Perfumeの一連の作品や星野源“恋”、OK Go“I Won't Let You Down”などのミュージックビデオを手がけ、斬新かつポップな映像で常に世間を騒がせてきた映像監督、関和亮。最近はドラマや映画なども手がけている彼が、イラストレーターのユキマユコらと共に設立した「株式会社コエ」で、このたび新たなメンバーを求めるべくオーディションを開催する。コエの次なるステージへのステップアップを一緒に担う、自由で新しい発想を持ったクリエイターを期待しているという。
スマホやSNSの爆発的な普及により、動画撮影や映像加工、作品の共有が非常に身近になった今、ミュージックビデオをはじめとする映像表現は一体どこへ向かっていくのだろうか。関と、同じくコエのメンバーである映像作家・山岸聖太に話を訊いた。
新たなフォーマットを開発しちゃうくらいの感覚を持った人が、これから増えてくると思うんですよ。(関)
—関さんが設立した株式会社コエで、このたびオーディションを行うそうですね。
関:そうなんです。我々と一緒にコエのメンバーになってくれる人を募集します。普通、制作会社が人材を募集するときって、いわゆるリクルート的なプロセスを踏んでいくと思うんですけど、それをオーディションで募ってみたら面白いんじゃないかと。どういう人が来るかまったく想像つかないし、いろんな人が来てくれるといいなという意味も含めて、楽しみなんですよね。
山岸:「面白そう」というのが一番大きいですね。ちょっとイベントっぽくなってこちらとしても楽しめるし、参加する人も普通のリクルートとは違うテンションで参加できるんじゃないかなと。
『コエ オーディション』(サイトを見る)
—オーディションにはどんな人に来てもらいたいですか?
関:型にハマった人ではなく、自由な発想を持っている人がいいですね。ここで一緒にできることを、自分で探していける人。そういう人なら、どの現場でも必要とされるんじゃないかと思うんです。
おそらく若い人たちは、我々とまったく違う発想を持っていると思うから。だって、今年はもう平成30年ですからね。来年30歳になる人たちが、もう平成生まれでしょう?
山岸:僕らの場合、まずフォーマットがあって、そこから逸脱しようと思いつつも完全には逸脱しきれてないところで作品を作っているんですけど、完全に逸脱していて「ギョッ」とするような、違和感しかないほどの作品を作る人に会ってみたいですね。
関:「え? これミュージックビデオ(以下、MV)なの?」みたいなね。新たなフォーマットを開発しちゃうくらいの感覚を持った人が、これから増えてくると思うんですよ。それは、最近だと「Tik Tok」というアプリを知ったときに思いました。Tik Tokに上がってる映像って、もうMVなんですよね。音楽にスローやコマ撮りで映像をつけていくという。僕も試してみたのですが、MV制作のスタッフがやる手法を、誰でも普通にできちゃうんです。
—なるほど。プロがやっている技術がスマホなどで簡単にできるようになると、そこがスタートラインとなって新たな才能も生まれやすいでしょうね。
関:絶対にそうだと思います。撮ること、撮られることに対するハードルが低くなっていますし、別に機材がどうとかそういう次元でもなくなってきますからね。それってつまり、僕らが段階を踏んで習得した技術を、最初から備えてのスタートなんです。
山岸:そうなんですよね。たとえば「ハイスピードで撮ってみたい」とか、「セットを組んで撮ってみたい」とか、「人にこんなことをさせてみたい」とか。今の子たちはその段階を超えていますからね。
関:だいぶ飛び級してる(笑)。
山岸:そうすると、その先のことを想像するから、僕らの見えている画とはまったく違うと思うんですよ。
関:なので今の若い人たちは、きっといい感覚を持っているんじゃないかなと期待しています。ちなみにうちの5歳児も、iMovieを使ってCMみたいな映像を作ってますよ。自分で脚本を書き、「こうやって撮れ」って俺にスマホを渡して指示を出して(笑)。5歳児がフレームインして「ああ、今日はなになにを食べた~い」みたいなセリフを言ってる(笑)。
—すごい……。
関:きっと5歳児にしたら、自分が演技した様子をすぐにプレイバックできることとか、楽しくて仕方ないんでしょうね。こういうツールが生まれたときから身近にある人たちは、間違いなく我々よりも進んでいると思います。だから「この先、映像ってどうなっていくんだろう?」という期待もありますね。
関さんに「マニアックな寿司屋みたいだな」って言われて。(山岸)
—そもそも、関さんがOOO(トリプル・オー)から独立し、コエを立ち上げた経緯は?
関:立ち上げのときは聖太さんはまだいなくて、僕と、もう1人の代表である石井(毅)と、ユキ(マユコ)の3人でした。僕は学生卒業してからずっと、かれこれ17、8年くらいOOOにいて。長くやっていると、社内で背負わなきゃならないこととかが多くなっていくし、そういうことに割かなきゃいけない時間も増えていくじゃないですか。
それに、映画やドラマなど自分の作品として残るものを作りたくなったというか。それを会社でやってしまうと、会社にも迷惑がかかってしまうし。今、子どもが2人いるんですけど、家族ができたのも、そういうことを考えるきっかけにはなりましたね。
—山岸さんは、どんなタイミングで一緒にやることになったんですか?
関:コエ所属のクリエイターを増やしていくつもりではいたんですが、そこに(山岸)聖太さんが入ってくれるとは、最初まったく思ってなかったんですよ。僕がチーフ演出を手がけたドラマ『下北沢ダイハード』(テレビ東京系)で、聖太さんに2話分(第6、8話)の監督をお願いして。その前からお互い知ってはいたけど、急速に仲良くなったのはそのときでした。それでいろいろ話を聞いたら、マネージャーもいないって言うんですよ。
山岸:そうなんです。ゲーム雑誌の出版社を辞めてから、ずっとフリーで10年くらい活動していて。スケジュール管理などもすべて自分でやっていました。この先、どこかに所属しようとはこれっぽっちも思ってなかったんです。
ただ、映画やドラマには興味があって、「そういうこともやりたいな」「もうちょっと仕事を広げるにはどうしたらいいのかな」なんて思いながら、ひたすらMVを撮っていて(笑)。
関:「それ1人でやっていくの大変じゃないの?」って。それで口説いたような形でしたね。
山岸:関さんに「マニアックな寿司屋みたいだな」って言われて。
—マニアックな寿司屋?
山岸:看板も出さず、マンションの一室でやっているような、一見さんお断りの知る人ぞ知る寿司屋みたいだなと。それを10年やってたんだなって。
一同:(笑)。
山岸:それを言われて、初めて自分の状況に気づいたんです。で、関さんから「だったらうちで握らないか?」と。
—(笑)。本当にいいタイミングだったんですね。
山岸:できたばっかりの会社で、これからどうなっていくかもわからなくて(笑)、それがもう面白そうだなって。そこに参加することにワクワクしましたね。
—コエは、映像作家だけでなくイラストレーターも所属し、オーディションでクリエイターを募集している。普通の映像制作会社とは見え方も違いますが、このチームで今後作っていきたいものはありますか?
関:個人的にやってみたいのは、たとえばプロダクトとか。そういうものをブランディングしたいと思っていますね。それは「将来カフェやりたい」みたいなのと同じくらい、ふわっとした夢なのかもしれないけど(笑)。
山岸:じゃあ、寿司屋を(笑)。
関:あはは! 「コエ」って名前の寿司屋はいいかもね!
なにより今、一番面白いのは子どもなんですよ。一つひとつがとても刺激的ですね。(関)
—オーディションにはまず作品の提出が必須とのことですが、お2人はいつも作品を作る際、どんなところから着想を得ていますか?
関:僕は普通に映像を鑑賞することかな。それは映画だったり、テレビやインターネットだったり。別に、そこからなにかを得ようと意識しているわけでもなく、単純に興味があって見ているだけなんですけど。あとは、電車に乗ったり車を運転したりしてどこかへ行ったとき、目についた面白いものを覚えておくくらいしかしてないですね。
なにより今、一番面白いのは子どもなんですよ。子どもの言動が本当に面白い。予想がまったくつかないので、「うわあ、そんなこと言うんだ」「こんなことするんだ」って驚きっぱなしです。今日も長男がソファから床にダイブして顔面思いっきりぶつけてたりして(笑)。そんなことするなんて、思いもよらないじゃないですか。
—確かに(笑)。
関:別に、そこから直接アイデアが生まれるわけじゃないですけど、そういう一つひとつがとても刺激的ですね。子どもよりも面白い人に、最近は会っていないなあ。
関:僕は、実際にアイデア出しをするときに「あのときのアレを使おう」とかがあまりなくて。ネタ帳みたいなものも特にないんですよ。
—そうなんですか?
関:よく聞かれるけど、ないですね。たとえばMVを撮るときも、その曲に対して映像を考えるので、書き溜めておいたネタが役に立つこともあんまりないんです。
山岸:僕もそうですね。いざ「作ろう」と思って机に向かわないと、アイデアは出てこない。普段の生活のなかで考えたりふと思いついたりすることは、ほとんどないと思います。
基本的に僕は、不条理なことが好きで。全然知らない人が隣で変なことをしてたり、変な格好をしてたりするところを目撃すると、そのことがずっと頭に残っちゃうんです。しいていうなら、それを引っ張り出してきて膨らますようなことが、僕の場合は多いかもしれないですね。
世界では、MV出身でビジュアル思考の強い映画監督が第一線で活躍している。(関)
—お2人はMV制作をたくさんやられてきたうえで、他の種類の映像作品も手がけられていますが、MVの経験が他の現場でも生かされることはありますか?
関:むしろ、クライアントさんによってはそこを求められることが多いです。コマーシャルや映画、ドラマの現場で、「MV出身の人だからきっと面白く、かっこよくしてくれるだろう」というふうに思われがちで(笑)。実際、ずっとそれを専門でやってきた人と、僕らはちょっと違うんでしょうね。そこを「売り」にできたのは、MVの制作を経験したからこそというか。
一番わかりやすいのはビジュアルの作り方なんです。明らかにドラマの人とは違うやり方をしていると思う。画作りやロケーションのチョイス、アートディレクション……。MV監督って、アートディレクションもクリエイティブディレクションも、企画も、演出も、すべてやらなきゃいけないので、それらを生かしたうえでの作り込んだ世界観を求められることが多いですね。
—逆にいえば、MVの制作を通して総合的なセンスが身につくのかもしれないですね。
関:そうかもしれないですね。世界では、MV出身でビジュアル思考の強い映画監督が第一線で活躍していると思います。
—デヴィッド・フィンチャーやミシェル・ゴンドリー、マイケル・ベイ、マーク・ウェブ等々。
関:そういう流れはあるのかなと思いますね。ただ、最近MVをあまり撮ってないので、「もう関はMVを撮らない」って思ってる人もいるみたいで(笑)。それはちょっと嫌なんですよ。「いつでもMV撮りますよ」とは言っておきたいですね。
僕自身が「向いている」と思ってやっているわけじゃないですからね。勘違いしてでもやれるほうが、幸せなのかも知れない。(関)
—映像クリエイターに向いている人って、どんな人だと思いますか?
関:結局、映像クリエイターは1人じゃなにもできないんですよね。そういう意味では、「言葉」を持っている人がいいなと思います。人と話すときに黙っちゃったり、なにかを伝えたいと思ったときになにを言えばいいのかわからなかったりするよりは、わからなくても自分の思いを吐き出す必要のある仕事だなって思いますね。それは映像作家に限らない話なのかもしれないですけどね。別に「コミュ力はあったほうがいい」とかそういう話ではないのですが、言葉は大事だなってすごく思います。
—画力も必要ですか?
関:絵コンテを描いて、みんなにイメージを共有する必要はありますが……聖太さんはどうか知らないけど、僕は絵が描けないんですよ。描けないなりに頑張って描くんですけど、全然上手くない(笑)。なので、上手くなくても監督にはなれます。まあ、描いていればちょっとずつ上手くもなってきますしね。
山岸:いや、僕も描けないです。本当に絵コンテが苦手で(笑)。さすがにコマーシャルとかでは「提出物」として必要なので描くんですけど、MVの絵コンテは描いたことがない。「字コンテ」なんです。
関:へえ! じゃあ、やっぱり、絵コンテが描けなくても監督にはなれます(笑)。僕も、美大も行ってなければ小中高の美術の成績は常に「2」でしたからね。聖太さんも、もともとゲーム畑の人ですし。
山岸:そうですね。もともとはゲーム雑誌の出版社に入って、そうしたらたまたま「映像部」という部署が立ち上がってそこに配置され、そこから映像に触れていったという感じなんです。
—よく、絵を始めたけど映像にいく人とか、ファインアートをやっていたのにイラストレーターへ転向する人とか、途中でコースが変わる人っているじゃないですか。そういう人はきっと、自分の表現したいことがあって、その手段を探しているうちに求めるものを見つけていると思うんです。となると、やはり「映像に向いているタイプ」というのはあるのかなと。
山岸:なるほど。僕はもともと人前に出て表現することに興味はなかったんですけど、どこかで人に見てもらったり、「面白い」と思ってもらったりしたいという気持ちがあったんですよね、きっと。
それは、高校生の頃からなにかしらあって。高校時代、学級日誌をすげえ書いてたんですよ。毎日デタラメばっかりだけど、とにかくなにかを書いてた。それは別に、誰かに向けたいわけではないんだけど、書いて教卓に置いておくと誰かが読むんじゃないか? って、期待してたんですよね。特に評価されたことはなかったんですけど(笑)。
関:なかったんかい!(笑)
山岸:それって、たとえばちょっと前だったらブログとか、今ならSNSに吐き出している行為に近いのかなと。なんとなくモヤモヤしていたことを「吐き出すツール」として、いつの間にか映像を選んでいたのかもしれないです。
関:そうか。そうやって考えてみると、向き不向きなんて正直わからないところもありますよね。僕自身が「向いている」と思ってやっているわけじゃないし、向いているのかどうか未だにわかってないですから。勘違いしてでもやれるほうが、幸せなのかも知れない。
—確かに。夢中になってやっているうちに、いつの間にか向いてる分野になっていることもありますしね。
関:そうですね。そういう意味でも、固定観念が強すぎると壁が多くて大変かも知れない。「状況としてやれない」ということも、すごく多く出てくる仕事ではあって、それで挫折し辞めてしまうケースもあるけど、すごくもったいないと思うんです。こんなに楽しい仕事はないですから。
『コエ オーディション』(サイトを見る)
- プロジェクト情報
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- 『コエ オーディション』
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株式会社コエではこの度、関和亮、山岸聖太、ユキマユコと共に、今後コエのメンバーになってくれる方を発掘したくオーディションを開催致します。オーディション受賞者には株式会社コエが制作費を全額負担して作品制作バックアップします。応募は2018年7月31日(火)23:59まで。
- プロフィール
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- 関和亮 (せき かずあき)
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1976年生まれ、長野県小布施町出身。音楽CDなどのアートディレクション、ミュージックビデオ、TVCM、TVドラマのディレクションを数多く手がける一方でフォトグラファーとしても活動。サカナクション『アルクアラウンド』、OK Go『I Won't Let You Down』、星野源やPerfumeのミュージックビデオなどを手がける。『第14回文化庁メディア芸術祭』エンターテインメント部門優秀賞、『2015 55th ACC CM FESTIVAL』総務大臣賞/ACCグランプリ、『MTV VMAJ』や『SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS』等、受賞多数。
- 山岸聖太 (やまぎし さんた)
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1978年生まれ。映像ディレクターとしてミュージックビデオ、テレビドラマ、CMなどを手がける。これまでにKANA-BOON、乃木坂46、ユニコーンなど多数のMVを制作し、他には星野源の映像作品にも数多く携わっている。『ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2015』では短編作品『生きてゆく完全版』がシネマチックアワードを受賞。その後、映画『あさはんのゆげ(2016)』『傷だらけの悪魔(2017)』を監督。
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