Serphが2ndコンサート『NEURAL MAGIC』を、恵比寿LIQUIDROOMで4月14日に開催する。4年前、初めてオーディエンスの前に姿を現した際は「聴かせる」ことに重点を置いたのに対し、今回はその経験を踏まえて、フィジカルに作用する(つまりは、「踊れる」)ライブを目指すとのこと。その日限りの特別な空間演出も加わり、前回以上にパワフルな、祝祭的な非日常を体感できる場となるに違いない。
そして、その1週間後の4月21日には、オリジナルアルバムとしては3年ぶりとなる6作目『Aerialist』をリリース。過去の曲をアップデートしたベスト盤『PLUS ULTRA』を経て、「Serphらしさ」を再確認したアルバムであり、「人生を肯定したい」という強い想いが明確に反映された作品となっている。なお、4月14日のコンサート会場では本作の先行発売が決定。異なる軸を持ったライブと音源を同時期に体感できる2018年は、Serphという表現者の本質に迫る貴重な1年になりそうだ。
(2度目のライブは)普段居場所がない人も、感情を爆発させられるような場にしたい。
—4月14日に、4年ぶりとなる2度目のライブが開催されますね。
Serph:ライブは一度限りかなと考えていた時期もあったんです。でも、思春期に体験した「人前で音楽をプレイして、盛り上げる」ということが今も音楽を作るひとつの原動力になっていることを思い出して、このまま一度限りで終わっちゃうのは、あまりにももったいないなと。
前回は、LIQUIDROOM規模(キャパシティー1000人程度)のライブハウスで音を出すということが未体験だったので、どういうアレンジが映えるのかわからなかったんですよ。それもあって音を詰め込んだアレンジでやったわけですけど、それが満足いかなかったというか、ちょっと物足りなくて。音源の調整をもっとしたかったなっていう悔しさが残っているんです。
Serph:もちろん、音に聴き入ってくれたのはすごく嬉しかったんですけど、踊り狂っている人がいたかというと、そうではなかった。なので、もう一度やるからには、本当に楽しい空間を作りたいと思ったんです。普段居場所がない人も、感情を爆発させられるような場にしたいなと。
—『NEURAL MAGIC』というタイトルもついていますし、フィジカルだけでなく、神経にまで訴えるようなライブをイメージしている?
Serph:脳内物質が行き交って、化学反応がバチバチ起こってる感じというか、音楽を通じて、魔法のように、心と体が変容していくようなライブになればなというイメージですね。「ハレ」と「ケ」でいう「ハレ」の場にしたいんですよ。
ライブって、ある種カルトのような側面があるというか、アーティストと観客はグルになるわけじゃないですか? 教祖が持つ特別な力で信者たちが何かを体得するみたいな……って言うと、物騒な感じですけど(笑)、でもそういう場にしたいです。
—字面にするとヤバいですけど、あくまでイメージとしてということですね(笑)。
Serph:前回のライブのときは、考え過ぎて頭でっかちになっていたと思うんです。アレンジもリスニング寄りだったし。なので今回は、よりシンプルに「音楽はそもそも楽しいものだ」っていうところに立ち返りたいなと。それがこの4年の大きな変化ですね。
—その意味で、Serphさんに影響を与えた過去のライブ体験を挙げるとすれば、いつの誰のステージが思い浮かびますか?
Serph:それはわりと最近なんですけど、2012年の『electraglide』でのDJ KENTAROは最高でした。考える隙もないというか、音がダイレクトに入ってきて、体も心も呼応する感じがあったんですよね。普段そんなにライブには行かないんですけど、あの日はダンスミュージックの面白さをすごく感じたし、単純に、DJ KENTAROはすごいなって思いました。
—じゃあ、今回は楽曲のアレンジもかなり踊れる感じになってそうですね。
Serph:そうですね。ベースとビートが効いたフィジカルな踊れる感じになっています。あと今回も面白い演出を考えていて、また仮面を被って出る予定なので、ぜひ遊びに来てほしいですね。
当時のインタビューで、「飢餓感で音楽を作ってる」っていう話をしたと思うんですけど、今は真逆なんですよ。
—ライブの1週間後の4月21日には久々のオリジナルアルバム『Aerialist』がリリースされます。2016年にはベスト盤『PLUS ULTRA』を発表して、過去の曲をアップデートしたわけですが、新曲を作るにあたって、意識に変化はありましたか?
Serph:ベスト盤でアレンジをし直してみて思ったのは……『vent』(2010年)というアルバムが、すごくコンプレックスになっていたということで。すごく評価された作品だったからこそ、あれを超えるものを作りたいと思ってリリースを重ねてきたんですけど、なかなか手ごたえを感じられていないっていうのが正直なところなんです。
Serph『PLUS ULTRA』を聴く(Spotifyを開く)
Serph:当時のインタビュー(ドリームポップ界の新たな旗手 Serphインタビュー)で、「飢餓感で音楽を作ってる」という話をしたと思うんですけど、今は真逆なんですよ。音楽を通じて出会った人がいて、フラストレーションとか怒り、飢餓感をモチベーションにはできない段階にきている。今回、改めてそう思いました。そういうふうに、また新たなスタート地点に立っていることを自覚したとき、いろいろ考えたんです。
「売れる曲を作りたい」とか「大衆ウケする曲を作りたい」というのは間違いで、「自分の求めることをやらなければアーティストじゃない」みたいなことを言う人って多いじゃないですか? でも、それ以前の問題として僕が思ったのは、「アーティストの条件」って、リスナーが認めてくれた曲があるかどうかだということで。だから飢餓感からではなく、今度は本当にリスナーのために作ってみたいと思った。そこが今回のアルバムのスタート地点かもしれないです。
—初めてのライブから徐々にリスナーに対する意識が芽生えていったと思うんですけど、ベスト盤を通じて、聴き手が存在することの重要性を再確認したというか。
Serph:そうですね。作品をリリースする意味として、「まだこの世にない、なるべく新しいものを作りたい」っていう気持ちももちろんあるんです。でも今は、エンターテイメント性がありつつ、単なる娯楽ではないもの——個人に寄り添うというか、リスナーが自分の心象風景を映し出すための道具を作りたいという気持ちが強い。
だから今回は、「方向性を広げる」とか「新しいスタイルに手を出す」というよりは、自分が人に受け入れてもらえた「らしさ」を再確認して、「Serphがまた戻ってきたね」っていう感覚をもたらしたかったんです。
「生きていることはありがたい」っていう気持ちの高まりによって、多幸感が生まれるのかなと。
—アルバムのコンセプトは「架空のロードムービーのためのサウンドトラック」とのことですが、何か大きなインスピレーション源はありましたか?
Serph:Pat Metheny Groupの“Last Train Home”は大きいですね。この曲は自分にとってのアンセムで、あんな曲を作りたいっていう気持ちがありました。大陸的な広がりを感じるというか、ドライなんだけど、すごくポジティブで、温かい感じがする。あと、リズムが速くて疾走している一方で、穏やかさもあるっていうところが、すごくしっくりきたんです。
—ちなみに、“Last Train Home”はアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』の第3部のテーマ曲として使われていましたよね。
Serph:あの曲が起用されたと知って、やっぱり荒木飛呂彦って面白いなと思いました(笑)。第3部は旅をしながらのエピソードだし、最終話が「遥かなる旅路 さらば友よ」というタイトルで、再会を誓って別れるシーンで終わるんですよね。「失ったものも大きいけど、やり遂げた」っていう、あの大団円感とか、旅路を重ねてきて生まれた絆だったり、旅情だったり……あの作品を思春期に読んでいたこともあって、血肉になっているのかなと。
“Last Train Home”収録のPat Metheny Group『Still Life (Talking)』(1987年)を聴く(Spotifyを開く)
—では、まさに1曲目の“first train home”は、“Last Train Home”から得た感覚を自分なりに表現したものだと。
Serph:そうですね。『ジョジョ』の話じゃないですけど、今回のアルバムは「大団円感」があるというか、「いろいろあったけど、よかったね」とか「あんなこともこんなことも、すべてが今の自分につながっている」みたいな、感謝の気持ちを核にした作品でもあって。
今までSerphの音楽は「多幸感」という言葉でも語られてきたと思うんですけど、その多幸感を「感謝している状態」だと自分のなかで認識したんです。「生きていることはありがたい」っていう気持ちの高まりによって、多幸感が生まれるのかなと。
—かつてのSerphの作品からはユートピア的な多幸感が感じられましたが、徐々にその目線が日常にシフトしていって、今回の作品は日常のなかでの感謝から生まれる多幸感になっているのかもしれないですね。音楽性に関しては、「Serphらしさを意識した」という話がありましたが、その上で、今回ならではのチャレンジとしては、どんな部分が大きかったですか?
Serph:リバーブとディレイをちゃんと使えるようになってきたというのはあります。いろんな音の素材を混ぜていくときに、リバーブやディレイを使ったほうが、よりハーモニーが面白くなることに気づいたんです。今回は全曲通じて、ほぼすべてのパートにリバーブとディレイをかけていて、独特のモヤモヤした感じはそれによって生まれています。
—インスピレーション源としては、Bonoboを挙げていますね。
Serph:Bonoboに関しては、音楽の作り方が似てるなって思ったんです。生音のサンプリングの上に、ベースやコードを足して、ビートを入れて、展開させていくみたいな楽曲構造に、共通点を感じて。サンプリングって、楽譜を見ながら作曲をしていくのとはまた別で、すごくフィジカルな感じがするんですよ。楽譜的な正しさじゃなくて、「これとこれを組み合わせるのが面白い」みたいなことが、サンプリングだと問答無用な感じで表現しやすいなと。
Bonobo『Migration』(2017年)を聴く(Spotifyを開く)高尚な芸術が人を救う場合もありますけど、今はもっと厳しい時代だと思うんです。
—アルバム全体の構成としては、“first train home”からはじまって、中盤までは広大な景色を感じさせる曲のなかにファンキーな曲も交えつつ、後半からはまさに「旅情」を感じさせる曲が増えて、ラストの“phosphorus”で文字通りの大団円を迎えますね。
Serph:「感極まってるんだけど、穏やか」みたいな大団円感が出せたかなと思います。物語があるべきところに収束していく、みたいな。
—そんな曲にギリシャ語で「光を運ぶもの」を意味する“phosphorus”というタイトルをつけた理由は?
Serph:もともとアルバムタイトルに「Lucifer」という言葉を使おうと思っていたんです。「Lucifer」はラテン語で「光を運ぶもの」っていう意味で、自分としては「ダメ人間ですけど、光は放ちますよ」みたいなイメージ(笑)。でも、誤解されるかもと思って、“phosphorus”を使いました。
ただ、神秘主義の立場からすると、「悪」を「未知の領域」っていうふうに捉えることもあるみたいで。Luciferも「自分を啓蒙してくれるシンボル」とされているらしいので、今作にそういう意味合いも持たせたかったんですよね。
—つまりは、Serphの音楽も誰かを啓蒙するようなものになれば、という想いがある?
Serph:「啓蒙」と言うとおこがましいですけど、まだ知らない自分を発見してもらうというか……それが「光を当てる」ということなのかなと思ったんです。自分は引きこもって音楽を作っていて、音楽を通じてわずかに居場所を得ている人間なので、社会の構成員として胸を張れるかというと、そうではない。
リスナーのなかにも、抑圧を感じて、自分の居場所を感じられない孤独な人がいると思うから、このアルバムを聴いてるときは、そういうことを考えないですむように、束の間でも救われた気持ちになってほしいんです。つらい現実から自由になってほしい。
—「軽業師」を意味する『Aerialist』というタイトルも、リスナーの心を奪って、そういう境地に連れていくようなイメージなのでしょうか?
Serph:そういうイメージもありますし、あとSerphの曲自体、展開が多くてアレンジもめまぐるしく変わるっていうのが、すごく軽業っぽいなと思ったんです。
—作品のインスピレーション源として『ルパン3世』も挙げられていて、それも「軽業師」のイメージとリンクするものがありました。
Serph:ルパンって、義賊というよりは、自分の技を存分に発揮して、世間をアッと言わせたい人なんだと思うんです。そこがすごくかっこいいなって。今作に『Aerialist』というタイトルをつけたのは、わかりやすくて、なおかつちゃんと技術も入ってる作品が作りたかったからなんですよね。高尚な芸術が人を救う場合もありますけど、今はもっと厳しい時代だと思っていて。高尚な気持ちになる余裕がない人でも助けられるような作品にしたかったんです。
Serph『Aerialist』ジャケット(Amazonで見る)
きっと、変身願望があるんだと思います。ヒーローになりたいです。
—リスナーに救いを与えたいというような感覚で言うと、今のアメリカでトラップが流行っているのは、厳しい時代であることの反映だという見方がありますよね。
Serph:トラップについては、自分はあんまり理解できないんですよね。ストレス発散な感じがするというか。そういう表現は、若い人からは求められると思うんですけど、自分にとっては世代で区切られてしまった感じがあるのかもしれない。
そもそもゲットーのなかのゲットーの人たちが過ごしてる日常から生まれた表現で、ドラッグありきだったり、「もう抜け出せない」っていう過酷な状況が前提になってるわけじゃないですか? だから、繊細なスネアのワンタッチを感じる余裕がないというか。—トラップはローランドのリズムマシンTR-808による機械的なビートが、音楽的な特徴のひとつなっていますよね。
Serph:クラシックやジャズの音楽的な展開とか、メロディーの美しさを愛でるみたいなこととは違うところに、今の若い世代は直面してるのかなと思うんです。そこから新しい音楽が生まれる可能性もあると思うけど、世代が違う者として、そこにフレッシュに入っていけないということは感じます。
—では、Serphとしてはどんなふうに今の時代にアプローチをしていきたいですか?
Serph:音楽を通じて人生を肯定したい、生きていることを肯定したいというのが最大の目的です。音楽を聴くことによって、体も心も救われた気持ちになるような——何度も「感謝」という言葉を使っていますけど、「生きてることはありがたい」ってことを思い出させたいんですよ。
あと……僕は、幼稚園児とか小学校低学年の頃の夢がスーパーヒーローだったんです。困ってる人を助けているのがかっこよかったから、戦隊ヒーローものがすごく好きで。僕も「助けたい」とか「人の役に立ちたい」ってずっと思っていたからこそ、音楽を通じてそれができるようになりたいって思うんですよね。
—それこそ、ステージに立つアーティストはオーディエンスにとってのヒーローだと思うし、そういう意味でも、久々のライブはすごく楽しみですね。
Serph:そうですね。年に一度どころか、4年に一度の晴れ舞台なので(笑)。
—仮面を被って出るというのは、ヒーローに対する憧れの表れだったり?
Serph:それに近いものがありますね。きっと、変身願望があるんだと思います。ヒーローになりたいです(笑)。
Serph 2ndコンサート『NEURAL MAGIC』ビジュアル(サイトを見る)
- リリース情報
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- Serph
『Aerialist』(CD) -
2018年4月21日(土)発売
価格:2,484円(税込)
NBL-2241. first train home
2. coil
3. sparkle
4. airflow
5. nightfall
6. folky
7. ignition
8. artifakt
9. traveller
10. weather
11. popp
12. sunset
13. phosphorus
- Serph
- イベント情報
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- Serph
『Serph 2nd Concert“NEURAL MAGIC”』 -
2018年4月14日(土)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM
料金:前売3,900円 当日4,400円(共にドリンク別)
- Serph
- プロフィール
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- Serph (さーふ)
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東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。2009年7月にピアノと作曲を始めてわずか3年で完成させた1stアルバムを発表。以降、コンスタントに作品をリリースしている。2018年4月、通算6枚目のフルアルバム『Aerialist』をリリースする。より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクトReliqや、ボーカリストNozomiとのユニットN-qiaのトラックメーカーとしても活動している。
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