ORANGE RANGEのNAOTO率いるdelofamiliaが、10年経て語る胸中

ORANGE RANGEの音楽的リーダーでありギタリストのnaotohiroyamaと、シンガーソングライターで現在はロンドンを拠点に活動するRie fuによるユニット、delofamiliaの通算6枚目のアルバム『filament/fuse』がリリースされた。

前作『Carry on Your Youth』からおよそ3年ぶりとなる本作は、基本的にはこれまでの延長線上にあるもの。アイデアの断片をメールでやり取りし合いながら紡ぎあげた、楽曲そのものよりも声の質感、空間の響き方などにフォーカスしたというサウンドスケープは、naotohiroyamaの朋友、倉石一樹によるアートワークとの相乗効果によって、聴き手に様々な映像的イメージを喚起させる。

ORANGE RANGEの活動で商業的成功を収めたnaotohiroyamaが、それとは正反対とも言えるような前衛的かつアブストラクトな作品を、10年もの間マイペースに作り続けている理由はどこにあるのだろうか。今年34歳を迎えた彼に、その思いを訊いた。

—前回のインタビューからおよそ3年ぶりですが、この間、NAOTOさんはどんな活動をされていたのですか?(delofamiliaインタビュー 大人になっても忘れたくないものって?

naotohiroyama:今年delofamiliaは結成10周年、ORANGE RANGEもインディーズデビューからちょうど15年経ったということもあって、そこに向かって活動をしていました。delofamiliaの場合は特に焦ることもないので、アルバムに向けてマイペースにゆっくり作ってました。結果、3年もかかっちゃいましたが(笑)。

naotohiroyama
naotohiroyama

—Rie fuさんは現在、ロンドンに拠点を移して活動されているそうですね。日本を経ったのはいつ頃?

naotohiroyama:ロンドンに行く前に、一瞬だけシンガポールに行ってたんですよ。あれは確か、前作『Carry On Your Youth』(2014年6月発売、6thアルバム)を出してすぐくらいだったと思う。で、ここ2年くらいはロンドンに住んでいますね。だから、このアルバムを制作している間、彼女と会ったのは1時間半くらいなんですよ(笑)。

でもそれって実は、彼女が東京に住んでいた時から何も変わっていなくて。彼女も僕も、自宅にスタジオがあるので、ずっとデータでやり取りしていたんです。お互いの性格的にも、会って話すより気楽というか、メールだとダメ出しも遠慮がない(笑)。「このアイデアは良くない」「こういうのはやりたくない」みたいな。特に彼女はイエスノーがはっきりしていて外国人みたいなんです。

—メールのやり取りだけで進めていく制作スタイルだったら、お互いどこにいようが問題ないですよね。近所に住んでいようが、ロンドンに移住していようが関係ないというか。

naotohiroyama:そうなんです。だから制作については特に変化があったわけではないですね。

—この3年の間によく聴いた音楽や、何かインスパイアされた出来事はありましたか?

naotohiroyama:ミッシー・エリオットが復帰して、新曲“WTF(Where They From)”を出したじゃないですか。それを聴いて、「やっぱり良いなあ」と思って実家から旧譜を引っ張り出して、車の中でずっと聴いていました。僕の中の「三大女性シンガー」は、ミッシー・エリオット、ビョーク、マドンナなんですよ。見た目も音も最高じゃないですか。この三人はずっと不動です。

naotohiroyama:それと最近、邦画をたくさん見るようになったんですよ。以前は食わず嫌いであまり見ていなかったんですけど、邦画って不穏な空気が漂った作品が多いですよね。特に印象に残ったのは、中島哲也監督の『渇き』や、西川美和監督の『ゆれる』。他にも中田秀夫監督の『リング』や『仄暗い水の底から』、飯田譲治監督の『らせん』のようなジャパニーズホラーを見直してみたら、すごく良かった。僕の好きな洋楽のテイストに、どこか通じるところもあって。

naotohiroyama

—ちなみに、洋画はどんな作品が好きなのですか?

naotohiroyama:フランソワ・オゾン監督の『スイミング・プール』や、ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』、それからリチャード・リンクレイター監督の「ビフォア三部作」(『ビフォア・サンライズ』『ビフォア・サンセット』『ビフォア・ミッドナイト』)などが好きですね。

—そういえば、前作のインタビューではマッドリブやPortisheadに影響されたとおっしゃっていましたけど、彼らのダウナーなムードというのは、一連のジャパニーズホラーやNAOTOさんの好きな洋画にも底通する部分があるのかもしれないですね。

naotohiroyama:うん、確かにそうかもしれない。

naotohiroyama

今後ORANGE RANGEとdelofamiliaでやっていくことは、どんどんかけ離れていくかもしれない(笑)。

—Rie fuさんとデータのやり取りをしていく中で、彼女の変化を感じたりもしましたか?

naotohiroyama:彼女の声の存在感が、以前よりも増した気がしますね。それって何故なんだろうと思って本人にも訊いてみたんですけど、どうやら運動をしているらしくて。以前は小さく感じた歌声に「太さ」を感じるんですよね。倍音も増えたというか。ひょっとして、イギリスの電源が120Vというのも(日本は一般的に100V)少しは関係しているのだろうか(笑)。

—(笑)。声の変化は僕も感じました。最後の曲“delight”は特にRie fuさんのボーカルが際立っていますよね。まるでゴスペルのようですらある。

naotohiroyama:そうなんです。声の情報量が多いから、オケの音数を減らしていくことが多かったんですよ。歌だけで充分持つというか。

naotohiroyama

—これまでの作品と比べて、今作はどんな変化があったんでしょう?

naotohiroyama:作りながら思っていたのは、「前作と何が変わったんだろう?」っていうことでしたね(笑)。もっといえば、それ以前のアルバムも全部同じように聴こえて。結局やりたいことは全部一緒なんだなって。第一、アルバムを作るときに、「何か新しいことにチャレンジしてみよう」とも「実験的なことを取り入れてみよう」とも思わないし。本当にただ、自分の中から出てきたものをそのまま形にしているだけというか。それが一番気持ちいいやり方だし、僕にも彼女にも向いているんですよね。

食べ物や、着る服もそうじゃないですか。歳を重ねて自分の好みが分かってくると、わざわざ苦手なものを食べたり、似合わない服に手を出したりしなくなる。それと同じように、delofamiliaでやりたいことも大体変わらないんだな、というのが今回やってて分かったことです。

—それって、ORANGE RANGEでの作り方とは全く違いますよね?

naotohiroyama:「曲を作る」という行為に関しては、どちらも同じです。ただ、ORANGE RANGEの場合はそこから色んなことを考えなければならなくて。メンバーもファンもいる中で、自分たちはどんな音を鳴らしたらいいのかを客観的に考える必要があるし、歌詞やメロディー、アレンジや演奏などをしっかり聴いてもらえる方法を常に模索しています。

でも、delofamiliaではそういうことを一切考えない。曲や歌詞は、僕らにとってさほど重要ではなくて。例えば、スネアを鳴らした時の部屋鳴りや、リバーブが消える瞬間、そういった質感やニュアンスを大事にしているので、出来上がったものはすごく抽象的なんです。

naotohiroyama

—きっと、NAOTOさんがクリエイターとしてのモチベーションを維持するためには、ORANGE RANGEと、delofamiliaの両方が必要なんでしょうね。

naotohiroyama:そうですね。どっちも極端なことができる。だから、今後ORANGE RANGEとdelofamiliaでやっていくことは、どんどんかけ離れていくかもしれないです(笑)。

出来ればステレオの前でジャケットを広げながら、1曲目から順番に聴いてほしいんです。

—アートワークに対するこだわりも、並々ならぬものを感じます。

naotohiroyama:これはもうずっと一貫していて。アートワークやアー写、PVなどトータルで一つの表現というか。ちょっと押し付けがましいけど、出来ればステレオの前でジャケットを広げながら、1曲目から順番に聴いてほしいんです。それでやっと、delofamiliaの世界が完結すると思っているんですよね。

delofamilia『filament/fuse』ジャケット
delofamilia『filament/fuse』ジャケット(Amazonで見る

—アートディレクションは、2枚目からずっと倉石一樹さんが担当しているんですよね。NAOTOさんをイアン・ブラウンと引き合わせたり、NIGOさんとの交流も深かったりする倉石さんからの影響は、やっぱりかなり大きいんでしょうか?

naotohiroyama:倉石さんはすごい方なんですけど、そうは全然思わせない人で。普段は普通の音楽仲間っていう感じなんです。会話はいつも、The Stone Rosesから始まって延々と1990年代の音楽について。話題はそこで止まったままなんですよ。映画もそう。『ワイルド・スタイル』『アシッド・ハウス』『トレインスポッティング』についてずっと話してる。

倉石さんは、delofamiliaの音楽はずっと好きでいてくれて、音を聴かせるとすぐにアイデアをくれるんです。そういうアイデアも、サウンドから汲み取ってくれるので、僕からは細かくリクエストをしなくても、ぴったりの世界観を提示してくれるんです。

—NAOTOさんにとってdelofamiliaはアートフォームであり、倉石さんはある意味、3人目のメンバーと言ってもいい存在なのですね。

naotohiroyama:本当、そんな感じなんです。

naotohiroyama

今までこういうコラボはやってこなかったし、やる気もなかったんです。

—本作収録の“Enter The Mirror”は、波多野裕文(People In The Box)さんがボーカルで参加しています。これはどんな経緯で?

naotohiroyama:元々僕がPeople In The Box(以下、ピープル)のファンで、delofamiliaの公式サイトで対談やツーマン企画で対バンもしたこともあったり。そんな縁もあり、「今度アルバムを作るんですけど、一緒に何かやってくれませんか?」って頼んだら引き受けてくださって。あまり細かいリクエストはせず、僕は羽多野さんの語りのようなボーカルが好きだということだけを告げました。

—2作目以降、ずっとRie fuさんとの二人三脚でアルバムを作ってきたわけで、その濃密な関係性に新たな要素を入れることへのリスクは考えたんですか?

naotohiroyama:今までこういうコラボはやってこなかったし、やる気もなかったんです。羽多野さんに関してはピープルのサウンドを聴いたり、話したりする中で自分と近いものを以前から勝手に感じていたので、この人とだったら一緒にやってみたいし、きっと上手くいくと思ったんですよね。実際のところ、本当に気さくでいい方でした。たくさんアイデアも出してくださって、一緒にできて良かったです。

naotohiroyama

—─なるほど。“if it fall”のメロディーを聴いたとき、どこか童謡っぽい雰囲気もあって印象深かったのですが、これはどのようにして思いついたのですか?

naotohiroyama:このメロディー、実は5年くらい前からストックしてあって。アレンジがしっくりこなくてずっと保留にしていたんです。でも、今回のアルバムには上手くハマりそうな気がしたので、新たにアレンジし直してみたら、ようやく納得いくものになりました。元々は、Trickyの中期作品っぽいイメージで作っていた曲なんですけど、何だか不思議なメロディーですよね。ほどよくラフだし。

—それと、“rooms”のアブストラクトかつ、シンプルでラフなギターインストも、非常にインパクトがありますよね。

naotohiroyama:これは曲名の通りで、ギタープレイを聴くのではなく、ギターが鳴っている「部屋の音」を聴くのがテーマなんです。平和島にあるレコーディングスタジオに、非常に大きなブースがあるんですけど、そこにマイクをたくさん立てて録りました。ギターはあくまでも、部屋の響きを聴かせたいがために鳴らしたものであって、フレーズは全くのアドリブ(笑)。「高い音を出したらどんな響き方をするのかな?」「じゃあ次は、低い音を出したらどうだろう?」みたいな感じで。

—なるほど。「部屋の音」が聴きたくても無音状態では不可能で、そこで何かしらの音を鳴らさなければならないわけですよね。今回はたまたまギターを鳴らすことで、その部屋の広さや奥行き、壁の材質などがイメージできるっていう。

naotohiroyama:そうなんです。僕は普段から、他の人の楽曲を聴きながら、「お、このドラムはめっちゃいいスタジオで録っているな」とか、「この楽曲の音像は、限られた予算の中で最大限工夫して作り込んでるな」とか、そういうことを想像するのがたまらなく好きなんですよ。

—それって非常に現代音楽的な考え方だと思うのですが、そういう方面でNAOTOさんに最も影響を与えた音楽家はいますか?

naotohiroyama:手法は違いますが、池田亮司(パリを拠点に活動する現代音楽家)さんですね。池田さんは音だけでなく、映像や空間を用いたインスタレーションを展開している方ですが。もちろん、僕なんてまだまだ足元にも及ばないのですが、彼の作品や活動はものすごく好きです。

naotohiroyama:ちなみに“pyramid”における、ピアノの不協和音も現代音楽的な発想というか。Massive Attackや、Portishead的な感覚で作っています。結局ああいうサウンドが、僕はずっと好きなんだなって思います。ダウンテンポで不穏な空気を纏った気持ち悪いサウンドの象徴が、Portisheadやマッドリブだったり、さっき話したジャパニーズホラーだったりするのかなと。

今の方が、ずっと生きるのが楽になりました。

—最初におっしゃってくださったように、delofamiliaをスタートさせて今年で10年。ORANGE RANGEのインディーズデビューからは15年が経ちます。現在34歳のNAOTOさんにとって、音楽を作るモチベーションはどのようなものになってきていますか?

naotohiroyama:年々歳を重ねていく中、「自分にできる範囲」というのが段々分かってきましたね。昔は、特にORANGE RANGEに関しては、「何でも取り入れたい欲」が強かったんですけど、そういう時期を経て、自分の基準で選別が出来るようになってきたし、さっきも話したように好き嫌いがはっきりしてきました。しかもそれは音楽に限らず、全てにおいてそうです。

食べるものも、着るものも、関わる人も、全て好きなものにしか目がいかなくなってきたというか。頑固になったのかな(笑)。でも、今の方が、ずっと生きるのが楽になりました。

リリース情報
delofamilia
『filament/fuse』(CD)

2017年11月1日(水)発売
価格:3,024円(税込)
VICL-64867

1. agenda
2. race
3. Enter The Mirror feat.波多野裕文(People In The Box)
4. if it fall
5. peace
6. rooms
7. pyramid
8. World is Weeping
9. DLOP
10. delight

プロフィール
delofamilia
delofamilia (でろふぁみりあ)

2007年に始動。ORANGE RANGEのリーダー / ギタリストであるNAOTO(naotohitoyama)と、シンガーソングライターRie fuを中心としたバンド。当初はNAOTOのソロプロジェクトとして始動し、信近エリや車谷浩司(参加当時AIR名義)がボーカリストとして参加し、1stアルバム“quiet life”をリリース。2ndアルバム”eddy”にゲスト・ヴォーカリストとしてRie fuを迎えたことをきっかけに、2011年に発表した3rdアルバム”Spaces in Queue”からdelofamiliaは2人のユニット・プロジェクトへと発展し、現在の体制に至る。



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