「テンアゲ~」「バイブスやばい!」「マジ卍~」。数々のギャル語に象徴されるように、ギャルカルチャーは想像もつかないスピードで進化し続けてきた。そんな中、満を持したかのように突如現れたのが、ギャル電だ。「ギャルも電子工作する時代」をスローガンに、ギャルによるギャルのためのテクノロジーを提案する電子工作ユニットである。
きょうことまお、もちろん見た目は渋谷系ギャル。ハンダゴテ片手に「光ればモテるし~!」と、独特のユルい「バイブス」が漂っている。だが彼女たちが着ているウェアに銘打たれているのは、「技術的特異点」「感電上等」など、特攻服ばりのいい漢字(感じ)。そして二人が生み出す作品はどれもピコピコ光って、夜の街で否応なく目を引くのだ。
だが、作品といえども決してアートではないらしい。「誰にでも電子工作はできるし、ギャル電になれる!」と話す彼女たちは、電子工作×ギャルの極意を広めるべく各地でイベントを行っている。2018年2月10日には、ASICSの協力のもとスペシャルなワークショップが開かれ、「みんなで電子工作して、光って、ナイトラン!」するらしい。いままさに、「ギャル電」というカルチャーが生まれようとしている。
私たちの答えはいつでも「光ればモテる」だから。(きょうこ)
—先日公開されたASICSとのコラボビデオを見ましたが、そのユルさに衝撃を受けました(笑)。
きょうこ:私たちは普段走ったりしないんで(笑)、ASICSさんとのコラボのお話をもらった時は驚きました。電子工作とスポーツは異ジャンルだけど、私たちの答えはいつでも「光ればモテる」だから、光りながら走ったらいいかなと。何しろ「光る」ってテンションが上がるんで。
まお:光りながら走ったほうが、普通に走るよりパーティー感あっていいよね、って。
きょうこ:真面目な話もすると、ASICSさんとしては暗い夜のランニングの危険性について、もっと啓蒙したいと考えていて。再帰反射材を使ったシューズや、明るい色のウエアも出しているんですけど「もっと光れたら!」ってことで、私たちにお呼びがかかったと(笑)。
まお:2月10日のイベントでは、ワークショップで光るものを一緒に作って、ウェアラブルなものに落とし込みます。そのあとに、それを身につけて「バイブステンアゲ~」って言いながらみんなでナイトランするんです(笑)。
ギャル電が制作した光るサンバイザーやカセットテープのアクセサリー
ギャル電がカスタムしたASICSのキャップ(イベント詳細を見る)
—今回のビデオもそうですが、お二人は「意識の低いプレゼン」を掲げていますよね。なぜあえて「意識の低い」をコンセプトの軸にしているのでしょうか?
きょうこ:プレゼンと聞くと「仕事だからきちんとしないと」って構えちゃうけど、心に残るプレゼンになっていれば、ちゃんとしてなくてもいいと思うんですよ。動画のように、まずは人前で言ってみることが大切。
まお:ギャルってパワーワードをめっちゃ使うから、プレゼンには向いてると思うし。
きょうこ:そうそう、ラップのパンチラインとも似てるしね。プレゼンは意識が低くてもインパクト勝負じゃないですか。今日のプレゼンはマストで勝たなくてはいけないという時に召喚される「代打プレゼンター」という職業が現れてもいいんじゃないかなと思うんです。
まお:「オリンピック招致すんぞ!」というプレゼンで「代打、ギャル電」とかね。
—そもそも、「意識の低いプレゼン」を始めたきっかけは?
きょうこ:私たちはステージで目立つことは好きなんですけど、ダンスができるわけでも曲が作れるわけでもないんです。
まお:ラップも挑戦したけどできなかったし。才能がまったくなかったですね。
きょうこ:それで、音楽的な才能がなくてもステージで輝けるのはプレゼンかも! と思って。
まお:プレゼンは、スマホやパソコンでスライドさえ作れば、誰でもできるし。画用紙だっていい。自分がアピールしたいものを書ければ、それでステージに上がれるし、みんなをアゲられる。
きょうこ:ラップも「オレら楽器ができない」っていうネガティブなところから始まって、むっちゃかっこいいものになったじゃないですか。
まお:私たちの場合、楽器もラップもできなくて、その「できなさ」が煮詰まった結果、「プレゼン」になった(笑)。
きょうこ:頭が良くなくてもみんなをアゲられるプレゼンの方法、フォーマットをヒップホップのように発明したらいいじゃんって。それが「意識の低いプレゼン」の始まりです。
アングラな場所にいる女の子が、電子工作をしていたら最高にいいなって。(きょうこ)
—そもそも、なぜ「ギャル」と「電子工作」を組み合わせた活動をやろうと思ったのでしょうか?
きょうこ:私はもともとサイバーパンクとかSFが好きで、趣味でポールダンスをやっていたんです。そういうアングラな場所にいる女の子が、電子工作をしていたら最高にかっこいいなってアイデアがあって。楽屋裏でハンダゴテを持って電飾衣装を直す、みたいな。
—ディストピア小説みたいなイメージでしょうか。
きょうこ:まさにそうです。そんな妄想を実現すべく、「電子工作ができるギャルいない?」って2年くらい探してたんです。
—なかなか見つからなさそうですよね(笑)。
きょうこ:当時、ネットで「ギャル 電子工作」と検索しても1件もヒットしなかった(笑)。それで1年半ほど前に知り合いに紹介してもらったのが、まおでした。
まお:私はずっとギャルなんですけど、これからの世の中をサバイブするには技術があったほうがいいと思って、テクノロジーの勉強をしようと、大学の工学部に進学したんです。
それでロボットを作る実習の時に、「ロボットより光るものを作るほうが楽しくね?」と思って、自分で「盛れる」電子工作を作り始めました。
—お二人の役割分担はありますか?
きょうこ:どっちも電子工作はするんですけど、私は衣装を作っていた経験もあるので、大掛かりな工作を担当することが多いですね。まおはきっちり工学を学んでいるので、電気回路とか計算系のもう少し複雑なことをやってくれています。
まお:工作はきょうこさんに学びつつ……ですね。
新しいギャルカルチャーを勝手に作ろうとしてるんです。ワンチャンあるぞと。(まお)
—まおさんは「きょうこさん」と呼んでいるんですね(笑)。
きょうこ:私のほうが年上なんで(笑)。
—きょうこさんは世代的にもまおさんより上ですよね。お二人の年代差から生じるギャップが、活動にも影響していることはありますか?
きょうこ:私はハードコアなヤンキーカルチャーとかが好きなので、昔のことは任せろってスタンスですね。『トラック野郎』(1970年代に制作された鈴木則文監督、菅原文太主演の映画シリーズ)や『ザ 暴走族~極悪伝説』(1970年代の暴走族についてのドキュメンタリー映像)のYouTube映像を送りつけたりして、まおを啓蒙しています(笑)。
まお:あと「これを聴け!」って1980~90年代の音楽が送られてきます。いつも好きになるんですけど(笑)。最近は、いとうせいこう & TINNIE PUNXの“東京ブロンクス”(1986年リリース)にハマりました。正直、3年前に聴いてたらあまりピンとこなかったと思うけど、いまはまあまあかっこいいと思う!
—「まあまあ」ですか(笑)。
きょうこ:ヤングの辛辣な意見ですね(笑)。でも、時代がグルっと一回りしてる感じはありますよ。1990年代のレイブカルチャー的なファッションが、また来ていたりして。私、FILA(1990年代に流行したイタリア発祥のスポーツブランド)とか着る日は絶対もう来ないと思っていたんですけど(笑)。
まお:いまFILAかっこいいよ!
きょうこ:この年代差のギャップも、ギャル電のいいところかなと思います(笑)。
—まおさんを啓蒙しつつ、まおさんの感覚を通して時代が回っているのを実感されているんですね。
きょうこ:あと、ギャルカルチャーにもやっぱり変遷があって。1つの群れが絶滅しては、また別の群れが勃興してくるという繰り返しなんですよね。あ、ギャルは「勃興」とか言わないか(笑)。
—たしかにヤマンバギャル(1990年代末期から2000年代初頭のギャルのスタイルの一種)とか、すっかり見かけないですもんね。
きょうこ:そうです。私のギャルのイメージは、1990年代中盤のオールドスクールなコギャルですけど、まおのイメージはネオギャル(2013年頃に生まれたギャルのスタイルの一種)で、世代によって違うんですよ。
まお:私は、2年前までネオギャルでした。でも、いまはギャル電になったんで、進化を遂げたとも言えます(笑)。
きょうこ:世間的にはネオギャルも死に絶えて、そのあと女子大生も黒髪でおとなしめというノームコア(一見地味で普通であることが特長のファッションスタイルの名称)な流れがあって。実は、いまってギャルの空白の時代だと思うんです。
まお:私は高校までタイに住んでいたんですけど、その時からギャルが大好きで、『Popteen』とか『egg』(ギャル系のファッション誌)を読んで、渋谷のギャルを研究していたんです。でも、大学で日本に帰ってきて、いよいよ「渋谷行くぞー!」って街に降り立ってみたら、そんなギャルは一人もいなかった(笑)。
—ギャルが死に絶えていたと……。
まお:だからこそ、ギャル電で新しいギャルカルチャーを勝手に作ろうとしてるんです。ワンチャンあるぞと。
—つまり、ギャルカルチャーが絶滅してはまた生まれる……というサイクルの中で、「ギャル×電子工作=ギャル電」が現れ、増殖して、次のカルチャーとなっていくイメージですか?
きょうこ:そうですね。よく「ギャル電のメンバーは増えないの?」と聞かれるんですけど、ユニットのメンバーを増やしたいという考えではなくて。「私、ギャル電だよ」って勝手に発信してもらって、ギャル電というカルチャーがどんどん広まったらいいなと思っているんです。
まお:普通の子が読モの真似をしていくことで、ネオギャルが広まったのと同じ感覚です。ギャル電はカルチャーなので、別に女の子じゃなくてもいいんですよ。オジさんでもギャル電になりたいと思えば、どんどん光って欲しい!
「ギャル電は才能があるからできた」という結論にはして欲しくない。(きょうこ)
—普通の子でもオジさんでもギャル電のカルチャーが広まっていけばいいという感覚に、ヒップホップやヤンキーのカルチャー同様、ストリートならではのタフネスを感じますね。
まお:私たちのやっていることが「メディアアート」だと言われることもあるんですけど、アートとして括って欲しいわけではないんです。あくまでストリートであるというスタンスは崩したくない。
きょうこ:もちろんアートは好きですし、リスペクトもしていますけど、私たち自身がアートとして括られることで「あの人たちは才能があるからできた」という結論にはなって欲しくないんです。
—ギャル電がやっている電子工作に、特別な才能はいらないということですか?
きょうこ:実際、私たちも才能があるわけではなくて、電子工作をやっているギャルがいままでいなかったから目立っているというだけなんですよね。別に難しいことをやっているわけではないんです。
まお:私たちは、アート作品を発表しているわけではなくて、「こうすると面白いじゃん、遊ぼうよ」という提案をしている感覚で。だから、みんなにも自分で作ってみて欲しい。ギャル電とは、単純に「電子工作をするギャル」のことですから。
きょうこ:ハンダ付けと巻き髪を作るコテは同じ原理だし、ネイルの細かいデコができるなら精巧な工作だって作れるはず。
きょうこ:ギャル電に作ってもらおうという意見も時々あるんですけど、「何を見てたんだ!!」とゲキオコですよ。買うとかじゃなくて、「自分の好きなものを作れる」ということに意味がある。私たち自身、女子ということもあって「本当に作ってるの?」と思われることも多いんですけどね。
まお:そう言われるとムカつきますねー。
—工学が男子のものという、世の中のイメージに対して物申したい気持ちもあると。
きょうこ:男の人がギャルになりたいと思ってもいいし、女の人がゴリゴリ車とかハードをいじっていてもいいと思う。すでに意識しないでやっている人はもちろんいますけどね。
まお:得意な人がやればいいですよね。「男は~、女は~」と性別で考える必要はなくて、好きでやっているならいいじゃんって思う。
きょうこ:だから「リケジョ」なんて言葉は本当にイヤですね。
まお:「リケジョ」って響きもダサいからヤダー! まあ、私たち中身は工学系男子だから、根は暗いんですけどね(笑)。
海外のギャルにも「渋谷のギャルは、みんな電子工作して光ってるんだよ」って広めたい。(きょうこ)
—ギャル電というカルチャーを広めていくためには、電子工作をするだけではなく、作ったものを身につけたり持ったりして街に出ることも重要な活動だと言えますか?
まお:街に遊びに行くことも大事なんだけど、SNSとかでも「盛れてる」ということが発信できる方法をアピールしたいんですよね。こうしたらインスタ映えするよって、家の中にいるギャルたちに伝えていきたい。
きょうこ:そう、特に都会に住んでいないギャルたちにね。ネットで拡散されていくのと、実際に街に繰り出すのは同じスタンスですから。
まお:「こういうの作ったよ!」というバイブスは、どんなコミュニケーションでも変わらないからね。
きょうこ:ネットを通じて、海外のギャルにも「渋谷のギャルは、みんな電子工作して光ってるんだよ」って広めたいです。それができたらアツいわ~!
ターンテーブルの間違った使い方からヒップホップが発明されたという話がすごく好きで。(きょうこ)
—個人的には、ギャル電のゴテゴテっとしたデバイスを装備してストリートに出ていくという行為は、1970~80年代に「ゴシック・フューチャリズム」(カソリック教会における文字のコントロール等について言及した理論)を提唱したヒップホップアーティストのラメルジーを彷彿させます。
きょうこ:それはすごく嬉しいです! ラメルジー大好きなんですよ。
まお:私もメディアアートよりも、やっぱりラメルジーとかリー・ペリー(ジャマイカのレゲエアーティスト、ダブエンジニア。独特のファッションでも有名)とか、ラッパーからの影響のほうが強いですね。
きょうこ:実際、デコトラのキャップを作った時は、リー・ペリーの写真を見て装飾のバランスを研究しました。
—リー・ペリーもゴチャゴチャとした格好をしていますもんね(笑)。
きょうこ:あとヒップホップといえば、私はターンテーブルの間違った使い方からヒップホップが発明されたという話がすごく好きで。あれは、最大級に尊い発明だと思う。
まお:ギャル電も、ギャルが電子工作をすることでおかしな何かを生み出したいです。
きょうこ:誤った使い方と踏み外すことには、こだわりたいですね。とにかく、そういうアプリオリに間違えたところで進化するものが面白いと思うし、生理的に好きです。
—予定調和で融合したものではなく、ある種のハプニングでできたものということでしょうか。
きょうこ:そもそもの理屈であれば生まれなかったものというか。例えば、このレコードはダサいから本来ならかけないんだけど、一部分のかっこいいところだけ、ループして使うとか。
—レコードの一部だけ再生するというのは、ヒップホップ以前はありえない使い方ですもんね。
きょうこ:全体としてダサかったらそもそも使えないレコードですよね。そういうネガティブで本来は起点にならないところからスタートせざるを得ない感じがグッときます。だから、少し縛りがあるほうが燃えますね。
人が大勢集まってシーンが生まれると、原始宗教っぽいグルーヴになる時がある。(きょうこ)
—ラメルジーのコスチュームも、本来は異質なもの同士の組み合わせでできています。未来的でありながら、よく見ると原始的なファクターも取り込まれていたり。
きょうこ:そこがまさに私のラメルジーの好きなところで。呪術っぽい要素とかアニミズム、プラスチック、デザインやファッションみたいな、普通は掛け合わせないものが高度に混在しているところがかっこいいなと。
きょうこ:面白いのは、どれだけテクノロジーが発達しても、人が大勢集まってシーンが生まれると、原始宗教っぽいグルーヴになる時があると思うんですよ。
—どういうことでしょうか?
きょうこ:例えば、震災の時のTwitter上のデマ騒動にしても、情報が行き渡っている現代社会で、人ってこんなにも簡単に嘘を信じてしまうんだなと感じたんですよね。ロジカルな世界から急に肌感覚の世界に切り替わってしまったというか。そういう現象って、社会におけるシステムエラーみたいなことだと思うんですよ。
ー大勢の人たちが一気に肌感覚だけを頼ると、「原始宗教っぽいグルーヴ」が生まれると。
きょうこ:いまはスマホのような高度化したテクノロジーを、誰しもが感覚的に使えるようになっていますよね。その結果、テクノロジー用語の使い方として本来はありえない「ギガが減る」みたいな、生理的かつ原始的な表現へ回収されていく。そういうのって、すごく面白いなと思うんですよね。
—なるほど。言われてみればそうですね。面白い。
きょうこ:だから、ギャル電も世の中のエラーみたいな存在でありたいし、感覚的なことをスルッと狙ってやっていきたいです(笑)。
- イベント情報
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- 『ギャル電 presents ランニングをアップデート~電子工作でもっと輝けナイトラン~』
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2018年2月10日(土)
会場:東京都 アシックス原宿フラッグシップ※応募受付期間:2月7日(水)19:00まで
※当日のイベントの模様はFacebook / Twitter / Instagram「#ランニングをアプデ」をチェック
- プロフィール
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- ギャル電 (ぎゃるでん)
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現役女子大生ギャルのまおと元ポールダンサーのきょうこによる電子工作ユニット。「デコトラキャップ」「会いたくて震えちゃうデバイス」などギャルとパリピにモテるテクノロジーを生み出し続けている。夢はドンキでアルドゥイーノが買える未来がくること。
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