放送作家・倉本美津留が語る音楽仕事 最新の企画は「怖い童謡」

ダウンタウンとの仕事で知られる「放送作家」である一方、自身のソロはもちろん、さまざまなアーティストとのコラボレーションを行ってきた「ミュージシャン」でもある倉本美津留。その彼がLINE RECORDSとタッグを組んで、「童謡誕生100周年」プロジェクトをスタートさせる。かねてより童謡好きであることを公言している倉本が、この企画で焦点を当てるのは、「怖い童謡」。

倉本自身が作詞作曲した“それではみなさんさようなら”を課題曲として、一般公募を実施。そこで選出された少年少女たちが、「童謡の日」である7月1日に配信デビューすることも予定しているという今回のプロジェクト。それは果たして、どんな意図のもとに始まった企画なのだろうか。そして、そもそも倉本にとって音楽とは、どんな位置づけのものなのだろうか。LINE RECORDSの事業プロデューサー、田中大輔の立ち会いのもと、倉本に訊いた。

子どもが聴いて、反面教師に近い感覚で世の中の怖さを学ぶことが必要なんじゃないかな。(倉本)

―そもそも、このプロジェクトはいったい……。

倉本:「何だろう?」ってなりますよね(笑)。

―はい(笑)。まずは、その経緯について教えていただけますか?

倉本:僕はもともと童謡というジャンルが大好きで、その中に「怖い歌」があるなっていうのは、昔から思っていたんですよね。たとえば、"てるてる坊主"とかも3番の歌詞になると<それでも曇って泣いてたら そなたの首をチョンと切るぞ>とかになるわけで。

左から:倉本美津留、LINE RECORDS田中大輔
左から:倉本美津留、LINE RECORDS田中大輔

―そうなんですか?

倉本:そうなんですよ。僕は、そういう「怖い歌」みたいなものがもっとあったほうが面白いんちゃうかなあと思って、自分のアルバムを作っているときに、その中の1曲として、自分の娘をリードボーカルにして、少年少女合唱団と一緒に怖い童謡を歌わせてみたんです。

そしたら、映画監督の園子温が、「今度、初めてメジャーで映画撮るんだけど、そのテーマソングに、この曲使わせて」って言ってきて。それが、今回の課題曲にもさせてもらった、“それではみなさんさようなら”っていう曲なんですけど。

―園監督の映画『自殺サークル』(2002年)の主題歌ですね。

倉本:そうです。そしたら誰かが、“それではみなさんさようなら”に画像をつけて、勝手にニコニコ動画にアップしたみたいで。僕は全然知らなかったんですけど、その動画がネットで注目されたみたいなんです。で、僕がそれを知った頃には、その動画がえらい再生数になっていて、やっぱこれは何かあんのかなあと思ったんですよね。

―それは映画の公開タイミングですか?

倉本:いや、公開から何年も経ったあとです。ただ、それを無視するのは、ちょっともったいないかなって思っていたとき、たまたまLINE RECORDSの田中さんと知り合ったんです。

田中: LINE RECORDSは、ストリーミング時代におけるスターを輩出するべく、これまで若いアーティストをフックアップするなど、アーティストを起点にものを考えることが多かったんです。でも、全く違う視点から企画ができないかなっていうのを、放送作家として著名な倉本さんに聞いてみたいなと思って。

そしたら「それなら、おもろいのあんねん」みたいな感じで(笑)。実は今年、「童謡誕生100周年」なんだっていう話も聞いて。「もうそれ、絶対やりましょう!」ってなったんですよ。

田中大輔

―童謡の誕生っていうのは、しっかり記録されているんですか?

倉本:1918年に、北原白秋が参加していた『赤い鳥』という児童雑誌が出版されたんですけど、その中で初めて「童謡」という言葉が使われたんですよね。そこからちょうど100年なんです。

だから、「今年絶対何かやらなアカン」っていうのは思っていたんですよね。そして、童謡の可能性っていっぱいあるけど、その中でも「怖い童謡」っていうのは、ひとつあるなあと。

田中:そう、「怖い童謡」に倉本さんが着目されているのが、すごく面白いと思ったんです。去年『怖い絵展』があって、行列ができるほど盛り上がったりしたじゃないですか。あれも結局のところ、その絵の裏に隠された意味を読み取って、それがSNSで盛り上がったところもあったと思っていて。

だから「怖い童謡」は我々LINE RECORDSにとっても面白いと思ったんです。例えば、「怖い童謡」の曲をLINEのプロフィールBGMに設定して、友だち同士の間で口コミ拡散するなど、LINEを通じたコミュニケーションが生まれる可能性のある企画なんじゃないかと思ったんです。

倉本:やっぱり怖いもん見たさというか、怖いもん聴きたさみたいな感覚が、このネット社会の中ではインパクトがあるんかなっていう。

倉本美津留

―確かにネット社会になってから、そういった「本当は怖い」みたいなコンテンツが、改めて注目されているような気がします。

倉本:やっぱり、ちょっとけしからん感じがするというか(笑)。でも、そういう感覚って、すごく大事だと思うんです。特にいまの時代って、社会が表層だけでごまかされてるみたいな感じがあって、裏にまわったらむちゃくちゃだったりするじゃないですか。

野性的にそれを感じるきっかけみたいなものも、最近は少なくなり過ぎている気がするし。そういう感覚を養うためにも、この企画はぴったりかもしれませんね。

「The Beatlesを超えるためには、どうすればいいんだろう」って感覚で、テレビ番組も作ってきたんですよ。(倉本)

―ところで倉本さんは、これまでもさまざまな形で音楽制作にも関わっています。倉本さんにとって音楽は、どういう位置づけの活動になるのでしょう?

倉本:僕はね、実は自分のことを放送作家とは思ってないんですよ。どっちかというと音楽とか……まあ、いちばん広いのはアートですね。アートの感覚をどう表現に落とし込もうって思って、テレビ番組の企画を考えたり。放送作家の仕事も、その視点でやっているんですよね。

それと同じ視点で、音楽も作っていて。人が聴いたときに「何、これ?」って思うようなフックのあるもの、1回聴いたらちょっと刷り込みになるようなものを、音楽でも作りたいと思っているんです。

だから、テレビの仕事と音楽活動に垣根はないんですよね。まあ、どっちで食べてるかって言ったら放送作家の仕事なんですけど(笑)。

倉本美津留

―そういう音楽との距離感は、昔から変わってないんですか?

倉本:そうですね。小学校5年生のときに、The Beatlesという存在に出会ったことがでかくて。それ以前から、自分で勝手に作った歌を歌いながら、学校から帰るような子どもだったんですけど、小5のときに、3つ年上の兄貴が友だちからThe Beatlesのレコードを借りてきたんです。それを家でかけてたんですけど、流れてきた音楽が、自分が街で聴いて好きやなと思って頭の中にインプットしていた曲ばかりだったんですよ。

しかも、兄貴に「The Beatlesは、他人の曲じゃなくて、自分らの作った曲で、世の中を変えたんだ」と教えられて。それはすごいな、オリジナリティーって大事だなって思って。それから、誰もやってないことばっかり考えるようになったんですよね。

―それがいまの倉本さんの原点になっているんですね。

倉本:もちろん、そのあと自分でもいろいろな音楽を聴くようになるんですけど、どのジャンルも「The Beatlesがやってたな」みたいな感覚があって。もとになっているのはThe Beatlesなんじゃないかっていう。だから、彼らを超えるためにはどうしたらいいのか、ポール・マッカートニーを超えるためには、どんなメロディーを産み出したらいいのか、そんなことばっかりを考え続けています。

―王道に対して真正面から向き合うみたいな。

倉本:そう、真正面から勝負して、それを超えていきたいんですよね。王道を超えることによって、次の王道を作りたい。僕が童謡に惹かれるのも、それが理由なんです。僕は、The Beatlesも、ジャンルで言ったら童謡なんじゃないかと捉えているところがあるんです。

童謡って、どの曲もグッドメロディーで覚えやすくて、いつまでも忘れないものばかり。しかも、そこからまた、いろんなものが生まれていく。そういうものを、僕は作りたいんですよね。

その意識は、僕がこれまで作ってきたテレビ番組にも反映されていると思います。The Beatlesを超えるためには、この番組をどうするのがいいんだろうって。そういう感覚で、番組を作ってきたんです。

左から:倉本美津留、田中大輔

―音楽的なルーツで言うと、The Beatlesと並んで、はっぴいえんどの影響も大きいんでしょうか?

倉本:そうですね。はっぴいえんどのことを最初に知ったのは高校生ぐらいですけど、そんときに「うわっ、歌詞っていうのは、まだこんな可能性あったんだ」って衝撃を受けたんです。メロディーは、これまでに試行錯誤されてパターンが出つくしているかもしれないけど、歌詞はまだまだいろいろできるなと思って。

それから自分も、普通ではない歌詞を考えるようになるんですよ。「普通、歌詞にこんな言葉入れないだろう」みたいな言葉を使ったり。歌詞の実験という意味では、はっぴいえんどの影響は大きいですね。

左から:倉本美津留、田中大輔

ようわからへんものが、やっぱり時代を作っていくと思う。(倉本)

―今回のLINE RECORDSからのリリースも含めて、昨今の「音楽の発信の仕方」「音楽の聴き方」の変化については、どのように感じているのでしょう?

倉本:レコードをターンテーブルに乗っけて、A面からB面に裏返す……で、傷つけたら兄貴に怒られるから、なるべくそーっと持って……とか、そんな頃から音楽を聴いてますからね。聴くときは襟を正してちゃんと集中して、見るのはジャケットだけみたいな(笑)。

そんな時期からいままで、一応体験してきているわけで……もちろん、サブスクで好きな曲をすぐに聴けるのは最高やし、自分が好きそうな曲をレコメンドしてくれるのも便利だと思う。だけど、自分から探しに行って寄り道するみたいなことが少なくなってきてるのは、ちょっともったいなあとは思っていて。でも、多分それとは違うことが、このあとに起こってくるんだろうなって思うんですよね。

左から:倉本美津留、田中大輔

―それはどういうことでしょう?

倉本:いまの若い子を見てると、やっぱりキャパがでかいというか、我々よりも使っている脳のパーセンテージが増えてるんじゃないかと思うんです。どっちがいいとかではなく、両方とも同時に楽しむことができる。頭の中がパンパンにならないんですよね。

たとえば、いまアナログがまた売れたりしているのだって、「あ、ここに、こんなおもろいもんあるんだ」ぐらいの軽い気持ちだと思うんです。あっちもこっちも楽しむことができる。新しくて面白いものっていうのは、そういうところから生まれるような気がするんですよね。それこそ、レコードをスクラッチして、楽器にした人が出てきたように。

―なるほど。スクラッチなんて、それまでの常識では、考えられなかったことですもんね。

倉本:誰かがやり始めたわけじゃないですか。もう「何やっとんねん!」って話ですよね。レコードは傷つけたらアカンと思って育ってきた人間にとっては(笑)。でも、そこから新しいものが増えていったわけで。レコードを発明した人間とかそれを作っている人間が、まったく意図しなかった楽しみ方が、生まれてくる。それがやっぱり、面白いんですよね。

倉本美津留

―それこそ、倉本さんの“それではみなさんさようなら”も、本人の意図しない形で話題になったわけで。

倉本:多分、僕のことを知らないひとたちが聴いて、面白がってるんだと思うんですよね。だけど、それが一番理想的な広がり方なのかなと思ったりもして。BABYMETALって、僕が「校長」をやっている「さくら学院」の出身で、いわば僕の教え子たちなんですよね。

倉本美津留が「校長」を務める、さくら学院"マセマティカ!"

―なるほど。BABYMETALを輩出したアイドルユニット「さくら学院」にも倉本さんは携わっているんですね。

倉本:「さくら学院」は学校をモチーフにやっているから、クラブ活動っていうのがあるんですよね。で、そのクラブの中に重音部「BABYMETAL」っていうのがあったんです。最初はグループ内のいちユニット、いち企画だったんですよね。でも、あの新しさでアイドルの枠を飛び越えていった。YouTubeなんかを介して海外への飛び火も早かったですよね。

もともとはさくら学院のクラブ活動だった、BABYMETAL"ギミチョコ"

―ピコ太郎さんもそうですが、いわゆるマーケティングみたいなものとは全然関係ない広がり方をしたというか。

倉本:そう。だからやっぱり、好きだからずっとやってるとか、そういうことって大事なんですよね。僕もしつこいタイプです。「怖い童謡」なんて、実はもう30年近く前から、自分の中ではある企画なので。それをしつこく言い続けてたら、面白がってくれる人と出会って、いまこうして形になろうとしているっていう(笑)。

―ちなみに、この企画というのは、これからいつ頃、どんな形で動いていく予定なのでしょう?

田中:スケジュールとしては、倉本さんの“それではみなさんさようなら”を課題曲とした一般公募のオーディションがスタートして、そこで選ばれた人たちの音源を新たにレコーディングして、7月1日の「童謡誕生100周年」の記念日にリリースしたいと思っています。

田中大輔

『怖い童謡オーディション』イメージビジュアル
『怖い童謡オーディション』イメージビジュアル(サイトを見る

―それは、オーディションで選ばれた人が歌う“それではみなさんさようなら”になるのですか?

田中:それとあと数曲、倉本さんプロデュースで、いま考えているところですね。

倉本:うん、“それではみなさんさようなら”は課題曲なので、リリースしますけど、その他にいま、8曲ぐらいオリジナルの「怖い童謡」の候補があるので、そこからさらに絞ったものをレコーディングしたいと思っています。いや、もう面白い曲があるんですよ。これを子どもが歌ったら、どうなるんやみたいな(笑)。

―それを楽しみにしつつも……。

倉本:ようわからへんものが、次の時代を作っていくと思うんですよね。正直、僕らもどうなっていくのか、よくわかってないところがある。ただ、いまこれをやらなアカンっていう変な使命感だけはもっています。

左から:倉本美津留、田中大輔

イベント情報
倉本美津留 x LINE RECORDS「怖い童謡」オーディション

募集期間:2018年5月14日(月)~5月31日(木)
対象者:
全国の少年少女グループ
合唱団
14歳~21歳の男女

プロフィール
倉本美津留 (くらもと みつる)

放送作家。NHK Eテレの子ども番組『シャキーン!』『ダウンタウンDX』『M-1グランプリ』『浦沢直樹の漫勉』などを手がける。これまでの仕事に『ダウンタウンのごっつええ感じ』『伊東家の食卓』『たけしの万物創世記』他多数。近著に「ことば絵本 明日のカルタ」(日本図書センター)「倉本美津留の超国語辞典」(朝日出版社)。また、ミュージシャンとしての顔ももつ。サカイ引越センターCMソング「ここち」、「東京23区おぼえ歌」、NHKみんなのうた「月」など、ジャンルレスに楽曲を発表している。

田中大輔 (たなか だいすけ)

LINE RECORDS事業プロデューサー。1976年神奈川県生まれ。大学卒業後、CD・レコードショップのバイヤーを経て、2002年ユニバーサルミュージック合同会社に入社。数々のアーティストのマーケティング・メディアプランナーを担当し、2015年LINE株式会社に入社。定額制オンデマンド型音楽配信サービス「LINE MUSIC」に従事、2017年3月に「LINE RECORDS」を発足。



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