ゆるふわリムーブのラブソングは失恋を経てより強く。全員で語る

広島を拠点に活動する4人組バンド、ゆるふわリムーブが5月16日にミニアルバム『綻び』(読み:ほころび)をリリースする。前作『芽生』が『第10回CDショップ大賞2018「中国ブロック賞」』に輝き、ますます注目を集めている彼ら。前回のインタビューでは、「一番幸せなときでも、勝手に最悪の想像をしちゃうんです」と作詞作曲担当の網谷直樹は話しており、そのイメージがこれまでの作曲の原動力になっていたことを語ってくれた。

恋人との別れを経験した彼は、今作で改めてラブソングと向き合った。想像ではなく、実体験に基づいた失恋が歌われた『綻び』を紐解くにあたり、大事な人と別れた先に見つけた網谷の恋愛観を掘り下げた。

よく「捨てられた子犬みたいだね」って言われてました(笑)。(網谷)

―『綻び』をじっくり聴かせていただきました。そこで、僕なりに感じたことがあって。これまでも別れの曲は作られてましたけど、“ウソヲツク”の<今頃何をしてんだろう/あの笑顔は誰に向けてるんだろう>とか、“ブルースター”の<出会ったあの日に戻りたくて>とか、特に今作は失恋の辛さが生々しく伝わってきました。

網谷(Vo,Gt):それは……2年くらい付き合っていた彼女と別れたのが大きいのかなと思います。今までは、その彼女と付き合っているときに失恋の曲を、「こうなったら嫌だな」っていう最悪のシチュエーションを自分なりに膨らませて書いていたんです。逆に今作は、別れて自分がどう思っているのかを歌詞にしたので、これまでと違う印象を受けたのかなって。

―これまでは想像で失恋の気持ちを歌っていたけど、実際に別れを経験したと。

網谷:そうです。実は今までの曲はすべて、その彼女に対して書いていた曲だったんですよね……。別れた直後は心臓に穴が空いたんじゃないか、っていうぐらいの喪失感と虚無感があって。でも今は感謝しているというか、『綻び』の収録曲は「一緒にいてくれてありがとう」って気持ちで書けました。

ゆるふわリムーブ(左から:本田智志、網谷直樹、高宮蘭真、久保真也)
ゆるふわリムーブ(左から:本田智志、網谷直樹、高宮蘭真、久保真也)

―ゆるふわリムーブってたくさん失恋の曲がありますけど、相手のことを絶対に悪く言わないですよね。そこに網谷さんの優しさを感じます。

網谷:うわぁ、ありがとうございます。その人は4歳下だったんですけど、常に僕をリードしてくれて。よく「捨てられた子犬みたいだね」って言われてました(笑)。

―捨てられた子犬?

網谷:僕は昔から一人になるのが嫌いで、常に誰かと一緒にいたがる性格を「捨てられた子犬」というふうに言っていたのかもしれないです。一人になると恐怖にさいなまれて、嫌なことを思い出したり辛い気持ちになるので。そういう思いをしたくないからこそ、孤独になりたくない想いを歌にしてるんです。

―「孤独になりたくない」と思いながら、失恋の歌を歌っているわけですよね? 「こうなりたい」って願望を歌うのではなく、「こうなりたくない」ということをあえて歌うのは珍しいのかなと思います。

網谷:いつも逆のことばっかりを書いてしまうんです。よく彼女にも「付き合ってるのにどうして失恋の曲ばっかり作るの!?」って怒られてました(笑)。

―「もしかして、別れたいと思ってるの?」って普通は怒りますよ(笑)。

網谷:そうですよね。人との別れというのは、恋愛に限らず嫌いで。学生時代の頃も同級生と離れるのが辛かったんですよね。僕、普段は明るく見られがちなんですけど、実際に考えていることは未来の不安が大きくて……明るく振舞っているのは、「辛いときこそ明るい気持ちで!」っていう考えがあるからなんです。

網谷直樹
網谷直樹

網谷:それに僕は、自分を絵に描いたような弱い人間だと思っているんですけど、そういう自分の性格とか人間性が、歌詞のネガティブさに表れているんだと思っていて。よく思われたいというよりも嫌われたくなくて、無難に生きてます。

―気持ちはわかりますけど、みんなに嫌われずに生きていくのは無理じゃないですか。

網谷:僕のことが嫌いな人は、僕がどうこうしても解決できる問題じゃないからしょうがないかな、って思うんです。でも、完全拒否じゃないなら、できる限り繋がりたいというか……害がないように接したいです。

―いつも他人のことを気遣っているんですね。

久保(Gt):俺らにもそういうところあるんですよね。さっきも「これ美味しいから食べたほうがいいよ」って。

高宮(Dr):そうそう(笑)。

網谷:気を遣いすぎて、おせっかいしちゃうんです(笑)。

本田(Ba):うん、たまに過剰なときがある(笑)。

左から:網谷直樹、高宮蘭真、本田智志、久保真也
左から:網谷直樹、高宮蘭真、本田智志、久保真也

音楽で稼げるのかも、いつまで続けられるかもわからないし、その一方で自分も彼女もどんどん歳を取っていくし……。(本田)

―これまでもインタビューで「考えすぎてネガティブになる」ということは話してましたけど、今作の“愛の花束”を聴いて、網谷さんの人間的な成長をすごく感じました。この曲って、結婚する友人に向けて書いた曲なんですよね。

網谷:はい。前の職場の先輩から「結婚するから網谷に1曲歌ってほしい」と言われて。どうせ歌うなら、2人に向けた曲を作ろうと思って書きました。

―1曲目の“碧き青春”で<どうか戻して 出会う前の二人に>と歌っていた人が、ラストの“愛の花束”で<終わりがあるから綺麗で>と歌った。『綻び』を通して、新しいラブソングの答えを見つけたのかなと。

網谷:そうですね。これまでは前の彼女に対して曲を書いていたのが、違う女の人目線で書いたことで今までにない考え方が生まれました。新しい発見というか、引き出しが増えたのかなって。

―結婚式で披露したとき、先輩からの反応はいかがでした?

網谷:ありきたりな表現ですけど「めっちゃよかった!」って。先輩の奥さんは「ありがとー!」って言って泣いて喜んでくれました。

網谷直樹
網谷直樹

―実際に失恋を経て、網谷さんの「ラブソング」に対する意識はいかがですか?

網谷:この恋をいつまでも続けたいと思うんですけど、結局はうまくいかないっていうことをなぜか書いてしまうんですよね。ハッピーな恋愛の歌もいいと思うんですけど、実際に人生のなかでハッピーに終わる恋って10回のうち1回くらいしかないじゃないですか?

久保:まあ、そうだよね。

網谷:基本は別れがきてしまうんですよね。でも“愛の花束”は、ハッピーな人に向けた曲もあっていいかなと思って書きました。この曲だけは特別で、大抵の場合はどちらかの気持ちが切れてしまう結末がほとんどなので。

―たしかに基本的に恋愛は結婚して一生を共にするか、別れるかのどちらかですよね。みなさんは結婚するつもりで毎回女性と付き合っているのか、それとも、いずれ別れることを予見しながら付き合っているのか、どちらですか?

高宮:別れると思って付き合ってない、と言いたいんですけど……でも、心のなかではどこか別れることも感じながら付き合ってますね。僕は人生、フラれてばっかりで。

前に4年間付き合っていた人がいたんですけど、その子とはずっと一緒にいるだろうなと思っていたら、ある日、喧嘩をしてそのまま1週間会わなくなって。で、そのあと……僕と別れてないのに、その子がバイト先の先輩と付き合ってることが判明して。そこから、新しく彼女ができたとしても、別れることがよぎるようになりました。

高宮蘭真
高宮蘭真

本田:僕はいつも結婚する覚悟で付き合いますね。だけど、バンドをやっていると先が不安じゃないですか。音楽で稼げるのかどうかも、いつまで続けられるかもわからないし、その一方で自分も彼女もどんどん歳を取っていくし……そうやって考えると、実は無意識に別れを考えてるかもしれないですね。

―お話を伺って、意外とみなさんは似た者同士かもと思ったんですが、普段メンバー間でこういう話をしたりするんですか?

高宮:いやぁ、人間性に関しては結構バラバラだと思いますよ。もともと僕らは、通っていた学校も、育った環境も違って、バンド組むためだけに集まった4人なんですよね。気の合う友達同士からはじまった、というわけではないので、何をするにしてもみんなが違う意見を持っている4人で。でもそこがいいところだと思ってます。

―たしかに、人間性がバラバラだからこそ化学変化が生まれているかもしれないですね。みんなが同じタイプだったら、歌詞に合わせてもっと演奏がヘヴィになってもおかしくないですけど、爽快さや温かさのある音になっている。

網谷:そこは意識しているところですね。どんなシチュエーションにもマッチするように作ってます。歌詞は失恋のことを歌ってるけど、耳馴染みがいいメロディーにすることで、現状よりもちょっと上向きな気持ちで聴けるのかなって。そこはかなり意識してます。

ゆるふわリムーブ『芽生』(2017年)を聴く(Spotifyを開く

僕は今までの恋愛に後悔をしたことなくて、むしろ感謝してるんです。(網谷)

―前回のインタビューでルーツはRADWIMPSだと話していましたけど、RADWIMPSは歌詞が好きで聴く人もいれば、メロディーが好きで聴く人もいて。しかも、自分のことを歌っていると思って聴く人もいれば、みんなで盛り上がりたくて聴く人もいるというのは、ゆるふわリムーブにも通じる気がします。

網谷:ありがとうございます。僕は今まで自分のためだけに曲を書いていたんですけど、「今回はゆるふわリムーブの新しい姿を見せたい」っていう気持ちもあって。全部自分だけじゃなくて、他の人も共感できるイメージで書きました。

―聴き手に対して、意識がよりオープンになりつつあるんですね。

網谷:そうですね。去年ワンマンライブをしたときに、ライブの途中で感情がこみ上げてきてしまって。たくさんの人が僕たちの音楽を聴いてくれているのが、すごく嬉しかったですし、もっと頑張ろうと思ったんですよね。あの瞬間が今を頑張る糧になっていますし、自分にとって大きなことだったなと思います。

―孤独を歌っていたはずなのに、みんなが同じ空間でその曲を分かち合っている。

網谷:ワンマンライブをやって、僕らの音楽を待ってくれているお客さんがいることに気づきました。僕は一人じゃないんだ、って思えましたし。バンドっていう全力で打ち込めることがあって、本当によかったです。

2017年7月30日に広島4.14で開催されたワンマンライブより / 撮影:藤井秀吉
2017年7月30日に広島4.14で開催されたワンマンライブより / 撮影:藤井秀吉

―「僕らの音楽はネガティブポップ」ってご自身たちでも言ってたから、今日お会いするまではとっつきにくい人たちかも、と思ってたんですよ。

高宮:(笑)。

―だけど、実際に話してみるとピュアというか嘘がない印象を受けました。

高宮:ありがとうございます。すごく嬉しいです。

網谷:実際、みんなはネガティブ? ポジティブ?

久保:う~ん、どっちだろう。

本田:場面によるけど、恋愛とか人生みたいな真面目な問いに対しては、真剣に向き合うからこそどうしてもネガティブな方向に考えると思うんです。でも、常にネガティブに生きてるわけじゃないので、そこにギャップが生まれるんだろうなって。

「ネガティブポップ」って言葉自体、誰が言い出したのかわからないんですけどね。真剣なときはネガティブな部分も出てくるけど、普段はそうじゃないよっていう。ポップな部分もあるよ、と思ってます。

久保:基本は笑ってるもんね。

久保真也
久保真也

ゆるふわリムーブ『綻び』収録曲(Spotifyを開く

―真剣に生きていて、ちゃんと物事を前に進めようと思うからこそ、「こうなったらどうしよう」って真面目に考えますよね。

本田:網谷は恋愛と真剣に向き合ってるからこそ、大事な人を失いたくなくてネガティブなことを歌うのかなって。

本田智志
本田智志

網谷:そうなんだろうね。『綻び』を通して視野が広がりました。前は彼女しか見えてない感じだったんですけど、今はその子だけじゃないというか。僕は今までの恋愛に後悔をしたことなくて、むしろ感謝してるんです。好きな人と会えなくなったり、失ったりして辛い思いもしましたけど、いいことも悪いこともプラスの方向にできるんだって思えるようになったので。

高宮:網谷は別れてから強くなったよね。

網谷:遅かれ早かれ別れはいつか来てしまうので、それまでの時間を大切にしようって考えになりましたね。「あのときにこうしておけばよかった」なんてことを感じないくらいの時間を今から出会う人や、メンバーと過ごしていきたいです。

左から:網谷直樹、高宮蘭真、本田智志、久保真也
左から:網谷直樹、高宮蘭真、本田智志、久保真也

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アーティストが自身の楽曲やプロフィール、活動情報、ライブ映像などを自由に登録・公開し、また、リスナーも登録された楽曲を聴き、プレビューや「いいね」等を行うことができる、アーティストとリスナーをつなぐ新しい音楽の無料プラットフォーム。登録アーティストの楽曲視聴や情報は、「Eggsアプリ」(無料)をダウンロードすると、いつでもお手もとでお楽しみいただけます。

料金:無料

リリース情報
ゆるふわリムーブ
『綻び』

2018年5月16日(水)発売
価格:1,728円(税込)
EGGS-030

1.碧き青春
2.明日を鳴らせ
3.ウソヲツク
4.ブルースター
5.ブレイブ
6.シオンの涙
7.愛の花束

プロフィール
ゆるふわリムーブ
ゆるふわリムーブ

Gt./Vo.網谷、Gt.久保、Ba.本田、Dr.高宮による、広島を拠点に勢力的に活動中のフォーピースバンド。2015年8月度の「MASH A&R」のMONTHLY ARTISTに選出、同年12月にはスペースシャワー主催オーディション『Day Dream Believer』にて全国3569組より最終選考4組に残る。2016年1月20日にはタワーレコード「FIRE STARTER」レーベルよりワンコインシングル『透明な藍のようにe.p.』をリリースし、発売より9日で完売。2017年6月、もみじ銀行へのCM提供曲が収録されたミニアルバム『芽生』がリリース。2018年3月、『芽生』で『第10回CDショップ大賞2018「地方賞中国ブロック賞」』を受賞。同年5月、ミニアルバム『綻び』をリリース。ロマンチックなメロディーと感傷的な歌詞を武器に、広島から全国へ挑戦し続ける。



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