大河ドラマ『西郷どん』のパワープッシュソングとしてNHKから依頼を受けた“SEGODON”と、フジテレビ系アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』エンディング主題歌として書き下された“GET A NOTE”。それぞれの頭文字をとって『S & G』と名づけられたレキシのニューシングルが、7月18日にリリースされた。
ワンマン公演の規模は、2017年10月段階で日本武道館2デイズ即完。どんなタイプの、どこの地方のフェスに出ても大人気。2018年4月29日には地元である福井県鯖江市で野外ワンマンを開催し、6,500人を集めソールドアウト。2018年11月からは全国18本の大規模ホールツアーが控えている。
この現状について、このニューシングルについて、そしてレキシとはそもそも何なのかについて、レキシこと御館様こと池田貴史に訊いたテキストが、以下となる。
自分がおもしろいと思ってるだけでよかったのに、こんなに周りもおもしろいと感じてくれているんだなって。
―最初にレキシの現状について伺いたいです。ライブの動員の増え方とかに関して、どのあたりで、池ちゃん(池田貴史)の思惑を超えはじめました?
池田:思惑というか、「こうなりたい」とか「こういう会場でライブやりたい」みたいなのは最初からないですよ。
―こんな大ごとになると思っていました?
池田:思ってないですよ、もちろん。大ごとなのかな? そもそも大ごとって何ですか?
―たとえば、今くらい大規模なワンマンツアーをやるようになると、かかるおカネも大きくなるしいろんなものを背負ってやっていくことになるでしょう? 新代田FEVERでワンマンをやってた頃(2011年5月)は、そんなことを考える必要なかっただろうけど。
池田:ああ。やっぱり規模が大きくなると、それだけ考えることも増えるね。「尺を守らなくちゃ」っていうプレッシャーもあったり。
―そもそもレキシってどういう想いではじめたんですか?
池田:ライフワークですよ。今まではバンドとか、誰かのプロデュースとかで音楽をやってきたけど、パーソナルな作品って出してないなと思って、作ったのが最初(1stアルバム『レキシ』、2007年発表)。それを作ったら、ちょっと創作意欲も湧いて、すぐにもう1枚作りたいなと思ったんだけど結局4年ぐらい空いて。
レキシ『レキシ』を聴く(Apple Musicはこちら)
池田:で、2枚目を出すときに東日本大震災があったんです(2ndアルバム『レキツ』は2011年3月16日にリリースされた)。それが大きかった。大変な時期だったんだけど、それでも何とかやろうと思って……がむしゃらに、自分のやりたいように必死でやってたら、こうなってましたね。
―震災が大きかったというのは、そこでいろいろ考えたことが大きかったということ?
池田:震災のあと、「こんな感じでライブやってもいいのかなぁ?」みたいに迷いながらやっていたら、大変な状況のなかでもお客さんに「楽しい」って言ってもらえたんですよ。それで、「もうこれ、やるしかないんだな」って逆に背中を押されて。
―で、それをがむしゃらにやり続けた結果、どうやら自分がおもしろいと思うことを同じようにおもしろいと思ってくれる人がいてくれた、と。
池田:本当にそう。自分がおもしろいと思ってるだけでよかったのに、こんなに周りもおもしろいと感じてくれているんだなって。
―ライブも、普通に曲をやって軽くMCするみたいな当たり前のやり方ではないじゃないですか。
池田:それだと自分的にはちょっと面白みに欠けるというか。極端に言うと、ツアー2本目くらいでちょっともう飽きが出てきちゃうと思うんです。まず自分が新鮮で、そのうえで楽しみたくて……これは矛盾してる言い方だけど、決まりきってないことをやろうとするから大変な部分もある(笑)。
―大変なほうへ大変なほうへといってしまう。
池田:うん。それはもうしょうがないなと思ってはいるけど、やっぱりみんなに楽しんでもらいたいし、もう必死だからね。
普通だったら「好きだ」って歌えないけど、たとえば「藤原道長が言ってると思えば書けるな」っていうふうに途中で気づいた。
―今さら訊くことではないけど、「池田貴史ソロ」ではなくて歴史縛りのプロジェクトとしてスタートしたのは、どうしてだったんでしょうね。
池田:縛ったわけじゃなくて、単純に歴史が好きだから曲にしたんですよ。
―たとえば、素で歌詞を書くのがイヤだから、レキシっていう縛りが必要だったわけではない?
池田:いや、それはまったくない。むしろ書いていくうちに、レキシというフィルターを通したことによるやりやすさを感じるようになって。普通だったら「好きだ」って歌えないけど、たとえば「藤原道長が言ってると思えば書けるな」みたいに途中で気づいたんだよね。
池田:でも、それもね、自分だけで気づいたわけではない。そもそも歴史を曲にしたのは、シャカッチ(ハナレグミ・永積 崇)に「やってみれば?」って言われたのが発端だし、「歌詞をもっと恋愛にからめたほうがいい」っていうのは足軽先生(いとうせいこう)からのアドバイスもありましたからね。
―たとえばSUPER BUTTER DOGでも、歌詞を永積さんと共作してる曲があったじゃないですか。
池田:ああ……でも、たとえば“FUNKYウーロン茶”も「ウーロン茶」がフィルターになってますからね。レキシもそれと同じで、だから今もそう……いや、逆に今は、歳をとったからレキシのフィルターも関係なく「愛してる」って歌えるかもしれない(笑)。
―自分で言って自分で笑ってる。
池田:まぁ笑っちゃうってことは、やっぱり違うのかもね(笑)。自分のなかにないんだと思う。自分のなかにないものを、無理やり出そうとするから違和感が生まれるんだろうし。逆に言うと、違和感なしに出すことが一番大事なんじゃないのかなと。
「冗談でも俺が作っちゃダメでしょ」みたいに言ってたのに、NHKからまさかのオファーをいただいて(笑)。
―今回のシングルについて、まずこの目玉おやじのコスプレ。
池田:え? これはだって、『ゲゲゲの鬼太郎』の曲だから。何もおかしくないでしょ?(笑)
―ファンからすると、「日本史関係ないじゃねぇか!」ってツッコミを入れたいポイントだと思うんですけど(笑)。まぁコスプレは百歩譲るとしても、この“GET A NOTE”って歴史の曲になっています? 「下駄」が『鬼太郎』要素というのはわかりますが。
池田:いや、俺のなかでは「下駄」が、イコール歴史だと思ってるから。「『鬼太郎』と日本史、つながるところって何だろう? 下駄だ!」って思いついたんですけどね。
―“SEGODON”のほうはタイアップとはいえ、NHKの大河ドラマ自体が歴史モノだからしっくりくるんですけどね。
池田:うん。それはねぇ、この話が来る前に、実は友人の鈴木亮平くん(『西郷どん』で西郷隆盛役を演じる)とメシ食ってるときに、『西郷どん』の主演が決まったって聞いて、「すごいね」とか話してて。そのときに冗談で「曲作ってよ」って言われたんだけど、「いや、冗談でも俺が作っちゃダメでしょ」みたいに言ってたのに、NHKからまさかのオファーをいただいて(笑)。
曲ではないけどおもしろいものをやりたい。
―あと、このシングルには2曲目に“BANASHI”という曲が……。
池田:あ、気づいた?(笑) そうですよ、これはもう日本人にとってのファンク / ブルースですよ。幼少期から培ってきた……俺たち、日本昔話で育ってきたようなもんでしょ? だからこれも別に教えられてもないのにできる。門前の小僧習わぬ経を読む、みたいなもんですよ。
―最後まで聴いて、普通に終わったからびっくりしました。
池田:それがおもしろい。「何なんだよこれ!」ってなるでしょ?
―途中でボケて壊していくのかと思ったら……。
池田:笑いなし。「めでたし、めでたし」で終わる。
―こういうナレーションって初めて?
池田:音源では初めて。ライブでお話モノっぽい演出とか寸劇はやっていましたけどね。
―あれ、自分で一字一句台本を書いたんですよね。
池田:うん。図書館に行って、調べて。読みもしないのにめっちゃ資料みたいな本を積んでみたりしながら(笑)。最初は意地悪じいさんとかもいろいろ出てきたんだけど、長くなるなと思って削りました。
―オフィシャルサイトのインタビューで、これを編集なしの一発で録ったのが我ながらすごい! と主張しておられましたが。
池田:すごいでしょ?(笑) ほぼ噛まずにね。ちょっと噛んだぐらいはそのまま使ってるっていう。
―こういう朗読とか、複数の人のセリフを言い分けるとか、もともと得意ではある?
池田:いや、別に得意ってわけではないけど(笑)。
―レキシにしかできない、っていうところですごくいいアイデアだなと思いました。
池田:ありがとうございます(笑)。『KATOKU』(2017年の2ndシングル)のときはオルゴールのメドレーにしたりとか、その前の『SHIKIBU』(2016年リリースの1stシングル)には“キャッツあつめ”(ライブで“狩りから稲作へ”のコール&レスポンスで「キャッツ」と叫ぶ部分だけを集めたもの)を入れたりとか。曲ではないけどおもしろいものをやりたいから、今回は“BANASHI”になったの。だからもう、次からは“BANASHI 2”“BANASHI 3”ってずっとできる(笑)。
レキシ『S & G』ジャケット(Amazonで見る)
「みんなが幸せ」だと、漠然としすぎてるでしょ? じゃなくて、目の前のあなただけを、まず幸せにしたい。
―3曲目の“SEGODON”には、<誰かを思うその気持ち 幕末させて行こう>というストレートなラインがありますよね。たとえば“KATOKU”の<誰かと誰かが 笑いあったらいいのに>という一節もそうですけど、こういうポジティブで肯定的なマインドって、レキシの曲に共通することだと思うんです。
池田:ああ。まず、詞を書いてるとどうしてもイメージが大きい、抽象的なものになっちゃうんですよ。でもそうならないように、歴史というものを、何百年も前に起こった大きな出来事として捉えるんじゃなくて、何時、何分、何秒の間に、誰かと誰かの間で起こった出来事だと捉えているんですね。
そのうえで歌詞では、一言で「みんな」じゃなくて、「あなた」と「あなた」の集まりが「みんな」です、みたいなものを書きたくて。そっちのほうが自分のなかで具体化しやすいし、それは聴く人もそうだろうなと思うんですよ。
池田:そういうふうにパーソナルな気持ちを書きたい、っていうのがまずひとつある。で、いがみ合うよりは「愛がある」というイメージのほうがいいから、こういう歌詞になるんです。“SEGODON”も、「西郷隆盛」という漠然とした歴史上の人物ではなくて、「西郷さん家の隆盛くん」みたいに友達ぐらいの感覚で思ってほしいと思いながら書いていて。レキシではどの曲の歌詞でも、そういうふうに具体的にイメージしてもらえるように書いてるかな。
―それは最初から?
池田:最初からそうです。どうしても空想になりがちなんだけど、歴史というものを、学問上のことだけでも、ドラマだけでもなく、本当に一人ひとり、人と人の間に起こったことですよって認識していて。
池田:何事でもそうでしょ? 震災のときに(ビート)たけしさんが言ってたことで、「ただ2万人が亡くなったんじゃなくて、誰かの大事な人が1人亡くなった。それが2万件あったんだ」っていうのと同じですよ。そういうイメージをしたほうがリアルになる。それはひっくり返して、いいこともそうだと思うし。
「みんなが幸せ」だと、漠然としすぎてるでしょ? じゃなくて、目の前のあなただけを、まず幸せにしたい……うまく説明できないけどね。というか、説明することじゃないと思ってる。でも、ライブもそうだよね。「『みんなありがとう』はちょっと違うな、『ありがとう』は一人ひとりに対してなんだな」っていつも思ってる。だからライブも、一人ひとりに向けてやってるんですよ。同じものを観ていても、全員違うことを思ってるんだから、そりゃそうだなと。
―好き放題やってるように見えてそこまで考えていると。
池田:まぁステージに出たら必死だから、そんなこと考えてないけど、根底にはそれがあるのかな。全員を楽しませようじゃなくて、一人ひとりを楽しませたい。仕事とか、明日大変な人が、その大変なことをもっと一所懸命やれるように、そのためだけにライブをやろうって。そういう感覚は、ライブだけじゃなくて、すべての活動とか、人生とかにまでつながっている感じがあるかな。
素の自分が一番ファンクだと思ってるから。
―サウンドについてはどうですか? 前回のシングルの“KATOKU”同様、“SEGODON”も1980年代のMTV黎明期時代の雰囲気ありますよね。
池田:いや実は、そのあたりの音楽はあまりとおってないですよ。でも、それを言ったら俺、その時代に限らず、1つのジャンルを聴き込んでいるはわけではなくて……ファンクも、P-FUNKとスライ(Sly & The Family Stone)くらいしか聴き込んではないですし。
でも逆に考えると、そんなに深く聴かないからこそできるところもあるんじゃないかな。深く聴きすぎると、いろんな考えが邪魔しちゃうこともあるのかもしれないし。
―でもレキシのボーカルって、黒人ソウルシンガーのエッセンスがちゃんとあるじゃないですか。本物感ありますよ。
池田:いや、自分ではまったく……むしろそういうのはあまり意識していないんですよね。それだと真似になっちゃうから。やっぱり「抗わない」のが一番。自分にとってファンクは、誰かの真似しないってことなんです。「素の自分」が一番のファンクだと思ってる。
池田:だって俺、純日本人、純福井県民、純鯖江市民として歌ってるから。特にブラックミュージックは、それっぽくしようと意識したり、表面だけなぞったりしても、なかなかうまくいかない気がする。だって、ブルースとかソウルって心の奥底から出た音楽とも思いますし。
―さっきの話じゃないけど、自分のなかにないものを無理やり出しても仕方ないと。
池田:そうそう。じゃあ自分の心の奥底って何だろう? って考えたら、やっぱり今まで自分が育ってきた環境とかその範囲のものを、抗わずに出すことが、一番のブルースであり、ソウルやファンクなのかなって……頭アフロにしてるヤツが言うなって話だけど(笑)。
- リリース情報
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- レキシ
『S & G』初回限定盤(CD+DVD) -
2018年7月18日(水)発売
価格:1,620円(税込)
VIZL-1393[CD]
1. GET A NOTE
2. BANASHI
3. SEGODON
[DVD]
1. ライブドキュメンタリーすんのか~い、せんのか~い
※金箔押しジャケット
- レキシ
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- レキシ
『S & G』通常盤(CD) -
2018年7月18日(水)発売
価格:1,080円(税込)
VICL-374021. GET A NOTE
2. BANASHI
3. SEGODON
- レキシ
- イベント情報
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- 『レキシ TOUR 2018』
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2018年11月7日(水)
会場:北海道 旭川市民文化会館 大ホール2018年11月8日(木)
会場:北海道 札幌 わくわくホリデーホール 大ホール2018年11月15日(木)
会場:岩手県 盛岡市民文化ホール 大ホール2018年11月16日(金)
会場:宮城県 仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール2018年11月19日(月)
会場:東京都 中野サンプラザホール2018年11月21日(水)
会場:群馬県 桐生市市民文化会館 シルクホール2018年11月29日(木)
会場:愛知県 名古屋国際会議場 センチュリーホール2018年11月30日(金)
会場:広島県 広島上野学園ホール2018年12月4日(火)
会場:神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール2018年12月5日(水)
会場:神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール2018年12月10日(月)
会場:香川県 サンポートホール高松大ホール2018年12月12日(水)
会場:熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール2018年12月13日(木)
会場:福岡県 福岡サンパレス2018年12月17日(月)
会場:兵庫県 神戸国際会館こくさいホール2018年12月18日(火)
会場:京都府 ロームシアター京都 メインホール2018年12月20日(木)
会場:千葉県 市川市文化会館 大ホール2018年12月23日(日・祝)
会場:石川県 金沢市文化ホール2018年12月26日(水)
会場:静岡県 静岡市民文化会館 中ホール料金:各公演6,480円
※4歳以上チケット必要
- プロフィール
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- レキシ
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2007年アルバム『レキシ』でソロデビュー。ファンキーなサウンドに乗せて歌う日本史の歌詞と、ユーモア溢れるステージングで話題を呼ぶ。現在までに、『レキツ』『レキミ』『レシキ』『Vキシ』と5枚のアルバムをリリース。アルバムにはこれまで、いとうせいこう、椎名林檎、斉藤和義、松たか子、持田香織(Every Little Thing)、秦 基博、後藤正文(from ASIAN KUNG-FU GENERATION)、山口隆(サンボマスター)、Bose、ANI(スチャダラパー)、安藤裕子、Mummy-D(Rhymester)、キュウソネコカミほか、多彩で豪華なゲストが参加している。2018年1月から放送が開始されている大河ドラマ『西郷どん』のパワープッシュソングに新曲“SEGODON”を提供。4月には、地元福井県鯖江市で凱旋となる野外公演を開催し、大盛況で幕を閉じた。5月、椎名林檎トリビュートアルバム『アダムとイヴの林檎』に参加し、“幸福論”をカバー。7月には、初のダブルタイアップシングル『S & G』を発売。11月からは、全国17都市18公演にわたる約1年ぶりの全国ホールツアーの開催も決定している。
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