全編台湾で撮影した写真集『明星』で『第40回木村伊兵衛写真賞』を受賞するなど、名実ともに人気フォトグラファーとして活躍する川島小鳥。そして、親しみやすいルックスと耳馴染みのいいメロディーで、台湾ではアリーナクラスの会場を沸かせるミュージシャン、クラウド・ルー。
いまから6年前、共通の友人を介して出会った2人は、そのあと、台北で開催された川島の展覧会のためにクラウドが音楽を制作、昨年リリースされたクラウドの日本デビューアルバムのジャケットを川島が撮影するなど、公私にわたり交流を続けてきたという。自国で不動の人気を誇りながら、台湾 / 日本でも精力的に活動する2人にとって、それぞれの国はどんなふうに見えているのだろうか。そして、彼らはなぜ、互いの国に惹かれ合うのだろうか。川島小鳥とクラウド・ルーの2人に訊いた。
小鳥さんが台湾で撮影した写真を見るたびに、「台湾って、こういう感じなんだ」と改めて思うんです。(クラウド・ルー)
—お2人は旧知の間柄とのことですが、まずはお互いの作品とその印象について、お話してもらっていいですか?
川島:ルーくんは、台湾では超人気のミュージシャンで、向こうで一緒に外を歩いたら、まわりが大騒ぎになって大変なことになるくらいのアーティストなんです。僕はルーくんの音楽がものすごく好きで、普段、作業をするときにも聴いていますね。
—ルーさんの音楽の、どのあたりに魅力を感じているのでしょう?
川島:声がよくて、メロディもいい。あとハートがある。ポップな音楽だけれど、いつも自分の日常に寄り添ってくれる感じがするんです。僕にとっては、「友だち」みたいな音楽なんですよね。
—ルーさんにとって、川島さんの写真とは?
クラウド:小鳥さんの写真がすごくいいのは、その「瞬間」を逃すことなく捉えていることだと思います。たとえば、嬉しいと思う瞬間の嬉しさは人ぞれぞれで、何百通りもあると思うんですけど、小鳥さんの写真は、そのなかの1つを、いつも確実に捉えているんです。あと、「川島小鳥」という名前自体、台湾人から見てとても魅力的です(笑)。
川島:それは漢字の見た目がっていうこと?
クラウド:そうです。その名前を見た瞬間からすでに魅力を感じていて、そのあと写真を見てさらに好きになりました(笑)。
—川島さんの写真を見て、どんな感想を持ちましたか?
クラウド:心が癒される感じがします。小鳥さんの写真は「どこか懐かしい感じがする」と、よく日本のみなさんは言いますけど、台湾人の僕から見ても、そういう部分があるんですよね。
それに、小鳥さんが台湾で撮影した写真を見るたびに、「台湾って、こういう感じなんだ」と改めて思うんです。自分たちが暮らしている場所がどんなふうに見えるのか、普段はあんまり考えないけれど……自分はこの場所で生きてきて、これからどんなふうに生きていこうかと、ちょっと大げさかもしれないけど、自分の人生について考えてしまうんです。
川島:面白いなあ……それは、現地で生まれ育ったルーくんならではの感想かもしれないですね。とても嬉しいです(笑)。
—そもそも、お2人が初めて会ったのは、新宿の居酒屋だったとか?
川島:そうなんです。台湾の友人が日本に来たときにルーくんを連れてきてくれて、一緒に飲んだのが最初です。
クラウド:「カメラマンをやっている人だよ」って紹介されたんですけど、どんな写真を撮っている人なのかは知らなくて。台湾に帰って検索してみたら『未来ちゃん』(川島の代表的な作品の1つ)の写真が出てきて、ようやく名前と写真が一致したんです。「なんであのとき、サインをもらわなかったんだろう!」って、すごく後悔しました(笑)。
川島:僕もそのときは「ミュージシャンをやってる友だちなんだ」くらいの紹介のされ方で。そのあとすぐ、別の友だちが、ルーくんが大きい会場で歌っているYouTubeのライブ映像を送ってくれて……「えっ?」ってビックリしたんです。
僕はまだその頃、台湾に通い始めたばかりだったので、恥ずかしながらルーくんのことを全然知らなかったんですよね。そんな人が新宿の居酒屋に普通にいたから、すごく驚いてしまいました。
行くたびに台湾を好きになるので、「なににこんなに惹かれるんだろう?」って、写真を撮りながらずっと考えていました。(川島)
—お2人が互いの国を行き来するようになったきっかけってなんだったんですか?
川島:2011年に、さっき話にも出た『未来ちゃん』という写真集を出した直後に、「台北で展覧会をしませんか?」って、僕を呼んでくださった人がいたんですよね。もともと台湾には行きたかったから、「ぜひ!」ってお願いしました。
—その前から台湾には興味があったんですね。
川島:だって、台湾は……パラダイスだから(笑)。ヤシの木があって、海がきれいで、というイメージを勝手に抱いていて、すごく憧れがあったんですよね。
実際に現地へ行ったら、台湾の雰囲気や人の優しさに魅力を感じました。そこで友だちも何人かできたんですよね。その頃ちょうど、これから新しい作品を作りたいと思っていた時期だったこともあり、「ここで作品を撮ろう」と決めて、台湾に通うようになりました。—台湾のなにが、そこまで川島さんを突き動かしたのでしょう?
川島:そうですね……フィーリング、というか直感? そういうのは滅多にないんですけど、台湾で作品を作ることに対しては、自分のなかでなにも疑いがなかったんです。
—それがのちに『明星』という写真集になるわけですが、約3年間で30回以上も台湾を訪れたとか?
川島:行くたびに台湾を好きになるので、「なんでこんなに好きなんだろう?」「なににこんなに惹かれるんだろう?」って、写真を撮りながらずっと考えていました。うまく言葉では説明できないものが、写真を撮り続けることによってわかるんじゃないかと思って。そうしているあいだに、どんどん時間が経ってしまって、結局3年も掛かってしまったという(笑)。
—その「答え」は、見つかりましたか?
川島:みんなが言うことですが、やはり人なのかと思いました。特に『明星』という写真集には、載らなかった人も含めるとものすごい数の人を撮影したんですが、その人たちは全員、誰かに紹介してもらった人たちなんですよね。
川島:「作品を作っているんですけど、どこで撮るのがいいですか?」という質問をひたすらすると、みんな「あそこがいいよ」と教えてくれたり、場合によっては連れて行ってくれたりするんです。
クラウド:よく言われることですけど、台湾の人は、本当に親切なんです。
川島:そう。そういうのって、日本ではあまりないことなんですよね。
—たしかにそうですね。
クラウド:以前冗談で言ったことがあるんですけど、小鳥さんの前世は台湾人だったんじゃないかと思っています(笑)。台北の街とかを小鳥さんと一緒に歩いていても、違和感なく街に馴染んでいるというか、東京から来た感じが全然しないんです。だからみんな、さらに親切にしてくれるのかもしれないです(笑)。
昔からずっとあるお寺や古跡を訪ねて、「歴史は本当に存在していたんだ」って実感するのが好きなんです。(クラウド・ルー)
—ルーさんは、どんなきっかけで日本を頻繁に訪れるようになったのですか?
クラウド:台湾のレーベルのオーナーさんとの旅行で、初めて日本に来ました。そのとき感じた日本の印象が3つあって、1つは街が綺麗。2つ目はきちんとルールが守られている。最後の3つ目が、みんな礼儀正しいということでした。礼儀については、以前自分が書いた“駄目な僕”という曲のなかで、<何の取り柄もない僕でも / 礼儀は必要さ>って歌っていたので、共感できるところがあったんです。
あと、都会よりも地方の田舎のほうが好きなんですよね。特に山のほうで何百年も前から立っている巨木にじっと手を当てたりしていると、すごく気持ちが良くて……。—日本でどこか気に入った場所はありましたか?
クラウド:一度、和歌山に行ったことがあるんですけど、そこはすごく良かったですね。昔からずっとあるお寺や古跡を訪ねると、「歴史は本当に存在していたんだ」って実感できるじゃないですか。そういうのが好きなんです。
—それは、ルーさんが台南で生まれ育ったというのも関係しているのでしょうか?
クラウド:そうかもしれません。台南は台湾で最初に栄えた街なので、古跡とか歴史を感じさせるものがたくさんあるんです。だから、そういうものを見ると安心するのかもしれないです。
いま台湾の人たちは、カルチャー的なものに対しての興味がものすごいんですよね。(川島)
—お互いの国で自分の作品を発表するようになってから、なにか違いみたいなものは感じましたか?
クラウド:僕が台湾で活動し始めたのは2006年くらいなんですけど、日本盤のCDを出したのは去年が初めてでした。そこまで日本で積極的にプロモーションをしてきたわけではなかったのに、口コミから僕のことを知ってくれる人たちがどんどん増えて、自然に広がっていったような感じがあるんです。いまでもそれが、ちょっと信じられないんですけど(笑)。
—台湾のファンと日本のファンは、やはり違うものですか?
クラウド:そうですね。日本のファンは、ライブのときの「目力」が違う感じがします。台湾でライブをやると、お客さんの目は泳いでいる気がするんですけど、日本のファンの人たちは、僕だけをじーっと見続けてくれる。あと、グループで僕の応援グッズを作ってくれるのは台湾ではあまりないことなので、すごく嬉しかったです。
—川島さんは、2011年と2015年に台北で展覧会を開催していますが、お客さんの反応はやっぱり違いましたか?
川島:感想もちゃんと伝えてくださって、日本よりも直接的な反応が多かったかもしれないです。たくさん話し掛けてくれるし、オープンなんですけれど、台湾の人はものすごくシャイなのでベトッとはしていないんです。話しかけて終わりみたいな(笑)。その距離感が、僕には心地いいんですよね。
—なるほど。川島さんの写真を見に来る人は、やはり台湾の若い人たちが多いのでしょうか?
クラウド:台湾には、「文青(文芸青年)」と呼ばれるカルチャー好きの若者たちがいるんですけど、みんな小鳥さんの写真集を持っています(笑)。文青の人たちはネットの拡散力もすごいので、そこから広がっていったところもあるのかもしれないです。
川島:会場の音楽をルーくんが作ってくれた、2015年に台北で開催した『明星』の展覧会は、たしか1万人ぐらい入ったんじゃないかな?
—すごい。大人気じゃないですか。
川島:別に僕だけではなく、いま台湾の人たちは、そういうカルチャー的なものに対しての興味がものすごいんですよね。
—そんななかで日本のカルチャーは、台湾の若い人たちのあいだで、どれくらい認知されているのでしょう?
クラウド:みんな基本的に日本のカルチャーにすごく関心を持っています。いまの若い世代の人は子どもの頃から、日本の音楽や漫画、アニメの影響を受けているので。僕はまわりの年配の人たちが、日本の演歌みたいなものを歌っているのを聴きながら育っているので、「いつか日本に行きたい」「日本ってどういう国なんだろう」って、ずっと想像していました(笑)。
—ルーさんは、日本のミュージシャンでは、誰が好きなんですか?
クラウド:数えきれないくらいいますけど……最近台湾で、坂本龍一さんのドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto:CODA』を見て、とても刺激を受けました。坂本さんの音楽は、実験的なものからピアノだけのシンプルなものまで全部好きなんですけど、坂本さんがどういうことを考えながら自分の音楽を作っているか知ることができて、すごく面白かったです。
あと、椎名林檎さんの東京事変は、とても好きですね。歌はもちろん全部の楽器が奏でるメロディが素晴らしいし、強くて、パワーがある音楽だと思います。僕の歌を聴いてくれた人が、ちょっとでも「台湾に行ってみたいな」って思ってくれたら、それでいい。(クラウド・ルー)
—お二方とも、台湾発もしくは日本発のカルチャーとして大々的に売り出したというよりも、草の根レベルで広がっていったようなところが面白いですよね。
川島:そうですね。少なくとも僕は、戦略とかなにも考えてないから……フリースタイルです(笑)。
クラウド:でも多分、そういうところが小鳥さんと僕は、すごく合うんだと思います。2人とも、なるようになるというか、割と自然の流れに身をまかせているところがあるので(笑)。
—それがいまの日本と台湾の文化交流の在り方な気もします。なにか歴史や伝統を背負った、それぞれの国を代表するものとして文化交流するのではなく、まずは人と人が意気投合して、その周囲の人たちから徐々に広がっていくというか。
川島:それはあるかもしれないですね。いまとなっては台湾の友だちのほうが、愛のある厳しいことを率直に言ってくれたりして。なにか困ったときとか悩んだときは、まず台湾の友だちに相談するぐらいになりました。
クラウド:そうやって自然に繋がることができるようになったのは、インターネットの力も大きいと思います。僕の音楽を日本の人たちが知ってくれているのも、YouTubeであらかじめ見たり聴いたりしてくれるからだろうし。
でも、正直なところ、僕はそこまで深く考えてないかもしれないです。坂本龍一さんや椎名林檎さんの音楽を聴いて、漠然と「日本に行ってみたいな」って思うように、僕の歌を聴いてくれた人が、ちょっとでも「台湾に行ってみたいな」って思ってくれたら、それでいいというか。
川島:ルーくんにも出ていただいた『愛の台南』というガイドブックを作ったのも、台南という場所が好きで、「こんなに素敵な場所があって、素敵な人たちがいるんだよ」というのを、みんなに知ってもらいたいからなんです。フィーリングの合う場所や気の合う人は、日本だからとか台湾だからっていうのは、あまり関係なく、絶対どこかにいるんですよね。
—やっぱり、まずは「人」で、歴史や伝統は、そのあとからついてくるものなんですかね。その人に興味を持てば、おのずとそのバックグラウンドが知りたくなるわけで。
川島:そういう感じだと思います。最近はみんなが台湾に行ってるのが嬉しいですね。あと、実際に台湾に行くと、曲を聴いたときに思い浮かべる景色が変わって、ルーくんの音楽の聴こえ方にも変化があると思います。僕のなかでは自分の思い出とセットになって、ルーくんの音楽イコール台湾という感じなので(笑)。
—なるほど。ルーさんのほうも、また近々来日されるんですよね?
クラウド:はい。今年は一青窈さんのライブに呼んでもらったり、『SUMMER SONIC』に出演したり、頻繁に日本に来ているんですが、9月には『中津川THE SOLAR BUDOKAN 2018』と『京都音楽博覧会 in 梅小路公園 2018』に出演させてもらいますし、11月には東京でワンマンライブも開催します。どこかで遊びに来てもらえると嬉しいですね。
- プロジェクト情報
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- 『TAIWAN BEATS』
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5年前から始まった台湾の音楽やカルチャーを紹介するイベント「TAIWANDERFUL」がリニューアルして「2018 TAIWAN BEATS」となり、今年も開催されました。台湾と日本のポップミュージック業界が、さらなる発展を目指して開催するイベントです。
- イベント情報
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- 『2018 TAIWAN BEATS』
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2018年8月20日(月)
会場:東京都 渋谷WWW X出演:
クラウド・ルー(盧廣仲)
Fire EX.(滅火器)
Sunset Rollercoaster(落日飛車)
- 『クラウド・ルー 「春季世界巡迴 TOKYO 追加公演」』
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2018年11月18日(日) 会場:東京都 Billboard Live Tokyo
1stステージ 開場15:30 / 開演16:30 2ndステージ 開場18:30 / 開演 19:30
- プロフィール
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- 川島小鳥 (かわしま ことり)
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1980年生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、沼田元氣氏に師事。2007年、写真集『BABY BABY』発売。2010年、『未来ちゃん』で第42回講談社出版文化賞を受賞。2015年、『明星』で第40回木村伊兵衛賞を受賞。2018年10月には、女優の尾野真千子と巡った台湾、奈良の出来事をまとめた最新写真集『つきのひかり あいのきざし』を発売予定。
- クラウド・ルー
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1985年台南生まれ。大学1年のとき、交通事故に遭ったことをきっかけに、入院中にギターを独学で始める。退院後の翌年、大学の音楽コンテストで優勝、現在の所属事務所にスカウトされる。3枚のシングルを経て08年にアルバムデビュー。発売初週は台湾の多くのチャートで1位を獲得。その自然体と音楽性の高さで大ブレイク。最も権威ある第20回金曲奨(ゴールデン・メロディ・アワード)では最優秀新人賞および最優秀作曲賞を受賞、その後も数々の音楽賞を総なめに。これまでに、2016年など4度にわたり台北アリーナでのソロ・コンサートを開催。日本ではサマーソニック(2015)など日本のフェスにも参加。2016年11月に初の日本でのワンマンライブ(東京、大阪)を開催、東京公演はチケット先行発売1時間で即完となる。日々の生活からふと感じたことを純粋かつシンプルに表現するその音楽スタイルは台湾内外で反響を呼んでいる。
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