ゆずが20周年を経て語る、ゆずに求められている事、今歌いたい事

デビュー20周年を迎えた今もなお、その変わらぬ人気と勢いによって音楽シーンのど真ん中を突き進む、ゆず。今年4月にリリースした通算14作目となるアルバム『BIG YELL』を引っ提げた全国ツアーの真っ只中である彼らが、配信シングル“公園通り”を5月29日にリリースした。そのモチーフは、ゆずの2人にとって思い出深い、渋谷・公園通りであるという。<公園通りでこんにちは / 懐かしいあの頃に出会ったんだ>というフレーズから始まるこの曲。今を遡ること20年前、渋谷「公園通り劇場」で、初の有料ワンマンライブを行ったという彼らが、今改めて思いを馳せる「ゆずの原風景」とは、果たしてどんなものなのだろうか。

5月某日、そのミュージックビデオを撮影するため、渋谷・公園通りを訪れた、ゆずの2人に密着。撮影の合間を縫って話を聞いた。前シングル“うたエール”のMVを、自身のルーツである横浜・伊勢佐木町で撮影するなど、今再び自らの足で「思い出の地」を訪れることを意識しているように思える彼らの真意とは。全国ツアー真っ最中に行われた貴重なインタビュー。

「渋谷の街を、ゆずがギター持って歩くとか大変ですよ」とか、そういうことは一旦置いといて(笑)。(北川)

—今回は、渋谷・公園通りで新曲“公園通り”のミュージックビデオ(以下、MV)撮影を行いました。ゆずというと、伊勢佐木町のイメージが強いですが、2人とって公園通りはどういう場所なのでしょう?

北川:伊勢佐木町は、僕らがゆずとして歌い始めた場所、僕らがゆずになった場所なので、すべての原点であり、それなしでは語れない場所だと思うんですよね。それに対して公園通りは、僕らが路上からプロの世界に一歩踏み出した場所という感じ。それまでは、路上のフリーライブだったんですけど、初めてお金をもらってライブをやったのが渋谷の「公園通り劇場」なんです。

—なるほど。渋谷は、ゆずが路上から次の場所に旅立った、プロとしてのスタート地点だったということですね。

岩沢:「ホーム」と「アウェイ」でたとえるなら、僕たちにとって伊勢佐木町は「ホーム」だけど、渋谷の街は、やっぱり「アウェイ」なんですよね。今日実際歩いて、また改めて感じました。電車に乗れば30分ぐらいで横浜に帰れるんですけど、それでもちょっと気持ちが引き締まる感じがあるんです。懐かしさもあるんですけど、やっぱり最初の挑戦の場というイメージがいまだにあるんですよね。

早朝5:30から始まったMV撮影中の様子。左から北川悠仁、岩沢厚治
早朝5:30から始まったMV撮影中の様子。左から北川悠仁、岩沢厚治

—今日、実際に公園通りで撮影してみてどうでしたか?

北川:まさか、渋谷の街をギターを弾きながら2人で歩く日がくるとは思わなかったですよね(笑)。ただ、今回どんなMVにしようかって考えたときに、いちばん嫌だったのは、普通に撮ることだったんです。キャリアを重ねていくことで、「これはもうやらない」みたいなものがあったりするじゃないですか。そういうのは嫌だなと思っていて。まあ、ゆずの場合、そういうのは、ほとんどないんですけど(笑)。

—たしかに、ゆずが公園通りでMV撮影する風景は、ちょっと普通じゃなかったです。

北川:「渋谷の街を、ゆずがギター持って歩くとか大変ですよ」とか、そういうことは一旦置いといて(笑)。最初のアイデアは、セルフィ―での撮影だったんですよね。全部自分たちで撮ってしまおうかって。そういうものを今自分たちが作るのは、すごく面白いんじゃないかと思って。

—20周年を経た今、ゆずの2人がそれをやるというのは、面白いですよね。

北川:前回の“うたエール”(2018年4月リリース)のプロジェクト(横浜・伊勢佐木町で2018人の参加者と一緒にMVを撮影した。参考記事:2020人のゆずがゲリラライブ。話題CMを東畑幸多と山田智和が語る)もそうだったんですけど、やっぱり「やってみよう!」っていう気持ちが、まず何よりも大事だと思うんですよね。で、いっそ自分たちで撮っちゃおうかと思っていたところに、大喜多(正毅)さんが監督で参加してくれることになって。だから、僕らの自撮り的なところもありつつ、手作りなアイデアがたくさん入っているんですよね。

なので、今日はMVを撮っている感じではやってなかったもしれないです。昔、自分たちでビデオを回しながら、しょーもない映像を撮ったりしていたんですけど、今日は何かそれぐらいの気持ちで一日やってましたね(笑)。

やっぱり、いちばん大事なのは、「渋谷で撮りたい!」っていう、その初期衝動だと思うんです。(岩沢)

—岩沢さんは、どうでしたか?

岩沢:大喜多さんとは、僕らがデビュー間もない頃から、何度もご一緒させていただいているんです。今回は結構久しぶりなんですけど、デビュー当初から知ってる安心感が、やっぱりあって。今日スチールを撮ってくれたカメラマンの木村(篤史)さんも、過去にアーティスト写真などを撮ってくれた方なので、信頼関係はバッチリのチームなんですよね。あと、今自分たちがいちばん気を付けていることとして、フットワークの軽さっていうのがあって。

—というと?

岩沢:キャリアを重ねることで、だんだんフットワークが重くなっていくことって結構あるじゃないですか。それは良くないと思っていて。だから、今日みたいに「朝4時半集合です」って言われても、「どういうこと?」とはならず、「渋谷の街中で撮るためには、その時間じゃないとダメだよね」って考えるというか。

やっぱり、いちばん大事なのは、「渋谷で撮りたい!」っていう、その初期衝動だと思うんです。だから、そこで「それはちょっと難しいです」ってならずに、「どうやったらできるんだろう?」「早朝なら大丈夫かな?」って考えるのは、すごく真っ当だと思っていて。そういう意味で、今日はすごく、健全な撮影会だったと思います(笑)。

もちろん、お金を掛けていいものを作ろうとするときもあるんですけど、今回みたいなときは、もともと路上でやっていた自分たちの得意技というか、フットワークの軽さみたいなものを、いかんなく出せたんじゃないかと思うんですよね。

MV撮影中の様子。大喜多監督とセルフィーでの撮影のチェック中
MV撮影中の様子。大喜多監督とセルフィーでの撮影のチェック中

MV撮影中の様子。公園通りを何度も往復した
MV撮影中の様子。公園通りを何度も往復した

—実際、渋谷の街に出ると、今回のジャケットに映っている渋谷PARCOが建て直しでなくなっていたり、20年前とはだいぶ景色が違っていましたが、そうやって変化し続ける、今の渋谷を映像に収めるというのも、意味のあることのように思いました。

北川:そうですね。音楽・映像・写真と、なんでもそうなんでしょうけど、やっぱりその瞬間を収めることに意味があるというか。それが何年か経ったあと、「あ、こうだったな」ってよみがえったりすることって、結構たくさんある気がするんですよね。だから、今まさに変わりゆく、変わり続けてゆく渋谷で撮影することができたのは、すごく意味があることだったように思います。

やっぱり、ゆずに求められているものって、力強く誰かの背中を押してあげるようなものだと感じていて。(北川)

—この曲のアートワーク及びMVには、懐かしの「ゆずマン」が登場していますね。

北川:「公園通り劇場」での初ライブの直前に、『ゆずマン』(1998年リリース)というミニアルバムを出しているんですが、そのジャケットにフェルトで作った「ゆずマン」という人形が登場しているんです。

『ゆずマン』ジャケット写真
『ゆずマン』ジャケット写真(Amazonで見る

『公園通り』ジャケット写真は、『ゆずマン』のオマージュ
『公園通り』ジャケット写真は、『ゆずマン』のオマージュ(サイトを見る

北川:その「ゆずマン」を、初ライブにも登場させたんですよね。当時のプロデュサーだった寺岡呼人さんに、デジタルロックなBGMを作ってもらって、それに合わせて、フェルトで作ったゆずマンの人形が上から降りてくるっていうオープニング演出にしたんです。まあ、今考えても、ちょっとイカれてるなって思いますけど(笑)。でも、そういう何か突拍子もないもの、何か面白いものを大事にしたまま、今も僕らはやっているようなところがあって。

—そう言えば、20周年を記念した昨年のドームツアーでは、全長20メートルの巨大な「ゆず太郎」が登場して、観客の度肝を抜いていましたよね(笑)。

北川:そうそう(笑)。巨大な「ゆず太郎」が、センターステージまで動いてきたら、すごいんじゃないかって(笑)。だから、規模は変わったけど、その発想の原点みたいなものは、実はあんまり変わってないんですよね。

巨大なゆず太郎の様子

—岩沢さんは、初ワンマンについて、どんな思い出がありますか?

岩沢:路上でやっていた頃は、通行人をお客さんに変えるというか、その人たちを引き留めるための努力をずっとやっていたんですけど、それがワンマンライブとなると、今度は逆に、僕らのことを、わざわざ観にきてくれるお客さんに変わるわけじゃないですか。きていただいているっていう意識は、そこからどんどん強くなっていきましたよね。

岩沢厚治
岩沢厚治

—「ゆずマン」は、北川さんが描いたスケッチがもとになっているということですが、今改めて眺めると、ちょっと独特な雰囲気というか、少し寂し気ですよね。

北川:そうですね。当時の自分たちの気持ちを反映してたのかな? わかんないですけど(笑)。ただ僕は、自分が書く曲でもそうなんですけど、表裏一体の感じというか、明るいとか可愛いもの、楽しいものの中に寂しさとか悲しさが、ちょっと漂ったりするものが、ポップスだと思っているんですよね。

僕は絵を描くのも好きなんですけど、イラストも、ただ可愛いとか面白いものではなく、その中にちょっとだけ寂しさがあるようなものが好きというか。だから多分、当時からそういうものを描いていたと思うんです。「ゆず太郎」も、ちょっと寂しい感じがありますよね。体育座りをしているし、笑顔だけど、眉毛はちょっと下がっているし。

北川悠仁
北川悠仁

—そこには、ゆずの楽曲にも通じる、ちょっとセンチメンタルな感じがあると。

北川:基本的にはポップなものが好きなんですけど、ただ明るいだけの曲って、実はあまりゆずの曲にはないんですよね。それは意識しているというよりも、多分自分自身がそういう感じなので(笑)。だから、絵にしても曲にしても、僕が作るものには、おのずとそういう部分が反映されているような気がしますね。

—とはいえ、今回の“公園通り”は、ちょっぴり懐かしさやセンチメンタルな感じがありつつも、非常にポップで明るい1曲に仕上がっていて。そこに『BIG YELL』にも通じるような、今のゆずの勢いを感じました。

『BIG YELL』
『BIG YELL』(Amazonで見る

北川:そうかもしれないですね。路上時代に作った“サヨナラバス”じゃないけど、一瞬の切り取りなんですよね。ふとした瞬間にスッと入る気持ちというか、感覚みたいなものを、歌の中で切り取りたかったんです。

でも、こういう曲は久しぶりな気がしますよね。やっぱり、ゆずに求められているものって、『BIG YELL』に象徴されるような、力強く誰かの背中を押してあげるようなものだと感じていて。もちろん、それはすごくポジティブに捉えているんですけど、そういう声が多くなればなるほど、こういうパーソナルな曲のスペースが少なくなってきたりもするので。だから、こういうパーソナルな気持ちをシングル曲でやってみたことが、今回すごく大事なキーになっている気はします。

ゆずとしての自分と、個人としての自分のあいだに、ちょっと距離感みたいなものを感じたんですよね。(北川)

—たしかに、<バイトで貯めた7万5千円>といったフレーズなど、具体的でパーソナルな部分が見えます。

北川:『BIG YELL』はそのタイトル通り、エールを送る曲や、シングルチューンが多かったんですよね。アルバムの中で、いわゆる「アルバムらしい曲」というか、パーソナルなものを書くスペースがあまりなくて。そういう曲を書きたいっていう気持ちが高まっていたんです。

『BIG YELL』収録曲“愛こそ”

北川:なので“公園通り”は、今自分が書きたいものを書いてみようと思って書き始めました。プロモーションの最中に、大阪へ行く移動中の新幹線の中で、鼻歌みたいなものから始めて、歌詞もその場で書いていって。そしたら、大阪に着く頃には、歌詞も含めて2コーラスぐらいまでできあがってしまったんです(笑)。

—それはすごい。 “公園通り”の歌詞も渋谷の街が舞台となっていますが、“うたエール”のMVを、ゆずの原点である横浜・伊勢佐木町で撮影するなど、自分たちのルーツを振り返るようなモードになっているのでしょうか?

北川:そうですね。去年やった、デビュー20周年の一連の活動が、僕らにとってすごく充実したものになって。そのエネルギーが推進力となって、『BIG YELL』ができたんですよね。

ただそれと同時に、ゆずとしての自分と、個人としての自分のあいだに、ちょっと距離感みたいなものを感じたんです。それは別に嫌なことではなく。だから、『BIG YELL』の次に出すものは、もう少しパーソナルなものから始まるシングルがいいんじゃないかと思って。

—そういう中で、渋谷・公園通りというモチーフが出てきたと。

北川:そうですね。そうやってパーソナルな部分を出すという意味で、公園通りというモチーフはすごくいいなと思ったんです。ゆずの原風景のひとつであるし、それをゆずとして歌っていくことによって、また違った変化をしていく曲になるんじゃないかと思って。そうやってワクワクしながら書いていきましたね。

MV撮影中の様子

MV撮影中の様子
MV撮影中の様子

—そんなMVとともに送り届けられる“公園通り”という曲を、どんなふうに受け止めてもらいたいですか?

北川:僕らにとっても大切な曲だし、ファンのみんなにとっても、すごく好きになってもらえる曲になるんじゃないかなっていう予感が、ものすごくしているんですよね。自分で言うのも何ですけど(笑)。

—たしかに、みんなが好きになるタイプの、実に明るくてポップな曲になっていると思いました。

北川:ありがとうございます。この曲は、僕にとってはブルースなんですよね。音楽的にはポップスなんですけど、僕らが見てきたもの、感じてきたものを、そのままの形で描いたという意味ではブルースだと思っていて。しかも、そのブルースを、ファンの人はもちろん、ゆずのルーツとかを知らない人にも感じてもらえるんじゃないかな。

—岩沢さんは、どうですか?

岩沢:今日の撮影で使ったギターって、実は当時に使っていたものなんですよね。昔、路上で使っていたギターを、家から持ってきて。それこそ、<バイトで貯めた7万5千円>というフレーズがありますけど、そのお金で買ったのが、このMVの中で北川が弾いてるギターだったりするんです。

そうやって、お互い懐かしいものを持ち寄ったり、気づく人は気づくかもしれないことを、たくさんやっているMVになっていて……そういうところにも気づいていただけたら嬉しいというか、そこに気づいてもらえたら、きっとギターも喜ぶんじゃないかなって思っています(笑)。

リリース情報
ゆず
『公園通り』

2018年5月29日(火)配信

プロフィール
ゆず
ゆず

北川悠仁、岩沢厚治により1996年3月結成。横浜・伊勢佐木町での路上ライブで話題を呼び、1997年10月、1st Mini Album『ゆずの素』でCDデビュー。翌98年6月にリリースした1st Single『夏色』で脚光を浴びると、その後『栄光の架橋』『虹』『雨のち晴レルヤ』などヒット曲を多数世に送り出す。現在NEW ALBUM『BIG YELL』を引っさげ、約35万人を動員するアリーナツアー<YUZU ARENA TOUR 2018 BIG YELL>を敢行中。



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