うんですけど、それもシーンとしての盛り上がりを示しているようにも思います。
粉川:うん、それはありますね。周りのバンドのSNSを見ていると、どこの国へ行っても、ライブにお客さんが入ってるみたいですし。最近アジアでは日本のバンドがトレンドみたいになっていて、それはいい流れだなって思います。特に台湾とか、日本のバンドがどんどん行っていますよね。
粉川心
―ポストロックにしろジャズにしろ、日本のアンダーグラウンドのバンドはアジアのなかでもレベルが高いですよね。今回のミニアルバムもビクターの「洋楽部」からのリリースですが、これは海外を意識してのものなのでしょうか?
井上:今回ビクターを紹介してくれた人から聞いたのは、今、海外から「日本のバンドに来てほしい」というオファーがたくさん来ていて、向こうに行けるバンドの数が足りないくらいの状態だということで。「jizueだったら推薦したいし、そういうときに声がかかるところにいたほうがいいよ」ってアドバイスをもらって。なので、メジャーに行って、そういう話がどんどん来たらいいなとは思ってます。
井上典政
単純に明るい曲を出して、「メジャーに行って、jizueはポップになった」って思われるのも嫌だったんですよね。(井上)
―『grassroots』は、jizueにとっての新たな名刺代わりとなる強力な作品だと思いました。これまでの変遷を言うと、初期はハードコア寄りの作風から出発して、「自分たちがかっこいいと思う、面白いと思うものを作る」という考えのもと、ジャズやラテンを吸収していった一方で、途中からはフェスなどのへの出演も増えて、より開かれた、踊れる音楽へとシフトしていった。本作を作るにあたっては、自分たちのどんな部分をアピールしようと考えたのでしょうか?
井上:これまでもそうなんですけど、毎回なにかしら挑戦したい、やったことがないことをやりたいという想いがあって。今回でいうと、単純に暗い曲だけではなくて、自分たちなりの明るい曲を作ってみたいと思いました。同じことだけやっていても、僕たち自身が飽きてしまいますし、メジャーだからこそ、好き放題やってみようかなって。
山田:根本的に「自分たちがかっこいいと思うものを作りたい」っていうのがあって、それは常に大前提なんですよね。結成当初から、メンバーが誰か一人でも首を傾げてたら、その曲はやらないんですよ。今回はレコーディング直前になって、全員の首がしっかりと縦に振れた手応えがありました。“grass”とかは、2か月くらいかかって、ようやく自分たちの納得いく形になりましたね。
―それは楽曲のクオリティーに関して? それとも、方向性の部分で?
山田:方向性の違いはありました。最初はもうちょっとポップだったりして、「自分らの色をどういう形で当てはめたらしっくり来るんやろう」みたいな試行錯誤があって。
―メジャー1枚目だからこその試行錯誤があった?
山田:そんなに意識はしてなかったんですけど、無意識にみんなあった気がします。
片木:“grass”も“trip”も、もともとは井上くんが作ってきてくれたんですけど、“grass”はフェスでやって、みんながハッピーになるイメージって言ってたよね?
井上:10周年を経て、また新しい曲を作ろうと思ったときに……これまでいろいろやってきて、jizueから生まれる曲って、だいぶ変わったなと思ったんです。さっき言われた通り、フェスとかに出て、踊れる曲になったり。
じゃあ、なんでそう変わっていったのかというと、結局お客さんと一緒になって楽しむ喜びを知ったからだと思うんですよね。jizueの曲って、これまでマイナー調が多いんですけど、フェスとかの場所を想像したときに、もうちょっと明るい、みんなの笑顔が見えるような曲を今回jizueなりに作ってみたいなと思ったんです。
―それが“grass”だということですね。
井上:でも、単純に明るい曲を出して、「メジャーに行って、jizueはポップになった」って思われるのも嫌だったんですよね。そういうことではなくて、今までやってきたことがあった上で、新しいこともやってみたくなったというだけの話。次のアルバムはまた全曲暗い曲かもしれないけど(笑)、今回はこれが作りたかったんです。
jizue『grassroots』ジャケット(Amazonで見る)
―“trip”は非常にプログレッシブで、自分たちの好きなものを詰め込んだような印象があります。
井上:“trip”も結構時間かかったんですけど、より大人っぽくというか、クールなリフ押しの曲をやってみたいなって。海外のアンダーグラウンドシーンの曲とかって、単純なことをやっているようで、実はすごく難しい拍の取り方をしていたり、技術的にもすごかったりしますよね。自分らなりにそういう要素を取り入れて、世界に挑戦してみたいなって。
粉川:合言葉は「世界を獲る」やったもんな(笑)。
―今のジャズやヒップホップには、変拍子やポリリズムがごく自然に使われていますもんね。
井上:そうですね。技術がないとできないなって思う曲が溢れているので、僕らも今までやってきた技術をぶつけられるような曲にしたいなって。
―具体的には、どんな人たちがインスピレーション源になりましたか?
片木:これ作ってた時期は、「ハマちゃん」をめっちゃ聴いてたよな。
挑戦はしたいですけどね。できないのは腹立つんで。(井上)
―ハマちゃん?
片木:ティグラン・ハマシアン(1987年生まれ、アルメニアのジャズピアニスト)のことです(笑)。ハマちゃんをみんなで分析する会を家でやって、それを参考にしたフレーズをめちゃくちゃ作ったりしました。結局、一個も採用されなかったですけど(笑)。
粉川:“grass”のドラムソロとかは、アヴィシャイ・コーエン(1970年生まれ、イスラエルのベーシスト)のライブ映像を参考にしました。個人的には、マーク・ジュリアナ(1980年生まれ、アメリカのジャズドラマー)、クリス・デイヴ(1973年生まれ、アメリカのジャズ~ヒップホップドラマー)、ブライアン・ブレイド(1970年生まれ、アメリカのジャズドラマー)はこの10年くらいずっと追いかけていて、サウンド面で意識してたりします。ジャズってオシャレに聴かれてることもありますけど、ものすごくハードコアで、実験的なものだからこそ、面白いなって思うんですよね。
―山田さんはいかがですか?
山田:最近、日本の若手とかも積極的に聴くようになりましたね。
―さっき言わせてもらったような、一周してまた盛り上がってる人たちの一方で、そこに若い人たちもちゃんと融合して、全体で盛り上がってる感じがいいなと思います。
片木:ということは、私たちはもう若手じゃなくなったんですよね(笑)。ちょっと前までは、どこに行っても「一番若手やし」と思っていて、シーンのなかでも若いと思ってたけど、最近は一緒にやりたいと思うバンドが歳下であることが多くて。たとえば、6月に対バンしたLUCKY TAPESとかみんな歳下だけど、演奏力もグルーヴもあるし、行動力もあって、いい若手世代やなって。
―他にjizueのなかで盛り上がった日本の若手バンドはいますか?
片木:yahyel! 観たかった若手を『After Hours』と『SYNCHRONICITY』で一気に観ることができて、そのなかでもぶっちぎりでyahyelがかっこよかったです。私たちは音数のぶつかり合いで勝負してるけど、彼らには「抜くかっこよさ」がある。私たちにはできないなって。
井上:挑戦はしたいですけどね。できないのは腹立つんで。
片木:お、挑戦の井上やな(笑)。
前でも横でもいいから、今いる場所から動けないままの人の背中を押せたらなって。(片木)
―日本の若いバンドを知ることは、逆に自分たちの武器を再認識することにもつながるように思います。さっき片木さんがおっしゃったように、たくさんの音数だったり展開だったりを、四人でグルーヴ感たっぷりに演奏できるというのは、やっぱりjizueの強みだと思いますし。
井上:そうですね。きっと他のバンドには僕らみたいな音楽はできないでしょうし……やりたいとも思わないかもしれないですけど(笑)。僕らがやってるような音楽って、演奏していて楽しいんですよ。ライブでも、そういうスリルを求めてるというか、この歳になっても……。
片木:ヒリヒリしたいん?(笑)
井上:ワクワクしながら演奏したいというかね(笑)。クールにやるのもかっこいいですけど、燃えてこないというか。それで燃えられるようになったら一人前なのかもしれないですけど、今のところ僕らはバーッてかき鳴らして、爆音でやるのが「音楽してるな」って気持ちになるので、そういうものを求めてる。まず僕ら自身が熱くなるようなことをやりたくて、それに対して、お客さんは自由に感じてもらえればなって。
山田:僕で言うと、そのヒリヒリした感覚を一番味わえるのは海外なんですよね。日本ではもう10年やってきて、お客さんもそれを踏まえて観てくれることが多いけど、海外だとキャリアは関係なくて、いいライブをしたら沸くっていうだけ。音楽の楽しさがストレートに伝わる場所だと思うので、そういう感覚を改めて増やしていけたらなって。
粉川:僕がここ最近で一番上がったのは『After Hours』ですね。国内の一番ハイレベルなバンドとやれて、ヒリヒリしました。海外は、場所によっては「なにをやっても沸くな」って、緩さも感じることもあったんです。
―片木さんはいかがですか?
片木:私、今31歳なんですけど、20歳のときにjizueのメンバーと出会って、だいぶ変わったなって思うんです。当時はもっと情緒が振り切れてたというか、内面がもっと暴力的で、激しい感じだったのが、最近は結構穏やかなんですよ。いろんなことを経験すると、歳とともに感動みたいなものって、やっぱり減っていくのかなとも思う。
ただ、日常がそんな感じでも、四人で音を出したときには特別な高揚感があるし、熱くなれるんです。それも慣れてしまうと、なくなってきちゃうのかもしれないなと思うから、そのためにも挑戦が必要だし、もっともっと頑張ろうと思いますね。
―では最後に、メジャーデビューによって見えた、今後に対する新たな展望を話していただけますか?
粉川:影響力を持てるようになりたいです。僕はずっとアンダーグラウンドなものが好きなんですけど、メジャーのフィールドに行って、自分の認知度が上がれば、自分が好きなものを紹介できる機会が増えるのかなって。架け橋的な存在になって、危なっかしいものをメインストリームに流出させたいですね(笑)。
―jizueは本当にいろんなシーンに越境してるバンドだと思うので、媒介としての役割はすごく期待しています。片木さんはいかがですか?
片木:『Bookshelf』(2010年発売、1stアルバム)を作ったときのキーワードは、「誰かが一歩を進むきっかけになりたい」だったんです。前でも横でもいいから、今いる場所から動けないままの人の背中を押せたらなって。
この10年でいろんな経験をして、やっぱり音楽ってすごいなと思うなかで、私は聴いた人の人生がちょっとでも豊かになったり、やり切れない気持ちに共感したり、そうやって日常のなかに一緒にいれたらいいなって。その想いがより強くなっていますね。
井上:メジャーが決まって「おめでとう」と言ってもらえるのはもちろん嬉しいんですけど、まだなにも結果を出してないし、どう評価されるのかもわからない。僕らがメジャーから出すことで、インストシーンがもっと盛り上がったり、「日本の音楽が変わった」と言われたらもちろん光栄だし、たとえそこまではなれなくとも、そのための力にはなりたいと思っています。
あとは単純に、みんなでいろんなところに行って、演奏して、そのあとに飲んで、という生活が楽しいんですよね。なので、僕らの姿を見て、「バンドって楽しそうやな」と思ってくれたら嬉しいですね。実際、素晴らしい人生を送らせてもらっているし、「こういう生き方をしたら、もっと世界が広がるよ」っていうのを、音楽とともに伝えていきたい。そのためにも、僕らは単純に音楽を楽しんでいたいなって思います。
山田:うん。この四人で、死ぬまで一緒にいろんな景色を見れたらいいなと思いますね。
- イベント情報
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- 『NEWTOWN』
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2017年11月11日(土)、11月12日(日)
会場:東京都 多摩センター デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧 八王子市立三本松小学校)『特別音楽地区「体育館FREE」』
2017年11月11日(土)、11月12日(日)
出演:
おとぎ話
桑田研究会バンド
コトリンゴ
jizue
曽我部恵一
Damon & Naomi
トリプルファイヤー
バレーボウイズ
and more
料金:無料
- リリース情報
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- jizue
『grassroots』(CD) -
2017年10月25日(水)発売
価格:1,620円(税込)
VICJ-617671. grass
2. trip
3. I Miss You
4. rosso (brass ver.)
5. sakura (strings ver.)
- jizue
- イベント情報
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- 『jizue「grassroots」release one man live』
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2017年12月2日(土)
会場:大阪府 CONPASS2017年12月16日(土)
会場:愛知県 名古屋 TOKUZO2018年1月21日(日)
会場:東京都 渋谷 WWW
- プロフィール
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- jizue (じずー)
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2006年、井上典政、山田剛、粉川心を中心に結成、翌年より片木希依が加入。これまでに『Bookshelf』、『novel』、『journal』、『shiori』、『story』の5枚のフルアルバムを発表し、そのどれもがロングセラーを記録。ロックや、ハードコアに影響を受けた魂を揺さぶるような力強さ、ジャズの持つスウィング感、叙情的な旋律が絶妙なバランスで混ざり合ったサウンドで、地元京都を中心に人気を高め、『FUJI ROCKFESTIVAL』、『GREENROOM FESTIVAL』、『朝霧JAM』といった大型フェスにも出演。国内に留まらず、カナダ、インドネシア、中国、台湾など、海外にも進出し、その圧倒的な演奏力で高い評価を得ている。2017年10月25日、ビクターよりメジャー・デビュー作『grassroots』を発表する。
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