Taiko Super Kicksが鳴らす、閉塞した世界への静かなる反抗

去る1月20日、渋谷WWWのステージ上で、Taiko Super Kicksの伊藤暁里(Vo,Gt)は繰り返し、こう言った――「アティチュードが大事だと思うんです」。そして、その言葉を証明するかのように、Taiko Super Kicksの2年ぶりとなるフルアルバム『Fragment』は、日本という島国に生きる四人の若者の、「いま」に対するアティチュードが明確に刻まれた傑作に仕上がった。

「Fragment」、つまり「断片」。彼らは、自分たちが常になにかの「断片」であることを知ろうとする。そして、「ここから歩き出すしかない」と、限りなく確信に近い予感を抱いている。聡明な若者は、悟りを開くのと同時に、産声を上げてみせるのだ。

今回、本作を掘り下げるためにライター・編集者の北沢夏音を迎えたインタビューを実施。去年、サニーデイ・サービスとの共著『青春狂走曲』を刊行したことも記憶に新しい北沢の目に、Taiko Super Kicksという若き才能は、どのように映ったのだろうか? バンドからは、伊藤とこばやしのぞみ(Dr)が参加。約2時間にわたる対話は、じっくりと、しかし確実に、核心へと近づいていった。

みんながアゲアゲで盛り上がるような空間って、私たちには合わないなって思っていて。(こばやし)

北沢:まず、この間『オープニング・ナイト』(1月20日に渋谷WWWで行われた、Taiko Super Kicksの主催イベント)に行かせていただいたので、その感想から伝えられたらなと思うんですけど。対バン相手だったyumboにしろ、mei eharaさんにしろ、Taiko Super Kicks(以下、タイコ)と親和性が高くて、すごくいいイベントでした。三者ともステージマナーに共通するものがある。佇まいは一見穏やかだけど、エネルギーが静かに渦巻くようなテンションを感じる。でもユーモラスなところもあるのがいいんだよね。この2組を呼んだのは、どうしてですか?

こばやし(Dr):会場がいっぱいになって、みんながアゲアゲで盛り上がるような空間って、私たちには合わないなって思っていて。なので、一緒にやる人たちも、誠実な感じの人を呼びたいよねっていう話をしていたんです。もちろん、アゲアゲで誠実な人もいると思うんですけど(笑)。

北沢:うん、いるだろうね(笑)。

こばやし:私たちは一歩一歩着実に、じわじわと熱を帯びていくような空間を作りたいなと思って、この2組に声をかけました。

左から:北沢夏音、こばやしのぞみ、伊藤暁里
左から:北沢夏音、こばやしのぞみ、伊藤暁里

当時、may.e名義で活動していたmei eharaがサポートとして参加したライブ映像

北沢:たとえば、シャムキャッツも『EASY』っていう自主イベントをすごく大事にしているけど、タイコも、自主イベントを大切にしている印象がありますね。単なる通過点としてではなく、イベント一つひとつがキャリアの置き石になっていくような組み方をしているなって思う。

単なる対バンではない、新しいなにかが生まれる場づくりを試みているでしょう? 自分たちの価値観を提示するうえで自主イベントの重要性は今後ますます高まっていくはず。恐らく、『オープニング・ナイト』というタイトルは、ジョン・カサヴェテスの映画から来ているんだろうと思うんだけど――。

こばやし:そうなんです。私、カサヴェテスの映画『オープニング・ナイト』(1978年)がすごく好きで。これから新しいアルバムが出て、また新しく始まっていくっていうイメージがバンドにあったのでこのタイトルにしました。あと『オープニング・ナイト』は舞台が題材の映画だし、会場の渋谷WWWがあった場所がもともと映画館だった点もいいなと思いました。

北沢:たしかに、渋谷WWWがある場所は、もともとシネマライズっていう、『トレインスポッティング』(1996年、ダニー・ボイル監督)や『アメリ』(2001年、ジャン=ピエール・ジュネ監督)など、ミニシアター系のヒット作を多く生み出して街の文化を創った重要な場所だったからね。カサヴェテスもインディペンデントな表現者にとっての「父」といえる存在だし、タイコの自主イベントにふさわしいタイトルだなと。ちなみに、カサヴェテス以外に好きな映画監督っている?

こばやし:(伊藤)暁里さんが好きなのは、リチャード・リンクレイター(『バッド・チューニング』、『スクール・オブ・ロック』、『6才のボクが、大人になるまで』など)だよね?

伊藤(Vo,Gt):うん。でも、僕はそこまで映画は見ないんですよ。

左から:こばやしのぞみ、伊藤暁里

いまでも「詩人になりたい」って思っています。(伊藤)

北沢:そういえば、暁里くんは「詩人を目指していたことがある」ってどこかのインタビューで言っていたよね。

伊藤:いまでも「詩人になりたい」って思っています。荒川洋治さんの詩がすごく好きで、『美代子、石を投げなさい』(1994年刊行の詩集『坑夫トッチルは電気をつけた』収録)っていう宮沢賢治についての詩が特に衝撃でした。いろんな人が宮沢賢治を論じているなかで、「誰も宮沢賢治をちゃんと論じていない」っていうことを言っているんですけど……(スマホを取り出して)読みましょうか?

北沢:うん、お願いします。

伊藤:(『美代子、石を投げなさい』を朗読する)

宮沢賢治よ
知っているか
石ひとつ投げられない
偽善の牙の人々が
きみのことを
書いている
読んでいる
窓の光を締めだし 相談さえしている
きみに石ひとつ投げられない人々が
きれいな顔をして きみを語るのだ
詩人よ、
きみの没後はたしかか
横浜は寿町の焚火に いまなら濡れているきみが
いま世田谷の住宅街のすべりようもないソファーで
何も知らない母と子の眉のあいだで
いちょうのようにひらひらと軽い夢文字の涙で読まれているのを
完全な読者の豪気よ
石を投げられない人の石の星座よ

荒川洋治『美代子、石を投げなさい』より
出典元:『坑夫トッチルは電気をつけた』(彼方社)(Amazonで見る

北沢:……世間における宮沢賢治の受容のされ方があまりにもぬるくて欺瞞に充ちている現状と、賢治を利用する者や賢治作品の棘を抜いて安っぽく消費する者たち、ひいてはそれを許してしまう「宮沢賢治」そのものへの批判をも含んだ全方位の批評になってる。それもまた……というか、それが、「詩」なんだね。評論として読んでもガツンとくるけど、暁里くんはそこにポエジーを感じたんだ?

伊藤:そうなんです。「こういう詩情もあるんだ!」と思って。すごく詩の力を感じました。それまで、詩って理想論っぽいものだと思っていたんです。生活していくなかで生まれるちょっとした感情を美しく語るもの、みたいな。でも、荒川さんの詩はとても現実的なものなんですよね。そこにすごく惹かれました。

左から:こばやしのぞみ、伊藤暁里

タイコは初めて聴いたときから、蠢いている感じがしたというか……。(北沢)

—北沢さんがタイコの音楽に最初に触れたのは、いつ頃でしたか?

北沢:『Many Shapes』(2015年12月リリース)が出たときです。最初は、プロフィールとかも全然知らない状態で聴いたんだけど、音の感触と歌詞の言葉遣いが、こちらの心にスッと染みてくる感じがして、すごく心地よくて。タイコの曲は、1曲1曲に強い方向性を与えるような言葉がないから、こちらで解釈しなくちゃいけない部分が多いじゃない?

伊藤:たしかに、そうかもしれないです。自分にとって重要な言葉は入れているんだけど、キラーフレーズというか、刺さるような言葉は、無意識的に避けていると自分でも思います。

北沢:でも、音がガイドになってくれるからちゃんと伝わるんだよね。心地いいだけじゃなくて、なにかに抗っている音楽、いわば「静かなる反抗」を感じる。タイコの音は、ボーカル、ギター、ベース、ドラムのシンプルな4人編成だけど、歌だけが突出しているわけではなくて。メンバーそれぞれが出している音の絡み合い、アンサンブルがすごくいい。暁里くんの声質も言葉と合っているし、いろんな部分でバランスがいいバンドだなって思います。

ただ、そのバランスのよさに収まって発展性がなくなってしまう可能性もある。でも、タイコは初めて聴いたときから、蠢いている感じがしたというか……なにかが生まれつつある感覚が、「これが完成形ではないな」っていう感じがすごくしたんです。この蠢いているものの発展や成長を、この先、リアルタイムで目撃できるんじゃないかっていう期待と興奮がありました。

Taiko Super Kicks『Many Shapes』収録曲

Taiko Super Kicks(左から:こばやしのぞみ、伊藤暁里、大堀晃生、樺山太地)
Taiko Super Kicks(左から:こばやしのぞみ、伊藤暁里、大堀晃生、樺山太地)

「実生活は大変なのに、音楽では理想を歌う」みたいなことが、すごく嘘っぽく感じる。(伊藤)

—北沢さんから見て、タイコの新作『Fragment』はいかがでしたか?

北沢:いままでの作品で一番いいと思いました。着実に、自分たちの音楽を掴みつつある。

伊藤こばやし:ありがとうございます。

北沢:Taiko Super Kicksは、大きい声にかき消されてしまう小さな声や、大きなシステムから零れ落ちるもののための居場所を作りたいんじゃないかな。ささやかな日常のなかで覚醒する瞬間を大事にしている。『Many Shapes』もいいアルバムだったけど、『Fragment』でバンドの世界観を確立した感があります。

1曲目の“たたかいの朝”からして、<たたかい>とか、<総当たり戦の日々>とか、切迫感のある言葉が並んでいるんだけど、その切迫感はひんやりとした音で中和されているし、なにと「たたかう」のかは、明確には記されていない。そこから2曲目、3曲目と場面が移るにつれて思索も深まっていって、最後の“無縁”と“フラグメント”の2曲に集約されていく。1曲1曲が粒ぞろいなのはもちろんなんだけど、この全体の流れがすごくいいよね。

伊藤:アルバムの流れに関していうと、できた順番に収録しているんですよ。

北沢:そうなんだ!

伊藤:だから、すごく私的な、自分の心情の動きが表れているような気がするんです。ドキュメント的なアルバム、というか。最初から全体的なテーマも特になく、最後の“フラグメント”ができたときに、「あ、こういうことだったんだな」って気づいた感じでした。

伊藤暁里

北沢:テーマはないといっても、なにかしらの問題意識みたいなものはあったの?

伊藤:問題意識はありました。行き詰まり感というか。

北沢:それは、自分自身に起因するもの? それとも、世の中と対峙することで生まれたもの?

伊藤:後者だと思います。生きていくうえでのつらさというか、仕事をしながらバンド活動する生活のなかで感じるものですね。

北沢:タイコの歌詞からは、どこかしらヒリヒリしたものを感じるけど、それは日常の軋轢に敏感な人の作る曲だからだろうと思う。

伊藤:まさに、そうだと思います。僕自身、モラトリアム感とか、ヒッピー的な世界観が好きじゃないんですよ。

北沢:ラブ&ピース的な?

伊藤:そうですね。昔は好きだったんですけど、今は嘘っぽく聴こえてしまうんです。自由を求める感覚とか、エスケーピズム的な感覚が、本来の自分には全く根差していないもののように思えてしまって……「実生活は大変なのに、音楽では理想を歌う」みたいなことが、すごく嘘っぽく感じる。

左から:伊藤暁里、こばやしのぞみ

物語とか、体系的なものを意識することって、行き詰まりを生むこともあると思うんです。(伊藤)

—それは最初に話していただいた詩の話にも通じますね。伊藤さんは、理想論としての詩ではなく、現実を描いた詩に惹かれるという。

北沢:最初にも話したけど、タイコってステージでも決してアゲアゲな感じではなくて。じわじわと熱を帯びていって、ときどき爆発する、みたいな。それが僕はいいなと思うし、リスナーの人たちの日常も、そういうものなんじゃないかって思うんです。

伊藤:そう思います。やっぱり、一聴して「最高!」ってなるものって、消費される快楽っていう感じがするんですよね。僕らのアルバムって、パッと聴いて「うおー、最高!」と思える曲、1曲もないと思うんですよ。

北沢:そう……かもしれないね(笑)。

伊藤:でも、それが自分たちにとっては正しいなって思うんです。

Taiko Super Kicks『Fragment』収録曲

北沢:「Fragment」っていう単語は、どういうところから浮かんできたの?

伊藤:「断片」っていう単語は、前から頭のなかにあって。インスピレーション源としては、のぞみん(こばやし)に教えてもらった、ミランダ・ジュライの本とか。

こばやし:ミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』(2015年)という本があって。なんでもない、ごく一般の人たちにインタビューしている本なんですけど、人々の生活を、誇張したり、物語にしたりするわけでもなく、ただ記述しているんです。そこに人生の断片のきらめきみたいなものが見えてくるのがすごく面白くて。

こばやしのぞみ

伊藤:そういう話を聞いたり、僕自身、保坂和志さんの『試行錯誤に漂う』(2016年)という本を去年読んだりして。そういう経験のなかから、「断片」という言葉がいろんなところから入ってきて、自分の生活のなかの大事な言葉だと感じたんです。

要は、「体系」ではないものを重要視したいと思ったんですよね。『Many Shapes』では、個々のものではなくて、「メニイシェイプスがたくさんあって、世界なんだ」っていう「体系」のことを歌っている。でも、そうじゃなくて、部分部分、「それ自体」のことを、今回は言いたかった。

Taiko Super Kicks『Many Shapes』収録曲

北沢:「断片」が浮遊する如く漂っている世界、ということ? たとえば、暁里くんの好きなリンクレイター監督の『スラッカー』(1991年)って、群像劇だけど登場人物たちが絡んでいるようで絡んでいないじゃない? ああいう、ストーリーラインがはっきりしないような感じって、「Fragment」だなって思うんだけど。

伊藤:まさに、そういうイメージです。『スラッカー』は一番と言ってもいいくらい好きな映画で、あの映画の、物語がないけどそれ自体が物語になっているような感じは、今作を作るうえでもなんとなく念頭にありました。物語とか、体系的なものを意識することって、行き詰まりを生むこともあると思うんですよ。

いまって、短期間でシステムができあがってしまったがゆえに、AmazonとGoogleとFacebookとAppleの4つに支配されているよね。(北沢)

北沢:「体系」というのを、もう少し具体的に言える?

伊藤:「意味」とか「背景」とかっていうことですね。いまは、とにかく情報が多すぎる。インターネットの影響もあると思うんですけど、なにを見るにも体系や物語を意識せざるを得ないのが嫌で。そういう世界から違う場所に行きたいって思うんです。

北沢:でも、だからといって、実際にSNSを遮断することはしないわけだよね?

伊藤:そうです。やっぱり、どれだけ「違うところに行きたい」といっても、この世界から抜け出すことはできないから。「ここから抜け出して最高の世界に行こうぜ!」って言っちゃうと、エスケーピズムになってしまうじゃないですか。そうじゃなくて、ただ、「違うところに行きたい」と思っている感じですね。

北沢:なるほどなぁ。たしかにいまって、短期間でシステムができあがってしまったがゆえに、AmazonとGoogleとFacebookとAppleの4つにほとんど支配されているよね。この四つからは逃れられない。逃れられなくはないかもしれないけど、逃れたら、取り残されてしまう……そういう感覚が、もはや植えつけられているよね。これも一種の閉塞感だと思うし。

伊藤:はい、それも「体系」のひとつだと思います。

北沢:たとえばSpotifyとApple Musicがあると、両方入る人もいるけど、「どちらかを選ぼう」って迷うでしょ。昨年、サニーデイ・サービスが『Popcorn Ballads』を配信オンリーで突然リリースしたり、この間、小沢健二くんがAppleで番組を始めたり、「これは入らざるを得ないのかなぁ」って思わされることばかりでさ(苦笑)。

左から:北沢夏音、こばやしのぞみ、伊藤暁里

北沢:それ自体は楽しいニュースだし、メディア環境の変化とともに人間の有り様が変わっていくのは当然のことで、なにをチョイスするかも自由だけど、選択肢があるようで、実はないように仕向けられているんじゃないかって。音楽以外でも、そうやって、向こうからどんどんと強力な勧誘をされることに、最近ちょっとうんざりしているんだ。僕は、そういうのも「息苦しいな」って思うことが多くて。なにも考えずにそこに乗っかれば、ある意味、快適に暮らすこともできるんだろうけどさ。

伊藤:そうですよね。でも、僕ら四人とも、なにも考えずに快適に暮らせないタイプの人間なんだと思います。

北沢:きっと、タイコのみんなにとっては、映画を見たり本を読んだりすることも、「物語」を消費していく感覚ではないんだよね。なにか気づきを得たり、心が開けるような感覚を得たくて接しているんじゃないかな。主催イベントのタイトルにカサヴェテスを持ってくる意味も、きっとそういうことなんだろうと思うし。

伊藤:まさに、そうだと思います。

 

閉じ籠っている状態のときって、「なにかする」っていうことが大変だったりするじゃないですか。(伊藤)

北沢:あと、歌詞を1曲目から10曲目まで順番に読んでいくと、閉じ籠っていた人が、新しい一歩を踏み出していくまでの記録っていう感じがする。

伊藤:それはやっぱり、自分自身がそうだったから。私小説的であるがゆえに、『Many Shapes』よりも、歌詞の意味は伝わりやすいんじゃないかと思うんですよ。

北沢:うん、そうだと思う。いま、社会的にも、精神的にも、閉じ籠ってしまう人は多いと思うから。閉じることでしか、自分を守ることができない人もたくさんいる。

だから、8曲目“悪いこと”の<窓から窓へ飛び移っては 知らない友達を作る>っていうヴァースは「そうだよなぁ」って思うし、それに続く9曲目“無縁”の出だし、<あなたのことだと思っていないことはほとんど、あなたのこと 無縁でいるのは、何より簡単で何より難しい>っていうのは、すごいパンチライン。これは、真実を凝縮させた、ひとつの結論に近い歌詞だと思った。

北沢夏音

伊藤:ありがとうございます。ここまでバチッと歌詞で言い切ったのは、これまでなかったです。ハッキリと言いすぎて、心配になったぐらいで。

北沢:これって、いろんなことが当てはまる歌詞だよね。日々、勝手に飛び込んでくるニュースも、無縁でいたいニュースばかりだけど、でも、無縁ではいられないことばかりで。

伊藤:生きていくって、そういうことですよね。「どうでもいいよなぁ」って思うことも「なんで、こんなことが起こるんだろう?」って思うこともある。

北沢:ただ、その次の“フラグメント”の、<プロレスでも見てみようか それもありだ>っていうのは、不思議なフレーズだよね。「プロレス」っていうのは、なにかの隠喩?

伊藤:いや、「プロレス」っていう言葉自体にそこまで意味はないんですけど、ただ「ちょっと見てみようかな」って思う……その「なにかする」っていうことが、大事だなって思っていて。閉じ籠っている状態のときって、「なにかする」っていうことが大変だったりするじゃないですか。「家を出る」とか、「買い物に行く」とか、そういうことからしか、始まらないなって思うんです。

左から:こばやしのぞみ、伊藤暁里

「気づき」を与えてくれる作品って、謎を秘めているけど、ハッとするような強いメッセージもあるもので。(北沢)

—北沢さんの世代だと、音楽のなかに理想を見る感覚って、もっと根強くあったと思うんです。たとえばサニーデイ・サービスにも、理想主義的な側面は強くあったと思うし。そんな北沢さんの個人的な視点で見たとき、タイコのすごく地に足の着いたスタンスというのは、どのように映りますか?

北沢:僕自身、未だに理想主義的な部分はある人間なんですけど、ただ、いま現在の生きづらさのなかで、「音楽はエスケープの道具になり得るのか?」と問われれば、もうなり得ないような気もするんですよね。

さっき暁里くんが言ったように、賞味期限は短いけど刺激が強いものが増えてくるし、もっとしっかり聴かれるべきものでも、さっさと摂取されて忘れられてしまうのかもしれない。一枚のアルバムと向き合ってじっくり聴くような、一つひとつのものをよく咀嚼して自分の血肉にしていく作業って、いまはどんどんとやりづらくなっている。

伊藤:そうですよね。

北沢:でも、それって「そういう時代だから仕方がないよね」で済ませていいことではないと思う。「気づき」を与えてくれる作品って、この『Fragment』のように、謎を秘めているけど、ハッとするような強いメッセージも含んでいるものなんですよね。荒川洋治さんの詩のように、受け取った人が血を流すかもしれないけど、そこからなにかが生まれるきっかけになるようなもの。そういう音楽が、もっと世代やジャンルを超えて出てきてほしいなと思う。

Taiko Super Kicks『Fragment』ジャケット
Taiko Super Kicks『Fragment』ジャケット(Amazonで見る

—そこに「世代」は関係ない。

北沢:うん、どんな世代にも通じるものだと思う。もちろん、タイコの音楽にある平熱感や、ことさら理想主義を標榜しない、地に足の着いた感じって、いまの世代ならではのものだとは思うんだけど、そう言いつつも、「理想を持っていないわけじゃないぞ」っていう気概はすごく感じる。社会や時代と個人の間に生じる緊張関係や葛藤をパワーに変えるのが、ロックンロールだから。

伊藤:そうだとしたら、僕らはロックンロールかもしれないですね。

北沢:うん、2018年のロックンロールだよ、Taiko Super Kicksは。

左から:こばやしのぞみ、伊藤暁里、北沢夏音

リリース情報
Taiko Super Kicks
『Fragment』(CD)

2018年2月7日(水)発売
価格:2,484円(税込)
TSK-001

1. たたかいの朝
2. 景色になる
3. 汗はひき
4. 遅刻
5. うわさ
6. のびていく
7. バネのように
8. 悪いこと
9. 無縁
10. フラグメント

イベント情報
『Taiko Super Kicks presents “Fragment” Release Tour』

2018年3月4日(土)
会場:台湾 台北Revolver

2018年3月17日(土)
会場:愛知県 金山ブラジルコーヒー
出演: Taiko Super Kicks
mei ehara
テト・ペッテンソン

2018年3月23日(金)
会場:福岡県 福岡UTERO
出演:
Taiko Super Kicks
よあけ
yound

2018年3月24日(土)
会場:岡山県 岡山BLUEBLUES
出演:
Taiko Super Kicks
カネコアヤノ
and more

2018年3月25日(土)
会場:京都府 京都UrBANGUILD
出演:
Taiko Super Kicks
本日休演
接近!UFOズ
ギリシャラブ

2018年3月30日(金)
会場:渋谷TSUTAYA O-nest

プロフィール
Taiko Super Kicks
Taiko Super Kicks (たいこ すーぱー きっくす)

伊藤暁里(Vo,Gt)、樺山太地(Gt)、大堀晃生(Ba,Cho)、こばやしのぞみ(Dr)により結成。東京都内を中心に活動中。2014年8月、ミニアルバム『霊感』をダウンロード・フィジカル盤ともにリリース。2015年7月、『FUJI ROCK FESTIVAL'15「ROOKIE A GO-GO」』に出演。2015年12月23日、1stアルバム『Many Shapes』をリリース。そして、2018年2月7日、最新アルバム『Fragment』をリリースする。

北沢夏音 (きたざわ なつを)

1962年東京都生まれ。ライター、編集者。92年『Bar-f-out!』を創刊。著書に『Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂』(本の雑誌社)、共著に『次の本へ』(苦楽堂)、『冬の本』(夏葉社)、『音盤時代の音楽の本の本』(カンゼン)、『21世紀を生きのびるためのドキュメンタリー映画カタログ』(キネマ旬報社)など。ほかに『80年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)の監修、山口隆対談集『叱り叱られ』(幻冬舎)の構成、寺尾紗穂『愛し、日々』、森泉岳土『夜のほどろ』(いずれも天然文庫)の企画・編集、『人間万葉歌 阿久悠作詞集』三部作、ムッシュかまやつ『我が名はムッシュ』、やけのはら『SUNNY NEW BOX』などのブックレット編集・執筆も手がける。2017年8月、サニーデイ・サービスにとって初の単行本となる共著『青春狂走曲』(スタンド・ブックス)を上梓。



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