オンライン上で誰でも簡単にVR空間が作れるサービスがあるのをご存知だろうか。STYLYは特別なアプリケーションや拡張機能などを用意する必要がなく、一般的なパソコンさえあれば利用可能。STYLY上にある3D素材や、手持ちの画像を組み合わせたり、YouTubeやInstagramにある素材を取り込んだりしながら、誰もが簡単にVR空間を構築できる。
現在、Psychic VR Lab、パルコ、ロフトワークによる共同プロジェクトNEWVIEWが、次世代クリエーターの発掘を目的としたVRコンテンツアワード『NEWVIEW AWARDS 2018』を開催し、このSTYLYで制作された作品を募集している(締め切りは、2018年7月末日)。
そこで今回、Psychic VR Lab八幡純和の立会いのもと、本アワードの審査員にもなっている映像作家「寿司くん」こと、こやまたくやにSTYLYでVRコンテンツ制作を体験してもらった。VRはほぼ未体験だというこやまは、どんな反応を示すだろう?
もう世の中ってここまで来てるんや。
—まずはこやまさんにVRの世界を体験してもらいたいと思います。STYLYのウェブサイトでは、世界中のクリエーターが制作したVR作品が閲覧できるんですよ。
こやま:へえ! ここにあるのは、すべてSTYLYで作った作品なんですか?
左から、八幡純和(Psychic VR Lab)、こやまたくや。(STYLYを見る)
—そうなんです。まずはでんすけ28号さんの作品を体験してみましょう。これは、Qiezi Maboが「Qiezi Mabo loves PUNPEE」名義でリリースした楽曲のPV世界に入っていける内容です。
こやま:ヘッドマウントディスプレイを装着して体験するんですね。おお! 本当にPVの世界に入り込んだみたい。わ、こっちにも何かいる!
左のモニターに見えるような洗面器の裏を探っている様子。かがみ込んで下から覗くと、洗面器の裏で小さい人が踊っているというシュールな世界観
でんすけ28号『Qiezi Mabo Forever - VR ver.』(vimeoで見る)(STYLYで見る)
—この作品は舞台がバスルームで、あえてプレイヤーに移動させない作品ですが、次に体験してもらう大月壮さんの『Paralledice』は、コントローラーを使って空間内をどんどん上に登っていく作品です。
こやま:これは空間がかなり広いですね! 上を見るとちゃんと空があるし。
左のモニターに見えるような広大な景色を実際にヘッドマウントディスプレイで体験している
八幡:持っているコントローラーで移動できます。
こやま:本当だ。よし、階段を登ってみます。わ、本当に高い場所にいる気分になりますね。怖! こんな高い所から落ちたら死ぬやん……(笑)。もう完全に映画の世界ですね。もう世の中ってここまで来てるんや。
大月壮『paralledice』(vimeoで見る)(STYLYで見る)
—もう1つ、VRアーティストせきぐちあいみさんの『浮世』も見てもらいましょうか。これは、絵画の中に入っていけるという作品です。
こやま:これは新しい体験ですね。すごい、ようできてるなあ……。
せきぐちあいみ『浮世』(STYLYで見る)
—こやまさんは、今までほとんどVR体験をしてこなかったそうですが、どんな印象を持っていましたか?
こやま:「本当に流行るのかな……?」というのが正直なところでしたね。わざわざ自分からは、手を出そうとは思わへんやろなと。コンテンツもまだまだ少ないし、楽しむためには周辺機器も必要じゃないですか。まだ周りにやっている人いいへんし、別に買わんでもいいかなと。すみません、ネガティヴな印象で(笑)。
—実際に、VRを体験してどう思いました?
こやま:最高に楽しい!(笑) 想像以上でした。これ、絶対流行るでしょう。もう180度、意見が変わっちゃいました(笑)。
—(笑)。では、色々体験してもらったところで、これからSTYLYでVR作品の制作を体験してもらいます。
こやま:俺で大丈夫かなあ……。
ほんの1時間くらいでここまで形にできたことにびっくりしてます。ひょっとしたら小中学生でも作れるんちゃうかな。
八幡:STYLYにログインしてから、VR空間を作るエディット画面に進むと、空間に床と人の形をしたポリゴンが現れます。
こやま:あまり考えて操作しなくても、しばらく動かしているうちに直感的に覚えそうですね。
八幡:まずはVRの中に動画でも貼ってみましょうか。「VIDEO」というメニューを選択すると、YouTubeのURLを入力するダイアログが出てきますよね?
こやま:「寿司くん」で検索したら、僕の作品も見つかるかな。あ、ありますね。
YouTube動画を検索して、目的の動画を貼り付けることができる
こやま:何を作ろうかな……美術館とかどうだろう。過去の作品やグッズなんかを並べて、その中に入っていけるバーチャルな美術館を作ってみようかな。
八幡:いいですね! じゃあ、空間を壁で区切ってみましょうか。「3Dmodel」から「architecture」のタグを選択してください。すると、いろんな建物や壁などの仕切りが出てくると思います。
こやま:本当ですね。美術館なので、スッキリとしたシンプルなパーテーションがいいかな。そこに、寿司くんのイラストなどを飾りたいです。
八幡:それでしたら、ご自身のライブラリーから好きな画像を貼ることもできます。
こやま:お、なるほど。
八幡:読み込んだアイテムは配置していくわけですが、立体空間なので、XYZの3軸を動かしていきます。「scale」で大きさ、「move」で位置、「rotate」で向きを変えられます。
こやま:大きさや向きを決めて壁に貼り付けるには、なかなか工夫がいりますね。
背景や壁面、床にイラストを配置して、寿司くん目白押しの空間になってきた
八幡:例えば90度や180度に回転する場合は、テンキー数値を打ち込めば正確にできます。それにしても、さすが飲み込み早いですね。
こやま:現代っ子なので(笑)。直感的な操作は得意なんです。あとは寿司のオブジェをおきたいですね。3D素材の中に、寿司なんてあるのかな。
八幡:あると思いますよ。「3D MODEL」からキーワード検索してみてください。
こやま:わあ、たくさんありますねえ。この「寿司盛り合わせ」を床に置こう。
八幡:空と地面は「3D MODEL」の「Sky & Ground」に素材があります。「Poly 3D MODEL」には世界中のクリエーターが作った3D素材のライブラリーがあって、自由に使えます。
こやま:最高ですね。きっと自分で3D素材が作れたら、もっと色々面白いんだろうなあ。メニューの中にある「BOOK」ってなんですか?
八幡:このモードでPDFファイルを読み込むと、それが本になってVR画面の中でパラパラとめくることができるんですよ。
こやま:試しに2015年の寿司くん商品カタログを読み込んでみます。あと、何か動きのあるものが欲しいですね。
八幡:ロゴを作ってみましょうか。寿司くんのサインをVR空間で立体化するために、「SELVA」というサービスに寿司くんのサインのデータを読み込んで3D化します。
こやま:いやあ、ほんの1時間くらいでここまで形にできたことにびっくりしてます。素材を組み合わせたりしながら感覚的に操作できるのがいいですね。ひょっとしたら小中学生でも作れるんちゃうかな。
—実際、こやまさんもアイデアがゼロの状態から、手を動かしていくうちにどんどんアイデアが出てきましたね。
こやま:まさに。まず自分の『寿司くん』動画を空間に置いてみたら、ふと「仮想の美術館」っていうアイデアが湧いて。美術館に必要なのは「壁」だし、そこに飾るイラストも必要だなと。床には寿司のオブジェを置いて、空中で「寿司くん」ロゴが回転しているのも楽しそうだなと。そうやってイメージがどんどん広がっていきましたね。
僕は自分の作品、例えば動画なんかをネットに上げることが多いので、それをアーカイブしておく「空間」になったら面白いですね。単に僕の個人サイトに並べていくのではなくて、このVR空間の美術館の中を移動するように過去作を見てもらえるようになったら面白いんじゃないかな。
空間を使って何か作るなんて無理、という人は多いかもしれないですが、全然VRは難しくない。
八幡:作ったシーンをヘッドマウントディスプレイを装着してみてみましょうか。
こやま:(ヘッドマウントディスプレイを装着する)おお、思ったよりも天井が高い! 大画面で『寿司くん』動画を見ながら、さっき読み込んだカタログもパラパラめくれる(笑)。
八幡:最後にタイトルをつけて、この作品を公開しましょう。
こやま:タイトルは、『寿司くん初めてのVR』にします(笑)。これで、世界中の人と共有できるわけですね。僕自身、もともとYouTubeに作品をアップして、そこから広まっていったところがあるので、このVR作品もどんどん外に開かれていくといいですね。
VRがまだあまり普及していないのは、知られてないだけだと思うんですよ。単に提供されたコンテンツを楽しむだけではなく、自分でもこんなに簡単にできるようになって、みんなで共有するって最高じゃないですか(笑)。
実際にパブリッシュされた寿司くん初のVR作品『sushi-kun hazimeteno VR』(STYLYで作品を見る)
—作品を共有することで、クオリティもどんどん上がっていくでしょうね。
こやま:それは間違いないですね。STYLYがそういう場になるといいなと思います。フリーで使えるVR用の3D素材も、今後どんどん増えていくだろうし。凄いスピードで進化していくでしょうね。
—今後、STYLYを使って、自身の作品にVRを取り入れる可能性はありそう?
こやま:きっと「あり」ですよね。VR空間内を移動すると『寿司くん』の話が進んでいくとか。寿司くんとタカシくんのを3Dデータにして、プレイヤーの目の前でやり取りさせるとか(笑)。そんなのができたら面白いでしょうね。
ミュージックビデオでも使いようがある気がします。VRでのライブとかは、ちょっと僕らには合わないかもしれないけど、何か他のやり方が見つかるかもしれない。受け手側にももっとVRが普及したら、前向きに考えます(笑)。
—現在作品を募集中の『NEWVIEW AWARD』には、こやまさんもCINRA.NET賞の審査員として参加するわけですが、応募作品に期待することがあれば教えてください。
こやま:せっかく空間を自由に使えるのだから、たっぷり使って細かいところまで探検できるような作品を見たいですね。あと、笑えるやつがあったら嬉しいな。隠しアイテムとか、覗かないと分からないとか。いずれにせよ、どんな作品が見られるのか、今からめっちゃ楽しみですね。僕も今後、作品作りの参考にさせてもらえたらいいな(笑)。
—まだまだ3Dは、「自分には難しいんじゃないか?」って思っている人は多いと思うんですけど、まずはいじってみてほしいですよね。
こやま:そうなんですよ。空間を使って何か作るなんて無理、という人は多いかもしれないですが、全然VRは難しくない。3D素材もあるし、単にイラストをペタペタ貼るだけでも楽しめる。まずはやってみてください。
—子供からプロのクリエイターまで、ほんと誰でも楽しめると思うので、どんどん遊びながら作品をアップロードして、参加者全員で共有しながら作品のクオリティを上げていけたら最高ですね。
- アワード情報
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- 『NEWVIEW AWARDS 2018』
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『NEWVIEW AWARDS』は新たな表現やカルチャー、ライフスタイルを追求し、「超体験のデザイン」を牽引する次世代クリエイターを発掘することを目的として立ち上げられたアワード。「DESIGN YOUR ULTRA EXPERIENCE(超体験をデザインせよ!)」をテーマに、VR空間を駆使した新たな表現・体験を生み出せるクリエイティブプラットフォーム「STYLY」を使用して制作・公開されたVRコンテンツを募集しています。
募集期間:2018年7月31日まで
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- 『NEWVIEW AWARDS 2018 ファイナリスト作品展』(仮)
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2018年8月末 会場:東京都 渋谷 GALLERY X BY PARCO
- サイト情報
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- NEWVIEW
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Psychic VR Lab、パルコ、ロフトワークによる新たな表現の追求と、次世代クリエイターの発掘・育成を目的とするプロジェクト。ファッション、音楽、映像、グラフィック、イラストレーションなど、各分野で活動するクリエイターが参加し、3次元空間での新たな表現と体験のデザインを開拓していきます。
- サービス情報
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- STYLY
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Psychic VR Labによるプログラミングの知識がなくても、アセットをドラッグ&ドロップすることで手軽にVR空間をデザインできるVRプラットフォーム
- プロフィール
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- こやまたくや
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京都府出身、大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。24歳。「寿司くん」名義でアニメ・ミュージックビデオなどの映像作品を中心に制作活動を行う。ロックバンド、ヤバイTシャツ屋さんのギターボーカルとしても活動中。
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