5月25日から、「コニカミノルタプラネタリウム“天空”in 東京スカイツリータウン®」にて、『LIVE in the DARK -w/Quartet-』がスタート。haruka nakamuraの手掛けた“haruka nakamura QUARTET SCORE”が弦楽四重奏によって完全アンプラグドで演奏され、星空とともに「非日常」を体験できる本プログラムは、毎週金曜日に2ステージを実施。約1年間の上演が予定されている。
青森の自然を自らの原風景とし、昨年まで活動の主軸としていたharuka nakamura PIANO ENSEMBLEでは「光と闇」をテーマに創作を続けたharuka nakamuraにとって、星空は切っても切れない関係にあると言っていいだろう。そしてそれは、haruka nakamuraの表現の根幹にある「もうひとつの時間」という考え方に結び付くものであった。『LIVE in the DARK』シリーズのプロデューサーであり、もともとharuka nakamuraのファンだったというコニカミノルタプラネタリウムの佐野大介とともに、制作の裏側を語ってもらった。
4~5年前に星の検定試験を受けている少年と出会って、「この子、星の子どもだ」と思ったんです。(haruka nakamura)
—harukaさんは、これまでプラネタリウムで演奏したことってあるんですか?
haruka:プラネタリウムではないんですけど、たまにライブで故郷の星の映像を使うんですよ。たとえば、篠山rizm(兵庫県)で『明星ピアノ』というイベントがあったとき、星の映像を天井と壁一面に大きく映して演奏したり。宮沢賢治の“星めぐりの歌”をカバーするようになってから、余計そういう機会が多くなったかもしれないです。
—青葉市子さんとsonorium(東京都)で『流星』というイベントを開催して、連名でオリジナルのアルバムを作られたりもしていますよね。
haruka:それが一番最初の星との演奏会じゃないかな。あと、プラネタリウムの話といえば、国立天文台の近くの森のなかに演奏会をする場所があって、4~5年前にそこで8歳くらいの少年と出会ったんですよ。僕はライブを観に行っていたんですけど、たまたま家族で来ていたその子と仲良くなったら、「星の検定士を目指してる」と言っていて。そのとき僕は、「この子、星の子どもだ」と思ったんです。
そのあと、僕のライブにも家族で来てくれるようになって。会うたびに、その子はどんどん星の検定試験を突破していって、今はもう最高難易度くらいまで達したらしくて。その子が星の解説員となり、プラネタリウムのライブツアーができたらいいなって、去年くらいから考えていたんですよね。なので、ツアーで全国各地へ行くと、その土地のプラネタリウムに寄って会場を探したりしていました。そんなときに、たまたま今回のお話をいただけたんです。
普段、人間の耳って閉じているんですよ。東京だと特にそうで。(haruka nakamura)
—『LIVE in the DARK』というプログラムは、そもそもどのように始まったのでしょうか?(参考記事:haruka nakamura×プラネタリウム×弦楽四重奏 初演をレポート)
佐野:メインとなるコンセプトは、「非日常を体験してほしい」ということです。私は京都出身なんですけど、やっぱり東京に出てくるとストレスを感じる機会が増えたんですよね。
プラネタリウムって、田舎出身の私にとっては「学習施設」というイメージがあったのですが、都会の人には癒しのスペースになっていることを知って、すごく新鮮に感じたんです。なので、ワクワクでもドキドキでも癒しでも、暗闇と星空を通じて新しい体験価値を感じてもらうために、「非日常」をコンセプトにした『LIVE in the DARK』を立ち上げようと思いました。
—harukaさんも青森から東京に出てきたときはストレスが大きかったですか?
haruka:前にもお話しましたけど(過去記事:言葉を忘れるほどの孤独が生んだ、haruka nakamuraの音楽)、東京に出てきたばかりの頃はかなり大きかったですね。
—佐野さんが「非日常」を演出するために、「暗闇」と「音楽」を選んだのはなぜですか?
佐野:余計なことを考えずに音楽に没頭するというのは、最大の「非日常」だと思うんです。なので、それ以外は極力省きたい。そうなると、星空と暗闇って、この上ない演出なんです。そういったものを体感してもらえるイベントとして『LIVE in the DARK』を始めました。
—haruka nakamura PIANO ENSEMBLEのライブも、キャンドルなどのほのかな光のなかで行われることが多かったですよね。
haruka:僕の相棒で調律師である内田輝(haruka nakamuraが組んでいるユニット・FOLKLOREのメンバー)が教えてくれたのですが、普段、人間の耳って閉じているんですよ。東京だと特にそうで、渋谷のスクランブル交差点とかを歩くと、いろんな音が大音量で同時に鳴ってるのに、全部は耳に入ってこないじゃないですか? 頭がおかしくならないように、耳が勝手にバタンッて閉じて、情報を遮断しているんですって。
haruka:でも、静寂な空間にいると、耳は開いていく。夜空を見ていると、目が開いていって、だんだんと星が見えてくるじゃないですか? それと同じように、キャンドルとかの生の火のほのかな明かりのなか、小さな音に耳を澄ましていると、耳は開いてくる。なので、これまではなるべく生の音で、小さな灯りから、ライブを始めるようにしていたんです。
harukaさんの音楽って、私のなかでは「熱」なんです。どんなに静かな曲でも、フツフツと燃える感じがする。(佐野)
—今回『LIVE in the DARK –w/Quartet-』を実施するにあたって、音楽制作をharukaさんにお願いしたのは、どういう理由からでしょうか?
佐野:これまでの『LIVE in the DARK』は単発公演だったのですが、自分が伝えたいと思ったマインドに共感してくれるお客さんが多く、これをより多くの人に楽しんでいただくために定例化したいと思ったんです。そのためには、ひとつのプラネタリウムコンテンツとして映像を制作して、そこに生の音を当てる形がいいんじゃないかと。
そこで、どなたに曲を提供していただこうかと思ったときに、私のなかでは一択だったんですよね。harukaさんの音楽を星空の下で聴けるというのは、私にとっては「非日常」だし、求めてる人も多いと思ったし、単純に、いちファンとして自分も聴きたいし(笑)。
—(笑)。
佐野:なおかつ、音楽に振り切った企画なので、「いい感じのBGM」とかではなく、曲そのものにしっかりとパワーのある方に曲を提供していただかないと成立しないと思ったんです。最初に渡邉紘STRINGSの「KokonQuartet」が演奏してくれることが決まっていたのですが、たまたまそのなかに根本(理恵)さんがいらっしゃって。根本さんは、もともとharuka nakamura PIANO ENSEMBLEで弾かれていたというご縁もあったので、これはお声掛けするしかないと思って、オファーさせていただきました。
—harukaさんはオファーを受けてどのように思いましたか?
haruka:最初にも言ったように、プラネタリウムでなにかしたいというのはずっと思ってたし、星と関係していくことは、これからもずっとやっていこうと思ってることのひとつなんです。毎週金曜日にカルテットが星の映像に合わせて生演奏するというのは、なかなかチャレンジングな企画だなって思いましたけど、初めて佐野さんにお会いしたら、すごく情熱的な人で、そういう人が好きだし、その情熱に応えたいと思って。
佐野:ありがとうございます。
haruka:あと理恵ちゃんがメンバーにいることは、かなり大きかったです。まったく知らないカルテットに演奏を頼むわけではなく、理恵ちゃんはもともと“音楽のある風景”のトップメロディーを弾いていたわけで、本人の音ですから。僕らの演奏は即興が多いので、彼女の感覚も曲にかなり入ってる。なので、彼女がいるなら表現に関しては心配ないと思えました。
佐野:harukaさんの音楽って、私のなかでは「熱」なんです。どんなに静かな曲でも、フツフツと燃える感じがして、どこかすごくパルスが立った瞬間がある。
普段私たちが聴いてる音楽って、どれも整音されてるじゃないですか? 今って、人間にとって本来あるべきものが非日常になってるんじゃないかという持論があって。いろんなものが整えられすぎている世の中だからこそ、オーガニックや生々しいものが、非日常を体験する重要な構成要素になると思ったんです。そう考えたときに、harukaさんの熱のある音楽を生演奏で届けることが必要だと思ったんですよね。
PIANO ENSEMBLEの曲をカルテットでやるというのはぶっ飛んでますよね(笑)。(haruka nakamura)
—実際に演奏される“haruka nakamura QUARTET SCORE”は、haruka nakamura PIANO ENSEMBLEの代表曲である“nowhere”と“音楽のある風景”をモチーフとした曲、書き下ろしの“STARDUST”と“RAY”、さらには“きらきら星”のカバーで構成されていますね。
haruka:既存曲よりもカバーと新曲のほうが、カルテットで演奏するとどうなるかがイメージしやすかったですね。星の映像と一緒に演奏することをここ何年かやっていて、即興のなかから、いつのまにか自分のなかの“きらきら星”が生まれていましたし。
即興だから譜面にはしてなかったけど、自分のなかで星の音楽がだんだんできてきているなかで、今回はカルテットが演奏することを想定して、改めて書きました。なので、初めて演奏を聴いたときもイメージ通りでしたね。
KokonQuartet。『LIVE in the DARK‐w/Quartet‐』の様子
—既存曲に関してはどうですか?
haruka:PIANO ENSEMBLEの音源をもとにカルテット用の譜面を起こすという発想は、ぶっ飛んでますよね。「全員ほとんどアドリブ演奏だよ?」っていう(笑)。弦編曲は堀田(星司)さんがやってくれたのですが、僕、テーマだけをやると思ってたんですよ。テーマをちょっと採譜して演奏するのかと思ったら、楽曲の大切な部分がちゃんとカルテットの譜面になっていて、「すげえな!」って。原曲をかなり大切にしてもらったままカルテットアレンジになっていたので新鮮でした。
—PIANO ENSEMBLEがカルテットアレンジとなることに対して、最初は不安も大きかった?
haruka:弦楽四重奏で鳴ったら面白いかもと思っていた部分と、PIANO ENSEMBLEでないと無理なんじゃないかと思っていた部分がありました。でも、今はもう新しいカルテットの音楽として始まっていて、演奏してくれているKokonQuartetはその曲と向き合っているんですよね。
PIANO ENSEMBLEも最初から今みたいな“nowhere”や“音楽のある風景”だったわけではなくて、いろいろ模索するなかで、今の形になっていった。これから1年間、毎週ライブをやっていくわけで、曲との向き合い方も変わっていくと思うんです。
今は素直に楽譜を演奏されていますけど、それがモノになって熟成されたら、即興部分も入れていいよって話もしています。だから、いい意味で、変わっていくのを楽しんでもらえたらいいなと思いますね。そこにもPIANO ENSEMBLEの名残があるって言えると思う。だんだんKokonQuartetが曲に追いついて、そしていつかは曲を追い越していくと思うので、それが僕も楽しみです。
表現は、その人の時間の流れを変えたり、時空ごと違うところに持って行っちゃったりすることができる。(haruka nakamura)
—プラネタリウムというドーム型の会場での生演奏というのは、音響的にも特殊ですよね。
haruka:普通のホールとはまったく違う、不思議な音の反射をしているので、そこもかなりチャレンジングだと思います。すごく複雑な反射をしていて、場所によって音の聴こえ方が全然違うんです。
演奏者も、普段のモニタリング環境とはまったく違う状況でやっていて。しかも暗闇のなかなので、譜面も白黒反転させてなんとかやってますけど、まだ暗譜してるわけでもないし、彼らは今が一番大変だと思います。でも、1年後にはモノにしてるだろうから、やがて彼らが空間を支配するときが訪れると思う。そういう意味でも、これからどんどん変わっていくんだろうなって。
KokonQuartet。『LIVE in the DARK‐w/Quartet‐』の様子
—確かに、あの暗闇のなかで演奏するのって、かなり大変ですよね。
佐野:準備はすごく大変でした(笑)。普通の譜面だと、譜面台の灯りが楽譜にハレーションして六等星が飛んでしまうので、harukaさんがおっしゃったように、黒に白字で印刷をしていて、その紙も光沢のないマット紙を使っています。
あと譜面台もハレーションしないように、黒のマットダンボールを敷いているし、コントラバスとファーストバイオリンの両サイドは、演奏の邪魔にならないギリギリまで囲いを詰めて、横からの光漏れを防いだり、かなりDIY的なことをやっているんです。
—実際に映像も加わっての初演をご覧になって、harukaさんはどんな感想を持たれましたか?
haruka:やっぱり、自分の音楽が星空のなかで響くのは感動的でした。映像として出てくる海の朝焼けや夕焼けというのも、もともと自分の音楽のなかにある要素ですし。
しかも、そこに理恵ちゃんがいることが、やっぱり新鮮な驚きがあるんですよ。理恵ちゃんも言ってたけど、haruka nakamura PIANO ENSEMBLEの音楽って、1回終わらせたものなんです(参考記事:haruka nakamuraが語る、PIANO ENSEMBLEの活動を終える理由)。もうやるつもりもなかったし、やらないと決めていた曲にもう1回取り組むのは、新鮮な作業だったと言っていて。その彼女の姿を見られたことも感動的でしたね。
佐野:『LIVE in the DARK –w/Quartet-』は、普段の『LIVE in the DARK』よりも星空の時間が長いので、音と星により浸ってもらえると思います。あとはやっぱり完全アンプラグドだとデジタルはあまり合わないので、実写の映像を多く使っているんですけど、非日常を演出するために、実写すぎない実写にするというか、エフェクトをかけて淡い記憶のようなイメージを作っているんですね。その雰囲気も楽しんでいただきたいです。
haruka:尊敬する星野道夫さん(写真家、1996年没)の言葉で、「もうひとつの時間」というのがあるんです。その言葉を「表現」にとって捉えると、たとえばすごく面白い映画を観たりすると、時間を忘れるじゃないですか? 表現は、その人の時間の流れを変えたり、時空ごと違うところに持って行っちゃったりすることができる。僕はそういう「もうひとつの時間」を作りたくてライブをしているし、プラネタリウムも「もうひとつの時間」を演出している場所だと思うんです。
なので、『LIVE in the DARK –w/Quartet-』は決して僕が普段やっていることからかけ離れたことではなくて。佐野さんが目指しているところと、僕がやりたいことは、もともと近しいものだと思うんですよね。
—以前のインタビューで「1人の時間を大切にしたい」ということをおっしゃっていて、プラネタリウムで星を見る感覚に近いと思ったし、今のお話を聞いて、それって「もうひとつの時間」なんだなと思いました。
haruka:ああ、そうかもしれないですね。今ひとつの「気づき」をもらえて、静かに感動しています。星野道夫さんは、今こうして話したりしているのと同じ時間に、北海道やアラスカでは熊が鮭を食べたりしていることを想像できるかどうかで、人生が変わってくると言っていて、そういう意味で「もうひとつの時間」という言葉を使っていたんです。本当は同じ時間軸に存在している、大いなる自然を、日々感じられているかどうか。大きな「気づき」だと思うんですよね。
でも、そういう大切なことって、よく忘れちゃうんですよ。だからこそ、音楽を通じて「もうひとつの大切な時間や感覚」という気づきを発信していきたいし、自分でも常に気づいていたい。それが音楽と日常との関わり方だし、暗闇で星を見るということも、きっと「気づき」に繋がる行為だと思うんですよね。
『LIVE in the DARK‐w/Quartet‐』(サイトを見る)
- イベント情報
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- 『LIVE in the DARK‐w/Quartet‐』
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2018年5月25日(金)より毎週金曜日に開催
[1st]OPEN 19:45 START 19:30
[2nd]OPEN 21:00 START 20:45
会場:東京都 押上 コニカミノルタプラネタリウム“天空”in 東京スカイツリータウン®楽曲制作:haruka nakamura
演奏:KokonQuartet
弦編曲:堀田星司
- プロフィール
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- haruka nakamura (はるか なかむら)
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音楽家 / 青森出身。代表作はnujabesと共作した“lamp”、奥山由之がMV監督を手掛けた“arne”、岩倉しおりとコラボレーションした8cm CD“アイル”、PIANO ENSEMBLE名義での“光”など。カロリーメイトCM「すすめ、カロリーナ。」、NHK BSプレミアム『ガウディの遺言』、『星野道夫 旅をする本の物語』、杉本博司『江之浦測候所』などの映像音楽を担当。自身の楽曲が原題となり劇伴も務めた映画『every day』が公開。evam evaとのコラボレーションでは長年に渡り演奏会を重ね、アルバム『ゆくさき』を発表。tamaki niimeなどともコラボレーションを行う。柴田元幸の朗読とのセッションを繰り返し、それを録音したアルバム『ウインドアイ』を発表。ミロコマチコとのライブペインティングセッションシリーズを継続中。「FOLKLORE」として旅を続けている。
- 佐野大介 (さの だいすけ)
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2014年8月コニカミノルタプラネタリウム株式会社にPR・広報担当として入社。SNSをはじめデジタルマーケティング・PRを主に担当。現在は作品のアーティストキャスティングから、プラネタリウムでの音楽イベント『LIVE in the DARK』のプロデュースも担当している。プラネタリウム入社前は、大手音楽レーベルにて販促担当として関西・四国エリアの媒体を担当していた。
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