テレビアニメのテーマソングといえば、「89秒」という尺が決まっていて、クリエイターがそのなかで様々なチャレンジを行っているということは、近年アニメファン・音楽ファン双方によく知られるようになったと言っていいだろう。そして、「短い尺に要素を凝縮する」という方法論は、ストリーミング時代の曲作りとどこかリンクする部分があるようにも思える。
4月にリリースされたアルバム『Hi-Fi POPS』で、再メジャーデビューからのファーストシーズンを終えたORESAMA。彼らはこれまでも数多くのアニメ関連楽曲を手がけてきたが、8月22日にリリースされたニューシングル『ホトハシル』もテレビアニメ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』のエンディングテーマに起用されている。
ORESAMAの活動と並行して、DAOKOやSHE IS SUMMERらの作曲 / アレンジも手がける小島英也は、ストリーミングで音楽を聴くことが主流になりつつある今、どのような意識で楽曲制作を行っているのだろうか? 新たなはじまりを迎えた2人に現在のモードを訊くとともに、小島には改めて作曲論も語ってもらった。
イントロを聴いて、「ワクワクするな」って感覚を持ってもらいたいから、最初の10秒はすごく重要。(小島)
—CINRA.NETとしては約1年ぶりの取材となるのですが、前回取材をした際、小島くんが「一度自分をリセットしたくて、最近は全然新しい音楽を聴いてない」という話をしてくれましたよね。『Hi-Fi POPS』のリリースを経て、音楽に向かう姿勢はどのように変化しましたか?
小島(Gt):あの断捨離みたいな時間で気づいたのは、いっぱい曲を聴いたら、その分だけ曲が作れるのかというと、そうではないってことで。いかに自分に必要な栄養を取り入れるかが大事なんですよね。
毎日100曲を聴くんじゃなくて、1日1曲でいいから、自分が本当に好きな曲を見つける。そういうふうにして、改めて「自分はこういう音楽が作りたいんだ」って気づけたんです。僕はただ闇雲に曲を聴くぐらいなら、まったく何も聴かないほうが曲を作れるタイプなので、「自分が本当に好きなものを聴く」ということを心がけるようになりました。
—時代感的には、ストリーミングが主流になりつつあって、おすすめを次から次へと聴くことが普通になってきていますよね。もちろん、作り手とリスナーという立場の違いもあるだろうし、時期によっても違うと思うけど、今の小島くんは次々聴くというよりも、本当に自分が好きなものだけを聴くようにしていると。
小島:好きな1曲を見つけるためには、プレイリストを何十個も往復することもあるので、結果的には量もめちゃくちゃ聴いてるんですけどね(笑)。でも、そのなかで「これは好き」っていうのを見つけると、やっぱり忘れないんです。
曲を作ってる立場からすると、1曲丸々聴いてほしいから、もともとは「1コーラスだけ聴く」みたいなのは反対だったんですけど、最近はそういう聴き方も悪くないなって気づいて。だから最近はストリーミングの時代だからこその曲作りも意識するようになりました。
—具体的には、どんなことを意識するようになりましたか?
小島:やっぱりアタマの部分ですよね。曲の顔となる部分でどれだけ掴めるか。実際、今回の“ホトハシル”もイントロの10秒くらいを最初に作ってから、メロディーを作ってるんです。アタマのインパクトはすごく大事ですね。そこはすごく意識しています。
—それって、89秒のアニソンを作るときの意識とも近いと言えますか?
小島:通じるところはあるかもしれないですね。僕はイントロにその曲の表情をすべて詰め込みたいんです。イントロを聴いて、「こんな感じの曲」ってわかるものを作りたい。それはストリーミングで聴いてもらう曲作りのための意識とも一緒かもしれないです。イントロを聴いて「ワクワクするな」って感覚を持ってもらいたいから、最初の10秒はすごく重要。
—カニエ・ウェストの新作(『Ye』)は7曲入りで、2分台の曲が入ってたり、ストリーミングの時代になって、曲の尺が短くなる傾向もありますよね。
小島:ストリーミングでは、再生回数を稼ぐということも重要な要素の1つだと思います。ただ、もともと僕らの曲は比較的短いんですよね。ギュッとしてるほうが好きで、余分なものはつけたくないので、もしかしたら、これからどんどん短くなるかもしれない(笑)。
—曲の尺が短くなっていくことへの危機感のようなものは特にない?
小島:ないですね。僕自身、曲は短ければ短いほどいいと思っていて、そのなかに自分のやりたいことを凝縮できたときにすごく手応えを感じるんです。いろいろ肉づけして世界観を表現するのもアリですけど、僕にとっては少ない音数、短い尺で自分をどれだけ表現できるかが大事で、最近はちょっとずつそういうこともできるようになってきたかなと思います。
89秒で作るにしても、最初は苦労したんですけど、最近は逆に89秒以下に詰め込むことができるようになって、要素をちょっと足すことも増えたんですよ。削るのは難しいけど、足す分には楽しかったりもするので、そこは自分の成長なのかもしれないです。
「ORESAMAとしてもっと新しいジャンルをやっていけるな」っていう手応えはすごく感じている。(小島)
—ここまで話してもらった小島くんの意識の変化は、『Hi-Fi POPS』の制作期間とも重なると思うんですけど、アルバムを完成させたことによって、作曲に対する考え方が変わった部分もありますか?
小島:アルバムを出して一番変わったのは、新しいジャンルを取り入れる際の心構えがさらに柔軟になったことです。これまでは「ディスコ」を軸にしていて、それ自体はこれからも変わらないと思うんですけど、いろんなタイアップをやらせていただくなかで、テンポの速い曲だったり、今回であればロックだったり、これまでにないキーワードがどんどん出てきて。それを自分なりに解釈して音楽を作るようになっていったのは、大きいですね。
—実際に、アルバムには「ディスコ」だけには収まらない、幅広い楽曲が収録されていましたよね。
小島:あのアルバムを出したからこそ、ORESAMAの音楽がまた新しいステージに行ける感覚があるというか。
小島:ORESAMAでは、あくまで「ディスコ」を軸としながらも、新しいグルーヴ、メロディー、リズム、シンセを追い求めていきたくて、『Hi-Fi POPS』はそのきっかけになりました。たとえば、エレクトロスウィングを意識した“cute cute”みたいな曲をやってみても、ちゃんとORESAMAの楽曲になったと思うし、ライブでも盛り上がったし、「ORESAMAとしてもっと新しいジャンルをやっていけるな」っていう手応えはすごく感じていますね。
—ぽんさんはどうですか?
ぽん(Vo):去年の5月に再スタートを切らせていただいて、メジャーで初めてのアルバムだったので、「やっとリリースすることができたな」って、すごく嬉しかったです(参考記事:ORESAMAが語る再起の物語、葛藤し再デビューを果たすまで)。
しかも、初回限定盤のBlu-rayには“オオカミハート”(2014年)からのすべてのミュージックビデオを収録することができたので、これまでガムシャラに進んできたけど、アルバムでひと区切りついたかなって。そういう意味でも、記念すべき1枚であり、想い入れの強い1枚になりました。
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アニメをきっかけにして、アルバムまで手に取ってもらえると、「ちゃんと届いてるんだな」ってすごく実感する。(ぽん)
—小島くんから音楽性の広がりの話がありましたが、歌詞に関しても広がりましたよね。ただポップで明るいだけじゃない、内省的で少し暗い面もORESAMAにはあるということが、あのアルバムでちゃんと伝わったんじゃないかと思います。
ぽん:それはおっしゃる通りで、シングルのカップリングまで全部聴いてくれている人からすれば、「明るいだけじゃない」っていうのはわかっていただけていたとは思うんですけど、当然、タイアップの曲しか知らない人もいて。
明るくて強い気持ちだけじゃない私も、ポップスに昇華するのがORESAMAなんだっていうことを、ちゃんとアルバムに込められたかなと思っています。アルバムでORESAMAのことを知ってくれた人が思っていた以上に多くて、その人たちがORESAMAのすべてを愛してくれたことが、今すごく糧になっているんですよね。
—アニメのテーマ曲を多数手がけているだけに、それをきっかけにORESAMAのことを知った人も多いと思うけど、ちゃんとアルバムまで聴いてくれるのは嬉しいですよね。
ぽん:もちろん、アニメが好きで聴いてくれた人も、今まで出会えなかった人たちに届いているって意味ですごく嬉しいことなんですけど。アニメをきっかけにして、アルバムまで手に取ってもらえると、「ちゃんと届いてるんだな」ってすごく実感するので、本当に嬉しいです。
街ですれ違っても絶対話さないであろう人たちが、同じ目的で同じ会場に来てるという奇跡は、本当に大事にしたい。(ぽん)
—恵比寿LIQUIDROOMのレコ発ライブの手応えはいかがでしたか?
ぽん:私たちはエンターテイメントを仕掛ける側なので、もちろん物怖じしてはいられないんですけど、ワンマンライブをやるたびにどんどん見たことない景色が広がっていって……たまらないですね。
小島:僕が特に感じたのは、いろんなところからORESAMAのことを知ってくれた人たちが1つの同じ会場にいるから、ノリ方が全然違うってことで。ディスコのノリと、ロックのノリでも違うじゃないですか? でも、そういう人たちが集まって、新しい空間というか、多様性のある空間になっていて、僕はそれがすごく嬉しくて。
—縦ノリの人も横ノリの人もいれば、突っ立ってる人がいてもいいし。
小島:お酒を飲んでくれていてもいいですしね。いろんな人たちが、ある曲では一緒になってクラップをしてくれたりすると、その瞬間はまさに「音楽で1つになる」という感覚になりますね。だからこそ、自由に楽しんでほしいのはもちろんだけど、ときには「こういうノリもあるよ」っていう提示もちゃんとしていきたくて。次に進むには、より気合いを入れないとって再認識したライブでもありました。
ぽん:最近は親子で遊びにきてくださったり、海外の方もいらっしゃったりして、そういう人たちが同じフロアにいるのは、奇跡的なことだなって思います。街ですれ違っても絶対話さないであろう人たちが、同じ目的で同じ会場に来てるという奇跡は、本当に大事にしないとなって。
—ORESAMAの活動の拠点はもともと渋谷ですけど、スクランブル交差点を通ったりすると、最近ますます国際化しているのを感じるし、ますます多様性が強まっている印象を受けます。それはORESAMAのフロアともリンクしていると言えるかもしれないですね。
ぽん:渋谷は最近すごいですよね。オリンピックの頃には、フロアが海外の人だらけだったりして(笑)。でも、どんどんそうなってほしい。国籍・性別・年齢、全部関係なく、いろんな人が日常を忘れられる空間にできればなって思います。
「ORESAMAなりのロック」を追求した結果がこの曲。(小島)
—ニューシングルの“ホトハシル”は、アルバムを経て、また新たなチャレンジに挑んだ1曲だと感じました。小島くんからは「ロック」というキーワードが出ていましたが、個人的には、リズムはアフロっぽいなって思ったり、何にしろ、これまでのORESAMAにはなかったタイプの楽曲だなって。
小島:最初にアニメのプロデューサーさんたちと打ち合わせをするなかで、「ロック」というキーワードが出てきたんです。「テンポが速くて、クールなもの」っていう。
ただORESAMAでロックをやったことはほぼないので、ORESAMAとしてロックをどう解釈して、どうORESAMAの楽曲として完成させるか、それを念頭に置いて作っていきました。まあ、結果的にできあがったものを聴いて、すぐにロックだって思う人はほぼいないと思うんですけど(笑)。
—そうかもしれないです(笑)。
小島:でも、「ORESAMAなりのロック」を追求した結果がこの曲なんですよね。特に意識したのはリズムの面で、ロックと聞いてまず8ビートのイメージが浮かんだんですが、そこから脱却するために、かなり細かく16分のリズムを刻んで、さらにそこに跳ね感も加えて。
テンポが速いので、結果的にさっきおっしゃったアフロ感も出たり、ORESAMAとして新しいリズムが生み出せたと思います。16分を「ロック」っていうキーワードにぶつけることで、「ORESAMAなりのロック」になったんじゃないかなって。
ORESAMA『ホトハシル』ジャケット(Amazonで見る / Apple Musicで聴く)
ぽん:『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』は、原作を読ませていただいて作品にすごく自分が励まされたんです。霊を裁くストーリーで、大切な人の死や、自分自身を乗り越えようとしたりする前向きな気持ちが描かれていて、それにすごく励まされて。なので、作品を通じて感じたそのままを歌詞にしようと思って、「自分をどう奮い立たせることができるか」を考えて書きました。
—<叫べ 叫べ><挑め 挑め>といったサビの歌詞はまさにそうですね。
ぽん:いつもならサビのアタマは造語を作ることも多いんですけど、今回はあえてストレートな言葉を繰り返すことで、エールを送ることを意識してます。
—ただ、タイトルの“ホトハシル”は造語ですよね。
ぽん:「ホトバシル」だと、「こういう曲なのかな?」って、イメージしやすいじゃないですか? でも、濁点を取るだけで、一瞬考える間ができると思うんです。歌詞がいつもよりストレートな分、タイトルで考える瞬間が生まれたら面白いなって。呪文っぽくもあるし、「ハシル」って言葉に焦点が当たったり、ビジュアル的にも面白いから、すごく気に入ってしまって、「“ホトハシル”でいきます!」って決めちゃいました。
—カップリングの“ようこそパーティータウン”に関しては、新しいライブアンセムになり得る曲だと思いました。<いつも僕ら祭り騒ぎ 楽しい 眩しい よりどりみどり>という歌詞は、先ほど話してくれた多様性のあるフロアを表しているようにも聴こえます。
ぽん:この曲はこれまで培ってきたORESAMAの延長線上にありつつ、新しいこともできた曲になったと思うので、“ホトハシル”といい対比になってると思います。こちらは『雪見家の日常は、ほんわりで〆る』の主題歌なんですけど、もともとORESAMAのディスコな曲を聴いていただいていて、そういうリクエストがあったので、これは得意なところだなって。
小島:こっちは最初から「ディスコ」「パーティー感」みたいなキーワードがあったので、本領発揮みたいな感じで作れました。ただ、実はYouTubeのCM映像で流れているのと、CDに収録されているのは、ちょっとだけテイストを変えているんです。CMは4つ打ちのディスコだったんですけど、CDではニュージャックスウィング的なビートを取り入れて、最近の僕らの趣味趣向も入った仕上がりになっています。
—ORESAMAの王道でもあり、ちゃんとそれを更新もしていると。歌詞は最初からライブを意識して書いてるんですか?
ぽん:そうですね。前半は特にそうで、雪見家の商店街と、ORESAMAの世界をイコールにして、「パーティータウン」って呼んでるんです。ただ、後半は「会えないときでも、イヤホンの奥にいるよ」って、もっと意味を広げて書いていきました。
「最高の音楽を用意して待ってます」と言いたい。(小島)
—9月にはマイナビBLITZ赤坂でのワンマンライブが控えていますが、そこに向けてはどんなことを考えていますか?
ぽん:これまでもワンマンごとにいろんな要素を入れてきたつもりですが、アルバムでひと区切りがついた感覚があったので、今回は演出面も含めてより新しいORESAMAを楽しみにしてもらいたいです。あとは『ワンダーランドへようこそ』というタイトル通り、お客さんを現実から非現実に連れ出したいっていう気持ちが強くて。今回は平日開催なので、それがより色濃く出るんじゃないかなって思っています。
—仕事帰り、学校帰りのお客さんを、いかに非現実へと導けるかが勝負だと。小島くんはいかがですか?
小島:僕はやっぱり「音」を楽しんでもらえたら嬉しいですね。打ち込みのリズム以外は全部生の音ですし、CD音源をライブで再現するつもりはないので、ライブでしか味わえないORESAMAの楽曲を楽しんでもらいたいです。
ぽん:アレンジも結構変えてるもんね。
小島:昔の曲に今のモードで音を足したり、リズムを変えたり、ライブアレンジは結構やっています。
—シンプルにトラックを流すだけの人もいて、それはそれで1つのやり方ではあると思うけど、ORESAMAはそうではないと。
小島:音源からかけ離れたものは聴きたくない人もいるとは思うんです。でも、僕はもともとBUMP OF CHICKENが好きで、バンプのライブって、アドリブとかフェイクを結構入れてくるんですよね。僕のなかではライブはそういうものだっていう認識でやっているし、何よりライブで新しく曲が完成していく感じが好きで。僕らのライブはCDの再現ではないですけど、「最高の音楽を用意して待ってます」と言いたいですね。
- リリース情報
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- ORESAMA
『ホトハシル』(CD) -
2018年8月22日(水)発売
価格:1,296円(税込)
LACM-14792︎1. ホトハシル
2. ようこそパーティータウン
3. ホトハシル -Instrumental-
4. ようこそパーティータウン -Instrumental-
- ORESAMA
- イベント情報
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- 『ワンダーランドへようこそ~in AKASAKA BLITZ~』
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2018年9月13日(木)
会場:東京都 マイナビBLITZ赤坂
- プロフィール
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- ORESAMA (おれさま)
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渋谷から発信する、ボーカル・ぽんとギター&サウンドクリエイター・小島英也の2人組ユニット。 80s'Discoをエレクトロやファンクミュージックでリメイクしたミュージックを体現。TVアニメ/CM楽曲起用や、話題のアーティスト・声優への楽曲提供、ボーカル参加等、様々な分野で発信し続ける。
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