雑誌『装苑』の専属モデルを務めるSUMIREが、宇賀那健一監督の映画『サラバ静寂』で女優デビューを果たした。本作は、音楽や映画、小説などの娯楽が一切禁止された日本が舞台の、アナーキーな「青春ノイズ映画」となっている。ミュージシャンであり、映画『PiCNiC』や『スワロウテイル』でヒロインを演じたCharaと、俳優と並行してバンド活動も継続的に行なっている浅野忠信の長女として生まれ育ったSUMIREは、「陰で音楽を楽しむ者はまともじゃない」と言われ、徹底的に排除されてしまう世界をどう感じたのか。前作『黒い暴動♥』(2016年)ではThe ClashやThe Who、The Doors、The Stoogesらへのリスペクトを込めていた宇賀那監督とSUMIREに、音楽とは何か? について語ってもらった。
風営法が改正になったり、年々、表現に関する規制が色々とナーバスになってきてて。(宇賀那)
—まず、音楽が禁止された世界を描こうと思った理由から聞かせてください。
宇賀那:僕自身、音楽が好きっていうのが大きいところではあります。僕の周りにも音楽や映画をやっている人は多いですけど、「なんのためにやっているか?」と言ったら、「やりたいからやってる」っていうことだと思うんです。なくても死ぬわけではないし、無駄なものかもしれない。それでも音楽をやっているっていうのは、すごく人間的で美しいなと思って。
そんな中、年々、表現に関する規制が色々とナーバスになってきてて。数ある表現の中でも、音楽って一番禁止されやすいと思うんですよ。ライブハウスやクラブという場所にネガティブなイメージを持ってる人もいますし。だから、音楽に対する規制と、どうしても音楽をやらないといけない人たちを描けたらなと思って、制作がスタートしました。
—音楽や映画、アートに溢れた家庭環境で育ったであろうSUMIREさんを起用したのは?
宇賀那:音楽がない世界とはいえ、SUMIREちゃんが演じるヒカリは父親も音楽が好きで、あの世界では考えられないくらい、カルチャーに触れていた人物だと思うんですよね。その説得力みたいなものは、SUMIREちゃんだからこそ出せるものだと思いました。
SUMIRE:そうですね。自分で言うのもあれですけど……両親が両親なので、そういうものにはたくさん触れて育ってきていると思います。母親の方が一緒にいる時間が多いんですけど、家にいろんなCDとか楽器があったりするので、音を聴いたり、音楽を知る機会は、確かにほかの人よりは多いと思いますね。
—SUMIREさんは、現時点ではSFともいえるこの設定をどう感じました?
SUMIRE:今って、音楽は欲しい時にすぐに手に入るじゃないですか。お金を払わなくても、YouTubeを使えば無料で曲を聴いたり、MVを見たりできる。それが当たり前の時代だから、今の私じゃ『サラバ静寂』の世界で生きていくのは無理だなと思いますね。いつでも、どこにいても聴けることに慣れちゃってるから、どうしても音が欲しいって思ってしまいます。
そういう意味では、この映画を見ることで、やっぱり音楽ってすごいんだなって。音楽の有り難みを感じて、音楽に対する作り手のガッツとか熱さが、もっとたくさんの人に伝わればと思いました。
映画『サラバ静寂』場面写真 ©『サラバ静寂』製作委員会(サイトを見る)
映画『サラバ静寂』場面写真 ©『サラバ静寂』製作委員会(サイトを見る)
—劇中では「闇ライブ」として開催されているイベント『サノバノイズ』に行くのを夢見る若者が描かれていますが、現代の日本では飽和状態というくらい、音楽フェスやイベントが溢れています。
宇賀那:音楽フェスが増えてきた理由も、音楽が無料で手に入るからだと思うんですよね。音楽をどこで聴くかってなると、ワンマンライブとかよりも気軽に行けて、いろんな音楽が楽しめるフェスやイベントになるんだろうと。
ただ、そのあり方っていうのは常に変容していて。極論だけど、一歩間違えば、この映画のように音楽が規制された世界がきてもおかしくないと思うんですよね。それがいいのか悪いのかは別ですけど、ちょっと前までは火炎放射器をライブでぶっ放すバンドとかもいたわけじゃないですか。そういうことがどんどん出来なくてなっているし、ドラマや映画、お笑いの表現もどんどん規制されるようになってる。たとえ、それが冗談だとしても、コンプライアンスに引っかかってできないこともありますし。表現の幅は、どんどん窮屈になってきていると思います。
—イベンターさんによっては、ライブでのモッシュ、ダイブ、サークルを禁止してるところもありますね。
宇賀那:結構多いですよね。だから、劇中のライブハウスのシーンでは、どうしてもダイブさせたくて。僕、そのシーンで走って行って、主人公のミズトを無理やり持ち上げてダイブさせてるんです。だから、自分が映っちゃっていて(笑)。
もちろん、危ないからダメだっていうのはわかるんですけどね。だけど、本来なら規制されがちなそういう部分も、作品の中で描きたいなと思って。
SUMIRE:私はああいう激しいライブに行ったことがないので、撮影中に見ていて羨ましいなと思いました。ライブのシーンは本当にライブに行ってるようで素直に楽しかったです。
人が意思を持って、何かを伝えたいと思って作ったものであれば、それは音楽だし、映画であるんじゃないかと。(宇賀那)
—本作の撮影を通して音楽の捉え方は何か変わりました?
SUMIRE:価値観が変わりましたね。改めて、自分にとって音楽って大事なんだなって。さっき監督も言ってたように、なくても死なないものだけど、やっぱり必要不可欠だと思う。便利な今の世の中では、音楽の大切さってみんなが気づいてないと思うので。音楽の偉大さを再確認できたのはよかったです。
宇賀那:僕は「音楽ってなんだろう」っていうのをずっと考えていて。この作品を作るにあたっていろいろ調べたんですけど、数年前までは音楽がない国が実際にあったという説もあるみたいで(小沼純一著『サウンド・エシックス これからの「音楽文化論」入門』には、イランの都市イスファハーンには、歌を知っている人がいなかったという一節がある)。
—言葉より先に歌や音楽があったのかと思っていました。鳥の鳴き声の真似とか。
宇賀那:そうなんですよ。それも諸説あって。まだ言語が生まれる前に、重い物を運ぶ時に、たとえば「よいしょ」っていうタイミングを合わせるために歌が生まれたっていう説もあって。だとしたら、個々で住んでない限り、音楽は全世界にあるはずなんですよね。
それに、どこからが「音楽」なんだっていう話もあって。劇中では、鉄パイプをカンカン鳴らして、音楽を作っていく。だけど、人からそんなの騒音だよって言われたら、その人にとっては騒音なわけですよね。
そういう「言葉」が包容するイメージっていろいろあるじゃないですか。一口に「映画」っていっても、人がイメージするものはいろいろあるし、「音楽」といってもいろいろある。だから、何が「音楽」で、それがどういうものかをすごく考えたんです。
—答えは出ました? 宇賀那さん個人としては、「なくても死なないけど、必要不可欠なもの」である音楽。『サラバ静寂』の監督としてはどう答えます?
宇賀那:難しいですけど、人が意思を持って、何かを伝えたいと思って作ったものであれば、それは音楽だし、映画だし、表現なんじゃないかと思ったんですよね。何よりも重要なのは「形」ではなくて、「意思」の部分なんだっていうのは感じました。
—本作も、若葉竜也さん演じるトキオが作った曲を「誰かに聴いて欲しい」という思いが原動力になって、物語が進んでいきますよね。「世界中に音楽が届いたら、何かが変わるのかな」と言うセリフもありましたし。
宇賀那:彼らのように、この作品も誰にも届かないのが一番嫌なので。とにかく、いろんな人に観ていただいて、いろんな感想があると思いますが、どんどん広まっていけばいいなと思いますね。
日々の天気と同じように、音楽はその日の自分の気分を支えるもの。(SUMIRE)
—今作では「音楽のない世界」を描いているわけですが、様々な娯楽がある中で音楽はご自身にとってはどんなものですか?
SUMIRE:その日の自分の気分をコントロールしてくれるものですね。天気が良くて気分がいいなっていうときは、ちょっとテンポのいい曲を聴くし、天気が悪い日はしっとりした曲を聴いたりとか。日々の天気と同じように、音楽はその日の自分の気分を支えるものになってますね。
宇賀那:僕は教科書だと思ってて、音楽はいろんなものを教えてくれるんですよね。たとえば、The Beatlesがいた時代、ブリットポップの時代、その時代時代によって音楽が対向するものは変わってきているわけじゃないですか。だから、音楽を聴くことで、歴史やその土地のことを知ることもできる。
音楽は、いつも自分の目の前に常にあって欲しいものだし、聴くことによって自分を変えてくれるものでもある。深く知ろうとすれば、また違った側面を見せてくれる。本当に多様なものだと思います。
—劇中には様々な音楽が使われてますよね。出演アーティストのジャンルも幅広いですし、ライブシーンででも、パンク、ヒップホップ、祭囃子のようなものもあって。
宇賀那:いろんなジャンルの音楽を取り入れたいと思ったんですよね。だから、それぞれの人物をいろんなジャンルの音楽と一緒に描いています。ヒカリはクラシックを聴いているし、灰野(敬二)さんはノイズ、大貫(憲章)さんはDJとしてのUKロック、GOMESSはヒップホップ、ASSFORTはハードロック……。劇中ではレゲエもかかってます。いろんなジャンルに目を向けて、映画全般に音楽が行き届くような形にしたいなと思ってました。
—ご自身の音楽的なルーツというと?
宇賀那:僕はThe Beatlesですね。親がよく聴いていて。The Beatlesから派生して、そこから影響を受けたバンドを聴いたり、そこをもっと掘っていったり。そういう聴き方が好きなんですよね。音楽の影響で、映画を見たり、本を読んだりとかもあるので。
—監督のルーツはパンクかと思ってました。
宇賀那:僕の前作のタイトル『黒い暴動♥』は、The Clashから来ているので、もちろんパンクも好きですよ(The Clash の1stアルバムのタイトルが『白い暴動』)。
—SUMIREさんはどんな音楽を聴いてきました?
SUMIRE:自分が中学生の時によく聴いていた曲が今でも好きだったりしますね。音楽はあんまり詳しくない方なんですけど、当時、チャットモンチーをよく聴いてて。『耳鳴り』(2006年)と『生命力』(2007年)は特に好きで、今でも聴くし、カラオケでも歌います。“シャングリラ”とか“恋愛スピリッツ”とか“恋の煙”とか。“染まるよ”っていう曲が大好きで。
宇賀那:あれ、めっちゃいいよね。俺もチャットモンチーの曲の中で一番好き。
SUMIRE:声もいいけど、歌詞もいいんですよね。あとは、その頃のRADWIMPSとか、(椎名)林檎さん、YUKIさん。今でもよく聴くし、聴くと中学の時を思い出しますね。
宇賀那:時間を超えるよね。空間も超える。
—ちなみにCharaさんやSODA!の曲はどうですか?
SUMIRE:iPodには入ってたりしますけど、そんなに聴かないですね……。家に帰ったらいるので(笑)。
—そういうもんですよね(笑)。この作品で女優デビューを果たしたわけですが、表現の方法として、音楽という選択肢はなかったですか?
SUMIRE:以前に少しドラムをやっていたことはありました。高校の時にバンドを組んでたんですけど、解散しちゃったので音楽はそれっきりです。今はカラオケで十分かな(笑)。
(SUMIREちゃんは)『リバーズ・エッジ』も含めて、今は素に近い役が多いけど、セリフが多い役とか見てみたい。(宇賀那)
—SUMIREさんは今回、初めて演技をしてみてどう感じました?
SUMIRE:面白いですね。モデルとは違って、いろんな感情の自分とか、いつもとは違う自分が見れるので勉強になります。
もともと、演技自体には興味があったので、監督からお話をいただいたときに、やってみたい! って飛び込みました。だから、私にとってこの作品は、女優というお仕事を意識するきっかけをくれたというか。
宇賀那:いま、それを言われてドキドキしてる。光栄です。
SUMIRE:あははははは。女優のお仕事は始めたばかりなので、これからどうなっていくかはわからないですけど、いろいろ挑戦してみたいです。
—宇賀那監督は役者業もやっていますよね。SUMIREさんの初演技はいかがでした?
宇賀那:僕は『装苑』とCharaさんのMVのイメージしかなかったんですが、話してみると、いい意味で男っぽいというか。なんでも「頑張ります!」って言ってくれるし、部活の後輩みたいな感じがありました(笑)。言い方悪いけど、変な女優然とした感じは全くない。
演技も、その場での立ち方やあり方に説得力があるんですよね。その空間にどう馴染んで、どう居るかっていうのはかなり重要で。モデルをやってるからかどうなのかわからないけど、そこの順応の仕方がすごい長けていて。
だから、すごく絵になるし、ただ絵になるだけじゃなく、感情が上がるところは一気に引き上がったりする。そこの、レンジの深さが面白いなと思いました。
次に出演する映画『リバーズ・エッジ』も含めて、今は割と素に近いキャラクターが多いけど、セリフがめちゃめちゃ多い役とか見てみたい。よく喋る役とか。
SUMIRE:コメディーとか?
宇賀那:一番最初にお会いした時に、「お笑いが好きで、サンドウィッチマンをよく見てる」って言ってたんですよ。だから、案外コメディーとか、いいのかもしれない(笑)。
SUMIRE:また違うスイッチが入りますね。今回、いざ自分が演技して、でき上がった映像を見て、女優としての自分の映り方もわかったし、コメディーも面白そう(笑)。
モデル業の方でも、たとえば、ゴスロリや制服とかにも挑戦してみたいですし(笑)。(SUMIRE)
—最後に、本作で女優への第一歩を記したSUMIREさんにエールをいただけますか?
宇賀那:SUMIREちゃん、めちゃくちゃガッツがあるんですよ。クランクイン前に冗談で、「2週間、風呂に入れないよ」って言ったら、「わかりました。全然大丈夫です!」って言ってて。
SUMIRE:ほんとですか? 覚えてないな(笑)。
宇賀那:今後、SUMIREちゃんのいろんな面をどんどん見せられていくといいね。あとは、いまのまま純粋にいてほしい。
SUMIRE:うん、頑張ります。自分としては、もうちょっと柔らかく表現できる自分を見てみたい。普段の自分はふざけたりするのが好きなんで、本当はコメディーとかそっち向きなんですよ。
今はまだ、私のそういう面を知らない人が多いと思うので、もうちょっと殻を破ってみたいと思いますね。だから、モデル業の方でも、たとえば、ゴスロリや制服とかにも挑戦してみたいですし(笑)。まだほんの一部分しか出せてないので、今後幅を広げていろんなことに挑戦していきたいですね。
- イベント情報
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- 『サラバ静寂』
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2018年1月27日(土)から渋谷ユーロスペース 他、順次全国公開予定
監督:宇賀那健一
出演:
吉村界人
SUMIRE
若葉竜也
森本のぶ
斎藤工
仲野茂(特別出演)
大貫憲章(特別出演)
灰野敬二
ASSFORT
GOMESS
切腹ピストルズ
- プロフィール
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- 宇賀那健一 (うがな けんいち)
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1984年4月20日生まれ。青山学院経営学部出身。ブレス・チャベス出身の映画監督/脚本家/俳優。俳優としてTV CM『メントスレインボー』シリーズ、映画『着信アリfinal』、ドラマ『龍馬伝』などに出演。初監督した映画『発狂』がアメリカを中心に数々の国際映画祭に入選。続けて監督した三作品がカンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナーに入選。『ゆうばり国際映画祭2011』では「宇賀那健一監督特集上映」が行われた。ガングロギャル映画『黒い暴動♥』が2016年に公開された。
- SUMIRE (すみれ)
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1995年東京生まれ。ミュージシャンの母、Charaと俳優の父、浅野忠信の長女としてアートや音楽に自然と触れ合う環境で育ち、モデルの仕事を始める。2013年11月にCharaのMVに出演し注目を集め、2014年4月より雑誌『装苑』専属モデルに。身長165㎝、北欧由来のブルーにもハシバミ色にも見える瞳に、アジアの血を感じさせる顔立ちのコンビネーションが持ち味。2018年公開の宇賀那健一監督映画『サラバ静寂』でヒロイン役を演じ、映画デビューが決定している。今後はファッションを中心に、役者まで幅を広げながら活動予定。
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