ZOMBIE-CHANGが明かす、これまでの違和感と突き詰めたい表現

女性シンガーソングライターであるメイリンのソロプロジェクト、ZOMBIE-CHANGの3rdアルバム『PETIT PETIT PETIT』(2018年7月4日リリース)が完成した。

浮遊感に富んだサイケデリックなインディーポップ像をDTMの方法論に則って描いていた前作までの流れから一転して、今作ではサポートメンバーにnever young beachからドラムの鈴木健人とベースの巽啓伍、D.A.N.からベースの市川仁也を迎え、全曲をバンドサウンドで構築している。

絶妙にクセになるジャンクなニューウェイブ感をまとった楽曲はメイリンのパワフルなボーカルを引き出し、ポップな推進力もグッと高まっている。なぜメイリンはバンドサウンドで自らの歌をダイナミックに解放することを選んだのか? またモデルとしても活躍していた彼女だが、音楽活動に専念するために廃業することを決意した。そこには、クリエイティブに対する真っ直ぐな強い思いがあったという。インタビューはそんな話題から始まった。

音楽を作りたいのに、なんで見た目ばっかり売ってるんだろう? って思うようになって。

—モデルの仕事は、もうやってないんですよね?

メイリン:もうやってないです。

—それは音楽に集中したくて?

メイリン:そうですね。それと、写真を撮られるのが苦手になってしまって。

ZOMBIE-CHANGのメイリン
ZOMBIE-CHANGのメイリン

—それは、どうして?

メイリン:私はもともと音楽をやっていて、それからモデルのお仕事もやるようになったんですけど。今って、モデルという職業をいろんな人が簡単にできるようになったじゃないですか。

—Instagramなどの影響も大きそうですね。

メイリン:そうです。そういう流れもあって、私もいろんなモデルのお仕事に呼んでいただいていたんですけど。私としては、モデルの仕事はお金をもらえるからやっていたところが大きかったんです。

ミュージシャンを目指す場合、ほとんどの人が最初は音楽活動をするためにバイトをしなきゃいけないじゃないですか。モデルのお仕事は一般的なバイトよりも短時間でお金をいただけて、しかもご飯も付いてくるので(笑)。スタッフのみなさんにすごくよくしてもらえるし、音楽活動の宣伝にもなるからメリットしかないと思ってやり始めたんですね。

—そこから、メイリンさんのことを知った人もいたでしょうし。

メイリン:はい。でも、モデルのお仕事をやっていくにつれ「私はプロの細身のモデルにはなれないし、そもそも音楽を作りたいのに、なんで見た目ばっかり売ってるんだろう?」って思うようになって。そう思ったときに、今後もモデルをやっていきたいのかと言われたら、そうではないと思ったんです。

自分がモデルとして写真を撮られたときに「普段、私はこういう服は着ないけど、仕事なので着てます」というのは、モデルの仕事としていいことではないなと思ったんですよね。本当は自分が着たい服を着て、好きなものを食べて自分が撮られたい写真を撮ってもらいたいと思ったので、もうモデルをやってはいけないなって。

—真っ当な意見だと思います。

メイリン:もちろん、最初はモデルをやることで注目してもらえるのもうれしかったし、今まで自分の存在が届かなかったところまで届くようになったのも確かだし、モデルをやってよかったと思うことはいっぱいあります。

でも、やっぱり私は自分の表現を発信したいんですよね。モデルの撮影というのは、写真家や編集者、アートディレクターの方のクリエイティブの中に自分が入っていくわけだから、自分が主体の表現ではなくて。一見、写真ってモデルが主体に見えるんですけど。

メイリン

—被写体よりも撮影者にクリエイティブのイニシアティブはあるという。

メイリン:そうですね。そういうところが1番自分の中で違うと思った部分だと思います。それで、音楽だけをやっていきたいって思いました。

—キッパリ決断したと。

メイリン:キッパリですね。決断したのは最近ですけど、そこから気持ちがすごくラクになりました。

私の性格上、浮遊感というよりパンチのある感じなので、それを曲にも出したくなったんです。

—ニューアルバム『PETIT PETIT PETIT』の話も聞かせてください。前作はもっと浮遊感に富んでいてサイケデリックなインディーポップという感じだったけど、今作はバンドサウンドが主軸になったことで劇的にエモーショナルになったのが大きなポイントだと思うんですね。

メイリン:そうですね。まず、ドラムとベースを弾いてくれるメンバーと出会えたのが1番大きいです。

—never young beach(以下、ネバヤン)のリズム隊と、もう1人、D.A.N.からベースの(市川)仁也くんがサポートメンバーになって。

メイリン:みんなとはもともと仲がよくて、「やってよ!」って言ったら「いいよ」って言ってくれて。

—なぜバンド編成でやりたいと思うようになったんですか?

メイリン:1人で地方へライブに行ったときに「なんか楽しめないぞ?」と思って。「私もみんなと一緒にご飯を食べたりしたい!」って(笑)。

メイリン

—シンプルに寂しいっていう(笑)。

メイリン:寂しかったですね。バンドの方たちは、楽屋でメンバー同士で「がんばろうぜ」とか話しているじゃないですか。もともとバンドサウンドが好きだったし、バンドを組みたい気持ちもずっとありつつ、でも、正直めんどくさいなと思ってたんです。メンバーとイチから関係性を築くのも難しいし。でも、健ちゃん(never young beachの鈴木健人)や仁也くんとは前から仲がよかったので、一緒にいても居心地がよくて。

メイリン

メイリン

—最初にバンド編成でやったライブはいつですか?

メイリン:去年の夏だったかな? スチャダラパーとネバヤンと私の3マンが代官山UNITであって。そのときに「この対バンに1人じゃ勝てない! どうしよう!」と思って、バンドセットでやってみたのが最初ですね。

—「1人だと勝てない」と思ったんですね。

メイリン:う~ん、そのときはアンニュイな声質というか歌い方をしていたので、そのライブ以前も「この細い声じゃたくさんの人に届かない」とは思っていて。もっとパワフルになりたいと思っていました。

—メイリンさんはもともとパワフルな声も出せますしね。実は声域も広いし。

メイリン:ちょっと悪い言い方をすると、猫をかぶっていたのかもしれないですね。時代的にアンニュイな声やリバービーなボーカルが流行ってる影響もあったと思います。以前は自分のハッキリした声がコンプレックスでもありましたし。

—それは、なぜ?

メイリン:いやぁ、やっぱりかわいらしい声のほうがいいじゃないですか。

—前作まではトラック的にアンニュイな声のほうが合っていたというのもあると思うし。

メイリン:そうなんですよね。シンプルにトラックになじませたかったという思いが強かったですね。ずっとトラック重視の考え方だったので。でも、やっぱりちゃんと曲を届けたいという気持ちが強くなってきたんです。私の性格上、本来は浮遊感というよりパンチのある感じなので、それを曲にも出せたほうがいいと思うようになったんですよね。

—学生時代はパンクをよく聴いていたと言っていましたしね。1年前にバンド編成でライブをやってみて、手応えがあったということですよね。

メイリン:そうなんです。みんなに「元気でいいね!」って言ってもらえて。私もより自分らしいライブができたと思ったし。

—それで、曲作りも「生感」を強く出したいと思った。

メイリン:はい。最初はバンド編成で新曲を作るのは少し不安だったんですけど、メンバーが出してくる音が私の中にはないものだし、それが混ざっていくのが刺激的でラッキーだなと思いました。

—仲間がいてよかったですね。

メイリン:はい、いいとこ取り、つまみ食いみたいな感じです!

—(笑)。これまで、バンドを組んだ経験はないんですか?

メイリン:ないんですよ。中学生くらいになるとよく友だちと「バンド組もうよ!」って盛り上がるじゃないですか。それで1回スタジオに入ったことはあるんですけど、私は人にものを言うのがすごく苦手だったんです。当時、バンドを組もうとしていた子が下手で。その子に対して「そのベースはヒドいよ」とか言えなかったんですよね。それで「バンドは無理だ」と思って。

—メイリンさんは女性メンバーだけのバンドを組んだらすごく似合いそうだけど、その実、合ってないという。

メイリン:メンバーが女性だと、傷つけてしまうんじゃないかと不安になるんですよね。男性だと身体がデカいし頑丈そうだから強めに言えるんですけど(笑)。私が女性だからそう思うのかもしれないですね。

—今後も男性メンバーと一緒にやりたいですか?

メイリン:いや、いい出会いがあれば性別とか関係なく一緒にやりたいです。

内側の表現はもうやり切ったから、今度は外側の、見える表現をしたいなと思いました。

—新作の制作は、メイリンさんが作ったデモを持っていって、メンバーとアレンジしていく方法で進めていったんですか?

メイリン:“レモネード”と“ときどき、わからなくなるの”と“WE SHOULD KISS”の3曲はトラックがまずあって、そこからみんなでアレンジして作ったんです。

メイリン:“なんかムカツク”は、まず健ちゃんにBPM180くらいの速いドラムを叩いてもらって、そこからパソコンでアレンジしていきました。パズルを作るみたいな感覚でしたね。それもいい意味でつまみ食いだなと思って。最高のドラマーと便利なパソコンを組み合わせたつまみ食いですね。

—全体を通して音を足しすぎないのは意識的だと思います。

メイリン:そうですね。私がリスナーとして繊細な音楽を聴いたときに、全部の音をちゃんと聴き取れなくて。それに、ライブでも再現できるサウンドにしたいと思ったんです。それを考えると、あんまり音を詰め込みすぎるのはよくないなって。

—より楽しく歌えてる感じが全面に出てますよね。

メイリン:ありがとうございます。前作までは自分を制御しつつ作品を作っていたところがあって。今は解放しつつも、自分をコントロールできるようになりたいと思っています。そういう意識が作品に出ているのかな。

—ライブのモードもどんどん変化しているんじゃないですか?

メイリン:変化してますね。今まで、ライブ中はお客さんをあまり見ないで自分の世界だけを押し通すような感じでやっていたんですけど、それじゃあどこでライブをしても自分の世界しか見えないと思って。本当はお客さんとコミュニケーションをとりたいし、みんなが楽しそうにしている顔を見たい。だから、自分を解放しないとダメだと思って。内側の表現はもうやり切ったから、今度は外側の、見える表現をしたいなと思いました。

—人とのコミュニケーションのとり方も変わってきましたか?

メイリン:だいぶ変わりましたよ。ずっと人見知りではあるんですけど、いろいろな人と出会っていくうえで、どうコミュニケーションをとったらいいかわかってきたというか。そうすると、人と話すのが楽しくなったし、人に興味が湧くようにもなってきて。

—相手を知ろうと思うようになったんですかね。

メイリン:そうですね。これまでは、その場しのぎという感じでした(笑)。仲のいい人とだけコミュニケーションをとっていればいいやと思っていたけど、今はいろんな人と話してみたいし、話すことの大切さを感じています。

メイリン

—歌詞も音と一緒に躍動する解放感があるんだけど、実はすごくセンシティブなことを歌っていて。それがとてもいいなと思いました。

メイリン:内なるものを内なる表現だけで出しても全然伝わらないから。ちゃんと現実とリンクさせたいという思いがありますね。

—メイリンさんが書く歌詞は女の子であることをすごく謳歌していると思うんですね。

メイリン:本当ですか! うれしいです。どんなところがそう思いますか?

—ちょっと傷ついているんだけど、それを愛らしいユーモアで包み込んでいて。この感じは男には出せないなぁと思いますね。

メイリン:言われてみれば、もともと感傷的なことが好きなんですよね。センチメンタルな感じが。木陰で好きな人を待ちわびたりするとか、雨に打たれたりとか(笑)。

—かなりセンチメンタルですね(笑)。

メイリン:それで「今、これ感傷的な気持ちだ……最高だ!」って思うんですよ(笑)。

—その感覚が最高だと思います。“オニオンスライス”とかまさにそういう感覚が顕著に表れていますよね。

メイリン:この曲は自分の性格がすごく出ているなと思います。すごく悲しかったとしても、誰かに「本当に悲しくてもう無理なんだ」とは言わないんですよ。ちょっとふざけてしまう。泣いていても「玉ねぎを切ったから涙が出ちゃったんだよね~」とか言って、ごまかしきれてないのがバレバレなんですよね(笑)。この曲はそういう感じを表現したくて。「ごまかしてるけど、あんたそれギャグになってるよ」っていう。

—その状況も、すごく切ないんだけど、シンセのリフとタムで回していく、いい意味でジャンクなバンドサウンドも相まってカラッとしているというか。

メイリン:そうですね。この曲はドラムが特徴的だと思う。健ちゃんに叩いてもらったときに「ちょっと今っぽい感じで気持ち悪い! 無理だ!」ってなったので、スネアを使うのをやめて全部タムだけでお願いしたんです。

「音楽をフリー素材だと思っている人」が作ったものばかりを子どもに見せたくないなぁと思うんですね。

—ZOMBIE-CHANGの曲は子どもが聴いても楽しく感じると思うんですよ。

メイリン:うれしいです。そうなれたらいいなと思って作った作品なので。楽しく口ずさんでほしいなって。今回はアートワークも全部自分でやったんですけど、小さい子にも触ってもらいたいと思ってデザインしました。

ZOMBIE-CHANG『PETIT PETIT PETIT』ジャケット</p>
ZOMBIE-CHANG『PETIT PETIT PETIT』ジャケット(Amazonで見る

メイリン:『おかあさんといっしょ』みたいに、小さい子がいっぱいいる中でライブもしてみたいですね。うたのおねえさんみたいなこともやってみたい! 小さいころに『ポンキッキーズ』が大好きだったので、ああいう子ども向け番組を作ってみたいんですよね。

—確かに『ポンキッキーズ』は、出演者もコンテンツも、今考えてもめちゃくちゃおもしろいですよね。

メイリン:今思えば、『ポンキッキーズ』を見ながら、無意識にいろんなカルチャーに触れられたなと思って。今はユーチューバーの方とかが子どもに人気だと思うし、それを否定するつもりはないんですけど、「音楽をフリー素材だと思っている人」が作ったものばかりを子どもに見せたくないなぁと思うんですね。

—メイリンさんが子ども向け番組のアイコンになったらかなり痛快ですね。

メイリン:なりたいです、本当に! 「誰か立ち上がって作ってくれ!」と思ってるんですけど、やっぱり番組を作るのってお金がかかるし、フリーのものが多く出回ったりするんだろうなって。難しいですね。

子どもたちが大人になったときに、文化的なおもしろいものに興味を持たなくなってしまうのは怖いじゃないですか。だから、心の広い大きな会社の方が、子どもたちにいろんな文化を伝えられる『ポンキッキーズ』のような場所を作ってくれたらって思うんですよね。そしたら、ぜひ私がうたのおねえさんになって、子どもたちにおもしろい文化を伝えていきたいです(笑)。

メイリン

リリース情報
ZOMBIE-CHANG
『PETIT PETIT PETIT』(CD)

2018年7月4日(水)発売
価格2,160円(税込)
ROMAN-016

1. レモネード
2. イジワルばかりしないで
3. ときどき、わからなくなるの
4. モナリザ
5. 愛のせいで
6. WE SHOULD KISS
7. なんかムカツク
8. オニオンスライス

イベント情報
『ZOMBIE-CHANG「PETIT PETIT PETIT」Release Tour』

2018年8月25日(土)
会場:福岡県 福岡 Kieth Flack

2018年9月17日(月・祝)
会場:大阪府 南堀江 socore factory

2018年9月22日(土)
会場:東京都 渋谷 WWW

プロフィール
ZOMBIE-CHANG
ZOMBIE-CHANG (ぞんびーちゃんぐ)

メイリンのソロプロジェクト。作詞作曲、トラック、リリック全てを彼女が手掛け、2016年に配信「恋のバカンスE.P.」でデビュー。その後、1stアルバム『ZOMBIE-CHANGE』をリリース。2017年3月には2nd アルバム『GANG!』をリリースし、リリースパーティーを青山のPIZZA SLICEで開催。また、SUMMER SONIC 2017、WORLD HAPPINESS、コヤブソニックなどのフェス出演や、TAICOCLUB主催のサンリオ43周年パーティー、sacaiとUNDERCOVERによるPartyへのライブ出演など、活動範囲は多岐に渡る。2018年からは3ピースバンド体制で始動。音楽プロジェクト以外にも、執筆業、ラジオMCなどとしても活動。ジャンルに捉われないオリジナリティ溢れる音楽性と、独自の世界観を放つライブ・パフォーマンスは中毒性が高く、今最も注目される女性アーティストのひとり。



記事一覧をみる
フィードバック 2

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • ZOMBIE-CHANGが明かす、これまでの違和感と突き詰めたい表現

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて