ホナガヨウコ企画とさよならポニーテールによる、大好評だった舞台作品が帰ってくる。ダンスと演劇と音楽が融合した舞台『ななめライン急行』が、12月1日から東京・吉祥寺シアターで再演されるのだ。
ダンスパフォーマーのホナガヨウコが主宰する、生き生きとしたパフォーマンスで人気を集めるホナガヨウコ企画。一度のライブも行わず「実態」は謎に包まれたまま、キュートな世界観で多くの人々を魅了する、さよならポニーテール。二者がガッチリと手を組んだ本作は、2014年の初演時にも大きな話題を呼んだ。
今回の再演にあたりインタビューしたホナガの言葉からは、可愛くポップな物語をさよポニと紡ぎながら、一人ひとり異なる現実のわたしたちを救おうとする――つまりはファンタジーなのにリアル、という胸躍るような世界を作ろうとする情熱が溢れ出していた。
ダンスの言語だけで踊る公演は、最初どう楽しんだらいいかわからなかった。
—『ななめライン急行』は2014年、原宿VACANTで初演が行われましたが、改めてどういった作品だったか、振り返っていただけますか。
ホナガ:悩みごとを抱えて、人生がうまくいっていない人たち――世の中に対して「ななめ」になってしまっている人たちが、「ななめライン急行」という列車にいつの間にか乗っていて、各々その電車からの「降り方」を探る、という物語で。
さよポニさんに、劇中で流れる全楽曲を書き下ろしていただきました。脚本や、シーンを練習している稽古風景の映像などをお送りしていたんですが、歌詞も音もさよポニさんの世界観そのものでありながら、物語の世界にピッタリ合う曲を作ってくださって。
本当に、それぞれの要素がバッチリ合った作品になりました。物語がどんどん強くなっていくような……映画の劇判音楽のように相乗効果で盛り上がっていくミラクルがありましたね。
—全面的にダンスを展開しつつ、人気役者の新谷真弓さん(ナイロン100℃)も出演。みなさん台詞がたくさんある物語世界を、これまた抜群の物語性をまとったさよポニの楽曲が彩っていく、という非常にハイブリッドな作品になりましたよね。なぜこうした作品を作ろうと思ったのですか?
ホナガ:わたしは高校時代に演劇をやっていて、大学に入ってからダンスに夢中になったんですが、最初戸惑いもあったんです。ダンスの言語だけで踊るような公演を見ると、筋書きがないから、どう見たらいいのかわからない。みんなクスクス笑っているけど、「え、これどこが笑いどころなの?」って(笑)。
—共有されているダンス言語にノレないとわからない、ということはありますよね。
ホナガ:わたしはエンタメ寄りのものが好きなんだな、という発見もそのときにあったんですが、ふと元から好きだった演劇の役者さんの体を改めて見てみると、ダンサーの体とも違ってすごく特殊で「これも好きだなあ」と。そして、ダンサーもいろんな体を持ったタイプの踊り手がいる。この全部を生かすことができないかな、と思っていたんです。
そんな折、公演の衣装も務めてくださるmy pandaというブランドが、ななめのデザインの服を出しまして。それが可愛いなあ、と。それで「ななめ」の「ライン」から線路、列車のイメージにもつながるな……と妄想が膨らんでいきました。
この日着用のワンピースも、公演の衣装を務めるブランドmy panda
—なるほど。そうした構想の中で、さよポニとのコラボレーションに至った経緯というのは?
ホナガ:高校の演劇時代以来、久しぶりに物語をきちんと作ろうとしたとき、ファンタジックなものにしたいと思ったんですよね。それで、さよポニさんの「ファンタジックな物語」のイメージがピッタリだなって。現実的な恋愛の話を歌っていたとしても、声が現実離れしていたり、あの音の独特のキラキラ感であったり……。
アニメーションだった“ナタリー”や、青山裕企さんが監督を手がけられた“無気力スイッチ”などのMVが本当に素敵で、大好きだったんです。なんていったらいいんでしょう……ポワンポワンとしている、っていったらいいのかな(笑)。
—擬音にするとそうなりますよね(笑)。瑞々しい現実の手ざわりがありつつ、幻想的な物語性がすごく魅力的です。
ホナガ:あとカワイイ女の子をめぐる独特の世界観。わたしが好きなものがたくさん詰まっていたので、これはリンクさせられるんじゃないか、と。それまでバンドやミュージシャンの方々と生音でのセッションはたくさん重ねてきたのですが、ポップど真ん中の、しかも生音でない音とのコラボレーションは未体験だったので、ぜひやってみたいと思ったんです。
—なるほど、それでさよポニとのコラボレーションの意味がわかりました。それにしても、さよポニはこれまで一度もライブを行わず、主にソーシャルメディア上で活動を繰り広げているグループです。謎に包まれたアーティスト集団と共同作業するというのは、どういう感覚だったんでしょうか。
ホナガ:興味津々でしたね。まず、どうやって楽曲を作ってるのかな、と。その謎に迫りたいという思いもありました。だって、気になりませんか!?(笑)
さよポニさんとの連絡は、届かないはずの手紙が届いているという不思議な感覚でした。
ホナガ:さよポニさんは、不思議な世界観のままラジオもやって、ツイートの仕方も徹底している。あれって、すごく演劇的だと思うんです。それぞれの役割があって、設定も細かくて。
—設定も、リリースされる作品やMV、ソーシャルメディアでの発信やコミック作品などでみんなが知っていく感じですよね。そこにコラボレーションで接触するドキドキ感は、すごいものがありそうです。
ホナガ:最初、Twitterでコンタクトさせていただいた後で、レコード会社の方を通じてのやりとりがあったのですが、実際の反応があっただけで「わあ、本当に届いてる!」と感動しました(笑)。空想の中、絵本の中のキャラクターとやりとりしているみたいな感覚になって……。
—たしかに、ふと気がつくと誰と喋っているのかわからなくなりそうですね。
ホナガ:わからないんです。メンバーのクロネコさんからのメッセージには語尾に「にゃん」とついていたり、「よろポニ」って書いてあったり。「すごい、クロネコさんと喋ってる!」って改めてビックリして(笑)。レコード会社の担当の方を通じて、架空のメッセージを送っている、届かないはずの手紙が届いている、というような、味わったことのない感覚でしたね。
—そうしたやりとりを経て、バーチャルな空間から実態を伴なった楽曲群が送られてきたわけですよね。
ホナガ:はい。当日も、「これ、ご本人たちは見に来るのかな」とかみんなでソワソワしながら話していて。そうしたら公演後に、メンバーの方々が「見てきたよー!」「面白かったー!」ってツイートしていて。「ええっ、今日いたの!?」みたいな(笑)。
—主催者もわからない(笑)。
ホナガ:妖精みたいですよね(笑)。さよポニさんみんなで作りあげている作品や世界観があって、それとコラボしているという感じでした。お客さんもいろんな人がいて……さよポニさんの世界観から、演劇、ダンス、my pandaのカワイイ衣装まで、それぞれ目当てのものが違って、年齢層も幅広くて。そうしたみなさんの期待に応えつつ、ちょっとずつ裏切って、新しい世界を見せられたら、というのが『ななめライン急行』の初演でしたね。
お客さんが全員の顔を覚えて帰ってくれるようなダンサーを育てたい。
—今回の再演に至る動機はどのようなものだったんでしょうか?
ホナガ:演劇とダンスそれぞれの要素が入り混じった作品だったので、練習の仕方がかなり探り探りで。演劇畑の新谷さんは本読みをしてきてくださるわけですが、わたしはセリフひとつひとつに動きを振り付けていくので、セリフと動きの両立は大変でした。
一方で、演劇経験のないダンサーには「え、セリフ喋れないです」と言われて。脚本はすべて当て書きだったので、その人は急遽外国人の役にする、ということも(笑)。調整が大変で、いろんなことが掴め出したときにはもう公演直前まできていたんです。幸いご好評いただいたんですが、わたしたち自身としては、さらにブラッシュアップしたものを目指したいな、と。
『ななめライン急行』メインビジュアル(詳細はこちら)
—なるほど。初演を楽しんだ人も楽しめる作品になりそうですね。それにしても、こうしたオリジナリティー溢れる作品作りに、ホナガさんを突き動かしているものは何なのでしょうか。
ホナガ:ホナガヨウコ企画を最初に立ち上げるとき、「お客さんが全員の顔を覚えて帰ってくれるようなダンサーを育てたい」と思ったんです。先ほどのダンスの見方や言語の話に通じるのですが、わたしはダンスの公演を見た後に、「あのダンサーさん、好き!」みたいな感情を抱きたいんです。
—演劇でもダンスでも、90分や120分という公演時間を経たときに、好みのパフォーマーの人を見つけていることはよくありますね。
ホナガ:そうですよね! だからオーディションでダンサーを集めたときも、わたしの振付で1曲踊ってもらうだけでなく、各々好きな曲を持ってきてもらって、自由に踊ってもらったんです。そしたら、振付では全然踊れていなかった人が、自分の好きな曲で踊ったらすごい動きだらけで爆発的に面白い、ということが起きた(笑)。そうやって、「もう一度会いたい」と感じたダンサーを選んでいった結果できたのが、ホナガヨウコ企画なんです。
わたし、ダンサーとしてのスキルは高くないんですよ。
—それは各々の体の個性というか、「訛り」に近いものですよね。
ホナガ:そうですね。わたしは「癖」と呼んでいて、ホナガヨウコ企画のダンサーには自分の癖を100%活かしてもらいたいと思っています。自分の日常的な動作を大事にして、演出を加えていくと、見ていただく方にとってもどこか心当たりがあるものになって、共感が生まれると考えているんです。
逆に、たとえばスポーツでオリンピック選手の動きを見るときは、完全に傍観していると思うんです。なぜなら、自分の体ではその動きに心当たりがないから。跳躍した瞬間の視界なんてわからないので、なかなか共感できないですよね。
—たしかにそうですね。感情面でシンクロすることはあっても、動き自体には身に覚えがないですから。
ホナガ:それよりは、ベルトコンベアに乗って運ばれてくるものを作業するバイトの人の体とか、レジ打ち、パソコンのキーボードを打つ、紙にものを書くということでもいいんですが、そういう動きの方がわたしたちには心当たりがありますよね。
その複数の動きをDJのように混ぜ合わせていく=演出していくことで、何か新しいものが生まれる瞬間がある――そのアレンジ力で勝負したいんです。だからわたし、ダンサーとしてのスキルはとっても普通なんですよ(笑)。
—普通ですか?
ホナガ:幼少期からダンスしかやってこなかったような人の上手さには絶対に勝てないし、大学で舞踊学を専攻しています、というような人に会うと、もう眩しくて、眩しくて。自分はそんなに足を高くあげたり跳べたりするわけでもないし。でも、そのコンプレックスは先ほどの癖と一緒なんです。どう生かすか、と考えていくわけなんですね。
—ホナガさんは、一般の参加者の人たちと一緒に草原や島でダンスをして、その後に一緒に料理をしてご飯を食べる、というワークショップをしていらっしゃいますよね。あの日常感は、いまの癖を生かす話につながっていそうですね。
ホナガ:はい、そうですね。日常の動作や、自分の癖からダンスが作れるよ、というほうが嬉しいと思うので。よくワークショップで「急に高級食材をもらっても、どうしていいかわかりませんよね」と言います。「え、これどうやって解凍するの? というか、解凍していいの?」って悩んじゃうじゃないですか(笑)。
それよりは、自分の家の冷蔵庫に入っている食材で料理をしようよ――つまり自分たちの日常的な癖でダンスをしてみようよ、と。みんなで持ち寄った食材でダンスを作るのがワークショップ。それを究極まで突き詰めていったら、ホナガヨウコ企画になる、ということなんだと思います。
—舞台上は日常の癖に演出を加えたもの、だと。
ホナガ:一方で、癖を生かせないでいることで、ふさぎ込んでいってしまう人――つまり、「ななめ」になってしまう人もたくさんいると思う。だからこそ、そうやって落ち込んでいる人たちを励ます作品を作りたい。『ななめライン急行』には、こんな思いが集約されているんです。
—なるほど、『ななめライン急行』という作品には、そうした個々の存在への思いが凝縮されている、と。
ホナガ:体の癖って、否定的な気持ちを抱いている人もいるかもしれないんですが、それはその人にしかないものだし、他人から見ても覚えやすいキャラクターになるので、わたしは大事にしたいし、みんなにも大事にしてもらいたいと思っているんですね。
—そうした思いが詰まった『ななめライン急行』を見た後には、観客の心と体も、どこかほぐれているかもしれませんね。
ホナガ:そうあってくれたら嬉しいですね。初演のときのアンケートでは、「わたしもいつの間にか『ななめ』になって、あの列車に乗っているのかもしれない。でも今日見て、ちょっと気持ちが軽くなりました」というような声がとても多くて。自分のことを思い返しながら見た、と言ってくださった方がたくさんいたんです。それこそが心当たりなんですよね。
そこからの解決の仕方は自分次第ではありますけど、舞台の公演に足を運ぶということは、それだけで「ななめ」の状態から一歩前に踏み出した状態なんじゃないかと思うんです。だから、ひとりきりで家にいて悩んでいるより、ダンスを見て「あ、そっかあ!」と思ってもらえる――そんな瞬間を作ることができたらいいですね。
- リリース情報
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- ホナガヨウコ企画
『音体パフォーマンス公演|ふりつけされたえんげき ホナガヨウコ企画×さよならポニーテール「ななめライン急行」』 -
2017年12月1日(金)~10日(日)
会場:東京都 吉祥寺シアター
料金:前売3,500円
- ホナガヨウコ企画
- プロフィール
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- ホナガヨウコ
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ダンスパフォーマー/振付家/モデル。『ホナガヨウコ企画』主宰。実験的でありつつキャッチーでポップな振付と、相反する様に荒々しく激しい自由なソロダンスに定評がある。2001年頃から音楽と身体をセッションさせて情景を描き出す『音体パフォーマンス』という独自のスタイルで、企画、作・演出、振付を行い、楽器の生演奏を多く取り入れたライブ感のある舞台作品を発表し続けている。2006~2016年までの約10年間モデル事務所jungleに所属。2016年4月より独立。現在一児の母でもある。
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