なぜ、人は「大人になる」ことと、「諦める」ことを、イコールで結びつけてしまうのだろう?――と、そんなことを偉そうに言っている自分にも、心当たりがある。だって、自立すれば、やらなきゃいけないことは増えるから。時間の流れも速く感じるし、欲しいものが手に入らないことも知ってしまうから。「早く大人になりたい!」と願っていた子供の頃の自分の気持ちなんてよそに、「疲れた」「しんどい」「生活するだけで一苦労だよ」……大人になればなるほど、そんな言葉が口を突いて出てしまう。
でも、toconomaの四人は違う。彼らは大人になることが「諦める」ことではなく「自分の力で自由なること」だと知っている。2008年結成の4ピースインストバンド、toconoma。全国各地のライブハウスを回り、『GREENROOM FESTIVAL』や『朝霧JAM』などの大型野外フェスにも出演する彼らは、月~金曜を音楽以外の仕事にあて、土日をバンド活動にあてるという、いわば「週末バンド」として活動している。自分で働きながら生活している人たちにはわかると思うが、こんな生活を続けていくことは、並大抵のことではない。なぜ、彼らにはこれができるのだろうか? 今回、メンバーの石橋、西川、矢向の三人に話を聞きながら、いろいろと納得できた。やっぱり、欲しいものは明確な方がいいのだ。
インストバンドだからこそ、タイトルはイメージが広がる言葉にしたい。(石橋)
—去年は3年ぶりとなる3rdアルバム『NEWTOWN』のリリースもありましたが、改めて、2017年はtoconomaにとってどんな1年でしたか?
西川(key):前半は制作活動が主で、後半は長いスパンで全国ツアーを回らせてもらって。結構ハードでしたね。ツアーも、普通のバンドからしたら本数はそんなに多くないのかもしれないけど、月~金曜、他の仕事をしていますので(笑)。
—toconomaは、みなさん社会人として働きながら、土日に活動する「週末バンド」として、ずっと活動されていますもんね。そのスケジュールでツアーを回るのって、正直、とんでもなくヘビーですよね……。
西川:そうなんですよねぇ(笑)。今日もドラムの清水が諸事情でこれなくて、すいません……(笑)。
左から:矢向怜(Ba)、西川隆太郎(Key)、石橋光太郎(Gt)
—そんなツアーのなかで、印象に残っている出来事などはありましたか?
西川:やっぱり、対バンは印象に残っていますね。jizueみたいに元から仲がよかったバンドとも一緒にやったし、名古屋で一緒だったDÉ DÉ MOUSEさんとは、ガッツリと一緒にやらせていただいたのは初めてで。
石橋(Gt):DÉ DÉ MOUSEさん、面白い人だったね。彼は、多摩ニュータウンが好きなんですよ。多摩ニュータウンからインスパイアされて曲をたくさん作っていらっしゃるという話を聞いて、僕自身、多摩ニュータウンの出身だし、奇遇だなぁって。
—toconomaの新作のタイトルも『NEWTOWN』じゃないですか。このタイトルにしたのは、どうしてだったんですか?
toconoma『NEWTOWN』ジャケット / デザインはGt.石橋によるもの(Amazonで見る)
石橋:これまでのタイトルが『POOL』(2013年リリース、1stアルバム)、『TENT』(2014年リリース、2ndアルバム)ときて、やりたい音楽の方向性もどんどんと変わってきたし、「新しく開けた場所に行きたい」っていう漠然としたイメージはあったんですよね。
そのなかで、「ニュータウン」という言葉は、改めて字面で見ると、なかなか素敵だと思って。新しいけど懐かしい感じがするというか。一昔前までは、「ニュータウン」というと、過疎化が進んでいる地域っていう印象もあったと思うんですけど。
—そのイメージは強いですよね。
石橋:でも、実は人口も年々増えていて、のんびりしていていい場所だし、不思議な空間になっているな、とも思うんですよ。
—その不思議さって、どんなものなのでしょうか?
石橋:僕はいま34歳なんですけど、多摩ニュータウンに越したのは小学2年生の頃で、当時は、植木も埋まっていない状況だったんですよ。まだ「山を切り崩して作られた街」っていう感じだったし、実際、重松清さんのような上の世代の作家の方が、ニュータウンに対して「きっちりと区画整理された、人間味のない街」っていうような批判的な書き方をされたりしていて。
でも、実際にそこで小さい頃から遊んだりしていると、区画整理された街並みのなかにも血が通ってくるんですよね。でき上がってから30年くらいの月日を経たことで、かつての「未来都市」的な雰囲気はありつつも、ある種の「下町」感のようなものも生まれてきているというか。
矢向(Ba):僕ら世代が大人になって振り返ったときに、「やっぱりいいよね」って思える場所なんだろうね。
石橋:うん、DÉ DÉ MOUSEさんも、そういうことをおっしゃっていたような気がします。日本中探しても、あそこまで区画整理されてきっちりと作られた街って、そうそうないらしくて。そんな街で人が暮らして、歴史や文化が緩やかに堆積して、あの不思議な空気感が生まれてくる……その点は、非常に面白いと思いますね。
石橋:「ニュータウン」というものに対する考え方は語りましたけど、タイトル自体には、そこまでの深い意味はないんですよ。うちらはインストバンドだし、バンド名とか曲名とかにも、そこまで主張はないんですよね。声に出して言いたいことがあるかというと、別にないバンドだから(笑)。
—ただ、『POOL』『TENT』『NEWTOWN』……どこか空間的なモチーフがタイトルになっている部分は、一貫していますよね。
石橋:そうですね。意味や場所を限定しすぎない形で、「なんかよさそうだな」というイメージが広がる言葉にしたいっていうは常にありますね。言いたいことはないけど、言葉の空気感にはこだわっているというか。
たとえば『POOL』っていうアルバムのタイトルは、作品が夏にリリースされたこととか、曲調に夏っぽいものが多いから付いたタイトルなんですけど、同じ「夏」の言葉でも、「SUMMER」とか「SKY」だったら全然面白くないと思うんですよ。ちゃんと、言葉自体がそれ以上の意味を語ってくれるようなものがいいと思うんです。
極論、ステージ上の僕らの方は観てくれなくてもいいですから。(石橋)
—そもそもインストであることもそうなんですけど、「意味」を敢えて具体的にせずに漠然とさせる、極端な言い方をすると「エゴのなさ」って、どうして生まれてきたものなんだと思いますか?
矢向:自分たちが楽しい、聴いてくれる人が楽しい、それさえあればいいというか。「楽しい」っていうことを、とにかく表現したいんです。
石橋:そうね。これはライブのMCでも言うんですけど、極論、ステージ上の僕らの方は観てくれなくてもいいですから。音だけ聴いて踊り狂ってくれればそれが一番いいって思うし。
西川:DJのような感覚というかね。みんなでお酒を飲みながら楽しむ空間のなかで、たまたま曲を演奏しているのが僕らだったっていう感覚なんです。僕らにとって、音楽で時間や空間をシェアすることは昔から自然なことだったし、逆に「楽しい空間を作りたい」と思ったら、そこには音楽があった。そこを追い求める方が、自分たちがバンドをやる意義は上がっていくんですよね。
—物語やメッセージを投げかけるより、あくまでも、みんなが楽しめる「空間」を作り出して、それをシェアすることにバンドをやる意義がある。
西川:そう。極端な話、アルバムは僕らにとって作品ではあるけど、同時に、プロモーションでもあって。CDやSNSを使って、ライブのような楽しみがシェアされる空間に呼びたいんですよね。自分たちがいいと思うことをシェアすることで、それが誰かにとってのストレス発散や、癒しになればいいと思うし。
だって、みんな毎日大変じゃないですか。僕らも月~金で働いているので、それはすごくわかるし。もちろん、カリスマティックなバンドはかっこいいと思いますよ。でも、自分たちはそうはなれないので。「オーラがない」って言われるし……。
矢向:ははは(笑)。
西川:音楽以外の仕事仲間がライブに来てくれたとき、その前でお客さんにサインしているのとか、恥ずかしいし(笑)。
石橋:Twitterで「月~金の仕事の疲れが顔に出てる」って書かれたことあったよね(笑)。
西川&矢向:あった!
—ははははは(笑)。
西川:でも、僕らはそれがダサいことだとは全然思っていなくて。「こういうのって、いいよね?」っていう感じなんです。
より楽しくやってくために、自分たちに求めるものも、結成時よりは大きくなってきた。(矢向)
—みなさん、年齢を重ねる毎に音楽以外の仕事の立場や内容も変わってきていると思うし、同じように、toconomaのステージもどんどん大きくなってきているし。「週末バンド」としてのモチベーションは、バンドを始めた頃から変化していますか?
石橋:めっちゃ変化してます。結成してから音源を出して、お客さんがライブに来てくれるようになるなかで、ありがたいことにtoconomaのステージは上がっていった。そして、それに付随して、音楽一本でやっているすごい人たちとも対バンしたり、大きなフェスにも出ることができるようになって。
そんななかで、自分たちの技術的な面であったり、曲の精度であったり、そういった面に対しては、かなりシビアになってきていると思います。
矢向:より楽しくやってくために、自分たちに求めるものも、結成時よりは大きくなってきたっていう感じだよね。
西川:うん。具体的には「グルーヴ」を作ることに対する真剣度が上がってきたんですよね。「踊らせたい」と思うなかで、そこにいる人数が増えれば増えるほど、グルーヴを探究して、突き詰めたいっていう真剣度も上がってきた。特に今回のアルバムは1曲1曲、細かい部分でのリズムなんかはすごく考えました。
別に、売れないと音楽ができないわけじゃないのにね。(西川)
—音楽的な技巧を上げていくことや、より深く音楽性を突き詰めていくことを考え出すと、やっぱり月~金曜の仕事と、土日のバンド活動のバランスを取ることも大変になってきますよね?
石橋:まぁ、そうなんですよね(苦笑)。でも、僕らは仕事が嫌なわけではないんですよ。仕事は好きだし、音楽をやることは、それに相反することではないし。
西川:そうだね。僕らにとっては、仕事とバンドでひとつ、みたいな感じなんです。「お金を稼ぐのが仕事で、好きなことをやるのがバンド」っていう考え方でもなくて。仕事も好きだし、バンドも好きだし、そのなかでの調整の問題でしかないというか。
いま、メンバー全員が30歳を超えて、仕事の中身もバンドの中身も濃くなっていきますけど、それも当たり前の話だし。「大変ですよね?」って訊かれて、「大変です!」って答えれば、忙しぶれるのでいいんですけど(笑)……。
—実際はそうでもない?
西川:そうなんですよ。バンドを結成したもの社会人になってからだし、なんとなく2~3年目から毎週リハに入るようになっていって、その感覚が、年齢やライフステージが上がっていっても変わらないっていうだけで。
石橋:だから、余計なお世話かもしれないけど、大学の軽音楽部に入って、いい楽器買ったのに、社会人になったらすぐに辞めちゃう人を見ると、勿体ないなぁって思うんですよね。
西川:わかる。別に、売れないと音楽ができないわけじゃないのにね。こんな感じでも、音楽は続けていけるんだってことは、若い子たちに言いたいよね。
学生に学業と部活があるように、僕らには仕事とバンドがあるっていう。(石橋)
—仕事とバンド活動を並行させていったとき、どうしたって、そこに辛さや悲壮感が表れてしまう場合があると思うんですけど。toconomaは疲れが顔に出ることはあるかもしれないけど(笑)、根源的にネガティブな部分は一切表に出てこないですよね。
石橋:そうですね。まず、そもそもの性格的に、自分の弱さを売りにするような人間達ではないとは思います。
矢向:それに、友達の延長上のバンドだから。文化祭でライブをやったり、みんなで集まって、家で音楽を聴いて盛り上がったり……そういうことが、ずっと続いている感覚なんですよ。
だから、「絶対に売れなきゃいけない!」とも思っていないし。売れるに越したことはないんですけど(笑)。この先、何らかの理由でライブを一切できなくなってスタジオで遊ぶだけになっても、toconomaは、ずっと続けていくものだと思うし。逆に、しんどいのであれば、辞めればいいだけだと思うんです。
西川:僕たちは、何かを達成したくて集まっている四人ではないので。「おっさんになっても大きいフェスに出ていたいよね」みたいな、ゆる~い目標はありますけど、「仕事もして、音楽もして」っていう、このライフスタイルが自分たちには一番ハマりがよかっただけで。「音楽を仕事にしたい」っていう欲求もなく、「音楽を一緒に楽しんでいたい」っていうだけなんですよね。逆に、非常にプリミティブというか。
—これまで、「音楽で食っていこう!」っていう話が四人のなかで出たことはなかったんですか?
石橋:ないよね。
矢向:うん、ないね。……そういう話、よくわかんないっす(笑)。
西川:でも、だからこそ、楽しいことができている感じはあるんだよね。
石橋:toconomaは、部活みたいなものなんだと思います。学生に学業と部活があるように、僕らには仕事とバンドがあるっていう。音楽的な面に関してはやや体育会系なノリもありつつ、ずっと「放課後感」みたいなものがある。
西川:そうそう。この「放課後感」を守りたいんだよね。
自分の心がドライブする方向に向かって行くんだ! っていうことを常に意識していないといけない。(石橋)
—人は大人になるにしたがって、どうしても「これは仕事、これは趣味」みたいな形で、物事をパキッと分けてしまいがちじゃないですか。でも、みなさんはなだらかに「楽しみ」や「喜び」が広がった日々を送られている。どうしたら、人は大人になっても「放課後」を守れるものですか?
西川:シンプルに、目的を明確にして、そこに向けてどうするか? っていうことを考えていくしかないと思います。
共通した目標があれば、それに向けて時間を作ったり、「これはいる / いらない」っていう判断も明確にできるようになるんですよ。
石橋:それをやるためには、自分の心に素直でいることが重要で。単純な言い方になってしまいますけど、嫌なことはやらない。自分の心がドライブする方向に向かって行くんだ! っていうことを常に意識していないといけないんですよね。
だって、34歳にもなると、自ずと、面倒くさいことはいっぱい出てきますからねぇ……。
矢向:「これ、俺が謝らなきゃいけないの!?」とかね(笑)。
石橋:そうそう(苦笑)。そういうことは絶対に出てくるんだけど、だからこそ、自分の心がドライブする方向に行くことは、心がけていないといけないなって思います。
矢向:あと、変に求めすぎちゃダメ。「楽しいから、それでいいじゃん」っていう、それだけのことを、ちゃんと自覚して努力するっていうことかな。
僕らのライブは写真も動画も、自由に撮っていただいていいですから。(西川)
—2月の恵比寿LIQUIDROOMワンマンは、過去最高規模のワンマンですよね。toconomaの放課後感がどのようにLIQUIDROOMで展開されるのが、楽しみです。
石橋:観に来てくれる人も「放課後感」を持ってきてくれると嬉しいね。当日は映像化に向けて撮影チームも入るし、限定グッズのスウェットやら、インスタ映えするアレコレを用意させていただこうかなと(笑)。
『NEWTOWN』RELEASE TOUR限定グッズのスウェット
西川:そうだね。あと、10分の休憩を挟んだ2セットにトライしてみます。たくさん曲をできればいいな、と。さらに、僕ら主催のライブは写真も動画も、自由に撮っていただいていいですから。撮影禁止のライブハウスも多いですけど、勿体ないですよね。もちろん生で観るのが一番いいと思うけど、せっかくこんなに楽しい空間があるんだから、それを来ることができなかった人とシェアするのもすごくいいことだと思う。
石橋:周りの方に迷惑をかけない程度であれば、全然撮って欲しい。お客さんも、みんな基本的にはプライベートでライブに来られるわけじゃないですか。
言ってしまえば、僕らもプライベートなので(笑)。チケット代はいただいていますけど、一緒にその空間も含めて音楽をシェアできればいいなと思いますね。おじさんたちの青春っぷりを観に来ていただければ幸いです(笑)。
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- 『Eggs』
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アーティストが自身の楽曲やプロフィール、活動情報、ライブ映像などを自由に登録・公開し、また、リスナーも登録された楽曲を聴き、プレビューや「いいね」等を行うことができる、アーティストとリスナーをつなぐ新しい音楽の無料プラットフォーム。登録アーティストの楽曲視聴や情報は、「Eggsアプリ」(無料)をダウンロードすると、いつでもお手もとでお楽しみいただけます。
料金:無料
- イベント情報
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- 『NEWTOWN』RELEASE TOUR FINAL
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2018年2月10日(土)
会場:東京 恵比寿 LIQUIDROOM
料金:3,800円(ドリンク別)
※10分間の休憩を挟む2セット制
- リリース情報
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- toconoma
『NEWTOWN』(CD) -
2017年6月7日(水)発売
価格:2,700円(税込)
XQNF-10011. N°9
2. Sunny
3. Anchor
4. L.S.L
5. CICADA
6. underwarp
7. Cinema sunset
8. bottomend
9. orbit
10. Evita album ver.
- toconoma
- プロフィール
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- toconoma (とこのま)
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2008年東京渋谷にて結成。情熱的なダンスビートから生まれるグルーヴに、感情的なメロディー。歌は無くとも、それ以上に伝わる何かがそこにはあった。紡がれた音はジャンルという壁を乗り越え、シーンの彼方を切り拓く。2013年8月には、エンジニアにクラムボン、SPECIAL OTHERS等を手掛ける星野誠氏を迎え1st ALBUM『POOL』をリリース。タワーレコードバイヤー選ぶ”タワレコメン”へ選出、タワーレコード年間JAZZチャート9位、タワーレコード渋谷店年間アワードを獲得 2014年7月には1st以前に作成した自主音源『toconomaEP』のリマスタリング版をタワーレコード限定でリリース後即ソールドアウト、10月15日2nd Album『TENT』をリリース2015年3月ディズニーコンピレーションアルバム『PIANOMANPLAYSDISNEY』へ参加。4月Honda Accessが運営するショッピングサイトCirclrhに主題歌として『Hello my life』を提供。ゲストボーカルにはfulaの字引佑磨を迎え、youtubeで好評公開中。SUNSET LIVE、GREENROOM Fes.、朝霧JAMなど野外イベントへの参加のほか、大阪、東京でのワンマンライブ・自主企画イベント等は全てソールドアウトと勢いを増しながら、ゆったりと活動中。
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