「観客参加型」であることを特徴とする『LINEオーディション2017』で総合グランプリに輝き、今年1月にLINE RECORDSよりデビューした3人組バンド、No title。音楽ストリーミング時代の新たなスターになるべく活動を開始した彼らだが、青森在住の現役高校生ということもあって、今後の展開はまだまだ未知数だ。彼らはこれから、どんな活動をしていくべきなのか。
そこで今回は、“PPAP”というたった一本の動画で一躍世界的なスターに上り詰めた、ご存知「ピコ太郎」のプロデューサーとして知られる芸人の古坂大魔王を招聘。インターネット時代の申し子とも言える「ピコ太郎」の大ヒットにまつわる話はもちろん、その独特な音楽観や青年時代の話を交えつつ、現在のNo titleが感じている疑問や悩みについても、同じ青森の出身ということで、親身に語り合ってもらった。
既存のカテゴリーに入らないものを考えていて……それで最終的に、ピコ太郎を作った。(古坂)
—本日は、ピコ太郎のプロデューサーとしても知られる芸人の古坂大魔王さんに来ていただきました!
あんべ・ほのか・ポチ(ゆうと):よろしくお願いします!
古坂:よろしくお願いします~。No titleの三人は、青森在住の高校生なんだよね。僕も青森出身なの知ってた?
ほのか:もちろんです。
—ピコ太郎の“PPAP”がYouTubeに登場してから、約1年半が経ちました。当時、No titleの三人は、まだ中学生?
ほのか:そうですね。文化祭に出るバンドの練習が終わったあと、たまたまその動画を見て……。
ポチ(ゆうと):一回見ただけなのに、そこからずっと頭から離れなくて。気がついたら、いつの間にか生徒だけじゃなくて先生も真似をするようになっていて、ビックリしました。
古坂:それは嬉しい話ですね。
—当時三人は、あの動画を何だと思って見ていたのですか?
あんべ:最初に見たときは、それが何なのか、まったく分類できなかったですね。それを受け入れるカテゴリーが、自分のなかにはなかったというか。
古坂:ああ、それは最高ですね。カテゴリーほど愚の骨頂はないというか、カテゴリーっていうものが、僕はホントに嫌で。僕はもともと、お笑いと音楽の両方が好きで、お笑い芸人になりたいと思ったんだけど、好きなお笑い芸人は、とんねるずさんだったんですよね。
—なるほど、世代ですね。
古坂:そう。君たち三人は知らないかもしれないけど、当時とんねるずさんは、歌もバリバリ歌っていて、歌番組に出るわ、『紅白歌合戦』に出るわ、『日本有線大賞』を取るわ、もうホントにすごかったんですよね。
僕のなかでお笑い芸人っていうのは、ネタをやったりフリートークをやったり大喜利をやるっていうことよりも、とんねるずさんのように、芸能界を引っ掻き回すような存在だったんです。
ほのか:へー。
古坂:それが最高にカッコいいと思って。だから、自分もそうやってカテゴリーに入らないものをやりたかったし、実際そういうことを、ずーっとしていたの。それも君たちが生まれる前……実はもう、26年ぐらい芸人をやっているので(笑)。
ほのか:26年か~……すごい!
古坂:でも、なかなかハマらなかったんだよね。それこそ、カテゴリーにハマらないことばっかりやっていたから(笑)。やっぱり、カテゴリーにないことをすると批判されるんですよ。
でも、青森県人特有の「じょっぱり精神」があって。青森県人って、これが東京で流行ってるとか言っても、最初は「ふん」って感じでしょ? 「青森とは違うな」とか言って。で、半年ぐらい遅れて、まあやってみようかなみたいな。
ほのか:うんうん。
古坂:青森の人にはこういう、変な劣等感からくる頑固さとかひねくれ方みたいなのがあるんだよね。
あんべ:ああ、ちょっとわかります。
古坂:わかるでしょ? 当時の俺は、そういう感じだったの。だから、既存のカテゴリーに入らないものを、ずっと考えていて……それで最終的に、ピコ太郎を作ったっていう(笑)。
日本の裏の裏は世界の表だった。(古坂)
—そんな「ピコ太郎」は、どういう発想で生まれたキャラクターだったのですか?
古坂:正直言うと、あれはもう自分のなかのマニアックを極めたんですよね。ピコ太郎を単独ライブに出したんですけど、お客さんよりも、裏にいる芸人やスタッフが笑っているんです。で、音楽ライブに出ても、裏にいるミュージシャンが笑っていてお客さんはポカンとしている。
そういう画を作りたくて、あれをやったんですよね。だから、音もできるだけマニアックにして、歌詞もわけわかんない感じにして。
—冷静に考えると、ある意味、メチャクチャですよね(笑)。
古坂:そう、もうメチャクチャやろうと思って(笑)。見た目は怖いし、爆音のテクノだし、何だこれっていう(笑)。そうやって、お客さんがポカンとすることをやってみたら、日本の裏の裏は世界の表だったっていう。
日本の裏を行こうと思って、敢えて歌詞も英語にしたし、ロックやヒップホップよりもテクノサウンド……しかも、テクノのなかでも、いちばんマニアックなところをやろうと思って。
—それまでも、PSYの“江南スタイル”(2012年)をはじめ、ネットでバズる音楽系の動画はありましたが、そういうものとは、ちょっと違う受け止められ方をされたというか……。
古坂:それは結局、尺が1分だったからだと思うんです。音楽として成立しないギリギリの時間というか。だから、音楽じゃないと思われたんでしょう。
僕の中で1分で終わるっていうのは、結構重要だったんですよね。AメロもBメロも作らない、イントロも無くて、サビだけあるっていう(笑)。そういうところも、さっき言った「じょっぱり精神」なのかもしれないけど。
ちょっとズレたり、薄皮一枚破ったところに、何かがあるような気がして。(古坂)
—世界を巻き込むような「新しいもの」っていうのは、こういうものなんだって驚きました。
古坂:最初は批判だらけでしたけどね。ただ、最近僕が思うのは……たとえば「この曲はシングル向きじゃない」とか、「A面じゃない」とかよく言うじゃないですか。でも、そういうもののなかに、何かがあるような気がするんですよね。つまり、みんなが腑に落ちてないものっていうのは、みんなが想像できてないものなんです。
ほのか:ああ、なるほど。
古坂:想像できるものは、腑に落ちるの。だから、そこからちょっとズレたり、薄皮一枚破ったところに、何かがあるような気がして。まあ、そんなのまったくわからないまま、20年以上やってきたんだけど(笑)。だから一連の話を総括すると、結局は全部……運です。
—ははは。
古坂:でも、宝くじって買わないと絶対当たらないでしょ? それと同じで、運をつかもうと思ったら、何百回も失敗しないとダメなんですよ。宝くじ1枚買うより、1億枚買った方が可能性は絶対高いじゃないですか。1億回、チャレンジするってことがきっと大事なんですよね。
—そうやって頑張ることができたのは、やっぱり音楽を作るのが好きだったからですか?
古坂:音楽と言うよりも、お笑いが好きってことですね。これはきっと、No titleの三人とは多分話が合わないところだと思うけど、僕、音楽をカッコいいと思ってないんですよ。
ほのか:ん? どういうことですか?
古坂:僕がカッコいいと思うことは、カッコ悪いことをすることなんです。
—そこはあくまでも「芸人」なんですね。
古坂:そうですね。だから、女の子たちにキャーって言われるようなカッコいい人間に憧れるのではなく、その横で「おいおい、俺は?」って言っている人間をカッコいいと思うんです。
音楽って、カッコいいことをカッコよく聴かせることが多いじゃないですか。ちゃんと心の芯に届くように歌ったり。でも、お笑いって、カッコいいものをクサして、自分を落としながら、笑わせる。ある意味感動を歪んだ形で届けることだと思うんですよね。
—だから、ピコ太郎の音楽はカッコいいテクノなのに、歌っていることはそうじゃないと。
古坂:そうですね。音楽でいちばんカッコいいと思ったのがテクノだったんですけど、カッコいいものをそのままやるのはダサいから、超こだわった音に、思いっきり変な歌を乗せてみた(笑)。そうやって自分が面白いと思うものを、ひたすら追求したいって思いが強かったからこそ、続けてこれたんだと思うんですよね。
もう、どんだけ見てきたか、ゼロ発屋を(笑)。(古坂)
古坂:No titleの三人は、今後こうなっていきたいみたいなビジョンってあるの?
あんべ:僕はやっぱり、自分たちが演奏しているところを、もっと見てもらいたいですね。なので、今後ライブの機会は、増やしていきたいなって思っています。
ポチ(ゆうと):僕も同じですね。音源だけ聴いてもわからない部分って、結構あると思うので。ライブを見てもらうことによって、僕たちの人間性みたいなものを、もっと知って欲しい。で、やっぱり、いつか大きい舞台でライブをしてみたいです。
あんべ:『LINEオーディション2017』の総合グランプリに選ばれたと言っても、結局まだ一曲しか、みんなにちゃんと聴いてもらってないので。
古坂:でもね、そういう一曲があるっていうのは、すごい大事なのよ。その一曲を見つけられない人っていう人が大半なわけで。
—そうですよね。この“rain stops, good-bye”という曲でみんなから選ばれたというのは、間違いないことなので。
No title“rain stops, good-bye”ジャケット(LINE MUSICで聴く)
古坂:俺は、一発屋って言葉、全然大好きなんですよ。だってそれは、一発当てたっていう証拠でしょ?
ほのか:たしかに!
古坂:もう、どんだけ見てきたか、ゼロ発屋を(笑)。三人はまだ若いから見えてないと思うけど、東京に来たら、ゼロ発屋がもうわんさかいるの。というか、「あいつは一発屋だ」とか言ってる人って、基本ゼロ発屋だから。百発屋の人は、一発屋をバカにしないんです。
バンドらしからぬ音というか、私たちらしい音を作りたいと思っていて。(ほのか)
—ほのかさんのビジョンはどうですか?
ほのか:質問に近いんですけど、私たちって、バンドの編成としてはちょっと変わっていて……いわゆるバンドサウンドを追求したいわけじゃないんですよね。バンドらしからぬ音というか、私たちらしい音を作りたいと思っていて。
ただ、そのためには、具体的に何をしたらいいかがわからなくて。どうしたら、自分たちらしい音になるんでしょうか?
古坂:バンドサウンドと言ったら、ギター、ベース、ドラムっていうのは、僕らの世代の価値観ですよね。そこに打ち込みが入ってきたとき、打ち込みを入れたらバンドじゃないって言い始める人もいたり。でも僕は、正直言うと、打ち込みにしか興味がなくて、生のサウンドに魅力を感じない人なのね。曲がっているんだけど(笑)。
だから、自分らしいことが何かって言ったら、それは自分がいまいちばんしたいこと、もしくは、いま自分がいちばん聴きたいCDを作ることだと思うんです。こんな曲があったら、自分はCD買うっていう。
ほのか:ほぉ~! なるほど。ありがとうございます!
そのとき初めて、東京に出てきて良かったなって思ったの。負けたから。(古坂)
あんべ:古坂さんは高校を卒業したあと、どうやって東京に出てくる決意を固めたんですか?
古坂:うーん、お笑いをやる場所が、青森にはなかったっていうのがあるよね。で、自分が憧れている人たちが、全員東京にいた。それだけかもしれない。もちろん、怖かったし、いま考えると、度胸あったなって思うけど。
—東京ではまず、何をされてたんですか?
古坂:当時はお笑いの学校も無かったから、日本映画学校っていう専門学校に入りました。そこで相方を探したんですけど、3日目に見つかったので、それからはほとんど学校にも行かず、お笑いの新人ライブみたいなものに片っ端から参加して。
そしたら結構ウケるんですよ。そこは同世代の芸人ばっかりだから。それで、ちょっと天狗になって、先輩たちも出ているようなお笑いライブに出るんだけど、今度は全然ウケないんですよね。先輩たちは、すごいウケてるのに。で、すごい落ち込むんだけど、そのとき初めて、東京に出てきて良かったなって思ったの。負けたから。青森では感じたことのない負け方をしたんです。このままじゃやべえなって思って。
その状態がやる気に繋がっていったというか、ちゃんと負けるっていうのは、すごく大事なことだと思うんです。
—それは東京じゃないとできなかった、と。
古坂:はい。音楽の場合、いまはネットがあるから、地方にいながらすごいものを作っても聴いてもらえるけど、やっぱりライブがやりたいわけでしょ? もちろん、青森でライブをやるのも素晴らしいけど、やっぱりセカオワ(SEKAI NO OWARI)と対バンしたいじゃん? それは、青森ではできないんだよね。
これは俺の意見だけど、君たちはいまはまだ、絶対三人のほうがいいと思う。(古坂)
ほのか:私から、もうひとついいですか? 私たちがいまの形のまま、三人でやっていくには、どうしたらいいですか?
古坂:僕らも3人組でやっていて、結局解散しちゃったから、あんまりどうこう言えないんだけど(笑)。でも逆に、いま三人でやる意味って何だろう? この三人じゃないと音楽ができないってわけじゃないでしょ?
ほのか:うーん、それはそうかもしれないけど、ひとりでやっていく自信は、まだないですよね。
あんべ:うん。ひとりでも曲は作れるかもしれないけど、まだちょっとそこまで想像できないというか。
古坂:だったら、この三人でやる意味は何だろうってほじくるのが、いちばんいいと思う。たとえば俺らは、三人でやったことによって、すごいパワーが生まれたのね。当時のお笑いって、大体2人組が多かったから、3人組だとすごいパワーが出たのよ。
ほのか:たしかに、2人と3人じゃ全然違うと思います。
古坂:だから三人も、この三人でやることの意味を考えたほうがいいかもしれない。これは俺の意見だけど、君たちはいまはまだ、絶対三人のほうがいいと思う。まあ、今日初めて会ったのに、何言ってんだって話だけど(笑)。
ほのか:なぜそう感じられたんですか?
古坂:真ん中に可愛い女の子がいて、両脇に男子がいるっていうのは、ビジュアル的にもすごいいいと思うんだよね。やっぱり、ビジュアルは大事だし、それによって、まわりの受け止め方も全然違うから。
—ピコ太郎のプロデューサーの言葉だと思って聞くと、謎の説得力があります(笑)。
古坂:でしょ(笑)。あれを普通にやっても、誰も聴いてくれないから。No titleも、この編成、このビジュアルで、みんなの支持を得たわけだもんね。
—そこにはきっと、何か理由があるわけですよね。
古坂:そう。絶対そのうち誰かが、ひとりでやりたいって言い出すから(笑)。そのときに、それは絶対マイナスだからやめたほうがいいって言えるプラスの要素を、いまからちゃんと作っていくのがいちばんいいと思う。
ほのか:なるほど。ありがとうございます。
—では最後に、古坂さんのほうから、No titleの三人にエールを。
古坂:知識と経験がいっぱいあるみたいな感じで、いままでしゃべってきたけど、全部ただの受け売りだから(笑)。自分で得たものなんて、ちょっとしかないのね。ほとんどは、自分が先輩たちから言われてきたこと。だから、何を言ったかは実はどうでもよくて……誰が言ったかが、実は大事なんだよね。その話が、その人にとって、どんな意味を持っていたのかっていう。
まあ、俺に憧れは多分無いと思うし、ちょっと方向性が違うとは思うけど(笑)。とりあえずは、やめないことだよね(笑)。
あんべ・ほのか・ポチ(ゆうと):はい(笑)。今日はありがとうございました!
- リリース情報
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- No title
『rain stops, good-bye』 -
2018年1月23日(火)配信リリース
- No title
- プロフィール
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- No title (のー たいとる)
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あんべ(Gt)、ほのか(Vo&Gt)、ポチ(ゆうと)(Piano)の三人からなる青森県三沢市出身の現役高校1年生バンド。2017年にLINE社が主催する『LINEオーディション2017』のバンド部門にエントリーし、ファイナリスト25組に選出。同年11月に行なわれたLINE LIVE『LINEオーディション2017 総合グランプリ発表SP!』にてバンド部門最優秀賞、そして総合グランプリを獲得。2018年1月23日にLINE RECORDSよりデビューが決定。プロデューサーにはGReeeeN等を手掛けたJINが就任した。
- 古坂大魔王 (こさか だいまおう)
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1991年 お笑い芸人『底ぬけAIR-LINE』でデビュー。現在は古坂大魔王としてバラエティ番組への出演をはじめ、SCANDAL、mihimaruGT、AAAなどとコラボや楽曲制作も行うなど、芸人、クリエーター、プロデューサーとして奇才ぶりを発揮し活動中。
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